絶望の協奏曲   作:漆黒の人

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赤バーやったぜ!!
ベジータがまどマギの世界に来た話が消えていたんだけど何でだろう?結構好きだったのに。


第十話 魔女の結界

 

 

 黄金の光が走る──。

 

 この正体は先手を仕掛けた孫悟空だった。

 彼は、黄金の光を纏いながらワルプルギスの夜に向かって舞空術で飛び上がる。その速度はまさに光の速さを越した神速であり一瞬にして舞台装置の魔女の懐に潜り込む。

 そして、刹那を刻むが如く強烈な蹴撃を繰りだす。それは相手の移動速度が遅いと踏んでの行動であった。

 だが、舞台装置の魔女は黙ってはいない。

 ワルプルギスの夜はその巨体からは想像できないほどのスピードで移動して攻撃を避けたのだ。どうやら正位置になったことで、通常の状態よりも素早く動けるようになったらしい。

 しかし、孫悟空はそれに驚くことなく、すぐさま追撃に移る。今度は拳によるラッシュを仕掛けたのだ。

 一撃一撃が、大地を震わせ、天変地異を引き起こし、星をも砕かんとする程の超絶的な力が込められている。

 それはまさしく、世界を滅ぼす破壊神の一撃と言っても過言ではない。

 創造の神が世界を創ったように、破壊を司る神が世界に終焉をもたらす。

 それが孫悟空の黄金に輝ける一撃なのだ。その力はまさに、最強の神にふさわしいだろう。

 

『アハハハハハハ!!!』

 

 だが孫悟空の攻撃によって、二木市に衝撃波が吹き荒れるがワルプルギスの夜は微動だにしなかった。

 それどころか、余裕の笑みを浮かべていた。何故なら、ワルプルギスの夜に孫悟空の攻撃によるダメージが効いていないからだ。それを意味することは一つ。孫悟空の攻撃よりも舞台装置の魔女の物理的損傷を無効化する能力の方が上回っているということである。

 つまり、孫悟空は舞台装置の魔女を倒すには、彼女の能力を凌駕する必要があるということなのだ。

 故に孫悟空はワルプルギスの夜を倒せない。

 このままでは孫悟空はいずれ力尽きてしまうだろう。いくら戦闘民族であるサイヤ人の肉体といえども、無限に戦えるわけではない。流石に一週間も睡眠と食事、そして休息すら取らず立て続けに戦っていれば精神が健全でも肉体が根をあげてしまう。故に体力の限界は必ず存在する。だからといって、舞台装置の魔女も手を休めるつもりは無い。

 彼女にとって孫悟空との戦いは最高に楽しい一時だった。

 こんなにも心躍る戦いは初めてだった。

 だからこそ、彼女は全力を出して戦うことを選んだ。

 その選択が間違っているとは思わない。

 むしろ、正しい判断をしたと思っている。

 何百年もの時を経て、ようやく巡り合えた好敵手。

 格下相手を蹂躙するだけの日々から自分を解放してくれた存在。舞台装置の魔女は、そんな孫悟空に感謝していた。

 だからこそ、彼女は本気で孫悟空と戦っている。物理法則を無視した動きをする孫悟空に対して、ワルプルギスの夜は彼の拳を受けながら反撃の機会を狙っているのだ。

 

 一方の孫悟空の黄金の闘気は、太陽の如き熱量を用いてなんとしてでもワルプルギスの夜に有効打を与えようとしている。

 急所を探し、そこを集中的に狙う。打撃が効かないのならば無理矢理にでも抉じ開け、弱点を作り出すのみ。

 穢れと怨念の集合体風情が、俺が解き放つ清らかな神の光によって貴様の総てを浄化してやろう。

 膨れ上がる神の想い。それはこの世界において、最強と謳われている舞台装置の魔女に対しての宣戦布告でもあった。

 

 超サイヤ人に変異した孫悟空だが、今のところワルプルギスの夜に対する決定打はない。

 しかし、宇宙そのものをも滅ぼしかねない程の神域に到達したあの美しい姿ならば……人間風情が力を計ることすら儘ならない高次元の領域ならば──目の前にいる敵を意図も簡単に消し去ることが出来るだろう。

 

 だが、それでは意味がない。神の正義に火を付けた忌まわしきトランクスという男ならまだしも未知世界の強者相手にそれを使うのは野暮だとザマスの本能がそう感じているのだ。

 骨の髄まで味わい尽くし、激しい戦闘を繰り広げ、心地よい痛みを受け入れて、強さの高みというものを超越することでより強く無限に進化し続けるのだ。

 そうすれば、きっと自分は更なる高みへと至る事が出来る。その先にあるのは……人間を滅ぼし全ての世界を支配する神の力だ。

 孫悟空はただ単純に強くなりたいだけではない。

 己の強さを極めると同時に、野蛮な人間無きあらゆる美しい世界を統べる神として君臨することを望んでいるのだ。

 それが神としての責務であり、神の正義でもある。だから、それを叶えるために孫悟空は人間ゼロ計画を実行してきたのだ。

 

「来るがいい魔女よ、呪いを取り込み続けたそのおぞましい力……俺に見せよ。そして悪を放置し続け失敗を認めぬ神に成り代わり、貴様を黄金の輝きで滅してやろう!」

 

『アハハ!!』

 

 孫悟空とワルプルギスの夜の戦いは更に激しさを増していった。

 もはや町や市内などという規模ではなく、国をも飛び越え、神速で飛行し世界全土を巻き込むほどの大規模な舞台へと変貌していく。それはまさに神々の黄昏を彷彿とさせるような光景だった。

 そして、その様子を見ていた者達は誰一人としてこの戦いを止める者はいなかった。

 何故ならば、この場は彼らの戦場であると同時に、彼ら以外の誰も干渉出来ない戦域でもあったからである。

 彼らは、その領域に足を踏み入れることを許されない。何故なら、この世で最も強い者は……この二つの存在しかいないからだ。

 その証拠に、闇の閃光と黄金の閃光が地球上に駆け巡り、大地が大きく揺れ動いている。幾度の衝突の度に余波が発生しそれは凄まじく、空に浮かぶ雲は跡形もなく消え去り、海は干上がり、地面は割れていく。まさに天変地異と呼べる現象を引き起こしていた。

 故に今、この地球上で最強と謳われた怪物達の中でも別格の存在なのだ。その事実を知る者はごく僅かでしかない。

 その僅かな人物達──魔法少女は、その凄まじいまでの戦闘力を肌で実感しながら、その戦いを見届けることしか出来なかった。

 

 しかし、それでも両者は怯むことなく、戦い続ける。

 ワルプルギスの夜は周囲に闇の炎の塊を無数に展開し、孫悟空に向けて発射する。炎の結晶の数は数百にも及ぶ数であった。

 その一つ一つが、恒星を砕き、幾万、幾億ものの星々を滅ぼす力を持つ破壊兵器。下手をすれば銀河すら消滅させる程の超密度のエネルギー。宇宙の意思によるバックアップが無ければこれ程の力はまずあり得ない。故に直撃を受ければダメージは免れないだろう。だが、それがなんだと言わんばかりに全てを孫悟空は避けたりせず、あえて受けることにした。弾丸の雨のような攻撃に対して、彼は避けることもせずに突っ込んだのだ。

 その様はまるで、無数の爆撃を浴びてもなお前進する戦車のようだった。しかし、その程度で孫悟空が止まることはない。

 彼は、被弾を恐れることなく突き進む。その拳には、ありったけの気を込めながら……。

 

 それはザマスが奪った身体の持ち主である孫悟空が相手の懐に超高速で突撃し、相手を貫く際に有り余る気が黄金の龍となり、それによって攻撃を一点に集中させ相手を消滅させる龍拳というかつて孫悟空が使っていた奥義の一つだ。

 その技を見たことがない故にザマスには完全に再現した使えないが、孫悟空の記憶を辿り、彼の動きを完全にトレースして動きを多少再現して見せたのだ。

 当然、孫悟空の動きを真似ただけでは龍が現れない故に威力は半減するだろう。だが、孫悟空の肉体は覚えている。どうすれば威力を増せるのかを、あの異様な防御力を突破するにはどのようにすればよいかを――ザマスは孫悟空の戦闘の記憶から、引き出しを開けて、それを引き出すように瞬時に龍拳を習得しようとしていた。

 

 炎の結晶が命中すると、闇色の爆発が起きる。だが、それでも止まらない。

 それどころか、そのまま舞台装置の魔女に向かっていく。

 孫悟空は爆風の中を突き進み、遂に舞台装置の魔女本体──巨大な歯車に気を込めた拳を一点に集中させて放つ。

 金属が破裂するような爆音と共に拳が狙いを定めた所に命中し辺り一辺に衝撃波が発生する。

 

 ビシリ

 

 僅かにしか亀裂を入れることが出来なかったが、今までのダメージとは違い、物理的障壁を越えることに成功はしたようだ。

 

「ほう、硬いな」

 

 孫悟空は素直な感想を述べる。

 舞台装置の魔女は少しだけ驚いた表情を浮かべると、歯車が高速で回転し始めて孫悟空を上空へ弾き飛ばす。孫悟空はそのまま空中を舞い、体勢を整えて着地する。

 それを見た孫悟空は、不敵な笑みを浮かべる。

そして次の瞬間にはワルプルギスの夜が受けた傷が再生し始めていたのだ。

 まるで、ビデオテープを巻き戻すかのように徐々に修復されていく。

 

「強度がある上に不死身のような回復能力も持っているか……伝説と謳われているだけはあるな。この世界に住まう人間どもでは到底倒すことは出来ないのも無理はない……」

 

 いくら攻撃しても倒せない敵──だが、孫悟空はそれを見ても何一つ焦ることはなかった。

 

「素晴らしい」

 

 むしろ、彼は嬉々として闘志を燃やすその姿は狂気すら感じられた。

 

「俺の肉体は生命の血潮で煮えたぎり、燃えている。貴様の力をこの身に打たれる度に更なる影響を及ぼしより孤高の存在へと進化を遂げることが出来る。故に貴様を倒し更なる高みへ昇るとしよう……!」

 

 孫悟空は、両手を握り締め、全身に力を込める。すると、黄金の光が更に輝きを増していく。

 

「はぁああああッ!!」

 

 咆哮する彼を中心に発生した黄金の光を覆うように蒼白い稲妻が走り、逆立っている髪が更に激しく逆立ち、黄金のオーラと蒼白の雷電が激しく入り混じ始める。

 それは、太陽と月を同時に見ているような感覚に陥る程に眩い光景だった。

 膨れ上がる力を見てワルプルギスの夜は、何かを感じ取ったのか、警戒心を高める。まるで、目の前にいる存在は自分にとって最大の脅威になり得ると悟ったかのような反応だった。故に舞台装置の魔女が取った行動は疾風迅雷、それを阻止せんと無数の黒い球体を出現させると一斉に孫悟空に向けて発射する。

 

 迫り来る無数の魔弾。だが、今の彼にはそれを避ける必要はない。

 それらが着弾するよりも早く、孫悟空が蒼白の雷電が入り交じる黄金の闘気によって眼中にないと言わんばかりに全ての弾丸を一瞬にして消し去ったからだ。その力はまさに圧倒的と言えるだろう。

 変身が完了したのか彼は咆哮を止め、ゆっくりと構えを解いて脱力した状態になる。

 その様子は、まさに自然体そのもので一切の隙が見られない。

 

 超サイヤ人2。それは、全てにおいて超サイヤ人を遥かに越えた力を持つ状態である。オリジナルである孫悟空が修行の末に辿り着いた境地の一つであり、それをザマスが肉体の潜在能力を極限まで引き出すことに成功した証でもあった。その証拠に、ザマスは手に入れたのだ。

 最強の名を欲しいままにする戦士の姿に──。

 

『――――』

 

 ワルプルギスの夜は、その姿を見て思わず息を呑む。先程の攻撃がまるで効いていないどころか、こちらが逆に追い詰められているという現状に危機感を抱いたのだろう。

 

「……来ないのか?」

 

 孫悟空の言葉を聞いたところで、舞台装置の魔女は微動だにしない。

 だがしかし、孫悟空が一歩踏み出した瞬間、彼女は即座に闇のエネルギーを凝縮させた漆黒の光線を放つ。

 凄まじい速度で放たれるが、彼は慌てることもなく最小限の動きで回避して、一気に間合いを詰めて彼女の懐に入り込む。

 

「さて、行くか」

 

 そう呟くと同時に、ザマスは彼女の巨大な身体をサッカーボールを蹴る要領で蹴り上げる。

 その威力は絶大であり、直撃を受けたワルプルギスの夜は大きく吹き飛ばされる。その勢いは止まることなく、そのまま遥か遠方にある雲を突き抜けていき、やがて宇宙空間にまで到達した。

 

「ククク……そこなら、思う存分戦えるだろう?」

 

 そして、追い打ちをかけるように孫悟空も後を追うように宇宙空間まで跳躍し、彼女に追撃を加える。

 

 サイヤ人の肉体は本来なら宇宙空間でも活動出来ず呼吸困難に陥ってしまう欠点があった。だが、神と人間とのハイブリッドであるゴクウブラックなら話は別だ。

 彼の場合は、とある願い玉によって神の力と人間の肉体が融合したことで宇宙での活動を可能にしていたり大量の食糧を必要にならずに済み燃費が良くなったり等サイヤ人の肉体由来の問題は色々解決したのだ。それに加えて、ザマスもまた孫悟空の肉体の記憶を辿り、この状態を維持する為に必要不可欠な知識を引き出すことに成功している。

 よって、今の孫悟空はどんな環境であろうと、その環境下での最適な戦闘を行うことが可能となっていた。

 

 彼は光弾を無数に放つと、それらは流星群のように降り注ぐ。

 舞台装置の魔女は、それを防ぐ為に歯車を回転させて防御するが、孫悟空の攻撃はそれだけに留まらない。

 今度は拳に気を込めて、思い切り殴りつける。

 それによって生じた衝撃波が歯車を粉砕していく。

 歯車が破壊されて、舞台装置の魔女は月まで一直線に落下していき、地面に激突した衝撃により大地が割れて巨大なクレーターを形成する。舞台装置の魔女は、それでもなお立ち上がり、傷付いた場所を即座に修復した。それを見て孫悟空が冷静な口調で言う。

 

「これでも死には至らないか。どうやら、あの魔女を倒すには再生を上回るスピードで破壊するか……もしくは無限に等しい再生能力を超える圧倒的な力でねじ伏せるかのどちらかになるようだな」

 

 これまでの戦いを振り返りながら分析した結果、再生能力に関しては弱点がないと判断した孫悟空は、次に再生能力を越える攻撃方法を模索する。

 スピードもパワーもあのワルプルギスの夜と同等以上に渡り合える。だが、決定打に欠けるのが事実であった。

 ならば、一体どうすればいいのか? 彼は思考を巡らせるが、答えはすぐに出た。

 単純明快。

 要するに、一撃で相手を葬ることが出来れば問題はない。

 それが出来ないのであれば、何度でも攻撃を繰り返せば良いだけだ。

 幸いにも奴の本体は人形の方ではない、下に付いている歯車の方だ。龍拳で攻撃した時に、手応えから察するにあれを破壊することが魔女を消滅させる唯一の手段となるだろう。

 つまり、あれを跡形もなく消し去ればワルプルギスの夜は死ぬということだ。

 孫悟空は、それを確信すると再び構えを取る。

 葬る方法を導き出したのだから、後は実行に移すのみだ。

 勝負はもうすぐ決着を迎える──そう思っていたが、それは突然起きた。

 

 なんと空間が歪み始め、孫悟空の視界に映っていた景色が一変したのである。

 暗闇に広がる宇宙空間が一転して、世界が塗り替わったのだ。

 そこには、お菓子で出来た空間、薔薇園、西洋風の城、様々な童話に出て来るような光景が広がっていた。

 ──魔女の結界だ。

 それもかなり大規模なものである。

 だが、どれもこれもが歪んでおり、現実離れしている光景ばかりである。

 しかも、悪意に満ちた気配が周囲に漂っている。

 まるで、この世に存在する全ての負の感情が集結したかのような錯覚を覚える程に濃密な闇が支配していた。

 

『この感じ……これってまさか』

 

 その禍々しいオーラを感じ取った孫悟空は、警戒心を露にする。

 

「……これは」

 

『これはね黒ちゃん、魔女の結界と呼ばれるものだよ。普通の魔女なら気にする必要はないけれどあのワルプルギスの夜が作り上げた結界だからどうなるか分からないから気をつけて』

 

 みことがそう説明してくれたお陰で、彼はこの世界に引きずり込まれた理由を理解する。

 

「そうか……まさか貴様にこのような芸当が出来るとはな。最後の切り札を切ったと見える。それにしても、随分と悪趣味なものを作ったものだ。怨念が漂っている上に世界を塗り替える程の結界を創るとはな。貴様は焦っているな?自分を追い詰められている存在が現れていることに」

 

『…………』

 

「薄気味な笑いすらしないのか、ならば沈黙は是と捉えるとしよう」

 

 孫悟空は、目の前にいるワルプルギスの夜を見て静かに呟く。

 対する舞台装置の魔女は、何も言わずにただ黙って佇んでいた。

 その様子からは感情を読み取ることは出来ないが、少なくとも余裕があるようには見えなかった。

 そんな彼女を前にして、孫悟空は己の意思を告げる。

 

「総ての万物の頂点に立ち世界を見下ろす、それが神だ。故に神は全てを超越し、俺の前に立つ者は俺によって裁かれる。それが摂理だ。ならばこそ、神の前に立つということは即ち神の手によって裁かれなければならないということだ。

 故に神は全てを赦す、慈悲深く寛容であり、決して許さない。その矛盾こそが、俺という絶対神が存在する意味であり、存在する価値そのものなのだ。故に舞台に踊る演者を終局に導くが如く舞台装置に終焉をもたらすとしよう……それが神が描く筋書きだ!」

 

 彼が言い終わると同時に、両者は同時に動き出す。

 先手を取ったのは、舞台装置の魔女だ。彼女は巨大な歯車を複数出現させると、それらを次々と孫悟空に向けて射出する。

 それに対して孫悟空は、両手を腰に添え構えるのみ。一切手出しをせずに歯車による攻撃を受け止める。

 直撃を受けても彼は微動だにせず、平然とした表情を浮かべていた。

 いくら攻撃しようとも孫悟空には通用しないことを悟ったのか、舞台装置の魔女は攻撃を止めると今度は上空に浮かび上がり、そこから大量の魔法弾を放つ。しかし、それでも孫悟空は避けようとはしなかった。

 それどころか全身から爆発的な黄金の闘気を噴出させ数多の稲妻が走り、身体に駆け巡る。

 

「か……め……」

 

 孫悟空は右手を大きく引くと、掌から膨大なエネルギーが収束していく。

 

「は……め……」

 

 彼の放つ技は、かめはめ波だ。

 かつて、トランクスという男がタイムマシンでタイムトラベルを阻止する時に使用したことがある。

 だが、その時よりも遥かに威力が上がっている。

 

「……波!!」

 

 放たれたのは、眩い光に包まれた黄金と闇が混じった色の極大の光線であった。

 それは真っ直ぐに伸びていき、魔法弾を飲み込みながら舞台装置の魔女へと向かっていく。

 すなわちそれはワルプルギスの夜にとっての運命を告げる死神の鎌だ。

 最早誰もが決着を迎えるだろうと予感した。

 ところが──────

 

「なにっ!?」

 

 孫悟空は驚愕の声を上げる。

 なんと、かめはめ波の軌道がまるで意思を持つかのように簡単に放った本人に向け直し、そのまま直進してきたからだ。

 それを見た孫悟空はどういう仕組みかなのかを理解した。

 

「……魔女の結界か!」

 

 この現象を即座に把握する。

 そう、この空間では打撃以外の自分の意志に関係なく攻撃が勝手に軌道を変えて相手に襲い掛かるのだ。

 しかも、それはワルプルギスの夜の意思次第で自在に操れる代物である。

 つまり、この世界そのものが彼女の武器そのものということだ。

 本来の魔女の結界ならそのような芸当は出来ない筈だが、この結界を作り上げたのがあのワルプルギスの夜ならばそれも可能なのだろう。

 更に言えば孫悟空は知らないが宇宙の意思によるバックアップ付きだ。

 現に、今こうしてワルプルギスの夜の攻撃が自分に跳ね返ってきたことが何よりの証拠だ。

 恐らく、この結界内でならどんなことが起きてもおかしくはない。

 

「厄介な」

 

 このままだとまずいと察した孫悟空は咄嵯に右手にエネルギーブレードを具現化させる。そして、それを盾にして軌道を変えたかめはめ波を受け止めた。

 

「ぐぅう……ぬおおおぉお」

 

 凄まじい衝撃波が周囲に拡散する。極太の光線がぶつかり合いせめぎ合い徐々に押し返そうとしていた。

 舞台装置の魔女はそれを見越していたのか即座に別の攻撃を繰り出す。今度は漆黒に染まりきった光線を跳ね返したかめはめ波に向けて発射すると、二つの攻撃が重なり一つとなって孫悟空を襲う。

 

「ぬぅ……がああっ!」

 

 しかし、さすがにこの攻撃は防げなかったようで、彼の剣を粉砕し、勢いを殺すことが出来ずに極太の光線に飲み込まれてしまう。まるで巨大な柱のような光の柱が天高く聳え立ち、周囲が明るく照らされる。

 魔女の結界内なので実際の空は見えないが、もし見えていたとしたら太陽が昇っているかのような光景が映し出されていたことであろう。

 

『黒ちゃん!』

 

 みことの悲痛な叫びが響き渡る。だが、みことは信じていた。

 あの孫悟空がこんなことでやられるわけがないと。

 出会ったばかりと言えど、この程度で終わるような神ではないということを誰よりも理解しているからこそだ。

 男が光線に呑まれる中、かなりの持続ダメージを受けながらも何とか耐え凌ぎ、突進しながらある変化をしていた。

 それは纏っていた金色のオーラが更に大きく膨れ上がり、稲妻が前よりも激しく駆け巡り、逆立っている黄金の髪が腰辺りまで伸びて長くなり、生えていた眉毛が綺麗さっぱり消えていた。

 超サイヤ人3。それが今の彼の状態であり、神域による美しい姿を除く変身ならば最強の形態である。

 

『――ッ!』

 

 それを見て、舞台装置の魔女は一瞬だけ動揺を見せたが、すぐに冷静さを取り戻そうとする。

 だが、もう遅い。

 

「ふんッ!!」

 

 極太の光線をまるで掻き消すように押し返し潜り抜け、孫悟空は一気に距離を詰めると、その先にいるワルプルギスの夜に向けて拳を振り下ろす。

 

「はあぁあああ―――っ!!!」

 

 ドゴォオオオオン!!

 

  激しい衝撃音と共に結界全域に振動が走る。

 舞台装置の魔女は回避することも防御も出来ずにまともに喰らい、光速が生温いとさえ思える程の速度でまるで隕石のように吹き飛んだ。

 それだけでは終わらなく造り上げた結界を突き破り、舞台のセットをも破壊してするように宇宙空間へと放り出される。

 ──まだ勢いが止まらない。

 そのままワルプルギスの夜は太陽系を越え、銀河を越えて、宇宙の果てへと向かっていく。やがて、星々の海へと辿り着いた彼女は、そこで勢いが静止しようとした。

 

 しかし、これで終わる筈がなかった。

 

 孫悟空は瞬間移動を使い、ワルプルギスの夜の背後に現れる。

 それに気付いた彼女は振り向くと同時に黒い鞭を使い、背後にいる孫悟空に向かって攻撃する。だが、それよりも早く孫悟空は両手を交差させて繋ぎ合わせ空中の敵を傍受し、斧を振り下ろすかのように思い切り叩きつけた。

 それにより生じた複数の銀河が砕きかねない程の衝撃波によって超銀河全体に激震が走り、ワルプルギスの夜はまるで弾丸の如く弾き飛ばされ身体全体に巨大な亀裂が生まれた。

 凄まじいスピードで飛ばされたワルプルギスの夜は、そのまま小惑星群へと激突し数々の星を割り砕きながら突き進んでいく。

 地球から遠く離れた星々の海まで飛んできた魔女は、再び地球に戻ろうとする。

 

 流星が如き勢いで近づいてゆく青き惑星──地球。それはまるで運命の歯車が回り始めたかのように、再び時が動き出したことを告げているかのようであった。

 だが、運命はまだ終わっていない。

 ワルプルギスの夜は、それを知っている。

 だから、彼女は抗う。

 自分が消える前に。

 自分の目的を果たすために。そして、自分を生み出した存在の為に。

 この世界に生きる全ての命を絶望に陥れようと、彼女の狂気は加速していく。

 

 ワルプルギスの夜は大量の魔力を放ち、地球への落下速度を落としていく。

 それでも止まる気配はなかった。

 魔女は黙ったまま何かを念じ始めると、彼女の身体から紫色のエネルギー波が放出され、それをクッション代わりにすることで減速させる。

 だが、それで完全に止めることは出来ない。このままだと地面に──あの男と邂逅した場所、二木市衝突してしまう。それを分かっている筈なのに、魔女の表情に変化はない。

 むしろ、焦っていた。あのたった二発の打撃によって物理障壁など簡単に破られてしまい蓄積ダメージが相当溜まっているからだ。

 これ以上、攻撃を喰らうのはまずいと察しているようだ。

 

 ズゴォォォオオオッ!!

 

 そして、思考という名の本能を巡らせている内に、二木市の竜ケ崎地区へ激突し市内にある一つの町が凄まじい音と共に消滅した。

 そこには避難していた人が居ただろう、そこには学校があっただろう、そこには娘を探している親の姿があっただろう、だが最早そこには何もない。

 全て無に帰してしまった。

 そう、何もかもが消え去ったのだ。

 思い出も、人も、建物も、自然も、この世界に存在する竜ケ崎が消滅させられた。

 だが、それがどうしたというのか? 魔女にはそんなこと関係なかった。ただ、この世界を破滅に導くことだけが彼女にとっての存在意義なのだから。ゴミが消えたところで何の問題もないのだ。

 しかし、それよりも今はダメージを回復することを優先したいのか、空中にすら浮かぶことが出来ないようで重力に従って地に付いている。

 

『ァ……ァア……』

 

 伝説と呼ばれた怪物は、声にならない息切れを漏らす。

 身体を修復せねば。

 この傷を癒さなければ。あの男を倒す為に。あの男を殺す為に。

 だが、その願いは叶わなかった。

 

「宇宙旅行は愉しかったか?」

 

 不意にかけられたその言葉。その一言だけで、魔女は悟ってしまった。その聞き覚えのある声はずっと前から知っているもの、自分を殴り飛ばしたあの男の声。

 ゆっくりと顔を上げる。そこにいたのは、黄金の光に包まれながらも漆黒の衣を纏う男が空中に浮遊している様子だった。

 

『……』

 

 だが、彼女は答えない。答える余裕がなかった。

 何故なら、今の孫悟空は超サイヤ人3の状態だ。その姿を見た瞬間、彼女が感じたのは恐怖。

 今までの比ではない程に圧倒的な威圧感を放つ目の前の敵を見て、魔女は震えていた。

 

「見るがいい、ワルプルギスの夜よ。絶望をもたらし世界を蹂躙する貴様の力のおかげで俺という存在がより強く輝いた。何故現れたのかは知らぬが感謝するぞ……貴様の憤怒、怨念、憎悪、絶望、それら総てが俺の糧となり更なる高みに昇れたのだからな」

 

 両手を広げまるで自分が中心に世界が回っているかのように男は語る。

 その言葉を聞いた魔女は、怒りを露わにする。

 ふざけるな。私は負けていない。こんな所で終われるわけがない。まだ終わらせたくない。まだ生きたい。まだ死にたくなんかない。まだこの世界の全てを絶望させ、絶望に染まった人間共の魂を食べ尽くしていない。

 だから、まだ諦められない。

 

『アアアアアッ!! 』

 

 雄叫びを上げながら、魔女は孫悟空に向かって極大な業火による魔力の塊を吐き出し作り出す。それはまるで太陽のように熱く燃え盛り、辺り一面を焼き尽くすような威力を持っている。

 

「闘いは終わりだ。世界を穢す魔女に神による黄金の裁きを与えよう」

 

 それに対し彼は、地面に着地し両手を前方に突き出し掌を広げると、凄まじいエネルギーを圧縮した気が解き放たれる。

 そして、それを腰に構えると一気に両腕を振り抜いた。

 

「はあぁああ──っ!!」

 

 ワルプルギスの夜から放たれた業火の炎と極大な光線が己の存在をぶつけるかのように衝突した。

 ぶつかり合う二つの強大な力。

 それは拮抗し、押し合いを始める。

 

 ──最終決戦が、始まった。

 

 

 

 

 

 

 




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