絶望の協奏曲   作:漆黒の人

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お久しぶりです、生きてます。


第十九話 それぞれの思惑

 

 

 

 

 

 

 

 

 ホテルフェントホープ。

 それはマギウスの翼の本拠地である。所有地は広く、地下は巨大で複雑な構造になっており、そこには大量の魔女の養育施設や研究施設、聖堂などが存在している。

 見た目は豪勢な屋敷だが、その実態は巨大なウワサによって生み出された結界のようなものであり、そこに出入りできるのは限られた人物だけである。

 地上は表の顔であり、地下に潜む裏の顔こそが本当の姿である。

 

 そこの空間には今、二人の魔法少女の姿があった。

 ひとりは薄茶色をした髪で、頭に大きなリボンを付け、赤と黒を基調とした服装の魔法少女。もうひとりはどこか学者のような風貌をしている。

 二人とも背格好はほぼ同じで、まだ幼い子供のように見える。

 しかし、そんな持ち主の可愛らしさとは裏腹に、その身に纏っている雰囲気は禍々しく、普通の人間なら恐怖を感じてしまうほどだ。

 

 ここはマギウスの翼の拠点であると同時に、魔法少女の解放と救済を目的とした組織である。

 そんな組織の長を務めるが、この場にいる二人の少女。

 彼女の名は、里見灯花。もう一人は、柊ねむ。

 魔法少女の真実を知り、魔法少女の魔女化の運命から救い出すべく、希望を絶望に変える力を持った存在。

 魔女化しない理想郷を世界につくるべく、日々活動を続けていた。

 しかし、そんな彼女達が活動している最中に突如として現れた謎多き男、孫悟空。

 マギウスは録画された映像で、画面越しに工匠区に現れた孫悟空の姿をモニターで見ていた。

 孫悟空は圧倒的な強さを見せつけ、街を破壊していく。

 その様子を見て、灯花は顔をしかめながら呟く。

 

「はぁ~、迷惑なお客さんだにゃあ……人のおうちで暴れちゃダメってママに教わらなかったのかな?」

 

 彼女はテーブルにある菓子をつまみながら孫悟空の暴れぶりを眺めている。

 一方、ねむは冷静に状況を分析していた。

 

「……どう思う?彼の実力について……どこからどう見ても魔法少女じゃない新たな存在に関しては?」

 

「うーん、強いことは間違いないと思うけど、そこまで警戒する必要は無いんじゃないかにゃ?ここまで一方的にやられていると神浜の魔法少女達が黙ってないだろうしね~」

 

「そうだといいんだけど……」

 

 ここで映像が途絶えた。

 ねむは孫悟空の強さを目の当たりにして少し不安になっていた。

 突如として出現した未確認の敵。

 孫悟空は今までの魔女や魔法少女達とは色んな意味で一線を画す存在であることは明らかだった。

 孫悟空は魔法を使っていないにも関わらず、人々を一方的に虐殺していく。その姿はまさに悪魔。魔法少女とは対極の存在と言っても過言ではないが、孫悟空はこのまま放置していてもいずれ他の魔法少女達に討伐されるだろう。

 だが、もしも孫悟空が皆が想像するよりもさらに強力な存在だったとしたら──

 ねむはそんなことを考えると、ゾッとする。

 世界各地で発生した地震や災害、神浜外に検知した計測不能なエネルギー反応の正体も気になるところではあるが、まずは目の前の脅威をどうするかを考えなければならない。

 孫悟空の狙いは何なのか。

 なぜ、この街に現れて破壊の限りを尽くしているのか。

 

「……ま、大丈夫だと思うよ。もし仮に孫悟空が本当にヤバい奴だとしても、神浜市にはわたくし達が作ったドッペルがあるし、それに、マギウスが居るんだからそんなに心配ないよねむ」

 

「……それもそうだね」

 

 灯花の自信満々な言葉を聞いて、ねむは不安を拭えずため息をする。確かに、今の神浜市にはマギウス以外にも強力な力を持つ魔法少女がいる。

 彼女たちの力があれば、孫悟空といえどそう簡単にはいかないはずだ。

 孫悟空は謎の多い存在だが、人間に敵対意識を持っている以上、放っておくわけにはいかない。

 何より、魔法少女の解放と救済という目的を果たすためにも、邪魔をしてくるのであれば排除しなければならない。

 

「とりあえず、今は様子見といった感じでいいのかい?灯花」

 

「うん!今のところはそれでいいかにゃ~」

 

「了解。じゃあ僕はいつも通り、ウワサによるエネルギーの回収をしておくよ。それと翼達に指示を出して、孫悟空に見つからずに避難してもらえるように伝えておくね」

 

「よろしくね~」

 

 そう言って、二人はそれぞれ行動を開始した。

 孫悟空の出現により、マギウスの翼の活動は一時的に休止状態となるだろう。

 しかし、事態は急変を迎えることとなる。

 

「はぁはぁ……!た、大変です!里見様!柊様!」

 

 一人の白いフードを着た魔法少女が息を切らせながら部屋の中に入ってきた。

 その表情は焦燥に駆られており、尋常ではないことが起きているのがすぐに分かる。

 

「どうかしたのかい?」

 

 ねむは落ち着いた口調で尋ねる。

 すると、その魔法少女は早口で答える。

 

「それが……例の男によって、工匠区と大東区の二つが壊滅状態に!」

 

「……っ!?それは本当かい?!」

 

 その報告を聞き、ねむは驚愕のあまり目を見開く。

 

「はい、今はまだ詳しい情報は分かりませんが、恐らくは……」

 

「まだ現れてから数十分しか経っていないのに…………情報ありがとう。この後も情報が多く入ってくるかも知れないから引き続き知らせてくれれば助かるよ」

 

「はっ!な、ならここで失礼します!」

 

 報告しに来た魔法少女は慌てるかのように扉を開けて急いでその場から去った。

 この動作だけでもどれだけ現場がドタバタしているのが分かる瞬間でもあった。

 

「これは予想以上に厄介な相手かもしれないな……灯花、君はどう思う?」

 

「んー、そうだねぇ……孫悟空の力が想定外に強いか、もしくは別の要因でこうなったのかな?どちらにせよ、かなり不味い状況なのは間違いなさそうだけどね~」

 

「僕も同意見だ。まさかこんなにも早く工匠区と大東区を壊滅させるなんて……正直、孫悟空の実力は僕の想定を大きく上回っている。一体彼は何者なんだ……」

 

「正体については置いておいて、問題はこれからどうするかだよね。大東区には確か和泉十七夜という魔法少女がいたはず……」

 

「でも、大東区が壊滅状態になったとなると、もう敗れたと見なしてもいいかも……くぎゅううううううう!もう腹立つ!なんでこのタイミングにかぎって孫悟空なんかが現れるのさ!!」

 

 灯花は怒りを露にする。

 駄々を捏ねる子供のように手足をバタバタと動かし、喚き散らす。

 とても少女がしていい振る舞いではないが、これが彼女の素である。

 

「灯花……気持ちは分かるけど落ち着きなよ」

 

 ねむはそんな灯花を宥める。

 だが、その言葉とは裏腹に彼女の表情もまた焦りを見せていた。

 このままではマギウスの翼の活動に大きな支障が出る恐れがあるからだ。それはつまり、自分達の目的が達成できなくなることに等しい。

 それだけは避けなければならないことだった。

 

「……はぁ、最悪……せっかくの優雅なティータイムだったのに……」

 

 灯花はテーブルに置いてあった紅茶を飲みながらため息をつく。

 

「それで、これからどうするんだい?」

 

 とねむが尋ねる。

 

「とりあえずウワサによるエネルギー回収は中止にして、一旦街全体に散らばってもらっている翼達の魔法少女を呼び戻そう」

 

「了解」

 

 ねむはそう言うとモニターで散開している魔法少女達に指示を出した。

 

「あと、もし孫悟空がこの拠点に辿り着いた場合に備えて、既に創造してあるウワサを再度解放しよう」

 

「それもそうだね」

 

 灯花の提案に対してねむは同意する。

 今は孫悟空の動向を探るのが先決だが、最悪の事態に備えておく必要はある。

 

「後は……エンブリオ・イブの餌にさせちゃおっかな?孫悟空を捕獲できれば魔女よりもエネルギーは大幅に確保できるし、もし孫悟空がイブに喰われてくれればそれはそれでラッキーって感じだね~」

 

「うん、そうだね。じゃあ僕は地下のウワサを操作するから、灯花は地上を頼むよ」

 

「りょーかい!ついでにアリナにも伝えといてねー!」

 

 灯花は元気よく返事をすると、そのまま部屋を出ていった。

 取り残されたねむは、孫悟空を倒すための作戦を練り始める。

 

「さて……どうしたものかな」

 

 ねむは険しい表情を浮かべながら、独り言ちた。

 

 ─────

 

 

 

 

 

「ウフフフ、アッハハハハハ……!チョーウケるんですケド。まさか、魔法少女でもないクレイジーマンが本当に滅ぼす力を持っているなんて……アリナ的にサイコー過ぎてマジウケるんですケド!」

 

 とある高層ビルの屋上で一人の少女が笑っていた。

 まるで絵の具を与えられた芸術家がキャンパスに思い描いた絵を描き上げたときのような、満足感と達成感に満ち溢れた顔のように目を輝かせながら、街を見下ろしている。

 孫悟空が破壊し尽くした街は、至る所から煙が立ち上り、至るところに瓦礫の山が築かれていた。

 その瓦礫の中でさえ孫悟空の異常な強さを物語るように、人々の死骸や血の残り香などは見受けられなかった。まるで見えない力に抗うかのように人間一人っ子誰一人として生存していないらしい。

 その光景を見た彼女は恍惚とした表情を浮かべる。

 

「アァ~いい……グッジョブ!孫悟空!本当に最高ゥ~!これは、アリナのアートに追加させてあげないとネ……孫悟空が生み出す『絶望』でまた新たな絵を描いてみたいカラ……!」

 

 黒に染まった軍服のようなデザインにカラフルなスカート、特徴的なアクセサリーの帽子を被っており、まさしく兵隊のような服装。腰までに伸びていている黄緑色の髪にエメラルドグリーンの瞳。

 そう、彼女の名はアリナ・グレイ。

 美術部に所属する様々な賞を受賞する高校一年生の天才芸術家の魔法少女だ。そして同時にマギウスの翼を束ねるリーダーでもある

 今、まさに街は孫悟空の手によって壊滅状態にある状況だが、それでも尚彼女の笑みは崩れない。寧ろより一層愉快そうな表情を浮かべていた。そして同時にこう思うのだ、滅びとはなんと美しいものなのかと。アリナは今、最高に幸せだった。

 今まで生きてきた中で最も充実している時間だと確信できるほどに。

 そして同時に思うのだ。

 この幸せな時間をもっと味わいたいと──

 筆を握る手が疼いて仕方がない。

 今この瞬間もアリナの創作意欲は湧き上がってくるのだ。この素晴らしい光景を絵にして残したい。

 絶望としか言いようがない混沌とした街を、人の心の底で秘めたる終焉を描いた絵画にしてみたい。

 芸術家としての性がアリナを突き動かす。

 全ては自分が求める最高のアートを描くために。

 目の前にあるキャンパスに筆を走らせる。

 そして、アリナは滅びを創造するべく、一心不乱に絵を描き始めた。

 

 描く描く描く描く───

 キャンパスには様々な色と形が描かれていた。

 破壊、破滅、終焉、終末……ありとあらゆる絶望を表現するように筆を走らせ黒、赤、橙、青、紫など様々な色を用いて表現していく。

 無限に湧いてくると錯覚するほどに溢れ出るアイデアを形にして、芸術へと昇華させる。

 それはまさに神業。

 アリナの芸術センスが光り輝く瞬間だった。

 

「ふぅ……こんなものカナ」

 

 どのぐらいの時間が経ったのだろうか、アリナは動かした筆を止めた。

 完成した絵を見てみると、そこには街があった。だがそれは街と呼ぶにはあまりにも無残な光景である。建物は全て倒壊したというよりも、溶けたか破壊し尽くされたような状態だ。

 そして何よりも異質なのはその絵の中心に立っている人物だ。

 その人物は全身真っ黒というよりも無という比喩が似合うような姿だった。顔すら見えぬ漆黒を纏った存在。

 

 孫悟空だ。

 人が喚ぶべき絶望の象徴とでも呼ぶべき存在が、殺戮の限りを尽くした絵の中に立っている。

 グシャグシャとなった街の中で、闇の底よりも深い黒を纏った孫悟空だけが異様な存在感を放ち、アリナの絵の中で佇んでいた。

 その姿はまさに絶望の化身そのものだ。

 この絵を見て人々は何を思うだろうか?悲しみか、それとも怒りか?いや、違うだろう。きっと皆一様にこう言うはずだ。

 ──美しいと……

 そう感じるに違いないのだ。

 アリナが描く作品は美しく難解な作品ばかりが評価される。

 しかし、今回の作品は今までで一番の最高傑作だと自負している。

 何故ならば、この絵にはアリナの思い描く全ての絶望が込められているからだ。

 絶望と終焉を表現し尽くした一枚だと言っても過言ではないだろう。そして何よりも素晴らしいと思うのは、この絵を見て人々が抱く滅びの感情だ。

 まさに、人を狂わしかねない劇薬。

 だからこそ、アリナはこの絵を最高の芸術だと自負している。

 

 そして同時に思うのだ。

 これが最高の芸術とするならば、これ以上の芸術を描くことは出来るのだろうか?その次の作品を、自分は想像し、それを芸術として創造出来るのだろうか?

 みふゆの体がパーフェクトボディとするならば、孫悟空の滅びはパーフェクトボディを超える芸術だ。

 そして、その次も……

 アリナは考える。

 この世界の芸術には更なる高みがあるのだろうか?それとも無いのか? もしあるのならば見てみたいと思うし、ないのであれば自分が生み出してみせると強く思う。しかし、それは決して簡単なことではないだろう。

 何故なら、今までアリナが生み出してきた芸術はどれもこれも素晴らしいものばかりだったからだ。

 だが、それでもアリナは描き続けるだろう。

 新たなる芸術を創造するために……そして何より、自分自身のためにも──

 

「アリナのアートは永遠に不滅なんですケド」

 

 アリナは何かを決心したかのようにそう呟くと、筆を優しく置き、立ち上がる。

 

「アリナが見たいのは絶望と終焉の芸術。それは変わらないカラ……でも、この絵を超えるアートを描くためにはどうすればいいのか……答えは出ないケド────」

 

 そう呟くと、アリナはビルの上から飛び降りた。

 重力に従って落下していく中、アリナの視界に映るのは漆黒の世界。

 その果てに何があるのか?それはまだ誰にも分からない。

 しかし、アリナは信じているのだ。この先に自分の求めているものがあると……そして、その時はそう遠くない未来に訪れることだろう──

 

 

 

 ─────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさかこれほどの強さだとはね……。これは予想外だよ」

 

 戦いの様子を観察していたキュゥべえは黒衣の男──孫悟空の力を見て驚いている様子だった。彼ら(?)は、これまで幾多の魔法少女や魔女を、時には他の星の文明の生命体をも見てきた。

 だが、孫悟空という個体はその中でも群を抜いて異質だった。

 これまで観測してきたどの文明の魔法少女や魔女よりも戦闘力が高い上に、魔力というより生命体本来のエネルギーがあまりにも規格外過ぎるのだ。観測出来る範囲の宇宙全域に存在するどんな生物よりも、いや、神や悪魔と呼ばれる存在と比較しても圧倒的にイレギュラーな存在だと言わざるを得ない。

 ワルプルギスの夜と黒衣の男の戦いは今までの中でも一際異質だったと言えるだろう。

 

 ワルプルギスの夜は、その圧倒的な物量と火力でゴリ押しするように攻め続けていたが、孫悟空はそんな常識を覆すかのように全てを一蹴したのだ。

 しかも、宇宙のバックアップがある上で、だ。本来、宇宙の抑止力たる存在は、例えば魔法少女の存在を広めて宇宙にとって害かどうかの判断をし、干渉をして防いだり干渉しなかったりと調整するのが役割である。

 時には、時空間を遡って歴史の改変をする輩を周囲の環境を上手く誘導し処理する事もある。

 だが、黒衣の男はそんな宇宙のルールを、力技でねじ伏せようとしてきた。

 

 いや、そもそもが理にかなっていない力なのだ。

 そもそもおかしいのは、孫悟空という存在が未だに存在していること。

 その存在が宇宙にとって害があると判断した時点で、既に宇宙は抑止力を使って存在その物を消し去っているべきなのだ。

 だが消えるどころか未だ息づいているどころか活動しているという不可思議な事態だ。宇宙の抑止力がワルプルギスの夜に力を付与し本来ならば一つの文明規模の力でしかない魔女が急激にパワーアップ果たしたというのに、それでも孫悟空が滅びる兆しはないのだ。

 それどころか、宇宙の力を上乗せしたワルプルギスの夜をいとも容易くねじ伏せる始末だ。その戦闘力はキュゥべえですら計り知れない領域に達そうとしていた。

 恐らく宇宙規模で見てもここまで強力な存在は過去に観測例はないだろう。いや、断言はできないが限りなくゼロに近いはずだ。それほどまでに強大な力を有している孫悟空という存在の存在は、まさに宇宙にとっての脅威と言えるだろう。

 

 

 だからこそ、キュゥべえは逆にあのエネルギーを宇宙を維持する燃料に出来れば、これ以上のエネルギーリソースはないだろうと考える。

 

「もしボクらがあのエネルギーを燃料として利用できるようになればあらゆる問題が解決できるんじゃないかな?」

 

 キュゥべえはそう呟く。

 あの膨大なエネルギーを取り入れることさえ実現できれば、魔法少女システムよりも遥かに効率的で、尚且つ絶大なエネルギーを使用できる。

 そしてそれは、魔法少女システムをも凌駕する力となるだろう。

 そうなれば、宇宙のエネルギー問題は一気に解決すると言っても過言ではないはずだ。何せ既存の魔法少女システムの質量すら放棄してもお釣りが出て、なおかつ賄うことができるほどの膨大なエネルギーなのだから。

 

「とは言っても……今はまだ情報が少なすぎる────けれども、知ってしまえば対策はできる。それに……孫悟空だったけ?ここまで力を有しているのは宇宙にとってもイレギュラーだ。ならば、早急に対処するのがベストだろうね」

 

 キュゥべえはそう結論付けると、即座に行動に移った。

 ワルプルギスの夜と黒衣の男の戦いによって崩壊した二木市を、数多のキュゥべえは俯瞰しながら観測を続けていた。

 そこで得られた情報は膨大であり、その全てを分析するには時間が掛かるだろう。

 だが、キュゥべえはワルプルギスの夜と黒衣の男の戦いの一部始終を観測していた。そして僅かな情報からでも得られるものは全て得ようとする貪欲さを兼ね備えた存在でもある。

 だからこそ、キュゥべえは孫悟空という存在を解析し理解することに努めたのだ。

 

 まず、出現した場所──虎屋町のとある所に孫悟空は出現し、そこから事の始まりは起こったのだろう。

 しかし、時間が経過した為か詳しい場所までは分からない。何せ瓦礫や建物の倒壊が酷く、周辺を捜索するのが困難だからだ。

 だが、それでもある程度の情報は得られるだろう。

 故に数多のキュゥべえは各自バラバラとなり行動に移ったのだった。まず最初にキュゥべえは、周辺一帯のエネルギー情報を精査し、孫悟空が出現可能な場所を絞る。そして次に周辺の情報から怪しい箇所をピックアップしていき、さらに絞り込んでいく。

 それは砂漠の中から一粒の砂金を探すかのような気当たりを必要とする作業だった。

 

 

 

 そしてようやく発見こそはしたものの、やはりこれ以上の詳しい情報を得るのは難しいと彼らは判断する。

 故に探査を打ち切ることしたキュゥべえだったが──

 

「これは────?」

 

 その瞬間、キュゥべえは何かを発見した。それは周囲の瓦礫や建造物の残骸に紛れていたが、数十メートルにも及ぶほどの大きい四角い形をした黒い物体だった。

 キュゥべえは、その四角状の物体に近づいて調べてみる。

 

「なんなんだろう……これは?何かの塊のように見えるけど──」

 

 キュゥべえは、その四角い物体の周りをグルグルと回りながら観察する。

 これの他にも粉微塵になった黒い塊だったものがいくつか見られることから、孫悟空の襲来と共に出現したのは間違いないと思われる。だがこの黒い物体の正体は分からない。これは一体何の為に作られたものなのか?と、改めて詳しく調べようとキュゥべえの背中の模様のある部分がパカッと開くと、そこに粉微塵になった黒い塊を突っ込めるだけ突っ込んでいく。

 

「分からないことはとりあえず調べてみるに限るよね」

 

 そう言ってキュゥべえは、黒い塊を背中のポケットに突っ込みあらゆる技術や科学を駆使して解析を始めた。

だが────

 

「これは────」

 

 キュゥべえは驚きの声を上げる。だがそれも無理はない。何故なら、解析したデータがあまりにも常識外れだったからだ。

 キュゥべえは宇宙のエネルギーから発生した存在だ。故に地球上の科学や技術とは根本的に違うものを扱っており、そもそも地球上の文明レベルなど容易に解析可能だった。

 だが……今目の前に映し出されているデータは、キュゥべえの理解を超えている代物だった。

 まず最初に目に入ったのは数値や各種データなどの羅列だったが、それらを認識した瞬間にキュゥべえの頭に電気のようなものが流れ込み一瞬意識が飛びかける。

 そしてハッと意識を戻した後に改めて見直して見ると──

 

 検索結果・・・・ ◆□■☆■▲†◆◇▼◆○◎★……(このデータは認識できません)

↓ △▽〇×□・§☆°C○─+-……………………-+……=(文字化けしている為閲覧不能です)………………↓ □▽☆─°C○・◎◇……%#%$=…….+-×■…….(検索結果が表示されませんでした)……

 

 という意味不明な羅列がひたすら続いていたのだ。

 

「この宇宙に存在してすらいない物質…………なのか?」

 

 キュゥべえはそう呟くと、改めてそのデータを見てみる。だがやはりそこに映し出されている文字化けした羅列を見たところで益はなく、むしろ理解不能な状況に陥ってしまう。

 そもそも、地球上や他の星などに存在したどの元素にも当てはまらないものだったのだ、調べても出る結果は意味不明な羅列であり、キュゥべえの理解を超えていた。

 

「間違いない、これは宇宙の理から外れたものだ。いわゆる別の世界の法則で作られたものだね。耐久性は…………流石に宇宙の抑止力から抗えるだけあって高いようだね。星の爆発を受け止めたり、恐らく太陽系を壊す攻撃を繰り出していても傷一つない、か」

 

 キュゥべえは解析を進める度に孫悟空の異常性に驚きつつ、感心する。

 

「これは……もしかしたら使えるかもしれないね、この物質を素材にしてより強力な兵器を作れば、あの男とも対等に渡り合えるかもしれない。そうすれば……」

 

 キュゥべえは、自分の想像が現実味を帯びてきたことを感じると、今度は別の町に移動する事に決めた。

 

「次は竜ケ崎地区に移動するとしようか。もしかしたらワルプルギスの夜のグリーフシードが回収出来れば、戦力の確保ができるかもしれないしね」

 

 そう呟くと、キュゥべえは虎屋町から離脱し竜ケ崎地区へと向かった。

 向かったとは言ってもその町の近くに居る個体を向かわせただけであり、移動の所要時間はものの数分で終わった。

 そしてキュゥべえはワルプルギスの夜と黒衣の男の戦いによって破壊された竜ケ崎地区の町中を歩いていた。

 

「さて、魔法少女に見つからないようにグリーフシードを探さないと。あの時のように無駄に数を減らされたらこちらとしても迷惑だからね」

 

 キュゥべえはそう呟くと、周囲に溶け込みつつ街中に散らばり、グリーフシードを探す。

 しかし、辺りが壊滅的な被害を被っていることもあり中々見つからない。

 それでもキュゥべえは諦めず探し続ける。時々二木市の魔法少女と遭遇してしまうが、キュゥべえの高度な擬態能力によってその正体を看破されるような事はなかった。

 

「どれどれ?……これは違う。これも……これも……あれも!駄目、か」

 

 キュゥべえはワルプルギスの夜のグリーフシードを物色し集めているものの、中々に見つける事が出来ず難航していた。

 

「こうなったら、ワルプルギスの夜が倒された場所で探すしかないのかな?魔法少女に発見されれば最悪だけど……」

 

 ビルなどの高い場所から見渡して探し始めた。そして──

 

「あった!……グリーフシードまでは粉微塵にはなってなくて良かったよ」

 

 キュゥべえは嬉しそうにそう呟くと、そのグリーフシードを見つめる。それは遠目からでも分かるほどの美しい輝きを放ったグリーフシードだった。

 恐らくワルプルギスの夜が落としたのだろうそれは眩いほどの美しさを放ちながらも静かに魔力を秘めているように感じられた。

 

「これで戦力を補充できるね。さて、これで探し物は終わりだし、後は…………これから彼の対応策を考えないと」

 

 キュゥべえはそう呟くと、そのグリーフシードを回収しその場を去っていった。

 

「情報が出揃うまで、暫くは様子見かな。対応を魔法少女に任せる────とは言っても」

 

 キュゥべえは町から離れながら、遥か先。地平線よりも更に向こう側を見つめるように視線を向ける。

 

「正直、神浜市の魔法少女達は気の毒としか言えないね」

 

 キュゥべえはそう呟くと、そのまま町から離れていく。

 

「今回は運が悪かったと思って諦めてもらうしかないね……神浜には何故か入れなくなってはいるけれど、彼があの町に向かった以上なす術もなく蹂躙されるだけだろう」

 

 キュゥべえはそう呟きつつ、今回の戦闘データを分析しながら今後の行動について考える。

 

「それにしても、孫悟空……彼は本当に規格外の存在だね。ワルプルギスの夜を一撃で倒してしまうなんて────」

 

 あの光────薄紅の闘気を纏った姿と圧倒的な力。そして超強化ワルプルギスの夜を一撃で倒してしまうほどの規格外の力。黄金にならずとも桁違いな戦闘力の上にまだまだ力を隠しているとしか思えないバリエーションの豊富な変身。

 仮に、まともにやり合うとなったとしたら確実に勝ち目が無いだろう。

 

「まだまだ、底が見えないね」

 

 キュゥべえはそう呟くと、静かにその姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 






マギレコで周年のガチャ回したら
悪魔ほむら完凸しました。後、瀬奈みことも完凸しました。
やったぜ!
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