夕暮れの彼岸花   作:女の子は女の子同士で恋愛すべきだと思うの

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 スイセンの花言葉は神秘、うぬぼれ、自尊心。

 感想、評価、お気に入り登録、誤字報告、ここ好き等々本当にありがとうございます。



Narcissus

 

 千束、たきなに加えて突発的に参加が決まった透奈の3名は電車に揺られながら目的地へ向かっている。

 

 たきなは先ほどから手元のメモ帳で何かを必死に書いている。恐らく、楠木司令に話す内容をまとめているのだろう。相変わらずまじめだと、千束は思った。

 

 透奈は相変わらず本を読んでいた。手元の本に視線を落とし、ぺらぺらとページをめくっている。タイトルは虐殺器官。

 

 対して、千束は暇だった。外の景色を見続けるのは先ほどまでやっていて、飽きた。暇を潰せるようなものは生憎持っていない。

 話しかけたら透奈は反応してくれるだろうが、たきなはどうだろうか。確率としては五分五分な気がする。

 

 そこまで考えて、「食べ物で釣ったらどうかな」と思いバッグの中の飴を取り出して……それを透奈はひょいと取り上げた。

 

「あぁっ! 透奈~!」

「健康診断が終わった後に食べようね」

「たきなにあげようとしたの!」

「結構です」

「あ、じゃあ私が────あぁっ!」

 

 千束が封を開けようとした飴を透奈は強引にバッグへ押し込んだ。

 

「……健康診断」

「うぅ……はーい……」

 

 夕飯前にお菓子を食べる子ども……それを叱る親の気持ちが若干分かってしまい、透奈は微妙な顔をする。推定とはいえまだ17の自分が味わうには少々早いのではないだろうか。

 

「……千束さんはいつもこんな感じなんですか?」

「そうだね。10年前からずっと千束はこんな感じだよ」

「ちょっと! 成長がないって言いたいの!?」

「そうは言ってないけど……」

 

 口喧嘩とも言えないじゃれあいを目の前で繰り広げる2人が、本当に最強なのかと疑わしくなる────それは何度目の思考だろうか。少なくとも片手では数えられないだろう。

 

 そんな事を考えていると、透奈は「そういえば」といった様子でたきなに声を掛けた。

 

「たきなは何を書いているんだい?」

「司令に話す事を纏めています」

「真面目だね……内容的に僕が話したい事と関係しているから、同席してもいいかな?」

「分かりました。透奈さんの話したい事も銃取引ですか?」

「そう。たきなが話す成果に補足で考察とかを加えていく形になるかな。あと、聞きたい事もあるからそれも済ませようと思ってる」

「なるほど……」

 

 そんな会話をしていると、いつの間にか目的の駅が電光掲示板に表示されていて。

 

「ささ! もう着くよ〜!」

 

 千束の元気な声が電車内に響いた。

 

 

 ▼

 

 

 その後、3人は送迎用の車に乗って約1時間移動し、森と柵で囲われた場所を通過しさらに奥へ。

 以降は赤外線センサ、監視カメラ、物体検知カメラ、サーモカメラが至る所に配置され、蟻一匹であろうと通さないという気概を感じさせる。そうやって、過剰な監視で以てこの場所は護られている、閉じ込められている。何かから、何かを。

 

 そうして日本の治安維持を担う女系暗殺施設の本部の入り口にたどり着く。それから手荷物検査、虹彩認証、指紋認証を経て漸く乙女の柔肌と言うべき場所に足を踏み入れる許可を得ることができる。

 

「ねね、透奈」

「なにかな?」

 

 受付の順番を待っているとき、千束は透奈に声を掛けた。聞く機会がなく、深く考えた事もない疑問の解答を彼が持っているかもしれないと思って。

 

「なんでこんな山奥に本部なんか作ったの?」

「恐らくは機密と侵入、脱走対策だろうね。外にあるカメラやセンサは何も侵入者だけじゃなくて脱走者の対策も兼ねているんだろう。知ったら生かして返さない、知るものは逃がさない、知ろうとしたものは殺す……山奥に立てるのも、ある程度ルートを絞り込むための筈だ。

 孤児の少女達を平和維持という建前で使い捨ての駒として使い潰す組織だから、そういう悪知恵は働くんだろうね」

 

 皮肉たっぷりに、彼は嗤って。

 そうして順番が巡ってきた。

 

「錦木さんは体力測定なので、隣の医療棟へ向かってください」

「はーい」

「井ノ上さんは……」

「僕とたきなは楠木司令にお会いしたいのですが、現在は何方にいらっしゃいますか」

「現在は会議に出席です。お戻りになるのは2時間後ですが……」

「かしこまりました。ありがとうございます」

 

 たきなはそうして対応している透奈を見ていると。

 

「ねぇ、アレ味方殺しの……」

「DA追い出されたってあの……」

「組んだ子全員病院送りにするって……」

 

 ひそひそと、だが本人には聞こえるような声量での陰口。

 千束は思いっきり不機嫌な顔をして主たる3人を睨み……透奈は温度が篭っていない、まるで虫ケラを見るかのような眼で視ている。

 

「何だアイツら?」

「哀れな羊だよ。千束が気にかける必要はない」

 

 千束は苛立ちを隠そうともせず、透奈は声の主人達を露骨に見下し……たきなは俯いている。

 

「お待ちになりますか?」

「っ……はい」

 

 受付の人の声で引き戻されたたきなの声は微かに震えていて。

 

 あの時間……銃取引で起きた一連の出来事はDAでも広まっているようだ。それも、尾鰭背鰭が付いて。

 

 こういった固定された閉鎖的コミュニティではありがちな事だ。1人の失態を誇張し、宣伝し、風潮し……徹底的に貶めて集団の溜飲を下げる。そして共通の話題を作ることによって仲間意識を生み出し、その輪から外される恐怖心で以て集団の統率を測る。

 

 あぁ、全く──────反吐が出る。

 

「────透奈。顔、怖いよ?」

「……ごめん。冷静じゃなかった」

「ううん。たきなの為でしょ? なら、透奈らしいよ」

「……ありがとう」

 

 彼はふわりと笑って……いつもの彼が戻ってきた。

 

 だけど、話題の中心にいるたきなはその空気感に耐えられなくなったようで。

 

「私、訓練所に行きます」

「あ、たきな!」

 

 そう言って、逃げるようにこの場を去るたきな。彼女を止めようと伸ばした千束の手をすり抜けて、小走りで訓練所の方へ向かって行った。

 

 伸ばして、掴めなかった手を千束は無力感を噛み締めながら見下ろして──────だが、その手を透奈は自身の両手で包み込んだ。君は無力じゃない、と優しく告げるように。

 

「たきなの様子は僕が見てるよ。だから千束は自分のやるべき事を」

「……うん! じゃあたきなは任せるっ!」

「あぁ、任されました」

 

 

 ▼

 

 

 射撃音が響く……心臓部に当たる。

 

 たきなはそれを只管繰り返していた。広い訓練所にぽつんと1人だけ立っていて……無心で銃を撃っている。

 

 そうして2マガジンほど撃ち尽くした頃に、コツコツとリノリウムを叩く足音が聞こえた。訓練所に入ってきたのは透奈であり、片手には本を持っている。

 

 その姿を認めて、たきなは「ふぅ」と一息吐いた。思っていたよりずっと集中していたのかも……いや、思い詰めていたのかもしれないと感じて。

 

「透奈さんも訓練に?」

「いや、たきなが心配だったから来ただけだよ」

「そ、そうですか……」

 

 彼のこういう所はずっと慣れないだろう、とたきなは思った。苦手ではない……のだが、どういう反応を返せばいいか分からないのだ。

 だから、たきなは話を変えて。

 

「そういえば透奈さんは銃をあまり使っていませんよね」

「使うような状況がないからなぁ……別に当たらない訳ではないけど」

 

 彼はそう言って、ブレザーの中から銃を取り出そうとして──────たきなの目に止まったのは、右のベルトループに取り付けられた縦8cm、横6cm、奥行き3cmほどの薄型ポーチだった。

 

 サイズ的にマガジンや救急キットではないだろう。だとしたら、アレには何が──────と思っている内に透奈は射撃の準備が完了しており、そのまま発砲した。

 

 結果は命中。だが、心臓ではなく首の部分に当たっていた。

 

「まあこの通り。上手くはないんだ。昔はもう少し上手かったけど、リコリコに来てから実弾はほぼ使わないから鈍って……今はこんな感じさ」

 

 そう言って彼は自嘲する様に笑った。確かに当たらない訳ではないが、そこまで特別上手い訳ではない……狙った場所に正確に当てる、というのが難しそうだった。

 

「そうなんですね……あの、透奈さん。右のポーチには何が入っているんですか?」

「あぁ、これ?」

 

 そう言って彼はポーチをベルトループから外して見せた。そうしてポーチ──どちらかと言うとケースの方が近いかもしれない──の中身を取り出すと。

 

「……なんですか? これ」

 

 青色の液体に満たされた小型の注射器が3つ入っていた。注射器に入っている事から恐らく体に注入するものだろうが、用途は全く分からない。少なくとも勤務でこれを使っているリコリスは見たことないため、恐らく彼専用のものだろう。

 だから、これは何に使うものなのかと持ち主たる彼に聞こうとして──────。

 

「実は僕にもよく分かっていないんだ……でも、何か大切なものって事は覚えているから、肌身離さず持っているだけだよ」

「そ、そうなんですか……」

 

 結論、何も分からなかった。多分ヤバいものではない……と信じたい。少なくともたきなはそう思った。

 

 そんなたきなを見て、透奈は慎重に、言葉を選びながら口を開いた。とても穏やかに、歌うように。

 

「……僕はリコリコに、千束に、ミカさんに、ミズキさんに救われたんだ。この名前も、誕生日も、全部あの場所で貰ったものなんだ。少し前に話したと思うけど、僕は道具だったんだ。だけど、あそこの人達は道具を人間にしたんだ」

 

 望まれた事を望まれたように行う少年が、運命に出会った。

 

「今も昔もDAもCOも嫌いだ。少年少女を治安維持のために使い捨てるなんて正気の沙汰じゃない。多分死ぬまで、この二つの組織には嫌悪感を待ち続けると思う。でも、何もそこに所属している人までが嫌いな訳じゃない」

 

 本当に沢山の人と出会えた。自分が関わらなかったはずの人々と繋がることができた。

 

「僕は幸せなんだ。たとえ、この先僕にどうしようもない終わりが待っていたとしても──────この幸福は嘘にはならない。この幸福を一緒に作ってくれた人達の思い出はきっと残り続ける。何もかもを失った僕が、こんなに幸せになれたんだ」

 

 だから、と彼は続けて。

 

「僕はたきなの味方だよ。辛い時、苦しい時、泣きそうな時……そんな時に手を差し伸べてあげたい。君を、助けたい」

「……っ」

「まあ、そこまで難しく考えなくていいよ。そう思っているもの好きが身近に1人いるってだけ覚えてくれればそれで、ね。ただ、『助けて』って言ってくれれば……駆けつけるよ」

 

 そう言って、彼は悪戯っぽく笑った。大人びた顔ではなく、年相応の笑顔だった。

 

「……透奈さんは、そういう顔もできるんですね」

「ふふっ……ちょっと湿っぽくなったね。どうする? まだ時間まで──────」

「へー、ヤバいっすね」

 

 たきなと透奈の会話に無遠慮に入り込んできたのは、セカンドリコリスの制服を着たボーイッシュな少女だった。

 それに伴い、透奈の目が細められる。会話に割り込まれたからではなく……ただ、その纏う空気に棘と悪意が見られたからだ。

 

「どもーっす、乙女サクラっす」

 

 おどけたように挨拶をした。そのままたきなに手を差し出し、握手を試みようとしている。それに一瞬躊躇いながらも手を差し出し、軽く握って離脱しようとしたところで────その手を掴まれた。

 

 その行為にたきなは怪訝そうな、困惑した顔を浮かべて……対して乙女サクラは蛇のような笑みを浮かべていた。

 

「命令無視した挙句、仲間に機銃ぶっ放したって本当っすかー?」

「っ……!」

 

 たきなの端正な顔が歪められる。透奈や千束がフォローしたとはいえ、古傷は傷だ。抉られれば、触れられれば痛い。

 そして、掴まれた手を振り解いた。その態度を反抗的と見なし、乙女サクラは追撃する。

 

「うっわ、本当なんすね?」

「違う、私は────」

「やっぱ、敵より味方撃つ方が燃えるーみたいな?」

「やめて下さい」

「おおっと、撃たないでくださいよ! ……あ、殺しのときにしか笑わないんだっけ?」

 

 ニタリ、と歪められた顔が更なる悪意を吐き出そうとした瞬間────パタン、と本が閉じる音が聞こえた。音の発生源は当然、透奈であった。閉じられた目が開かれ、星空が映し出される。

 

「乙女サクラさん、だったかな。それ以上は目に余る行動だよ」

「アンタ誰っすか」

「白峰透奈。それより、人を嘲るだけにここに来るなんて随分贅沢な時間の使い方をしているんだね。本部のセカンドも随分質が落ちたものだよ」

 

 シニカルな笑みを浮かべて、皮肉たっぷりの言葉を返す。

 

「はぁ? なんだ、アンタ」

「ふふ、さあね」

「アンタも随分暇そうっすね。アレと喋っているし」

「君との会話よりは有意義だよ。知性と品性が欠如している君よりはね」

 

 そう言って、透奈は本に目を落とす。彼は既に乙女サクラに対する興味を失っていた。

 

「へぇ……じゃあアンタはこの銃ぶっ放してテロリスト皆殺しにしたこの女を庇うんだ」

「デカルトは『決断ができない人間は、欲望が大きすぎるか悟性が足りないのだ』と言った。ラジアータの子機、或いは傀儡に成り果てて自分の意志すら見失った哀れな人形より、自分の意思で最善を掴み取ったたきなを僕は賞賛するよ」

「チッ……よかったっすね、彼氏に庇ってもらえて」

「君は盲目なのかい? どこをどう見たらそう思えるんだい……」

 

 酷く呆れながら、乙女サクラに対して言葉を送る。会話すらも若干面倒に感じているようであった。

 

 ────気に食わない。それが乙女サクラが白峰透奈に抱いている全てだった。見た目は雪月花のような男だが、口を開けば皮肉と毒舌ばかり。普通に嫌なやつだった。だから反撃の糸口を探ろうとした──────その時。

 

「──────随分と饒舌だな、白峰」

 

 凛とした声が響いた。





 1話につきキリが良い所かつ5000文字程度って決めてるけど段々伸びてきた挙句、物語の進みは亀。早く透奈くんの尊厳と肉体を全力で破壊したいのに……私、泣いちゃう。ぴえん。

 皆様もどうか感想欄で性癖展開してください。皆様の性癖で救われる命がここにあります。後書きのネタは何個あっても困りません。純愛、曇らせ、看取られ、なんでもばっちこいです。皆様の性癖の輝きを、感想欄にて披露してくださいませ。

 一度透奈と死別してしまった世界線の千束とかどうでしょうか。ふと目が覚めると、たきなが左遷してくる日に戻っていて……というやつです。多分咄嗟に日付を見て、怪訝そうな顔をするけどすぐに決意に染まった顔をするんだ。「これが私に与えられたチャンスだ」って。

 そんでもって、本編で起きる事件を未来予知でもしてるように先の先って感じで潰していくんだ。なおヨシさんへの好感度は愛憎入り混じってる。
 透奈を脅かす殺意はない、危険はない。全て先に潰して回った。だから今回こそ….!って思ってる千束の前で頭吹き飛ばしたいですね。
 何度繰り返しても、何度やり直しても透奈は死ぬ。透奈を助けようとしたらそれ以外の人が大勢死ぬし、なんなら最後は透奈も死ぬ。透奈の死は世界にプリセットされた運命なんだって絶望してほしいですね。透奈を本当に救いたいなら世界ごと否定するしかないよ。

 あー!そんな悲しい顔しないで千束ちゃん!大丈夫!透奈は生まれの時点で詰んでるけど頑張ればいけるから!多分透奈と千束以外の人類皆殺しにすれば生きれるから!
 その赤色に染まった手で、今度こそ透奈を抱きしめられるといいね千束ちゃん。

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