絶望の協奏曲   作:漆黒の人

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すみません、遅くなりました。
戦闘シーンをどういう感じにしようかと悩んでいたら時間が経ってました。本当にすみません!!
後、☆10一つと☆9二つという高評価を与えてもらい、モチベーションに繋がってとても感謝しています!本当にありがとうございます!!


第四話 黒衣を纏う男

 だからこそ結菜は躊躇わなかった。迷うことなく黒衣の男の懐に入り込み、ありったけの力で棍棒を振り下ろした。油断も、慢心もない。常人には視認出来ない程の高速移動で敵の懐に入り、怒りに身を任せた渾身の一撃。

 人間も使い魔も、下手をすれば魔女すらも粉々に粉砕する程の威力をもつ一振り。魔法少女による怒りの感情を込めた力は限界を超え更なる力を引き出す。これをまともに受けた者は魔法少女ですら致命傷は免れないだろう。

 

 しかし次の瞬間には結菜は信じられない光景を目の当たりにした。なんと黒衣の男は一撃を受けてもなお、平然と立っているどころか、その手のひらで棍棒を受け止めたのだ。しかも素手で。

 

 この異常を前にして結菜は驚愕し大きく目を開き、怒りに支配された感情は一瞬にして冷え血の気が引いてしまった。

 身を引いて攻撃を回避したり武器を出現させて防がれるのならまだ話は分かる。魔法を使って幻惑を見せたり動きを封じさせるのもまだ分かる。

 だが、よりにもよってその場に留まり、魔法を使う動作もなくただの素手で魔法少女の一撃を、飛んできた野球ボールをグローブでキャッチするように止められるのは明らかにおかしかった。

 

 そんな動揺が顔に出ていたのか、黒衣の男はニヤリと口元を緩めお返しと言わんばかりに棍棒ごと結菜を押し返すと、今度は逆にこちらから攻撃を仕掛けてきた。凄まじい速さで放たれた右ストレートは、結菜の目では到底捉えることができないほどの速度。まるで漆黒の稲妻が一点に集中した矢のような一撃だった。

 咄嵯に棍棒を前に出してガードしたものの、あまりの力強さに耐えきれず吹き飛ばされてしまった。

 それは高山から岩石でもころがすような急速度で地上へ落下しているものだった。

 

 ガードした武器からは棍棒が軋む音が聞こえた気がするくらい強烈な衝撃が伝わってきた。

 

(なんて力……!)

 

 地面に着地するとすぐに体勢を整えて再び構え直そうとするが、強く打ち付けた衝撃により全身に痛みが広がる。それでもなんとか立ち上がり体勢を整えようとした時だった。

 強烈な風が目の前に来たと肌で実感していたその束の間、弾丸のようなスピードで黒衣の男が接近してきた。

 

(───っ!?)

 

 慌てて棍棒を構えるも間に合わず、強烈な回し蹴りを喰らいさらに遠くへ弾き飛ばされてしまう。

 なんとか空中で一回転して着地するも、そこに追撃を仕掛けるように先程よりも速いスピードで距離を詰められ、一瞬にして胸ぐらを掴まれ投げられた。

 結菜はなす術もなく勢いよく破壊された建物に叩きつけられてしまい、その衝撃で意識を失いかけた。しかしそれでも必死に立ち上がろうとする結菜を見て、男は呆れたようにため息をつくと、次の瞬間には背後に男が移動しており首を掴まれていた。

 

「なんだ今のは。まさか全力を出したわけではあるまい。力を満足に振る舞えないのならば、もう少し手を抜いて戦ってやろうか?」

 

「ぐっ……くそ……」

 

 結菜は必死に抵抗するも、まるで強力な磁石がお互いを離さないように首を掴む腕を引き剥がすことはできなかった。それどころか段々と意識が遠退いていく。

 すると、そんな結菜の様子を見て男はニヤリと笑みを浮かべると、そのまま結菜の身体を持ち上げた。

 

「くっ……はなしなさい……!」

 

「ふん」

 

 バキッ!

 

  男はそのまま結菜の顔を地面に叩きつけた。そして、倒れた結菜を何度も踏みつける。それはまるでミシンが服を高速で縫うようなスピードだった。その度に地面からは砂煙が上がり、結菜の顔に傷をつけていった。

 

「あ"ぁ"!?」

 

 あまりの出来事に結菜は一瞬我を忘れて声を上げた。そして、男はその隙を狙って結菜の首を掴んだまま持ち上げた。

 

「がほっ……あっ……やめろ……離せ!」

 

「おいおい、さっきまでの威勢の良さはどこにいったんだ?えぇ?」

 

 男は楽しげに笑いながら言った。

 その表情はまさに悪鬼そのもので、とてもではないが正気を保っているようには見えなかった。

 しかし、このまま殺されるわけにはいかないと、結菜は残った力を全て振り絞って抵抗した。

 

「あぁぁああああ!!」

 

 持てる力を振り絞り、急速にソウルジェムが濁る勢いで魔力を全力で解放する。

 

「む?」

 

 急激な変化に男は思わず声を発した。

 結菜は有り余る魔力が武器と持ち腕を強化させ、火事場の馬鹿力のような威力を引き出し頭を潰す勢いでそれは振り下ろした。

 

 ガギッ!

 

 鈍い音が響いた。その音の発生源は男の頭からだった。攻撃が命中したと同時に結菜は素早く反応し拘束を解いた───が、それは出来なかった。

 

 なんと命中した頭は傷を負うどころかビクリともしなかった。それどころか命中した武器である棍棒には強化されていたのにも関わらずビシリという音が場に響き渡りヒビが入っていた。

 それはまるで鉄の塊を非力な少女が拳で殴ったかのような感覚だった。

 

「ぐ……っ!がっ……硬すぎるぅ……!」

 

 ───とても生物だとは思えない!

 予想以上の防御力に結菜は驚愕していた。そんな結菜を見て男は口角を上げながら不気味に笑っていた。

 

「虚勢もいいところだな人間。否、貴様の場合は小娘と呼ぶ方が相応しいな」

 

 だが、そこで諦めない。諦めてはこの町を全て蹂躙尽くして別の町に移動し、二木市を滅ぼすことを許してしまう。

 皆と暮らした思い出も、先輩に託された想いも、総てこの人の形をした悪魔によって破壊され尽くすだろう。

 

 そんなことさせない。させるものか。そして何度も何度も叩きつけた。

 その度にヒビが入って砕けそうになる武器を必死で魔法を使い修復しながら。だけど何度やっても結果は同じだった。

 やがて結菜の身体から血が流れる。それは結菜が攻撃している側なのにだ。

 そんな事を気にせず再度そのまま力任せに振り下ろす。命中しても同じくビクリともしないが、すぐさま追撃でもう一発、打ち込む。もう一発、打ち込む。もう一発、打ち───が、そこでようやく男が呆れたのか口を開いた。

 

「ほう、まだ無駄な抵抗をする余力が残っていたとは驚きだ。だが……」

 

 バキィ!!

 

「ぐぅっ……ごふっ……」

 

 今度は腹を思い切り殴られそれは中断された。拘束は解かれたが地面に落ち強い衝撃を受けた。

 その衝撃で息ができない。吐き気がする。視界が霞む。

 そんな様子を知ってか知らずか、男は棍棒を結菜から引き離し掴みそのまま握りつぶす。

 腹に強い衝撃を受けて視界がぼやける中、何とか起き上がろうとするものの、男は結菜の首根っこを掴むと軽々と持ち上げた。

 抵抗する手段がなくなり、男が笑う中、結菜の体はもう限界を迎えていた。ソウルジェムは既に黒く染まっており、力を酷使した反動か体のあちこちも亀裂が入り始めていた。このまま首を折られるのかと思ったその時だった。

 

「結菜さん!」

 

 遠く離れた戦線にまで結菜は吹き飛ばされたが仲間達がようやく追い付いた。先程まで五人だった魔法少女の集団は八人までに増えていた。

 どうやらここに追い付く途中にこの異常事態に気づいた仲間と合流したらしい。

 

「うおおおおおおお!!」

 

 仲間の一人が男を睨め付け叫びながら手に持つ武器───短刀をブーメランのように投げた。男は首を絞めていた結菜を手から離し、空き缶をゴミ箱に放り捨てるようにその辺に放り投げもう片方の手から光弾を投げられた短刀に向けて発射し撃ち落とす。

 男は自分に武器を投げつけてきた者に目を向けた。

 

「人間の中において神に拳を振るう品性の欠片もないサイヤ人だけでは飽き足らず、神に与えられた智恵を我が物と驕る人間風情が作り上げた玩具で、道端に転がる小石の如く、唾を吐き捨てるように投げうるのか。まったく世も末だな」

 

 男は意味の分からない言葉を独り言のように呟いき魔法少女の集団をまるで小動物を補食対象の獲物と捉える肉食獣のように目を光らせる。だが男の訳の解らない言葉を発している間に仲間達は男を囲むように立っていた。皆それぞれ個性のある武装をしている。

 ある者は槍を持ち、またある者は大剣を持ち、あるものは弓を持つなど、さまざまな少女がいた。そして一斉に飛びかかった。一人が剣を振り下ろした瞬間、男の体が一瞬で消えて別の場所に姿を現した。

 

 この隙に仲間の人はこの隙に結菜の元へ駆け寄り、結菜を抱き起こした。

 結菜の顔を見ると苦しそうで呼吸も荒い。

 

「結菜さん!大丈夫ですか!?」

 

 結菜は辛そうな表情のまま答えた。

 

「だ……だいじょうぶだわぁ……それより……グリーフシードをぉ……」

 

「え?あぁ!」

 

 仲間はポケットからグリーフシードを取り出した。それは上下が針のように尖った黒い卵のような物だった。その卵のような物がグリーフシードと呼ばれる物である。この世界にはキュウベぇと契約して魔力を持った少女───魔法少女という存在がいる。グリーフシードとは、その魔力を持った人間の命とも言えるソウルジェムという宝石のような物を浄化する為に必要なアイテムである。このグリーフシードを使えばソウルジェムの穢れを取り除くことができるのだ。

 

 つまりこれは、魔女になる運命から逃れられる唯一の希望と言えるだろう。魔女化については約五日前に結菜の先輩が魔女になってしまったことで知ったばかりのようだ。

 仲間は結菜の大分濁っているソウルジェムにグリーフシードを当てた。すると濁っていたはずのソウルジェムが薄れていき、負っていた傷はみるみる癒え、やがて元の綺麗に輝く宝石となった。それと同時に結菜の呼吸が落ち着く。

 

「良かった……これでもう安心だよ」

 

「ありがとう……助かったわぁ」

 

 仲間にお礼を言うと結菜は立ち上がった。そして、また新しく武器を生成する。

 

「いいんだよ!困った時はお互い様さ!」

 

 その言葉に返したのは結菜ではなく男だった。

 

「敵を前にして随分と呑気だな小娘。人間がいくら窮する時に手を組み合わしたとしても、神の理に比べればまさに児戯」

 

 男は再び訳の解らない言葉を発し、今度は魔法少女たちに向かって言った。すると男の指先から光弾が少女の集団に目掛けて発射された。

 

「危ない!!」

 

 仲間の一声で全員その場から離れると、先ほどまでいた場所に光弾が着弾し爆発した。

 間一髪の所で光弾をかわせたのだ。

 

「何すんのよ!いきなり攻撃してくるなんて卑怯じゃない!」

 

 魔法少女の一人が叫ぶと、男は笑いながら答える。それはまるで子供をあしらうような態度だった。

 

「ククク……済まなかったな、がら空きだったものでつい手を滑ってしまった。それと俺はただ神に逆らう愚かな者共を罰しようとしただけであり、不意打ち、奇襲を仕掛けたのは貴様らも同じではないのか?人間風情が神に罪を擦り付け、自分等の身勝手さを正当化しようとする。なんという傲慢で醜悪な生き物、正に神が創りし原罪。あまつさえ己は正義だと神を罵る。その罪深き諸行、万死に値する罪だ」

 

 神と自称する男はニヤリと笑った。それを見た他の魔法少女たちが怒りで震えだす。

 

「あんたねぇ……神様気取りか何か知らないけど、調子に乗ってんじゃないわよ!こっちだってやられてばっかじゃいられないのよ!」

 

 一人の魔法少女が叫び、武器を構える。そして他の者も武器を構えた。だが男は不敵な笑みを浮かべている。男は腕を組み余裕綽々といった様子でいる。

 

「そうか、ならば試してみるがいい」

 

 男は平常となり腕を伸ばし、手のひらを少女達の方へ向けると、そこから闇色に輝く極太の光弾が生成され、それを発射した。

 少女達は咄嵯の判断でそれぞれ左右に飛び退き避けることに成功する。しかし次の瞬間、少し離れて存在していたビルに男が放った光弾が直撃した。直撃した場所からは、膨れ上がった風船を破裂するみたいに光弾が爆発し、鎖が切断される音が大きく、更には雷鳴の如くそれは響いた。

 

 少女達は一瞬何が起こったのかわからなかった。

 天から靡く雷のように、光と音がほんの少し違和感をなしてずれたような感じだった。向こうにあったはずのビルが霧が掛かるように煙に覆われていた。

 煙が晴れた後に現れたのは倒壊寸前のビルの瓦礫とそこに散らばるコンクリートの破片や鉄骨などであった。そしてその光景を目の当たりにした魔法少女達は自分達が相手にしている敵の脅威度が想像していたよりも遥かに高いことを理解してしまった。

 しかしそれでも少女達は諦めずに戦意を喪失していない瞳が男を見据えた。

 

「みんな気をつけてぇ!……あの男は手から光の弾丸を放てるだけじゃなく、拳によるパンチもとても強力だわぁ!生物とはとても思えない程の頑丈さも備えついている故に、生半可な攻撃じゃ通用しない!だから人体の弱点を極力狙いましょぉ!」

 

 結菜は声を張り上げ、注意を促した。

 

「了解です!」

 

「任せて下さい!」

 

 結菜の言葉を聞き、魔法少女たちは一斉に返事をした。

 

「ほう……そこの小娘はまだ戦う気概があるようだな。まぁ、良いだろう。貴様らが死ぬまで遊んでやる」

 

 男は笑みを浮かべながらそう言った後、右手に闇色のエネルギーを集め始めた。するとそれを覆うように闇のオーラのようなものが発生し、徐々に剣の形へと変化させていった。

 

 ちなみにこの闇のオーラや指や手から放つ光弾の正体は気功術と呼ばれるものである。気功術とは魔法や錬金術や外部の超エネルギーによって得られる力とは違い、自分自身の体内からエネルギーを生成して引き出す力、つまり「体内エネルギー」の比較的な表現として扱われる概念だ。

 それらを使用する例を出すならば、気をジェット機のように噴出して空中を浮遊したり飛んで移動したり、エネルギーの塊───光弾として的に向けて射出したり、剣や弓といった武器を形成したり、身を守るバリアのような存在を生成など色々と使える。

 更には他者に気を分け与え疲れを癒し、回復させたり出来るそうだ。

 

 今男の右手に闇色のエネルギーブレード───剣を生成したのはまさしく、その「気」なのだ。

 

「まずは一振り目だ!」

 

 男はその手に作り出した漆黒の剣を横薙ぎに振った。その攻撃に対して少女達は各々散開し回避行動を取る。そして次の瞬間、先程まで彼女達が立っていた場所に凄まじい衝撃が起こり、アスファルトの地面が割れた。

 もしあのまま突っ立ていれば身体は粉微塵となり確実に命はなかったであろう。

 

「今の攻撃をかわすか……だが次はないぞ?」

 

 男は不敵に笑いながら言い放った。

 

「ふん、次はこっちの番よ!」

 

 今度は魔法少女達の方が攻撃に出た。魔法少女達は各々の武器に魔力を流し込み、それぞれの武器を強化させる。強化された武器はどれもが新品同様に輝き、まるで錆びた刃ボロボロに朽ち果てこぼれした箇所が元に戻ったかのように錯覚してしまう程だった。

 

「ハァアアーーッ!!」

 

「えぃやあああっ!」

 

「喰らえっ!」

 

「行くよ!」

 

 魔法少女達は同時に掛け声を上げ、武器を振りかざしながら男に向かって突撃していった。そして各自で違う角度から攻撃を仕掛ける。

 だが男はその様子を見るとニヤリと口角を上げて笑った。すると男の身体から闇色に輝くオーラのようなものがバリアのように男全体に覆いつくし各自違う方向からの攻撃を受け止めたのだ。それはまるで男が全身に漆黒の鎧を纏っているような感じだった。

 

「ぐぅう……」

 

「な、なんて力なの!?」

 

 魔法少女達は思わず驚愕した表情を浮かべた。まさか自分達の攻撃を防ぐとは思っていなかったからだ。しかも自分達の攻撃を跳ね返すようにも見える。

 

「フッ……どうした?こんなものなのか?」

 

 男はニヤリと笑みを浮かべ、余裕たっぷりの態度を見せた。

 

「クッソォオオオッ!!舐めんじゃないわよぉおおお!!!」

 

 魔法少女は怒りを露にし、渾身の力を込め、刃を押し込もうとした。しかしそれでもビクともしなかった。

 

「虫けらが幾ら集まった所で俺を越えることは出来ぬ。貴様らが出来ることは精々無駄にある生命力を生かし、俺のサンドバッグになるだけのことだ。これで理解したか?神と人間の天と地程の力の差を」

 

「ふざけんじゃないわよぉおおおっ!!!」

 

 魔法少女は叫びながら必死に押し込んだ。しかしやはり押し込むことはできなかった。すると次の瞬間、男がバリアを解いた一瞬にして誰にも視認できないスピードで魔法少女の後ろに回り込んでいたのだ。

 魔法少女は一瞬何が起こったのか分からなかった。それは他の魔法少女も同様で、驚きを隠せない様子だった。

 

「遅いな」

 

 男はそう言って剣を大きく振りかぶった。そしてそのまま勢いよく振り下ろした。魔法少女は咄嵯の判断で避けようとするが、間に合わず肩から腰にかけて斜めに大きく切り裂かれた。

 

「きゃああああぁああ!!!」

 

 そして血飛沫が舞い上がり、彼女は悲鳴をあげながら地面に倒れた。

 

「大丈夫!?しっかりして!」

 

 仲間の少女が慌てて駆け寄るが返事はない。

 気絶しているようだった。

 

「よくも美妃を……許さない!」

 

 もう一人の少女が怒りに任せて男に攻撃を仕掛けるがあっさり避けられてしまう。第二撃、第三撃と繰り出すがどれもこれもがまるで目の前に飛んでいる虫を払うように捌かれて攻撃は届かなかった。

 

「だあぁぁああああ!!」

 

「なんという未熟……感情に任せただけの攻撃で、この俺に当てれるとでも?」

 

 雄叫びを上げ捨て身となった少女の特攻も、仲間の援護も、男はただ笑いながら、捌いている。防御力、攻撃力、速度、技の技量そのどれもが───男と魔法少女の間には絶望的な差があった。

 しかしそれでも彼女達は諦めずに立ち向かう。それが彼女達の使命だからだ。

 男はそんな必死になって向かってくる魔法少女達に苛立ちを覚え始めていた。

 こんな玩具で自分に歯向かう愚かさに呆れ果てていたのだ。もっと楽しませてくれないのかと。しかしそれもすぐに終わるだろうと彼は思っていた。

 なぜならこの少女達も自分が全力を出して相手するまでもない、所詮は人間に過ぎないからだ。そう思いつつも男はまだ本気を出していなかった。それどころか彼の中では遊び感覚ですらあった。

 

「怪我を負った人は下がってグリーフシードを使って回復して!なんとしてでもここで食い止めるのよぉ!」

 

 それから暫くの間、結菜の指示で戦いが繰り広げられたが戦況は明らかに魔法少女側が不利であった。戦いは激しい戦闘が行われているのだが、それはまるで戦争のような様相を呈している。男の放つ一撃により次々と建物が崩壊していく。このまま男の優勢が続けていたらいずれ町が崩壊するのは明らかだった。少女達も限界を越え幾度となく抗い善戦はしているが、男の強さは桁違いであり、次第に追い詰められていく一方である。

 続けて他の魔法少女も魔法による攻撃を試みるがやはり当たらない。当たっていても傷一つ付かずに男はそこにいるのだ。ある魔法少女が二刀流の短剣で男に近接戦闘を挑むも男は笑いながらまるでサッカーボールのリフティングの練習をするように脚で短剣による斬劇を蝶のように舞いながら受け流している。そして蹴り上げた脚をそのまま振り下ろして短剣を持っていた少女の手を蹴って武器を落とさせた後に彼女の腹に左ストレートを喰らわせ吹き飛ばす。

 吹き飛ばされる彼女を尻目に今度は別の魔法少女が弓を構えて矢を放つが、その矢さえも男の剣によってまるで紙を切るかのように簡単に目にも止まらぬ速さで両断されてしまう。

 援護の攻撃で結菜は自身の固有魔法である「対象変更」を使い破壊された車をおもいっきり殴り、ダメージを男に移すという藁人形の効果で攻撃を試みる。だが男は何事もなかったかのように平然としていた。それをみた結菜は何処か心の中でやっぱりかと思いいつつ舌打ちをした。

 

 その後も男の攻撃は止まらなかった。彼が振るう度に大地が裂ける轟音と共に衝撃波が発生する。それは先程まで男による虐殺で死絶えたであろう無数の肉片や死体が気化する程の衝撃波だった。

 それを避ける為に魔法少女達は必死になって動き回り続けた。

 

「フハハハ!!逃げ惑え。悲鳴を、血渋きを、断末魔を叫び唄い、俺を楽しませるがいい!」

 

 だがそんな彼女達の動きを予測でもしているかのように、もう片方の手からには光弾を発射し男はそれを正確に命中させ着々とダメージを与えていた。男がその気になれば少女達を仕留めるまでに時間は掛からないだろう。しかし、それは男にとって少々退屈な時間でもあった。目の前にいる魔法少女達は取るに足らない存在であったが、殺すには惜しいと思えるほどの実力差ではなかった。

 この黒衣の男にはダメージを受ける程力を増す能力はあるが、生憎そのダメージが受けておらずその為、殺さずに弄ぶことしか出来ないことに少々不満を抱いていたが、同時に圧倒的な力による暴力で人間共を制圧する事は愉快ではあると感じていた。

 

「どうした、この程度なのか?次の出し物がないと殺してしまうが良いのかね?」

 

 男が余裕を見せながら少女達に語りかける。

 少女達は息を切らしながらも男に向かって果敢に攻め込んでいくが、ダメージを与えている気配がなく、少女達が傷が増える一方なだけだ。それはまるで、大人が子供を相手にしているような状況だった。

 しかしその時、気配を消した一人の少女が隙を突いて奇襲の一撃を繰り出した。

 

「くらえぇ!」

 

 彼女は先程の戦闘で負傷した為、戦える状態ではなく、後方に下がって回復に専念していたが、その傷が癒えたので再び戦線に復帰したのだった。

 

「残念だったな」

 

 だが彼女の攻撃は男には全く効かなかった。男は片手でその攻撃を受け止めた。そしてもう片方の手で反撃をするが、それを何とか回避する。

 少女が安堵の表情を浮かべた瞬間、腹部に重い衝撃が走った。いつの間にか蹴りを喰らっていたようだ。少女はそのまま勢いよく吹き飛び瓦礫の山の中に埋もれた。

 

「くそぉ……このままじゃ……」

 

「諦めちゃダメよぉ!私達はまだこんなところで死ぬわけにはいかないでしょぉ!」

 

「でも、もう勝ち目がないし……あの男は明らかに遊んでいるんじゃ──」

 

「弱音を吐かないの!まだ希望はあるはずよぉ!」

 

 結菜は仲間の一人を励ましている。

 少女たちは絶望的な状況の中でも懸命に抗うが、状況は悪くなるばかりである。少女達はその事を悔しく思う一方で、自分達の力不足を実感していた。

 このまま戦っていても勝てる可能性は皆無に等しい。たった一人の男が自分達より遥かに強い存在だと、少女達はその事実を悟っていた。だからこそ彼女達は、自分に残された最後の力を振り絞り、男に挑む。

 

(まずいわねぇ……このままだと全滅する……何か方法は無いのぉ……?)

 

 結菜は必死に頭を働かせる。

 このままでは確実に自分達の命が奪われる。

 それだけはなんとしても阻止しなければ……。

 

 

一番罪が深い市はどこだと思う?

  • 神浜市
  • 見滝原市
  • 風見野市
  • 宝崎市
  • 二木市
  • 湯国市
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