台風の如く吹き荒れる嵐。暗曇が覆う空。
二木市に響き渡る雷鳴は止まず、衝撃波が発生する度によっては数多の瓦礫が埃のように舞っている。
それらは人間の智恵から振り絞り生み出した建築物。人々がより楽に暮らすために科学によって造られたであろう巨大な叡智だ。それが今や見る影もなく破壊されている。その光景を見れば誰もが思うだろう。地獄だと。
それは今、規格外の暴力によって蹂躙されている。世界の終わりのような光景はいっそ笑える程だった。
物理法則という概念は、この闘いにおいては全くもって通用しない。故に余波による周囲の破壊は所詮、己の力の証明に過ぎないのだ。天変地異としか言いようのない事象の数々。それを引き起こしているのはたった二つの力のぶつかり合いによるものだ。
一つは天災の如き理不尽な力を振るう怪物。そしてもう一つは外宇宙から飛来した黒衣を纏う男である。
怪物の名は、ワルプルギスの夜。男の名は──
両者は互いに譲らず、ただひたすらに殺し合っていた。激闘を演じる二つの存在。だがしかし、そこには決定的な差があった。
そう、それは──。
人型と巨大型ということだ。 孫悟空とワルプルギスの夜では実力に大きな隔たりがあるのだ。
常人では視認出来ぬ程の超スピードで黒い鞭と使い魔達の攻撃を避けているのは、孫悟空。この漆黒の神こそ、先程までに虎屋町を破壊の限りを尽くした元凶だった。
身体から漆黒の闘気を放ち、掌から打ち出される闇色の光弾。ガトリングのような連射速度と、マシンガンのように途切れない射撃能力を併せ持つ。それらは全てワルプルギスの夜と使い魔達に向けられていた。宙から降り注ぐ光弾の雨に黒い鞭は相殺され、舞台装置の魔女は仰け反り、使い魔達は必死になって回避行動を取るが、孫悟空の攻撃を全て避け切ることは出来ず、次々と撃墜されていく。
故に安全圏など存在しない。逃げ場を失った使い魔達に孫悟空の手から放たれた黒い光が直撃する。凄まじい衝撃と共に爆発が起こり、爆風が巻き起こった。爆炎の中から飛び出してきた一体の使い魔。だがそれもすぐに撃ち落とされる。
また別の使い魔達が孫悟空へと迫る。だがそれもやはり簡単にあしらわれてしまう。
圧倒的なまでの戦力の差。数的有利は完全に無意味となり消え失せている。
まさに漆黒の雨。
一粒でも当れば致命傷となる一撃必殺の威力を持つ光の弾丸。それらが絶え間なく発射され続けているのだ。当然の如く全ての使い魔は迎撃されるか回避するかのどちらかの行動を取らざるを得ない。つまり、反撃に転じる余裕がないのだ。
もし仮に反撃に転じられたとしても、孫悟空には通用しないだろう。何故なら孫悟空は既に音速を超越する速度で移動しているからだ。しかも瞬間的に加速して移動するのではなく、常に最高速度を維持している状態なのだ。
対してワルプルギスの夜は強大な力を秘めているものの、伝説の魔女と呼ばれても孫悟空からすれば単一惑星規模の呪いの集合体でしかない。
場に君臨するだけでも巨体からには台風を再現するような暴風を巻き起こしてしまうのだが、孫悟空からすれば団扇を扇いでいるようなものだった。しかも本体の移動速度自体は漆黒の神と比べれば鈍重そのもの。故にワルプルギスの夜が孫悟空に追い付くことは不可能に近い。更に言えば、ワルプルギスの夜が放つ魔法による攻撃も孫悟空にとっては大した脅威ではなかった。
つまり単純な話、彼が本気を出してしまえば勝負にすらならず既についているはずなのだ。だというのに、彼の攻撃は未だに決定打にはなっていない。
その理由は単純明快であった。
このワルプルギスの夜は果てしないバフを受けているからだ。それも途方もない程の強力なものを──。
この宇宙には【宇宙の意思】という概念がある。もっともそう呼ばれ始めるのは未来での話だが……。
これはこの宇宙に存在する概念であり、全ての生命はこの意思の影響を受けることになる。そしてこの宇宙の意思とは、即ち全知全能の神に等しいものなのだ。
そんなものが与えた恩恵を受ければどうなるのか?答えは簡単だ。無数の強化を受けて、あらゆる能力値が上昇することになる。ワルプルギスの夜はその宇宙の意思バフを常時受け続け、その力を増大させ続けていた。
そのバフの燃料はなにか?それは他でもない【相転移エネルギー】というものだ。その前にエントロピーという概念が重要である。エントロピーというのは、分かりやすく言えば宇宙の寿命を現すコップ一杯に入っている水のようなものだ。そのコップに入ってある水が蒸発したのが宇宙のエントロピーであり、それが全て蒸発し無くなると宇宙の寿命がそこで終焉を迎える。
そこでキュゥベえがその終焉を迎えないために目をつけたのが【相転移エネルギー】──すなわち少女の絶望というものだ。この宇宙に在するあらゆる星に生存する知的生命体から生み出す感情のエネルギーに目をつけて、キュゥべえが保有する卓越した科学技術を使いこなし、魔法少女から抽出する呪い──魔女化する際のエネルギーを利用すればエントロピーを増大し続けることが可能になり、宇宙の探索や、文明の開拓、そしてコップに水を注ぐように宇宙に放出し延命が可能となる。
故に宇宙の意思は漆黒の神と渡り合う為に、とある少女の願いに介入しワルプルギスの夜を召喚させ、宇宙に放出した【相転移エネルギー】を召喚した魔女に与えたのだ。そのおかげでワルプルギスの夜は本来ならば有り得ない程に強化されている。まるで水が氷となる際に体積が増えるように、宇宙のエネルギーを圧縮することによって得られる力が増幅している。その強化率は尋常ではない、最早神の領域に達してもいい程だろう。それほどまでに強くなっているのだ。
もし仮に紅晴結菜のような魔法少女にこの力を与えても容量であるソウルジェムが耐えきれず風船が破裂するように弾けて死ぬだろう。もし仮にそこら辺の魔女だった場合も力が暴走し始めて制御が効かない【絶望の魔女】のような存在が生まれてしまう可能性があっただろう。
驚異的なバフは、あらゆる魔女の集合体であるワルプルギスの夜だからこそ出来た芸当なのだ。
この行為は本来ならば宇宙の寿命を著しく縮める行為であり、宇宙の意思からしたら悪手以外の何物でもなかった。しかし、この世界において宇宙の意思とはあくまで抑止力的な存在に過ぎない。この世界の存続こそが最優先事項。故に世界の崩壊を防ぐ為であれば多少のリスクは許容するという判断に至ったのだ。孫悟空が【人間0計画】を行い、総ての知的生命体を抹消し、キュゥべえが創り出したシステムも粉砕され、この宇宙が存続出来ない状況に陥るのだけは避けなければならない。
それは体外から侵入してくるウイルスを排除する耐性菌のように、宇宙の意思からしてみれば孫悟空の抹殺が急務だった。
だが──
「邪魔だぞ虫けら共め……雑魚がいくら群れようが俺を出し抜くことは不可能!大人しく散るがよい!」
それでも現段階では漆黒の神の方が力は上回っていた。
あまりにも高すぎる戦闘力。
いくら宇宙の意思から与えられた膨大な量の魔力で強化されたとはいえど、孫悟空の戦闘能力は桁外れ過ぎた。ワルプルギスの夜だけでもなく使い魔達も強化されており、それこそ一体一体が文明を滅ぼしかねないほどに強力になっているにも関わらず、孫悟空には及ばなかった。星を砕き、銀河を平らげる事が出来る彼にとっては赤子をあやすよりも楽な作業。まさに天と地ほどの差だ。
それでも諦めずに使い魔達は孫悟空へと向かっていく。援護にワルプルギスの夜はビルや家といった建築物を魔力によって宙へと浮かせ漆黒の神に投げつけるが、彼からしてみれば豆腐を投げられたようなものだった。
だが、孫悟空はそれらに対して一切容赦しない。ただひたすらに、目の前に飛んできた蚊柱を焼き払うように撃ち落としていくだけだ。
建築物が光弾に触れた瞬間に消し飛び、使い魔達の悲鳴のような叫び声が上がる中、遂に最後の一体となった。
それは、孫悟空が最初に倒した一体の使い魔。
孫悟空はそれに視線を向けると、大地へとゆっくりに着地しニヤリと笑みを浮かべた。
そして掌を向け、黒い光を放つ。
刹那──
孫悟空の放った黒い光が、最後の使い魔を飲み込んだ。
最後の一体を仕留めたあとゆっくりと振り返ると、そこにはワルプルギスの夜の姿があった。
孫悟空はその姿を見上げると、満足そうに微笑む。
「さて、これでお前が産み出した有象無象の雑魚共は全滅したわけだな。いくら数を増した所で最強の神には勝てぬと知れ」
『フフフ、アハハハハ!』
『ねぇ黒ちゃん……お話は全く聞いてないみたいだよ?』
「ふん、奴に話を聞かずとも結構なこと。俺はただひたすら己に酔いしているだけ。誰も聞いていなくても関係ない」
孫悟空の言葉に、ワルプルギスの夜はただ笑っている。どうやら伝説の魔女と呼ばれる存在には会話をする機能がないらしい。孫悟空はそんなワルプルギスの夜を見て鼻で笑う。それは嘲笑というよりも、哀れみの感情に近いものだった。
そしてまたもやワルプルギスの夜は無数の黒い鞭を孫悟空に目掛けて一直線上に放つ。まるでレーザー光線のように放たれた無数の黒い鞭は、一瞬にして孫悟空を呑み込み、そのまま地面に向かって降り注ぐ。それはまさに雨の如く──いや、隕石が落下するかのような光景であった。
その衝撃によって大地は大きく揺れ動き、その振動によりビルは崩れ落ち、道路に亀裂が入る。その威力は凄まじく、周囲にあった建物は全て倒壊し、地形が大きく変わってしまった。
そして土煙が晴れ、その中心にいたはずの孫悟空の姿を確認しようとワルプルギスの夜は目を凝らす。
だが、そこに孫悟空はいなかった。
「またそんな攻撃か。芸のない奴め……いい加減飽きたぞ!」
彼は既に額に指を当て、瞬間移動で回避していたのだ。
孫悟空が行う瞬間移動とは、文字通りのテレポート能力である。気を探った相手の場所に0秒で移動できるのだ。これを応用することで惑星間の移動、下手をすれば別の宇宙へと移動が出来る。更に言えば戦闘中に不意打ちや奇襲などの攻撃も仕掛けることも可能なのだ。
黒い鞭による攻撃を回避する際に孫悟空が額に指を当てて移動したが、本来は何も構えずとも移動は出来る。だが、この動作を行うことによってより精神的に集中力を高めているのだ。
そして、ワルプルギスの夜の背後に姿を現す。
瞬間移動による背後からの奇襲。その巨大な背中に蹴りを叩き込む。その一撃はまるで大砲の弾を撃ち込まれたような衝撃を生み、ワルプルギスの夜の歯車に命中し、その巨体を軽々と吹き飛ばした。
その衝撃によってビルが倒壊し、瓦礫が宙を舞い、周囲の景色が一変してしまった。
孫悟空はその様子を確認すると、再びその場から姿を消した。
今度は上空に現れ、左手を天に掲げてそこに無数の黒い金属の塊を出現させた。数十メートルにも達するほどの大きさの四角い箱のようなもの。それが孫悟空の周囲に浮遊している。
黒い金属の塊の正体は【カッチン鋼】と呼ばれる物質だ。この世界には存在せず、孫悟空のいた世界に存在する超硬度を誇る鉱物である。それはなんと星の爆発を間近に受けても傷一つ付かない程。この世界では決して手に入らないこの世界の物理法則を完全に無視した素材。それを神通力によって大量に生成したのだ。
孫悟空はそのカッチン鋼で出来た立方体を、ワルプルギスの夜に向けて一気に解き放った。
カッチン鋼の弾丸は音速を超える速度でワルプルギスの夜を襲う。それらはまるで流星群のようにワルプルギスの夜に降り注ぎ、命中させ覆い被せる。
大量のカッチン鋼に埋もれたワルプルギスの夜に完全なる死角が生まれた。
その隙を孫悟空は見逃さない。
孫悟空はトドメを刺すために右手からエネルギーの塊を生成する。
「──ハッ!」
掛け声とともに手を開くと、そこから闇色の光弾が出現し、やがてそれは巨大な球体となる。そして孫悟空は、空から落ちる隕石のような速さで光弾をワルプルギスの夜へと撃ち込んだ。
直撃を受けたワルプルギスの夜は声を上げる暇もなく、光に包まれながら地上へと押し潰される。激しい光が発せられ、爆風が巻き起こり、辺りに衝撃波が広がる。惑星の爆発にも耐える超硬度の鉱石が殆ど原型を留めずに粉微塵となり、辺り一面に飛び散っていく。まさにそれは、圧倒的な破壊の力だった。
『おぉ……』
みことは圧感の声を発する。それも当然だろう、何せ伝説の魔女と呼ばれたワルプルギスの夜とここまで渡り合っていたのだから。
最強の神は伊達ではないとみことは思った。
「終わったか……」
孫悟空はそう呟くと、そのままゆっくりと地面に降り立つ。土煙が舞う中、彼はただ静かに佇んでいた。
「一世界の穢れの形が伝説の魔女とはいえど、所詮はこの程度ということ。神の御業による踏み台にしかならないのだ」
孫悟空は小さくため息をつくと、そのまま歩き出す。
その表情には勝利に対する喜びも、戦いが終わったことへの安堵もない。
ただ、呆れたように眉間にシワを寄せて首を横に振っていた。
「お前は確かに強力だった。この俺に手傷を与えることが出来るのは間違いないだろう。だが、いくら強かろが、攻撃の手段が単調過ぎる。解りやすく言うならば宝の持ち腐れという奴だ。結局の所は伝説と呼ばれていたが神からすれば有象無象の存在に過ぎない。使い魔共も雑魚ばかりで話にならん」
土煙が舞う中で孫悟空は淡々と独り言を喋る。その言葉はまるで誰かに向かって話しているようであった。だけど、それに答える者は誰もいない。
彼はただひたすらに、ワルプルギスの夜が居た場所を見つめていた。
失望という二つの文字。確かにこのワルプルギスの夜は孫悟空と渡り合える程の強大な力を持っているのは間違いないだろう。しかし、それだけの力を扱うだけの知能がないと何も意味もないのもまた事実。ダメージを受け期待したがこの有り様では失望するのは当然な話だった。
どれだけの力があろうと、伝説の魔女であろうと関係ない。
孫悟空にとって、この戦いは単なる準備運動に過ぎななかったのだ。
だが、一つ誤算を挙げるとするならば、孫悟空はワルプルギスの夜を過小評価し過ぎていた。
『この魔力反応……待って黒ちゃん!まだワルプルギスの夜は倒せてないよ!』
「なに?」
心の中に居るみことが声を出す。それを聞いた孫悟空が視線を土煙の方向へと見据えた。そして先にある土煙がだんだんと晴れていく。
『アハ……』
その声を聞いた時、孫悟空は目を見開いて驚愕する。
「むっ!?」
土煙が晴れ、影の中からそれは出てきた。
そこには先ほど倒したはずのワルプルギスの夜が無傷の状態で浮きながら漂っていたのだ。
『アハハハハハハ!』
『嘘でしょ……まさか、あの攻撃を耐えきるなんて』
「ふむ、これは驚いた。流石は伝説の魔女と呼ばれただけではあるな……害虫並みのしぶとさはそれ故か」
みことは驚き呟く。
一方の孫悟空は驚きと共に感心するように言った。
確かにあの攻撃は凄まじかった。だが、ワルプルギスの夜はそんな攻撃を受けてなお、全くダメージを受けていなかったのだ。
いや、そもそもワルプルギスの夜には攻撃が効いていないように見えた。
孫悟空が放った攻撃は間違いなく、その身に受けたはずだ。
理由はある。それはワルプルギスの夜には物理攻撃に対するダメージ軽減の能力が備わっている。それはあらゆる物理的損傷を無効化するという能力である。それにより孫悟空の攻撃によるダメージを超大幅に抑えたのだ。
つまり、どんなに強力な攻撃をしようと、物理攻撃ではワルプルギスの夜にダメージを与えることは出来ないのだ。
例を出すと、ある平行世界に生きる一人の魔法少女がワルプルギスの夜を倒す為に考えた作戦があった。その少女はミサイルやロケットランチャーなどの兵器を用いて攻撃を行った。更には核兵器などの戦略級兵器の使用も検討された。
だが、それでもワルプルギスの夜は倒せなかった。
ワルプルギスの夜は魔法による攻撃以外による物理的損傷を無効にする能力を持ち合わせている。その為、どのような火力を持ってしても、いかなる戦術を用いようと、物理的な方法では倒すことが出来ない存在なのだ。
だから、その魔法少女は幾度にも渡る時間逆行を行い、何度も繰り返しては、ありとあらゆる手段でワルプルギスの夜を討伐しようとした。
無意味だと知らずに。
結果、彼女の守りたかった一人の友人がワルプルギスの夜を倒すためにキュゥベえと契約し、その願いによって彼女は救われたが、友人は概念に成り果てたことは言うまでもない。
では何故そんな能力が備わっているかという話になると、それはワルプルギスの夜はもともと【演劇の魔女】と呼ばれる存在が他の魔女の波動を集め、更にその集めた魔女達の怨念が融合して生まれた集合体だからだ。
元となった魔女にはそんな能力は無かった。あるとすれば、自分の身を護るための自己防衛本能のみ。
だが、集結していくうちに、融合した魔女の能力同士が干渉して、結合し始めたのだ。それはまるで化学反応のように、互いに互いを高め合い、絵の具のように数多の色を混ざり合うことで、より強固な能力へと進化していった。その結果、物理無効の能力を持つようになったのだ。
ミサイルも効かなければ、ビーム兵器の類いも通用しない。
故に、ワルプルギスの夜を倒すためには物理以外による魔法属性による攻撃が必要となる。
孫悟空の攻撃が通じないのはその為であった。
ある意味ワルプルギスの夜は孫悟空と相性が良かったのだ。
『フゥーッ!アハハッ!!』
ワルプルギスの夜は高らかに笑うと、一本の黒い鞭のようなものを出現させる。そしてその先端を孫悟空に向けると、そこから黒い光線を放った。その速度はまるで光の速さのようだ。
「何度も同じ手が通用すると思っているのか?」
孫悟空はそう言いながら、右手を前に突き出すと、そこから光弾を放つ。黒い鞭は闇色の光弾とぶつかり合った。競り合う二つの力。ぶつかり合うそれはいっそのこと美しいと人によっては感じる光景だろう。
だが、競り勝ったのは黒い鞭だった。
孫悟空の方が押し負けて勢いが止まらないまま黒い鞭が孫悟空を襲う。
「なんだとっ!」
それは彼の予想外だった。
「ぐぅっ!」
黒い鞭が孫悟空の腹に直撃すると、そのまま後方へと吹き飛ばされる。
ビルや民家をなぎ倒しながら孫悟空は地面に叩きつけられた。
実の所、ワルプルギスの夜は孫悟空を油断させる為に、敢えて同じ技を何度も使ったのだ。使い魔達をけしかけ、自らは遠距離から孫悟空に攻撃を仕掛ける。だが、孫悟空は全ての使い魔を倒し、ワルプルギスの夜の元に辿りついていた。そこでワルプルギスの夜は孫悟空に対して、あえて同じ攻撃をしたのだ。その狙いは見事にハマったと言えるだろう。
ワルプルギスの夜は最初から孫悟空の隙を狙っていたのだ。
孫悟空が接近してくるのを待って、確実に仕留めるために、最大限まで溜め込んだエネルギーを解き放つために。
その一撃で孫悟空にかなりのダメージを与えることが出来たのだ。
「ちぃっ……下らん小細工をしおって」
孫悟空はそう吐き捨てるように言った。ダメージを受けてはいるものの、致命傷には至っていない。彼は口の中に溜まった血を吐き出す。
どうやら内臓を少々痛めたらしく、口からは少量の血が流れていた。だが、彼はそれを気にする様子もなく、ただ目を瞑っていた。まるで瞑想でもしているかの如く、彼は静かに佇んでいる。
ワルプルギスの夜はそんな孫悟空を見て、今度こそトドメをさすため、舞台装置の魔女は孫悟空に向けて黒い鞭をもう一本出現させて第二撃を繰り出す。今度は二本同時にだ。
『黒ちゃん!攻撃が来るよ!』
二本の黒い鞭は絡み合いより強力なものへと変化していく。それはまるで巨大な蛇のような姿に変貌していた。
その大蛇は孫悟空に向かって一直線に襲いかかる。
しかし、それでも孫悟空は全く動こうとはしなかった。
迫りくる一匹の大蛇。孫悟空はその光景を見ながら、小さく呟く。
その言葉には歓喜にも似た感情が含まれていた。
「だが、素晴らしい……この痛みが俺を強くする」
ワルプルギスの夜は先程の攻撃で腹部を狙うのではなく、頭を狙った方が良かったかもしれない。
何故なら、あの一撃で孫悟空はより強くなったからだ。神の精神とサイヤ人の肉体が融合して生まれた特性により受けたダメージがそのまま力に変換したのだ。
孫悟空が目を見開くと同時に、身体中が闇色の闘気に包まれた。
次の瞬間、彼はその大蛇を両腕で受け止めた。そして、そのまま力任せに持ち上げてしまう。大蛇と繋がっているワルプルギスの夜もろとも釣り上げる魚のように宙に浮かび上がる。
『アハッ──!?』
「ぬぅん!!」
ワルプルギスの夜は驚愕し孫悟空は雄叫びを上げると、そのまま腕を振り下ろし、ワルプルギスの夜ごと地面へと叩きつけた。
その衝撃は凄まじいもので、大地が揺れ、大地に大きな亀裂が生まれ、衝撃によって土煙が舞い上がり、辺り一面に砂塵が舞う。さながら隕石が落ちてきたかのようなクレーターが出来上がってしまったのだ。
その力はまさに神の如しである。
「ふむ……少しやり過ぎたかな?」
孫悟空はそう言うと、手についた埃を払うようにパンパンっと手を叩く。
「そろそろ本気を出したどうだ?まだ余力を残してあるのであろう。それとも、もう限界かね」
孫悟空の言葉に応えるかのように、突如として巻き上がった土煙の中からワルプルギスの夜が姿を現した。
その姿は無傷であった。
あれだけの攻撃を受けながらもワルプルギスの夜は平然としていたのだ。
『フフッ!アハハッ!』
「ほう……」
孫悟空は感心したような声を出すと、再び構えを取る。
ワルプルギスの夜は孫悟空を見据えている。有り余る力からは明確な殺意が感じられた。
今の一撃を受けてもなお、舞台装置の魔女は戦意を失っていない。
むしろ、その闘争本能はさらに増しているようだった。
ワルプルギスの夜は初めて目の前の敵に対して敬意を覚えた。
それは今までに経験したことの無い感覚だった。
己に対するバックアップがあるとは言えここまで自分と対等に戦う相手などいなかった。
いや、そもそも自分が倒されるなんて考えたことが無かった。
その事実が、舞台装置の魔女の心に火をつけた。もっと戦いたい、殺し合いたいという欲求が沸々と湧きあがってくる。それは彼女が生まれて初めて抱いた感情だった。
彼女はその感情に従い自分の中に眠る全ての力を開放することに決めた。
その決意と共に、彼女は自身の全てを解放することを決断する。
そして、次の瞬間、ワルプルギスの夜は動き出した。
ガシャン、と歯車が噛み合う音が聞こえたかと思うと、舞台装置の魔女は自分の巨大な身体を百八十度回転し始めたのだ。それはまるで独楽の様にグルリと回り、彼女の身体は逆さまになっていた人型部分がひっくり返り、本来あるべき正位置になったのだ。その結果、ワルプルギスの夜は本来の形に戻った。
そして、人形部分のドレスも変化しており、姿がより深い闇色に染まっている。
まさに暗黒に染まる舞台装置と言えるだろう。その全身から溢れ出すオーラは先程までとは比べ物にならないほどに禍々しいものだった。
『これがあの伝説の魔女の本当の姿なんだ……』
「いいねぇ、力がより充実しているのを感じる……それがお前の真の姿というわけか」
孫悟空は嬉しそうにそう言った。
その表情は狂喜に満ちており、今にも笑い出しそうなほどだった。
『黒ちゃんどうするの……?攻撃してもまともにダメージを与えれないからじり貧で押されると思うよ』
「どうするかは決まっているぞ、みことよ。敵が真価を発揮し俺の中のサイヤ人の細胞が疼いているのが解る……ならば、それに応えねばならんようだ。奴と同等にギアを一段階上げるとしよう」
『ギア?』
そう言って孫悟空は力を一段階上げるために拳を握りしめた。
「はあああ──っ!!」
すると、孫悟空の身体を黒い闘気が包み込み、身体を覆っていく。そして、次第にその闘気は孫悟空の身体を覆い尽くしていく。
やがて黒い闘気は黒混じりの黄金に輝く闘気へと変化していく。その闘気はまるで太陽のように眩しく輝き、見る者を圧倒した。
そして、次の瞬間、新たな姿となった孫悟空がいたのだ。
髪は逆立ち、黒一色だった髪と瞳は金髪と碧眼になっており、金色の闘気が漂っていた。
その圧倒的な存在感は伝説と呼ぶに相応しいものであった。
『凄い!黒ちゃんの姿も変わった、金ぴかに!』
「黄金に輝く姿、悪ないだろう?これが一千年に一度に現れると謂われる伝説の存在……超サイヤ人と呼ばれるものだ。野蛮なサイヤ人ではなくこの俺こそが扱う事によって伝説から神話へと昇華するのだ」
孫悟空はそう言うと、黄金の髪を靡かせながら不敵に笑う。その姿を見たワルプルギスの夜は、歓喜し口角を吊り上げていたようにも見えた。
「さぁ、始めようか。戦いの灯火を消すのはどちらか……それをこの戦いで決めるとしよう」
熱狂の舞台。だが、もはや演者は居ない。そこにいるのはただ、お互いの闘争本能をぶつけ合う獣のような存在だけだった。
ワルプルギスの夜(宇宙の意思ブースト)
外宇宙から飛来したゴクウブラックの人間0計画を阻止するべく宇宙の抑止力が働いてバフをモリモリにして呼び出された魔女。ゴクウブラックを真っ先に狙ったのは宇宙の意思による後押しだと解釈してください。
ゴクウブラック(超サイヤ人)
伝説には伝説の力をぶつけるのが美しいとブラックが思って変身した形態。素でオリジナルの孫悟空の超3は超えているのでどれだけ強いかは作者にも計り知れないです。
よろしければ感想と評価を募集しておりますのでお願いします。
どっちが勝つと思う?
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ワルプルギスの夜
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ゴクウブラック