異世界魔女の配信生活   作:龍翠

61 / 542
わんこ

 女の人に向き直ると、なんだか期待に目を輝かせていた。まあ、いいけども。

 

「少しだけなら。今から遊びに行くので」

「遊びにですか!? ちなみにどちらに?」

「それを聞いてどうするの?」

 

 張り込むつもりかな? 大きな遊園地だっけ。そういうところなら今からでも待ち構えることができるかもだし。いや行かないけど。いや行ってみたいけど。

 

「真美。真美」

「え、な、なに? どうしたの?」

「遊園地行ってみたい」

「本当にどうしたの!?」

 

 思い立ったが吉日ってやつだよ。師匠が言ってた。

 

「えっと……。今から行く?」

「んーん。今度。あと電車も乗ってみたいね。うん」

「あはは……。やりたいことがいっぱいだね」

 

 私の世界じゃ体験できないことだからね。たくさん遊びたい。

 

「あ、あの……」

 

 あ。女の人を無視してしまっていた。

 

「ん。まだ何かある? 勝手に入ったのは謝るけど、そろそろ行きたい」

「ああ、いえ。リタさんが転移先に使っていることはすでに皆さん知っているようでして、誰かに迷惑がかかることでもないので黙認するそうです」

「あ、そうなんだ」

 

 それはとても嬉しい。ここ、便利だから気に入ってるんだよね。

 

「ではお忙しいようですし、あと一つだけ」

「ん」

「よければ、日本の感想をお願いします」

 

 んー……。日本の感想。日本の感想かあ……。

 

「美味しい」

「んふっ……」

 

 真美のつぼに入ったらしい。口を押さえてぷるぷる震えてる。女の人たちも、なんだか楽しそうに笑っていた。

 

「ははは……。リタさんらしいですね」

「ん。ん……?」

 

 私らしいってどういう意味かな……? あれ? 食べてばかりとか思われてない? 変なイメージ持たれてない?

 

『リタちゃんのイメージは大食いだからなあ』

『ぶっちゃけ食べ物さえ与えてれば満足しそう』

『食べ物で簡単に釣れちゃいそう』

『尻尾振ってついてくるイメージ』

 

 ひどい偏見を見た気がする。いやわりと否定できないかもしれないけど。

 まあ、うん。いっか。それでも。きっかけがカレーライスだったのは事実だしね……。

 

「それじゃあ、もういい?」

「はい。ありがとうございました、リタさん」

「ん」

 

 ここで転移場所を決めたかったけど、とりあえず避難だ。真美の手を取って、とりあえず目に見えるけどちょっと遠いビルの屋上に転移した。

 

 

 

 商業ビルの屋上からエレベーターで一階へ。いつもの視線を感じながら、真美と一緒に歩いて行く。目的地は決まってるし場所も覚えてるから、迷う心配はない、はず。

 真美の方は、物珍しそうに周囲をきょろきょろと見回していた。

 

「真美、どうしたの?」

「高い建物がいっぱいだなあって。心桜島にはビルはあまりないから」

「ん……。そういえば、そうだね」

 

 真美が住んでるマンションは大きい建物ではあるけど、あの島の大きい建物ってそれぐらいだったはずだ。ここみたいに大きいビルが建ち並ぶ光景はあまり見ないらしい。

 

『心桜島はまだまだ開発途中だから』

『これから先も観光資源みたいな扱いかもしれないしなあ……』

 

 観光。じゃあ、何か面白いものがあったりするのかな。

 歩いている間、いつもの視線は感じるけど、話しかけてくる人はいない。歩きやすいから私としては嬉しいけど。

 そうして歩いていると、すぐに目的地が見えてきた。小さなかわいらしいお家で、犬の大きいぬいぐるみがドアの前に置かれていた。ぬいぐるみの首にはプレートがかけられていて、営業中の文字。かわいいかも。

 

「リタちゃん、このぬいぐるみふわふわしてる!」

「ん?」

 

 ぬいぐるみを撫でてる真美に近づいて私も撫でてみる。なるほど、これは確かにふわふわだ。大事に手入れしてるのがよく分かる。

 

「真美。それよりも」

「あ、そっか」

 

 真美を促して、私たちは喫茶店の中に入った。

 喫茶店の中は、思っていたよりも広かった。丸いテーブルが四つと、椅子がいくつか。そしてそんな家具よりも何よりも。

 わん、と子犬が駆け寄ってきた。どの子もまだすごく小さくて、そしてもふもふしてる。すっごく見た目がふわふわだ。そしてどこに行くのかと思ったら、私たちの足下にじゃれついてきた。

 

「わあ……!」

 

 真美も感嘆のため息をついてる。すごくいいよね、ここ。これだけで気に入った。

 

「いらっしゃいませ」

 

 そう言って店の奥から出てきたのは、とても若い女の人。多分店主さんだ。店主さんは私たちを見ると目を丸くして、そしてすぐににっこりと笑顔になった。

 

「わあ、びっくり! あなた、リタちゃんよね? 配信、見てる! ここに来てくれたのね!」

「ん……。ありがと」

「ということは、君が真美ちゃん? へえ、すごくかわいい!」

「あ、ありがとうございます……」

 

 うん。この人、ちゃんと見てくれてる。真美はすごくかわいい。照れてる顔とかおすすめ。

 店主さんが言うには、どの犬もみんな人なつっこいらしい。抱いてあげたら喜ぶんだとか。ただ、変な抱き方をすると犬たちも辛いらしくて、店主さんが犬の抱き方を教えてくれた。

 教えられて気付いたことは、咲那はわりとちゃんと抱いていたんだなと。犬を飼う人はみんな覚えてるのかな。

 

「今はどの席も空いてるから、好きな席にどうぞ。飲み物とかはメニューを見てね」

「ありがとうございます。リタちゃん、どこに座る?」

「んー……」

 

 そこで私に振ってくるんだ。どこでもいいんだけどね。犬をたくさんもふもふしたいとは思ってるけど、それだけだし。ああ、でも、外からの視線はめんどくさいから、奥の方がいいかな……。

 

「窓から離れてるところで」

「それじゃあ、あそこかな」

 

 一瞬だけ店内を見回して、真美が店の奥まった席に連れて行ってくれた。それだけで、店主さんも察してくれたらしい。置かれてる観葉植物を動かして、窓から私たちが見えないようにしてくれた。

 たださすがに入ってきた人からは丸見えだけど……。こればっかりは仕方ない。隠れたい人なんて想定してないだろうし。

 




壁|w・)いぬ!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。