東方頭文字D 〜 Lunatic Stage 〜 作:D-Ⅸ
ギャラリー「うおぉぉぉ!」
イツキ「うおぉぉぉ!」
作者「うおぉぉぉ!」
拓海「?」
リクエスト(キャラ、車両、エピソード等問わず)はまだまだ募集中です。
感想や評価、または誤字誤植の指摘等もよろしくお願いします。
夜9時半。
ギャラリーを交えてのフリー走行と前座にあたるシルビアの隊列走行が成功に終わり、いよいよ本日のメインイベントであるタイムアタックの時間が訪れた。
まずは上りの部から、対戦カードについては第一戦は「ファンタジア(若崎姫:日産 S13後期 シルビアK’s)対スピードスターズ(中山四郎:スバル アルシオーネVR)」が行われ、次に「レッドサンズ(佐々木正晃:日産 前期 180SX)対スピードスターズ(池谷浩一郎:日産 S13前期 シルビアK’s)」が、最後に「レッドサンズ(新田宏:スバル GC8 インプレッサ)対ファンタジア(アリス・マーガトロイド:トヨタ JZA80 スープラ)」となる予定だ。
続いて下りの部では、第一戦の「レッドサンズ(高橋啓介:マツダ FD3S RX-7)対スピードスターズ(藤原拓海:トヨタ AE86 スプリンタートレノ)」に始まり次に「ファンタジア(ナズーリン:マツダ NBロードスター)対スピードスターズ(高木健二:日産 中期 180SX)」が行われて「レッドサンズ(高橋啓介:マツダ FD3S RX-7)対ファンタジア(黒谷ヤマメ:マツダ FD3S RX-7)」が最終戦となる予定となっている。
ギャラリー1「なぁ、これどうなると思う?」
ギャラリー2「うーん、正直スピードスターズは他の両チームに勝ち目あるのか?」
ギャラリー3「厳しいだろ。いくら地元だからって相手は赤城レッドサンズ。無名のチームに勝ち目はないな」
ギャラリー1「ファンタジア戦もそうだろう。今日分かった事だが正直あの子たちは腕もかなり良いし、スピードスターズじゃどうにもならなそうだ。唯一勝てそうなのはNB相手のダウンヒルくらいか?」
ギャラリー2「だな。誰から見ても苦しいよ」
ギャラリー3「ファンタジアか……レッドサンズにはスープラやFDみたいな戦闘力が高そうな奴をぶつけた一方で、スピードスターズにはS13とNBを当てて他のランエボやらインプやらGT-Rやら、いかにもガチそうな奴らをあえて出さなかった。……これは単純な気遣いなんだろうな。
ギャラリー1「レッドサンズも下りの啓介はともかくとして、上りは二軍を当てている。涼介も出ないみたいだしな。……両チームともにスピードスターズ相手には本気を出さないってことだろう」
ギャラリー2「一方でファンタジアとレッドサンズの方は案外いいバトルしそうなんだよなぁ。それでも一軍ぶつけて来たレッドサンズが勝つんだろうけど」
ギャラリー5「特にあのスープラ、あれかなり弄ってるぞ。フリー走行の時に俺の70スープラで追いかけてみたがかなり速かった。特に立ち上がりが凄まじすぎてな、置いていかれちまったよ……」
ギャラリー1「マジかよ。お前のスープラだって350はあるんだろ?馬力だけなら高橋兄弟にも負けないって言ってたじゃないか」
ギャラリー5「あぁ、でも置いてかれた。……やっぱ2Jには勝てねぇや」
ギャラリー2「それにしても、最終戦は前期FD同士のミラーマッチか。涼介さんも結構なエンターテイナーだよな」
ギャラリー5「あぁ、スピードスターズのハチロク相手じゃマシンのスペック一つとってもどう考えたってバトルが成立しないだろうし、不完全燃焼になるもんなぁ。一方で相手が同じFDでしかもワイドボディ仕様のカスタムカーってのも見栄えがいいし、相手にとって不足はないだろう。……高橋啓介の走りが2度も見れるって言うのも俺たちギャラリー的には美味しいし、流石だよ」
ギャラリー3「ただ、そのダシに使われるファンタジアのFDの子はちょっと可哀想だよな」
ギャラリー1「……まぁな、ただ高橋啓介の走りを間近で見れるのは貴重な経験だし、無駄にはならないと思うぜ」
秋名に集ったギャラリーたちの盛り上がりも最高潮となり公開された各チームの対戦カードを元に口々に予想を立てていた。
しかしそれも麓にある上り側スタート地点に各マシンが出揃い発進準備が整うと、ギャラリーたちの喧騒も鎮まった。
♪ LOVE IS LIKE A FEVER / DANY
旅館側駐車場付近のスタート地点では上りの部第一戦のファンタジア対スピードスターズの戦いが始まろうとしていた。
それぞれの車をフロントバンパーの先端を基準に揃えて並べる。
ギャラリー6「頑張れ姫ちゃーん!」
ギャラリー7「中山ぁ!手ぇ抜くんじゃねぇぞ!」
バトル特有の緊張感と熱気にあてられたギャラリーたちは大いに盛り上がり参加者2人を囃し立てた。
その2台の間にはレッドサンズの芳樹が立ち、スタート時のカウントを担当する。
姫「チームファンタジアの若崎姫よ。今日のバトル、よろしくね」
四郎「秋名スピードスターズの中山四郎。よろしく」
芳樹「カウントダウン!5……4……3……2……1」
芳樹「……GO!」
カウントゼロで両者一斉にスタート。
マシンスペックは姫のS13がスピードスターズ戦のためにややデチューンを施し300馬力程度、四郎のアルシオーネは本番前に間に合わせた現車合わせのECUチューンとプラグ交換でノーマルの135馬力から170馬力までパワーを引き上げていた。
2倍近くあるパワーの差と排気量アップによるトルクの差、さらにS13の方がアルシオーネよりもやや軽いため、発進加速の勝負は二駆でありながらパワーで押し切り姫がリードする。
しかしながら4WDという駆動方式のために加速力の差は馬力差の数字ほど顕著には現れず、アルシオーネは何とか引き離されることなくギリギリS13を追えていた。
四郎(今までの練習は今日のためにあるんだ!みっともない走りなんかできない!何としてでも喰らいつく!)
姫(スケートリンク前ストレートまで逃げれば私の勝ち!たとえ相手が四駆でも、この馬力差は覆せない!勝てるバトルを落とすほど、私は甘くないよ!この勝負で大事なのは、まずミスをしないこと!)
四郎にとって、このバトルは序盤で全てが決まると言えた。
いくら四輪駆動と言っても、それは倍の馬力を覆せる魔法のシステムではない。
このまま姫の目論見通りにバトルが進み、パワー勝負となるスケートリンク前ストレートまで逃げられてしまえばあとは四郎に打つ手は無かった。
故に、後輪駆動の大馬力を活かしづらいこの勾配のキツくコーナーの多い序盤で一度は追い抜いてアドバンテージを確保しておかなければ中盤以降に勝負をする機会自体を失ってしまいかねなかった。
四郎(分かってたつもりだけどやっぱり上手い!……エース級でなくてもこれだけの腕だなんて。……だけど、キツい登り勾配にうねるようコーナーの連続するこの区間……より苦しいのは四駆じゃなくて二駆の筈なんだ!300馬力のパワーを活かしにくいここで詰めなきゃいけないのに!)
しかしそれでも中々差が縮まらず、それどころかコーナーを抜けるたびに離されてしまう。
秋名名物の連続ヘアピンを通過し終わり、もうストレート区間まで余裕がない。
ギャラリー8「ふぅー!あのS13いい音させてるぜ!ドリフトも上手いぞ!」
ギャラリー9「姫ちゃんがリードしてるぞ!すげぇ!」
ギャラリー10「中山ぁ!もっと踏んでけ!置いてかれてんぞ!」
コーナーごとに響くギャラリーたちの声をよそに、追いつかなければという思いと追いつけない現実が四郎の中で焦りを生み、その動きは次第に精彩を欠いていく。
曲げにくいパートタイム4WDを覚えたてのドリフトで曲げて行こうとするも、そのコントロールはおぼつかなかった。
マシンの性能とそれをコントロールするテクニック。
両方で負けている以上はもはやどうにもならない。
四郎(やっぱり、まだ届かないのか……)
コーナーで詰められなかった差をストレートで詰められる訳もなく、突き放された四郎は途中である程度の健闘を見せたものの、その差を埋めることが出来ず9.54秒差という大差で敗北を喫することとなった。
● ● ● ●
四郎が敗れたことで幸先の悪い出だしとなってしまったスピードスターズであったが次の試合も厳しいものになる。
池谷の相手は同じCA18を搭載する前期180SXだが、しかし相手は腕自慢が揃っているあの赤城レッドサンズのメンバー。
才能に溢れ、努力を重ね、マシンにもしっかりとお金と手間をかけているそれほどの相手に、果たして自分が勝てるのかと池谷はついつい考えてしまう。
しかも四郎が負けた後ということもあり、もしリーダーである自分が負けてしまえば下りのバトルにもこのままの悪い流れを引き摺らせてしまうかも知れない自然と表情を曇らせてしまう。
そんな時だった。
秋名の走り屋1「池谷……」
池谷「お前ら……どうしたんだ?」
突然、池谷に声をかける一団がいた。
池谷がふとそちらに顔を向けるとそこには曜日があまり合わないためにそれほど親密な交流こそないものの、幾度か共に走った経験のある地元秋名の走り屋たちがいた。
秋名の走り屋2「どうしたも何も、お前らスピードスターズを応援しに来たに決まってんだろ」
秋名の走り屋3「お前が辛気くせぇ顔してたからほっとけなかったんだよ。さっき登ってった中山は、もう少しマシなツラしてたぞ。リーダーのお前が不安がっててどうすんだ」
秋名の走り屋1「今日はお前らが秋名の走り屋の代表として走るんだろ?だったらせめて、勝てなくてもいいからレッドサンズの野郎に煽りの1発でもくれてやれよ」
池谷「……そうだな。とりあえず難しいことは考えずに、死ぬ気で走ってみるよ。……悪かったな、心配かけさせたみたいで」
秋名の走り屋2「気にすんな。……そんじゃあ行ってこい。上で他のメンバーが待ってるんだろ?」
池谷「あぁ、行ってくる(……そうだ。今の俺らはチームだけじゃなくて秋名の看板まで背負ってんだ。俺が弱気でどうする!例え相手が誰でも、バトルとなれば全力で走るだけだ)」
覚悟を決めた池谷は愛車に乗り込むとエンジンを回す。
ブボォン!という雄叫びの様な音と共に池谷のS13が覚醒する。
これまでのチューンでNISMO製マフラーと純正交換タイプの高効率エアクリにHKSの触媒を入れていた吸排気チューン済みの池谷のS13は、この交流戦に臨むにあたって近所のショップに持って行きECUの書き換えまでしてもらい200馬力にまで性能を引っ張り上げていた。
さらにタイヤとブレーキをダンロップとエンドレスに交換してしっかり強化している念の入れようである。
これで池谷はしばらくの間食費すら切り詰める極貧生活が確定してしまっているが、本人も後悔は無かった。
池谷「頼むぞ、シルビア。俺に力を貸してくれ」
♪ YOU BETTER CALL ME / Lolita
一度両手でしっかりと、感触を確かめる様にステアリングを握り込んで気合を入れてから左手をシフトノブへ移した。
スタート地点にまで車を移動させてお互い名乗り合うと再び乗り込んでカウントを待つ。
カウントダウンを担当するのはファンタジアのメンバーである一輪だった。
一輪「それじゃあカウント行くよ!……5……4……3……2……1」
一輪「……GO!」
2台が一斉にスタートする。
パワーに勝る佐々木が先行するが、わかさぎ姫と四郎の時ほどのパワー差は無いため2台が縦一列に並ぶテイルトゥーノーズの形でコーナーへと進入していく。
ギャラリー11「来た!佐々木が頭だ!」
ギャラリー12「おぉ!峠といえばやっぱこれだよなぁ!」
ギャラリー13「定番の180SXやシルビアが並んで抜けてくのは様になるぜ!」
ギャラリー14「2人とも最高だぜ!頑張れよ!」
しかし、少々のパワーの差以外にも根本的なセンスとテクニックの違いからか、池谷は徐々に離されて行ってしまう。
一つ、また一つとコーナーを抜けるたびに開いていく車間に思わず唇を噛んだ。
池谷(クソッ!全然詰められねぇ!それどころかテクニックの差で少しづつ開く一方だ!……やっぱりレッドサンズはすげぇ奴らばかりだよ)
連続ヘアピン区間を通過しスケートリンク前ストレートに差し掛かる。
2台がペダルを床に叩きつける様な勢いで踏み込み全開加速。
エンジンが唸りを上げてそのまま速度を伸ばし続け、3速から4速へ。
やがてストレート終点へと差し掛かる。
ここはコーナーと呼べるかすら微妙な緩い曲がりののちにキツいRのタイトヘアピンが待ち構える難所の一つ。
上り屈指の突っ込み勝負が行われる見せ場の一つであり、タイムの計測員と共に多くのギャラリーが詰めかけていた。
ギャラリー15「来た!180SXとシルビアだ!」
緩い曲がりの先から飛び出す2台にギャラリーが一斉に湧き上がる。
佐々木と池谷の順にフルブレーキング。
この時僅かに池谷が差を詰めながらコーナーへと突っ込んだ。
佐々木はブレーキングドリフトで、池谷はサイドブレーキドリフトでヘアピンに切り込みスキール音を鳴らして抜けていく。
秋名の走り屋4「がんばれ池谷!そのまま詰めろ!」
ギャラリー16「いいぞ秋名の13!やるじゃねぇか!」
窓を開け放ち走る池谷の耳に、ギャラリーたちの声援が響く。
秋名の見知った顔から知らない人まで、自分を応援してくれている人の存在に、再び池谷の心は鼓舞された。
池谷(あいつらの期待は俺の両腕両足にかかってんだ!まだ諦めるには早い!まだ終わったわけじゃ無い!……そうだ。俺は秋名の走り屋だ!地元のプライドにかけて、このまま突き放されてたまるか!せめて一矢報いてみせる!)
ギャラリー17「タイム差はどうだ!」
計測員「2.20秒!すげぇ!スピードスターズ、思いのほかやるぞ!」
ギャラリー16「すぐに千切られて終わりだと思ってたからな。意外とやるじゃん」
180SXに続いて、池谷のS13が後を追いコーナーの先へと消えて行った。
その直後に告げられた2.20秒というタイム差にギャラリーたちはどよめいた。
多くのギャラリーたちは、あのレッドサンズを相手にスピードスターズは手も足も出ないだろうと考えていたが、実際のところは少しずつ離されつつも善戦していた。
しかし奮闘虚しく、バトルの結果はレッドサンズの佐々木の勝利となってしまったが、タイム差は2.14秒と大健闘。
池谷はごく僅かな差ではありながらも、レッドサンズのメンバーを相手にタイムを縮めるという快挙を成し遂げていた。
池谷「すまん、みんな……負けちまったわ。健二、拓海……あとは下りを走るお前らに託すよ……」
チームのブースに戻ってきた池谷は開口一番そう言ってメンバーたちに頭を下げた。
だがこの場にいるチームメンバーに、秋名の走り屋たちに、池谷がバトルで負けたことを責める人は居なかった。
むしろ秋名の走り屋たちはあのレッドサンズを相手に最後まで食らいつき、最後は殆ど誤差レベルであっても僅かにタイムを詰めてみせたことを讃えられすらしたのだった。
● ● ● ●
再び麓の駐車場へと場所は移る。
ここでは上りの最終戦であるレッドサンズ対ファンタジアの戦いが始まろうとしていた。
既に並べられた2台のマシンに、ギャラリーたちは大いに盛り上がりを見せていた。
ギャラリー18「すげぇ、めっちゃかっこいいぜこの80スープラ」
ギャラリー19「エアロも凄いがピカピカに手入れされてるし、乗り手の子も超美人。まるでワイルドスピードだよな」
ギャラリー20「あぁ、最高にクールだよ」
2人が名乗りを上げて車に乗り込む。
♪ PUSH ME / Odyssey
カウントダウンが始まる。
今回はレッドサンズの尚子が担当する様だ。
尚子「カウント行くよ!……5秒前!……4……3……2……1」
尚子「GO!」
シルバーのGC8と白いスープラがスタートダッシュを決めるがパワー差でスープラが前に出る。
だがGC8も離されることなく食らいつきそのままコーナーへ。
新田(パワー勝負と立ち上がり加速勝負ならあっちの方が上だがコーナーの突っ込み勝負はGC8と俺の得意分野だ。パワーがあるからってそう簡単に千切れると思うなよ)
アリス(FR化カスタムのGC8なんていう変わりもののマシンを上手く走らせてる。……大した腕ね。突っ込みの鋭さならレッドサンズ随一って評判も頷けるわ)
事実、専用のキットでセンターデフを加工しフロントドライブシャフトを撤去することでドリフト特化のFR仕様に改造された彼のGC8型インプレッサは、元々軽量なボディに後席の撤去を含む軽量化メニューの施工と低重心を実現するスバル自慢の水平対向エンジンの特性もあってか、大柄なボディに重い車重のスープラよりも鋭いツッコミを可能としていた。
連続ヘアピンに差し掛かる頃にはコーナー立ち上がりと僅かな直線でスープラが前に出て突っ込みでGC8が迫ると言う展開となる。
ギャラリー21「来た!スープラが先行してる!」
ギャラリー22「だがGC8も負けてないぞ!」
ギャラリー23「2台ともドリフト超うめぇ!めちゃくちゃかっけぇ!」
連続ヘアピンをクリアすれば次は左右にうねるコーナーがありその先にはスケートリンク前ストレートがある。
アリスはアクセルを踏み込み2Jのサウンドをギャラリーにばら撒きながら一気に加速。
ギャラリー24「うひょー!2J半端ねぇ!すげぇ音と加速だ!」
そのまま突き放しにかかる……かに思われた。
ストレート後半、ここでアリスはあえて適度にアクセルを抜いて少しずつ減速し始めた。
やがて全開で追いかけるGC8との車間も近づくこととなる。
ギャラリー25「お、おい!スープラがスローダウンしてるぞ!」
ギャラリー26「エンジントラブルか?」
ギャラリー27「いや、違う!インプを待ってるんだ!」
アリス(パワーに任せてストレートで千切ったと外野からケチを付けられたくはないし、悪いけど少し付き合って貰うわ)
馬力に物を合わせて千切ろうと思えば千切れるのに、それをしない。
せっかくのロングストレートで稼いだマージンを全て捨てる。
これの意味するところを理解できない新田ではない。
彼は彼女の意図を汲み取り思わず口角を上げた。
新田(あくまで勝負はコーナーで付けるってわけか。上等じゃないか。第2ラウンド、今度こそ勝つ!)
ストレート終点のヘアピン、2台同時のブレーキング。
スープラが頭を抑えたままだがGC8もどうにかスープラのインに鼻先を差し込もうとするが差しきれない。
新田(やはりブロックが上手いな。通りたいラインを的確に塞がれる。……やりにくい!……それに立ち上がりのアクセルワークは流石の一言だ。かなりの馬力がありそうなスープラに無駄なホイールスピンをさせる事なく滑らかに素早く立ち上がる。……全く隙がない。むしろこっちが見習いたいくらいだ)
前を走るアリスが新田が走りたいラインをその大柄なボディを使い上手く潰してしまうために攻めようにも攻められない。
虎視眈々と相手のミスを待つ事も考えたがここまで完璧なコーナーワークを見せつけられればそこに期待をしたところで望み薄だろうことは明らかだった。
これほどの余裕を見せる相手からミスを引き出すのは容易ではないだろう。
何より、こうしている間にもコースは消費されていく。
二つのヘアピンを通過しまた左コーナーへと突っ込むがやはりまたGC8は立ち上がりで遅れを取り離されてしまう。
これは両者の馬力の差だけではなく、マシンの特性のせいでもあった。
元々FRとして設計されていたスープラと比べて、4WDとして設計されていたものを後から本来想定されていないだろうFR化をさせたGC8では、足回りのキャパシティにどうしても差が出てしまっていた。
さらにGC8はターボが立ち上がりきらない負圧時やトルクの極端に細い低回転時と、ターボが立ち上がり正圧に入った時の中高回転時では出力の出方が他の車種と比べても激しく変わる、言ってしまえばピーキーなドッカンターボ仕様である。
その乗り手をシートの背もたれに叩きつける様な加速感を伴う独特なフィーリングは新田を含めた多くの走り屋たちを魅了する麻薬の様なものではあったがこうした場面ではやはり扱いにくさが出てしまう。
ブーストが垂れた時のもたつきがより顕著に出てしまうのだ。
言ってしまえば、彼のGC8はアリスの峠向きにパワーバンドを広く取る様にチューンされたスープラよりも踏みにくい車なのだった。
安定性よりも回頭性を取った彼のFR化と言うアプローチが裏目に出る形となっていた。
ましてや今はもうバトルも終盤に差し掛かり、新田には文字通り後がない。
今の焦りを孕んだ彼に出来ることはそう残されてはいない。
アリス(先行で自分よりも曲がりに強い車を相手にした時の戦い方は、相手に思い通りのラインを描かせないこと。苦しいラインを相手に強いること。……大柄なボディは一般的には峠では不利と言われるけど、デメリットばかりじゃないわ。こうやって前に出て少し振り回すだけでも、相手の望むラインを妨害する程度のブロックなら容易くできてしまう。もっと小柄な車でここまでのブロッキングを行おうとすれば多少の無茶は要求されるけどスープラにはそれが要らない)
新田(クソ!立ち上がりで負けてる以上はこっちが突っ込みで差し切って相手のラインを奪わないと行けないのに……悉く後手になっちまう!これじゃ相手の守りを突き崩せない!)
バトルはスープラが頭を抑えたまま逃げ切り勝ちを決めたことで決着となった。
群馬最速と目されていたレッドサンズに第三勢力のレディースチームが勝ったとあって会場は一斉に沸き立ちアリスの周りには人だかりが形成された。
ギャラリー28「すごいぞ!レッドサンズ相手に大金星だ!」
秋名の走り屋5「すげぇ!かっこいいぜ!最高だ!」
特にどこに行ってもモテモテでスター扱いのレッドサンズに対して嫉妬の様な忸怩たる思いを内心抱えていたスピードスターズ以外の秋名の走り屋たちにとっては、これまでほぼ常勝無敗だった破竹の勢いのレッドサンズに(相手が二軍とはいえ)スピードスターズの池谷が惜しくも敗れはしたものの1秒2秒を争う接戦を繰り広げ善戦し、さらにファンタジアが事前の予想を覆して大金星を挙げたことに対して胸のすくような気持ちだった。
そしてその大盛り上がりの群衆たちの中には当然イツキたちもいた。
イツキ「すげぇ!本当にすごいよアリスさん!!本当にあのレッドサンズの、しかも凄腕揃いの一軍メンバーに勝っちゃうなんて!ドリフトしながら最終コーナー抜けてスープラが入って来た時は鳥肌がたったよ!くぅーーー!一流の走り屋同士のバトルはやっぱり激アツだぜぇ!」
再び暴走スイッチが入り叫びながら群衆の中へと突撃していくイツキの姿を眺める拓海の胸の内に、静かに何かが灯る。
それに気づく瞬間は、そう遠くはないのかもしれない。
FR化キワモノGC8の新田くんを含むレッドサンズ一軍勢の実力を簡単に表すと、大体のメンバーはドライではケンタよりも速く、雨ではケンタよりも少し遅いレベルです。
新田くんはそのマシンの特性上、雨のバトルは苦手としています。
ちなみに作者は本来なら地の文で語るべきことをギャラリーに一部振り分けて喋らせるので今回もギャラリーがガヤガヤ喋ります。
あと、ギャラリーの人たちに時々あえて誤った認識で語らせたりする事で、各々が持ってる情報に差異があることを示すという意図もあります。
今まで書けなかったぶんを発散する様に、バトルの描写は自然と筆が進みました。