異世界魔女の配信生活   作:龍翠

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晴れのちあらくれ

 

 ギルドから適当に歩いて、街の外側に向かう。街の外側がスラムになってるらしい。この国はスラムにもいくつか種類があるみたいだけど。

 でもそんないくつかあるスラムに用はない。門にいる兵士さんにギルドカードを見せてからスラムの場所を聞くと、何かを察したのかすぐに教えてくれた。

 あの怯えていた兵士さんもまだいた。あなたなら大丈夫だろうが気をつけて、と言ってくれた。

 

「とてもいい人」

 

『そのいい人を結果的にとはいえ脅しているわけですが』

『脅しどころかゴチンとやっちゃったわけですが』

『ゴチン? ぐしゃあじゃなくて?』

 

「あれは悲しい事件だった」

 

『おいwww』

 

 あれは兵士さんの態度も悪かったから、お互い様だよ。それで終わっているから蒸し返さないでほしい。

 少し歩いて、薄暗い道を通って……。明らかに雰囲気が違う通りに出ることができた。周りからの視線もなんだかねばついているというか……。嫌な感じだね。

 とりあえず……。

 

「どうしよう」

 

『ええ……』

『晩ご飯を手配してほしい(キリッ)』

『計画はないんかいw』

 

 ん……。実はない。だって、こうしてスラムを歩いたら誰か襲ってくるかなと思ったから。その人を捕まえて聞けばいいと思っていた。

 それなのに、誰も襲ってこない。困った。

 

「誰も襲ってくれない」

 

『言いたいことは分かるけどセリフがやばいw』

『襲われることを期待する幼女』

『なお襲った相手は例外なく死にます』

 

 死なないから。話を聞くだけだから。

 おかしいよね。視線は感じる。敵意も感じる。なんなら殺意も感じる。それなのに襲ってこない。様子を見てる。ギルマスさんとのお話を聞かれていたとも思えない。それなら私が気づくから。

 

『いやこれ、最初のやつで警戒されているのでは?』

『あー! なんか針を反射した後放置したやつか!』

『そういえばすでに一回やらかしてたなw』

 

「ああ……」

 

 あったね、そういうことも。あまりにもどうでもいいことだから意識の外だった。でもそれが理由だとすると、待っていても仕方なくなるのかな。

 

「こういう時は……情報収集には酒場かな?」

 

『情報収集ってもっと前段階の話の気がするのですがそれは』

『スラムの酒場とかむしろ悪の根城のイメージ』

『つまり……いきなり乗り込むってわけですね!?』

 

 いや、さすがにそんないきなり本拠地を当てるとは思えない。でも、誰か知ってる人ぐらいはいるはず。

 少し歩いて、酒場を見つけることができた。やっぱり周りの雰囲気が悪いし浮浪者もたくさんいるけど……。とりあえず、酒場だ。早速入ろう。

 酒場は広い部屋で奥にカウンター、そして丸テーブルが点在しているお店だった。どのテーブルにもがらの悪そうな人がたくさんいる。多くの人が私をじろりと睨み付けてきた。

 

「なんだあ? ガキがこんなところに何しに来た?」

「ガキはママのおっぱいでも飲んでな!」

「ギャハハハハ!」

「おお……」

 

 なんだろう。漫画やアニメで見た悪い人たちだ。ここまでこてこてな人は初めて見たから、ちょっと新鮮だ。すごい。

 

『こってこての悪人さんだー!』

『すげえ、リタちゃんの配信でこんなこてこてを見ることになるなんてw』

『なんだかんだと優しい人たちばっかりだったからなw』

 

 森の側にある街の冒険者さんたちもみんな優しかったからね。私もすごく新鮮だ。ちょっと楽しい。

 周りの人の言葉は気にせず、カウンターに。そっちもたくさん人が座っていたけど、一つ席が空いていたから座らせてもらった。カウンターの奥、店主さんかな? 声をかけてくる。

 

「注文は?」

「んー……。ミルク」

 

『注文ミルクだ!』

『定番だー!』

 

 こういう時はミルクだと思う。なんとなく。

 周りの人はそれにすごく反応した。

 

「ミルク! 酒場に来てミルクだってよ!」

「帰っておかあちゃんのおっぱいでも吸ったらどうですかー!?」

「やめてやれよ、泣いちゃうだろ? アハハハハ!」

 

 元気な人たち、だね。

 気にせずにミルクを待つ。でも店主さんは動かない。まるで、出す必要なんかない、みたいな態度だ。出しても無駄になる、とか思っているのかも。

 

「改めて見ると身なりいいガキだな」

「しかも、おい、こいつエルフだぞ。高く売れる!」

「はは。表と勘違いしたのか? ここに来たのが運の尽きだなあ!」

 

 がたがたと、たくさんの人が席を立つ音。そして、

 

「ぶべらあ!?」

「ひでぶっ」

「ぬわあああ!」

 

 私の結界に弾き飛ばされる人たち。

 

『たーまやー』

『今日の天気は晴れのちあらくれ、ところにより血の雨です』

『なおあらくれは横から降ってくるのでお気をつけください』

『嫌な天気だなあw』

 

 嫌な天気だね。そのうち死人が出ちゃうかも。

 気づけば音はしなくなっていて、過半数の人が床に倒れたり壁に頭をさしたりしていた。大丈夫、誰も死んでない。はず。多分。

 残りの人は腰を抜かしてへたり込んでいたり、固まっていたり……。いろいろ、だね。

 ところで。

 

「ミルクは?」

「は、はい! すぐに! すぐにご用意いたします!」

 

 とりあえず注文したミルクを出してほしい。ほら、はやく。お仕事でしょ?

 

『相変わらず敵には容赦がない幼女』

『見ろよ、バーテンダーさん、泣きそうな顔だぞ。おもしろいよな』

『視聴者も大概である』

 

 出されたミルクはあまり美味しくなかったけど……。タダにしてくれたから許す。毒も入ってないみたいだしね。

 さてと、それじゃあ……。情報収集、だね。誰に聞こうかな?

 




壁|w・)晴れのちあらくれ、ところにより血の雨、または黒い影がふりそそ(ばくっ)
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