異世界魔女の配信生活   作:龍翠

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料理は香りも大事

 ルドガーさんに促されて椅子に座る。広々と使えるなとルドガーさんは薄く笑いながら、中央のテーブルに料理を置いた。

 そうして、葉っぱを広げて……。

 

「……っ!」

 

 くさい! すごくくさい! なにこれ! 本当になにこれ!

 

『おお……。あの表情の薄いリタちゃんが……』

『はっきりと分かるぐらいに顔をしかめてる……』

『どんだけ臭いんだあれw』

 

 ルドガーさんが大きな包丁で肉を切り分けて、小皿に載せてくれた。そのまま、私の目の前へ。

 

「さあ、食べてくれ。これが俺の里の伝統料理だ。祭りなどでしか食べられないご馳走だな!」

 

 何が怖いって、この人に悪意が一切ないところだ。むしろ自分の里の伝統料理を自慢できて嬉しそうにしてる。わりと仏頂面だったのに、今は笑顔だよ。

 

「いやあ、ちゃんと食べてくれる人は珍しいからな。ほとんどの人は何故か逃げるから」

 

 逃げるだろうね。臭すぎるからね。私だって逃げたいぐらい。

 

「さあ、食べてくれ!」

 

 でも……。こんな、嬉しそうな笑顔で勧められたら、私ももう逃げられないよ。

 

「悪意がないのがたちが悪いってこういうことを言うんだね……」

「うん? 何か言ったか?」

「なんでもない」

 

『そこまでかw』

『普段リタちゃんもたまにやってるんだぜ』

 

 そ、そうなの? ちょっと気をつけようと思います。

 それじゃあ……。ナイフとフォークで切り分けて……。

 

「くちゃい」

 

『くちゃいのお代わりがきました』

『あざといぞリタちゃん!』

『なお実際には臭すぎて顔がしかめられて自然となってるだけっぽい』

『言わなくていいわw』

 

 よ、よし。食べるよ。こうして作ってもらったんだから、ちゃんと食べる。

 いただきます。

 

「あむ」

 

『いったあああ!』

『あれだけ嫌がってたわりに躊躇なくいったなw』

『どうだリタちゃん!』

 

 んー……。なんだろう。すごく不思議な味。臭いは強烈だけど、味は濃厚なソース味……みたいに思える。かなり濃いめの味だけど、それが不思議とこの弾力のあるお肉を引き立てている、気がする。

 うん。ちょっと意外だけど。

 

「美味しい」

「だろう?」

 

『マジで!?』

『確変キタコレ!』

『臭いは美味しいってことですね!』

 

 それは違うと思います。本当に。

 でも、なんだか不思議だ。本当にとてもすごく臭いのに、料理の味は結構美味しい。こんな料理もあるんだね。新しい発見かも。

 ルドガーさんも椅子に座って、とても機嫌良さそうに食べ始めた。私と違って、何の躊躇もない。この臭いはルドガーさんも感じてるはずなのに、平気な顔で食べてる。すごい。

 

「うむ。やはり俺の故郷の伝統料理は美味だな。何故誰も食べたがらないのか、俺には理解できん。君もそう思うだろう?」

「んー……。みんなの方の気持ちが分かる。臭いがひどい。とてもひどい。こんなに臭い料理は初めてだった。これが食べ物と言い張るなんてルドガーさんは頭がおかしいと思った」

「そこまで言う?」

 

『普通に罵倒してるw』

『そんなに臭かったんやなあw』

 

 そんなに臭かったんだよ。うんちでも食べさせられるのかと思った。いやまだうんちの方が臭いはましだったと思う。それぐらいだよ。

 

「でも食べてみると美味しかった。予想外のお味。これはすごい」

「そうだろうそうだろう。この香りがくせになるんだ!」

 

「うわあ……」

『うわあ……』

『完全に凶人を見る目のそれである』

 

 いやだって……。うん。いや、うん。もう何も言わないでおこう。

 

「これで俺も自信が持てた。明日からも作って、皆に振る舞おう。今度こそ食べさせてやる」

「Aランクって人に迷惑をかけてもいいんだね」

「そこまでか……?」

「そこまでだよ。あの臭いは周囲に迷惑だから」

 

 やるなら、外で作ってから持ち込む、ぐらいにした方がいいと思う。今日は私があの臭いを魔法で消しておいたけど、多分使われるたびにここの料理人さんは怒ってたと思うよ。相手が相手だから言えなかっただけで。

 

「むう……。そうか……」

「でも味は良かった。私は満足」

「そうか!」

「臭いは最悪だったけど。料理は香りも大事なんだよ。正直、もう一度食べるかと言われると、あの味なのに悩んじゃう。それぐらいひどい」

「そうか……」

 

『すごいな。高評価なのに、もう一度食べるかが臭いで左右されるなんて』

『それだけやばかったんやなあ』

『むしろそんなにやばいのに、食べるか悩むのかw』

 

 うん。こっちの世界の料理では、今のところ一番美味しいと感じてしまったから。

 この世界の人にはもうちょっと料理を頑張ってほしい。あの料理が一番美味しいって、ちょっと嫌だよ。ルドガーさんには悪いけど、地球の人に自信を持って勧めることができないから。勧める予定はないけどね。

 

「お野菜も、美味しいね。柔らかくて、あの不思議なソースの味が染みこんでる。美味しい」

「だろう?」

「臭いも野菜にこびりついてるけど。吐瀉物?」

「…………」

 

『吐瀉物扱いw』

『お口わるわるリタちゃん』

『よくもまあリタちゃんをこれだけ怒らせたもんだよw』

 

 いや、うん。言い過ぎ、だよね。分かってる。分かってるけど、それぐらい臭いんだよ……。もうちょっと、味を維持したまま臭いを解消する方向で研究してほしいと思う。きっとそうすれば、この料理は日本の料理にも負けないと思うから。

 それでも、うん。食べられて良かった、かな? こんな料理があると知れたのは良かったから。

 なんだかんだと嬉しそうに食べるルドガーさんと一緒に、私も残りを食べ進めていった。本当に、臭いさえどうにかできればいいのに……。

 




壁|w・)この臭いで味覚を狂わせているのではなかろうか。配信を見ていたシッショは訝しんだ。

なお、一応明記しておきますが、モデルの料理はありません。
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