異世界魔女の配信生活   作:龍翠

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おいおいいてえじゃねえか

 

 大通りを少し歩くと、ギルドを見つけることができた。ルドガーさんはまだいないのかな? とりあえず挨拶だけでもしよう。

 フードを被って、獣化の魔法を解いてギルドの中へ。ギルドって、だいたいどこも同じ造りなのかな。奥にカウンターがある。部屋にはいくつかテーブルがあってたくさんの冒険者らしき人がくつろいでいた。

 そしてみんな、私を見てにやにやしていた。なんだろう?

 

『これは……ついにお約束がくるか!?』

『おいおいいてえじゃねえか、とか!』

 

 んと……。なんだっけ。足を引っかけられたり、とかだよね。私が見たお話でも、足をひっかけられてこけたり、とか、それをかわして仕返しとか、そういうのがあったと思う。

 そうだね。じゃあ、実際にやられたらわざとこけてみるのもいいかもしれない。本当にやってくるかどうかは分からないけど。

 とりあえずは挨拶に、ということでカウンターに向かう。もちろんテーブルの近くも通る。冒険者さんもたくさんだ。

 

「へへ……」

 

 なんて笑ってる。私を見下してる顔だね。別にいいけど。

 

『どきどき』

『わくわく』

 

 視聴者さんは変な方向で期待してるし。

 そうして歩いていったところで、冒険者さんの一人、スキンヘッドのおじさんが足を突き出してきたのが見えた。本当に直前だったから視聴者さんには見えてないかもだけど、私はちゃんと見えたから、これにつまずいてこければいいよね。それじゃあ、軽く触れて、それにつまずく感じで……。

 

「うおわあああ!?」

「あ」

 

 つまずく演技をする前に、おじさんが椅子から転げ落ちてしまった。

 ど、どうしよう。ちょっと気まずい。周りも静かになってこっちを見てるし。

 

『なんだ? 何があった?』

『多分、足をひっかけられた。そしておっさんが負けて椅子から転げ落ちた』

『なにそれwww』

『かよわいいきものw』

 

 いや、きっと強いと思うよ。うん。多分強い人だと思う。周りの人も驚いてるみたいだったから。

 

「ごめん。つまずいてあげようと思ってたけど……」

「……っ!」

 

『天然で煽っていくぅ!』

『無自覚な煽り、いいですねえ!』

『足を突き出したことに気づかれてるわ、気づかれてる上でわざと引っかかろうとしてくれているわ、その上で自分が負けてるわ、かっこわるすぎる』

『この人、しばらくバカにされるんじゃないかw』

 

 それはちょっとかわいそう。そこまで迷惑なこともされてないのに。

 おじさんは立ち上がって咳払いをすると、私に向かって言った。

 

「おいおい、いてえじゃねえか……」

 

『マジで言ったー!』

『これが! 伝説の! おいおいいてえじゃねえかか!』

『お約束キタコレ!』

『最近だとお約束から外れつつあるけどな!』

 

 みんなが見たかったものにはなったのかな?

 

「ぶふっ……あいつまだ続けるのか……」

「そりゃ痛かっただろうよとしか……」

「力負けしておいてあれはないだろ……」

 

 周りから忍び笑いが聞こえてくる。おじさんが顔を真っ赤にしてる。でも私は言いたい。今回は私は悪くないと思う。

 

「テメエら黙れ! おい!」

 

 後半は私に向けられたものだね。視線だけを向けると、おじさんが言った。

 

「表に出ろ! 身の程ってやつを分からせてやる!」

「拒否する。面倒」

「ああ!?」

 

 いやだって……。お約束、というのはやってあげてもいいと思ったけど、わざわざ戦うのは単純に面倒だよ。あまり強くもなさそうだから、お互いに時間の無駄だと思う。

 そう説明したら、おじさんが額に青筋を浮かべた。

 

「いい度胸だテメエ……!」

「おー……」

 

『本当に無自覚だから困る』

『お前ごとき敵にもならないザコだって言ってること分かってる?』

 

 そんなつもりはなかったけど……。でも、そう聞こえてしまったのかもしれない。

 

『てか見た目ちっこいリタちゃんにケンカふっかけるって、この街のギルドクソじゃな?』

『そこは獣人だからじゃない? けんかっ早いとかじゃなくて、種族的に小さい大人もいるのかも』

 

 なるほど。それは確かにあるかもしれない。確認しない理由にはならないと思うけど。

 押し問答をしても時間の無駄だし、相手すればいいかな。さくっとやろう。

 

「分かった」

「へっ……。テメエにも恥をかかせてやる……」

 

 顔を真っ赤にしながら言うおじさん。怒りか恥ずかしくてなのか、ちょっと分からない。

 二人で外に出ようとしたところで、

 

「な、なんだこれは?」

 

 ルドガーさんが入ってきた。タイミングがいいのか悪いのか。

 

「ああん? ルドガーじゃねえか。どうしたよ?」

「いや、俺はそっちの方の付き添いで……。何かあったのか、魔女殿」

「あった」

 

 でもすぐに終わるから待ってほしい。そう言おうと思ったら、おじさんが顔を真っ青にしてこっちを見ていた。どうしたのかな。早く終わらせたいんだけど。

 

「ま、魔女?」

「ん」

「その方はSランクの隠遁の魔女殿だ。その……表に行こうとしていたな? 戦うのか? お勧めはしないが……。どうなっても知らないぞ?」

 

 別にどうともしないよ。そう。

 

「大丈夫。殺しはしない」

「…………」

 

『殺し「は」しないw』

『リタちゃん大丈夫? ちょっと物騒になってない?』

『おじさんが泡を吹いてるぞ!』

 

 なにそれ。隣を見たら、おじさんの顔色が土気色になって白目を剥いていた。まだ何もしてないのに。

 

「あー……。魔女殿。何があったかは知らないが、許してやってほしい」

「…………。まだ何もしてないのに……」

「ははは……」

 

 まるで私が悪者扱いなのはちょっと納得できないけど……。まあ、いっか。時間の短縮、ということにしておこう。

 

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