異世界魔女の配信生活   作:龍翠

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獣人国での依頼

 

 ギルマスさんのたてがみをたっぷり堪能して、改めてお話を聞くことになった。お肉はまだ残ってるから、食べながら聞く。もぐもぐ。

 

「それで、依頼なんだが……」

「もぐもぐ」

「聞いているか?」

「もぐ」

「…………。料理を下げるか」

 

 ギルマスさんがお肉のお皿を取ろうとしたので、その手の真横をばくっとしておいた。大丈夫、テーブルがちょっとかけただけだから。

 

『ひぇっ』

『バカヤロウ! 猛獣のごはんに手を出したらだめだっていうのは常識だろ!』

『猛獣扱いw』

 

 もぐもぐ。猛獣じゃないよ。

 ギルマスさんは手を伸ばそうとした体勢のままちょっと固まっていたけど、すぐにそのまま座り直した。心なしか顔がちょっと青いけど、私は悪くない。ごはんを取ろうとした人が悪い。

 

「あー……。聞いている、でいいな。うん」

「もぐ」

「じゃあ、言うぞ。スラムを調べてほしい」

「もぐ?」

 

 スラム? そんなに調べることが必要なのかな。確かに良くない人は暮らしてるらしいけど……。そういうのはどこの国にも一定数いるものだと思う。日本にもいるらしいし。

 

「何を調べるの?」

「大きな犯罪組織の拠点があるらしい。誘拐された子供の目撃情報がスラムであるんだ」

「ふうん……。自分たちで調べないの?」

 

 誘拐って、本当に大きな事件だと思う。それこそ、国が調べてもおかしくないぐらいの。しかもスラムで見かけたって分かってるなら、兵士さんとか動員すればいいと思う。

 不思議に思っていたら、ギルマスさんが苦い顔で説明してくれた。

 

「国は、動けない」

「ん? なんで?」

「…………。王子も誘拐されている。スラムに兵士が一人でも入れば……」

「ん……。なるほど」

 

 つまり、人質にされてるってことだね。兵士と分からない服装にしたとしても、そもそもあっち側が兵士さんの顔を覚えているのだとか。

 

『さすがに全員は覚えていないだろうけど、誰が覚えられてるかは分からんだろうしなあ』

『下手なことして王子殺されましたーってなったら手遅れだしな』

 

 なかなか難しいね。

 

「じゃあ、ここの冒険者さんは?」

「とても恥ずかしいことを言うぞ」

「ん?」

「少なくない人数が犯罪組織に属している、らしい。誰が黒かはっきり分からないが間違いない」

「うわあ」

 

『うわあ』

『お手上げですね!』

『これはひどい』

 

 ギルマスさんが言うには、国からギルドに正式に依頼が来たらしい。だからギルドも冒険者を派遣したんだけど……。半分以上が帰ってこなかったそうだ。残りの半分も、なんだかみんなであいつが裏切ったって言い合ってるみたいで、もう誰が黒なのか分からないのだとか。

 みんなでみんなを告発してる状況、てことかな?

 

「大変そう」

「ああ、大変だ。そこで、この街に来たばかりの魔女殿の力を借りたい。犯罪組織の拠点を見つけ、誘拐された王子を助け出してほしい」

「んー……」

 

 正直、ちょっと面倒そうな依頼だからやりたくないっていうのが本音。別にこの国がどうなろうと私には関係ないから。

 だから、断ろう。そう思ったところで。

 

「ところで、魔女殿」

 

 ルドガーさんが話しかけてきた。

 

「ん?」

「なんでも、この国の王族はかなり貴重な肉を祝い事で食べるらしい」

「…………。お肉」

 

 お肉。

 

『リタちゃんが食いついた!』

『この子、目の前にお肉を垂らしておけばなんでもやるんじゃ……』

『おいシッショ、この子の教育どうなってんだ!』

『お前のメシがまずいからだぞ!』

『ひどくない?』

 

 お肉。特別なお肉。きっと美味しいお肉だ。とても、気になる。

 

「王子が助け出されたら、祝い事として出してくれるかもな?」

「ああ、そうだ! いや、むしろ報酬として打診しておく。どうだろう、魔女殿」

「分かった。やる」

「おお……!」

 

 特別な、貴重で、美味しい、お肉。とても楽しみ。

 

『これで微妙なお肉だったらリタちゃんの逆鱗に触れるのでは……』

『思ってたのと違う、てキレて大暴れ!』

『悲報、獣人国滅亡』

 

 さすがにやらないよ。やらないから。本当に。

 それじゃあ、うん。美味しいお肉のために、やってあげよう。でも時間をかけるつもりはない。他にもいろんなごはんを食べたいから。それに、あまり時間をかけて日本に行く時間が減るのも嫌だし。カレー食べたい。

 

「じゃあ、晩ご飯にお肉が食べられるように手配しておいて」

「え?」

「は?」

「任せてほしい。すぐに終わらせるから」

 

 残りのお肉をアイテムボックスに放り込んで、立ち上がる。うん。さくっといこう。

 

「犯罪組織の壊滅と子供の解放だね。すぐ終わらせるから」

「スラムの調査だが!?」

「ん……? んー……」

 

 なんだっけ。こういう時に言うセリフがあったはず。えっと……。

 

「別に、壊滅させてしまってもかまわんのだろう?」

 

『ちょwww』

『死亡フラグだからそれ!』

『でも謎の安心感があるw』

 

 あのアニメはとってもおもしろかった。また見たいね。

 呆然とするギルマスさんといろいろ達観したようなルドガーさんを置いて、私は早速スラムに向かうことにした。

 




壁|w・)しれっとおやつにお肉を回収する魔女。
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