異世界魔女の配信生活 作:龍翠
「んー……。美味しかった」
「いや……。満足してもらえなかったようで残念だ」
「私の個人的な好みの問題だよ」
だからあまり気にしないでほしい。種族が違うから、こういうこともある。むしろ食感だけ好みが違うだけだからまだましだったと思おう。臭い料理よりはずっとましだよ。
この先も世界のあちこちを見て回ってたら、きっとみんなにとって美味しくても私には合わない、というのが出てくるだろうからね。
『サルミアッキとかな!』
『サルミアッキも国によっては好まれるからな!』
それだけは理解できない。心の底から理解できない。
「では、守護者殿。少し真面目な話をさせていただこう」
食べ終わって最後にジュースを飲んだところで、王様がそう言った。今までとは違って真剣な声だ。何の話かは分からないけど……。ちゃんと聞いた方がよさそうだね。
「なに?」
「報償の話だ。我が息子を助けてくれた報償を、是非受け取ってほしい。金でも物でもなんでもいいぞ?」
「お肉をもらった」
「守護者殿が喜んでくれていればそれで納得できたがなあ……」
いや、美味しかったよ。私は満足してる。本当に。
でも王様としてはここは譲れない部分らしい。国としてのメンツ、みたいなものがあるのかも。
んー……。
「じゃあ、私がこの国のどこに行っても問題ないようにしてほしい」
「うん? 今も問題ないはずだが……」
「差別的なことは避けてほしいなって。王都に入る前に、薄汚い森の種族がって言われたよ」
「ほ、ほほう……」
『悲報、門番さん、告げ口される』
『差別的発言をしたことは事実だからね、仕方ないね!』
『あとから降格処分とかされそう』
え? あ、そっか。告げ口みたいに思われちゃうんだね。私としてはあの人はもういいんだけど。
「門番さんはもういいからね。何もしなくていいから」
「しかし……」
「すでに仕返しはしちゃったから」
「…………」
『王様の顔が引きつってるw』
『どっちみち事情聴取は確定ですね分かります』
そうなの? これ以上はもう余計なことは言わない方がよさそう。
王様はこほん、と咳払いをして、分かったと頷いてくれた。
「国民の意識を変えることはすぐには無理だ。だが、少なくとも守護者殿に対して行わないように、全兵士に伝えておく。街の人々は難しいが、門番などで言われることは絶対にないはずだ」
「ん。じゃあ、それでよろしく」
街の人はさすがに仕方ない、かな。門番さんだけでもやめてくれるなら安心だ。
『今絶対にないって言いましたよ奥さん』
『これはあれですよ。フラグってやつざますよ』
『まあああ! 楽しみですわね!』
変な楽しみを作らないでほしい。心配になるよ。
「しかし、守護者殿はなぜこの地へ? 何か探し物でもあるのか? よければ協力させていただくが……」
「美味しいものを食べたい」
「…………。すまない。聞き間違えたらしい。もう一度頼む」
「美味しいものが食べたい」
「…………。ええ……」
『王様、どん引きである!』
『周囲のマジかよこいつみたいな目がw』
『美味しいものが建前だと思った? 残念! 目の前にいるのはリタちゃんだ!』
それはどういう意味なの?
王様は水の入ったコップを手に取って、ゆっくりと飲み干して、よし、と頷いた。
「うむ! やはり美食! 美味いものは正義だ!」
「ん。美味しいものは食べるだけで幸せになる」
「分かる! 分かるぞ守護者殿! 俺もこんなしがらみがなければ、世界へ美食を求めて旅立っていただろう!」
「王様は大変だね」
「ああ……! そうなのだ!」
この王様はとてもいい人だと思う。少なくとも話が分かる人だ。王様が王様じゃなかったら、旅の話でお互いに盛り上がれたかもしれないね。
「じゃあ、王様にこの果物をあげる。精霊の森でとれる果物、みかんもどき」
みかんもどきをたっぷりとテーブルに並べた。百個ぐらい。たくさんとれるからね。家族やお城の人たちと食べてほしい。
王様はおお、と目を輝かせてみかんもどきを手に取った。
「これが……! 噂に聞く、伝説の果物か!」
『なんか適当に名前つけた果物が伝説とか言われた俺の気持ちを考えて?』
『シッショwww』
『でも最初に森の外に持ち出したのはお前なんだよなあ』
『それはそう』
師匠が行く先々で配ってたみたいだからね。おかげでこれを渡せば喜んでもらえるようになったから楽だけど。
「これほどいただけるとは……。であれば! 我も守護者殿の美食探求に協力せねばなるまい!」
「ん?」
「一日待ってほしい! ここには我が国の美食が集まるからな! 詳しい者に聞き取りをし、まとめておこう!」
「おー」
『かつてないほど王様が協力的』
『でも結局全部の名所を回らせられるやつではなかろうかw』
それは……。あるかも? たくさんの紙を渡されて、ここに行くべきだ、みたいな感じで。正直獣人国は結構満足してきたし、他の街も見てみたいというのもある。厳選してほしいかな。
「三ヶ所ぐらいにしぼってね」
「三ヶ所!? ま、待つんだ守護者殿! 味覚というのは人によって違うだろう? ここはたくさんの意見をだな……」
「王様のおすすめを三ヶ所選んでね」
「俺のおすすめ!?」
『この魔女、問答無用である』
『王様のおすすめ三選か。これは期待できるなあ!』
『なんて言ったって自国の美食だからな! 美食好きの王様だからな! そんな王様が選ぶ三選だからな!』
そう。自分で言うのもなんだけど、私はすごくいいお願いをしたと思う。王様が選ぶ三選。きっととっても素晴らしいものになるはずだ。
「ま、待て、待ってほし……」
「王様が選ぶ三選、楽しみにしてる。わくわくだね」
「…………」
『王様の顔がwww』
『獣人さんでも分かりやすいほどに引きつってるw』
『一国の頂点だからな! 責任重大だな!』
王様はなんだか不思議な顔をしてる。周りの人はちょっぴりおろおろ。やがて王様は勢いよく立ち上がって、叫んだ。
「分かった! いいだろう! 俺の好みにはなるが、しっかりと選ぶとも!」
「おー!」
「その代わり……。三日、待ってほしい! 三日後の夕方だ! 晩餐会を開くから、その時にまとめたものをお渡しする!」
「ん」
そういうことになった。三日後の夜に来ればいいってことだね。また三日か、と思ってしまうけど、ちゃんと選んでくれるなら待とうと思う。楽しみ。
王様は、ゆっくりしていってほしい、と言い残して、食堂を出て行く。
「俺は部屋にこもる! あと、軽食を用意しろ! 軽食をたくさんだ! たくさん! 味を思い出すから!」
そんな声が聞こえてきてしまった。
「無理を言っちゃったかな?」
「あー……。まあ、多分大丈夫だ。王様は、有言実行する男だ。うん」
「そう」
今更やっぱりいいよとも言えないから、何も言うつもりはないけど。
それじゃあ、また三日待たないと、だね。せっかくだし、日本に行こう。お肉はいっぱい食べたから、お魚とかちょっと食べたいかも。
「それじゃあ、帰る」
「ああ……。気をつけてな……」
部屋に残っている人に手を振って、私は転移で森に帰った。明日はどこに行こうかな。
壁|w・)軽食と称して各地の名産を食べまくって厳選する王様の姿が三日間ほど見られるらしいです。
次回からは日本。先日、こそこそ旅行に行ってきたので、せっかくなのでそこを書くのです。
本日から小説家になろうの方で新作を投稿し始めました。
『異世界帰りな最強魔女の気まぐれ観光 ~帰ってきた日本はニチアサヒロインが戦う世界でした~』
というお話です。
ハーメルンにもそのうち投稿し始めますが、もし興味がありましたらこちらも是非是非よろしくお願い致します。