絶望の協奏曲   作:漆黒の人

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サヨナラストレージを読むのをオススメします。


第二十話 滅びへの意志

 

 

 

 

 

 

 ────赤く、紅く、朱く、緋く染まる水面。

 孫悟空の殺戮が、真っ赤に染まる。

 周囲に広がるのは、瓦礫と炎に包まれた惨憺な光景だった。

 そこに存在するのは絶望であり、死だ。その死が、黒衣の男の手によってもたらされている。

 

 彼は嗤っていた。嬉しそうに、愉しそうに、殺戮の歓喜に震えながら、笑っていた。

 男は戦っていた、抵抗する黒羽の魔法少女達と殺し合っていた。

 武器と拳がぶつかり合う度に衝撃波が発生し、大地を抉り取る。常人はおろか魔法少女ですら目で追う事すら出来ないほどの速度で移動し、嵐のような剣戟が飛び交う。

 

 いや、これは最早戦いとすら呼べないだろう。

 一方的な蹂躙と言わず何を比喩するのか。身体を抉り取り、両断し、ミンチに擂り潰し、血を飛び散らす。

 命を削り、ソウルジェムを刈り取らんとする。

 ゆえ──黒衣の男にとってそれは戦いとすら呼べないものでしかなくて。だからこそ、ただ淡々と作業のように敵を殲滅していった。

 

 それが魔法少女と呼ばれる生命体でさえも、男は何の躊躇もなくその命を奪い去っている。

 一人、二人、三人、四人……五人。

 今、黒衣の男が殺した魔法少女の数だ。そしてそれは黒羽の魔法少女達も同じであり、次々とその命を奪われていく。

 男が拳を振るえば、血飛沫が舞い上がる。男が剣を振るえば、血糊がついた手刃は闇色の気を発し、妖艶に輝く。黒衣の男が動く度に、赤が舞い上がる。そしてそれは男にも飛び散り、その顔や肌を赤く染め上げる。

 それがまた──男の残虐性に拍車をかけるのだ。

 

 そして遂に最後の一人になった時、黒羽の魔法少女は絶体絶命だった。

 もはや戦力はゼロに等しく、満身創痍。仲間も殆どが殺されてしまった。

 道端に落ちている壊れた人形のように、グチャグチャに潰れた魔法少女達の亡骸。

 それはまるで吐気を催すような光景だった。

 

 辺り一面は赤一色に染まり、焼けた鉄の匂いと夥しいほどの血液の匂いが鼻をつく。

 最早助けを呼ぶ声も悲鳴も上がらず、ただただ静寂だけが溢れ返っている。

 だが、それでも男は魔法少女を殺さんと歩みを進める。殺戮を行った表情とは違い、無の表情を浮かべながら、グチャグチャに潰れた死体を踏み潰し────魔法少女の元へと向かう為に歩みを止めない。

 

 そして、まだ辛うじて息のある最後の少女の元へと辿り着くとその少女は恐怖の表情を浮かべながら男を見つめる。

 その少女の瞳には、ただ光が失われた瞳孔だけが映し出されていた。

 

「お……、お前が……神浜を、荒らし…………まわる…………黒い男……か…………?お前は……一体……何故、私、達……を……?」

 

 息も絶え絶えに魔法少女は男に問いかける。男はただ、沈黙を貫く。

 

「な……何故なんだッ!!何故、私……達はいつ、も……いつも!奪われて、ばかりッ!!」

 

「……」

 

 だが答えない。孫悟空は無言のまま魔法少女へとゆっくり迫ると──そのまま少女のソウルジェムを踏みつける。

 

「おい、答えろ。マギウスの本拠地は何処にある?」

 

「ッ!?……だ、誰が……言う、か……!」

 

 少女はそう言いながら孫悟空を睨みつける。だが──その瞳は絶望に染まっており、最早抵抗の意思すら感じられなかった。

 男は無言のまま魔法少女のソウルジェムを踏む力を強める。

 

「なら質問を変えよう。マギウスは何処で何をしている?」

 

「し……知らないっ!!私……なんかが……知るわけが……ない……!」

 

 魔法少女は、痛みと恐怖で涙を流しながらそう叫ぶ。

 だが男はその言葉を聞いても表情を変える事なく更に強く少女のソウルジェムを踏みつける。

 

「あぎっ!?ああぁぁ!!」

 

「最後のチャンスだ。マギウスの本拠地は何処にある?」

 

「し……知らない!知らないっ!!」

 

 ならばと、男は読心術で心の中を読み取る、本当に知らないのかと。このまま会話を続けるよりも良さそうだと孫悟空は判断した。

 

 ………………

 

 記憶や心の奥底まで読み取った結果、どうやらこの黒羽根は本当に知らないらしい。

 

「そうか、なら用はない」

 

「いやっ!たっ……助け……」

 

 バキッ……。

 魔法少女は最後まで言い終える事なく、静かになり魔法少女は事切れた。

 男は無表情で魔法少女だったものを見下ろすと、その亡骸からグリーフシードを拾い上げる。男はそれを暫く見つめると、徐に懐へと仕舞い込んだ。

 そして────

 

「役立たずが…………この程度の魔法少女をいくら狩ったところで、マギウスの本拠地への手掛かりは掴めぬということか。神浜の何処かしらにいるのは解ってはいるが……」

 

 男はそう呟くと、そのまま歩き出す。そして暫く歩いたところで歩みを止める。

 そして身体全身から闇色の闘気を放つと、浴びた血渋きが嘘のように無くなりまるで新品のように身体から穢れが取り除かれ元の黒い姿となった。

 

「この程度の魔法少女しかいないのならば……いっそ神浜の町を全て滅ぼして炙り出すか?」

 

 孫悟空は無表情のまま虚空を見つめつつそう呟いた。まるで──それが至極当然の神の行いであるかのように。

 

「どちらにせよ、まずは情報だ」

 

 男はそう言うと、そのままゆっくりと目を瞑る。まるで心の奥底にある人格を呼び覚ますかのように。

 

「瀬奈みことよ、マギウスの本拠地は何処だ?」

 

 そう呟くと、男の背後にみことが現れる。霊体としての姿で。

 

『うーん……神浜に在るのは分かっているけど、詳しい場所までは流石に私にも分からないなぁ』

 

 みことはポリポリと頬を掻きながら男に答える。

 

「あの講演を知っているのに、か?」

 

 そこで男は静かに目を開きながらみことを見つめる。

 

『んふふっそう、あれは宿主の魔法少女の意識と私の意識が繋がってたから分かっただけで、私だけでは知ることは出来ないよ。

 神浜の魔法少女がどんな状況かはやや分かっているけど、そこまで詳しいことまでは解らないなぁ』

 

 みことは苦笑いしながらそう言うと、男をじっと見つめる。目の前の男が総てを滅ぼすことに確証を持って。

 

『やっぱり今回の大量破壊はその為に起こしたの?』

 

「無論だ。人間共や魔法少女を一人残らず殺戮し、滅ぼせば……いずれマギウスの居場所を知る者が現れるだろう。そうなれば、読心術を使わずともその本拠地の場所も自ずと解る筈だ」

 

『────』

 

 みことは無言で男を見つめる。そして暫く考えた後──『なら』と呟きこう続けた。

 

『調整屋という人を知ってる?その人がマギウスの本拠地への手掛かりを知っているかも』

 

「調整屋……?」

 

『うん。魔法少女の相談役や魔力を増幅させてくれる人らしいけど、私は会ったことがないから詳しいことは分からないんだ』

 

「…………居場所は知っているのだろうな?その場所を」

 

『うん、知ってるよ。神浜ミレナ座と言う映画館の廃墟に経営場所があるの。でも、マギウスの本拠地の場所までは流石に知らないと思うけどなぁ』

 

「そうか……だが、いずれにしろマギウスを壊滅させる以上はその調整屋とやらに接触する必要があるな。

 口を割らずとも読心術で心と記憶を読み取れればそれでも収穫はありそうだな」

 

『そうだね。本拠地は分からなくても幹部の魔法少女達は把握してるだろうし行く価値はあると思う。どう?黒ちゃん行ってみない?』

 

「神浜ミレナ座、か──」

 

 男は思案するように呟き、そしてこう続ける。

 

「ならばよし、その調整屋の元に案内しろ。お前が場所を知っているのならば問題は無い筈だ」

 

「任せて!ふふっ、何だか懐かしいなぁ。またこうやって誰かと行動するなんて』

 

 みことは嬉しそうに微笑みながらそう言う。その笑顔は、年相応の少女のような屈託のないものだった。

 まるで過去の記憶を懐かしむように。

 まるで楽しい思い出を振り返るように。

 

『帆奈ちゃん……』

 

 昔の記憶を思い出しながら、みことはそう呟く。

 

「…………帆奈ちゃん?誰だそれは?」

 

『あっ、ごめん。私の友達だった子だよ』

 

「友人だった?その言い方だと過去形だが」

 

『うん、今はもういない子だよ。前に魔法少女に襲われた時に……ね』

 

 みことはそう言って悲しげな表情を浮かべる。

 

「あぁ、そういえば言っていたな、こんな世界や人間を全て滅ぼしたいと」

 

『うん、そうだよ。この世界には嫌な事が多過ぎる……希望を持てば持つほど、絶望に叩き落とされる。そんな世界なんて……もう要らないから』

 

「だから滅ぼすのかね?」

 

 孫悟空はそう問うと、みことは静かに頷いた。そしてその瞳には──まるで深淵のような深い闇が渦巻いていた。

 

「そんなにも友人を失ったことが悲しかったのか?」

 

『うん……そうだね、悲しいよ。だってボロボロな所を狙ってみんなで寄って集って虐めてくるんだよ!帆奈ちゃんが万全だったらあんなやつらに負けたりなんかしなかったのにっ!!』

 

 みことは感情を露わにして叫ぶ。その瞳には涙が浮かんでいた。

 だが、それは悲しみの涙ではない──怒りと憎悪に満ちたものだった。

 そしてみことは涙を拭うと、再び無表情になり言葉を続ける。

 その表情は先程までの激情が嘘のように消え失せていた。まるで別人のような豹変振りだ。

 

『だから、私は決めたんだ。この世界を徹底的に破壊して……滅ぼしてやるって』

 

「……そんなに大切だったのか?その友人とやらは」

 

『うん、大切だったよ。だから許せなかった……私を虐めていた魔法少女達が帆奈ちゃんを虐めてた時、私は何も出来なかったから……』

 

「理解せんな。何故、お前がその友人とやらの為にそこまで怒れるのか」

 

『黒ちゃんはそういった経験はないの?大切な友人や家族、恋人が虐められたりしたら……許せなくない?』

 

「悲しみならあるとも、美しい世界を汚す愚かな人間共とそれを黙認し続ける野蛮な存在にな」

 

 男はそう言うと、虚空を見据える。まるでその先にいる誰かを睨み殺すかのように。

 だがすぐに興味を無くしたように視線を外すと、再びみことに問いかける。

 

「それはそうとして個人的に問うが……お前は何故そんなにも友とやらに執着している?」

 

 男は疑問の表情を浮かべながら、みことにそう問い掛ける。

 

『別に執着なんてしてないよ?ただ……あの子が死んで悲しかっただけ』

 

「執着はしてないと?ならばお前の価値観では死んだ友人の為に全てを壊すというのかね?」

 

『そうだよ。私にとって帆奈ちゃんは友達だったし、誰よりも大切な人だったから……だからあの子の為ならなんでもするよ』

 

「成る程、尚更理解できんな」

 

『ふふっ、理解なんてしなくていいよ。黒ちゃんには関係ないことだしね』

 

「ククク……確かに、俺には関係のないことだな」

 

『でしょ?なら早く調整屋のところに行こっか?』

 

 みことはそう言って微笑むと、みことの身体が光となって孫悟空の身体に入るように消えていった。だが男は暫くの間沈黙した後──静かに首を横に振った。

 

「……いや、その調整屋とやらは後回しだ」

 

『え?どうしてなの?』

 

「何者かが俺に用があるらしい」

 

 孫悟空がそう呟くと、二人の目の前に4人グループの魔法少女が現れる。

 はだけた薄赤い和服の下に洋風な衣装を身に纏う特徴的な魔法少女がリーダー格なのだろう。その後ろに控える3人も、黒羽根と違って魔法少女らしい衣装を身に纏い、その手には各々武器を持っている。

 

「控えなさい、小悪党。それ以上の暴虐を、許すわけにはいきません」

 

 リーダー格の魔法少女がそう言うと、その背後に控える3人の魔法少女達も口々にそれぞれの言葉を発する。

 

「コイツが神浜で噂の黒い男ネ……!!邪悪の権化、人の敵!!魔法少女にとって厄災そのものネ!!」

 

「説明して欲しいね、何故神浜をこんなことにしたのか……!!」

 

「ど、どうなんですか!?どうしてみんなを襲って……!!魔法少女を!街をっ!!こんな風にしたんですか!?」

 

 チャイナドレスのような青い服装の魔法少女と白くて身軽な服装を身に纏った魔法少女と服が何枚も重ねてあるかのような装いの魔法少女が各々そう叫ぶ。

 なるほど、確かに黒羽根とは格が違うようだ。

 だが、路傍の石を見るかのように。いや、それ以下の存在としてしか見ていないかの如く。

 哀れにしか思えないのだ、彼女達が。態々死にに来るような存在が。大人しく逃げ隠れしていれば良かったものを。

 だが、その考えはみことの言葉により覆される。

 

『こいつらは────ッ!?』

 

 内なるみことは目を見開き、驚愕の表情を浮かべる。その表情には仇敵を見つけたかのように怒りに満ちたものだった。

 表に出てはいない為、孫悟空には表情は伝わらないが声色は伝わる。

 

「おやおや、存外早く出会ったな。」

 

 男は興味深そうにそう呟くと、4人の魔法少女達を見つめる。

 先程の路傍の石を見るかのような目ではなく、獲物を見つけた肉食獣のような目付きで。

 その目は、まるで飢えた野生の獣のようにギラついていた。

 

「お初にお目に掛かります、私は常盤ななかと申す者です。

 神浜で活動している魔法少女の一人で、この神浜で起こっている異常事態を解決すべく行動しています。ゆえ、貴方を討ち滅ぼさせて頂きます、黒い男───孫悟空」

 

 リーダー格の魔法少女──常盤ななかはそう名乗ると、己の武器である魔力で生成されたであろう日本刀を手に持ち構える。

 その構えからは明らかに隙がなく、更には戦闘経験豊富なのだろう……無駄な動きが無く洗練されたものだということが見て取れた。

 他の魔法少女達も各々が武器を手に持ち、臨戦態勢に入る。

 

 正義の魔法少女。

 彼女達はそういう存在だろう。正義を執行する魔法少女達だと。

 もし、周りに群衆がいれば、その姿を見た人々は羨望の眼差しを向けることだろう。

 絶望しかない状況で見出だされた希望の光。

 まさしく救いの象徴だ。

 

 あぁ、希望に満ちた魔法少女達よ。滅び行くこの街をどうぞお救い下さい。諸悪を討ち取り、希望を持ってして勝利をもたらすのだ。

 まるで人々に語られる勧善懲悪の王道の物語のようなもの。どんなに絶望に打ちひしがれようが魔法少女である彼女達は信じている、必ず正しき者が勝つと。希望は前に進むものだと。

 過程はどうあれ、()()()()()()()()()()()なのだから。

 

 

 

 

 

 

 これが絶望を討ち滅ぼす希望を紡ぐ物語ならばどんなに良かったことかと、彼女達は後に後悔しきれない程に知ることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 




ななか組とエンカウントしました。

マギレコ読み返してきます。
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