絶望の協奏曲   作:漆黒の人

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第二話 鏡の世界

 二人は…否、正確には思念体と一人の男が自己紹介した後どうしても案内したい所があると思念体が男を説得し鏡の世界の奥深くに場所を移動していた。

 常人の人間ならば発狂死する程の憎悪と怨念が漂う歪な空間だが男は何事もなかったかのように前に進む。やがて目的地に到達するとそこには一枚の大きい鏡と律儀に用意されたであろうソファとテーブルがそこにあった。

 

 男は考える。この鏡と家具は明らかに俺と対話するために用意したではないのか──もしや頭に響く人間の声の正体は鏡の世界の意思そのものであり──絶対神である俺を嵌め何かしらの方法で利用するつもりではないか、と。

 様々な憶測が脳内に駆け巡り警戒心を深めこの場から去ろうとしたが、この余興に乗るのも悪くないと思い止まりソファに座る。

 

 次の瞬間、目の前にある鏡が突如少女の姿を映し出していた。

 その容姿はツインテールのような髪型であり、髪の色は薄い水色、瞳は青紫、衣装はモノトーンのゴスロリのようなもので黒色と水色を基調している。肌は色白の肌であり、まるで人形のように美しく卵のような肌艶をしていた。

 どうやらこの少女は自分の姿を見せたいが為にここへと案内したらしい。

 

『ふふっ、これは私があなたに見せてるイメージ。どう?気に入ってくれた?頭の中で話をするよりも、こうやって対面した方がとても会話しやすいでしょ?』

 

「鏡を使いわざわざ真の姿を見せるのは勝手だが、一体何がしたい?まさかお前の下らない話に付き合えと言うのなら受け付けてはおらんぞ」

 

『えーもう黒ちゃんったら~人の話は最後まで聞かなきゃだめでしょ?』

 

「珍妙な名で呼ぶなと言ったはずだが?」

 

『やだぁ、じゃあ黒ちゃんが嫌なら孫くんって呼ぶね。ごめんね孫くん』

 

「その呼び名も止めろ……ふん、もはやお前に何を言っても未来永劫無意味であることは理解した。もう俺は何も言わん。好きにするんだな」

 

『んふふっありがとう黒ちゃん』

 

 鏡に映る少女が微笑む。端から見れば世界一面鏡と相まって少女を不気味に思うだろうがこの男はそうでもない。

 むしろこの世界を我が物顔をするかのようにソファに座り足を組んでいる。おまけに何処から取り出したのか不明だがティーカップらしき物を使い紅茶を味わいながら飲んでいる。

 本来ならばこの男は究極までに高みへと至る程の自己愛故に、不愉快と感じる行為を行う愚か者には何者だろうと容赦なく粛清するだろう。無論鏡に映し出される少女もだ。

 だが審判を下す前に状況を理解することに集中した方が得策と男は思った。

 

 孫悟空と名乗る男は思考する。

 ─────何故自分は助かったのだろうか。同志である不死身の神は無事だろうか。

 ─────何故二度と解くはずがない神同士の合体があの時、抉られたあの瞬間魂のみ分裂されたのだろうか。

 ─────何故今こうして合体前の姿と成っているのだろうか。

 一の疑問が十となり水を伝わる波紋のように広がっていく。

 ─────何故地球規模の力ごときの人の想いとやらに敗北したというのか。

 今思い出すだけでも腹立たしい、理想郷まで後僅かの所まで達成したのにも関わらず人間0計画は破られ神の正義が下等な人間に屈され挙げ句の果てにはこの世界にて宿主にされ寄生される始末。

 なんたる屈辱。かつて界王だったザマスが下等なサイヤ人と手合わせし膝をつかせたあの頃以上なまでの屈辱を味わったのは初めてだ。いつの日か必ず更なる高みを目指し、絶対的な力を手入れ再びあの世界に舞い戻ってやる─────。

 

 男が思考をしていると鏡に映る馴れ馴れしい少女によって遮られた。

 

『ねえねえ、私思ったんだけど黒ちゃんってあの西遊記に出てくる孫悟空と同じ名前でしょ?まさか、同一人物だったりして?あ、でも黒ちゃんは全身真っ黒だしそれはないか』

 

 自分で問うて自分で答えるなと男は内心毒づいたがそういえばこいつはそんなやつだと男は怒りを通り越して呆れ果てていた。

 

「言っておくが、お前の知る孫悟空と俺が名乗る孫悟空が同じ存在とは限らないぞ」

 

 意味深なことを言ってきてどういう意味なのかみことは考えたが、たどり着くのははてなマークという名の困惑しかなかった。

 

『ふーんそんなもんかな…?あ、そうだ。実は私ね、男の人に声が届いたの初めてなんだ。男の子にしか知らない話や楽しかったこととかの話を私に聞かせてほしいな。んふふっ』

 

「ふざけるな。俺を下等な人間と一緒にするな」

 

 その声には明らかな嫌悪感があった。ちょっと地雷を踏んだらしい。

 

『えっと、じゃあ…黒ちゃんは何者なの?本当の名前やその正体について私は知りたいなーせっかくこうして巡りあったんだし少しぐらい…いいよね?』

 

「何度も言わせるな。俺の真名などどうでもいい、下らぬ駄弁を述べずにさっさと要点を言え。お前のような下等な人間と付き合う暇は神にはあるまい」

 

 神という単語にみことは反応し目を大きく見開いた。

 

『えっ!黒ちゃんって神様なの?!』

 

「如何にも、お前にもわかりやすく言うならば俺は宇宙を統べる絶対神。銀河を統べる者から宇宙を統べる者へと到達した存在だ。理解が出来ぬならば今ここで多少の実演をしても構わぬが───」

 

 手に持っていたはずのティーカップは突然その場に消えた。孫悟空はテーブルに手をかざした次の瞬間には光輝いていた。数秒の輝きが終えると、そこには無色透明で美しい光沢をもつ手のひらサイズの鉱物が生成されていた。

 それはダイヤモンドだった。地球上で美しい物のひとつであり、ありとあらゆる天然の物質の中で最も硬度が高いという特徴を持つ自然界が産み出した奇跡だ。

 

 みことはダイヤモンドに向けて魔力探知をやってみたが何も感じなかった。その美しい鉱石は魔法による生成ではない。神による創造の力、文字通りの神技だった。

 

「どうだ、美しいだろう?確か地球上ではダイヤモンドと呼ばれた鉱石だったな。この俺には及ばぬ美しさだがなかなかの輝きだ、悪くあるまい」

 

 そう言って孫悟空は左手で髪をかきあげ、右手でダイヤモンドを摘まむように持ち上げた。

 

 その様子を見てみことは内心思った。

 どうやら黒ちゃんは自分を凄く愛して、他の人を下等な人間と見下している感じがする…最初は嫌われてると思ったんだけどこれが平常運転なのかな……。そしてそれを隠そうとする意思が影も形もない、おまけにわけのわからないことを言うとんでもない変質者だ。

 神様は皆こんな感じなのかな…ちょっとした悲しみを感じてしまった。

 それでもめげずに黒ちゃんの共通の好みを探そう。それを糸口に神様こと黒ちゃんと仲よくなるのだ。

 

『黒ちゃんって何か好きなものとかある?例えば美味しい食べ物とか可愛い動物とかさ!私は動物だったら、ネコちゃんが好きだな~!』

 

「いいだろう…特別に答えてやる。そうだな、強いて言えば害虫なき美しい理想の世界。愚かな人間共が足を踏み入れず緑豊かな営みが育む自然だ」

 

『へ~神様は自然が好きなんだ。やっぱり地球は自分が生み出したものだからなの?』

 

「当然だ。俺の気高さと美しさが涙をこぼし海を、自然を、大地を創り上げたのも同然」

 

 やっぱり変なことを言う。頭がこんがらがるようなそうでないような感覚に襲われた。

 

 みことは更に聞きたいことを聞こうとしたら孫悟空によってそれは遮られた。

 

「まだお前は聞きたいことが山ほどあるとは思うが…なかなか要点を言わないお前に俺が抱く疑問を問う番だ。瀬奈みこととやらよ。お前はこの場所に俺を呼び出し何をするつもりだ?何かを求めているのは感じとれるが具体的なことは分からん。じっくりと考え答えてみよ。今この瞬間は神に虚言は許しはしない。もし虚偽らしき言動があれば如何なる手段を用いてもお前を潰すことになるだろう」

 

 その時は覚悟するがいい。

 低く、耳触りの良くない声で、はっきりと聞こえやすく告げながら絶対的な眼差しのような鋭い目付きで孫悟空は威圧感を与え言った。もし嘘をついてもバレてしまい罪人に審判を下すよう粛清されるだろうとみことは直感で理解した。

 みことはじっくりと考え迷いに迷ったが、嘘をつかずに答えることにした。

 

『私の求めるものは……この世界にいる人間に復讐する事。私の温もりも安らぎも全てを奪ってきたこんな世界や人間を全部滅ぼす。力でねじ伏せ情け容赦なく叩きのめす。神様の前で言うのもあれだけど…その為なら私の祈りで悪魔でも絶望でもこの世界に迎えるよ。だからね、一緒に滅ぼすの手伝ってほしいな』

 

 ふふふっ。

 穏やかな表情は崩していないが、みことの言葉には途方もない極限の憤怒が込められている。まるで人間の総てを怨む呪詛のように。

 その証しに瞳の奥底には激しい怒りにより炎が突っ立ち、青紫の空が朱と黄金色に染まっていた。端からみても虚偽を言っていないのは誰の目にでも分かるだろう。

 

「……」

 

 その言葉に、孫悟空は少しの間、目蓋を閉じて───。

 

「ふふふ……なるほど…そうか、どうやらお前の祈りが死にゆく定めとなったであろう俺に届き、この世界に呼び寄せ救い出したようだな」

 

 言葉を紡いだ後、目を開いた。孫悟空の顔はまるで何かを決意したような顔つきになっており笑みを浮かべていた。

 だが、聖女のような穏やかなものではなく、人の悪意とは比べ物になるのも馬鹿馬鹿しい程の邪気に満ちており、この世総ての憤怒、憎悪、絶望それらが入り交じった邪悪そのものだ。

 

「喜べみことよ。お前の願いは俺という神によって叶う」

 

 そして突然立ち上がり拳を握り締め力を入れ漆黒の闘気を纏い世界を暗闇に照らし出す。

 漆黒に染まる圧倒的な闘気が風圧のごとく家具を凪払い藻屑のように粉砕し少女を映し出す鏡にはヒビが入った。それは止まることを知らず段々と強大となる。

 

 刹那、鏡の世界が震え上がった。

 

 天変地異の如く巨大な地震が起こり、大地は裂け始め、辺り一面だったはずの鏡は気がつけば暗黒の混沌に呑み込まれていた。風圧の暴威の前に、少女を映し出す鏡は積み木の家のように崩れ地底に吸いこまれて暗闇の底に墜ちた。

 圧倒的な力を見てみことは真の絶望の化身を目の当たりにした。

 

 あまりの豹変ぶりにみことは恐れながらも名前を呼ぶ。

 

『え…く、黒ちゃん…?』

 

「なぁに心配するな、嘘を言っていないのは神である俺にも分かる。それにみことよ、お前が俺をその祈りで呼んだのだろう?世界が生んだ人間共を滅ぼせと。くくく…いいだろう……やってやろうではないか」

 

 みことに有無を言わさず答える孫悟空。返答など今はどうでも良かったようだ。

 右手にはめている指輪の力によって闇色に煌めく次元の裂け目が出現した。

 

「お前のことを馴れ馴れしく鬱陶しい寄生虫と思っていたが訂正しよう。あの時吐き気がする希望の結晶とやらに蝕まれ滅びそうになった俺を救い出した恩人だ、そこらの下等な人間よりは少しはマシなようだな。中に居るのは癪に触るが…まぁいい許してやる。恩義に仇で返すのは性に合わんしな。そしてお前の悲願の為、俺の理想郷の為に愚かな罪人を断罪しようではないか!」

 

 孫悟空の感情高まった声が崩壊した鏡の世界に響き渡る。そして目の前にある次元の裂け目に身を投げ出した。

 全ては理想の世界を創る為に。

 

 

 

 

 

 




瀬奈みこと(神様に認められたようでめっちゃ嬉しいけどミラーズ壊すな)

ゴクウブラック(よっしゃあああ!なんか生きてるし人間滅ぼすぜぇ!)

一番罪が深い市はどこだと思う?

  • 神浜市
  • 見滝原市
  • 風見野市
  • 宝崎市
  • 二木市
  • 湯国市
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