夕暮れの彼岸花   作:女の子は女の子同士で恋愛すべきだと思うの

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 ゼラニウムの花言葉は信頼、尊敬。ピンクのゼラニウムは疑いの花言葉を持つ。

 感想、評価、お気に入り登録、誤字報告、ここ好き等々本当にありがとうございます。私の執筆の活力になっております。どうやら日間ランキングにも掲載されていたようで……重ね重ね、ありがとうございます。




Pelargonium

 

 

 栞は完成した。文章量と挿絵、そしてワンポイントの豆知識等を入れ、使用する公共交通機関の情報やタイムテーブル、1日のスケジュールが事細かに記された完璧な旅の栞だった。千束も透奈も渾身の出来栄えである。

 

 ただ、千束が1時頃にダウンしたため残りの作業は全て透奈がやる事になり……。

 

「アンタ眠そうね」

「一睡もできてませんから……」

 

 誤字脱字の確認、仕上げ作業、製本作業、最終確認は彼1人の手によって行われて……全てが終わった時間は朝の5時。

 

 寝たら間違いなく起きれないと思い、千束用の朝食を作ったり本を読んだりしながら過ごしていた。

 

 欠伸を噛み殺し、眠気に満ちた目を擦る。コーヒーのカフェインに期待していたが、この分だと任務中で缶コーヒー等を買わなければならないだろう。

 

 そんな割と限界に近い透奈に対して、千束は元気そうだった。旅の栞を何度も楽しそうに見返して、今日一日の楽しみを心待ちにしている。

 

 あの顔を見ていると頑張ってよかったと思えるのは、彼女に救われた弱みだろう。

 

 頭を動かしていれば多少睡魔も和らぐだろうとコンビニで適当に買ってきたナンプレの本を透奈は驚異的なスピードで解きつつ時間を潰していると、リコリコの前の公道で車が停止する音が聞こえた。窓ガラス越しに黒いベンツの車体が見える。

 

 そうして、店内に入ってきたのは車椅子の老人と黒スーツの男性数名だった。

 

『こんにちわ』

 

 マシンボイスが店内に響く。病的に痩せていて、指先は殆ど骨に皮が張り付いているだけだ。服に隠れているが、おそらくは全身がそうなのだろう。

 

「初めまして。遠路遥々お越しいただき、ありがとうございます。本日、松下様の観光補助及び警護をさせて頂く白峰透奈と申します。よろしくお願いいたします」

『あぁ、よろしく頼むよ透奈くん』

 

 営業用のスマイルと畏まった対応をする透奈。全てが資料通りであり、彼が依頼人であることは疑いようもない。だが、彼は違和感を覚えた。

 

 マシンボイスが滑らかすぎる。流暢で抑揚もあり、感情すら見て取れる。合成音声であるはずなのに、電話越しに生身の人間と話しているような──────そんな違和感。

 

 技術の進歩、民間向けには公開されていないもの、と言えばそれまでだろうが……何処か引っかかる。

 

 だが、依頼人に猜疑心を向けるわけにはいかないため彼は黙って仮面を被り続けた。

 

「お待ちしておりました!」

「遠いところ、ようこそ」

 

 千束とミカの声が聞こえたと同時に透奈は松下の前から捌ける。松下も前進し、千束とミカの前までやって来た。

 

『少し早かったですかね? 楽しみなもので……』

「いえ! 旅の栞の準備も万全です!」

 

 そう言って、松下の目の前に旅の栞を持ってくる。

 

 あのVRゴーグルのようなものは何だろうか。眼筋を補助するための装置か、視覚そのものを拡張する技術か。後者の場合は確実に実験段階の技術だ。

 

 ──────やはり、何かがおかしい。

 

「千束ー、PDFで渡そうかー?」

「えっ? ……あっ」

 

 クルミの言葉に一瞬疑問を浮かべたようだが、松下の手を見て納得したようだった。あの手ではページを捲ることはおろか、物を持つことすらできないだろう。

 

『助かります。あとはこの人達にお願いするので、下がっていいですよ』

 

 松下がそう言うと、付き人がリコリコから退店しベンツに乗って帰って行った。リコリコ店内には松下のみが残されて。

 

『今や機械に生かされているのです。おかしいと思うでしょう?』

「そんなことないですよ。私も同じですから……ここに」

 

 機械に生かされている事を恥じるような松下に、千束は否定の言葉を投げかけながらその胸の前でハートの形を作る。

 

『ペースメーカーですか?』

「いえ、丸ごと機械なんです!」

『人工心臓ですか』

 

 ──────驚かない。

 

 リコリコに身辺警護まで依頼している関係上、恐らく何らかの武力を行使できる存在であることは知っているはず。武力……もっと言えば運動というものには基本的には心肺機能に負荷が掛かる。そして、そんな高負荷に耐えられる人工心臓は現在実用化に至っていないのだ。

 

 実用化に至る前、実験段階の技術が千束の肉体に使われている事に一切心を動かしていない。

 

 別に高負荷用の人工心臓を知っている事自体はさほど不思議ではない。論文好きならばあり得るだろう。

 

 だが、それの被験者ともなれば話は別だ。公開されていない、実験段階の新技術で生きている千束に対してもっと興味を抱いてもいいはずだ。理論段階の論文の検体が目の前にいるのに、抑揚すら表せるマシンボイスがフラットなのはおかしい。

 

 もっと言ってしまえば、凡ゆる筋肉が近い未来に動かなくなる松下が、心臓の筋肉すら止まると言われているこの人がそんな淡白な反応でいいのか。自分の肉体に巣食う生存課題を一つ解決でき得るのに。

 

 少なくとも、その話を聞いたたきなやクルミの反応が自然だろう。

 

「アンタのは、毛でも生えてんだろうね」

「機械に毛は生えねェっての!!」

 

 自分の考えすぎか、と思うが────一度抱いた疑問を気のせいと切り捨てるのは存外難しい。

 

 今日の任務が実働部隊で良かったと心から思う。現場の方が自分の目で見て判断がしやすい。それに、万一の際に千束やたきなを守れるのだ。

 

 そこまで考えて、透奈は軽く頭を振る。目的は思考のリセットと切り替え。疑問を頭の片隅に追いやりそこで考え、観光案内の脳へシフトさせる。

 

 松下が黒か白か分からない。今銃を突きつけて脅しても効果は見込めないだろう。ならばこれからの言動で判断材料と証拠を集めて、白だった場合は疑った事を謝罪し……黒だった場合は拷問して黒幕を抉り出そう。

 

「それじゃあ、東京観光しゅっぱーつ!」

 

 千束が率先して松下の車椅子を押す。松下も千束に全てを一任しているようで、特に何も言っていない。元々今日は千束が進行役であるため、その方がいいだろう。

 

 たきなは置き去り状態だった。恐らく人工心臓の件を咀嚼できていないのだろう。あんな話を突然されたら誰だって驚くため、当然であるが。

 

「あの、今の話って」

「たきなー! 透奈ー! 早く行くよ! ミズキも車!」

「あ、はい!」

「分かったよ」

 

 千束に急かされて、たきなが慌てて後を追う。ミズキはため息をつきながら首の骨を鳴らし外へと向かっていった。透奈もそれに続くように、栞をいつもの本代わりに読みながら歩いて出て行った。

 

 店内にはミカとクルミだけが残った。

 

 静かになった店内でクルミはドローンとPCを準備し千束達のサポートに回れるように準備する。

 

 その中で。

 

「なぁミカ。今回の任務、透奈を現地に赴かせて良かったのか? 透奈は手元に置いといて、いつでも切れるジョーカーにした方が多分強いぞ。こっちで動かせる限界数を護衛に付かせて大丈夫か?」

 

 クルミにはそこが引っかかった。暗殺者がどの様な動きをするかは不明だが、動かせるカードを手元で持っている……もっと言えば暗殺者を追える人間がいるのは相手にとってプレッシャーになる。

 

 その利点を捨ててまで、機動力に優れる透奈を護衛に張り付かせる意味を見出せなかったのだ。

 

 その疑問にミカは。

 

「一番は安全だな。護衛は多ければ多いほど安全性が高まる。それに、透奈なら暗殺者に狙われていると知った瞬間……追う側になるはずだ。初めから別働隊にするより、その場の判断で別れた方が良い」

「なるほどな。確かにリコリコからよりも現地からの方が暗殺者への距離は近い。元々護衛は2人で足りるしな……」

 

 そう言ってクルミはドローンを飛ばした。

 

 

 ▼

 

 

『やっぱり折れてしまっていますね』

 

 松下が旧電波塔の方を見ながらポツリと呟いた。その声音には悲しみを感じ取れる。

 

「折れてないのを見たことあるんですか?」

『いえ、東京に来るのは初めてですが娘と約束してたんです。"一緒に見上げよう、首が痛くなるまで"って……あの世で土産話ができる』

 

 とても残酷な話だ。その約束を果たせなかった……一人娘を殺されたその怒りと無念は今も松下に燻り続けているだろう。

 そして、そんな娘にもうすぐ会いにいけるという事に少しだけ救いを感じている。

 

「まだまだ! 始まったばっかりですよぉ〜!」

 

 松下の暗い雰囲気を吹き飛ばすように、千束は若干オーバーな身振り手振りで老人を励ました。

 

 

 ▼

 

 

 場所は変わって、七夕まつり会場に来ていた。

 

 街道を埋め尽くすような人と、それに伴う活気。千束は楽しそうな顔で、たきなは周りを警戒しつつも屋台等に目を開いて驚いている。透奈は周囲を最大限警戒していて、祭りの様子を楽しんでいる気配は全くない。

 

「透奈〜。もう少し楽しそうな顔したら?」

「この人混みだと狙撃の心配は無さそうだけど、その分すれ違い様とかで狙われる可能性があるから……僕はこのくらい警戒しておいた方がいい。千束達は祭りを楽しんでていいよ。身辺警護は僕、千束とたきなは観光案内って分担してさ。何かあったらちゃんと共有するよ」

 

 千束ほどの眼は無くとも、五感は常人より数倍鋭敏だ。それをフルで使えば何らかの害意を持って近づいてくる相手くらいなら識別可能……彼はそう判断した。

 

 千束も彼が祭りを楽しめない事に若干不満を覚えつつも切り替えて、松下を楽しませるべくどの屋台を回ろうかプランニングする。

 

 たきなは先程から屋台を見渡して毎回驚きを新たにしている。お祭りというものに来た事がないのだろう。その顔は未知との遭遇を楽しんでいるようにも見えた。

 

「すごい人混みですね」

「でしょ。美味しい物も沢山あるから!」

『とても楽しそうな場所ですね』

「ええ! 私がしっかり楽しめるようにご案内しますねっ!」

 

 そう言って、千束は松下の車椅子を押しながらゆっくりと人混みの中を進んでいく。たきなはその右後ろ、透奈は左後ろに位置を取って歩く。

 

「透奈は来たことあるんですか?」

「一回ね。千束に連れられてだけど」

 

 たきなの質問に笑って答えるの横顔を見るに、楽しかった思い出がある事が見て取れる。きっと千束が誘って、二つ返事で透奈が了承して手を引かれたのだろう。

 

「千束、今年はたきなを誘うつもりだったらしいから任務とか関係なくここに来てたと思うよ」

「そうなんですね……お祭りは初めてです」

「なら楽しまないとね。たきなは千束と満喫してていいよ。松下さんの護衛は僕に任せて」

「……わかりました」

 

 若干の葛藤があったものの、たきなは楽しむ事を選択してくれたようだ。数ヶ月前では考えられなかった言動の変化に感慨深くなる。

 

 そうして出店で彩られた道を進むと、射的の屋台が千束の目に止まった。

 

「たきな! アレやろう!」

「……私たちの腕だと半ば反則なのでは?」

「そんなこと気にしなーい、気にしなーい」

 

 確かに頻繁に実銃を扱っている千束達がやれば根こそぎ景品を奪いかねない。そして、射撃の天才と言っても過言ではないたきな。加減をしなければ早々に景品切れで店を畳む結末になってしまうだろう。

 

 料金を2人分払い、ライフル型の銃とコルク弾数発を受け取る。

 

「では! 先鋒はこの私、千束が務めさせて頂きまーす!」

 

 今を楽しむ全力ガールは手加減とブレーキという言葉を知らず。

 満面の笑みのまま、景品におもちゃの銃口を向けた。

 

 





 千束が何らかの要因でDAから排斥されて傷心してるときに「2人で逃げよう」って言いてぇ〜!

 2人の逃避行をリコリコメンバーはもちろん祝福して、なるべくDAには偽の情報とか流し続けるけど相手は一国の治安維持を担ってる暗部。そう長く欺き続けられない。

 リコリスじゃ相手にならない?じゃあリリベルで行くぞ!みたいな感じでガッチガチに千束と透奈のメタった軍隊送り込んでくるんですよね。でもまあ2人とも素がクソ強いので8割くらい叩き潰すけど2割に捉えられちゃうんですよ。悲しいね。

 んで、千束の心をへし折るために千束に協力した反逆者を処罰するって名目上で透奈くんを千束の目の前で射殺します。

「やめて!透奈は関係ない!透奈に手を出さないで!」
「貴方達の狙いは私でしょ!?だから透奈は!」

 そんな願いも虚しく、至近距離で発射された銃弾は笑みを浮かべていた透奈の頭蓋を貫通し不恰好な赤い花が咲く。

 あぁ!そんな顔しないで千束!初めから千束追放って名目で透奈を誘き出してぶっ殺す事が目的だったんだ!千束に危害は加えられないよ!何ならそのままリコリコ戻って大丈夫だからね!

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