突如として発生したテロ事件。
新興都市神浜市工匠区にて、大規模な爆発が発生。
原因は不明。テロ組織との関連は未だ不明だが、爆発に巻き込まれた人々はほぼ全員が死亡。生存者は一人も確認されなかった。
また、この事件によって神浜市の治安維持組織である神浜署及び機動隊が出動。事態の収拾を図るべく動き出す。
謎に包まれた事件。
死体の損傷が激しく、捜査を行うとすれば困難を極めるだろう。理外によるテロ行為と断定し、神浜市は厳戒態勢に移行する。犯人を特定するどころか、容疑者さえ浮かんでは来なかった。動機も一切不明のまま、悲劇の惨状を物語るかのように、空はどんよりとした曇り模様であり、まるでこの街に降りかかる厄災を暗示しているようでもあった。
テロ行為によって大切な家族、恋人、友人等を失い、遺された者の怒りや悲しみは計り知れない。怒りの矛先は当然、惨劇を生み出したテロリストである。
されど、群衆がどんなに声を上げようと、所詮は虚しいものだ。この世界は、いつだって有象無象の者──表舞台に上がれない者達の叫びと嘆きに耳を傾ける事は無く、総ては物語を紡ぐ為の役者に過ぎない。
今宵もまた、表舞台に立つ主役達が華を咲かせる為に踊っている。
それが嫌ならば物申せ。
もし、仮にお前達の訴えが聞き届けられたとしても、それは結局のところ無意味に終わるがな。故にそれが意味を成す時は永遠に訪れない。舞台が廻る為だけに存在する者達が、物語の歯車を止めることなど決して許されないのだから。
だからこそ、総ての人間を滅ぼす黒衣の男の殺意はどこまでも異質だった。
世界を救う英雄譚? それとも愛と勇気の物語か?
否、断じて違う。
これはそんな陳腐でありふれたお伽噺などではなく、ましてや魔法少女が救済を織り成す魔法少女の為の物語でもない。
もっと残酷で非情で救いのない、魔法少女とは真逆に位置する存在の物語だ。
その者は、己の正しさを信じて疑わない。
その者の正義感は、この世の悪を許さない。
その者は、表舞台に上がる演劇者も、舞台に上がることすら許さない弱者も、そして何も力を持たない老若男女を根絶やしにする為に全ての人間共を殺戮する。
それは即ち、この世界の美しさを汚し、秩序を乱し、宇宙の安寧を脅かす存在をこの世から抹消する正義の化身。その名は孫悟空。
かつて十二の宇宙で人間ゼロ計画を完遂寸前まで行った男にして、宇宙を統べる神。
美しき世界を創造する為に、絶望に染まった少女の祈りが黒衣の男を呼び寄せ、孫悟空はこの世界に降臨した。
そうして、宴は始まる────
まず最初に、報道された内容はこうだった。
神浜市に潜伏していたテロリストが、工匠区において大規模な自爆テロを行った。
死傷者数は数十名にも及ぶ大惨事。爆発の規模も大きく、周囲は火の海となり、建物は跡形もなく倒壊。生存者は誰一人として確認されておらず、現場は凄惨を極めたようだ。
この報道が、孫悟空が引き起こす地獄の始まりだったことも知らずに。
この時点でなお既に類を見ない程の史上最悪のテロ事件であったが、問題はここからだった。
突然、何処からともなく現れた謎の男が、生放送しているテレビ番組に向けて孫悟空と名乗りを上げると、瞬く間に工匠区一帯に破壊の限りを尽くし始めたのだ。
その男は、孫悟空と名乗る黒衣の男は、まるで散歩でもするかの如く街を歩き回り、目に映るもの全てを無差別に攻撃していった。
逃げ惑う人々を容赦なく殺し、抵抗を試みる警察官を惨殺し、そして裁きを与えるかの様に建物を破壊していった。
だがしかし、逮捕されるのも時間の問題であった。こんな卑劣な行いをする人間が、このまま捕まらずにのうのうと生きられるはずがない。
孫悟空の凶行は、必ずや報いを喰らう事となるだろう。それはみんなの共通認識だった、人理に仇なす外道に容赦はない。
例えどんな理由があるにせよ、無関係な人々を巻き込んで命を奪う事は絶対にあってはならないのが道徳観念。
何故なら、それは生命に対する冒涜であり、何よりもこの世に生を受けたものに与えられた使命を全うする事が出来ないからだ。故に、孫悟空が犯してきた罪は、どんな事情があろうと決して許されるものではないのだ。
けれど、現実は非情にも孫悟空が圧倒的だった。
「愚かなる人間共よ、美しい理想郷の為に従花と散れ」
なんという幻想じみた光景だろうか。
撃たれ、撃たれ、撃たれど、常人ならば死んで当然の殺傷能力を受けながらも、孫悟空は平然と生きていた。それどころか、彼は銃弾を受けようがそれがなんだと言わんばかりに傷一つ、血の一滴すら流さず、悠々と歩を進める。
意味深な言葉と共に、孫悟空は手から闇色の光弾を放ち、撃ってきた身の程知らずの警官達に死を与えた。
誰もが目を背けたくなる様な光景が繰り広げられ、孫悟空によって殺された人々の亡骸があちこちに転がる。
愚かなる人間、理想郷の為、そのような妄言を吐く外道を野放しには出来ず、神浜市警は機動隊による強行突破作戦を決行。最早逮捕から殺害へと方針を変え、武力行使に出た。
銃というもの。
それは現代社会においては、最も人を殺めるのに適した武器であると言えるだろう。
人が築き上げた歴史の中で、銃という兵器は進化を続け、対人殺傷能力を向上させてきた。世界で最も多くの人に使われてきた道具と言っても過言ではない。
だけど悲しきかな、所詮はそれだけの話。黒衣の男の前では所詮はただの道具に過ぎない。
いくら技術が進歩しようとも、どれだけ人の手に馴染もうとも、所詮は人を殺す為だけに造られた道具と言わんばかりに、孫悟空はびくともしなかった。
「射撃隊構え! 撃て!」
号令と共に、無数の弾丸が一斉に発射される。
前線に到着した機動隊が銃火器や重装備で武装した集団であり、火力では孫悟空に勝るかもしれないという希望が人々にあったのも束の間。
次の瞬間、信じられない事が目の前で起きた。
雨のように降り注ぐ鉛玉を前にしても、孫悟空は歩みを止めず、目の前に迫るボールのように全ての弾丸を手で受け止めると、そのまま握り潰してしまったのだ。
何十発、何百発と撃ち込まれた銃弾をものとせず、神技とも言える芸当をさも当然の事だと言わんばかりの振る舞いでやってのける孫悟空を目の当たりにして、誰も彼もが絶句する。
これが同じ人間がやってのけたことなのか。孫悟空を名乗るテロリストの男は、本当に人間の皮を被った悪魔なのではないか。その壮絶な光景を前にして足がすくんで動けなかった者達が大勢いた。
目の前に居る黒衣の男が何をやったのか理解出来なかった人々は唖然として硬直するが、その隙を逃さんと言わんばかりに孫悟空は手をかざすと、掌から闇の光弾を発射された。
「……ッ!? 総員退避ィ!!」
誰かの叫び声を皮切りに、人々が我に返って慌ててその場から離れようとする。
迫る闇色の光弾に対し、逃げを選択したのは理屈や理論を超えた生存本能だったのだろう。
だが、今から逃げるのは遅すぎた。孫悟空が放った光弾は、目に見えない程の速度で飛来する。
仮に運良く逃れられたとしても、逃げた先には必ず孫悟空が待ち構えている。孫悟空が狙っているのは、全ての人間を根絶やしにすることだ。そんな規格外な存在に、脆弱極まりない人間が立ち向かえるわけがない。
迫り来る脅威から逃れる術など無く、光弾が着弾した直後、激しい爆発音と共に衝撃波が駆け巡り、爆炎が広がっていった。
それは、孫悟空が起こした滅亡の始まりを告げる狼煙となった───────────────────
そして、時は流れ現在。
神浜市全域に避難命令が発令され、市民達は避難誘導に従って指定された避難所へと向かっていた。
突如として発生した謎のテロ行為に恐怖を覚えながら、それでも冷静に行動出来たのは、神浜市がこれまでにない危機的状況に陥っていると自覚していたからだ。
謎のテロリストが出現しただけでなく、この神浜市は未曾有の大災害に見舞われようとしている。
何の前触れもなく、唐突に始まったこの異変に、一体誰が想像出来るだろうか。
だがしかし、実際に起こっている以上、信じたくなくとも受け入れざるを得ない。
そして、この事態にいち早く対応したのが、魔法少女と呼ばれる異能の力を持った少女達だった。
彼女たちは、魔女と戦う使命を持つと同時に、みんなを守る為に戦う力を持っている。
その力は、時に悪しきものを打ち砕き、人々を絶望から救う為のもの。
故に、この日この時この場所において、彼女たちが戦わない理由がなかった。
そうして、戦いは始まる。
この世に蔓延る人間を討ち滅ぼす、正義の化身たる孫悟空との戦いが。
だがしかし、孫悟空は強い弱いで計れるような相手ではなかった。
「俺は宇宙の希望。平和を求める生きとしいけるものへの答え」
彼の強さは、文字通り次元が違う。
皆が徒党を組んで挑んでいるのにまったく通じていない。
魔法少女達の放つ魔法攻撃や必殺技が直撃しても、孫悟空には傷一つ付けることが出来なかったのだ。
それだけではない。孫悟空は、まるで遊んでいるかのように手加減しながら、少女たちの攻撃をいなし、あしらい、時には反撃すら仕掛けてくる始末。
これこそが、孫悟空が他の追随を許さない圧倒的な戦闘力を有している証拠であった。
孫悟空は、ただ殴る蹴るといった単純な動作しか行っていない。なのに、それだけで簡単に魔法少女は死ぬ。彼が殴る動作だけで、建物は崩れ、地面は割れ、人々は倒れていく。それはまさに、悪夢のような光景だった。
「罪なきものの守護者にして闇を照らす光、そして真実」
されど一撃、たかが一撃、それらの攻撃は総てが魔法少女が使う必殺技───コネクトやドッペル等を越えていた。
まさしく絶望としか言いようがない戦力差。数の有利は魔法少女が断然上な筈なのにたった一つの個の力が大勢の魔法少女を凌駕する夢物語。そんな夢物語が現実に繰り広げられる。
圧倒的。超濃密度の個の質量が数の物量を蹂躙し尽くすそのあり様は理不尽としか言えまい。
それでも、魔法少女達は諦めなかった。
たとえ敵が強大であろうとも、決して怯むことなく立ち向かい、孫悟空に立ち塞がった。
何故なら、彼女達が信じるものは揺るぎない信念と、命を懸けても守らなければならない大切なものがあるから。
例え、相手がどれだけ凶悪な存在であったとしても、人々の未来を脅かす外道を許す訳にはいかない。
だから、負けられない。
ここで負けたら、自分達を信じてくれている人達の想いが無駄になってしまうから。生まれ育ったこの思い出の場所を守り抜く為に。
それに、こんな所で終わってしまったら、今まで頑張ってきた意味がなくなってしまう。邪悪な存在に勝って、みんなのもとへ帰るんだ。
その想いが、みんなの祈りが、彼女達に力を与えていた。
けれど、現実は非情である。
孫悟空の強さは、常軌を逸している。
規格外の存在の前にいくら数で攻めようと、いくら強力な一撃を浴びせようが、孫悟空は微動だにしない。
それどころか、孫悟空はただ手をかざしただけ。たったそれだけで、孫悟空は掌から闇色の光線を放ち、一瞬で数人の魔法少女を跡形も無く消し飛ばしてしまった。
最早、勝負にならない。戦闘などと呼べる代物ではなく、一方的な虐殺だ。
「善なるものの同盟者……貴様らにとっての悪夢だ!!」
街を破壊し、己こそが正義だと謳い、人々を襲う黒衣の男。
その姿を見た者は、誰もが思うだろう。あれこそ正真正銘の悪魔だと。
人の姿を象りながらも、人の心を持たない化け物。孫悟空は、その類稀なる力で人々を恐怖のどん底に叩き落とし、蹂躙する。孫悟空が力を振るえば、人が死に、建物が壊れ、街が燃え盛っていく。
孫悟空が足を踏み出す度に、人々が逃げ惑う。黒衣の男が手をかざせば、何もかもが消え失せる。
これを悪夢と呼ばずして、何を悪夢と呼ぶのか。
そんな理不尽極まりない暴力を前に、人々は殺されて抗ってを繰り返すしかなかった。
如何なる手段を用いようとも傷を負わず、一滴の血をも流さず、超然と佇みながら、悠々と破壊と殺戮の限りを尽くす。この世の全てを嘲るような笑みを浮かべながら、孫悟空は止まらない。
ああ、なんと綺麗だ。
人間共が絶望に怯えて逃げまどう姿は実に美しい。築き上げた文明を破壊され、築き上げた歴史を奪われ、積み重ねたもの全てを奪われる無力感に打ちひしがれ、泣き叫び、助けを求める。
その顔が、その声が、それらの絶望が心地いいぞ。神の正義にひれ伏し、慈悲を乞うがいい。
孫悟空は、街を焦土にしながら高笑いして、次の場所へと移動する。
神浜市大東区。
「逃げろォォォオ!!ヤツが来たぞぉおおッ!!」
逃げまどう人々を追い詰め、容赦無く殺し、無慈悲に街を壊し、焦土に変えていく。
炎が燃え盛り、血が舞い、断末魔が響き渡る。かつて、ここには活気溢れる商店街があったはずだが、今となっては見る影もない。
この世の終わりを彷彿とさせる地獄絵図の中で、人々は必死に生き延びようとしていた。
銃を乱射して迫り来る孫悟空を撃とうとする者もいた。
手榴弾を投げ込んで少しでも時間稼ぎをしようとする者もいれば、刃物を持って斬りかかる者もいた。
だがしかし、孫悟空には何の効果もなかった。
銃弾や爆発物が直撃しても無傷。刃物で斬っても無意味と言わんばかりに立ち尽くす。
どんな攻撃でも孫悟空を傷つけることは出来ず、逆に返り討ちに遭って殺されるだけだった。
そして、その惨劇を目の当たりにした人々は絶望する。
もう駄目だ。お終いだ。こんな化け物に勝てるわけがない──
そして一人、また一人と、殴り殺されるのではなく今度は手刀に気を纏わせた剣によって首を、身体を、真っ二つに引き裂かれ、絶命していく。
その凄まじさたるや、まるで豆腐を切るかのように容易く命を奪っていくのだから、見る人にとっては絶望以外の何者でもなく、希望の欠片すら残さない程に残酷だった。
そして、孫悟空は止まることを知らず、次から次へと命を刈り取っていく。逃げても無駄だ。何処へ逃げたとしても、必ず見つけ出して殺す。
殴り、切り刻み、焼き尽くし、踏み潰す。
血を流させ、血を浴び、肉を砕き、骨を折り、命を奪う。殺した数と壊した数は、他の追随を許さない。
相手の事情など一切考慮せず、断末魔を聞きながら、ただひたすらに手当たり次第に殺していく。
そして遂には避難所まで魔の手が及ぼうとしていた。
「どうしてこんなことに……」
「警察は、いったい何をしているんだよ……!」
「もう通報はしているわ!だけど、道もアイツに壊されて来ないのよ……!」
「クソ……どうしろってんだよ」
避難してきた人々の中には、不安を口にする者がいた。
それは、誰もが一度は抱いたことのある感情。
突然、訳も分からないまま理不尽に襲われれば、誰だって恐怖を抱く。
しかも、孫悟空の襲撃は止まらず、むしろ激しさを増していた。
「てか結局、何が目的でこんなことをしてんの?」
「知るか。そんなもんこっちが聞きたいくらいだ」
「っていうかさぁ、これマジでヤバいんじゃね?このままじゃオレら全員死ぬっしょ。早く逃げようぜ!」
「バカ野郎!ここの人達を置いていけるか!!」
「じゃあどうすんだ。アイツに立ち向かうのか?」
「無理よ、あんなの!そんなの……絶対死んじまうよ……!!」
「そう言ってもここままじゃ神浜市が滅ぶだけだぞ……!!」
「そうだ、立ち向かうしかねぇだろ!!」
「東の分際で偉そうな口を利くな!」
「なに言ってんのよ、今は東も西も関係ないでしょうが……!」
「うるせえな!大体あの男が殺しているのは東の人間だろ!こんな時にここにいなけりゃ───」
「おやおや、こんな状況で口論をするとは。口を開けば東と西と……覚えたての言葉を赤子の如く引用するとはな。はぁ、まったくこれだから人間は愚かなのだよ」
言い争いを始める避難民達。みんなはそのまま延々と口喧嘩し仲間割れを起こすのかと思われたが、突如として男の声が聞こえてきたことで事態は急変する。
その声の主こそ、この惨状を引き起こした張本人であり、裁きの宣告をした黒衣の男のものだった。
激しく燃え盛りながら倒壊する建物の瓦礫の中、黒衣の男は姿を現した。
まるで、炎を意に介さんと言わんばかりにゆっくりと出てきて、口論をしていた避難民を見下すように見つめる。
間違いない、間違える筈もない。建物を、街を、みんなをめちゃくちゃにした、孫悟空本人だ。その姿を見て、真っ先に怒りを覚えたのは、一人の青年だった。
「テメェ……よくもやってくれたなァ!!絶対に許せねえッ!!!」
怒号と共に、孫悟空に向かって突進していく。
孫悟空に殺された両親の仇を討つべく、怒りに身を任せて突撃していったのだ。
だがしかし、その行動が孫悟空の興味をその男に向けてしまった。
「俺が憎いか。ならばかかってこい、愚かなる人間よ。貴様は神の手で地獄に送ってやろう」
「ふざけんな!!お前なんか神とは認めねえナルシストが!!」
「ふむ、威勢だけはいいようだが、実力が伴っていない。その程度の覚悟では俺を殺すことなど出来ぬぞ。それともなにか、俺の美しい姿を間近で拝見したいのかね?」
「うるせえぇッ!!」
青年は、孫悟空に恨みを抱いている。
両親を殺しただけでなく、生まれ育った故郷までも破壊して、人々を虐殺して、蹂躙して、無慈悲に殺していく。それがどうしても許せなかった。
だからこそ、この手で孫悟空を殺してやりたかった。
だが、孫悟空は強くて狂っている。それも尋常じゃないほどに。
どれだけ殺意を抱いていても、それだけは嫌という程に理解していた。
だが、それでもやらないわけにはいかない。ここで引き下がったら、自分が自分でなくなってしまう気がした。
だから、逃げず立ち向かう。たとえ無謀だと分かっていても。
「うらああぁぁぁあっ!!!」
鉄パイプを手に持ち青年は雄叫びを上げながら孫悟空に飛びかかる。パイプを握り締めた右手を振りかざし、孫悟空の顔目掛けて振り下ろす。
しかし、孫悟空はその攻撃を避けようともせず、そのまま顔面に直撃する。
だが、なんということだ。
鉄パイプを喰らったにもかかわらず、孫悟空は何事もなかったかのように平然と立っていたではないか。
それどころか、直撃したはずのパイプがあらぬ方向に曲がっていた。
「な……!」
「ほう、今の一撃はなかなか良かったぞ。その意気込みに免じて少しだけ力を見せてやろう」
「なんだと……!?」
「喜べ。今からお前に『本当の強さ』というものを教えてやる」
孫悟空はニヤリと笑うと、右手に気を纏い剣のように変化させた。あれがなんなのかは常人には解ることはなく原理は理解できる筈もあるまい。
そして、そのまま青年目掛けて手刀を繰り出し、首を跳ね飛ばした。
「ふん、他愛もない」
首から上を失った身体が倒れ込む。
こうして、勇敢にも孫悟空に立ち向かった若者は命を落とした。
「見よ、俺に歯向かった者はこうなる。俺という神に裁かれあの世に行く運命となるのだ」
「うわああぁぁっ!?」
「助けてくれえぇっ!!」
「いやだ……!死にたくないぃ……!!」
「待ってくれ!金ならいくらでも払う!だから見逃してくれ!」
孫悟空の圧倒的な力を目の当たりにし、人々は恐怖に支配される。
もう駄目だ、殺される。殺されてしまう。
そう思った瞬間、彼らは命乞いを始めた。
自分の為にも、家族の為、友人の為、恋人の為にも生き延びたい。
そう思うのは至極当然のことであり、誰もがそう思っていた。
だが次の瞬間。
「お前は完全に包囲されている!投降しないのであれば射殺する!」
突如として現れた機動隊が、銃を構えて孫悟空を取り囲んだ。
突然の出来事に人々の方が驚いていた。サイレンが鳴り響き、武装した警察官達が孫悟空を包囲する。
いったい何が起きたのか分からず、ただ呆然として立ち尽くす者が大半だった。だけど心の底では安堵をしている。漸くあの黒衣の男を殺す救世主が現れたと。
サブマシンガン、自動小銃、ライフル、狙撃銃など、様々な武器を構えた警官隊がぞろぞろと銃器対策警備車から降車展開を行い、完全装備で取り囲んでいた。
これぞ、現代の警察が持つ最強の戦力である。
警察の精鋭部隊。日本国民の生命と財産を守る最後の砦。
対テロ・凶悪犯罪における、日本の切り札。
どれもこれもが精鋭揃いであり、どんな相手だろうと決して引けを取らない。まさに、国家権力の象徴とも言える存在だ。
「全員、構え……撃てェッ!!」
指揮官と思われる男が命令を下す。
すると、一斉に発砲が開始された。
「またそれか」
銃弾が孫悟空に着弾するが、孫悟空はそれを意に介さず、弾丸を全て弾き返してしまった。
まるで効いている様子がない。これにはさすがの警官隊達も驚きを隠しきれなかった。
しかし、それでも諦めずに射撃を続ける。
ここで退いたら、大勢の市民が犠牲になってしまう。そんなことは絶対にさせてはならない。任務を遂行し、必ず生還する。その強い意志を持って、孫悟空に向かっていく。
だがしかし、その想いは届かなかった。
「貴様らの魂胆は分かっている。どうせ俺を足止めしておいて、その間に逃げるつもりだろう?見え見えだぞ、人間共の智恵というものはな!!」
そう言うと、孫悟空は両手に気を溜め込んだ。
その力は凄まじく、瞬く間に巨大なガスバーナーのように激しく気が膨れ上がっていく。
「消え失せろォッ!!」
轟音とのような声と共に前方に突き出した両手から禍々しい闇のエネルギーの波動が放たれた。
その威力たるや、たった一撃で数十人もの人間を吹き飛ばし、建物を崩壊させる程だった。
一瞬にして辺り一面が火の海に包まれた。
あまりの火力によって地面は大きく陥没し、周囲の建物は跡形もなく消し飛んでしまった。
これが、かめはめ波。
かつて、オリジナルの孫悟空が師匠によって編み出された、究極の破壊技。
その恐るべき破壊力の前に、誰も抗うことは出来ず、無残にも散っていった。機動部隊の精鋭達は、一人たりとも生き残ることはなかった。
「なんなんだよ……なんなんだよあの化け物は!!」
「お前ら、さっさと逃げ──」
「俺が一人も逃がすとでも思っているのか?」
孫悟空は逃げ出した人々を睨みつける。
それを見た避難民は、恐怖に怯えながら必死に走り出した。
「おい!待ってくれよ!俺を置いていかないでくれ!!」
「死にたくない!死にたくない!」
「誰か助けてくれえぇっ!!」
人々は我先にと逃げ出していく。
中には、家族や友人を見捨てて自分だけ助かろうとする者もいた。
だがしかし、孫悟空はそれを許さない。
「どこへ行こうというのだ?」
孫悟空は逃げた人々の前に姿を現した。
「ひっ……!」
「どけ!俺が先だ!」
「嫌だ!死にたくない!」
人々は押し合いながら進む。
だが、その行動がかえって仇となった。
「愚かだな」
孫悟空は右手に気を集中させて、それを槍のように尖らせた。
そして、そのまま槍を放つ。
「ぎゃああぁあっ!?」
「痛えぇ……!助けてくれ……!」
「うぅ……腕が……!」
「あ……あ……あ……」
「おや、すまない。手が滑ってしまった」
放たれた槍は音速を超えており、その衝撃だけで多くの人間が息絶えてしまった。
また、運悪く直撃を免れた者も、衝撃波により身体中をズタボロにされて倒れ伏していた。
「終わらせてやろう」
最早悲鳴や絶叫すらせず、ただただ絶望に満ちた表情を浮かべているだけの人々を見て、孫悟空はとどめの一撃を放った。
「界王拳」
次の瞬間、孫悟空の身体に変化が起きた。
髪の色は黒から赤へと変わり、身体も黒衣も総て深紅に染まる。
全身からは真紅色のオーラが溢れ出し、その姿はまさに神の技だ。孫悟空は、ワルプルギスの夜との戦闘を経て更なる力を手に入れたのだ。
徐々に、徐々にとオリジナルの力を総て引き出そうとしている。
「死ね」
孫悟空は超スピードで移動し、次々と人々を惨殺していく。
それはまるで草刈り機で家に生えている雑草を刈っているような如く。血が滝のようにドバーと溢れていた。
「ぐはァッ!」
「ごふッ!」
「がはッ!」
「ぎゃッ!」
孫悟空が通り過ぎた後には血の海が広がっていた。生存者はいない。
移動だけで、ソニックブームが発生していた。
この世の者とは思えない圧倒的な戦闘力。
避難所からはもう誰も出てこない。皆、命乞いをして殺されていった。避難誘導を行っていた警官隊も全滅した。正者は一人もいない。静寂だけがそこにはあった。
「界王拳か、悪くない技だ。だが、脆い存在では性能が確かめられぬのは悲しき事よ。所詮は人間の集まりだったということだな。まあいい、これで少しはこの世界もマシになるだろう……ところで、其所でこそこそと隠れているのは誰だ?出てこい」
孫悟空が視線を向けた先。そこは、ビルの屋上。黒衣の男によって見る影もない姿に変えられた廃ビルだった。そこに一人の魔法少女がいた。
白を基調とした軍服のようなコスチュームに身を包み、右目にはモノクルを着けた少女。
その名は和泉十七夜。
表舞台に立つ魔法少女の中ではトップクラスの戦闘力を秘めた実力派であり、大東区を代表する魔法少女。まさにネームド役者にふさわしい存在だった。
しかし、今の彼女はどうだろうか。
その美しい顔立ちは、怒りの形相に染まっていた。普段は冷静沈着でクールな彼女だが、今ばかりは怒りに満ち溢れていた。
それもそのはず。目の前にいる男は、彼女の生まれ故郷を滅茶苦茶にした張本人なのだから。
屋上のビルから飛び降りると、華麗な動きで着地する。
この時点で、常人離れしていることが分かる。しかもそこらの魔法少女とは比べ物にならない程の身体能力の高さなのは一目瞭然だ。しかし、孫悟空はそんなことには興味がないらしく、冷めた目で彼女を見つめていた。
その眼差しはまるで虫ケラを見るような冷たいもの、人間など取るに足らない存在でしかない彼にとってはゴミがやってきたようなもの。だけど、負けじと和泉十七夜は黒衣の男を見据えていた。
「遅かったか……」
彼女は苦い顔をしながら言葉を呟いた。
ここにて、東区を代表とする魔法少女と殺戮の限りを尽くす男の邂逅を果たした。
思ったんだけど一日すらたってなくね?この小説。
原作通りにやった方がいい?
-
原作通りにやれ
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関係ない、このままいけ
-
ご自由に