異世界魔女の配信生活   作:龍翠

509 / 543
ぐにぐにお肉のサンドイッチ

 

 転移してきた先は、ルドガーさんのお家。ドアをノックすると、ドアが開かれてひょっこりと女の子が顔を出した。見覚えのある子。ベッドで横になっていた子だ。

 

「あ……! 魔女様!」

 

 そう言って、抱きついてきた。かわいい、けど……。私よりちょっと背が高かったらしくて、ちょっと不思議な感じ。むぎゅう。

 

「ルミナ、誰が……。こら、離れろ!」

 

 そして奥から出てきたルドガーさんに首根っこを捕まれてぶらりと宙づりにされていた。これが二人の本来の関係性、かな?

 

『この子って、もしかして病気だった子?』

『めちゃくちゃ元気になってるー!?』

『三日でこんなに変わるの!?』

 

 そういうものだからね。あくまで体の中の魔力が暴れていただけ。逆に言うと、ちゃんと整えてあげればあっという間に治るよ。

 あとは、獣人さんは体が丈夫だから、体力の回復も早かったのかもしれない。

 

「元気になって良かった」

 

 私がそう言うと、ルドガーさんは笑顔で頷いた。

 

「ああ。あなたのおかげだ。本当に……心から感謝する」

「ん」

「とりあえず入ってくれ。朝食を用意したところなんだ。よければ魔女殿も……」

「ん……」

 

 朝ご飯。もうすでに食べてるけど、もちろんまだ食べられる。だから当然もらおうと思ったんだけど……。ちょっとだけ、頭の隅をよぎってしまった。あのとっても臭い料理を。

 

「それ……。あの料理は使ってないよね?」

「もしかして、食べたかったのか!? すまないすぐに用意を……」

「絶対にやめてほしい」

「あ、そう……」

 

『草』

『でも味は良かったんだろ?』

 

 そう。味は良かった。だから二度と食べたくない、とまでは思ってない。思ってないけど……。

 

「まずは覚悟を決めないといけない。想定していない時に食べたくない」

「そこまで言う?」

「吐瀉物を食べるにはそれぐらいの覚悟がいる」

「吐瀉物……」

 

『だから吐瀉物扱いはやめてあげなさいw』

『わりとへこんじゃってるじゃないか!』

『ここまでこき下ろされる臭いってマジで気になる』

 

 興味本位で体験しない方がいいよ、あれは。

 そんな話をしていたら、宙づりのままのルミナさんが目を輝かせていた。

 

「魔女様!」

「ん?」

「わたしと同じ感覚を共有してくれてるなんて……!」

「感覚?」

 

 急に何を言ってるのかなと思ったけど……。もしかして。

 

「あの臭い料理?」

「あの臭くて人が食べるものとは思えない吐瀉物みたいな料理です!」

「そこまで言う?」

 

 ルドガーさんがとても傷ついてるよ。奥ではお母さんみたいな人が噴き出した音が聞こえるよ。それでいいの?

 

「わたしも! お母さんも! あの料理の臭いがどうしてもだめなんです! お引っ越しの前は気にならなかったんですけど、ここに来てあの料理が人間の食べ物じゃないって分かりました!」

「う、うん……」

「あんなクソみたいな料理を喜ぶなんて頭がおかしいと思います!」

「いや、あの……」

 

 い、いいの? ルドガーさんが泣きそうになってるよ? がんばって必死になって妹を助けようとした結果、たくさん罵倒されるって、ちょっとかわいそうだよ?

 

『普段はどうしてるんだと思ったら、家族はまともな嗅覚なんかw』

『もうやめて! お兄ちゃんのライフはゼロよ!』

『お兄ちゃん、かわいそうwww』

 

 まあ、でも仕方ないと思うよ。それぐらい臭い料理だったからね。

 落ち込んじゃったルドガーさんの代わりに、ルミナさんがお家の中に案内してくれる。入ってすぐのテーブルには、朝ご飯らしいパンが置かれていた。

 分厚く切って焼いたお肉を挟んだシンプルなサンドイッチだ。シンプルだからこそとても美味しそうに見える。

 

「魔女様。ルドガーからお話を伺いました。薬草、本当にありがとうございました。こうしてまた元気なルミナを見ることができるなんて……。なんとお礼を言えばいいのか……」

「いいよ。ルドガーさんにはしばらく私に協力してもらう予定だから」

「協力、ですか。獣人国は他種族への差別のある地域が多いですが、ルドガーがいれば緩和されるでしょう。どうぞ連れて行ってください」

「ん」

 

 どうぞ、とパンを渡されたので食べてみる。ぱくりと食べると、あの独特な食感のお肉だった。牛タンみたいな食感のお肉。でも美味しい。ぐにぐにしてるのも悪くない。

 

「ルドガー。早く食べなさい」

「あ、ああ……」

 

 ルドガーさんも椅子に座ってサンドイッチを食べる。ルミナさんもみんなで食べていく。

 

「むう……。こんなサンドイッチよりも、あの肉の方が絶対に美味しいと……」

「ルドガー。次にこの家であれを作ってみなさい。ルミナと二人がかりで殺します」

「はい……」

「多分ご近所さんからも襲われるからね!」

「はい……」

 

 ああ……。作ったことがあるんだね。家族だけじゃなくて、周りの人からもめちゃくちゃ怒られた、と。気持ちは分かる。私も同じことをされたら怒る。しかも美味しいものを食べられるならともかく、近隣で臭いだけ出されるとか……。うん。

 

「殺されても文句は言えないよね」

「そ、そうか……」

 

『食べることもできないただ臭いだけの臭いをまき散らされたら、まあキレるわな』

『日本でも大騒ぎになるのではなかろうか』

『少なくとも異臭騒ぎで警察とか来そう』

 

 警察さんが倒れてしまうと思うから呼んじゃだめだと思う。

 




壁|w・)命を助けてもらったのは恩に感じるけどそれすら超えてくる臭い料理。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。