明後日楽しみや
ってことで投稿します
善なる想いと希望の高まりは留まることを知らない。
七海やちよの魂は更に輝きを増し、力が無限のように上昇していく。
彼女の中で希望の光が膨れ上がり、どんどん力が充満していくのが分かる。
みんなの声援によって彼女を奮い立たせるだけではない。もっと根底に、かつて彼女の心にしっかりと刻み込まれた希望がある。
かなえやメル、大勢の魔法少女達やその他の人々。
死んでいなくなってしまってもなお、彼女が挫けず戦えるのは託された想いが心に宿っているから。
みんなとみかづき荘で過ごした何気ない毎日が、かけがえのない思い出が彼女に力をくれるから── 思い出せば思い出すほど力が漲ってくる。もう誰にも負ける気がしないくらいに力が湧いてくる。絶対に負けない。その想いが七海やちよに奇跡を起こす。
今の彼女なら、
それでも彼女達の力を借りることが出来たのは大きな前進であると言えるだろう。
たとえほんの小さな力でも、少しずつ積み重ねていくことで大きなうねりへと変わると言うのだ。
それに、みんなの生きる想いが彼女をこの世界に留まらせてくれている。例え、ソウルジェムが原子レベルまでに分解されたとしても、身体が完全に消え去る攻撃を受けて木っ端微塵にされたとしても、彼女はみんなの力でこの世界に復活しより強く輝ける存在へと進化するのだ。
想いを束ね、絶望的な攻撃を受けようが、それを希望の力に変える。今の彼女はそういう存在だ。
勝てる、と。
濁らないソウルジェム、無限に上昇する魔力、そしてこの希望の高まりによって七海やちよは確信していた。
相手の手札がまだ幾つかあると彼女は読んでいるが、この祈りと願いが勝つという確信があった。
誰かの想いが紡ぎ合い、力へ変わる。
負けるはずがない──
「なるほどな。分かったぞ貴様の力の源が……。想いだな?貴様は希望という想いと、他者から得た想いを束ねて力に変えているだろう。気付いてみれば単純な話だが……祈りと願い、希望の想いを紡ぎ合わせることで貴様を強くしていく。それもただ足し合わせるのではなく掛け算のように重ね合わせることで力を強くしているのだ。他者と他者の想いを重ね、更なる力を紡ぎ上げることが出来るわけだな?」
にも拘わらず目の前の黒衣の男は、解析しきったとでも言いたげに勝ち誇ったような笑みを浮かべている。まるで自分には絶対に勝つことが出来ないと確信しているかのように。
「祈りと願いを紡ぎ合わせれば無限大の力を吐き出す。人間にしか思い付かない概念ゆえつい見逃してしまったぞ。ならば考え次第だな、力の供給源があるならばそれを絶つなり奪うなりしても良いのだ、と」
男は金色と成った髪が元の黒色へと染まり、元の黒い瞳へと戻りながら語り続ける。
それを意味するのは本来の強さへの切り替えだ。五十倍の程の超サイヤ人状態を解いて通常状態へと戻したのだ。
こうなれば七海やちよとザマスの均衡は崩れ、彼は圧倒的に不利な状況に陥るのに。
にもかかわらず、男は承知の上でわざわざ超サイヤ人状態を解除した。
その狙いは一つしか無い、何かを仕掛けてくる気だ。
態々手札を捨てたということは、おそらく切り札を隠しているのだろう。
何をしてくるつもりなのか?そう考え、訝しげな表情を浮かべる七海やちよに対して、男は意味深な笑みを浮かべながらまるで無邪気で綺麗な笑顔の少女のように微笑み伝える。
「んふふ、いいチカラだ。俺も試してみるか」
耳を疑った。
ザマスは今何と言った?試す、そう言ったのか?
ありえない。模倣することなど出来るはずがないのだ。
何故ならこれは七海やちよという希望を受け継ぐ魔法から覚醒を果たした存在だからこそ起こせる奇跡なのだから。善なる想いが希望の力へと昇華されるのだ。祈り、願い、希望……これらが合わさり、さらにそれを重ね紡ぎ合わせることで不可能を可能へと変える無限大の力なのだから。だと言うのに、この悪寒は何だ?そもそもザマスは人を仇なし全ての人々を滅びに誘う邪悪な存在だ。そのザマスがみんなの希望である七海やちよの力を見様見真似で真似をして出来るはずがない。
なのに一瞬、七海やちよは目の前にいる男が異形のナニカに見えて背筋が凍ってしまった。
いや、これは直感だ。理屈ではない。そう、まるで背中にこの世総ての悪が這いずるようなそんな悪寒が全身を駆け巡ったのだ。何かが来る。今までとは桁違いのモノがザマスから溢れ出そうとしている。そんな確信があったのだ。
そう、まるで凝縮された負の感情が巨大な一と成って顕現しようとするかのような───
そして、黒衣の男はそんな彼女の思考を知ってか知らずか、一陣の風となって襲いかかって来た。
対する七海やちよ槍を構え即座に戦闘態勢を整え、相手を迎え討とうと身構える。
高速移動の如く目の前に現れた黒衣の男は闇色の刃と化した手刀を繰り出し、それを迎え撃つかのように彼女は槍を水平に薙ぎ払う。
だが、彼の動きはあまりにも遅すぎた。正確に伝えれば七海やちよの反応速度の予測よりも遥かに遅いというべきか、それはまるでスローモーションの映像でも見せられているような感覚である。
パワーもスピードもフィジカルも、何もかもが五十分の一まで低下しているのだ。その程度の鈍重な動きなど今の七海やちよならば難なく見切ることができる。
彼女の放った槍の穂先は、黒い男の手刀の一薙ぎと交差し火花を散らす。だが、力の均衡は明らかに一方的なものだ。男が繰り出した手刀は、その衝撃に耐えきれずに押し負けているのが分かる。
目の前男が何がしたいのか分からない。だけれども、力比べなら負ける訳がない。
このまま一気に槍で突き破る──そう思った次の瞬間には驚愕の色に染まることとなる。
「なっ────なによ、それ……!」
異変が起きた。
黒衣の男の周囲が霧のような、靄のような、あるいは雨雲のような不透明で仄暗い何かが気体のように辺り一帯に立ち昇りはじめる。
そして同時に、コレが何なのか七海やちよは理解した。
この場に漂う魂はザマスによって皆殺しにされた街の人々のものだ。その無念が、恨みが、殺意が、死者達の声がひしりあげ、重なり合うようにどす黒く渦巻いていき怨念と化す。
霊魂の集合体と呼ぶべきだろうか。それが空気中をゆらゆらと揺らめいている。
中には常盤ななかや他の魔法少女の顔も見え、魂を揺り動かされたみんなの表情は苦しげに歪んでいる。
力を貸してくれている殺されたみんなの祈りや想いが、憎悪や無念の想いにかき消されて
ザマスという悪しき存在を撲滅させるべくやちよに集まったみんなや殺された人々や魔法少女達の想い、祈り、願い。
まず前提として元と成る感情や想いがあった。七海やちよは世界中の善なる想いを束ねた魔法少女であると同時に、その中心はみんなからの希望の光によって作られていた。
いわば善のフィルターを通した想いなのだ。それは効率的な出力変換によって大きな力となり得た。
だが、目の前のザマスは逆のプロセスを踏んでいる。それは悪性や怠惰など善とは相容れぬ負の感情。七海やちよが善のフィルターを通し、ひとつの巨大な正と導いている一方でザマスは負の感情に染まっているのだ。
その悪性と悪性が重なり合うことでより大きな力を生み出すというのは分かる話だ。けれども、それが現象として現れるというのはどういう理屈なのだろうか? まるで存在そのものが世界を拒絶しているようなモノである。まさしくザマスという邪悪が生み出した反物質のような矛盾を孕んだ奇跡とでも言うべきか。
そんな人智を超えた出来事に動揺せずにはいられまい。だがしかし、それに驚く間すら与えられず、次の段階へと移行する。
「────?!」
ザマスが、それらの想いや祈りを、魂ごと吸い込みはじめた。
負の感情や想いが、漆黒の闇へと溶けて流れていく。喰っている。この黒衣の男は自ら殺めた人々の魂を食い漁っているのだ。
最早人の想いに対する冒涜などと陳腐な言葉では言い表せない。この行いが、この世全ての悪の所業だ。
「なるほど、理解できたぞ──こうかッ!!」
だと云うのに目の前の男はさぞや正義とでも言いたげに、人々から奪った魂やみんなの想い、そして祈りまでもを躊躇なく食らうのだ。
殺すだけでは飽きたらず喰らい、あまつさえその力を自分のものとする。
常軌を逸したその光景に、七海やちよは戦慄し絶望する他なかった。
「う……そ……でしょ……冗談じゃ、ない……!」
そんなこと出来るはずがないと目を剥くも──目の前では確かにそれが行われていたのだ。
想い、祈り、願いを束ねて紡がれる希望の糸。そのひとつにひとりの少女の想いがある。
みんなの声援、その想いが七海やちよの希望をより大きく強くしていく。
なのに今、そんなみんなからは返事がない──ザマスに吸収されている……? そんな馬鹿な話があるものか!
「ククク……ふははははッ!!いいぞ!いいぞ!みんなの想いがひとつに、俺の力として滾っていくのが感じるぞ……!!」
「惨い……なんてことをッ!みんなの想いを受け継ぐ魔法少女として……いえ、一つの生きる人として最低だわッ!!こんなの正義ですらない!貴方が忌み嫌う悪そのものよッ!!」
「おいおい、笑わせるな人間風情。貴様たち魔法少女も、人間が織り成す歴史や文化の醜さもひっくるめて
「なにを……!!違うッ!確かに、そういった嫌な面はあるわ……それでもそれを乗り越えて前を向いて歩んでいくのが人間なのよッ!!みんなは、そんな悪い想いばっかりじゃないわッ!!みふゆも!かなえも!メルも!誰かを想う願いが──!!」
「そういう考え方こそが気に食わんのだ。みんなの生きる想い?希望を胸に未来へ羽ばたく?それがなんだと言うのだ。
ああ、そうだな。皆が皆同じ想いを持っているわけではあるまいに。無意味な争い、人間の暴力で穢れる世界、欲望にまみれた人間など沢山いるぞ?そいつらの醜い想いはどうなるのだ?貴様も伊達に七年も生き延びてきた魔法少女ゆえに知っているだろう?他人を陥れ不幸にしたい、妬ましいから消してやりたい。人間が持つのはそんな穢らわしい想いもあるはずだと。
故にその人間の原罪をこの身に引き受け、罪無き理想郷を築いてみせよう!貴様ら人間共が目をそらす本質を喰らい……貴様にぶつけてやるぞ、魔法少女!!」
総ての想いがザマスへと取り込まれた。
みんなの為に祈りを捧げ、みんなの希望を紡ぎ合わせた希望の糸。それは他者から供給されたものであり、助け合って生きると謳う大義名分の上で成り立っているものだ。
だが、これは違う。自らの糧として他者の魂や祈りを喰らうなど、そんなものは魔法少女が救済という想いの元に行う〝奇跡〟とは呼べない。
希望の象徴である善なる想いは男の身勝手な欲望によって穢されたのだ。
そしてそれらを総て喰らい尽くし自分の力としたのだ。
それを意味するのはつまり、七海やちよ力の源となる総体としての希望の力が弱体化したということに他ならない。
みんなの想いの元なる魂やエネルギーがザマスに吸収されたことが決定打となり、彼女の力の源たる希望の糸は断たれたも同然であった。
「────っまだよ!まだ世界中のみんなの祈りと想いが消えてなくなったわけじゃない!」
七海やちよは折れかけた心を奮い立たせてザマスを睨み付ける。希望はまだあるのだ、悲観するにはまだ早いぞと自分に言い聞かせるように彼女は叫ぶ。
そんな強い意志に応えるかのように祈りの力が湧きあがり、槍を構える腕に力が入るのを感じた。
そうだ、まだ終わってはいない。みんなやみんなの想いはまだ残っているはずだ。
祈りの力が消えてなくなったわけではないのなら、希望はまだここにあるのだ。この力を握り締めればまだ戦える!七海やちよは改めて強く自分に言い聞かせる。
決意が漲り力が弱体化以前よりも上昇した。
「トランクスといい、紅晴結菜といい……貴様といい、その根拠のない自信はなんだ?何をしたところで無駄だろう。どれだけ足掻こうが神には勝てぬと知れッ!」
だが、せめぎ合っていた手刀と槍を、黒衣の男はどす黒いみんなの想いを纏い渾身の力をもって振り抜き押し退けられ斬撃として放つ。
凄まじい力の奔流に七海やちよの体が弾き飛ばされ、宙に浮く彼女に向けて再び死を孕んだ一撃が迫る──!
何百、何千、何万ものの魂と祈りの力を掻き集め、力を束ねた巨大な一撃は七海やちよの身体を消し飛ばすには十分な威力を秘めている。
絶望的な力の差。天と地ほど離れた実力差。敵うはずがない、最初から分かっていたはずだ── でも、それでも決して諦めるわけにはいかない。祈りやみんなの想いは決して消えてなどいないのだから。
「いや、まだよ!ここで膝を屈するわけにはいかないわ!!」
黒衣の男が放った一撃が七海やちよの身体に到達し、原子レベルで跡形もなく消し飛ばされても尚、再び甦り舞い戻る。
まだ生きるという誰かの想いが、彼女をこうして現世に留まらせているのだ。
つまり、ザマスがかき集めて放った負の感情や祈りなどの力よりも七海やちよの束ねた生きるという想いがまだ上回っているということである。
「しぶとい奴め。もう死に晒したらどうだ」
「貴方のような身勝手な男に、私達の生きる想いを潰させはしないわ!今、ここでなんとしてでも……!!」
倒れる度に強くなり立ち向かう。己こ希望の糸が途絶えたとしても、代わりに人々の想いや祈りが集まって七海やちよを立ち上がらせてくれる。
ならば何度だって立ち上がってやる。更なる進化をみせた希望の糸を再び紡ぎ直して、この命を賭してでもみんなを守り抜いてみせる。
天井知らずの希望の光が、魔力が、七海やちよを奮い立たせ、人々を仇なす絶望を薙ぎ払い、希望を紡ぐべく躍り狂う。
それはまさしく人の持つ勇気と力の結晶とも言うべき姿であり──人が人たる所以の尊さを感じさせる光景でもあったのだ。
「みんなの想いをこもった数多の槍で、貴方を倒す!────アブソリュートレイン!!ハッアアアアッ!!」
彼女の言葉と同時に、背後から幾千万もののみんなの想いを紡ぐ祈りの槍がまるで、この地に降りし悪を滅ぼす為に現れた勇者のように現れ、そして射出される。どれもこれも全て巨大な悪を一撃で仕留める善なる者の最終兵器。真に恐ろしいのは力による破壊の規模ではなく悪に対する究極の特効魔法。
例えどんな魔法や結界を張ろうとも、彼女の槍はそれらを貫いて突き進むことだろう。悪である以上、あらゆる原理や法則を無視する理不尽な力だ。
みんなの槍は光速すらも凌駕する。人類では観測不可能な域までの速度で貫く。そして最後の一押しにと槍は発射され、これを浴びてしまえばタダでは済まないであろうという最強の一撃必殺の魔法の軍勢。
それらは一斉にザマスへと襲いかかり、一瞬にして彼はみんなの祈りによって滅んでいき彼女は勝利するだろう──
「そうか、まだ抵抗できる程の想いが残っている様だが……まぁ良い。お前の存在は俺にとっても想定外だったが、これで終わらせてやろう……かめはめ波ァァアッ!!」
だが、なんという光景だろうか。そんなモノを知るかと空気を読まないよう両手から放たれた膨大なエネルギーによって、幾千万の全ての想いの槍がまるで薄汚いゴキブリを駆除されるように簡単に消し飛ばされ、七海やちよを飲み込もうと迫る。
先程までの斬撃とは二次元も三次元も上回る程の強大な一撃。青天井に膨れ上がる絶望の力。これに抗う手立ては今の彼女にはない。もはや詰み、これを前にすればどんな希望も想いも紙屑のように呆気なく散るのだろう。だがしかし──いや、だからこそ、これを乗り越えねばならないのだ。
「────っはぁぁあああああ!!」
咆哮を上げながら己を奮い立たせて、七海やちよは全身全霊の力を振り絞って突撃する。
決して諦めない。これしきのことで終わってたまるものか。想いが、願いが、希望が──消え去っていないというのなら!!
「まだッ!!まだよ……!諦めない!絶対に諦めたりなんてしないんだからぁぁああ!!」
闇色なる膨大なエネルギーの奔流に正面からぶつかっていく七海やちよの身体から鮮血が吹き出すも、それでも決して押し負けることはなく彼女の想いが光となって奇跡を生む。身に纏っていた衣服が破れ飛び、再生成を繰り返す。希望の祈りは尽きぬどころか益々強さを増して七海やちよを支えてくれる。
進化と覚醒。かめはめ波に呑み込まれようが、みんなの生きる想いが七海やちよを紡ぎ、果てしない進化と覚醒を生まれさせる。
「想いの力が無限の力を生むか……正直、ここまで来れば感銘すら覚えるぞ。ならば───」
銀河が、世界が、空間が、全てが震えかねない力でも滅びに抗う七海やちよにザマスは最後の力を見せる。
「世界に愁える者よ!人間を憎む者よ!俺の力となれ!!」
「────っっ?!」
途端、ザマスの力が更に桁違いに跳ね上がった。
希望の糸が絶望に吞み込まれる。力が、想いが──誰かの生きる命も、想い出や希望といった何もかもを吸い上げられて失われていくように。
七海やちよは再び察してしまう。これは全ての人々の負の感情だ。つまり今のザマスはこの世界の人類から怨みや絶望といった負の感情を吸収し、それすらも力に変えることが出来るようになったのである。
先程はただ純粋に殺したり殺した者達のエネルギーを取り込んだに過ぎないが、これは規模が違う。七海やちよのように無意識下の元で世界中のみんなの善なる想いをひとつに束ねたモノとそっくりそのままだ。
七海やちよが善なる想いと祈りを束ねたように、ザマスもまた誰かの想いを力に変えているのである。
世界中の人々の絶望・負の感情と融合したザマスの力は爆発的な成長を遂げ、七海やちよを遥かに上回る領域にまで達するのだった。
「ザマスッッ!!」
このままでは、と七海やちよは悔やんでいた。力では圧倒的に劣る。世界中のみんなの想いでも敵わない。
こうなった原因は幾つかある。
まず一つ目は元気玉という技だ。彼の身体の本来の持ち主であるオリジナルの孫悟空は、数多ある人々の想いや祈りといった正のエネルギーを集めて、球状に融合させ放つ非常に強力な技を使えた。
それに対しザマスは本来この技を使えない。彼はそもそも人々からの祈りや想いを正のエネルギーと認めていないし、ましてや総ての宇宙と世界から人間を滅したい男からすれば、この技は忌むべきものに他ならないのだ。
よって、ザマスは瞬間移動やかめはめ波、界王拳などの技を修得することは出来ても人々の力を分け与えて貰い悪を滅ぼす究極奥義──元気玉を使うことは不可能なはずであった。
が、ここに例外が生まれる。
それはザマスの超ドラゴンボールで叶えた願いの性質だ。
ザマスは超ドラゴンボールで自らの望みを叶え、孫悟空の肉体と自分の身体を相手の有無を言わせず入れ換えたのだ。
己の肉体を捨て、より強力な肉体に乗り換えることで超サイヤ人ブルーや強大な戦闘力といった力の取得を目論んだのだろう。肉体による戦闘の記憶を辿り、孫悟空の身体の本能に従うことでどのようにエネルギーを集め、束ねるかを。つまるところ、彼は歪な形で元気玉を習得しようとした。
結果、ザマスは孫悟空の身体を奪い己のものにしたことで新たな力を得た。つまりは奪うという願いが元気玉の性質を変化──正確には統合したのだ。
本来は多数の他者から分けて貰うという形でしか得ることのできない元気玉だが、七海やちよのエネルギーの収集するやり方を真似た結果。ザマスの性質によってそれは本来の力を変質させたのである。即ち、人々の無意識下祈りや想いというエネルギーを奪い取るという力に。
とはいえど、強奪するだけでは単なる略奪である。束ねることは叶わない。
ただ足し合わせて強化するだけの力は、孫悟空の元気玉やトランクスの人々の想いの結晶、七海やちよの希望の光には戦闘力はどうあれ、遠く及ばないのだ。
だが、ここにもう一つ例外が居た──瀬奈みことの存在だ。
ザマスの内に居る彼女は滅びの人格として、数々の魔法少女に乗り移り、あらゆる悲劇的な結末を見て回ってきた。その過程で多くの絶望と悲しみを目にしてきたのだ。
宿主である魔法少女達の内に居ることによって、瀬奈みことはそれを余すことなく知り吸収し己のものとした。つまりは、様々な想いや祈り、絶望といった負のエネルギーを取り込んでひとつになるということを覚えたのだ。
故にザマスは周囲から強奪した負の感情エネルギーと、殺した人間達の魂を一度喰らい込み、瀬奈みことというフィルターを通して憎しみや殺意などの強い感情や意思が籠った思念などをひとつに束ね、重ね合わせることによって七海やちよのように劇的なパワーアップを実現したのである。
これは元気玉とは似て非なる悍ましい技とさえ呼べるかもしれない。しかし、同様に人々の祈りや想いのエネルギーを集めることで力を高めている辺りで同じ性質であるとも言えたが、もはや元気玉としての技そのものが、
そして二つ目は、みんながみんな、善なる想いを紡ぐような人間ばかりではないということだ。
そもそも人類史において幾多もの戦争や、争いごとは途切れることなく起きてきた。正義と悪の構図など表裏一体であり、善でありながらも争う時があればそれは悪と見做される場合があるのだ。
そして悲しいことだが、世の中には自分から望んで悪い行いをする輩もいる。世界をよくするためにと善意から行った行いが、皮肉にも巡り巡って悪行となることもあるのだ。
悲しいかな、神浜にも東だからと西が憎くて仕方がない、東だからというだけで差別意識を持つ者も居るのである。
根本からの歴史に根ざした差別意識と、自分の思想に基づいて行動することが同じ結果を生むことはままあることだ。
もっともそれらのことが関係なく劣悪な家庭環境、虐待やネグレクト、学校でのいじめを始めとした差別的な扱いが重なり、人に対する憎悪の感情を抱いている者も少なからず居るケースだってあるだろう。
このように大前提として歴史・宗教・文化の異なる国でさえも人の憎しみは起きるし、同時に多種多様の理由で人間同士や民族同士の争いもあるのである。
故に想いは多種多様。人という生き物は、ひとつの色に染まらず無数に混ざり合い灰色のように混沌となるのだ。
七海やちよはそんな灰色の想いの中で善なる想いのみを集めて束ねたが、逆説的に悪なる想いというモノも存在することとなり、ザマスはそれに目を付けてしまった。
「だとしてもっ!だとしてもッ!!私は諦めないッ!!」
また七海やちよは叫び、吠えた。ここで終わってたまるかと叫びながら歯を食いしばって依然としてかめはめ波の奔流に抗い続ける。希望を纏う魔法少女の肉体が再度木っ端微塵に吹き飛び、何度も何度も再生させながら抗い続ける彼女にザマスは完全なるトドメを刺す。
「希望と絶望は足し引きゼロ。貴様は幾度も倒れ甦り、俺は傷を受けるのみ。答えは簡単……実力の差だッ!!」
そして三つ目、至ってシンプル。そもそものスペックの差だ。
みんなの想いで七海やちよが別の次元に到達し超サイヤ人と成ったザマスと対等に渡り合えたが所詮はその程度でしかなかった。
基礎戦闘力が違いすぎて同じ業をされてしまったらもうどうにもならない。
塵も積もれば山となるという言葉があるのだが、何もせずとも自然に発生する憎しみや怒り、悲しみなどの負の感情を想いという形でまとめあげるザマスと、強い意思の力でそれを集めた七海やちよではそもそも差が有り過ぎたのだ。
「我が輝く絶望の旋律に滅びるがいいッ!!」
ザマスの滅びの宣言と共に彼から真紅の神気が立ち上り、それは生きる命の煌めきを纏う七海やちよとは比較にならない程の絶大なるオーラであった。
それは神々しい輝きを放ちながら、聖なる光は闇よりも深く澱み暗く……そして美しくどこまでも禍々しく輝いていたのである。
超サイヤ人ロゼ。薔薇色に染まる美しき神の変身。人間を滅ぼす為に至った真紅の神気が今、七海やちよに滅ぼしにかかる。
「────!!」
どす黒いみんなの絶望を纏った力に超サイヤ人ロゼの上乗せ。
神気によってかめはめ波の威力が超絶特大のように上乗していく。これが個人に向けるのではなく、範囲の破壊を目的であれば宇宙すら塵芥と化すことだろう。
逆説的に言うならばそれ程までのエネルギーが一個人に超絶集中砲火しているのだ。
「負けないっ!私は……私たちは──!」
だが、最早想いだけではどうにもならない。みんなの生きる想いがみんなの絶望の想いによって捻じ伏せられようとしている光景は皮肉しか言いようがない。
そして更に、みんなの絶望を束ねた上に、神気の上乗せなんてものまで加われば、かめはめ波の威力は全ての神々すら打ち倒せる破壊力を有するだろう。
宇宙の総ての人間を滅尽へ誘う絶望の滅びの波、そう呼ぶに相応しい超絶的な威力を誇るそれが七海やちよを破壊へと呑み込んだ。想いでどうこう出来る次元ではない。絶望の波に飲み込まれた七海やちよの身体は塵のように脆く砕け散る──刹那。
一向にうだつの上がらないお前が悪いんだ!二葉家を汚したバカ娘が!お前には失望したよ。お前なんか娘に持った覚えはない!死んで詫びろッ!!この世界から消えたい誰にも会いたくない誰にも見つかりたくない透明になりたい。もう嫌だよいつまで魔法少女を続けなきゃいけないの。金が稼げると言うからお前みたいなガキを弟子にしたのに。俺は何も悪くねぇ! 俺の会社で何が起きても全部お前らの責任だからな!!ちゃんと面倒は最後まで見ろよクズ共!! あれだけ投資してあげたんだから私の役に立て!!辛い苦しい助けて欲しい。どうしてお母さんは私を置いて行ったの?どうしてお父さんは私にだけ厳しく当たるの?嫌、嫌い!みんなみんな大ッ嫌い!!神浜を滅ぼす存在になりたい──帆奈ちゃんを返して!!
莫大な人々の闇、憎悪、怠惰、絶望、様々な悍ましい負の想いが七海やちよの中に流れ込み、そして混ざり合っていく。その悪性や絶望を纏めあげることで究極的にまで希望を絶たせる滅びの旋律。
希望一色に染まった色に絶望一色の色を混ぜ合わせれば、それはさらに濁りを強める。
人々の祈りや願いみんなの生きる想いは、負の感情に塗れた不純物が混じることで本来の生きる希望の輝きを失ってしまったのだ。想いの純度が下がる程に強さが弱体化していくのは自明の理。もう、生きる想いの力で甦ることは出来ないのだろう。
「ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!」
七海やちよは断末魔と共に破戒の業に呑み込まれる。それはまさに破滅を齎す破壊の輝きであった。禍々しい光をその身に受けながら、七海やちよはみんなの想いの進化と覚醒も敵わずこの世から消滅した。
────────────────────
「……フフフ。貴様は誰かの受け継ぐ希望で神を討ち滅ぼせるとでも想っていたのか?」
荒廃した街の静寂が通り過ぎる。先程の戦いが嘘のように静まりかえる。だが、これこそが現であることを今のザマスは充分に理解していた。
希望を束ねる七海やちよを圧倒的な絶望で塗り潰し、希望というみんなの想いも祈りも、同じような絶望の想いと絶望の祈りによって粉微塵に砕いた感覚。
この力を以てすればあのトランクスの忌々しい人間の想いの結晶を相殺し実力勝負で葬れると彼は確信している。
「くだらない。本物の神を前にすれば人間などこんなものよ。七海やちよ……たかだか魔法少女風情が神の清き諸行を止めることは叶わず絶望に沈む運命だったようだな」
だが、その絶望に沈んだのは七海やちよだけではない。先の短い年寄りや子供のそれだけでなく全ての世代の人間の想いを束ねた希望の祈り。その希望が潰えた街の惨状を見てザマスは口元を歪ませる。
そして腕を組みながら超サイヤ人ロゼとみんなの絶望の力を纏う姿を解き、元の黒き姿に戻す。
「真の強者とは如何なる手段にしても勝利する者のことだ」
そう呟くと、ザマスはこの地を去り目的地へと降下していく。彼の行く先々で災厄が振り撒かれるのだろう。
元気玉(ザマスver)
みんなの負の感情を強制的に取り込んだり、殺した相手の魂を染めあげ吸収したり、想いや祈りを瀬奈みことを通して無理やり束ねて強くしたり出来る。
また、本家の元気玉のように滅茶苦茶デカイエネルギー玉にして相手にぶつけることも出来る。
このバージョンだと相手が善であるほど特効がめちゃくちゃかかるので逆にフリーザや邪悪龍、魔女相手だとただの倍率を上げる強化パッチでしかない。
ブラック「奪うだと?くくく、人聞きの悪いことだな……奪い取るのではない。永遠に借りておくだけだ!」