絶望の協奏曲   作:漆黒の人

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ブラック「日間ランキングに入ったのはいいが、はたしてこの作品が世に広まっても良いのか……?」



第十三話 神を冒涜する人間への怒り

 

 

 

 

 

 圧倒的な暴力を前にして、思考が追いつかない。

 自分達が相手をしている存在が、どれだけ規格外な存在であるかを改めて思い知らされた──否、それすらも思考の片隅に追いやられてしまうほどの光景が、眼前に広がっていた。

 

 散らばる残骸。

 宙を舞う塵芥。

 それは無残に砕け散った舞台装置の魔女のなれの果てだった。

 つい先刻まで存在していたはずのものが、一瞬のうちに破壊された。

 それは、この世の終わりを連想させるような出来事。

 いや、それ以上に凄惨な光景だった。魔法少女達は、言葉を失う。魔法少女達にとって、それは悪夢のような現実だった。

 

 神という存在は、魔法少女達の想像を絶する程の力を持つ。

 魔法少女達が今まで戦ってきた魔女や同族とは比べ物にならない程の実力を持つであろう事は、容易に想像できた。

 だが、ここまでだとは思わなかった。

 これが、神の力なのか。

 神の領域へと至ってしまった者の強さ。伝説を一発の拳圧で粉砕した常軌を逸した強さ。

 それを目の当たりにすると同時に、彼女達に恐怖心が生まれた。

 勝てるのか?このままでは、確実に殺される。

 そう思わせる程の脅威。絶望的な状況に、希望は見えない。

 

 あれが、あんなのもがこの世に存在していいはずがない。存在していいわけがない。神を殺せるのは、同じ神だけだろうか。それは結菜達には分からないが、今の魔法少女達には到底無理なのは明白だった。

 それならば、どうすればいい。どうしたらいい。どうやったら倒せる。どうやったら死ぬ。

 ただでさえ変異していない状態でも、総てを蹂躙する程の桁外れの戦闘力を持っている。そんな奴を相手に、どうやって勝つ事が出来る。

 

 勝ち目などある筈がない。今すぐにでも逃げたい。

 だけど、逃げる事が出来ない。出来るはずもない。

 何故なら、目の前にいる黒衣の男から目を離すことが出来ないからだ。

 あの男からは、底知れぬ闇を感じる。

 その闇はどこまでも深く、光など届かないほどに暗い。

 深淵を覗く時、深淵もまたこちらを見ている──その言葉通り、深淵は魔法少女を見つめている。その深みに飲み込まれれば最後、二度と這い上がることは出来ないだろう。

 まるで暗黒空間に囚われたかのような錯覚に陥る。

 

 呼吸をすることすら許されない。

 瞬き一つ許されず、視線を外す事も叶わない。

 それほどまでに黒衣の男の放つ薄紅の闘気は異質で、どこまでも禍々しいものだった。

 そして、同時に理解した。

 自分達は、絶対にこいつには勝てないと。

 それは、本能的に感じ取ったもの。理屈ではなく、ただ直感的に。

 そして、その考えは正しかった。

 仮に黒衣の男が本気で殺しに来た場合、誰一人として生き残ることは不可能だ。

 神を敵に回すということは、そういうことなのだ。

 故にこの場にいる全員が死という文字を連想してしまった事は道理でもあった。

 

「はて、お前達の神頼みならぬ魔女頼みは終わったようだが……どうするのかね?俺を殺すのではないのか?」

 

「……」

 

「何だ、俺の美しさに魅入られてしまったか。或いは、神を畏れ敬うあまり、声を出すことも出来なくなってしまったか。否……どちらでも無いな。その表情を見る限り、もうどうにもならないと悟っているのだろう」

 

 孫悟空(ザマス)の問い掛けに対して、誰も答えることが出来なかった。

 何故なら、答えようがないからだ。この状況で、何かしら言葉を発せられるとしたら、余程の度胸があるか馬鹿のどちらかである。

 

 ああ、だからこそ彼の言葉は、図星だった。

 誰もが、心のどこかで思っていた。

 これは夢であって欲しいと。悪い冗談であり、悪夢であると。

 しかし、悪夢が覚める事はない。

 現実は非情。残酷なものだ。

 どんなに願っても、祈っても、祈りが聞き届けられる事は無い。

 だから、彼女達は気づいていた。

 この状況が絶望的であることを──そんな言葉で比較するのは烏滸がましい程に絶望的であるということを。

 

 樹里は理解した。今自分が相対しているのは、自分の手に負えるような相手では無いと。

 樹里は自分の力に自信を持っていた。

 他の魔法少女達と比べても劣らない強さだと自負していた。

 しかし、そんな自惚れはすぐに打ち砕かれた。

 眼前に立ち塞がる、突如として現れた漆黒を纏った謎の男によって。

 強弱の次元で計れるような存在では無いのだと。それこそ、天災とでも言うべき存在だ。いや、それ以上かもしれない。

 自然災害ですらも、彼の前には霞んでしまう凄みがあった。

 

 結菜は悟ってしまった。この男を倒すことは、例え如何なる存在であっても不可能だという事を。

 この男だけは別格だ。キュゥベぇとは比べ物にならないくらいにおぞましいナニカであると。

 そんな奴に勝つ方法なんてあるのだろうか。

 少なくとも、自分には思いつかない。

 そもそも、今の黒衣の男に──あの薄紅の闘気に勝負という概念が存在するのかどうかすら疑わしいのだ。

 

 アオは屈していた。まず最初に、黒衣の男から放つ鬼気に圧倒されたのが彼女だ。

 そして、その次に抱いた感情は恐怖だ。

 怖い。恐ろしい。逃げたい。

 ゲームで例えるならば、レベル1の勇者が魔王の前に立った瞬間、圧倒的な力量差を感じ取り戦意を喪失してしまうようなものだ。

 そして、戦おうという気概も湧かない。

 戦って勝てるビジョンが全く見えない。

 もし戦えば、間違いなく死ぬ。

 そう確信させるだけの力が、黄金の姿であった時の男ですら持っていなかった威厳や覇気が、今の男の全身からは滲み出ていた。

 

 ひかるは察してしまった。目の前の男に抗うことは愚か、抵抗することさえ無意味なのだと。

 それは、本能的に感じ取ったからなのかは分からない。

 理屈がどうのとか、そういう問題じゃない。

 単純に、無理なんだ。

 だって、人間には限界がある。

 どれだけ頑張っても、人間の身体能力には限界があるんだ。

 それを遥かに超えた存在であるこいつに、人間が勝とうだなんて、土台無理な話だ。

 この男は、そういう領域に居る。魔法少女として、戦いに身を投じてきた自分達では絶対に太刀打ち出来ない、まさに超越者と呼べる存在。まさに、神の化身だと。

 

 他の魔法少女達も、似たような心境であろう。

 誰一人として、動けない。

 まるで、蛇に睨まれた蛙だ。

 蛇に睨まれれば、蛇に殺されるまで身動きが取れなくなる。

 だが、魔法少女は蛇ではなく、ましてや神でもない。ただの人間だ。

 ただの人間が、ワルプルギスをも凌駕するような強大な力を前にして、抗えるはずがなかった。

 

「────」

 

 誰も、何も言えない。

 だが、それも当然の反応だ。

 こんな状況で、何か言葉を発する方がおかしい。

 そんな沈黙が続く中、男が口を開いた。

 

「人間、諦めが肝心と言う言葉があったな。お前達は今その言葉の真髄を理解しただろう。自ら心は折れぬと豪語していても、身体の方は正直だ。お前達の瞳の奥には、既に絶望の色が浮かんでいるぞ。まあ、俺に言わせれば、お前達のその表情は悪くないと思えるがね」

 

「…………」

 

「ふっ……喋ることもままならないか。ではそろそろ終わらせてやろう。これ以上この場に留まっていても時間の無駄、すなわち世界の損失だ。俺は一刻も早く、美しい理想郷を創造せねばならんのでな。助けを乞いたければ精々キュゥベえにでも祈っておけ。ああ、そう言えば魔法少女は既に願いを消費済みな存在だったな。これは失敬」

 

 孫悟空の指先から神気が集まっていく。薄紅の輝きを放つ粒子が、一つの光弾となっていく。それを見た魔法少女達が一斉に息を飲む音が聞こえてくる。

 誰もが、黒衣の男がこれから何をしようとしているのか理解した。

 あの光弾が炸裂すれば、自分達はこの世から跡形もなく消え去るだろうと。

 範囲を絞らずに放たれたら、太陽系は軽く消し飛ぶ威力はあるかもしれない。

 これより死にゆく者達への手向けとしては、あまりにも大きすぎる一撃。それが今、無慈悲にも解き放たれようとしている。

 まるで、蜂の巣に機関銃を乱射するかのようにあまりにも過剰な攻撃。神に抗おうとした、愚かな魔法少女達に対する報いだというのだろうか。いや、そもそもの話、この男にとって魔法少女など虫ケラ程度にしか思っていないのだろう。

 それこそ、羽音を立てて飛び回る煩わしい存在だと。

 だから殺すのだ。だから消そうとするのだ。

 そう、全ては美しく彩られた世界のために。

 

「神に抗う罪人が、塵芥の如く散り逝くがいい」

 

 魔法少女達に死をもたらす、破滅の光が撃ち出されようとしている。

 

「──────────」

 

 事ここに至って尚、彼女達は無言を貫く。

 もっと細かく伝えるのならば、結菜がみんなに逃げろとも言わず、黒衣の男の前に彼女達を庇うように立つ。

 

 それは────もう、何もしても意味が無いと悟っているから。

 せめてもの足掻きとして、最後まで形だけでも彼女達を守ろうとしているのだ。

 その瞬間──

 

 

『まあまあ、その辺にしようよ。そんなんじゃあ、魔法少女さん達が怖がっちゃってるじゃない』

 

 少女の声が響いた。

 それは、死の間際に発せられる悲痛な絶叫では無く、 とても澄んだ綺麗な声で紡がれた言葉。

 張り付いたこの場に相応しくない、あまりに緊張感の無い声色。

 孫悟空は背後に振り返ると、そこに居たのは本来ならば実体化することが出来ない筈の瀬奈みことの姿。

 だが、その姿は鏡に映った自分の姿のように、半分透けている。

 そんなみことの姿を見ると、彼は目を細めながら問いかけた。

 そして、その口調はとても不機嫌そうであった。

 

「何だ、霊体化が出来たのか。鏡の魔女よ」

 

『うん! ほら、見てよ見てよ!帆奈ちゃんに居た頃の私みたいに何故か幽霊離脱のように出来ちゃったんだよ!他の魔法少女だったら出来なかったんだけど何でだろう?くろちゃ……さんが特別だからなのかな?』

 

 みことはクルリとその場で回って見せると、楽しそうな笑みを浮かべていた。

 一方、そんなみことを鬱陶しいと思いながらも、黒衣の男は一応会話に応じる。

 

「それで、一体何故止めたのだ?お前とてこいつらの存在も抹殺対象であることに変わりは無いはずだ。それに、こいつらをさっさと始末して手始めにキュゥベえを探さねばならん」

 

『えー、だってせっかくここまで頑張ってきたのに、ここで殺しちゃうなんて勿体ないじゃん。ねえねえ、あなた達はどう思うかな?』

 

 孫悟空の言葉を返し、みことは横に振り向く。そして彼女が話しかけた相手は、この場にいる魔法少女達全員だ。

 みことから突然話を振られ、魔法少女達は戸惑ってしまう。

 

「なんなの────一体貴女はぁ……?」

 

 結菜は震えながらもやっとの想いで言葉を絞り出した。その表情には、恐怖と困惑が入り混じっている。

 そんな結菜を見て、みことは嬉しそうに口を開く。

 

『あはっ♪その表情すっごく良いね〜。よし!その表情に免じて自己紹介をしちゃおっか。私の名前は瀬奈みこと。趣味は読書と音楽鑑賞で、好きな食べ物は甘い物全般だよ!』

 

 友達との雑談を楽しむかのように、明るい調子で語るみこと。

 それが余計に恐ろしかった。まるで、生きていてはいけないモノと対峙しているような感覚。孫悟空とはまた違った異質さを感じる。黒衣の男が神の力を解き放った神ならば、この人は魔の力を得た魔女だ。

 魔法少女達は直感的にそう思った。

 

「どうして……どうしてこんな酷いことが出来るっすか?!町をめちゃくちゃにして、人を殺して!」

 

 ひかるは声を荒げる。

 それは怒りの感情を剥き出しにした叫びだった。人間ゼロ計画と称し、数え切れないほどの人達の命を奪ってきた孫悟空に対しての怒り。そして、それの協力者らしき鏡の魔女に対しても。

 

『まあまあ、慌てない慌てない。そうせっかちにならないでよ。ちゃんと説明してあげるからさ』

 

 そんな彼女の気持ちを知ってかしらずか、みことは余裕の態度を崩さない。

 

『そうだね~、どこから話そうか……と言っても長くなり過ぎるから、要点だけ言うと、私はこの私を生み落とした憎い町を世界を消してしまいたいそのために生きたい。だから、黒さんに協力してるって感じかな?』

 

「憎いって……そんな理由で関係ない人達を虐殺したって言うんすか!?そんなの、許される訳がないじゃないっすか!あんたがした事はただの大量殺人じゃないっすか!!」

 

 ひかるは思わず声を上げてしまう。

 自分を生み出した故郷や世界に対する恨み。

 それがあるということは理解出来る。

 しかし、だからといって無関係な人々を殺めていい理由にはならない。

 それこそ、自分達がしてきたことと変わらないではないか。そんな思いから、つい語気を強めてしまったのだ。

 しかし、みことは特に気にする様子もなく答える。

 

『あはは、別に良いんじゃない?大量殺戮者になろうが何だろうがさ。そもそも、黒さんがやったことは間違ってるって言い切れる?黒さんがやってることは確かに世間一般?から見れば悪い事かもしれないけど、それは黒ちゃんに限ったことじゃないでしょ?

 ほら、あなた達も似たようなことをやってきたじゃない。例えば魔女のテリトリーを巡った争いとか、元々人だった魔女を無慈悲に殺したりとか、そういうこと全部ひっくるめたら同じ穴のムジナっていうかさ?』

 

「そ、それは……」

 

 みことに反論を突きつけられ、言葉に詰まるひかる。

 歪ながらもその通りだと思ったからだ。

 自分達は今まで魔女やキュゥベえと呼ばれる生き物達の命を奪い続けてきた。

 それが、魔法少女という存在の宿命なのだと言い聞かせながら。

 二度と同じ過ちを繰り返すまいと誓いながら。

 

「相互理解など必要無かろう、みことよ。それにこれ以上続けても平行線なのは目に見えている。故に徒労なのだよ」

 

 孫悟空が会話に割って入る。人間の罪深さと人間ゼロ計画を遂行する上での必要性について、いつまでも議論していても意味が無いと判断したようだ。

 それに、同じ穴のムジナと言う言葉には、少々腹を立てたらしい。我が正義を理解していないようだな。とでも言わんばかりに、不機嫌な表情を浮かべていた。

 

『えぇー、これからが良いところなのにぃー』

 

 不満げに頬を膨らませるみこと。

 

「こいつらを殺してさっさとキュゥベえとやらの在処を探さねばならん。それに、お前のその態度もどうにかしろ。目障りだ」

 

 孫悟空はみことを睨みつける。

 

『えへへ、ごめんね。なんか楽しくてさ♪じゃ、本題に入ろうか。まず最初に言っておくことがあるんだけど、黒さん的には人間ゼロ計画を実行する前にキュゥベえを探すんだよね?』

 

『ああ、そうだ。願いを叶える存在は厄介極まりないからな。先に潰しておく必要がある』

 

『うんうん、それでね。そのキュゥベえを探すよりも大事な問題があると言ったら……どうする?』

 

「……どういうことだ?」

 

 予想外のみことの言葉に、黒衣の男は不愉快そうな顔になる。

 

『ふっふっふ、それはね……黒さん、まずはマギウスの翼という組織の存在は知っている?』

 

「マギウス……?」

 

 彼は眉間にシワを寄せた。人間共の集団など興味は無いし、何人群がろうが相手ではないと思っている。もっともこの世界にやってきたばかりだからそんな組織を知る由もないのだが。

 

 物事には優先順位というものが存在する。

 例えば人間ゼロ計画を実行に移す前であれば、願いの力によって邪魔をするであろうキュゥベえを優先的に排除し、更に妨害してきた宇宙の意思を根絶やしにするといった具合だ。

 だが、今はまだそれらよりも優先すべき事項があると言わんばかりにみことが口を開く。

 

『そう、マギウスの翼。その組織は、魔法少女達の救済──魔女になることを防ぐことを目的としているの。そして、その組織の長の名前はアリナグレイ、里見灯花、そして柊ねむ』

 

「……それがどうかしたのか?お前の話の意図が掴めぬぞ」

 

 孫悟空は怪しげなものを見るかのような視線を向ける。

 

『問題なのはね、その3人が自分の欲望のために動いているということなんだ。つまり、地球や宇宙そのものを自己満足の玩具にしようとしてるんだよ。詳しくは今から渡す記録を見て欲しいかな』

 

 そう言うと、みことは彼の脳にテレパシーのようなもので映像を送信した。

 

「これは……」

 

 まず映ったのは、巨大なホテルのようなもの。

 シャッターが切り替わるように場面が変わると、今度はそのホテルの中にいる黒いフードを被っている少女達の姿。数は数百……下手をすれば数千は超えているかもしれない。

 それらは集会場らしき場所に集まった後、きれいに整列をし始めた。まるで、何かの演説を待っているかのように。

 

 そしてステージに1人の人物が姿を現す。

 背丈や体つきからして恐らく幼い少女だろう。

 髪は薄茶色、頭に大きなリボンを付けていて、赤と黒を基調とした服装はどこかのお嬢様のような雰囲気を感じさせる。

 彼女こそ里見灯花、マギウスの翼を仕切る人物だ。

 彼女は日傘を手に取ると、集まった魔法少女達に語りかけた。

 それは、彼女が行っている活動内容の説明であった。

 要約するとこうである。

 ・魔法少女はいずれ魔女となる運命を背負っていること。

 ・魔法少女はソウルジェムが濁りきると、グリーフシードに変化してしまうこと。

 ・それを防ぐためには、ドッペルシステムと呼ばれる手段を取ること。

 ・魔女を倒せない弱い魔法少女のために、訓練場を用意していること。

 ・魔法少女は一般人よりも上に立っている存在であり、その存在を知らしめ、魔法少女が世界の頂点となり人間を支配すること。

 等々。

 

 これらのことを踏まえた上で、自分が正しいと思うことをするべきだと語る。

 話を聞いていくうちに、黒いフードを被っている魔法少女達は納得したような表情を浮かべていく。

 一見孫悟空にとってはどうでもいい話のように思える。人間ゼロ計画を遂行する自分にとって一個人の魔法少女など、アリを踏みつぶす蟻――憐れな同族の殺し合い──くらいにしか思っていないからだろう。

 

 だがしかし、どうしても聞き逃せない言葉があった。

 

「魔法少女は世界の頂点に立たねばならない存在……ッ?!禁忌と定めた魔法を使い、あまつさえ己が支配しなければならぬだと……?!

 キュゥベえから与えられた力を、自らの力と履き違え、思い上がりも甚だしい!まして、世界を支配するなど言語道断。神罰に値するぞ人間が!」

 

 薄紅の神の怒りが爆発した。それに共鳴するかのように薄紅の神気がガスバーナーのように激しく燃え盛るように煌めいている。神から与えられし知恵を我が物顔で語る愚か者。それが魔法少女だと彼は認識している。

 人間が──魔法少女が──神によって授かりし物を私利私欲の為に使い、よりによって神が禁じた魔法を行使して、世界の頂点に立つなど許されざる行為だ。

 思い上がるなよ小娘、神を冒涜し続ける貴様のその顔に真の絶望をくれてやろう。

 

 魔法少女至上主義。

 それは、世間一般に魔法少女の存在を知らしめ世界の頂点に立たせることを目的としたもの。

 それは即ち、人間を支配させることを意味する。

 その根底にあるものは、ただ純粋に、キュゥベえに代わって人間を支配したいという歪んだ願望。彼からすれば世界を汚している人間を、更に魔法少女が文明を発展させてより汚染するという構図に見える。

 故に、孫悟空の逆鱗に触れたのは道理だった。

 

 己こそが絶対的な神であるという思想を持っている彼にとって、そのような行為は断じて認める訳にはいかない。

 それに、仮に魔法少女達が人間を支配下に置いたとしても、結局はキュゥベえと同じ存在になるだけではないか。

 いずれにせよ、彼の心の奥底に眠る怒りの感情を呼び覚ますには十分だったようだ。マギウスの翼を放っておけばその間に跳梁跋扈する魔法少女が増えるだけだ。

 マギウスの翼か……まったく面白くないな!

 ならばよし、マギウスの翼を先に潰すとしよう。キュゥベえの前に断罪を下す。それがこの世に君臨する神たる者の務めだ。

 その結論に至った孫悟空は、みことから受け取った記録映像を閉じると、みことに視線を向けた。

 

「おいみこと、マギウスの翼という組織はどこに存在している?」

 

『えーとね、神浜市ってところだよ。あと、今言った3人はそこにいる』

 

「……そいつらは其処にいるか」

 

 みことが言い終わると同時に孫悟空は笑った。

 マギウスの翼の組織を教えた理由は分からない。だが、愚か者の存在を知ってたからには行動に移さねばならないのが孫悟空という黒衣の男だからだろう。

 

「フフフ、クククハハハハ!!そうかそうか。なるほど、そう言う事なら話は早い。早速向かうとするとしよう」

 

 そう呟くと、彼はすぐに指先に集めていた神気を霧散させた。

 それと同時に薄紅に逆立つ髪の色も元に戻り黒髪へと戻る。彼の身体から放たれていた禍々しいオーラが消えた。

 超サイヤ人ロゼから通常の状態に戻ったのだ。

 

「紅晴結菜共は感謝するがいい。神の慈悲に救われたことをな……お前の仲間も、いずれは絶望し魔女となるだろう。その時が楽しみだ」

 

 魔法少女達に背を向けながらそう吐き捨てると、黒衣の男はその場を去った。みことは出番が終わった役者のように幻のごとく露のように消える。孫悟空はとてつもない速度で飛び去ったため、姿はすぐに見えなくなった。

 そして残された結菜は悔しさに打ちひしがれていた。

 

「見逃がされたわけぇ……違うこれは」

 

 見逃がされたのではない。あの時、総ての人間を滅ぼす程の桁違いの殺意を感じた。確実に殺すつもりだったはずだ。

 なのに殺さなかったのは、つまりはいつでも殺せる余裕があるということだ。

 放っておいても構わないとでも思われているのだろうか。

 

 ああ、それですらない。

 最後の言葉はまるで、魔女に堕ちるのを心待ちにしているようでもあった。

 つまりは直接手を下さずに、自分等の仲間であるはずの魔法少女達に始末させるつもりなのだ。

 魔女化すれば、必ずソウルジェムはグリーフシードに変わる。

 そして、それを回収できるのは魔法少女達だけだ。

 そうなれば、すなわち魔女は魔法少女の手によって殺されることになる。

 魔女になった瞬間、その魔法少女は死ぬ。勝手に殺し合い、勝手に死ねばいい。

 男が殺さずとも必然的に人間ゼロ計画が進むことになるのだ。

 

 それは、屈辱以外の何者でもなかった。

 

「ぅぅ……ぁぁ……ああああああっ!!!!!」

 

 結菜の叫び声が荒廃した戦場に虚しく響いていた。復讐を果たせなかった後悔が彼女の心を強く締め付ける。

 涙を浮かべる瞳に映るは、かつて仲間と友人と共に過ごした日々の記憶。

 もう戻らない幸せな時間。

 神と自称する男に、突如として全てを奪われた。

 町を蹂躙し、大切な人々を殺し、何もかもを破壊の限りを尽くすがごとく壊していった。

 身も心も鬼となってもなお結菜はもう、子供のように泣きじゃくることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




Q.なんで二木市を襲撃したのですか?

A.マギウスのツケのせいでいろはが恨まれるのは良くないかなと思って初手で襲撃させました。
 やったね。これで魔法少女の断末魔に苛まられなくて良かったよ結菜さん!


 次回『神浜で謳う死の宴』

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