神浜市工匠区。
そこには、多くの人々が行き交っていた。
神浜市全体の人口は約三百万人を越すと言われており、高速道路や地下鉄などの交通網が完備されている。まさに新興都市という名に相応しい都市だろう。
そしてその日の神浜は、少し変わった日常が訪れていた。
世界各国で発生していた謎の自然現象が一斉に収まり、各地で被害報告が相次ぐ中、原因不明とされていたこの現象が突如として終息したとニュースで報道されていた。
例えばそれは、雨や雷、雪といった気象の変化。
例えばそれは、地震や津波、台風や竜巻などといった自然災害。
その他にも、世界中で様々な異常事態が発生していたが、その中で特に謎を呼んでいたものが、世界各地で同時に観測されたほんの僅かな揺れ程度の地震の発生だった。震度で表すなら三程度のそれだろう。
その謎は日本だけでなく、アメリカやロシア、中国、フランス、ドイツ、イギリス、インド、ブラジル、メキシコ、韓国、南アフリカなどなど、上げるだけでもキリがない程の国と地域──下手をすれば地球そのものが揺れたのではないかという程の規模だったらしい。
しかしそれも、つい先程まで揺れ、そして収まったもの。
気象庁の発表によると、今回の一連の災害は、世界規模で観測される大地震の前触れではないかと推測されており、今後も余震に注意して欲しいとのことだった。
「ねぇ、知ってる?最近噂になってる都市伝説なんだけどさー」
「なになに?」
「なんかね、この辺の路地裏に、変な化け物が出るんだって!」
「えー!怖いね……でも、なんでそんなのがこの辺りに出るの?」
「さぁ……私も友達から聞いただけだから分かんないけど……」
「まぁ、とにかく気をつけなきゃだよね」
それでもなお代わり映えの無い日常の中で、少女たちは今日も他愛のない会話をしていた。
通常ならば学校で授業を受けている時間帯だが、彼女たちが通っている学校では、地球規模で観測された地震により臨時休校となっていたのだ。
同じ学年の中の良い女子二人組は、並んで歩きながら談笑している。不良のように品行が悪い訳ではなく、ただ単にハメを外して遊びたい年頃なのだ。
休校になり暇を持て余していたため、2人はこうして街中をぶらついているのだ。
とはいえ休校になった理由を考えてみれば、その行動は些か軽率と言えるかもしれない。日本人にとっての僅かな揺れが収まったいえど、災害であることには変わりはないのだ。
いつ、大きい規模の地震が来るか分からない。
それに、もし地震によって倒壊する建物に巻き込まれてしまえば命の危険もあるだろう。
それでも彼女たちが普段と変わらずにいられるのは、きっと今朝のニュースを見て安心しきっているからだろう。自分等が住んでいる場所は安全だと。危機感がないとはこういうことだろうか。
だから、今朝方報道された、世界各地で起きた不可解な現象の原因が、実は神と伝説の魔女による戦闘の余波だと知らない。知る由もない。
仮に知っていたとしても、彼女達は信じなかっただろう。それこそ正気を疑われるような話だ。神や魔女なんて、アニメの世界にしか存在しない空想上の生物、概念なのだ。
おとぎ話や絵本の中にしかいない、架空の存在。だからこそ二人の少女は、何事も無かったかのように街へと繰り出す。
何の変哲も無い日常を享受するために。
平和な日常を当たり前に過ごすために。
それはまるで、何も知らずに餌を啄む鳥のように、無知故に幸福に生きてきた幼子のように。
そして、ふとした瞬間に話題に上がったのが、最近巷を騒がせている"ある都市伝説"についてだ。
なんでも、その都市伝説は、ここら一帯の路地裏で頻繁に目撃されているらしく、その都市伝説に遭遇した者は、その者にとって最も恐ろしい出来事に見舞われるというものだ。
それが何なのかは、実際に遭遇しなければ分からないらしいが、どうやらその噂は相当広まってしまっているようだ。
だが、不可解なのはいつの間に広まったのか、ということだった。
噂というのは、大抵の場合はSNSやネット掲示板などで拡散されていき、やがては現実でも周知の事実となるものだが、それを考えると、どこか違和感がある。まるで、誰かに意図的に広められたかのような……ウワサというものは、そもそも出所不明なものでもあるのだが、それを踏まえても妙な感じがある。
しかし、それは所詮は噂に過ぎない。
そもそも、本当に実在するかも定かではない。
そんな都市伝説に怯えるような歳ではないし、そもそも噂を鵜呑みにする程馬鹿でもない。人々が行き交う街並みで、少女たちは今日も変わらない日常を過ごしていく。
この光景も、明日になっても変わらずに続いていると信じて疑わない。今日も明日も、平和がずっと続いていくものだと。
「ねぇねぇ、ちょっとお金貸してくれないかなー?」
「あ、あたしもー」
唐突に、背後から声をかけられなければ。
振り向くと、そこには数人の不良らしき風貌をした少女たちがいた。
制服のリボンの色を見る限り、彼女たちは1年生だろうか。
金髪や茶髪、赤や青といった派手な色の髪をした少女たちで、見るだけで不快感を覚えてしまう。
彼女たちはニヤついた表情を浮かべながら、こちらを見つめていた。
「えっと……なんですか……?」
戸惑いながらも、そう聞き返す。
すると、リーダー格と思われる少女が口を開いた。
「いやさぁ、あんた達東側って金持ってそうだし、ちょこっと一緒に遊ぼうよ〜。大丈夫だって!別にカツアゲとかじゃないからさぁ〜」
「そーだよ!それに、私たち結構優しいしさぁ!」
「まーまー、とりあえず財布出せよ!」
「ほら!早く!」
「あっ!ちょ、ちょっと……!」
「やめて下さい!」
人々で賑わう大通りで、不良のような風貌の少女4人がかりで絡まれてしまった。
誰も助けようとしないのは、恐らく関わりたくないのだろう。
無理もない。誰だって面倒事に巻き込まれるのは嫌だ。
「さっさと出せって言ってんだよッ!!これだから東の人ってのは気が利かないねぇ!!」
「……」
「おい、なんか言えってんだろ!?」
少女の一人が怒鳴りつけるように叫ぶ。それでもなお、少女たちは黙ったままだ。
神浜には西東と格差が存在する。
東西に分かれている区域で、西側の人間は、東側の人間に対して強い嫌悪感を抱いているのだ。それは、差別意識にも似た感情であり、西側に住む人々は、東側に住む人々を、"野蛮な奴ら"、"汚らしい"、などと罵っている。
そして、その考えは、未だに根強く残っているのだ。
特に、今目の前にいる不良たちにとっては、その思想は顕著である。
だからこそ、不良たちはこうして、自分たちよりも弱そうな女子生徒に絡んでいるのだ。
しかも、東側にわざわざ出向いてまで。
不良たちの言い分としては、弱い者いじめをしたいという気持ちもあるだろうが、一番の理由は、東側への嫌がらせだろう。カツアゲという名の暴力を。
こうして、西側の人間が東側を訪れることで、東側の人間の劣等感を刺激し、優越感に浸ることで快感を得ているのだろう。
そんなことは、彼女たちも分かっていた。
だが、それでも彼女たちは抵抗しなかった。
彼女たちは、平和主義者だ。争いごとを好まない。だから、相手が暴力を振るってきたとしても、やり返そうとは思わなかった。
たとえそれが、理不尽な理由であっても。
だからこそ、今こうして大人しくしている。
だが、嫌なものは嫌だ。どうして昔から、こんな風に扱われなければならないのか。神浜市に根強く残る差別的な風習に、少女達は不満を抱いていた。
しかし、それを口にしたところで意味はないと知っている。
いくら訴えても、改善されることはないと。
それどころか、余計に悪化してしまう可能性すらあると。過去から現在に至るまで、伝聞によって歪められてきた価値観が、簡単に覆るはずがない。
どうしてこんなところで産まれて育ってしまったのだろうと、何度も後悔してきた。
そして、その度に思う。
もし、違う土地に生まれていれば、自分はもっと違った人生を歩んでいたのかもしれない、と。
だが、その願いが叶うことは無い。
彼女たちは、この神浜市で生きていくしかない。
その運命からは、逃れられない。まるで筋書き通りに進む物語のように。最初から運命は決まっていたかのように。
結局のところ、この世界は残酷なのだ。
どんなに願っても、努力しても、決して報われることは無く、必ず絶望へと突き落とされる。
その証に通り行く人々も、見て見ぬふりをしている。きっと、自分に降りかかる火の粉を払いたく無いだけなのだろうか。同じく東側と罵倒、差別を受けたくないだろうか。
それが、彼女たちの日常なのだから。
でも、やっぱり嫌だ。我慢できない。
故に、少女たちはこう思うのは必然だった。
──お願いします。神様……どうか、私たちを助けてください。
神頼みなんて無意味だと理解しながらも、そう思わずにはいられなかった。
そもそもこの世界に神様が居るとして、いったい誰が救ってくれるというのか。そんなものは存在しないと、心の底では気づいているのに。
ご都合主義の白馬に乗っている王子様など居ないのだから。
「さっさとしろって言ってんだよッ!!!東のクズどもがッ!!」
「早くしなさいよ!」
「うぜぇんだよ!早く金出せっつってんの!!」
「ほら!さっさと出しなよ!」
リーダー格の少女が怒鳴り声を上げるとそれに合わせるよう不良たちも、一斉に声を上げる。
不良たちが、いよいよ実力行使に出ようとしたその時。
「これが神浜か」
天界から下界を伝わるように地上に響く声。それは、声色からして男性のもの。
ふと見上げると、そこには一人の男性が空に浮いていた。
黒い道着に身を包んだ、男性だ。服も髪も黒一色と、全体的に暗い印象を受ける。
顔立ちも整っており、色気すら感じるほどだが、それとは対照的に男から放たれる気配は異質そのもの。殺気に満ち溢れた威圧感を放ちながら、彼は地上を見下ろしていた。
不良たちは、突如現れた謎の人物を呆然とした表情を浮かべながら空を見上げている。
だが、それも当然の反応だ。
何せ、空を飛んでいるのだから。人智を超越した光景を前にすれば、誰だって驚く。東の人を散々馬鹿にして己の快楽を満たそうとする考えは吹き飛び、恐怖が支配していく。
しかし、少女達だけは助かったと安堵していた。
なぜなら、彼の放つオーラは圧倒的であり、自分たちを守ってくれると確信できたからだ。
少女達の目には希望が宿っていた。
それは、救いを求めるような眼差しではない。
自分たちのことを守ってくれそうなヒーローを見る目つきだ。
だがそれも後に起こる出来事で後悔することになるとは、この時の少女たちはまだ知る由もなかった。周囲にいる人々も例外なく、突然現れた彼に注目している。
「空に人が飛んでないか……?」
「なんなんだあの男は……」
「なんかヤバそうな感じする……」
「地震といい、なんか変なことが起きてるよね……」
誰もがざわめき始めており、驚きの声を上げているが、誰もその場を動こうとしない。
おそらく、何かしらアクションを起こせば、その隙に絡まれてしまうのではないかと危惧しているのだろう。
西側の不良達が少女にカツアゲをする現場を無視したとは思えぬ態度である。
だが、それでもなお、人々は好奇心を抑えきれずにいた。
まずスマホで写真を撮ろうとする者が現れる。そして、SNSに投稿しようとする者が現れ始めた。中には動画撮影を始める者も現れ始める。だが、それでもなお人々は動くことは無い。むしろ、先程よりも興味津々といった様子を見せている。
まるで、ショータイムが始まるのを待つ観客のように。群衆は徐々に膨れ上がっていく。非常識な存在を目の当たりにして、未知への興奮を抑えることができないのだ。
そして宙に浮く黒衣の男は、天の啓示を告げる。
「聞こえるか無知無謀なる人間共よ、マギウスの翼に属する愚行な者よ。我が名は孫悟空。これより神の裁きを執行する故に貴様等人間共に神罰を下す!」
それはみんなに向けられた憤怒と殺意の宣誓だった。
孫悟空と名乗る男の全身から、圧倒的なまでの殺気が放出される。
マギウスの翼?神の裁き?神罰を下す?黒衣の男が口にした言葉の意味が分からず、この場に居るみんなは困惑している。
「這いずり回ることすらも許されざる愚物共よ。その命をもって絶望と恐怖を知るが良い」
理解不能な宣言に、辺りは騒然となり、みんなはついに混乱し始めていた。
いじめられっ子の女の子も、リーダー格の少女も、不良たちも、周りの人々と同じように、ただただ唖然とすることしかできなかった。
瞬間──
「死の宴の始まりだ」
孫悟空と名乗る男の指先から光が生成され、空から無数の光弾が降り注ぐ。
それはまるで流星群のように美しく煌めいていたが、一つたりとも外れることなく、全て不良たちへと直撃した。
悲鳴を上げる間もなく、不良たちは瞬く間に肉塊へと変わっていく。まず目障りな愚者共が始末された。
一瞬にして地獄絵図へと変わった光景に、周囲は阿鼻叫喚の渦に呑み込まれていく。
「あ……ああ……!」
「ば、化け物だ……!」
「きゃー!」
「おい!逃げるぞ!!」
「こっちに来るな!」
「助けてくれぇ!!」
「うわわわわわ!!」
「何だよこれ!」
「どうなってんだよ!」
「警察を呼べ!」
「誰か!救急車!救急───」
目の前に広がる惨劇を前にして、自分達の身に降りかかっている危機を実感した人々はパニックに陥る。人間達は口々に叫びながら、蜘蛛の子を散らすように逃げ出す。いつも通りの日常から瞬時にして混沌と化してしまった。
人々が我先にと自分第一に逃げ出そうとするが無論黒衣の男は容赦無く次なる攻撃を放つ。今度は空中で半身を構え、両手を右腰に構える。すると、両手には眩い光が収束し始めたが、それはどこか禍々しい闇色をしていた。
そして両手の掌から闇の極大な光線を放つ。
それは不良たちを消し飛ばしたものと似て非なるものだったが、威力は桁違いだ。
地面を削り取りながら、凄まじい勢いで直進していく。
やがて、数秒もしないうちに前方にあった建物が木っ端微塵になる。崩壊する建物が瓦礫の雪崩と化すと、人々は押し潰されていった。
破壊と殺戮を撒き散らす男、孫悟空。
彼の行動を止める者は誰一人として居なかった。
誰もが己の命を守ることに必死なのだ。自身が助かりたいとお互いがお互いを押し合いながら逃げ惑っている。
だが、そんな彼らも例外なく、次々と死んでいった。
ある者は建物に押しつぶされて圧死。また、ある者は瓦礫に足を挟まれて出血多量で死亡。また、ある者は落下してきた鉄骨が頭部に突き刺さって即死。他にも様々な要因によって、彼らは死に絶えていった。
まだ終わらない。今度は放たれている巨大なエネルギー波を、方向を変えながら地面を大きく削り、人々を蹂躙していく。まるで絨毯爆撃だ。
その威力は留まることを知らず、孫悟空は地上にいる人間を次々と抹殺していく。
凄まじい破壊力を誇る光線を喰らった人々は跡形もなく消し飛んでいった。
神浜で謳う死の宴。
悲鳴、血渋き、断末魔、苦痛に悶える声など、あらゆる負の感情が溢れ出す。地獄の黙示録を彷彿させる惨劇が絶望と恐怖が交ざり、ある種の交響曲を奏でていた。そのオーケストラを背景音楽にしながら、孫悟空はただただ殺戮を繰り返す。
どの世界、どの宇宙にも存在してはいけない存在。人々からすれば孫悟空は神と称する悪魔。
人間が其処に居る限り、彼の暴力は決して止まることはない。
人間ゼロ計画。
彼はこの世に蔓延る全ての人間の殲滅を目標としている。彼が行う行為は正義。宇宙を汚す輩に制裁を与える行為。
神が行えば正義となり人が行えば悪となる。
それが
光線を放ち続ける孫悟空は、もはや狂気そのもの。否、狂気すら比喩するのが烏滸がましい次元なのかもしれない。
神の力を証明するように暴れまわり、道端に落ちている石ころを蹴飛ばすように、ただひたすらに人間を虐殺する。
それでもなお、人は諦めようとしない。迫りくる脅威から逃げ延びようとする。
中には勇敢に立ち向かう愚か者も居たが、黒衣の男が指先から放つ光弾に貫かれて、あっけなく絶命した。
無謀にも立ち向かった者達は、無残な屍と成り果てる。
それでも人々は希望を捨てずに生きようとした。
しかし、それすらも許さないと言わんばかりに、光弾は雨のように降り注ぐ。
光弾はビルを貫き、道路を粉砕し、人々を肉塊へと変えていく。
されど小賢しい人間はしぶとく生き残ろうとしていた。あらゆる手段を用いて、この場から脱出しようと試みる。
例えば、自動車に乗って走行したり、地下に潜ったり、死体を盾にしたり、とにかく少しでも生き延びるために行動する。
故に、孫悟空は最後のトドメを刺すべく、フィナーレに移る。一人残らず滅ぼすつもりだろう。
右手を天に掲げると同時に、掌から膨大な気を放出する。
放出された気は球体状へと変化していき、やがて直径5メートル程の光弾となった。光弾の大きさが最大まで膨張した時を見計らい、孫悟空はそれを一気に地上へと落下させた。
刹那、大地が大きく揺れ動く。
黒衣の男が放った光弾は、隕石のように地上へと降り注いだのだ。
光弾は地上に着弾し、爆発。爆風と共に、凄まじい衝撃波が発生した。
衝撃に巻き込まれた人間達は粉々になりながら、辺り一面に飛び散っていく。光弾の直撃を受けた建物は一瞬にして崩壊し、光弾が落ちた場所はクレーターが出来上がっていた。
光弾が降り注いだ結果、街は火の海へと変わった。まさに厄災の如き諸行。
天災と呼ぶに相応しい光景、人が散る様はいつの世も美しい。
そのあまりの惨劇を前にして、少女達は顔を青ざめさせる。
自分達が助かった安堵感などとうに消え失せていた。
目の前に広がる地獄の光景に、少女達の心は絶望に支配されてしまう。
宴と称して始まった虐殺は、ほんの三十秒足らずで終わりを迎えた。あれだけ賑わっていた人々は、今はもう誰一人として生きている者は居ない。
肉片と化した無数の死体と、原型を留めていない瓦礫の山だけが残っていた。
確かに不良達に絡まれた状況から助かりたいと神様助けてと心の中では思っていた。フィクション作品のように都合よく奇跡が起こってくれるのではないかと、淡い期待も抱いていた。
だが、結果はどうだ? あの黒衣の男が現れた途端、状況は一変した。
不良達よりも遥かに強く恐ろしい存在が現れ、彼ら彼女らは瞬く間に殺された。抵抗も出来ずに一方的に蹂躙された。
助けを乞うても見て見ぬ振りをする辺りの人々も、黒衣の男によって皆殺しにされた。
少女の儚い願いが歪な解釈で叶えられたことで起きた惨劇。
そして、最後に残ったのは殺戮者孫悟空ただ一人。
先程までの殺戮の嵐が嘘のように静まり返る。聞こえる音と言えば、瓦礫が崩れ落ちる音ぐらいだ。
「……ぁ」
二人は言葉が出なかった。
あまりにも現実離れした出来事に思考が追いつかないからだ。
「……あ、ああ、そんな、こんなことが……」
ようやく絞り出した声は震えていた。身体がガクガクと激しく痙攣している。
「どうだ。神様助けてと願いが叶った気分は?」
いつの間にか空から地上へ降りてきた黒衣の男が二人に問いかける。
「……っ!?」
声をかけられたことで我に返り、二人は反射的に孫悟空から距離を取るように離れた。
「安心するがいい、お前達もすぐに同じ場所に送ってやる。そこで他の人間どもと一緒に仲良く暮らすといい」
そう言って、孫悟空は再び右手を前に構える。今度は両手で光弾を生成し始めた。
このままでは殺されるとその事実を認識した瞬間、二人の少女は本能的に逃げ出そうとしたが、恐怖のあまりに足がすくんで動けなくなってしまった。
───怖い。死ぬのが怖くて仕方がない。
死にたくない。生きたいと願うのは生物の性だ。どんな理由であれ、命が惜しくなるのは当然のこと。
しかし、孫悟空は慈悲を与えようとはしなかった。それどころか、むしろ逆だ。
無抵抗の弱者は野蛮な強者を生みだす要因となり得る。故に孫悟空は容赦無く殺す。
「あ、あなたは……一体」
辛うじて言葉を紡いだ。目の前に居る男は本当に人間なのか。
何故、神浜の街を破壊しているのか。
どうして自分達を殺そうとするのか。
聞きたいことは山ほどある。
だが、全てを教える程お人好しではない。そもそも人なのかですら怪しいものだ。
「冥土の土産に一つ教えてやろう。俺の名は孫悟空。美しき孤高の存在。宇宙の秩序を保つべく、神の正義を執行する者だ」
「……え?」
男の言葉の意味を理解できなかった。
いや、正確には意味は理解できるが、言っている事と行動が矛盾していることに対して困惑していた。
「じゃあな小娘ども」
光弾を放つ準備が完了した黒衣の男は、冷酷に言い放つ。
「い、いや……いやぁぁ!!」
少女達は首を横に振って拒絶の意を示すも、孫悟空は容赦なく光弾を放った。
光弾は一直線に向かっていき、やがて二人の少女を飲み込んだ。
光が晴れると、そこには何も無くなっていた。あるとすれば、ただの肉塊。それが表舞台にすら立てない憐れな少女達の末路だった。
「……」
孫悟空は無言のまま踵を返し、その場を後にした。
その後、彼はとあるビルの屋上へと移動した。
眼下には、焦土された場所が広がっている。
ついさっきまで賑わっていた人々の大通りは、今となっては見る影もない。
死の宴を終え、まるで廃墟のように変わり果てていた。神を冒涜し、信仰を踏みにじった人間達に相応しく、死に相応しい光景だと黒衣の男は思う。
「否、まだだな」
滅びの化身と呼ぶに相応しい彼は、それを否定して呟く。
まだ肝心な事が終わっていない。宴は終わりではない。始まりなのだ。
これから行うのは本当の意味での宴だ。
己こそが至高と称するマギウスの翼の撲滅。神への冒涜行為を行った愚か者達の粛清。
「この俺から逃れられると思うなよ」
故に次の標的は決まっていた。
近くに気配を探り、目的の人物達の居場所を特定する。
全部で五名。
常人よりも強い気を感知したので間違いない。
だが二木市で出会った紅晴結菜たちに比べると、遥かに劣っているレベルだ。それこそワルプルギスの夜しか知らないが、其処らの魔女一匹すら倒せないだろう。恐らくマギウスの翼の下っ端か何かだと思われる。
だが、そんな雑魚でも己こそが人間の頂点に立つと自惚れるのならば、誰が真の支配者か相応しいのかを分からせてやるのが孫悟空の思想だ。
「魔法少女からの解放を謳い魔女化を逃れたい、か……いいだろう解放してやろう。悍ましい呪いからそんなに救われたければ救ってやるよ、この世から永遠にな!」
そう決意した黒衣の男は、勢いよく飛び立った。移動先は感知した五名の魔法少女がいる場所。全ては孫悟空が思い描く理想郷のために。
そして、汚された宇宙の救済の為に。
────神の世の到来を祝う漆黒の神話が始まる。
その宇宙には意思が存在しなかった。
星々はただそこに在るだけで、生命も文化もなかったのだ。
だがある時、その宇宙にある一つの魂が小さな生命体として生まれ、徐々に自分の分身を生み出していった。
そして個の統一に成功し、自分の分身達に知恵を共有する知性ある生物となった。
それがインキュベーターだった。
インキュベーターは文明を発達させていき、やがてやがて高度な文明を築いていった。その頃になると、発達しすぎた科学力故に宇宙の寿命が短い事に気付き始めた。
それは自分達の存在すら危ぶまれる事態であった。
そこでインキュベーターはある決断をする。
そう、宇宙の寿命を延ばす為の研究を始めたのだ。
彼等は長い年月をかけて研究を重ね、ついに宇宙を延命させる方法を見つけた。
それは感情エネルギーを転換する装置の開発である。その装置を使い、数多の星に存在する生命体から憎悪や絶望といった負の感情をエネルギーに変換して、それをこの宇宙へと還元する事で、宇宙全体の延命を図るという壮大な計画だった。
だがこの計画には困難を極めた。何故なら負の感情を宇宙に放出する為のエネルギーに転換するのは容易ではないからだ。
しかしそれでも彼等はその方法を探り当てた。
そうして生まれたのが魔法少女システムだ。
魔法少女システムはその名の通り、少女達による希望と祈りの力によって生み出される魔法の概念であり、その概念こそがインキュベーターの目的だった。
魔法少女システムは人間達の希望や祈りといったプラスの感情を元に魔力を精製し、やがて絶望した時に発生するマイナスの感情を吸収してそれを変換させる事により、エントロピーの法則を覆す奇跡を起こす事が出来るようになる。
それこそがインキュベーターの目論見だった。
そして彼等はその目論見通りに実験を成功させた。
そうして生み出されたのが魔女と呼ばれる存在だ。
その生み出された魔女を新たな魔法少女に狩らせる事で、グリーフシードを採取させ、穢れをグリーフシードに吸収させて蓄積しそれを回収していき、宇宙に放出して宇宙の延命を図った。
だが、ここで一つ問題が生じた。
魔法少女はソウルジェムからグリーフシードに変異しても死なない、生きている。
宇宙に放出されたそれは、別のエネルギーに変換されても生きている。
グリーフシードは魔女に孵化する為の卵、要するに魂があるのだ。
つまりそのグリーフシードもまた生きていた。
ならばどうなるか、答えは簡単だ。
宇宙に変換されても死ねるはずがないという事だ。
寿命が迎える事もなく永遠に生き続ける事になる。不死者達は悲鳴を叫けぶのも、視界を涙で滲ませるのも許す事も出来ないまま永遠と続く生き地獄。
宇宙に散らばっていくのを、まるで生きている人間がそのようにされるかのような痛みと苦しみと共に、発狂すら許されず知覚する。
本来なら希望に繋がるはずの祈りが無限とも言える程の絶望と呪いを紡ぎ続けて行く。
それらが幾度と無く繰り返されてきた。
一から二へ、二から三へ、と足し合わせるように幾万年以上の月日をかけてグリーフシードが宇宙に放出されていき、やがてそれは膨大な量となり一つのカタチを持つようになった───いや、成るべきにしてなったという表現の方が正しいのだろう。
気づいた時にはもう手遅れだった。
圧倒的なまでの負の感情を孕んだソレはもはや神にも等しい程の強大な存在となり、やがてこの宇宙に属する生命体総てに認識災害を起こさせた。
ある者は抑止力と呼ぶように、またある者は自動浄化作用と呼ぶように、そしてあるものはそれを運命と呼んだ。
目的は無い。ただ存在するだけ。ただ在るだけの
強いて言えば、より強大な存在になることだろうか。
元々一つの魔女がより大きな厄災をもたらす為に他の魔女と合わさって出来たのがワルプルギスだとすると、よりグリーフシードを宇宙に放出させ自分の存在を大きくする為に魔法少女をより絶望させるように仕向け負の出来レースを確立させたものがソレなのだ。
これが"宇宙の意思"の誕生である。
宇宙の意思
エントロピーを増大し続ける為にキュウベぇが宇宙に放出した幾千万の穢れたグリーフシード説。
マギレコにおいて宇宙の意思は魔法少女が不幸になるよく分からない力。魔法少女の事を世間に広められず負の力が働いて魔女になるようになんかすごい運命力が働いている。
そもそも、宇宙の意思は宇宙が誕生した時には存在しなかった。しかし、キュウベぇが穢れたグリーフシードを宇宙に放出して幾度に一つの意志があわせて二となりそしてだんだんと足し合わさって強大な存在となり意思を持ち始めた。
呪いが他の呪いを集まって存在が大きくなることは有り得ない?前例はいるんだよな「ワルプルギスの夜」が。
もともと一つの魔女がより大きな厄災をもたらす為に他の魔女と合わさって出来たのがワルプルギスだとすると、よりグリーフシードを宇宙に放出させ自分の存在を大きくする為に魔法少女をより絶望させるように仕向け負の出来レースを確立させたが宇宙の意思……だと思う(小並感)
てか、はよこいつの事について公式から発表しろ!!
もしよければ感想や評価を入れてくだされば嬉しいです。
どのENDが見てみたい?
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滅亡END(全王も円環の理も総て抹殺)
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ハッピーEND
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ノーマルEND
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バッドEND