夕暮れの彼岸花   作:女の子は女の子同士で恋愛すべきだと思うの

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 エリカの花言葉は博愛、孤独、良い言葉。

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 また、感想欄にて読者皆様の性癖発表を心よりお待ちしております。



EP04:Nothing seek,nothing find
Erica


 

 喫茶リコリコはその名の通り、お客様に飲み物と軽食を提供する喫茶店だ。和洋折衷であったり座敷タイプの席が採用されていたりと、人々が想像する喫茶店のテンプレートとは少々異なる部分はあるが、それでも形態は間違いなく喫茶店であると断言できる。

 

 だが、リコリコはあくまでDAの支部の一つである。故に従業員たるDAに関与しているメンバーにしか立ち入ることが出来ない施設は幾つかある。例えば弾薬保管庫だったり、依頼情報を管理するサーバールームだったり……地下の射撃訓練場だったり。

 

 日頃の仕事には研鑽が必要────DAの元教官らしいミカの考えが現れた結果が、この施設だった。ただ、リコリコの地下に作るという関係上広いスペースは取れず、その上街中のため防音にも気を遣わなければならない。故に資金繰りにはかなり苦労し、透奈やミカはかなり頭を悩ませていた。

 

 この施設の存在により、喫茶リコリコはかろうじてDAの支部として見做されている。これがなかったら殆どただのローカルな喫茶店になってしまうだろう。

 

 基本的にこの施設を使うのは千束が8割、透奈が2割だった。千束の方が多いのは、やはり彼女のメインウェポンである点が大きいだろう。

 透奈は銃も使うが、基本的には生身で格闘戦をした方が強い。仮に遠距離攻撃をしたいならば、その辺りに転がっている石ころを投げたり蹴り飛ばせば事足りる。

 

 故に、基本的にこの施設は千束が占領していたようなものだが……今日は新しくたきなが加わり、計3名で射撃訓練場を訪れていた。

 

 今はたきなが銃撃を行なっている。使っているのは千束と透奈御用達の非殺傷弾であり……彼女にとって初めての体験だった。

 

 非殺傷弾をマガジンに込め、セーフティを外し、スライドを引いて、トリガーを引く。

 

 その結果は。

 

「……なんですか、これ」

 

 ほとんどの弾が人体の枠外へと逸れていた。

 射撃能力に関しては千束よりも2枚は上を行くのがたきなだ。極めて不安定な体勢の射撃で空中浮遊しているドローンに命中させるという離業を行っている事からも、それはよく分かるだろう。

 

 故に、この距離で弾丸を外すなんて有り得ないと言っても過言ではない。仮に使用した弾が実弾なら、確実に全発心臓に叩き込まれているだろう。

 

 それだけ、使用している弾の集弾性が酷いのだ。

 

「ふはっ、私も当たんない〜」

 

 隣の千束も結果は同じだった。ほぼ全ての弾が枠外に逸れている。透奈に至っては的に当たった弾の数の方が少ない。

 

「武器の殺傷能力を落とすと、伴って性能も落ちるんだ。明らかに命中率、悪いでしょ?」

 

 透奈は苦笑いをしながら手元の非殺傷弾を親指と人差し指で摘んでいた。主な材質はゴムであり、着弾時に血を模した赤い粒子を撒き散らすもの。音速を超える射出速度によりゴムが空気摩擦で溶け、それにより銃弾自体の重量や重心が変化して……軌道が逸れる。

 仮に、これを本気で実弾銃と同じように運用したい場合は、使用する環境の条件を全て計算して狙いをつけなければならない。もちろん非現実的だ。こんなものを使うくらいなら大人しく実弾を込めた方がいい。

 

 だが、これは……不殺の誓いであり、千束が自分を曲げなかった証なのだ。

 

「なるほど、だからですか」

 

 そして、千束の今までの戦い方からその使用法を理解したようだ。命中率、威力の低さ。それを補う為にはどうすれば良いのか。

 

 その解は──────。

 

「そう! 近づけば絶対当たる!」

 

 このように、どうしても千束の眼が前提の使い方になってしまう。そもそも、遠距離から攻撃するための銃であるのにその利点をかなぐり捨てているのだ。色々と矛盾している。

 

「まあ、千束は例外だよ。この弾丸を実戦で運用できるのは千束くらいしかいないし……僕もほとんど使ってない」

「透奈は当たる距離まで近寄ったら、そのまま殴った方が早いもんね〜」

「でも手加減用には使うよ。銃は性能以上の力は発揮できないからね」

 

 弾雨を避け近距離まで接近し、非殺傷弾を当てる千束。

 弾雨を避け近距離まで接近し、格闘戦を仕掛ける透奈。

 

 この2人以外のリコリスが聞いたら間違いなく正気を疑う運用だ。

 

 故にたきなは。

 

「私には無理ですね。この命中率では自分を守れない」

 

 そう言ってマガジンを実弾のものに切り替えて、再び射撃。

 先程とは打って変わって、心臓に着弾。やはり射撃能力は飛び抜けている。セカンドはおろか、ファーストでもたきなに比類しうるリコリスは極小数だろう。

 

 実は、透奈は千束にもできれば非殺傷弾を使ってほしくない。千束の大切な誓いであるのは重々承知しているため全く使うなとは言わないが、本当に万が一のために実弾を持ってほしいのだ。

 

 相手を傷つけない強さは、相手を傷つけられない弱さに反転する。

 

 加えて、単純に危ないのだ。当てる為に硝煙弾雨に身を晒さなければならないこの銃弾を使うことが。怪我をしてほしくない、というのが透奈の本心であり──────千束のプライドを傷つけたくないが為に隠し続けている。

 

「……まあ、そのための僕だけど」

 

 ポツリと透奈は呟く。

 そう────己はその為に在るのだ。千束の敵と弱さを排除する剣であり、守る盾である。他の誰でもない、自分がそう望んだのだ。

 最初は千束だけを守るつもりだったが、10年で大きく増えてしまった。自己満足と言われればそれでお終いだが、それでも自分で選んだ道だ。最後の最期まで貫き通したい。

 

 そうして目を閉じて、思考をリセットする。目を開けて、マガジンを全弾撃ち切ったたきなに視線を送った。

 

「相変わらず凄まじい精度だね。それなら、無理に非殺傷弾を使う必要はないよ」

「そうだね〜。狙って急所外せるなら先生の弾は使わなくてもいいね」

 

 振り返ったたきなの顔は、とても穏やかな微笑みを浮かべていて。

 

「急所を撃つのが、仕事だったんですけど?」

 

 リコリコにいる事を選択した……たきなの新しい側面だった。

 

 

 ▼

 

 

 日本にも夏が訪れた。とはいってもまだ初夏であり、梅雨に比べて少し気温が上がった程度だ。

 

 この時期は電気代が馬鹿にならない。

 来店するお客様に不快な思いをさせるわけにはいかない為、店内の冷房は効かせっぱなし。

 そしてミズキはよく冷蔵庫を開けっぱなしにするため、そこで更に嵩んでしまう。

 

 店の経理を預かっている透奈と、オーナーたるミカは夏の到来と共に頭が若干痛くなるのだ。

 

 早速、冷蔵庫を開けっぱなしにしているミズキに、透奈は抗議の視線を送りつつ扉を閉めて──────店内を見渡す。

 

 ミカは不在だ。今は奥で倉庫を整理している。

 ミズキは酒を飲みながら転がっている。

 千束はゴーグルをつけてVRゲームに勤しんでいる。クルミはその画面を見ている。

 そしてたきなは現在買い出しに行っており──────。

 

「ただ今戻りました」

 

 ちょうど今帰ってきた。

 

「おかえり、たきな。外、暑かったよね? 冷たい飲み物を用意しておくよ」

「ありがとうございます。ところで……」

 

 そう言って指を指したのは──────。

 

「んあぁぁぁぁぁぁ! ぐやじいぃぃぃぃぃ!」

「……あれは何でしょうか?」

「……気にしなくていいよ。いつもあんな感じだから」

 

 ゲームで負けて絶叫している千束だった。それをたきなは不思議なものを見る目……まるで珍獣か何かを見るような目……で見ていた。

 

 それは側でプレイ画面を見ていたクルミも同じなようで。

 

「ムキになりすぎだろ」

「だってアイツ名前が……!」

 

 そうして指差した画面には『FUKI』と書かれていて────まあ千束達が知る『FUKI』ではないだろうが、ムカつくものはムカつくのだろう。

 

 ゴーグルを外し、溜まった鬱憤を発散するように軽く地団駄を踏み────今しがた帰ってきたたきなをロックオン。

 

「たきな! ちょうど良いところに!」

「え? なんですか……?」

 

 千束は何かを思いついたように、たきなにVRゴーグルを手渡す。射撃が上手いたきななら或いはと考えたのだろうが、恐らく初プレイの彼女が上手くできるのだろうか──────そう考えていた所に、スマホのバイブレーションが起こる。

 

 着信元は──────楠木司令。

 

 どう考えても厄ネタだろうが、無視するわけにもいかない。それに、ミカを通して頼まなかった事から恐らく千束とのコンビではなく、透奈単品に用があるのだろう。

 

「ごめん、電話に出てくるよ」

「いってら〜」

 

 そう言って透奈は裏に行き、通話開始ボタンを押す。

 

「こちら、白峰透奈です」

『私だ』

「珍しいですね。貴方が僕個人にアクセスするなんて」

『急用だ。明日の15時、指定するポイントに来い』

「……作戦は?」

『テロリスト共の掃討だ。1人は生捕りにしろ。喋る口と耳が残っていれば構わん。残りは消せ』

「了解。例の銃取引の関係ですか?」

『恐らくな……地下鉄に来るとラジアータは演算した。該当駅を封鎖し、回送電車でリコリス一個小隊と貴様を運送し、掃討する。詳しくは明日伝達する」

 

 プツリ、と電話が切れた。

 

 人殺しを肯定した事はないし、したくもない。だが、自分が駄々をこねても仕方がない。戦場の最前線で少女が体を張っているのだ。自分だけが汚れたくないなんて身勝手がすぎるだろう。

 

 ──────もうとっくに汚濁に穢れているのに。

 

 

 ▼

 

 

「透奈って、たきなのパンツ見たことある?」

「あるわけないよ」

 

 楠木との電話を終わって最初に出迎えたのは、千束の質問だった。しかも、後輩の下着を見たことあるか否を問う内容の。

 

「クルミにも聞いたんだけど」

「あんな狂った質問をされた人が僕以外にいるなんて……それで?」

「『あるわけないだろ』って」

「至極真っ当だね」

 

 よかった、と透奈は胸を撫で下ろした。これで『ある』って言われたらクルミとの付き合い方を若干考えなければならなくなる。

 

「じゃあ透奈はどうかなって」

「それで僕が『見たことあるよ』って言うと思ったの?」

「あるって言ったらぶっ飛ばしてた」

「理不尽……と思ったけど普通か。で、何でそれを聞こうと?」

 

 異性の後輩の下着を見たことあります、なんて言ったら普通に犯罪者だ。殴るだけで済ます千束は寧ろ優しいのかもしれない。

 

「たきなのパンツを見たんだけど」

「待って、いきなり話が飛んでる」

 

 透奈は頭を抱えた。口振りから見たことあるのは察するが、その経緯が思いっきり抜けている。不慮の事故なのか、意図的なのか。見てしまった現在はそれが一番重要だろう。

 

「あー、でも……いやぁ……」

「煮え切らないね」

「……もう一回見てくる」

「……………………え?」

 

 聞き間違いだと信じたい透奈がフリーズしている間に、千束は更衣室へ行き──────。

 

 それから少し経った後、たきなの手を引いて更衣室から出てきた千束の表情は割と怒っていた。そして、丁度倉庫の整理が終わったミカを呼び出し、真剣な表情で──────内容としては頭を抱えたくなる話し合いが始まった。

 

「どういうことか説明してもらいましょうか!?」

「店の制服は支給するから、下着は持参してくれと頼んだ」

 

 ここまでは普通だ。

 

「どんな下着がいいか分からなかったので」

「だからって何でトランクス!?」

「好みを聞かれたのでな」

「アホか!?」

「ごめんなさい、ミカさん。今回は味方できません……」

 

 結論から言うと、ミカもたきなもアホだった。

 2回り以上歳が離れている異性に自身が身につける下着を聞いたたきなも、それに対して自身が好んで履いている下着を答えたミカも。

 

 せめて聞くなら千束かミズキの方が良いだろうに……何故よりにもよってミカに聞いてしまったのだろうか。恐らく近くに居たから、という理由だろうけども。

 

「でも、これ履いてみると結構開放的で……」

「そうじゃない!」

 

 千束が頭を抱える。確かに可愛い後輩がこんな下着を履いていたと思うと、頭も痛むだろう。しかもその原因は自身が先生と慕う人物だなんて。

 

 そして机をバンと両手で思いっきり叩いて。

 

「たきな! 明日の12時! 駅集合ね!」

「仕事ですか?」

「ちゃうわっ! パーンーツー! 買いに行くの! ……あ、制服で来るなよ〜。私服ね、私服」

 

 それだけ言い残して、千束は店を出た。遺されたのはたきなとミカ、そして限りなく巻き込まれたに近い透奈だった。

 

「指定の私服はありますか?」

「下着のついでに千束に見繕ってもらってね。明日は制服やパジャマ以外の持ってる服で大丈夫だから」

「透奈さんは行かないんですか?」

「え、行かないけど」

 

 逆になんで行くと思ったのか、と言わんばかりの表情であり、実際それは当然であったのだが……透奈も行くと思っていたたきなは少し残念そうな顔を浮かべた。

 

 それを察したのか、透奈はふわりとした笑みを浮かべて。

 

「また次の機会に遊びに行こう? その時は千束達も誘ってさ」

「……はい」

 

 たきなは笑って頷いた。





 フキやサクラの本部リコリスを死ぬほど甘やかしてデロッデロに依存させた挙句、自分の殺害依頼してぇ〜!
 
 美味しいものとか食べさせて、可愛い服とか買ってあげて「君も女の子なんだから」って言って勘違いさせてあげたいなぁ。最初は戸惑うし訳わからんから怪訝そうな顔するけど、だんだんと心地良くなって訪れる日を無意識で追うようになるんだ。最終的にはカレンダーに来訪日に印つけてるとなおよし。

 身近な歳の近い異性、外の世界を広く知る青年って感じで色んな人の心の隙間に入り込むんだ。友人、憧れ、相談役……彼女達には色んな側面を透奈に見出してほしいですね。でも、彼の隣にいる千束やたきなには勝てないんだなって心のどこかで諦めをつけるです。そうして気のいい青年として、頼れる先輩としてたくさんの時間を共にしてきた少女達に「殺してくれ」って頼み込むんです。あぁ!その顔いいよ!そのまま剥製にして飾りたいくらい!

 それに対して色々思うところはありますが、殺す役目を自分達に託したってことに優越感を覚えてほしいですね。千束やたきな、その他リコリコメンバーに理由はどうであれ頼まなかった、あの人の最期の視界に自分達を写せるって事に仄暗い感情を抱いてくれ。
 これから殺しに彼と選んだ洋服で、彼に可愛いと言ってほしくて始めた化粧で、服装に似つかわしくない銃を持って殺しに行くんです。そんで色んなものに彼の末期の血痕がつけば……あぁ、もう言う事はございません。このまま成仏できそうです。

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