異世界魔女の配信生活   作:龍翠

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壁|w・)ここから第十話、のイメージです。


精霊様への挨拶

 

 スタンピードの騒動の翌日、私が街の門の前に行くと、すでにミトさんが待っていた。街に入っていく人たちから不思議そうに見られていて、ちょっと恥ずかしそう。違う場所を指定してあげた方がよかったかな。

 フードを被って、ミトさんの側にふわっと着地。ミトさんだけじゃなくて周囲の人の視線も感じるけど、無視しよう。

 

「おまたせ。変なところで待たせてごめん。とりあえずこっち」

「は、はい!」

 

 ミトさんの手を引いて、門から離れる。草原のど真ん中、人の視線を感じなくなった場所で立ち止まってフードを外した。代わりにいつもの三角帽子を被って、ミトさんに向き直る。

 

「パーティの人たちには挨拶した?」

「はい、大丈夫です。ちょっと大変そうでしたけど」

「ん?」

「えっと……。ギルドで、ちょっと冷やかされていたというか、なんというか……。ヘイズさん、あ、リーダーです。リーダーが言ったことをすごく大げさにパーティの人が面白おかしく吹聴して、みんな絶対に分かってるのにはやし立てて、リーダーが部屋の隅で丸くなってました」

 

 なにそれすごく楽しそう。今からでも見に行きたいけど、お別れを済ませたのに戻らせるのはちょっと申し訳ない。すごく残念だけど。とても見たかったけど。

 

「…………。見に行ったらだめ?」

「え……」

 

 ん。ミトさんの頬がちょっと引きつった。やめておこう。

 

「なんでもない。それじゃ、転移する。忘れ物はない?」

「は、はい! 大丈夫です!」

「ん」

 

 さっと転移を発動。転移先は、森の前。お家の前に直接転移してもよかったけど、しばらく滞在してもらうつもりだから、森の危険性をちゃんと知っておいてほしい。だから、ここから歩いて行く。

 

「お家まで歩くけど、絶対に私の側を離れないように」

「分かりました。ちなみに離れたらどうなります?」

「死ぬ」

「離れません!」

 

 ひしっと左手を掴まれた。ん、まあ、これなら離れたらすぐに分かるから、ちょうどいいかな。

 ミトさんを連れて森の中を歩いて行く。時折出てくる魔獣にミトさんがいちいち驚いていて、ちょっぴり楽しい。すごく楽しい。

 私にとっては歩き慣れた道だけど、ミトさんにとっては大変で怖い道だったみたいで、一時間ほどで結局お家の前に転移した。少しは怖い場所だって分かってもらえたからいいとしよう。

 お家の前、私が結界を張っていて安全だと教えてあげたら、その場にへたり込んでしまった。

 

「噂には聞いていましたけど、実際に来てみると予想以上でした……」

「ん。途中で転移したから、ミトさんが見たのはまだ比較的安全な魔獣だよ」

「あんぜん……?」

 

 森の奥の方が魔獣も強いからね。入り口付近はまだまだ安全な方だよ。

 

「荷物は?」

「アイテムボックスに入ってます」

「ん。じゃあ空いてる部屋に……」

「テント張りますね!」

「…………」

 

 いや、普通にお家の部屋に泊まってくれたらいいんだけど。

 私が不思議そうにしていたからか、理由を教えてくれた。守護者の家に泊まるのは恐れ多いとかなんとか……。むしろ緊張で休めなくなるとか。

 守護者ってみんなにどう伝わってるのかな。伝説扱いだってミレーユさんからは聞いてるけど。

 ミトさんがそっちの方が安心できるなら、無理強いはしないでおく。無理強いしたせいで休めなくなったら本末転倒だしね。

 

「じゃあ、先にテント張って。手伝った方がいい?」

「大丈夫です! すぐに終わらせます!」

 

 ミトさんはそう言うとテントを取り出して、あっという間に組み立ててしまった。すごく手慣れている感じがする。冒険者にとっては必須技能だったりするのかな。

 

「終わりました!」

「ん。じゃあ、精霊様に挨拶に行く」

「え」

「ん?」

 

 ミトさんが固まってしまった。予想してなかったらしい。なんだかすごく慌て始めたけど、そんなに気にしなくていいよ。怖くないよ、優しいよ?

 

「でもわたし、こんなローブしかありません……」

 

 ミトさんがそう言ってくる。ミトさんのローブは、ちょっとだけ装飾のあるローブ。装飾は魔力の制御を補う魔道具だね。一般的な魔法使いのローブだと思う。帽子はなし。小さいポニーテールの青髪だね。

 うん。問題ない。

 

「それで問題あるなら私も問題ありになるけど」

「え? あー……」

 

 私のローブにもいくつか装飾はあるけど、師匠お手製の手作りだ。効果? そんなものはないよ。女の子なんだからおしゃれぐらいいるだろって師匠が作っただけだから。

 私と師匠の場合、装飾にじゃなくてローブそのものに魔法をかけるし。そっちの方が仕込みやすくて強い魔法を付与できるから。

 

「精霊様は気にしないから行くよ。はい転移」

「ちょ……!?」

 

 ミトさんが何か言おうとしたけど、問答無用で転移した。転移先はもちろん、世界樹の前だ。

 視界いっぱいに突然世界樹が広がったミトさんは、その場であんぐりと口を開けて固まってしまった。ほっぺたをつんつんしてみる。動かない。おもしろい。

 

「リタ。やめてあげなさい」

 

 ふとそんな声が聞こえて振り返ると、精霊様が苦笑していた。

 

「あなたがミトですね。リタから聞いていますが、コウタから教えを受けていたそうで。私が世界樹の精霊です。よろしくお願いしますね」

「…………」

 

 見事に固まってる。もう一度つんつんしよう。つんつん。

 

「ひゃい! はい! よろろろろしくおねがいしましゅ!」

「おー……」

 

 なんか、うん。ごめんね。そんなに緊張してたんだね。うん。うん。

 羞恥で真っ赤になってるミトさんの手を取ってから、精霊様に言った。

 

「ごめん。明日出直す」

「ん、ふっ……。わ、わかりました。そうしてください」

 

 精霊様も噴き出しそうになってるのを必死に堪えてる。早めに移動してあげよう。

 一度だけ小さく頭を下げて、転移した。

 




壁|w・)道中での心の準備すら許さない精霊様への挨拶でした。
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