私は、田中ヒメ。親友の鈴木ヒナと一緒に下校している最中です。
「それでね~、そこで…」
いつもの語りが止まらなくなっているヒナ。でも今日でこれを聞くのは最後かぁ…。
「あれ?ヒメ、どうして泣いてるの?」
『え?泣いてなんか…』
ヒナに言われて触って気づく。泣いていたということに。
『なんでもないよ!ちょっと目にゴミが入っちゃって…』
「大丈夫?そこに公園あるから、そこの水道で洗う?」
『うん、そうする』
ヒナは幼稚園の時からずっと一緒で、家もすぐ近くの幼馴染。小中高と一緒だったけど、高校二年になるタイミングで転校なんて…
なんども嫌だと言った。一人でこの街に残るって言っても両親ともダメだと言う。
ヒナにも言うべきか迷ったけど、言わなかった。最後くらい笑ってお別れしたかったし、それに…ヒナの泣いているところを見たくなかったから。
『ちょっと目洗ってくるね』
「うん!いってらっしゃ~い」
…水が冷たい。火照った目尻が冷えていく。
今日くらいは、少しヒナと話して帰ってもいいよね?もしかしたら、もう会えないかもしれないから…
『ごめん!お待たせ!!』
「うぅん、大丈夫だった?」
『うん!ちゃんととれたよ!』
「それならよかった!」
…やっぱりヒナには言わないでおこうと改めて思った。人のことを一番に考えてくれる彼女のやさしさが好きだから…!その笑顔をずっと覚えていたいから…!!
『ねぇ、ヒナ。初めてこの公園に来た日のこと、覚えてる?』
「急にどうしたの?wもちろん覚えてるよ!」
『ちょっと思ったんだけど、あの日も雪が降ってたよね』
「そうそう、ヒメが雪遊びしたい!っていうから、この公園に来たんだよね。そしてそのあと二人して風邪ひいちゃって!」
『そうなんだよね~!あの時はまさか5時間も経ってるなんて思わなくて…w
おうち帰ってから怒られちゃったよ…』
「ヒナもだよ~!風邪ひくでしょ!って言われたけど、その2時間後くらいには寝込んじゃって」
『あの時はごめんね~』
「ぜんぜんいいよ~!楽しかったし!」
初めて見る雪に興奮して、彼女のことを連れまわしてしまったけど、それは二人のいい思い出なんだ…
「それにさ~、ここの噴水にヒメ入っちゃったこともあるよね~」
『そ、そんなわざと入りましたみたいに言わないでよ~!!あの時は、突然ヒナが驚かせるからびっくりしただけじゃん。』
「ごめんごめんwいや~、いろんなことがあったね」
『そうだね、もうヒナと出会って13年か…早いね』
「ほんとだよ、この前出会ったような気がするのに…」
「でもね、変わらないこともあるよ」
『なに?』
「それはね~…内緒!」
『え~、教えてよ~!!』
「そのうちね!」
『教えてくれるの、待ってるからね!』
「うん!」
(♬~ 午後6時になりました…)
「あ、もう6時だって、そろそろ帰らないと!」
『う、うん。そうだね。』
「それじゃ、また明日~!!」
「うん、また明日…」
これは嘘だ。明日なんて来ないんだ。だってヒメは…
耐えられなくなって、走って家に帰った。ベッドとちょこっとした荷物しか置いていない部屋に駆け込む。途中、お母さんが何か言っていたけど、確認する気力もない。
『…ごめんね、ヒナぁ…。ほんとなら、ちゃんとお別れしたかったんだけど、ヒナが悲しむところを見たくなくて…』
それも嘘だ。確かにヒナが泣くところは見たくないけど、それ以上に私がヒナに言うのが怖いからだ。もし、あっさりと受け入れられてしまったらどうしようという、ありえないことばっかり考えていて、話す気すら起きなくなった。
『ヒナ…大好きだよ…絶対にヒメのこと忘れないでね…』
気がつけば寝てしまっていた。
〈ヒメ~、起きないと準備できないわよ~〉
階下からのお母さんの声で目が覚めた。とうとうこの日が来てしまった…。
学校には、担任の先生にだけ伝えてある。先生は、ヒナのことを心配していたが、大丈夫ですと押し切ってしまった。そのことに後悔しか浮かばない。
いつものように顔を洗って、着替えて、朝ご飯を食べる。なのに、なにかが抜けてしまったような気がして、物足りない。
まるで、世界から色が消えてしまったみたいに。
そんなこんなで出発の時間、学校だと一限目の授業が始まってるなと思いつつ車に乗った。
その時だった。走り出す車のエンジン音に負けないくらいの大きな声で私を呼ぶ声が聞こえたのは。
「ヒメ~!待って!!!止まって!」
間違いない!この声は今一番聞きたかった声…ヒナだ!そう思った瞬間、反射的に、
「車を止めて!!!」
と叫んでいた。お父さんが驚いて止めた瞬間、転がり落ちるように車から降りる。
『ヒナ、なんでここに!?』
「ヒメのバカ!どうしてヒナに何も言わないで、ヒナの前から居なくなろうとするの?あの時の約束忘れちゃった?」
忘れるわけない。中学校に上がるときに、ずっと一緒って約束したこと。
『忘れてなんかいないよ!ただ、怖かったんだ…』
「怖かった…?」
『もし、ヒナがあっさりと応じたらって。…そのまま、ヒメのこと忘れてしまったらって…』
「…バカじゃない…」
『え?』
「ヒナがそんなことすると思う!?ヒナこそ悲しかったんだよ?今日だって…」
鈴木ヒナ視点
ガチャッ
「…なにこれ?」
靴箱の中に入っていた、見慣れない封筒。そこの宛名には、ヒナへとしか書かれていなかった。
「この字って…」
見間違えるはずがない。だって、ずっと見てきた、ヒナの大好きな人の字だもん!
急いで中を見ると、
『今までありがとう。ヒメのこと忘れないでね』
と書かれていた。ドッキリでもかけられているのかという思いと、まさか…という思いの両方が胸を占める。
走って教室に行くと、そこにはヒメはいない。ヒメの机すらもなくなっている。
「ヒメ!?」
校舎中を探してもいない。運動場にもいない。電話をかけてもつながらない。放送部の職権を使って、校内放送で呼び出しもした。それでも来ない。
ガラガラガラ・・・
そのとき、放送室のドアが開いた。とっさに
「ヒメ!心配してた…」
と言いかけて、ヒメじゃなく、担任の先生であることに気づく。
「先生!ヒメは…ヒメはどうしたんですか!?」
〈鈴木さん、落ち着いて聞いて欲しいんだけど…、田中さんは転校しました。〉
「は…?」
そんな声しか上げられない。
「で、でも、昨日、また明日って、言いましたよ…?それなのに、転校だなんて…」
それに、大事なことも言えてないのに…
〈いえ、本当なんです…。田中さんから、黙っててくれって言われたから言えなかったんだけど…〉
「…ヒメの…ヒメのところに行かなくちゃ…!」
〈鈴木さん!ちょっと待って!〉
先生の呼び止める声を聞かなかったことにして放送室を飛び出した。すると、
〈ピンポンパンポーン♬
生徒の呼び出しをします。1年3組鈴木さん、1年3組鈴木さん、至急、放送室に戻りなさい。―〉
そんな放送も聞こえたが無視して学校を飛び出した。
まだ、間に合うかもしれない…そんな希望を胸に抱いて。
視点復帰 田中ヒメ
「ヒナが、ヒメのこと忘れるって思った!?いくらヒナが忘れっぽくても、大切な人…好きな人のことは絶対に忘れないよ!」
『ヒナ…、ごめん…。全部ヒメの勘違いだった…。ヒナが忘れるわけなんかないって心の中ではわかっていたのに、信じ切れていなかったんだ…』
「そんなことないよ…、ヒナもごめん…。ヒメのこと考えてなかった…」
『ヒナぁ…!!』
「ヒメぇ…!!」
【うわぁぁぁん…】
〈…ヒメ、ちょっといいかしら?〉
しばらく泣き続けていたら、お母さんが声をかけてきた。
『…どうしたの?』
〈あなた、この街に残りたい?〉
『うん、ヒナと離れたくない』
これには即答した。
〈そう…。鈴木さん、すみませんが、娘をお願いします。〉
〈わかりました、田中さん。こちらこそうちの娘がすみません。責任をもってお預かりします。〉
「…え、お母さん?どうして?」
〈中島先生から連絡があったのよ、ヒナさんが校内から脱走した、と。〉
「うっ…」
〈で、ヒメちゃんのお母さんに連絡したらここにいるってことだったから来てみたら…。そういうことだったのね。〉
「お母さん、ごめんなさい!」
〈いいのよ、さっき田中さんちとも話し合って、ヒメちゃんはうちで暮らすことになったから。〉
「『え?』」
〈さすがにこの二人を引き離すのはかわいそうだと思って…中島先生に相談したら、転校の取り消しもできるみたいだから、ヒナちゃんのおうちで預かってもらうことにしたのよ。〉
『そうなの!?』
〈ええ、あなたの荷物はあっちから送るわね。〉
『お母さん、ありがと~!!』
〈ヒナちゃんに迷惑かけないようにするのよ?〉
『うん!』
〈鈴木さん、それでは娘をお願いします。〉
〈わかりました。責任をもってお預かりします。〉
〈ヒナちゃんもよろしくね?〉
「は、はい!」
〈それじゃあね、ヒメ。定期的に連絡するから。〉
『わかった。ありがとう!お母さん!!』
〈まあまあ、この子ったら。それでは、よろしくお願いいたします。〉
〈しっかりと面倒をみますのでご安心ください。それでは、田中さん、お気をつけて。〉
「…こんなことってあるのかな?」
『さぁ…、未だに信じられないけど…これでヒナと離れなくてよくなった~!!』
「うん!よかったね~!!」
『ねぇ、ヒナ?』
「なに、ヒメ?」
『こんな私でよければ、これからも手を取って?』
「もっちろん!ヒナたちはず~っと一緒だよ!」
『ヒナぁ!うん!!ずっと一緒!』
そうして私たちは、一緒に暮らすことになりました。
これからはどんな生活が待っているのかな?