絶望の協奏曲   作:漆黒の人

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閲覧注意:今回の話はななか組を皆殺しするものなのでななかさん達が好きな人は閲覧をおすすめしません。



第二十一話 何故……何故!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は油断なく眼前の男──孫悟空を見据えていた。

 対峙するだけで解る強者の威圧感。今まで多くの魔法少女や魔女と戦ってきたが、これほどまでに強い存在と対峙したのは初めてだ。

 それと同時にここまでのドス黒く、邪悪に満ちた殺意も初めてだ。

 まるで瘴気のように闇に染まり、それでいて聖邪な気配……それが混ざり合い溶け合って生まれた禍々しいまでの負の感情。

 

 一体どれ程の人間を殺めてきたのか想像もつかないほどの圧倒的な悪辣な笑み。

 あの邪悪の権化と言える魔法少女、更紗帆奈のような神浜を破滅させようとする者が持つそれとは違う。

 あの魔法少女はどこか享楽的な、暇潰しの為にこの神浜を滅ぼすような印象があったがこの男は常軌を逸していた。

 男の殺意が、憤怒が、悲嘆が、憎悪が……あらゆる負の感情が混ざり合ったかのような禍々しいオーラ。私の固有魔法である【敵を見極める力】を使うまでもなく、完全なる敵だ。

 この男を前にしたら更紗帆奈ですら小動物に成り下がることだろう。

 それは最早──邪悪の化身そのものだ。

 

「貴様が常盤ななか……か。待ち侘びては居なかったが、会えて嬉しいぞ」

 

「……皆さん下がってください。あの男は私に用があるらしいので」

 

 私の指示で仲間を下がらせる。

 私は辺りを観察すると少女の亡骸が男の周囲に転がっていた。

 更に血溜まりとなった地面の周辺には、骨や肉片が散乱しており、それが夥しいまでの虐殺が行われたことを物語っている。

 間違いない、この男が神浜の魔法少女を……いや、この街の人々を殺し回っている元凶だと再度認識する。

 

「こちらは待ち兼ねませんでしたが……貴方は何故こんな真似をするのです?」

 

「ふむ、そうだな……単純に答えるとするならば……悪を滅ぼすのに理由など要るまい?」

 

 目の前の男はそう言うと私は刀を構えたままだが、気にせずに続けた。

 

「強いて言えば、貴様らで言う害虫駆除だ。部屋の中に虫が入って来たら殺すだろう、それと一緒のようなものだ。故に愚かなる人間を──悪を排除するまでだ」

 

「悪……ですか。何があったのかは知りませんが、貴方は神浜の街を壊し、人々を襲い、あまつさえ多くの人々を殺めてきましたね?これはれっきとした悪行です。

 いい加減に自覚して下さい。貴方の行いはどの陣営にも害しか及ばしていません。貴方が例え悪意を持たずとも、そのような身勝手なやり方は悪と呼んでいる人となんら変わりはしませんわ」

 

「悪行だと?善なる行いの間違いなのでは……?」

 

「────は?」

 

 思わず間の抜けた声を漏らしてしまう。それでも目の前の男は全く気にしないといった様子で堂々と言葉の続きを口にする。

 

「見ろ、この穢れた神浜を。醜く歪んだこの光景を、悪でなくて何と言うのだ?西側と東側、その間でのいがみ合いと不和。西側の連中は我は素晴らしいと東側の住人を見下し、東側は西側に卑下する。

 あまつさえ西側の住人は東側の住人を蔑み、暴力を振るう野蛮な連中も居る。実に悪法。神から授かり物の知恵と慈悲を無駄に浪費している。

 この神浜という街はな、神から授かりし知恵と慈悲を使いこなせていない哀れな者共が蔓延っているのだ」

 

 孫悟空はそう語ると不気味な程に穏やかな笑みを浮かべながらこちらをじっと見つめる。その瞳には目の前の己の姿がはっきりと映り込んでいた。

 

「故に神である俺が神浜を本来の美しさに甦らせてやるのだ。全てに等しく神の手で真の“平和”をもたらすことでな」

 

 仕舞いには神と自称した孫悟空はそう宣う。その言動に私は思わず耳を疑った。

 人を殺めておきながら何が平和か、と憤慨するよりも先にただその思考回路の異常さに唖然としてしまったのだ。

 この男……本気で言っているのか?冗談にしても笑えないが。

 

「正気ですか?ましてや神を名乗るなど……人を殺めておきながら何を世迷い言を」

 

「世迷い言ではない、これは神である俺の意思であり神の啓示である。そして、それを理解できない貴様らの愚鈍さこそ真の悪と言えよう。

 哀れなものだな、キュゥべえに願いを叶え道理を無視し力を得ようが正義のなんたるかは知り得なかったらしい」

 

「私は貴方を神などと思いません。貴方はただの殺戮者であり、人の皮を被ったただの化物です。魔女以下の外道の存在です」

 

 私はそう断言する。すると孫悟空は怒り狂った様子もなく、ただ冷静に私の言葉に耳を傾けていた。

 まるでこちらの反応を窺っているかのように……いや、この反応は寧ろ楽しんでいるかのような様子だ。

 それが更に不気味さを際立たせている。

 

「神の偉大さを理解出来ない、か……くく、実に愚かだな。だが、貴様らがそう思うのならばそう思えばいい……俺にとっては些細なことだ。人間風情と思考を共有しようなどとは露ほども思わん。所詮、人間は神には届かぬのだ」

 

「どうあれ貴方がこのまま神浜で殺戮を続ける以上、止めさせて貰います。恨むのなら、自分が殺してきた者達に懺悔してからになさい」

 

「懺悔などしないし、する必要もない。神である俺に赦しを乞う人間などいるはずもないだろう?」

 

「ならば、貴方を斬って地獄に送るまでです」

 

「斬る?斬るだと?あの魔法少女のように───更紗帆奈のようにか?」

 

「ッ!?貴方は……何故そのことを知っているのですか!?」

 

 ──思わず動揺してしまう。

 この男が、更紗帆奈の存在を知っているのは一体何故なのか? まさか……いや、そんなはずは。

 だが、この男は今確かに言ったのだ。“あの魔法少女のように”と。何故、この男は私達が更紗帆奈を倒したことを知っているのか? そんな疑問を抱きつつも私は目の前の男に警戒を強める。

 すると男は興味深そうにこちらを見据えると、静かに語り始めた。

 

「ククク……どうだったのかね?復讐を果たせた感想は?貴様の怨敵であったあの魔法少女が目の前で死んだ感想は?実に爽快だっただろう。何せ貴様は憎き仇を、その手で殺せたのだからな。悲願を達成した気分はどうだ?」

 

「な───ッ!?」

 

「家族を殺され、自身も殺されかけたのに。ただ憎むだけで復讐せずにいた貴様はさぞ歯がゆい思いをしただろうなぁ?憎き仇を自らの手で殺したいという願望を抱くのは当然の帰結だ。貴様はそんな長年の悲願を達成したのだ。満足だろう?」

 

「────」

 

 この男は何を言っているのだろうか?頭がおかしいのではないか?何故、私が更紗帆奈を殺したことを知っているのか……いや、それ以上に何故私の悲願が果たされたことまで知っているのか? 疑問が次から次へと浮かび上がり、思考が纏まらない。

 ただ目の前の男は愉快で仕方がないといった様子でニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべている。何がそんなに愉快なのだろうか? いや、そんなことよりもこの男の目的は一体なんだというのか?孫悟空は何処まで知っているというのか。

 

「何故……どうしてそれを知っているのですか!?」

 

「くく、貴様の復讐は実に美しかったぞ。あの魔法少女と貴様のやり取りはまるで演劇を見ているかのようだった。あぁ、とても愉快だったとも。」

 

「────」

 

 怒りで身体が震え上がる。しかし、ここで冷静さを欠いてはいけないと己に言い聞かせた。

 

「正義を気取った魔法少女達による悪を裁く勧善懲悪。正義の鉄槌を下すという物語、悪を裁いたという事実感、自らの手で敵を倒した達成感。

 確かに更紗帆奈は悪だっただろう。どうしようもなく混沌を生み出し混乱を齎す存在だった。だが、貴様がやった行為は果たして正義か?貴様は更紗帆奈が自害するまで追い詰めた。いや、貴様が更紗帆奈にトドメを刺したと言い換えてもいい」

 

「貴方が……それを言うのですか?殺戮者と成り果てた貴方こそ“悪”ではないと言うのですか!?人々を傷付け殺してきた貴方は!!」

 

「何を可笑しなことを言っておるのだ?悪は裁かれねばならない、それは当然のことだろう。それに貴様も同じ事を言えるのかね?間接的とはいえあの魔法少女にトドメを刺した貴様がか?」

 

「私は神浜を仇なす邪悪な存在を葬っただけです。あの魔法少女は紛れもなく───」

 

「ところで、貴様は更紗帆奈は死んだが、残された者のことを考えたことがあったのか?」

 

「────ッ!!」

 

 男の言葉に思わず口を噤む。

 残された者、それはつまり家族のことを指しているのだろう。

 私はあの日……更紗帆奈と戦った日のことを思い返す。あの時、もしも私が更紗帆奈の自害を食い止めていたら?──その未来を想像して背筋が凍った。

 もしそうだとしたら私はどうしていただろうか。仇敵である更紗帆奈の生存を喜んだだろうか?それとも家族を殺した魔法少女を仕留められなかったと後悔したのだろうか? いや、きっと後者だろう。大切な家族を殺した魔法少女を殺してやりたいという気持ちはあったはずだ。

 

「瀬奈みことの名は知っているだろう。俺がこの世界にやって来た時、彼女との邂逅を果たした」

 

 瀬奈みこと───更紗帆奈と共に行動している魔法少女であり、行方不明となった魔法少女。

 彼女とは何度か顔を合わせたことがある十七夜さん曰く、とても気さくで人懐っこい性格だったらしい。

 だが、行方不明だったはずの彼女が孫悟空と接触していたのか?まさか彼女も……!?

 

「幾度の問答の末、彼女は俺の問いに対し、こう答えた。“私の温もりも安らぎも全て奪ってきたこんな世界や人間を全部滅ぼしてやる。だから私に協力しろ”とな」

 

「──────なっ」

 

「貴様はあの魔法少女の絶望しきっていた顔を見たか?あの憎悪に満ちた瞳を見たか?貴様の家族を奪った悪しき魔法少女の友は、この世界を憎んでいたぞ?」

 

「…………」

 

「貴様は罪人だ、更紗帆奈に手を差し伸べなかった時点から貴様は悪だ。そして、更紗帆奈を自害にまで追い込んだ時点で貴様も立派な悪だ。いや、それ以前だな、奴一人に対し貴様は徒党を組んで囲んでいた。正に悪の所業。俺一人で皆殺しにするよりも楽で効率的だろうな。羨ましい限りだなぁ?」

 

「────ッ!!」

 

 確かにその通りだ。私は……私達は更紗帆奈を追い詰め、そして最後は自害に追い込んだ。それは紛れもない事実だ。

 だが──それでも!!

 

「だとしても私は悪ではありません!あの魔法少女は己の欲望のままに混沌を繰り返してきた!そんな存在を野放しにすれば、それこそ罪のない人々が犠牲になる!!」

 

「ならば貴様は正義か?考えてみるがいい、魔法少女とは本来魔女と対立した人々を守る存在なのだろう?過程はどうあれ、見ず知らずの人間共を最終的には守る連中だ。だがな、更紗帆奈のように人間に最期まで混沌をもたらす存在が居る時点で欠陥品なのだ。

 いいか?これは罪なのだ。世界に対する──否、人間に対する罪なのだと。人間共の悪意が奴に集中砲火するようなことが無ければああは成らなかったと。奴の取り巻く環境が悪しきものでさえ無かったら貴様の家族にも害は及ばなかっただろうな。

 ならば良し、俺がその罪を浄化してやろう。この世に蔓延る悪を滅尽するまでだ」

 

「ならば貴方は善だと言うのですか!?罪のあるなし関係なしに、ただ殺戮を繰り返していた貴方は!!」

 

「神が行えば善となることも人が行えば悪となり罪となる。貴様に分かりやすいように言い換えれば法が人を殺すのであれば、その法は善。人が人を殺せば罪となり罰が下るということだ。

 故に法である神が、神である俺が裁きを下そうがなんら問題はあるまい」

 

「詭弁をッ!!そのような理屈が罷り通る筈がないでしょう!?罪のない人々を無作為に殺すことが善である筈がない!ましてはそれが神を名乗る貴方が行うのであれば尚更です!!」

 

「クク、"みんな"の承認で得た“正義”とは心地好かっただろう?みんなの為、神浜の為という大義名分を掲げれば好き勝手に悪人を切り裂く行いごと許された。さぞ気持ちよかっただろうなぁ?」

 

「───それ以上の侮辱はもう許さないネ!!」

 

 瞬間、私と孫悟空の間に割り込む形で、美雨さんが駆け出して男に向けて爪のように数多の日本刀がまっすぐ伸び、そして生えた刃を振り下ろした。

 これ以上の仲間への侮辱は許せないといわんばかりに美雨さんは孫悟空に向かって攻撃したのだ。

 だが、美雨さんの爪が男を切り裂く寸前で男は目にも止まらぬ速度でその場から飛び退き、数メートル離れた位置に着地する。

 

「避けられタ!?」

 

「美雨さん!一人で突出してはいけません!」

 

「だけど、早くケリをつけないト……!!あの男が何をたくらんでいるカ───」

 

「────ッ!」

 

 美雨さんがこちらに視線を移したその瞬間、男が瞬きする間もなく彼女の眼前にまで接近し、その拳を美雨さんの胸にめがけて突き出した。

 

「やめ──ッ!!」

 

 男が美雨さんに攻撃する光景がスローモーションのように見え、私は咄嗟に彼女の名を叫ぶ。しかし、私が叫ぶよりも速く、男の拳が美雨さんに直撃した瞬間、世界が割れたような轟音と共に衝撃が周囲に広がった。

 空間がまるで悲鳴を上げているかのように軋み、地面が陥没し、空気が震える。

 あまりにも強い衝撃に私は思わず吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた。

 

「美雨さん!!」

 

 すぐに起き上がり、美雨さんの安否を確認するために彼女の名を叫ぶが返事がない。

 まさか……いや、そんな筈はない。彼女はそう簡単にやられるような魔法少女じゃない。きっと今の一撃を咄嗟に躱して反撃に転じているに違いない。 そう自分に言い聞かせながら、私は美雨さんの姿を探す。すると──そこには信じられない光景が広がっていた。

 

「あ……あぁ……」

 

 私の視線の先には──美雨さんがいた。

 だが、その姿はあまりにも無惨だった。

 純美雨さんの上半身は跡形もなく吹き飛んでおり、断面から大量の血液が噴き出している。下半身だけになった彼女は地面に倒れ伏しており、まるで壊れた人形のようにピクリとも動かない。

 そんな……そんな筈はない。あの美雨さんが……。

 

「う、そ……そんな……」

 

「どう、して……こん、な」

 

 かこさんと私は目の前の光景を受け入れられず茫然としてしまう。

 そんな私とは対照的に男はまるでゴミを見るような目で地面に倒れ伏す美雨さんだったモノを見下ろしていた。

 

「他愛もない。無様なものだな」

 

「お前ぇぇええ!!美雨を、美雨を殺したのか!?」

 

 あきらさんが激昂しながら男に向かって駆け出す。

 叫びを置き去りにするような速度で男に接近した彼女は、そのまま男に殴りかかった。

 

「ククク……実力の差が分からぬか?お前の出番なんぞ無いことを知れ」

 

「ふざけるなぁ!美雨を返せぇぇえッ!!」

 

 あきらさんは怒りの咆哮を上げながら男に殴りかかるが──その拳は男の手によって受け止められる。

 

「なっ!?」

 

 驚愕の表情を浮かべるあきらさんに対し、孫悟空はニヤリと笑みを浮かべると掴んだ彼女の拳を強引に引き寄せた。

 その瞬間──男の拳が凄まじい速度で突き出される。その一撃はあきらさんの腹部に直撃し、彼女を大きく吹き飛ばした。

 

「ぐぁぁああ!!」

 

 吹き飛ばされたあきらさんはそのまま地面を転がり、苦痛の声を上げる。

 

「かこさん!!」

 

「は、はい!!やぁぁああ!!」

 

 かこさんは杖の先端から緑色のビームを放ち、男を牽制する。しかし、男はビームを躱す素振りも見せず、ただ掌を前に突き出してそれを受けとめた。

 その行動に驚きつつも、私はあきらさんの元へ駆け寄った。

 

「大丈夫ですか!」

 

「うぐ……ッ!な、なんとか……」

 

 腹部を押さえながら苦悶の表情を浮かべるあきらさん。その顔色は悪く、額からは脂汗が滲んでいた。

 

「はぁ……はぁ……」

 

「無理はしないでください。ここは私とかこさんで食い止めます。だからあきらさんは──」

 

「だ、大丈夫……まだやれる……!」

 

「ですが……」

 

「……ここでボクが逃げたら、また同じことの繰り返しになる。だから……お願い。美雨の仇をとる為にも」

 

 あきらさんは腹部を押さえながら立ち上がり、再び戦闘態勢をとる。そんな彼女の瞳からは強い意志が感じられた。それは絶対に譲らないという覚悟のようなもの。

 

「分かりました……ですが、危ないと思ったらすぐに下がってください」

 

 あきらさんの覚悟を無下には出来ない。私は彼女の意志を尊重しつつ、敵の打倒に専念することを決め──グシャッ!!

 

 突然、何かが潰れるような音が響いた。

 そして──

 

「あ……あぁ……」

 

 あきらさんの呆然とした声。私は彼女の視線を辿るようにそちらに顔を向けた。するとそこには──かこさんの頭が踏み潰されている光景が広がっていた。

 

「かこさんッ!!」

 

 思わず叫ぶ私だったが、既に手遅れだった。かこさんの頭部は完全に潰れており、地面には血溜まりが出来上がっている。そして──身体全体も既に原型を留めていなかった。

 

「────」

 

 目の前の惨状に愕然とする私だったが、孫悟空はそんな私の心などお構いなしといった様子でかこさんだったモノを踏み潰しながらこちらに近付いてくる。

 

「よくも……よくもぉおお!!」

 

 私は怒りに身を任せて男に向けて飛びかかる。だが、男は私の攻撃をあっさりと躱すと、そのままカウンターの要領で拳を突き出してきた。

 

「ぐぁ……ッ!」

 

 その一撃を腹部に受けてしまい、私はその場に崩れ落ちる。そして──男が私にトドメを刺そうとした瞬間だった。

 

「うおぉぉおおお!!」

 

 あきらさんが雄叫びを上げながら男に向かって背後から飛び蹴りを放つ。しかし──男はそれを読んでいたかのようにひらりと身を躱すと、そのままあきらさんの足を摑み、そのまま地面に叩きつける。

 

「がッ!?」

 

 あきらさんは苦悶の声を上げながら、地面に叩きつけられた衝撃で顔から血を吐き出す。そんな彼女をお構い無しに反対方向へともう一度叩き付けた。

 

 ギシャッ!!

 

  あきらさんの頭部が破裂し、脳漿と血液が周囲に飛び散る。顎から上の部分が剥き出しとなり頭蓋骨も脳みそもぐしゃぐしゃになっていた。

 まだ身体がピクピクと痙攣しているが、男は最後の一撃と言わんばかりに、地面に倒れるあきらさんを建物目掛けて投げ飛ばした。

 そして──目ですら追えないほどの速度で壁に激突した結果、あきらさんの身体が潰れ、そのままズルリと地面に落ちた。

 

「どんな気分だ?仲間を目の前で殺される気分は」

 

「…………」

 

 私は無言で孫悟空を睨み付ける。だが、憎き仇はそんな私の視線など気にも留めず、再びこちらに向かって歩いてくる。

 

「お仲間とやらと友情ごっこは楽しかったか?あいつらは哀れなものだ、貴様が俺を倒すと業を煮やし、率いれた結果がこのザマだ」

 

 男は呆れたように肩を竦めると、そのまま私の目の前にまでやってきた。

 

「……やめろ……」

 

 私の口から声が漏れる。抱く想いが怒りなのか悲しみなのかも分からない。ただ、口から言葉が漏れるだけだった。

 

「奴等にも大人しく逃げ回らせていれば死なずに済んだかも知れないのになぁ?神浜の街や地区が壊滅した情報───すなわち、そこの代表の魔法少女すら敗れたという事実を聞いた時点で尻尾を巻いて逃げていれば良かったものを……一体どういう神経をしていれば、わざわざ俺の前に姿を現してまで討つなどと宣うのか」

 

「…………やめろって、言ってんだよ!!」

 

 更紗帆奈のことが頭に過った。彼女のあのムカつく笑みが、そして彼女の言葉が頭に過っては消えていく。

 ───ぐちゃぐちゃになるのってさ……!本当におもしろいねっ!

 ───あっは!あはははは!!

 

「そのムカつく声と顔で……これ以上、喋るなぁぁあああッ!!」

 

 私はありったけの魔力を放出させながら男に向かって駆け出す。もう何も考えられなかった。ただ目の前の男を葬り去りたい一心で刃を振るった。

 

「おいおい、この期に及んで実力の差がまだ分からないのか。感情に頼りきった攻撃が当たるとでも」

 

「黙れぇぇええッ!!」

 

「───馬鹿な人間風情が」

 

 孫悟空は私の攻撃を容易く避けると、そのままカウンターで拳を打ち込んでくる。私はその拳を咄嗟に刀でガードするが──刀が粉砕され、そのまま私の腹部へ直撃し、貫通した。

 

「ぐふっ──」

 

 口から大量の血液が飛び散り、意識が朦朧とする。私はその場に倒れ伏し、もう指一本すら動かせない状態になってしまった。

 男はそんな私を見下すように一瞥すると、そのまま私の身体から腕を引き抜く。支えを失った私は地面に倒れ込んだ。

 傷口からは大量の血液が流れ出ており、視界もぼやけてしまっている。それでも私は立ち上がろうと身体に力を込めるが──もう私の身体は限界を迎えていた。

 

「何故……何故!」

 

 私はうわ言のように呟く。男に見下ろされながら、私はぼやけた視界で男を睨み続けた。

 湧き上がってくる憎しみと怒り。だが──その憎悪すらも徐々に薄れていくのを感じた。そして次第に思考回路に靄がかかっていくような感覚に陥る。

 

 しかも、こちらを見下ろす黒衣に染まる男の姿が何故か薄い水色のツインテールをした髪型、ぼやけてよく見えないが黒色と水色を基調としている魔法少女の衣装を着ている知らない少女と重なって見え始めた。

 誰だか分からない。

 けれど、その少女は途方もない怒りと悲しみ、そして絶望が混ざったような表情を浮かべながら憎むように見下ろしている。

 

 あぁ、なるほど。あの男が言っていた更紗帆奈の友人──瀬奈みことさんとはこの人のことだったのですね。

 

 薄れゆく意識の中で私はぼんやりとそんなことを思った。そして、男?少女?の掌から放たれた眩く、どこまでも絶望でしかない光に包まれた瞬間──私の意識は深い闇の中へと沈んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 






Q.何でゴクウブラックが更紗帆奈のことを話題に出したのですか?

A.ななか達を挑発して逃げられないように仕向けるためです。ななか達にとっては完全に交通事故でした。


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