艦これのイベントが終わり、ようやく書き始められると思ったら、今度は仕事が大変になり始めました。
スロースペースになるかもしれません。すみません
ムジュラの仮面買いました! やっぱりゼルダは名作だね^^
雲一つない光り輝く満点の星空だった。その中でもひときわ輝きが強く、目立って見える星がいくつか寄り添っている。
白鳥座のデネブ。こと座のベガ。わし座のアルタイル。
いつから人がそれを夏の大三角と呼んだのかはわからないが、今星座たちが、何億と離れたその位置から必死に輝いているのはわかる。彼らから、この地球という星は見えているのだろうか。その星座には生息する命があるのだろうか。もしいるのだとしたら、その命もまた強く輝く地球を見上げているのだろうか。
あるかもわからない物思いに耽りながら、一人の青年はほくそ笑む。
「なんだかご機嫌だな。宗司(そうじ)」
左隣から彼の名を呼ぶ軍服を着た若い男性。
「何か暇つぶしにでもなることでも思いついたのか。だったら訓練が終わったとにでも教えてくれよ。俺を抜きにして楽しむなんてすんなよな」
「別に。特に思いついちゃいないよ。次郎(じろう)。ただ、今日の星はいつにもまして綺麗だなって考えてただけさ」
「そんなことかよ。星を眺めていられるだけ余裕があるなんて、才能のあるやつは言うことが違うねぇ」
次郎と呼ばれた男性は思ったことはすぐに口に出てしまうタイプであるが故、本人には悪気がない。
宗司は苦笑いを浮かべながら、実弾を入っていない小銃を構えて的に向かって発砲する。実弾ではないが、弾道特製の同じの安全性の高い代用弾が的の中心から右に少しずれた場所にぶつかる。
宗司と次郎が今いるのは、日本から少し離れた世界最大である大陸ユーラシア大陸。その中でも巨大規模の国家である中華民国。大都市である北京の南に流れる盧溝河(ろうこうが)に架かる橋――盧溝橋。その付近の荒地で、二人が所属する第三大隊第八中隊は夜間演習は行っていた。
荒地ということもあり、雑草がまばらに生え、すぐ近くには河が流れているというのに土は水分が含まれていないのか生気を感じさせてはいない。
地面を足で削ると、ガサガサと乾いた土の音。硬いために足場はしっかりとしていた。
「それにしても嫌になるな」
発砲し終わる次郎が言う。
「何が?」
「訓練ばかりなことさ。いつもいつも、やることは同じ。途方もなく走らされ、腕と足が千切れるんじゃないかってくらいの身体作り。終いには集中力がない状況での射撃訓練。前半二つの後に最後の締めがあれで、まともな訓練になってるとは思えない」
「そうか? 確かに軍の訓練は厳しいし、理不尽だなって思うときはある。けど、決してやっていることは無駄だなって考えたことはないな」
「無駄って思ったことは一度もない。けど、訓練順番はもう少し何とかならないのかよ」
「それは、走ることで簡単にはバテナイようにすること。身体の筋肉をよくすることで、より動きやすい状態に持ち込むこと。最後に射撃訓練を持ってきたのは、どんな困難で疲弊した状況であっても、精神を乱さずに冷静になって目の前の敵を打ち倒せるようにすること。
訓練はそれぞれちゃんとした意味があるし、順番もよく考えれば理に適ってる。決して何も考えずに上官たちが指示してるわけじゃないんだぞ」
現に二人の身体は入隊した時よりも筋肉は硬く、頼もしい肉体へと変わっていた。
入隊してもう一年になろうとしている。軍隊の過酷な訓練を受けて変わらない方がおかしい。
宗司の言葉にまだ納得のいかなそうな表情をする次郎。だが、これ以上反論したとしても話が平行線するだけだと悟り、次なる話題へと転じる。
「そういや、もう一年になろうとしてるんだ。この苦しい訓練を受けるのも」
「ああ。長かったような短かったような」
「少なくとも濃密な一年だったと俺は思うぜ。毎朝、先輩たちにこき使われて、上官には理不尽に怒られて」
「朝は早いしね。まあその分早く寝れるから問題ないけど」
「いつもが大変すぎて泥のように寝入っちまう。むしろ足りなくらいだ」
「次郎は他の人よりも色々と課題が多いしね」
その言葉に、次郎は苦虫を噛んだ表情を浮かべる。
「それだぜ。……まったく、ちょっと正論言っただけで腕立て三百回とかおかしいだろ。あそこはどう考えても林の中を向って各個撃破していく方が無難だろうが」
彼はぶつくさ言いながらも的の中心部に確実に代用弾を撃ち込んでいく。宗司のことを才能に恵まれていると言ってはいるが、彼の方が神からの恩恵を大いに授かっていた。
次郎自身は銃を持って戦うよりも戦略や戦術を考える参謀科を志望していた。しかし、まだ入りたての宗司たちは二等兵の身分。戦場に行くことがそもそもない彼らは、まず基礎訓練を第一と考えられている。
何も知らないひよこ同然。次郎は才覚を早く発揮したいために、出しゃばる行動が多い。生まれたてのひよこに何度も突かれれば、親鳥もイラッとくるだろう。特にプライドの高い鳥とくればだ。
上官からは目を付けられ、先輩たちは能力のある次郎に嫉妬して執拗にいじめを繰り返す。
演習時に愚痴口調になるのは、そんな鬱憤が溜まっているせいなのかもしれない。
能力のある人間の悩み。それは何より、非才な者たちからの負の感情なのだろう。
「おい貴様らっ! 何を話している! 戦場で話している暇があると思っているのか」
演習中に話しているのに気付いた上官からの怒号。次郎はまたも嫌そうな表情をしながらも、これ以上怒られるのは嫌なのか、目の前の標的に発砲していく。
宗司も同じように黙して銃を構える。上官は、一度は沸騰しそうな顔で迫ってきたが、二人の弾丸が的の中心を的確に落としている所を見るや、そのまま踵を返して別の者への指導に入った。
愛する祖国――日本のために十七の時に軍隊に志願して一年が経とうとしている。日本には徴兵制度が設けられているが、満二十歳以上の男児が強制的に軍隊に入れられるのだが、十七を超えた時には自ら志願して軍隊に入ることができた。
農家育ちで、人参やじゃが芋などを育てる一般的な家の中で育ってきた宗司。
厳格な父だった。そんな父が特に嫌っていたのが、軍隊だった。国のために戦うことは誉の筈。強くなって自分の愛する人たちを守りたいと思うのは、良いことではないのか。宗司は彼の思いを理解できなかった。
宗司は軍に入ることを望んでいた。軍に入り、家族と友人たちを守りたい。それができる力が欲しい。当時の若者に見える正義心が、宗司の中にもあり、それが他の者たちよりもむき出しで、そして大きかった。
父は宗司の軍入りを認めなかった。軍に入りたいなど、死にたいと言っているのも同じ。それは愚かな行いだと。
そんな彼の言い分に、宗司は怒り、二人は互いの主張を覆さず、とうとう分かり合うことはできなかった。
宗司は父の反対を押し切り軍に入隊。軍にはいる時、兄と妹は喜んでくれたが、母は悲しそうな表情で見送った。手紙で家族とやり取りは行っているが、父は未だ宗司の入隊を認めてはいないようだ。
愛する人たちを守りたい。ただその思いを胸に軍にいる。守りたいと思う人の中には、もちろん父も存在する。しかし、その父が自分を認めてはいない状況に、宗司の心の中には大きなしこりが生まれていた。
なぜ、父は認めてくれなかったのか。
宗司は今でも、それがわからないでいた。
「……ん?」
ふと盧溝橋の方へと目線を向けると、何やら光る物体が見える。
ライトの光だろうか。アーチをかけるようなその動きに、宗司でなくとも違和感を感じずにはいられないだろう。
周りの仲間を見て、今の光を見た者がいないか確認する。
しかし、皆目の前の訓練に夢中で気付いてはいなかった。
「宗司。どうした?」
彼が発砲練習を止めている姿に次郎が声を掛ける。
「なあ次郎。あっちの方から光の玉みたいのが動いているのが見えないか」
宗司は光があった方へ指を向け、次郎に確認を取る。
示された方向へ目を細めて見つめる次郎。
「……いや。光の玉なんて見えないぞ」
「は?」
そんなはずはない。宗司は再度光を見ようと顔を向ける。
すると、先程までアーチをかけるように輝いていた光は消え、何も映らない闇だけが残されていた。
「そんな……! でも、さっきまで確かに」
「宗司。疲れてんじゃないか。疲労が溜まると、目がチカチカするって言うからな。上官に頼んで、もう休ませてもらえよ」
優しく肩を叩く次郎に、宗司は説明のしようと顔を向ける。
彼は肩を叩いた時のように、友人を気にする心配と優しさが入り混じった表情で見つめていた。
日本軍の訓練はとても厳しい。銃剣術や兵器の取り扱い。上官たちの考えた戦術訓練などを内容を行い、肉体を強くしていくのが軍としての目的だった。
肉体はともかく、精神的な面での訓練は乏しかったために心の弱い者たちは追い詰められ、自決する者がいるそうだ。
噂では二百人近くの訓練生のうち、二十人以外は皆訓練中に死亡したと言われている話があるそうな。
そんな話が浮上するほどの訓練。確かに軍での訓練はとても厳しい。宗司も次郎も、これまでにいつ死んでもおかしくない状況は何度もあった。上官の目を掻い潜っては、訓練を抜け出して街を訪れてさぼっていたこともあった。
それでも彼らはタフな方だ。どんな叱責を受けようとも、どんな体罰を受けようとも、軍を去ろうとは一度も考えてはいない。
苦しさを知った訓練の重さ。それが災いしてか、次郎は宗司の言い分を聞こうとはしていなかった。きっと精神的に病んでしまったのだろうという思い込みが、彼の耳を塞いでしまったのだ。
「休め休め。喜べよ。俺からも後で上官に言っといてやるから。あいつは疲労で倒れましたって」
もはや弁解は無意味なようだ。
「……わかったよ」
宗司は彼の善意を素直に受け取る。これ以上、話し合っても平行線だと考えたのだ。
「じゃあ、上官に言って休ませてもらうよ」
「おう。そうしろそうしろ」
宗司は次郎のもとから去り、上官のもとへ――には行かず、先程の光の玉の合った方へ向かう。
訓練の抜け出す技術はお手のもと。上官の歩く速さと目を向ける方向を観察しながら、宗司は訓練場から抜け出した。
(確かに光の玉はあった。あれは一体何だったんだ? 誰かを誘導するため? それとも――)
色々な説が宗司の中で生まれては消えていく。
一体何のために光でアーチを作らなければならないか、理解できなかったからだ。中国側にはここでの戦闘訓練はすでに伝えてある。彼らの仕業ではないだろう――と、彼は考えていた。
石造りのアーチ橋である盧溝橋。その下を流れる盧溝河の川沿いに立ち、宗司は周囲を見渡す。
(確かこの辺だった。この辺で、あの光が)
暗闇に目が慣れたと言っても、やはり暗いのは暗い。光の玉を走らせた人物を捜すのは困難を極める。
何よりも演習訓練を抜け出しての独自行動だ。早く帰らなければ、いくら脇の甘い上官であっても気付かれるのは時間の問題となるだろう。
(……無理か)
本当はこの真相を確かめて、軍の上層部に情報を提供をしたかった。そうすれば、大義名分を得られて軍内部でも少しは動きやすい状況に持ってこれるのではないかと宗司は考えていた。
しかし結果はこの有様。光は姿をくらまし、仲間には信用してもらえなかった。
まだまだ、自分の実力はこんなものなのかと、彼は溜息をつく。
十分ほど捜すも、何一つの手がかりなし。無益と判断した宗司は、盧溝橋を出ようと川沿いを後にしようとした。
その時、一発の銃弾が宗司の脇腹をかすめていった。
「――っ!?」
突然の発砲音と銃弾が自分の横を通り過ぎていったことで、宗司は後ろへ態勢を崩してしまった。
そのまま盧溝河へ落ちてしまう。夏場とはいえ、夜の水だ。冷たい水が身体の体温を奪っていく。
早く陸へ。そう考えた彼は、すぐに陸地へと手を伸ばすも、何者かによって阻まれる。
足で蹴られた手に激痛が走り、軍服は水を吸ってしまって重りとなって彼の身体を沈めていく。浅いと思っていた盧溝河は思いのほか深さがあり、彼のいる場所はすでに足が付いてはいなかった。
絶体絶命の宗司の様子を眺めている人物は、愉快気に笑っている。人が苦しんでいる所の何が楽しいのか。宗司は冷めた身体の奥底から怒りの炎が焚き付けられる。
しかし、そんな彼の気持ちを飲み込むかのように、盧溝河は彼の身体を飲み干していった。
意識を失う最中、宗司が最後に見たのは、笑う人物が首から下げていた黄金の十字架だった。
1937年7月7日。この日から、大日本帝国と中華民国との間で大規模な争いが幕を開ける。