後時系列は一部開始前です。
いつも通りの二木市虎屋町の日常。
家族連れ、ランニングをしている老人、ゲームオタク、幸せなカップル等の様々な人々がいる。
人々は信じている。これからもこの平和が続いていくと。それが当たり前、疑うのも馬鹿馬鹿しい程の問題として。
だが、その日常は永遠ではない。いつかは終わりが来るのだ。
それは明日かもしれないし、一年後、十年後……あるいはもっと先のことなのかもしれない。
それでも人々は願わずにはいられない──この平和で穏やかな日々がいつまでも続きますようにと。
心の中で祈り、空を見上げる者がいた。
どこまでも広く澄み渡った青空。雲一つない蒼天の彼方から降り注ぐ陽光に照らされて輝く白銀の翼が、まるでこの世界を微笑ましく見守る女神のように祝福してくれているかのようだった。
だか、まもなくそれは崩壊する。
ビシリ
不穏な音と共に突如稲妻が流れ出した。それと共鳴するかのように黒緑色の渦巻きが発生し辺りをなぎ払う。
暴風が収まるとそこには空に亀裂が入り、闇色の次元の裂け目が開き、中からは禍々しい気配をする者がこの世界に現れた。現れると同時に開いた裂け目は幻のごとく、その場から消滅する。
黒衣を纏い、右手でティーカップを持ち、観測者のごとく万物の総てを見下ろし浮遊する男がそこにいた。
「見ろ、人が飛んでるぞ!」
「おいおい…まじかよ。なんだあれは?」
「人間なのか?」
「何かの撮影かしら?」
突如として現れた存在に周囲の人々が騒ぎ出す。反応は十人十色。恐怖を感じ身を退く者、好奇心を抱き近寄る者、警戒を露にする者、そして戸惑いを隠せない者。
だが、突然に現れた非日常に対して、共通することは未知であるということだ。
それはつまり、無知から招じる不安だ。
未知の存在を前にして人は恐れる。それが例え害のない動物であったとしても、自分と違うものを本能的に拒絶するだろう。
この場にいる人間たち。
更には虎屋町を越えて、市内に住まう全ての人々。
今この瞬間を生きる人々の姿を、想いを、男は目と心で観察し、骨の髄まで身体に刻み込ませ理解する。
人間0計画───すなわち宇宙規模の人類大虐殺という馬鹿げたスケールと行き過ぎた正義を知れば、後に起こる無慈悲な惨劇がこの市内一つ程度とは男を良く知る者にとってはちっぽけに思えるだろう。
黒衣の男が一杯紅茶を味わい───。
「ごきげんよう愚かな罪人共よ。これより神の正義の為に貴様ら人間共を絶滅させる!!!」
突然の宣言と共に男は笑いながら左手から闇色の閃光が放たれ周りにいる人間達を一網打尽にし始めた。凄まじい音が辺りに響き渡り、虎屋町という殺戮場を滅亡の光で覆い尽くす。
うあああああああ !!!
きゃああああああああ!!
助けてくれええええええ !!
逃げろおおお!!
嫌だ!死にたくない!誰か俺を助けろおおお!!
あ…悪魔だ!
突如として場に響き渡る、阿鼻叫喚の叫び。
それは今まで人々が経験した事のない恐怖が生み出す悲鳴だった。その声はまるでこの世の物とは思えないおぞましい化け物から逃亡するように聞こえた。
だが、男は悲鳴を叫び逃げ惑う人間を一匹足りとも逃がしはない勢いで確実に消却させる。
その威力は凄まじく、一薙ぎしただけで数十人単位で人を殺めていく。
我が助からんと押し倒し我先へと逃げ惑う人間が閃光が建物に直撃し崩壊した瓦礫の下敷きとなりトマトが潰れたような勢いで血渋きが辺りに散らばり死に至る。
倒れた人がいるのにも関わらず自分が第一に助かろうとしてそれを踏み倒し逃げその後も何度も倒れた人が踏みつけられ息絶える。
それらはまるで災害のような惨劇が繰り広げられた。
しかし無情にも男の手から放たれる闇の閃光により次々と人々は殺されていった。血しぶきと断末魔が飛び交い、一瞬にして地獄絵図と化した光景を見て人々は絶望感に打ちひしがれていた。
だが、それは男にとっては出会い頭のお遊びのようなものだった。男はこの惨状を作り出したにも関わらず表現は楽しげであり狙った獲物は逃がさないよう人間を殺していく。
その光景は正に虐殺という言葉が相応しいだろう。
だからこそ男は思う存分暴れ回り、己の力を誇示するかのように破壊していく。
人間を滅ぼす事など俺にとっては容易い事なのだと知らしめる為に。
一人の少女が思う。
───何が起こってるのかわからない。
───何故私達は襲われているのか?
───何故あの人はあんなにも楽しそうなのか?
思考が追いつかない中、目の前では次々と人が殺されていき、炎が燃え盛っていく。
そして私の目の前には先程まで一緒に逃げていたはずの人達が…………既に上半身が消し飛んだ死体となっていた。
───嫌だ!死にたくない!
───助けて誰か!お願い誰か!!
心の中で何度も叫ぶ。しかし無情にも救いの手を差し伸べてくれる救世主は何一つとしていなかった。
それどころか皆我先にと逃げ出したのだ。この地獄絵図のような光景の中、自分の命を守る為に他人を押し退けカップルらしき人はパートナーを見捨て、必死の形相で走り出す。中には子供や女性もいた。
だがそんな彼等も容赦なく男によって虫けらを踏み潰すかのように惨殺されていく。その度に辺り一面が真っ赤に染まる。まるでペンキをぶちまけたかのような量だった。
黒衣の男の浄化というなの大破壊で辺りは灰塵と化し、逃げ惑う人々が次々と倒れていく中、男はただ目を閉じ紅茶を味わいながら人々を虐殺していく。
それはまるで悲鳴、血渋き、断末魔という音色を奏でそれを餌のように喰らう悪魔の所業だった。
十数分経つと男は満足したのか闇色の閃光は止まった。
男が目を開くと黒衣には返り血を浴びており、辺りを見渡すとそこには血だらけになって倒れている男と女の姿があった。無数の死体や肉片となって飛び散っている光景が広がっていてそれらが山のように積み上がっていた。
そのどれもが夥しい量の血が流れており、内蔵が抉られ散乱し、むき出しになった骨が見え隠れしている。更には様々な物が焼け焦げ、悪臭に満ちた大地の匂いが辺りに漂っている。
この惨状を疑問に問えば、誰もが悪魔が描いた地獄絵図の作品だと答えるだろう。
しかし男の視線はそれらには向いておらず、その先に映るある一人の生き残った少女へと向けられていた。
少女は涙を浮かべながらも男を見据えている。
男は空からゆっくりと地面に足を着け一歩一歩、無表情で近寄っていた。
ザッザッザッ
返り血を浴びた死神が歩いてくる音が聞こえる。崩壊した建物からは煙と焦げた血の臭いが鼻に入るのを感じた。
男が身に付けているイヤリングらしき物は妖しく輝いている。死への恐怖で首まで心臓が飛び上がったように息苦しい。
そう、一切の言葉を寄せつけない真の絶望がそこにあった。
「嫌だ!嫌だ!いやぁあああああ!!!」
少女は惨めに成りながらもひたすらに泣き叫んだ。こんなところで死ぬなんて絶対に嫌だと。しかし彼女の願いは祈りは無惨にも踏みにじられる。
それを聞いた男はまるで悪魔のように口元を歪めながらよりゆっくりと絶望する時間を伸ばすように少女へと近づいていく。
「ひぃっ……」
そのあまりにも恐ろしい光景に少女は恐怖で腰が抜けてその場にへたりこんでしまった。
それでも男の手から逃れようと後ずさりして少しでも距離を取ろうとするが、そんなものは無意味な抵抗だった。すぐに壁際まで追い詰められてしまう。
───あ、あっ……
そして男が目の前に立ち塞がった時、少女の瞳からは光が消え失せていた。
もはやまともに言葉を発することもできないほどに怯えきっていた。だがそれも当然だろう、これを前にして正気に保つ者は一握りの存在なのだから。
「なぁに、安心するがいい」
そう言った次の瞬間、男の左手が彼女の首を掴んで持ち上げていた。苦しそうにもがく彼女を見て、男はより薄気味悪い笑みを浮かべ見せる。
すると少女の首を掴む手が強くなっていく。彼女は苦しみの声を上げるも、次第に意識を失っていく。
「お前も寂しくないようあいつらと同じ所へすぐに送ってやる」
───愚かな人間には死こそが恵み。
男がそう言い放ったその時だった。
「離しなさいぃいいッ!!!」
幸運にも死ぬ寸前の所で少女の助けを求める祈りは届いたようだ。
その怒声と共に、男の背後から何者かによる奇襲を仕掛けてきた。手を振り離し男は回避したが、首を絞められていた少女は地面へと落下した。
地面に叩きつけられた少女だったが、すぐに立ち上がると咳き込みながら呼吸を整えていく。そんな彼女を放って置いて、男はゆっくりと神の正義に反逆せし者へと見つめていた。
「邪魔者が入ったか」
そこに立っていたのは、浅黄色のミニ裾単衣という比較的古風な装いをしており、鬼の金棒めいた棘付きの棍棒を持っている少女がいた。
「立てるぅ?」
「だ、大丈夫……で…す」
そう言うと、少女はふらつきながらも何とか立ち上がっていく。それを見て安堵すると、棍棒を持つ少女が隣に立つ。彼女の名は紅晴結菜。虎屋町の平和を影ながら守護する魔法少女だ。
彼女は今、魔女と呼ばれる存在を狩った直後に町の中心部からとてつもない音が聞こてきたのでこうして駆けつけたようだ。
「そう…ならここから早く逃げなさい。もう時期ここは更なる地獄になるわぁ……」
「で……でも」
「早く!!」
「───っ!…う、うん!」
結菜は地獄のようなこの場から一人の少女をいち早く逃げさせた。男は何故かそれをただ腕を組み口元をニヤリとしながら見守っている。
それと同時に男の周囲を囲うようにぞろぞろとファンタジー系のアニメに出てくるような服装をしている少女の集団が現れた。恐らく数は五人だろうか、その集団が男に殺気を浴びせ睨み付けている。
数秒遅れて一人の少女がやって来る。それは腰に掛かるような茶髪のポニーテールが特徴の髪型をしており、衣装は中世代の兵隊風で、サーベルを手持つ戦士のようだ。
「な……な…んっすか、これっ…」
遅れてやって来た少女───煌里ひかるは目の前に起こっていた惨劇を前にして思わず言葉を失ってしまった。
結菜と共に駆けつけてみたらそこには想像を絶する光景が広がっていた。至る所に転がる死体。血まみれになった壁や床……。
綺麗だった家や店といった建築物は崩壊し瓦礫が散乱し焼き焦げ、返り血を浴びた男の周りには、人間だった肉塊がゴミのように散らばり積み重なっている。
それはまさにこの世の終わりを感じさせるような光景であった。
「これはこれはお揃いで」
腐臭が漂ってくるこの惨状を作り出した男はというと、次はお前だと言わんばかりに魔法少女の集団を見つめている。
そんな男に対して、魔法少女達は怒りの表情を浮かべ気丈な態度で睨み返していた。何故なら目の前の男に対する恐怖心よりも正義の心の方が勝っているからである。
本能が発している、排除せねばならないのだこの邪悪な存在を、と。
「結菜さん…」
「ひかるぅ…」
「は、はいっす」
「二木市にいる魔法少女全員に伝えに行きなさぁぃ……魔女よりも危険な存在が現れたとぉ」
「で、でも結菜さん…私一人でここから去るわけには行かないっす!ここは皆で───」
「行きなさい!早くしなければ取り返しのつかないことになるかもしれないのよ!」
「───っ!うっす!!」
ひかるは場から離脱しようとするが流石の男もそこまで黙って見ているつもりはないようだ。
「そうか、ならばお前は死んでおけ」
男はそう言うとゴミを道端に捨てるかのよう手軽に指先から光弾をひかるに発射したが、結菜が棍棒で光弾を弾いたことによってそれは防がれた。弾かれた光弾は朽ち落ちた看板に命中し消し飛ばし灰と化した。
ひかるは礼の言葉を結菜に伝えると、馬のごとく大地を駆け巡るように戦線から離れていった。
結菜は男の方に振り返ろうとしたら死体の山の中に視界に入ると瞳に映し出す。
そして目を瞑り、黙祷を数秒間やり目を開き男を見据える。
「単刀直入に聞くわぁ、この血の惨劇を作り上げたのはアナタでしょぉ…」
「御名答……とでも言っておこうか。あぁ、正しくその通りだ。俺がやったのだがなにか?」
悪びれる様子もなく平然と答える男に対して、結菜は怒りが込み上げてくるのを感じた。
「アナタの目的はなにかしらぁ…」
膨れつつある怒りを抑えたが、声が震えておりそう言った。
「目的か……そうだな強いて言えば理想の世界の創造。汚れなき美しい理想郷を創りあげることだ」
男は腕を組みながら堂々とそう答えた。その答えを聞いて結菜は眉間にシワを寄せ、歯を強く噛み締める。
男の言うことは理解できた。だがその言葉から滲み出る狂気と嫌悪感をどうしても拭いきれないでいたのだ。
そしてそれは結菜だけでなく他の皆も同じだった。この男の言葉からは悪意しか感じられない。
「理想郷ですってぇ……?この惨劇がアナタが言う美しい世界とでもいうのかしらぁ…」
「そうだと言ったが?」
男は当たり前とでも言わんばかりに問いに対して答えを返した。そんな男の言葉を聞き、少女の身体から膨大な魔力が溢れ出した。
その様子はまるで火山の噴火のようで、男のいる場所まで熱気が伝わってきた。
そして、少女は怒りの形相で叫んだ。
「なにが、そうだと言ったんだ……ふざけるな……そんな……そんなことの為にこの町をぉ、皆を……っ!」
「どうした?俺が浄化した奴らの中に、お前の顔見知りでもいたのか?そうならば……誠に申し訳ないことをしたな。だが安心するがいい。この場で死に絶えた人間共は、等しく『無』へと還る運命であり天命だったのだ。全ては俺が定めた運命だがな……ククク、ハハハハ!」
「───ッ!!」
怒りのあまり言葉が出なかった。
殺してやる。
そして気付けば結菜は、武器を強く握りしめて男の方へ駆け出していた。
先輩が守っていた町の仇であり無惨に虐殺された町の皆の仇でもある。なによりそれ以上に黒衣の男は邪悪な存在だった。あれほどまでに憎しみを抱いていたキュウベえですら、この男と比較したらただの可愛いマスコットキャラだ。
だからこそ結菜は躊躇わなかった。迷うことなく男の懐に入り込み、ありったけの力で棍棒を振り下ろした。
一週間更新になると思いますが、よろしければ感想と評価を募集しておりますのでお願いします。
一番罪が深い市はどこだと思う?
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神浜市
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見滝原市
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風見野市
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宝崎市
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二木市
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湯国市