夕暮れの彼岸花   作:女の子は女の子同士で恋愛すべきだと思うの

8 / 23
 鬼灯の花言葉は自然美、心の平安、偽り。

 感想、評価、お気に入り登録誤字報告等々本当にありがとうございます。



Physalis alkekengi

 

 逃亡先に選ばれたのは廃墟と化したスーパーだった。恐らく敵もこの場所を既に探知しているだろう。此処が、この一連の逃亡劇のフィナーレを飾る場となる。

 

 着ぐるみの中の透奈も気を引き締めた。ある意味、今までは余興だった。彼というウォールナットの代理人の本当の役割はここからだ。彼の演じる力が問われる場となる。せめて、この場にいる誰にも悟られないように演じ切りたいものだ。

 

 水面下で手発通りに進んでいる作戦なんて全く知らず、たきなはミカと連絡を取っている。

 

「──はい。現在はそのスーパー跡に移動しています。護衛対象及び私達2名、負傷はありません。作戦を継続します」

『分かった。気をつけて行動してくれ』

 

 ミカとの通信を終え、たきなは緊張した面持ちで千束達を見る。確かに危機的状況であるため緊張は仕方ないが────千束の「眼」はそれだけでないと見抜いた。

 

 恐らく前回の任務の失敗を引きずっているのだろう。護衛対象を救助対象にしてしまい、千束と透奈に後方で見ている事を命令されたあの任務だ。

 

 前回と同じく今回も護衛。危険度は前回のものと同等、もしくはそれ以上。ターゲットは人間。

 つまりはリベンジマッチだ。

 前回の汚名をここで雪がんと決起している。

 

 ──────しかし、それは失敗する。

 

 この失敗は2人の心に影を落とすだろう。偽物とはいえ目の前で人が斃れる瞬間を見せつけるのだ。

 流血を嫌い、死を拒む千束はきっと悲しむ。たきなも失敗続きであるため決していい気分にはならないだろう。

 

 それが分かった上で透奈は偽りを演じるのだ。全ては依頼者の安全の為に。

 透奈は『後で一緒に怒られないと』と思い、頭を切り替える。今は作戦中だ。懺悔も後悔も後でいくらでもできる。

 

 今は、今しかやれない事をやらなければ。

 

「ここから、敵を撒く為に裏口へ向かいます」

『包囲されているんじゃないか?』

「最大人数は10名、スーパーを包囲する場合でも一度に接敵する人数は精々2名です。であれば、集団戦に持ち込まれる前に各個撃破しながら進める方がいいでしょう」

『なるほど、理に適っている』

「じゃ、私が前に行くよ。たきなは後ろお願い」

 

 そう言って、千束は先行する。ファーストリコリスという称号は伊達ではなく、千束は状況の飲み込みが途轍もないほど早いのだ。先行したのも、彼女の「眼」であれば前方にいる敵対者の発見が早まるため。

 

 基本的に千束はクレバーなのだ。

 

 頭脳面ではミカ等の他のメンバーがより洗練されているため発揮し難いだけであり、現場の判断が必要な場合は最善手を選び取る頭脳と経験をきちんと持っている。

 

 彼女はただ強いからという理由でファーストリコリスに抜擢されているわけではないのだ。心技体、どれを取っても現在で彼女以上のリコリスは存在しないと誰もが太鼓判を押すほどの最強……それが錦木千束の正体である。

 

「じゃ、着いてきてくださいね。ウォールナットさん」

『あぁ、では君は荷物を』

「はい」

 

 千束は低姿勢にして、前方を警戒しながらゆっくりと前に進む。

 着ぐるみも低姿勢────僅かしか低くなってないが────になり、千束に続いた。

 たきなは着ぐるみの後ろで荷物を守りながら、後方を警戒しながら────。

 

 その瞬間、たきなの両眼が敵を捉えた。空の商品棚を数列挟んだ向こう側に、2人。武器は、短機関銃──────! 

 

「──────ッ!」

 

 逃げ場がない室内で掃射される致命の弾雨を、障害物を盾にして咄嗟に回避する。あと1秒遅れていたら物言わぬ肉塊になっていた現実に冷や汗をかきながら、切り返す為の手段を脳内で考える。

 

「ターゲットだ! 女2人連れている! 女は両方銃持ちだ!」

 

 その機銃の爆音に負けないくらい、追撃者は声を張り上げる。

 

 不味い、と2人とも思った。こちらは護衛対象という足枷があり、そこから更に人数不利を作られる。相手の武装は制圧力、火力共に高く、ライフルによる狙撃の可能性も視野に入れなければならない。必然的に護衛対象への被弾確率が跳ね上がるだろう。

 

 だが、必ず突破口はある。

 銃弾は無限ではない。膨大な装弾数であろうとも必ず弾切れを起こし、リロードの手間を挟む必要がある。そこを突き、射撃戦に持ち込めば2人程度なら余裕で斃せる。

 だから、弾切れまでここで──────。

 

「いっよいしょぉ!」

「っがぁ!」

 

 だが、千束は違った。小機関銃2丁の掃射を突っ切り銃撃したのだ。商品棚を蹴り、一切臆する事なく走り抜け……そのまま至近距離で3回トリガーを引く。非殺傷弾独特の音が廃墟に響いた。

 

 ──────正気の沙汰じゃない。

 

 世界中探しても小機関銃に突っ込む人間なんて千束とその相棒以外には見当たらないだろう。圧倒的なセンスと才能、経験に裏打ちされているからこそ出来る芸当だ。

 

 その無茶苦茶さに追跡者も一時的に銃撃を止めてしまう。誰だってあんな非現実的な光景を目の当たりするとフリーズするだろう。

 

 だから、その瞬間をたきなは狙った。

 掃射が止まった瞬間に障害物から顔を出して、残る1人の追跡者に照準、トリガー。単純な射撃センスならば千束より上のたきなは、大した狙いを付けなくても敵に当てることができる。

 

「──────ぅぐっ!」

 

 だが、今回は顔を出した次の瞬間に射撃を行ったため、狙いが若干甘くなってしまい致命傷を作れなかった。それでもきっちり当てているため、本当にセンスはずば抜けているが、たきな本人は障害物の影で僅かに顔を歪めた。

 

「……仕損じました」

 

 それに、たきなは見た。千束も至近距離で見ているため、分かっているだろう。

 敵は2人とも防弾チョッキを装備していた。千束もたきなも、単体ではあの敵達相手に致命打を与えることができないだろう。先程倒した2人も衝撃こそ受けたものの、傷は負っていない。すぐに態勢を立て直し、反撃へと転じてくるはずだ。

 

 なので必然的に狙うのは頭か、手元。あるいは銃を破壊して攻撃力をなくす事も有効だ。今回のミッションは殺害ではなく護衛。極論、追撃者達は生きていようが死んでいようが構わない。あの巫山戯た着ぐるみを無傷で送り届ける事ができればそれだけで終わりなのだから。

 

 そこまで考えてふと思った。そういえば護衛対象はどこへ─────。

 

 たきなはハッとしながら辺りを見渡すと、商品棚の後ろに大きな頭体をなんとか収めるように屈んでいた。ウォールナットが比較的近くにいた事、手傷が一切ないことに安堵を覚えながら──────なぜこの着ぐるみは慌てているのだろうか。

 

『ちょっと!? 盾に使うのはナシだろ! 大事な荷物が入っているんだぞ!?』

「ちょ、駄目ですって!」

 

 ウォールナットが慌てている理由は明白だ。たきなが銃撃を回避する為に使った障害物……それはウォールナットがやけに大事にしていたスーツケースだったのだ。

 

「たきなー!? それ、なんか駄目らしいよー!?」

「無茶言わないでください!」

 

 商品棚を壁に使おうものなら一瞬で穴だらけになり、その後ろに隠れている人物も同じ末路を辿るだろう。

 避けるのも無理だ。たきなは千束の様な眼とそれを可能にするだけの経験を持っていない。

 ならば頑丈なものを盾にやり過ごすのはとても理に適っている。それに、あのスーツケースは過剰なまでに頑丈だ。機銃の掃射だと無傷とはいかないものの、表面が凹む程度で耐えている。

 

 こんな緊張感の欠片もない会話をしながらも、たきなは冷静に敵を捉えていた。射角が取れないあの位置から移動した瞬間に撃ち抜かんと、狙撃手のように冷静に動きを見る。

 

 1人は既にポジションを変えていた。そちらは恐らく千束が捕捉しているため、たきなは残る1人のみに注意を払えばいい。

 

 残る1人……レッドキャップの男は射撃準備ができたのか、たきなの出方を伺っている。だが、いつまで経ってもアクションを起こさない彼女に痺れを切らしてその身を曝け出して掃射を行おうとして──────それが、悪手だった。

 

「──────ッ!」

「ぐぅッ! ぁぁ……」

 

 たきなは相手の先手を潰す様に射撃を行った。

 機銃よりも小型な拳銃は取り回しがし易い。その利点を最大限活かしたカウンター攻撃は、きっちりと敵の動きを止めた。

 

 この間に脳内で状況を整理する。

 敵は最大10、そのうち1人は脱落と考えていい。発見したのは2人で、1人はこちらでダウン。残りの相手は進行方向の先で千束と交戦中。爆発音等が聞こえてくる事から激化しているだろう。

 止めを刺すよりも千束側に参戦した方がいいだろう。あの傷では即座に戦線復帰は不可能だ。

 それに護衛対象の安全が最優先。頭数を着々と減らした方が良いだろう。

 

 そこまで考えて、たきなはウォールナットに前進を促した。そのサインを受け取り、ウォールナットはゆっくりと前に進み、たきなはその後方で全方位警戒しながら後を着いていく。

 

 そうして前進を続けると、通路に差し掛かった。後ろからは何も無かったため、残りの敵はこの先に集中していると考えていいだろう。

 そんな敵地のど真ん中へウォールナットが無警戒に飛び出そうとしたその瞬間……急いでたきなはその着ぐるみを引っ張った。

 

 着ぐるみの繊維が千切れる音がして、そのすぐ後に弾丸が真横を通り過ぎていった。

 

『……すまない』

「死にたいんですか? クリアリングもせずに前に出ないでください」

 

 嘆息して、ウォールナットを後ろの方へ追いやる。もう後方に危険は残っていないと判断したためだ。

 

 通路の壁を盾にしながら、前方の戦闘状況を見遣る。

 

 そこでたきなが目の当たりにしたのは、異常な光景だった。

 

 敵が千束を狙っている。そして撃っている。

 小機関銃で、1秒あれば人間1人をミンチにできる弾雨が千束に降り注いでいる。

 

 しかし、その弾丸は正面にいるはずの千束に一切当たらない。

 

 何の魔法か、それとも未来予知でもしているのか……千束は過剰な面制圧攻撃に対して、顔を傾けたり体を捻ったり手足を上げたりといった最低限の手数で回避している。更に、最低限の回避手数で最短距離を詰めるため減速なんて一切しない。

 

 まるで踊る様に、舞う様に戦場を駆ける千束に敵の顔が強張る。だが、敵もそれなりの場数を踏んできているのか直ぐに照準を合わせ直す。そしてトリガー。再び千束に火線の猛威が襲い掛かる。

 

 だが、それも当たらない。

 

 悠々自適に、街中を歩く様に接近して超至近距離で発砲。だがゴム弾のため致命傷にはならず即座に敵も起きあがろうとするが……それよりも前に数発発砲。容赦なく敵を沈黙させる。

 

 そうして敵の処理が終わった後、余裕の表情でマガジンを詰め替える。流れる様な動作で再度射撃が可能な状態にして──────そのまま発砲。

 

 たきなが先程処理したレッドキャップの男が前方に回り込んでいて、千束はそれを狙った。結果は当然命中。苦悶の表情で倒れ伏した。実弾と非殺傷弾を1発ずつ貰ったのだ。もう激痛で真面に動けないだろう。

 

 その敵を……正確には銃創を見た千束はしゃがみ込んだ。

 

「そのまま────手当する」

「な、なに、を……!」

「血ぃ出てるでしょー?」

 

 驚く敵を尻目に、バッグから応急処置用のキットを取り出した千束はテキパキと処置を行なっていく。

 その言動に敵は困惑していた。先程まで容赦なく非殺傷とはいえ銃弾を叩き込んできた相手がいきなり傷の手当てを始めたのだ。状況が整理できないのも当然であり……そして、たきなには納得がいかなかった。

 

 戦闘音が無くなったのだ。不審に思った残りが突入してくる可能性がある。そうなった場合、遮蔽物が少ないここでウォールナットは確実に死ぬ。千束やたきなが無事でも、護衛対象が死んだら失敗になる。

 

「敵の突入前に脱出しましょう」

「少し待って」

「……囲まれますよ」

「このままだと死んじゃうでしょ、この人。先行ってて」

 

 その会話の裏でウォールナットはタブレットを起動する。あの着ぐるみの手でどう弄っているのか器用に様々な画面を切り替えながら……脱出ルートの安全性を確認する。

 

『脱出ルートはまだマークされていない。急げば間に合うはずだ』

「千束さん!」

「すぐ追いつくから、行って?」

 

 そうやって和かに笑う千束に何も言葉を返せなくて、たきなはウォールナットを連れて先に進んだ。

 

 それを確認して、千束は手当てを再開する。敵も唖然としていた。頭がおかしいのではないかと……夢や幻といわれた方が納得ができそうだ。

 

「お前、バカなのか?」

「馬鹿じゃないですぅー! ほらほら、そんな口利くと手当てしないぞお前〜?」

 

 そう言いながらキツく包帯を締め上げ、激痛により敵の口から情けない悲鳴と息遣いが漏れる。

 

「『命を大事に』、これが私の方針なんだ。敵は殺さないし、殺させないの」

「……長生き出来なさそうだな、お前」

「心配無用! 私は強いからね〜! それに、元々長くないよ」

 

 

 ▼

 

 

 ウォールナットが確認した通り、通路には敵影一つなかった。嫌なほど静かな通路を抜けた先はスーパーの裏口であり……この先に待ち伏せしている可能性が高い。

 

 敵を捌きながら1人を守るのは流石に分が悪い。何とかして可能な限り交戦を避けつつ安全に送り届けなければ──────。

 

『ふむ』

 

 ウォールナットが無防備に外へ身を晒す。

 

「え、ちょっと!?」

 

 たきなが急いで引き戻そうとするが、それをすり抜けられ。

 

「たきな! 出ないで!」

 

 後ろから千束の静止を叫ぶ声。

 

 そして、「パァン」と乾いた音が響いた。

 

 ウォールナットの左胸……心臓に当たる位置から血を吐き出している。そして倒れ伏した着ぐるみに次々と銃弾が殺到。着ぐるみが穴だらけになり、その中から夥しい量の血が流れて──────その光景を、千束とたきなは何も言えずに見ていた。

 

 やがて弾丸も止み、敵もターゲット殺害により撤退を始めて……この場には護衛対象の死体と、守れなかったリコリス2名が残った。

 

 千束はゆっくりとウォールナットに歩み寄り、遺体を確認する。最初の一発でほぼ即死だった。その後の銃撃も全身に隈なく受けており、頭部にも数発着弾している。そして、血を流しすぎた。

 

 ここにあるのは、既に物言わぬ骸だった。

 

 それを認めて、たきなはミカに通信を繋いで……作戦の失敗報告を行う。

 

「店長。こちら、たきなです。任務は失敗しました……護衛対象は死亡しました」

『了解。すぐに緊急車両が到着する。遺体と荷物を回収して、現場から離脱しろ』

「了解」

 

 通信を切り、たきなはウォールナットと……その傍らにいる千束を見る。その表情はとても沈痛なもので……それは死人を出してしまったことによる悲しさであった。

 





 
 ミズキを曇らせようとしましたが、あの人はなんか無理でした。どうやってもギャグになる。あの人はあの人で色々背負っているはずなのにおかしいね。

 たきなを餌付けしたい。食事?栄養価さえあればいいですが?みたいな感じのたきなに美味しいものいっぱい食べさせたい。ただ美味しいものじゃなくて、愛情たっぷりだったら尚よし。
 んで、美味しいものを食べ過ぎて油断したお腹を見たい。顔真っ赤にしながら恥ずかしがるんですよ。めっちゃ可愛い。
 ダイエットのため透奈くんと一緒にランニングしている所にトラックとか突っ込ませて透奈くんを挽肉にしたいですね!
 隣で話していた透奈くんが突然ミンチになるんですよ。それを認識したときのたきなの表情はきっと世界一美しいんだろうなぁ……。

評価へのリンク
感想へのリンク
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。