異世界魔女の配信生活   作:龍翠

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ホヤとはらこ飯

 店主さんに案内されたのは、カウンター席。ここでも目の前でお魚をさばいてくれるらしい。たまたま一席だけ席が空いていたから、そこに座らせてもらう。

 

「空いていたというか、帰ってもらったんだけどね」

「え……。よかったの?」

「まあ、父さんだし」

 

『お父さんwww』

『哀れすぎるわw』

『応援してくれてるんだからもうちょっと優しくしてあげて?』

 

「だって」

「いや、待って。無理矢理帰らせたわけじゃないから。事情を説明したら帰ってくれただけだから!」

 

 店主さんが言うには、あくまで自主的らしい。むしろ。

 

「嬉々として会社で自慢している姿が目に浮かぶ……!」

 

『あー……w』

『見てくださいよリタちゃんの配信にいるの俺の娘なんですよ、てか?』

『どうしよう、一人の親としてめちゃくちゃ気持ちが分かるw』

 

 そういうものらしい。私には分からない感覚だ。

 座った席は、今回もカウンター席の真ん中あたり。両隣は知らない人だったけど、こっちをちらちらと見るだけで話しかけたりはしないようにしてくれてる。いい人たちだね。

 

「よっし、それじゃあ、早速だけど……。ホヤ、だったね」

「ん。ある?」

「もちろん!」

 

 そうして店主さんが見せてくれたホヤというものは……。

 

「なにこれ」

 

 なんというか……。変な形の石みたい。触らせてもらったら、ちょっと固いね。殻に覆われてるんだって。でこぼこしている部分もある。貝の仲間かな?

 

「ちなみに貝じゃないよ」

「違うの?」

「むしろ実は人間に近い」

「にんげん……?」

 

 つまり……変化してる、とか? 人間を食べちゃうの?

 私がちょっと驚いていたら、店主さんはすぐに詳しく教えてくれた。

 ホヤというのは貝に見えるけど、人間と同じ分類の脊索動物というものらしい。心臓や脳神経、消化器官があるとのこと。こんなにちっちゃいのに、なんだかすごい。

 

『なんかそう聞くとちょっとかわいそうに思えてくる』

『いやそんなん言い始めたら動物もみんなちゃんと生きてるからな?』

『そんなことよりも味だよ味』

 

 店主さんがそのホヤのでこぼこしている部分を切り取った。そこから海水を出していく。するとあの固い殻の部分もべこべこになってしまった。

 そして切れ込みを入れて、中身を取り出していく。黄色っぽい、柔らかそうな果肉に見える。果物に例えられるのもよく分かるかも。

 そうしてぱぱっと切って盛り付けてから、私に出してくれた。

 

「はい、どうぞ。ホヤの刺身だよ」

「ホヤの刺身……」

 

 すごい。生で食べるんだ。

 それじゃあ、まずは一口。ぱくりと。んー……。

 

「なんだか不思議な味だね。説明しにくい味」

「はは。そうだろうね」

 

 食感は、ちょっとぷるぷる。あとこりこりもしてる。口に含むとちょっと塩気のある味だ。でも噛んでみると、不思議な甘さが広がってくる。そうして食べていたら、苦みとかも感じるのに気づいた。なにこれ。

 

「んー……難しい……。まずいわけじゃないけど、美味しい……美味しいのかな? 悪くないとは思う」

「不思議な味でしょ? 五味を兼ね備えた食べ物なんてかなり珍しいからね。独特な風味だから初めて食べると驚くと思うよ」

「ん。ちょっとびっくりした。でも……。うん。慣れると、美味しい」

「それはよかった」

 

 最初はちょっと驚いちゃったけど、これも悪くないと思えてきた。不思議な味であることには変わりないけど、こういうのもあるんだね。

 

『なんか見た目やばいのに、切ったら意外とうまそうだった』

『俺も食べてみたいけど、今回はさすがに難易度が高そう』

『もうちょっとで終わりそうだけど、通販も一応あるから!』

『マジか急いで注文してくる!』

『終わりました』

『はえーよ』

 

 あっという間だね。でもこれは一度試す価値はあると思う。

 せっかくだから他の料理も、ということで出してくれたのは、コメントでも見かけたはらこ飯。これは見慣れたもので、海鮮丼みたいなものらしい。

 いくらとサケをのせた丼。サーモンの海鮮丼によく似てるけど、はらこ飯のお魚は生じゃないみたい。煮出しているのだとか。その煮汁を使ってご飯を炊いているから、ご飯にもしっかり味がしみこんでるらしいよ。

 

『はらこ飯だー!』

『はらこ飯好き!』

『これはストレートに美味しい!』

『まるでホヤがストレートではないみたいに!』

『ストレートではないだろw』

 

 サケの切り身といくらと一緒にご飯を食べる。ご飯も少し色がついていて、とってもいい香りだった。これも、一口。もぐもぐ。

 

「おー……。お魚の味だ」

 

 サケの切り身はほろほろとほぐしやすくて食べやすい。いくらも一緒に食べるから、ぷちぷちとした食感も楽しめる。ご飯には本当にしっかりと味が染みこんでいて、食べていてなかなか飽きない。これはとてもいいものだと思う。

 

「もぐもぐもぐもぐ」

「気に入ってもらえたかな?」

「もぐ!」

「それはよかった」

 

『一心不乱に食べてる……』

『少なくともホヤよりは好みっぽい』

『ホヤと比べるなよwww』

 

 ホヤも美味しかったけど、私ははらこ飯の方が好みかな。

 でも、どっちも美味しい。このお店に来てよかったと思う。帰る人たちから写真を撮られていくのはいつものことだから気にしないでおく。

 とても満足。もうちょっと食べたいけど……。視聴者さんが言ってるものを全部食べようと思うときりがないし、次のお店で最後にしようかな。

 




壁|w・)明けましておめでとうございます。
今年ものんびりまったり書いていきますので、よろしくお願い致します。
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