絶望の協奏曲   作:漆黒の人

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今月中に何とか出来た……


第二十三話 ファイナルやちよ

 

 

 

 

 

 黒い風が唸っている。

 

 滅び行く神浜で純白と漆黒の二つの極地が対峙していた。一つは希望に輝く魔法少女。そしてもう一つは絶望と闇を具現化した存在。

 お互いに既に理解している。どちらも相容れない存在であることを。

 希望と絶望は相容れない存在。例えば、総てに裏切られ失望した者が反逆を企て、混沌に陥れようとしても、みんなの善き心と祈りが希望を授け、その反逆の企みを打ち砕くだろう。あまりにも極端な考え方だが、希望と絶望はそういう関係なのだ。

 故に、どちらかが淘汰される運命にあることは明白であった。

 

 七海やちよは槍を構える。奇跡を齎した希望の光。そこに備わるは希望と想い。魔法少女に語り継がれる歴史上ですら、ここまでの奇跡は見たことがない。

 あの伝説と謳われたワルプルギスの夜すらも容易く打ち破るだろう。

 そんな力を手にした七海やちよは慢心など一切していない。

 むしろ、その逆だ。

 今までの自分よりも遥かに強くなったことを実感し、同時に己の力不足を痛感していた。相手から伝わる強大な力。それは、今まで相手にしてきた相手とは異次元の存在だ。地平線が見えるほどの巨大な山と認識していた強さの感覚が、戯画めいて映るほどに桁外れた空に浮かぶ星と認識する程に。

 相手の強さを肌で感じ取り、その強さに身震いする。

 だからこそ彼女は油断などしない。慢心など以ての外である。

 

 善なる祈り。希望の光。

 この世界の数十億の想いの結晶。億に昇る程の数の力。かつて、トランクスという勇者のように生き残った僅か十数万のみんなの願いと祈りと比べたら質はともかく、数として見たら断然こちらの方が遥かにに強力だろう。

 そして──それらの人々の祈りと願いを力に変え、魔法少女としての真価を発揮した七海やちよは、この地球上に存在する全ての希望を背負った存在となっていた。

 意識的ではなく、無意識的に。潜在意識からのみんなの声援を一身に受けながら力が上昇するのだ。

 勿論、意識的に希望を与えた者も居るだろう。男によって殺された魔法少女達や人々の魂や残留思念、そして希望の光はやちよに力を与えた。

 街や都市一つだけではなく、ワルプルギスと黒衣の男の戦いの余波で天変地異が発生し、知らず知らずのうちに物語の外だからと巻き沿いとなった人々の祈りもやちよに力を与えている。

 黒衣の男によって壊滅させられた二木市の人々や魔法少女達の願いや想いも、やちよに力を与えていた。

 

「希望の光……か。またか、またなのか人間は……人間は常にみんなとやらの力を組んで神をも越えようとする。何故だ?一人では弱いからか?一人では何も出来ない故なのか?これだから人間という知的生命体は度し難い」

 

 男は忌々しげに呟くと、再び槍を構えたやちよに向かって駆け出す。

 

「だがな……たかが人間風情が力を合わせたところで神を倒せると思いあがるなぁ!」

 

 刹那、孫悟空が七海やちよの目の前から消え背後に回った。瞬間移動ではなくただの高速で。魔法少女ですら捉えることが出来ない程のスピードによって死んだことすら気付かせなく殺すつもりの速度だろう。

 そして、男は彼女の背後から無数の気弾を放つ。それはまるで流星群のように降り注ぎ、地面に着弾すると爆発し衝撃波と土煙を巻き起こす。

 だが──そこに既に七海やちよの姿はない。

 槍を振り抜いた体勢のやちよは、瞬時にその場から離脱し男の背後へと回り込んでいた。そして槍を振り下ろす。

 

「ッ!!そこかっ!」

 

 男は驚きの声を上げるが、すぐに冷静さを取り戻すと迫るやちよの一閃を、気配で察知し手に気を纏わせた闇色の気の剣でやちよの槍を掴むように受け止め防ぐ。黒衣の男が作ったそれは空間すら容易く切り裂くほどの切れ味を誇るが、やちよの槍もまたみんなの希望と祈りで生まれた武器だ。

 

「ぬぅっ!!神である俺が、力において押されるだと……?」

 

 攻めぎ合う二つの力。

 苦悶の声を上げるのは男の方から。膂力に於いてやちよの方に天秤が傾いている。段々と男が押されていく。このまま行けば、やちよの槍が男の身体を吹き飛ばし、追撃をまともに受け勝負を決められるだろう。

 だが──そうはならなかった。

 

 刹那、男から眩い黄金の閃光が放たれる。

 髪は逆立ち、金色に染まり、身に纏う闇色の闘気もまた黄金。瞳はエメラルドグリーンの輝きを放ち、存在としての強さが一気に五十倍程跳ね上がる。

 超サイヤ人。一千年に一度に現れると云われる伝説の戦士。

 男はその超サイヤ人へと変異したのだ。

 

「なっ……!?」

 

 やちよは驚愕の声を上げる。当然だ。

 目の前の存在が急激に何十倍ものの力を増したら、誰だって驚く。

 

「調子に乗るなよ」

 

 男はやちよの槍を振り払うと、そのまま超サイヤ人へと変身した状態で蹴りを放つ。その威力は凄まじく、咄嗟に槍で防いだものの衝撃で吹き飛ばされてしまう。

 

「ぐっ……!!」

 

 何とか空中で体勢を整え着地する。そしてやちよは、男の超サイヤ人へと変身した姿を見つめていた。

 

「まさか……こんな隠し玉があったなんて……雰囲気も、さっきまでとは比べ物にならないわね」

 

 やちよは冷や汗を流しながら呟く。

 

「そうだろう。そして覚えるがいい、偉大なる存在というものは輝かしく、そして尊いものだ」

 

「……??急に何を言っているのかしら?」

 

「理解出来ぬのも無理もない。今、貴様の目の前で輝いて見えるのは俺自身だ。お前が目を眩ませるほど輝いているのは、俺が神であるからだ。黄金というモノは、古来より神性を持つモノとして尊ばれてきた。そして──今、俺はソレを纏っている。お前はこれを感じるそれは何だ。美しさか?それとも崇高なる心か?或いは神々しさか?美しさとは心に安らぎや穏やかさを齎す。

 だが、神々しさとは心に安らぎや穏やかさをもたらすと同時に畏敬の念を抱かせるものでもある。ならば俺はまさにその双方を兼ね備えた存在だ。

 人間どもの力で纏ったお前の黄金は、所詮は仮初めのモノ。真の黄金は、神である俺のみ纏えるのだ」

 

「へぇ……貴方って意外とお喋りなのね。何を言っているのかさっぱり分からないけど、そこまでナルシズムを極めるなんて本当に気持ち悪いわ。自己中心的がマシに見える程にね。

 だけど、人間を殺すって言う割にはただの癇癪で、神である自分が人間より優れていることを証明したいとしか思えないわ」

 

「黄金を相手するのもまた黄金。その光を前にすれば、人間ごときでは己が矮小さを恥じて平伏し許しを乞うだろう。これは聖なる神託だ。神の啓示だ。人間ごときが抗えると思うな」

 

「本当に話が通じないわね、まぁでも貴方の言うその人間ごときに敗れるかもしれないわよ?貴方が神であるというなら、その高みから引きずり落としてあげるわ。

 ──それに、人間ごときが相手にならないと言うけれど、それは貴方も同じことでしょう?貴方は神であることに胡座をかいているだけで何の努力も研鑽もしていない自分の価値観で好き勝手にする愚か者よ」

 

「その傲慢こそ人間の愚かさを証明する罪だ。所詮は人間風情、俺が告げる神託を理解出来るはずも無かったのだ。ならば良しだ、俺がその卑しな心根をへし折ってやろう」

 

 男はニヤリとやちよを見つめ返すと槍を構える。そして己のことを侮辱した愚か者に天罰を下さんとばかりに、超スピードでやちよへと肉薄する。

 

「その慢心が命取りになるのよ、()()()

 

「──何故その名を……!?」

 

 男が驚愕の声を上げると同時に、やちよは槍を突き出す。男は咄嗟に身を捻ってかわすが──その動作と勢いが斬撃の威力を引き上げ、男の腕から鮮血が舞う。

 

「ぐうっ……この力は……沢山の力が混ざり合い相手を抉る力を感じる……俺が殺した人間どもの力か……!」

 

「えぇそうよ。貴方が殺したみんなの力が、貴方の言う人間ごときが貴方へと牙を剥いているのよ。常盤さん達の思念と願いが、神浜の人々の希望が、世界中の優しい想いが、貴方のソレを凌駕しているのよ」

 

「……そいつが死んだことを話すということは、やはり読心術を心得ていたか」

 

「読心術?少し違うわ。私はただ、みんなの心の声が聞こえるだけよ。魔法少女達や人々の想いが……」

 

「!……なるほどな。それがお前の魔法というわけか。魔法少女や人間どもの総体であるお前ならではの能力だな?先程俺の心を読んだのは、和泉十七夜の声でも聞いたのか?」

 

「さぁ……どうかしらね。答える義理は無いわ」

 

「だが、真名を見抜いたのはいいがそれ以上は俺の力は分からんようだな。いや、探ろうとしても何故か探れないだろう。まるで俺の内なるナニカが邪魔しているかのようになぁ?」

 

「────」

 

 やちよは答えない。

 図星だった。今、目の前にいる男の真名を読み取ることが出来たが、その真名から過去が見えてこない。いや──そればかりか、やちよは男の内なる存在に妨害されてしまっていた。

 やちよはみんなの想いで別の記憶や心を探って情報を探るが、まるで霧がかかっているかのように上手く読み取れない。別の誰かがそうさせないようにしているかのように。

 

「だとしても───」

 

 そうだ。男が神だろうと関係ない。

 たとえこれ以上男の正体を見抜くことが出来なくとも、それでもやちよに出来ることは何も変わらない。

 やちよにはみんなの希望がある。人々の祈りと願いが力となった槍がある。

 

「貴方を討つことには変わらないわ!ザマス!!」

 

 彼女は槍を構え、孫悟空──ザマスに向かって駆け出す。それを受けてザマスも、武道家のように構えてやちよに向かっていく。

 二人の距離は一瞬で縮まり──そしてぶつかり合う。

 今までとは比べ物にならないほどの衝撃が周囲一帯を包み込み、轟音と共に地面が陥没し罅割れると地割れが起こる。お互い力と速度を最大限に高めた一撃がぶつかり合った。

 

 槍と拳の鍔迫り合いだ。やちよは、ザマスの拳を弾くとそのまま間合いを詰めて刺突を放つ。その突きをザマスは前に足を踏み込むことで避けながら、体を捻って背後に回ろうとし──その瞬間にやちよは槍を回転させ、なぎ払いを放つ。

 それを察知したザマスは大きく跳躍することで攻撃を躱すと、空間を歪めるほどの蹴りを放った。それに対しやちよもまた大地を大きく穿つ一撃を放ち相殺すると、両者の間に爆発的な衝撃波が走る。その衝撃により周囲の地面がめくれ上がり、クレーターが出来上がる。

 

「ザマス、人を殺し続けてどうなる。終わったら何が残る」

 

「神が残る。理想郷を築いた美しい神がな」

 

「貴方の言う理想郷は屍の上に立つ殺戮者の妄言。血に穢れた……ただの異常者よ」

 

「貴様に理解してもらわずとも一向に構わん。服従する必要はない、ただ滅びるがいい」

 

「……■う」

 

「俺が滅びを齎ずとも力無き者は強者に良い餌扱いとなり死ぬ。この世界とはそういうものだろう?魔女といい魔法少女といい……前者は己の欲望に忠実して人間を補食し貪り食い、後者はグリーフシードを巡る愚かな争いを行う。

 そうして敗者と成った魔法少女はソウルジェムが穢れ軈て(やがて)魔女と成る。ああ、結局残るのは怨念をばら撒く魔女ではないのか。自分の意識すら儘ならないまま、キュゥべえの思惑通りに物事が進み人間どもを食い散らかし最終的には魔法少女に狩られグリーフシードと化す。ならばいっそのこと皆滅べば等しく醜い格差が出来ないと思わないのか?」

 

「違う!!!」

 

 そんなのは認めてたまるか!そんなふざけた理屈でみんなを殺していい理由になってたまるか!そう強く魂からの叫びをあげた。

 彼女は後ろに跳躍して背後から突如として無数の槍が出現する。それは七海やちよが手に持つ槍と総て類似したモノでありひとつひとつがみんなの祈りが込められいる。それらがザマスへと一斉に高速で射出され雨のように激しく降り注ぐ。

 アブソリュート・レイン。彼女が長年の魔法少女として戦いによって編み出した必殺技だ。神を穿つ刃の如くザマスに目掛けて放ったのだ。

 

 彼はそんな無数の槍を紆余曲折のように回避し掠りながらも自身の剣で斬りつけ、打ち落とす。それはさながら大地を舞う曲芸師のようだ。

 

「誰もが平穏に生きたいと想っている!!みんなが幸せに生きたいと願っていた!!……命とは他の誰かに蹂躙されて良いものではない!ましてや貴方のような身勝手な奴に!!」

 

「ふん……貴様ら人間とて、生きたいと願っていた家畜や畜生などの命乞いに耳を貸したことはないだろうッ!!」

 

 男は射出された槍を全て打ち落とすと即座に接近戦を仕掛ける。

 そして──二人は同時に間合いを詰めると再び激突する。二人の拳と槍がぶつかり合う度に、衝撃や火花が飛び散り大気を震わせる。常人では視認することすら不可能な速度で繰り広げられる戦いは、最早人知を超えており何者でも介入することが難しい領域に達していた。

 殴り、抉られ、穿たれ、切り裂かれ──それでも両者は一歩も引かず戦い続ける。

 その攻防は永遠に続くかと思われたが──徐々にやちよの方が押され始めていた。理由は単純明快だった。単純にザマスの力が上昇していっているからだ。最初は互角だったが、今はやちよの方が押されている。

 

 原因は、ザマスが神であるという確固たる存在基盤と、サイヤ人の肉体による底無しの成長速度だ。

 戦いの中で、ザマスは己の中に眠っていたサイヤ人の力を引き出していっている。打たれれば打たれる程に、強者と相対すればする程に、闘争本能が刺激され、眠っていた力が解放されていくのだ。

 結果、ザマスは強くなっていき──やちよは押されてしまう。

 

「終わりだ!」

 

 男の拳がやちよのソウルジェムへと叩き込まれる。希望が砕かれるようにソウルジェムが粉々となる。それを意味するのは魔法少女の絶命であった。

 やちよのソウルジェムが砕けたと同時に、彼女の変身が解除される。それはすなわち、希望が絶望に屈したことになる。これより人々の最後の対抗手段がなくなり、一方的になぶり殺されるだろう。

 

 だが──そんなのはお断りだ。

 

「な……!?」

 

 驚くことに、砕け散ったはずのやちよのソウルジェムは元の形を取り戻していた。それどころか、どんどん力が増していくではないか。そして、やちよの姿も変身した姿に元に戻っていく。

 

「まだよ……みんなの生きる想いが、私をこの世界に留まらせてくれてる!私の中にあるみんなの希望が、私に生きる力を与えてくれるのよ!だから、まだ終わりじゃない……ここで負けられないわ!」

 

「何故だ……何故、お前は消えない?お前は一体何なのだ」

 

「貴方には聞こえないのかしら?人々の命の煌めきが、みんなの声が、願いと祈りで繋がった優しい光は。貴方のように誰かを傷つける力や、誰かの命を奪う力でじゃない。こんなにも……こんなにも叫んでいるのに……!」

 

「意味が解らないぞ、なんだこれは……?」

 

 やちよの想いに呼応するように、周囲が輝き始める。それはまるで、幾千幾万もの小さな星が空を覆っていくかのようだった。

 

「みんな泣いているのよ……心から悲しんだり、怒りや憎しみを叫んだりして。悔しくて、貴方なんかに蹂躙されてしまって、辛くて、たまらないのよ……貴方にはその悲痛な叫びが何も聞こえない、何も感じてすらいない。みんなの痛みが、みんなの嘆きが何も感じないから……だから平気で人を殺すことができるのよ……!」

 

 やちよの言葉に呼応するかのように、輝きは更に増していく。それに伴い力が漲っていくのを感じる。

 膨張や巨大化ではなく、より高密度に、より高純度なものへと変貌を遂げているものだ。

 

「馬鹿な……ここにきて更に力が増幅していくのか……!?」

 

「貴方をここから逃がさない。ここで決着をつける!みんなの力を、想いを、希望を背負っているの!だから私は負けられない……この命を燃やし尽くしても、絶対に負けない!!」

 

 涙を流しみんなの想いを代弁するかのように叫ぶやちよの姿は、まるで救世主のように神々しい輝きを放っていた。

 気持ちわるい、なんだこれは。

 ザマスが感じた想いはそれだった。

 目の前の少女から発せられる眩い輝きが、ザマスの体を蝕んでいくのだ。気持ち悪い──吐き気を催すほどの嫌悪感に全身を支配されそうになる。だがそれは決して彼女の放つ光によるものではない。

 このみんなの想いが気持ち悪いのだ。

 

 吐き気を堪えるのも限界に近かった。

 ああ気持ち悪い気持ち悪い鬱陶しい煩わしい不協和音だ煩わしい。この少女は何だ、何なんだ。 ザマスはサイヤ人達との戦闘でもここまでの不快感を感じたことはない。むしろ彼らは自分の力をより高めてくれる最高の供物であり贄だった。今まで多くの人間を喰らい力を増してきた経験上、戦闘で高揚感を覚えることはあれど不快感を覚えたことはなかったのだ。

 

 だが、目の前の少女──七海やちよは別だ。ザマスはこの少女のことがどうしようもなく気持ち悪く、不愉快で仕方がなかった。

 最早この戦いに意味などない。それどころか、こんな気持ち悪い奴を生かしておくわけにはいかないとさえ思い始めていた。

 超サイヤ人ロゼ。

 ザマスがその領域まで到達したのも、全ては人間を滅ぼすという野望のため。

 その夢を実現するためならば、たとえ相手がどれだけ気持ち悪かろうが関係はない。だからここでこの小娘を消し去ろう、ロゼになった状態で怒りで新たな力を得たあの大鎌で両断してしまおう。

 時空さえも切り裂くあの神器ならば、目の前の少女をバラバラにすることなど造作もないことだ。

 そうしてザマスは神としての圧倒的な力を行使しようと───

 

『ねぇ、黒ちゃん黒ちゃん』

 

 声が聞こえた。それは男の内なる存在からの女の声だった。

 瀬奈みこと。魔法少女に転移していた時にザマスに寄生するように、彼の中に入っていった思念体のような存在である。

 そして、男は七海やちよに声が届かないよう小さく呟くように返事する。

 

「……なんだ」

 

『ひとつ聞いてもいい?七海やちよから、記憶を読まれないために妨害してたけど……ちょっと気になったことがあるの』

 

「……言ってみろ」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「何?」

 

『すごく不思議なの。想いとか祈りとか曖昧すぎてわからないけど、そこら辺にいるたった一人の魔法少女が星とか壊せちゃう黒ちゃんと渡り合えるまで強くなれるって理解が出来なくない?』

 

「…………」

 

 みことの問いに、ザマスは口を閉ざした。

 普通に考えてみればおかしい話だ。一つの惑星どころか街一つ破壊出来ない魔法少女がここまで強くなっているなんて。宇宙に散らばる無数の銀河に、その銀河に散らばるたった一つの惑星の極小な世界に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のか、疑問に残るのだ。

 これが単純にトランクスのようにサイヤ人の如く超強力な人間の細胞を持っているというだけならいいが、そうは思えない。

 

「確かにな……」

 

 そもそもこの世界にサイヤ人のような存在など有るかどうかも分からない。となると、考えられるのは外部からの力と考えるべきだが……。

 

「……?」

 

 何か違和感を感じた。嫌悪感とは違う確かな違和感。一体なんだ?ザマスはその違和感の正体を突き止めようと思考を巡らせる。しかしいくら考えても答えは出ない。

 ならば戦いの中で観察することとしよう。そう思い、ザマスは再び少女の方に向き直る。

 再度力がぶつかり合う。殴り合いではなく集中力を最大限まで高め、尚且つ戦いながらも観察に専念してみる。かつて下界を見下ろした経験をここで生かさずしてどうするのだザマスと自分に言うように。

 相手の一挙手一投足を脳内にインプットして分析と解析を繰り返す。細胞が超高速で血管を巡る感覚に浸りながら脳内をフル回転させ、馬鹿げた力の要因を探す。

 

 激突による余波が崩壊した街を震撼させる。共に正面から己の武器をぶつけ合った七海やちよと孫悟空。彼は傷付き力が上昇し黄金のオーラが更に凄みを増す。

 そして、七海やちやはダメージを受ける度に奇跡の輝きがより濃密に増していく。まるで彼女の想いに呼応するかのように───!!

 そこでザマスは気が付いた。彼女の、やちよの想いとこの輝きの正体に──その疑念が確信に変わると同時に戦慄を覚える。

 

 みんなの想いをただ足し合わせるのではなく、積み重ね紡ぎ合わせることで巨大なエネルギーとする。そのエネルギーを以てして、更に奇跡を束ねることで限界を超えて神の領域まで到達する。

 つまり、ひとつひとつの善なる想いが、祈りが、願いが、ポタラで合体するようなモノだ。

 掛け算のように、束になればなるほどその力を何千、何万、何億倍にも果てしなく膨れ上がらせていく。相手によってはそれ以上に無限に上昇するかもしれない。

 そして──()()()()()()()()()()のだと。

 

 なるほどこれは確かに興味深い。

 あの時、破壊神を越えた絶対神となった自分を、精々数十万人の祈りで不死身すら凌駕し両断したあのトランクスの業にも説明が付くものだと彼は思考する。

 だが、恐ろしい。それはあまりにも危険な力だ。

 人間の身でありながらみんなの祈りとやらで神をも凌駕する力を体得し、傲慢に振る舞う混血サイヤ人と地球人。この地球に住まう数十億のみんなの力が掛け合わさっているとすれば……。

 

 このままではまずいかも知れない。

 超サイヤ人となった自分の力を上回ろうとしているのだ。このまま放置すれば最悪、超サイヤ人ロゼとなるであろう自分さえも超えるだろう。机上の空論のようなモノだがこうして渡り合える時点で不確定要素とも呼べないのだ。そうなれば、いよいよ自分は勝ち目がなくなると男は考察した。

 だか、とある一つの可能性が脳裏に浮かび上がった。

 

 同じような力で、同じような原理で、力をぶつければ相殺できるのではないか?と。

 

 オリジナルの孫悟空が持つ元気玉。

 トランクスが見せた忌々しい希望と奇跡の結晶とやらを身に宿した意思の力。

 七海やちよのように想いを結集させた光。

 そして、これを含んでも良いか分からないがワルプルギスの夜の如く、怨念や憎悪、全ての悪しきモノを内包した最強の闇── これをぶつけ合えば、或いは。

 

 出来るはずだ。

 孫悟空の肉体であるこの身体ならば、無限の進化を秘めているサイヤ人の肉体ならば、人間には不可能とされることを実現できる。元気玉の力を応用すれば恐らくは。

 問題はザマスに賛同する者がどこまで存在しているのかということだが……まぁ、些細な問題だろう。所詮人間という下等な生物の真似ごとだ。大したことではない。オリジナルの孫悟空が元気玉を使えたのだ、神であるザマスが使えない道理は無い。いざとなれば強引に力を集めさせるなり何なりとすれば良い。

 むしろ今は彼にとって好都合の状況だ。目の前には参考書のように光り輝く魂を持つ少女がいる。力の使い方を専門の先生が黒板に書いているように生徒に披露しているようなものだ、これを利用しない手はない。

 人間の奇跡と()()()()()をぶつけ合わせれば、あの忌々しい光の力も相殺できるだろう。

 ならば実行するまでだ。力の扱い方はこの少女を手本にしてやればいいと考えた。

 今後、トランクスや七海やちよのように人々の善なる想いを束ねて力を束ねる相手が現れた時に、こんな力が再び出てきでもしたら破壊神以上に厄介だ。

 対抗策を編み出すのに丁度良い機会。この力を研究することで、自分はより完全な存在へとなることができるだろうとザマスはそう結論付け、導いた。

 

「気付いてみれば存外単純なことだったな……。他者の意思を拾い上げて力を高める芸当などと、既にオリジナルの孫悟空の元気玉でやっている。瞬間移動やかめはめ波を習得した俺に、元気玉の真似事ごとき出来ない道理などありはしないのだ。

 ククク……故に奴が人間共の希望を束ねるとするのならば俺は───」

 

 ■■を纏うとしよう。

 彼女の悲しみも後悔も力に変え強くなり、みんなの()()を抱きすべてを懸けて挑んだ。

 これは彼女の最期の戦いの物語になるだろう。

 そして彼が砕く想い(希望)

 

 

 

 

 

 

 

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