東方頭文字D 〜 Lunatic Stage 〜 作:D-Ⅸ
原作だってなんかボケっとした拓海よりもお調子者でよく喋るイツキの方が何かにつけて出しゃばりがちだし、これはどうしようもない……のか?
いや、もしイツキがこんな感じの大規模なイベントに来たらこんな感じにはなるだろうなと考えたが故のことなんですけど。
ちなみにギャラリーモブの番号は1話ごとにリセットされます。
同じ空間、同じ時系列または連続した時系列の話でも話数をまたいでいれば番号が共通でも前話とは別人となっている可能性があります。
また、旧料金所跡の駐車場は建物と給水タンクを解体してそのスペースが舗装されてそのまま駐車場と休憩所となっているため原作(または史実)よりもかなり広くなっています。
凄い数の走り屋が大挙して押し寄せてきてても大丈夫なのはそのためです(ぶっちゃけ原作よりも大規模なイベントにするための苦し紛れの後付け設定ですが)。
リクエスト(キャラ、車両、エピソード等問わず)はまだまだ募集中です。
感想や評価、または誤字誤植の指摘等もよろしくお願いします。
秋名山に現れた『チーム・ファンタジア』を名乗るレディース走り屋チーム。
彼女たちの紹介が一通り終わると、一瞬の間の後にワッとギャラリーたちが湧き上がりレッドサンズの時と比較しても見劣りしないほどの人だかりがあっという間に形成された。
ギャラリー1「ねぇねぇ。君たちのシルビア、カッコいいエアロ付けてるね。これどこのブランドの奴なの?」
ギャラリー2「君のアリストのホイール……。TRDのマグネシウムホイールだ!レア物じゃないか!すごいよ初めて見たよ!」
ギャラリー3「この黒いFDすげぇ!カーボンボンネットにカーボントランク、カーボンルーフの3点セットだぜ!シート貼っただけのガワだけチューンとは大違いだ!やっぱイジるなら本物志向じゃないとな!」
ギャラリー4「あそこの青いFDもいいぞ!R-SPECフルエアロのスピリットRなんてなかなか見れるもんじゃ無い!純正BBSに純正ドリルドローターが最高に渋いぜ!」
ギャラリー5「すげぇ!GDBにトミマキ、セリカのGT-FOURにGC8もいる!四駆好きにはたまんねぇ!あっちのギャラリーの32と33もいいけど、あそこの33と34のGT-Rもイカしてるぜ!」
ギャラリー6「シビックやシルビア系みたいな王道のイケてる車からR34や80スープラみたいなかっこいい車まで……天国だ」
ギャラリー7「幽香さん……貴方のその黄色いZはまさに君のような貴婦人(フェアレディ)にこそ相応しい。もしよろしければ記念にツーショットの写真を……」
スポーツカーの見本市の様なこの空間に、さらにそのオーナーも美女美少女揃いとあって、ギャラリーたちは狂喜乱舞し大いに盛り上がっていた。
少しでも親密になろうと積極的に話かけ、挙げ句の果てには歯の浮くようなキザなセリフを並べて本人と周囲のギャラリーから冷めた目付きで見られているのもお構いなしにナンパしようとする人まで現れるカオスっぷりだった。
そしてそんな人だかりの中に、今日という日を指折り数えて待っていたイツキと、助っ人と観戦のために訪れた拓海もいた。
今日を迎えてから終始ソワソワしていたらしいイツキが待ちきれなくなってしまい、本来の予定時間から前倒しで家を出ていく事となってしまったが、この大盛況ぶりを見るに結果的には正解だったと拓海は内心胸を撫で下ろした。
もし予定通りの時間に出て行っていたら、今こうしてこの駐車場に停められたかは正直分からなかったからだ。
到着直後にイツキはそのまま池谷先輩のところへ一直線に突撃して早速挨拶に出向いて行った。
拓海も自分が父の代わりに助っ人として参戦することを決めた旨を、今まで色々と間が合わずに伝えるタイミングを逸していたのでこの機会にできるだけ早め早めに伝えておいた方がいいと思い、イツキと共に挨拶を済ませると同時に伝えたのだが、そこからが大変だった。
藤原家からはすっかり父の方が来ると思っていた池谷が拓海が助っ人と知り仰天。
思わず声を上げそうになり慌てて健二に抑えられたり、拓海の気が狂ってしまったと勘違いしたイツキが殴って正気に戻そうとしたりとちょっとした騒ぎになってしまった。
結果的に、池谷が「あのハチロクのドライバーの息子としての拓海を信じる」と言ったことでひとまず落ち着きを見せた。
ただし幸いだったことに、スピードスターズの枠がレッドサンズの枠を隔てて駐車場の端の方であり人がいなかった事と、この時はまだギャラリーもそれほどおらず、その数少ないギャラリーも他のギャラリーや走り屋と話し込んで情報交換に勤しんでいたせいで彼らが注目を一身に集めることがほぼなかった事だろうか。
おかげで拓海が対レッドサンズ戦におけるスピードスターズ側の切り札であるとは漏れていない様に見えた。
そんな騒動がありながらもようやく始まった交流会は、車に関してはあまり興味がないと自負していた拓海をしても圧巻だった。
普段からそれほど多くの人が居るイメージの無い秋名の峠にこれほどまでの人が、特にスポーツカーなどの限られた車種の人たちがこれほどまでに集まるとは、拓海は思ってもみなかったのだ。
しかし、別に車好きと言う訳ではない拓海をしても何か感じ入るものがあるほどのこの光景は、特に生粋の車バカであり走り屋志望のイツキにとってはいささか刺激が強すぎてしまった様だった。
イツキ「くぅーーー!すげぇ、すげぇよ!最ッ高だよ!レッドサンズもファンタジアも、本番には仲間もギャラリーも大勢来るって聞いてたけどさ、まさか鈴仙ちゃんたちがこんなに仲間引き連れてくるなんて思わなかったよ!しかもみんな可愛くて美人だし超最高!それにさ、周り見てみろよ拓海ぃ!このスポーツカーの数をよぉ!まさに走り屋の世界って感じがたまんねぇ!あっちには先輩たちのスピードスターズ、向こうにはレッドサンズまでズラッと並んでるぞ!俺たちが止めたところの近く、あの端っこの方に止まってる黒のインテグラとか白のGT-Rとかはギャラリーに来た走り屋の車だろ!ミニバンや軽やエコカーばっかの退屈な昼間の山とはまるで違うまさに別世界!どこを見てもイケてるかっこいい車ばっかりだぜ!くぅーーー!本当に……本当に……この時代に生きてて良かったぜぇ!!」
拓海「はぁ……うるせぇぞ、イツキ。少しは周りを考えろよ……」
イツキ「これで静かにしてられるか!分かってないなぁ、拓海はよぉ!こんだけの走り屋の車が!しかもあんなに可愛い子たちが!この秋名の峠に来ることなんて、こう言うイベントでもなきゃあ普通あり得ないんだぞ!男として、これで興奮せずにいられるかよ!」
感動のあまり目に涙を滲ませながら絶叫するイツキにうんざりしながら、拓海はイツキの隣を並んで歩く。
周りを見渡せば様々な姿形をした色とりどりの車がひしめき合い、それを見て、触り、そしてチームや地域の垣根を越えて語り合う走り屋たちの姿があった。
このパーツがいけている。
この車のここがいい。
このエンジンのここが素晴らしい。
途切れる事なく語り合う彼ら彼女らの姿は、感極まって泣き出すイツキほど極端なものでは無いにせよ拓海を通して見てもとても楽しそうで、嬉しそうだった。
たかが車、されど車。
拓海にとっては車はただの仕事の道具でしかなくても、きっとこの場にいる走り屋たちにとっては道具や機械として以上の価値があるのだろう。
いつしか拓海にも、それが漠然とだが理解できるようになっていた。
イツキ「なぁ拓海ぃ、お前この楽園みたいな空間に本当に何も感じないのか?もし何とも思わないってんならお前はもう男じゃないぜ!」
拓海「別に何も感じないとまでは言わねぇよ。ただお前みたいに嬉し泣きしたり叫んだりするほどのもんじゃねぇっての」
無論、拓海とてこの場にいて何も感じなかった訳ではない。
拓海はこれまで既にファンタジアの数人の走り屋の車をイツキに引っ張られる形で見て来ていたが、あまり顔には出てないだけで拓海も普通の男子高校生であった。
少し遠目から紫を見ただけで、自然と彼女のドレスの開けた胸元へと視線が吸い込まれたこともあれば、スカートから覗く藍や慧音のスラリと伸びた足に視線が釘付けになりそうになったこともあった。
何なら、つい先ほどボンネットを開けてエンジンルームに身を乗り出しながらギャラリーにあれやこれやと説明している椛の引き締まった尻を、それを覆うタイトなジーンズの上からイツキや数人のギャラリーと共にガン見して鼻の下を伸ばしたばかりである。
だが車以外のことで思い返す事がこんな事ばかりなためか、拓海は急に恥ずかしくなり顔を赤らめてしまう。
鈴仙「あ、拓海くん!イツキくん!来てたんだ!」
そんなことを考えていると、愛車の傍でギャラリーやチームメイトたちと話していた鈴仙たちに声をかけられる。
それに即座に反応したイツキは飢えた魚がエサに飛びつくような勢いで駆け寄っていった。
イツキ「もっちろん!みんなが走るところを絶対に見ようと、今日までずっとずっと待ってたんですよぉ!他にも秋名の先輩たちの大舞台でもあるし、高橋兄弟のパラレルドリフトだって見れるかもしれないし……フリー走行からタイムアタックまで全部、楽しみで楽しみでたまらないっすよ!くぅーーー!」
イツキのあまりのテンションの高さに一瞬たじろぐ鈴仙だったが、期待感や嬉しさといった正の感情を向けられて嫌な気はしなかった。
若干引きつり気味になりながらも笑顔を見せてそれに応じた。
イツキ「バトルとなれば俺たちは秋名の側だから、やっぱり先輩たちの応援をするつもりだけどさ……対レッドサンズ戦の時は、鈴仙ちゃんたちのチームの方を応援しちゃおうかなー……なーんて!」
???「あら、嬉しいことを言ってくれるじゃない。それなら私もやりがいがあるわ」
イツキ「へぁ!?」
突然女性に後ろから声をかけられてビクつくイツキ。
慌てて振り向くとそこには金髪に青い瞳をした西洋人形の様な少女が居た。
拓海「確か、アリスさんでしたっけ」
アリス「えぇ、アリス・マーガトロイドよ。私はレッドサンズ戦の上り代表なの。よろしくね」
イツキ「はい!よろしくお願いします!……って、えぇーーー!本当にアリスさんが走るんですか!?」
ギャラリー8「マジかよ……おい聞いたか今の……」
ギャラリー9「あぁ、あの子がレッドサンズと戦うって……」
ギャラリー10「スープラはパワーのあるFRだし、勾配のきつい秋名のヒルクライムにだって対応できる車だと思うけど……」
ギャラリー8「レッドサンズ相手じゃ厳しいぞ……」
ギャラリー10「あぁ……」
赤城の走り屋1「ま、マジか……。あの子、超タイプだし……ちょっと応援してあげたくなっちまうよ……。元々レッドサンズ有利なんだしさ」
ギャラリー8「おいおい……」
ギャラリー9「赤城のくせにそれで良いのかよお前……」
ギャラリー8「ギャラリーのあのうるせぇガキンチョは、しっかり秋名の応援するって言ってたろ?」
対レッドサンズ戦の上り代表だと言う重大な事実がサラッと明かされたことで、周囲に居たギャラリーがどよめいた。
アリス「そうよ。これでもそこそこ走れる方だとは思ってるわ。まぁその辺は本番に証明してあげる」
イツキ「相手はあのレッドサンズですけど……その、タイムアタック……頑張ってください!俺、応援してますから!」
アリス「えぇ、もちろんあなたみたいに応援してくれる人たちのためにも、ベストは尽くさせてもらうわ」
そういうとアリスは思わせぶりな視線をある人物へと向けた。
それは先ほどからこそこそと話していたギャラリーの中で、赤城の人間らしい一人の青年だった。
彼と彼女の間でほんの一瞬、視線が交差する。
しかしそれだけでも彼の心を射抜くには十分すぎたようだった。
目があったことと、さっきのコソコソ話がバッチリ本人に聞かれていたらしいことを自覚すると、その青年は顔を真っ赤に染めながら慌てて目をそらしてしまう。
赤城の走り屋1(涼介さん啓介さん、そして俺のMR2の相談に乗ってくれた村田さん、ホントすんません……。俺、レッドサンズじゃなくてアリスさんの応援します!)
こうして赤城勢の中に一人、小さな裏切り者が生まれるのだった。
ヤマメ「ちなみに私は対レッドサンズ戦の下りを走ることになったから、よろしくね!」
それはさておき拓海の姿を見つけて、いつの間にやらギャラリーの質問攻めから抜け出してきたらしいヤマメもこの場に加わる。
拓海「あぁ、それじゃあ俺も……あの時、麓まで送ってもらったお礼とかもあるし、うちの店も使ってもらったからさ。……レッドサンズ戦だっけ。その時は応援させてもらうよ」
ヤマメ「ありがとう拓海くん。タイムアタック、楽しみにしててね。絶対に勝つからさ。……とは言っても、まだまだタイムアタック本番まで時間はあるから、それまではみんなの車や走りを見ながらゆっくり楽しんでいってよね。ギャラリーだって大勢いるし、普段なかなか見ないような車とかもあるんだし。何か興味があれば周りのメンバーに色々聞くといいわ」
イツキ「うん、俺たちも1ギャラリーとして君たちの活躍をバッチリキッチリ見ておくよ!……よし、そうと決まれば拓海ぃ!まだまだ楽しむぞ!こんな機会滅多に無いんだからな!悔いの残らないようにここに止めてある車、全部見て回るんだ!ファンタジアの車を見たら次はレッドサンズだ!それから最後にスピードスターズのところに行って、フリー走行前には先輩たちにもう一度会いに行くぞぉ!」
拓海「ぐぇ!ちょっ……ちょっと待てよイツキ!引っ張んなってオイ!」
ヤマメ「い、行っちゃった……」
鈴仙「あはは……」
ハイテンションで暴走するイツキに引っ張られて拓海たちは去っていった。
彼の突撃していく進行方向の先には早苗のMR-Sや幽々子のアリスト、一輪のR33が鎮座していた。
どうやら今度はそこに行くらしい。
イツキ「幽々子さーん、どうもお疲れ様でーす!いやーお久しぶりですー!あの時は貴方達のメンバーに助けてもらっちゃって……」
依然として元気はつらつといった具合で、拓海を引き摺りながら幽々子たちに駆け寄るイツキの様子に、鈴仙、ヤマメ、アリスと周りにいたギャラリーはただ呆然としながら見送ることしかできなかった。
鈴仙(なんか緊張してたみたいな初日と違って、今日はすっごい元気だったなぁ……イツキくん)
● ● ● ●
史浩「盛り上がってるところで申し訳ないけど、そろそろフリー走行の時間だ!ギャラリーのみんなは車の進路を塞がない位置まで移動して欲しい!」
フリー走行、走りを目当てにやってきた人たちにとっては待ちに待った瞬間だった。
史浩の言葉に応えるようにギャラリーたちが速やかに、しかし時折り名残惜しそうに各々の車がある位置やガードレール脇に避けていく。
それを確認した各チームのメンバーや一部の腕に自信のあるギャラリーは自らの愛車へと乗り込みそれぞれのタイミングで出ていく。
まずはレッドサンズの高橋啓介と髙橋涼介が先陣を切り村田と須崎が続く。
その後にファンタジアの鈴仙と一輪、早苗と幽香が続きスピードスターズの吉村と池谷がそのあとを追うように出て行った。
そうして一台また一台とギャラリーも交えて続々と車が出ていき秋名の峠は瞬く間に峠を駆け抜ける走り屋たちで埋め尽くされた。
コーナーに陣取っていたギャラリーたちも、次々に近づくスポーツカーやチューニングカーたちのサウンドに、待ちに待った瞬間が訪れたことを喜んだ。
ギャラリー11「ついにフリー走行が始まったぞ!3チームの走り屋が入り乱れてる!」
ギャラリー12「何台か飛び込んでくるぞ!こっちは対向車無しだ!コースマーシャルは合図出せ!」
ギャラリー13「先頭は……よっしゃあ!高橋兄弟だ!」
ギャラリー14「カメラ向けろ!名物のパラレルドリフト来るぞ!」
ブラインドコーナーに立てたマーシャルが合図を出すと、ドリフトやグリップなどそれぞれが得意とするスタイルで次から次へとコーナーに進入していく。
群馬の走り屋で知らない人はいないとすら言われる高橋兄弟や、パフォーマンスドリフトを得意とする影狼と赤蛮奇とわかさぎ姫のトリオ筆頭に、走り屋たちは各コーナーに陣取るギャラリーを沸かせていった。
コース中程のとあるコーナーで、殆どの車が通過し終わった後にギャラリーたちが口々に感想を話し合っていた。
ギャラリー15「やっぱすげぇよ高橋兄弟!あそこで2人ビタビタのまま並んで抜けてくなんて、普通出来ないぜ!」
ギャラリー16「あぁ、ほんと流石だよ。……だが他のチームも良かったな。あのレディース軍団のシルビアの3人組もガッツリ角度付けた息ピッタリのドリフトで、ガードレールまで拳一つ分くらい寄せててカッコよかったよ」
ギャラリー17「あとはさっき通ってったレッドサンズとファンタジアのFDとFCのロータリーサウンドがすげぇド迫力だったなぁ。……もうあれだけで俺は白米が食えるね」
ギャラリー16「地元チームだって、そりゃあレッドサンズには劣るかもしれないけどさ……なんだ、普通に上手いじゃないか。腕上げたのかな?下手くそだって言う前評判もあまり当てにならないな」
ギャラリー18「それにしても、61スターレットや12シルビアにランタボが並んで走って来た時は不意に懐かしく感じたなぁ。……昔を思い出すよ」
彼らの口から語られるその言葉には殆どネガティブなものは無く、むしろ走り屋たちの勇姿を褒め称えるものばかりだった。
髭を生やした中年の男のような、かつて走り屋だったギャラリーなどは、スピードスターズの車を見てかつての青春を思い出ししみじみと感慨に耽っていた。
ギャラリー15「お!また来たぞ!今度はMR-SとNBだ!」
ギャラリー17「後ろにはシルバーのGC8!レッドサンズだ!」
コーナーから飛び出して来る走り屋たちにギャラリーの視線が釘付けになる。
数秒後、スキール音とエンジンサウンドの中に盛り上がるギャラリーたちの歓声が混じる。
当初の目的通り、掴みはバッチリと言った具合でフリー走行は成功と言って良かった。
そしてフリー走行が終われば次はタイムアタックの前座となる3チーム合同のシルビア隊列走行だ。
史浩が各駐車場に配置されたメンバーたちと連携をとりギャラリーたちも含めて一旦流れを止めさせて、数分待機してコース上を走る車を無くす。
そうして一般車を含め対向車のいない環境を作り上げてから走り出す手筈だった。
先頭を走る事となった東隆春は愛車のS12シルビアのエンジンを始動させてスタート位置まで車を運ぶ。
後ろにリーダーの池谷を含む他のスピードスターズをはじめ、レッドサンズやファンタジアのメンバーがゾロゾロと続き、180SX、ワンビアにシルエイティ、S13、S14の前期と後期、そしてS15と歴代シルビアが一列にズラリと並ぶ。
ギャラリー18「シルビアがこんなに……すげぇ眺めだ」
ギャラリー19「あぁ、これだけの台数が揃うと壮観だよ」
特にこのシルビアたちの中には影狼たちや池谷に佐々木など、今日という日のために洗車までしてキッチリ車を整えてきたメンバーの方が多いくらいで、それがなおさらこのシルビアの隊列が持つ迫力というものをワンランク引き上げていた。
♪ RUNNING IN THE 90s / MAX COVERI
史浩「カウントダウン、行くぞ!」
この場を取り仕切る史浩が走り出しのカウントダウンを始める。
隆春のハンドルを握る手に汗が滲む。
史浩「5……4……3……2……1……」
先頭の車が全体のペースの基準となるために、この役目の責任は重大だった。
ましてやレッドサンズやファンタジアのメンバーと比べれば未熟な自分にはいささか荷が重いとは今でも感じている。
しかし、隆春はなぜ先頭をスピードスターズの車になる様に彼ら彼女らが順番を組んだのか、おおよそ推測される意図は池谷から聞かされていたためにそれを全身全霊でやり抜くことがチームのためになるとも理解していた。
あとは今まで以上に真面目に走り込んだその成果をギャラリーに見せるだけ。
ただそれだけだった。
史浩「GO!」
隆春から順に次々と、シルビア達が強くアクセルを踏み込んで走り出し、峠に消えていく。
ギャラリー18「走り出したぞ!すげぇ音だ!」
芳樹「タイムアタックに次ぐ見せ場だぞ!お前ら頑張れよー!」
早苗「隊列走行、上手くいくといいですね」
ヤマメ「うん。きっと大丈夫だよ」
そしてスタート地点のギャラリーやそれ以外のメンバーたちはそんなシルビアたちの勇姿を手を振り見送った。
ヘッドライトとテールライトが大蛇の様に連なり、夜の峠を光と音と歓声で彩る。
その大蛇が体をくねらせコーナーを抜けるたびに練習の時のまばらなものとは違う、万雷の拍手と歓声が響き渡った。
ギャラリー20「やっべぇ!S12からS15まで、全部揃ってる!こんな規模の隊列走行は初めてだ!」
ギャラリー21「あいつら最高だ!マジでいいもん見れたぜ!こりゃあ地元でしばらく自慢できるぞ!」
一台も欠ける事なく一続きのまま下りきった彼ら彼女らを迎えるのは、ゴール地点に詰めかけた大量のギャラリーたちだった。
ちなみに、中腹の展望台に詰めかけたギャラリーたちの1人が撮った、4連ヘアピンを隊列を組み続々と降っていくシルビアたちの姿を捉えた映像が、後の世に走り屋たちの全盛期の姿を伝える貴重な資料映像として長く残され続け、受け継がれていく事となるのはまた別のお話。
次回『伝説の夜、三つ巴のタイムアタック(前編)』
セリフだけ登場した「幽香にウザ絡みしたキザなナンパ男」のその後に関してはご想像にお任せします。
ただし妖怪が外の世界に行く場合には人間の殺害を禁ずるという基本的な部分をはじめ、そこそこキツめの制約があると言う設定なので、例えば……もし仮に、万が一、口が空回りして地雷踏んだり引き際を誤ったまましつこく絡みすぎたりで彼女を怒らせたとしても、そう酷いことにはならないと思います。
うーん、それにしても会話シーンの台詞回しが難しい。
作者自身そこまで会話が得意なタイプじゃないんで上手く噛み合ったテンポのいい会話ってのがどうにも……。
2023 / 12 / 14 20時47分
誤植部分の訂正。