東方頭文字D 〜 Lunatic Stage 〜   作:D-Ⅸ

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本作における拓海くんはそこに至る経緯も含め、原作とは随分と異なる交流会を経験した事で原作とは違うルートを進むことになります。
今後はその辺のこともアンケート化してみようかと考えています。
本格的にルート分岐するのは、執筆のベースとなる下書き程度しか存在しないナイトキッズ編以降からになる予定なのでまだまだ時間的に余裕がありますが……。

リクエスト(キャラ、車両、エピソード等問わず)はまだまだ募集中です。
感想や評価、または誤字誤植の指摘等もよろしくお願いします。


第15話 伝説の夜、三つ巴のタイムアタック(中編1)

上りの部が終わるとしばらくインターバルが挟まれる。

その間に高橋啓介はマツダボンゴで乗り付け工具箱まで持参したチームメカニックと共にマシンのセッティングを行っていた。

フリー走行が終わるや否や、すぐにマシンをクーリングさせ油圧ジャッキで持ち上げ下回りやタイヤ周辺を点検し、拾った木の葉や砂利などをサッと取り除く簡易清掃をしていたかと思えば、今度はもう一度下ろしてエンジンフードを開け放ち、またゴソゴソと何かを調べたり弄ったりし始めている。

 

遠巻きからのため何を弄っているのかはよく分からないものの、そんなサーキットに足繁く通うレーシングチームさながらの光景を、隊列走行やバトルから戻ってきて一休みしていた池谷たちを含むスピードスターズのメンバーが眺めていた。

 

池谷「あいつら……本格的にやりやがって……」

 

四郎「お、おい……あいつら本気だよ。なぁ、あんなの相手にハチロクじゃやっぱり厳しいって」

 

滋「高橋啓介のFDは少し前の実測値が364馬力、ツインターボのモンスターマシンで、拓海のハチロクはNAなんだよな?NAのままだとパワーも稼ぎづらいし、特にストレートで置き去りにされちまう」

 

四郎「しかも経年のパワーダウンも考えると、実測だとノーマルの130よりちょい上くらいになるのか?150も無いんじゃあ……」

 

守「馬力なんか殆ど3倍近いじゃないか……。いくら元秋名最速の走り屋の息子って言っても、流石に……な」

 

翔一「あぁ、その元最速本人じゃない以上はどうしようもないって。リーダーの言う通りなら走りのキャリアも腕も俺ら以上なのは何となく分かるんだけど……」

 

池谷「でも、俺たちの誰が走ったって高橋啓介には勝てないんだ。今は拓海を信じるしかないさ。……それに、天下のレッドサンズだって無敵じゃないって事は、さっき証明されたばかりだろう」

 

健二「そりゃあそうだけどさ……」

 

徹底したマシンの管理を行い盤石の体勢でバトルに臨もうとする高橋啓介の本気ぶり見せつけられて、言葉に出来ないプレッシャーの様なものを感じるスピードスターズの面々だったが、同時に池谷は最後まで希望を捨てるつもりはなかった。

 

結局負けてしまったが、自身がある程度ではあるもののレッドサンズメンバーを相手に粘れたことと、この場においてはライバルチームではあるもののファンタジアのスープラがレッドサンズ一軍に名を連ねるGC8インプレッサと戦い見事に撃破してみせたこと。

何より高橋啓介本人が秋名の下で例の豆腐屋のパンダトレノらしい車に千切られたと言ったこともある。

たとえ相手が群馬有数の走り屋チームであるレッドサンズのナンバー2が相手でも、場合によっては勝機はあると、少なくとも勝てる可能性はゼロではないと思えてきていたのだった。

 

守「とにかく、もうすぐ10時だ。下りの部が始まる時間だよ。速く拓海のところに行ったほうがいいんじゃないか?」

 

池谷「あぁ、そろそろスタート地点に移動する様に伝えておこうか。俺たちもそこに集まって、チーム総出で送り出してやろう。……応援してやるくらいしか出来ないってのも、ちょっと悔しいけどな」

 

 

 

ギャラリー用の区画に行くとそこに止めてあるハチロクの中に拓海はいた。

イツキの姿が見えないものの、拓海に聞けば今はトイレに行って並んでいると言う。

 

池谷「拓海!もうそろそろスタートの時間だから車をスタート地点に動かして欲しい」

 

拓海「はい。……ところでどこまで移動させればいいんでしたっけ」

 

翔一「なら俺たちが誘導するから、後ろからついて来てくれ」

 

拓海「分かりました。それじゃあ、お願いします」

 

そう言うと、拓海は車に乗り込みエンジンを回す。

守や滋がギャラリーたちを退避させて道を作ると拓海はゆっくりとハチロクを転がした。

 

池谷(やっぱり……特別な何かがある様には見えないよなぁ。音も普通のハチロクと変わらない様に聞こえるし……)

 

その様子を黙って見届ける池谷だったが、やはりこのハチロクに特別なチューンなどがなされている様にはどうしても思えなかった。

そして、このハチロクに注目しているのは池谷たちだけではない。

近くにいたギャラリーやファンタジア、レッドサンズのメンバーたちも同様だった。

 

ギャラリー1「ん?なんだ……?あれがスピードスターズの代表か?」

 

ギャラリー2「助っ人でハチロクが来るって聞いたけど……なんだありゃ?」

 

ギャラリー3「藤原とうふ店って……まさか実家かどこかの社用車かぁ?」

 

赤城の走り屋1「そんな奴が啓介さんと戦うのかぁ?」

 

ギャラリー4「しかも乗ってんのはガキじゃないか。同じハチロクでも俺の5AGで走ったほうがまだマシなんじゃねぇの?」

 

ギャラリーたちがどよめく。

ハチロクで高橋啓介のFDに挑むと言うからてっきりバチバチに魔改造を施した様なマシンを想像していたら、出て来たのは殆どノーマルに近い見た目の社用車らしい車だった事で、多くのギャラリーたちは拍子抜けといった感じだった。

これなら同じハチロクでも、ギャラリーに来ていた他のハチロク小僧たちの車の方が幾分マシに思えてしまったのだ。

 

その一方で、はたてと啓介を経由して事情を知っているレッドサンズやファンタジアのメンバーたち、そして直感力や経験に秀でた一部のギャラリーは、あのハチロクに対して言い知れぬ不気味さの様なものを抱いていた。

 

斉藤「あれが……あのパンダトレノが……思っていたのと違うな」

 

須崎「話に聞くスピードスターズの秘密兵器ってアレか……?一見すると速そうに見えないのに妙な威圧感は感じるってのが、一番気味が悪いんだよなぁ」

 

ケンタ「あいつが……本当に啓介さんを……?」

 

啓介「やっぱり来たか……(スピードスターズの奴らの近くをどんだけ探してもいねぇと思ったら、ギャラリーに混じってやがったか。見落としてたぜ)」

 

藍「啓介くん、あれがそうなのか?」

 

啓介「あぁ、その筈だぜ。あの時のセリカのドライバーから話は聞いてなかったのか?」

 

藍「いや、話は聞いていたが実際に見てみない限りはな……」

 

啓介「ところでそいつは今どこにいるんだ?あいつだって、このハチロクの件は気にしてそうだったけどな」

 

藍「あぁ、はたてなら先に下に降りてるよ。2人のバトルをゴール側から写真に撮りたいと言っていたな」

 

啓介「そうか……。まぁいいや」

 

藍「確かに話に聞くようにあくまで外観上は大したものには見えないな。バキバキ鳴くタイプの機械式デフの音や強化クラッチの音も聞こえない……か」

 

椛「これではたてのNAらしいっていう推測が正しければ、やっぱり秘密はマシンじゃないって事になるね」

 

ナズ「一般的なNAのメカチューンである以上、どうあがいてもあのFDが出す350オーバーのクラスには届かない。排気量の拡大も込みで200馬力前半が関の山ってところかな?」

 

須崎「まぁ、4AGならそんなもんだろうなぁ。あれは確かに吹け上がりや伸びの良いエンジンではあるが、RBや2Jみたいに絶対的なパワーが出せる様なもんじゃない」

 

竹原「内部にロールケージも無い。車高はノーマルから少し下げているけどこれも峠を走る上での常識的な範囲だよな」

 

ナズ「ホイールはワタナベ製だけどこれもそこまで珍しいものじゃない。……私たちが使ってる練習用の車たちに混じってても分からないかもね」

 

魔理沙「あれってフルノーマルかそれに近い様な奴ばっかだったよな」

 

一輪「うん。あのマーチやアルトとかはあくまでドラテク練習用ですからね。あまりあちこち弄ると練習になりません。特にサスとエンジンには手をつけない決まりになってます」

 

妹紅「ま、とにかくそのハチロクの秘密って奴もこれから分かるようになるんだろ?私も個人的に気になってたからな」

 

藍「あぁ、楽しみにしておいてくれ。……とは言え、走るのは私じゃないんだが」

 

各々がそのハチロクを観察していく。

一般的に走り屋などから愛用されている様な、ダウンフォースを稼ぐためのエアロパーツや幅の広いタイヤを履かせるためのワイドフェンダー、軽量化のためのカーボンパーツなどが装着されているわけでもない。

剛性を格段に向上させるロールケージなど、何か外見から分かる派手なカスタムをしているわけでも無い。

 

それどころか運転席は純正シートのままで、必需品とさえ言われる社外のスポーツシートもなければ4点式ベルトも無い。

機械式LSDや強化クラッチ、ターボチャージャーやスーパーチャージャーなど、ノーマルとは違う中身を察せられるような特殊な音が聞こえるわけでも無い。

だからこそ、経験に裏打ちされた彼ら彼女らの走り屋としての勘がこのハチロクに対して警鐘を鳴らしていた。

 

「このハチロクを見た目だけで判断したらダメだ」と。

 

そしてハチロクが駐車場を出てスタート地点に進入し、既に止めてあった高橋啓介のFDの真横に車を停めると一度車外に出て車の傍に立った。

そこにスピードスターズのメンバーたちと、そしてトイレから解放されたらしいイツキが慌てた様子で駆け寄ってくる。

 

イツキ「拓海……マジで走るのかよ。もし先輩たちの前で情けねぇ走りしたら承知しねぇからな……」

 

拓海「分かってるって、イツキ」

 

池谷「拓海、改めて言わせてもらうが……下りのアタック、お前に任せる」

 

拓海「はい……こっちもガソリン満タンかかってるんで、何が何でも勝ちますよ」

 

池谷「はは……すまん、恩にきるぜ。でも絶対に無茶だけはするなよ」

 

 

 

啓介「終わったか?……随分若いな。名前は?」

 

拓海「藤原拓海です」

 

啓介「……高橋啓介だ。その名前、覚えとくぜ。……確かに、お前があの時のパンダトレノみてぇだな。まさかドライバーがお前みたいな奴だとは思わなかったが……ここに来てこうして車を並べたって事は何をするかは当然分かってんだろうな?」

 

拓海「まぁ………はい」

 

啓介「何だよそのハッキリしねぇ感じは……まぁいいや、とにかくやるぞ。……史浩、そろそろ時間だ。カウント頼む」

 

史浩「あぁ、分かった」

 

史浩の返事を聞き届けた啓介がFDに乗り込む。

続いて拓海もハチロクのシートに座りいつでも発進できる様に準備する。

 

慧音「さて……手筈通り、答え合わせと行こうじゃないか。……髙橋涼介」

 

涼介「あぁ、そうだな。俺たちも行くとしよう。啓介が負けたと言っていたあのハチロクの走り、見せてもらおうか」

 

その様子を見届けた慧音は涼介を伴ってあらかじめ近くに止めてあった自身のインプレッサへと歩いていく。

 

斉藤「あれ?涼介さん?」

 

竹原「どこか行くんですか?」

 

涼介「そう言えばお前たちにはまだ言ってなかったな。……なに、このバトルを記録するカメラカーを走らせるだけだ。……ついでに、俺はそれを特等席から見させてもらう。……改めて聞くが啓介も構わないな?」

 

啓介「あぁ、大丈夫だ」

 

慧音「拓海くんで良かったかな?君はどうだ?」

 

拓海「別に、それくらいならいいですけど……」

 

慧音「そうか。なら行こうか」

 

涼介は慧音と共に彼女のインプレッサに乗り込んだ。

慧音は運転席に座るとドアを閉めエンジンを回す。

腹の底に響く様な低音の強い水平対向エンジンのサウンドが周囲の視線を一瞬引きつけた。

慧音は隣に座る涼介がシートベルトをつける様子を横目に確認しつつ自分もそれを装着し、周辺に視線を配り安全を確認したのちに車を動かしてハチロクとFDの後ろに待機させた。

 

ファンタジア側からの提案により、涼介を乗せた慧音が一定の間隔を保ちながら追走し2人の走りを記録する。

交流会を控えたある日にファンタジア側から出された提案に、高橋涼介本人が乗った形だ。

 

ギャラリー5「なんだ?髙橋涼介がファンタジアのインプに乗り込んだぞ」

 

ギャラリー6「しかも居るのは運転席じゃなくて助手席だ」

 

ギャラリー7「FDとハチロクの後ろに付いた。追いかけるつもりだぞ」

 

ギャラリー8「でも運転するのはファンタジアの女の方なんだろ?インプレッサならドンガメのハチロクは余裕だろうが、高橋啓介のFDは無理だぜ」

 

ギャラリー6「それにしてもあのハチロク、覇気なさすぎだろ。カメラカーにすら置いていかれるんじゃないか?」

 

ギャラリー5「お、おいそれは思ってても言わないのがマナーって奴だぜ」

 

翔一「カメラカーが後ろにつくんだってさ。本当に、何かの収録みたいになってきたよな」

 

滋「うん。よく見るとダッシュカムがあるな」

 

隆春「FDも本気なら、あのインプもインプでやる気十分って感じだよ」

 

池谷「レッドサンズは高橋啓介が、ファンタジアははたてちゃんが、拓海かその親父さんに千切られてるらしいんだ。レッドサンズとファンタジアは、恐らくその走りの秘密に興味があるってところだろう」

 

健二「あぁ、俺ら以外の2チームは、メンバーの敵討ちだって視野に入れて動いてるかもしれないし、あのハチロクの件に関しては利害が一致してると思うからな……」

 

なんの苦もなくFDがハチロクを千切って終わりそうな、とても撮る価値があるとは思えない2人のバトルを撮影するというファンタジアとレッドサンズのやり方に、ギャラリーたちがどよめいた。

涼介は助手席の窓越しに視線で史浩に合図を送る。

史浩が2台の間に立ってカウントダウンを始めた。

 

 

 

♪ 1 2 3 4 FIRE / FAST WAY

 

 

 

史浩「じゃあ、カウント始めるぞ!」

 

その言葉にギャラリーたちの視線が2台に突き刺さる。

 

史浩「……5秒前!……4……」

 

カウントの数字が進むにつれ、加速度的に周囲一帯の緊張感が増していく。

 

史浩「3……2……1……」

 

史浩「……GO!」

 

ついに2台が走り出す。

まずは高橋啓介のFDがホイールスピンをさせながら飛ぶように加速していき開幕からハチロクを置き去りにせんとスタートダッシュを決める。

ハチロクは出足で遅れてしまい大きくリードを許してしまう。

そのハチロクの背後に乗用車1.5台から2台分の車間を開けて青のインプレッサがアクセル開度を調節しながらついていく。

 

池谷「拓海……頼むぞ」

 

イツキ「拓海ぃ……絶対に無事に帰ってこいよ……」

 

コーナーの奥に消えていくテールランプの光を、池谷たちは黙って見送った。

走り出せばもう待ったはかけられない。

時計の針は巻き戻せない。

彼らにはただ拓海を信じることしかできなかった。

 

 

 

啓介(直線で千切るのは不本意だがこれはタイムアタック。オーバー350の馬力を全開にしてストレートでマージンをキッチリ稼ぐ。そして国産最高クラスのコーナリングマシンでもあるFDが、コーナーも制する!……この日のために徹底的に走り込んでタイヤも変えた。マシンも俺自身もコンディションは万全に仕上げてきたと自負してる!もう負ける要素は何一つねぇ!このままぶっちぎってやる!)

 

1コーナー、さっそく高橋啓介が見せつけるようにブレーキングドリフト決めて走り去る。

 

ギャラリー10「うわ!FD超絶はえぇ!」

 

ギャラリー11「クラッチミートもばっちりだし、クリッピングもいい感じ!やっぱり上手ぇよ高橋啓介は!」

 

ギャラリー12「だよな……あのブレーキングドリフト、流石だよ。啓介のFDに比べりゃハチロクなんか止まって見え……は?」

 

ここでギャラリーの1人が異変に気付く。

後ろに続くハチロクと先ほどトランシーバーを持った計測員が話していたカメラカーらしいインプレッサが減速しないのである。

そして2台は動揺するギャラリーをよそに、そのまま殆ど減速せずにコーナーに侵入。

ハチロクはサイドブレーキを使わないブレーキングドリフトで、インプレッサはゼロカウンタードリフトで一定の間隔を保ったまま抜けていきさらに奥のコーナーへとFDを追いかけ消えていった。

 

ギャラリー11「な、何だ今のハチロク!すげぇドリフト!」

 

ギャラリー12「とんでもねぇ進入スピードでケツ振りながら入ってきて、そのまま抜けて消えてったぞ!」

 

ギャラリー13「あんなスーパードリフト、俺見たことねぇよ……。ガードレールまで拳一個分もなかったんじゃないか……?あんな数センチ単位のコントロール、相当な度胸と腕がなきゃ無理だ!」

 

ギャラリー11「あぁ、ぶつかるかと思ったぜ……。見てるこっちの肝が冷えちまった。……ハンパねぇよあいつ。俺だって地元の大垂水でアレやれって言われても出来る自信がねぇ……」

 

ギャラリー12「今のやつ、俺たちの考えてるドリフトとは、なんかちげぇ感じ……なんて言ったら良いのか分からないけど、とにかくかっけぇ……」

 

ギャラリー10「そんであのすげぇコーナリングについてくファンタジアのインプもやべぇよ……。あいつら何モンだぁ?すげぇ走りだぞ」

 

 

 

そしてハチロクの後を追うインプレッサの中では髙橋涼介と慧音が目の前の光景について言葉を交わしていた。

 

涼介「確かにマシンのパワー自体はそれほどではないな。スタートダッシュを見る限り精々150あればいい方だ。啓介の言うモンスターマシンには程遠い」

 

慧音「シフトポイントの速さはギヤをクロスレシオ化させているからだな。社外のクロスギヤセットを組んでいるのか、それともミッション自体を換装しているのか、その辺は分からないが……」

 

涼介「このハチロクなら、恐らくはラリー用のクロスミッションか何かを組んでいるんだろう」

 

慧音「なるほどな。それなら2速がこの秋名のタイトなコーナーに上手いこと噛み合うか。よく考えられている」

 

涼介「あぁ、しかし凄まじいな。まさかこれだけの若さでここまでの走りが出来る奴が秋名にいるとは……。やはりモンスターなのはマシンではなくドライバー……というわけか」

 

慧音「同感だ。私もまさか彼がこれほどまでの凄腕とは思わなかったよ。人は見かけによらないものだな」

 

涼介「あぁ……しかし、この走りを見るに見かけによらず運転の経験自体はかなりありそうだ。随所にモータースポーツの技術の片鱗は見えるが、それだけでは説明が上手くつかないな」

 

慧音「この走り方は秋名の峠に最適化されているように思える。無駄な減速をしない突っ込み重視のラインの取り方には相当な慣れを感じさせるし、コーナー手前での姿勢作りもなかなか素早く正確だ。この峠のコーナー1つ1つを熟知していなければ、ここまでの迷いのない走りは不可能だ。恐らくは、免許を取る前から……」

 

涼介「つまり、無免時代からここの峠をかなりの頻度で走り込んでいた可能性が高いというわけか……。確かにそういう奴も居るには居るが……」

 

そう言いつつも、涼介はおもむろに隣でこのインプレッサを運転する女性に視線を向ける。

ストレートは当然ながら、コーナリングでさえこのハチロクに涼しい顔をしながらついていく彼女に対しても同時に戦慄を覚えていた。

 

涼介(目の前のハチロクも凄まじいが、隣のコイツも大した奴だ。これほど驚異的なハイペースでダウンヒルを攻める軽量なハチロクに、より重いGDBを難なく追従させている……。マシンのチューンもさることながら、経験を含めた総合的な技量は相当なものだろう)

 

慧音「さて、そろそろハチロクが追いつくぞ」

 

慧音のその言葉に涼介は再び意識を前方へと向ける。

くだんのハチロクは2人の目の前で序盤からかなりの追い上げを見せていた。

わずかな直線区間で差が開くもコーナーでそれ以上の距離を一気に挽回し追い縋る。

ついには前方を走る啓介のFDを捉える。

 

 

 

一方で、先頭を走る啓介はどれだけ必死になって攻めても一向に千切れずむしろ食らいついて離れないハチロクを相手に焦りを感じていた。

 

啓介「くそっ!ハチロクが追いついてきやがったのか!ありえねぇ!(何だってんだ!何が起きてんだ!気がどうにかなりそうだぜ!)」

 

啓介(世代遅れのボロハチロクに出来て、このFDに出来ねぇ事なんか何もねぇ筈なんだ!)

 

左右へ蛇行する区間、右ヘアピンをドリフトで抜けて今度は左へ。

インを攻めて並んだまま抜けていく2台にギャラリーたちが歓声をあげる。

 

ギャラリー14「おぉ!何だありゃあ!3台連なって突っ込んでくるぞ!」

 

ギャラリー15「やべぇぞ!あのハチロク、すげぇ上手い!高橋啓介をビッタビタに煽ってやがる!軽量ローパワーの旧型車でパワーに勝るより新しい車を煽り散らすなんて走り屋として最高に渋いぜ!」

 

ギャラリー16「信じらんねぇ!みんなすげぇはえぇ!このバトルめっちゃレベルたけぇぞ!」

 

ギャラリー15「マジで今日来て良かった……鳥肌立ったぜ」

 

ギャラリー17「赤城最速の高橋啓介がコーナーで煽られてるなんて……あのハチロク何なんだぁ!?」

 

ギャラリー18「あいつ誰だ!?知ってるやついるか!」

 

ギャラリー15「わかんねぇ!見たことねぇ!あんな奴が秋名にいたのか!?」

 

序盤の見せ場である2連ヘアピンを抜け、3台分のサウンドが峠を駆け下りる。

先に待ち構えるのは秋名のダウンヒルにおいて最高速をマークするスケートリンク前ストレート。

ここで高橋啓介は一気にアクセルを踏み込んだ。

ターボパワーが炸裂し、車を前に蹴飛ばす様に加速させてハチロクに一気に差をつけようとする。

 

 

 

その頃、スタート地点の駐車場。

 

マーシャル1《こちら第一セクション中継地点、スケートリンク前ストレート!スタート地点聞こえるか!》

 

史浩「こちらスタート地点、どうした?」

 

マーシャル1《すげぇことが起きてるぞ!今目の前を撮影車含めて3台通過したんだが、啓介がビタビタに煽られてた!秋名代表のハチロクバカっ速!》

 

史浩「なにぃ!」

 

イツキ「えぇぇぇ!!」

 

池谷「はぁ!?」

 

ケンタ「なッ……?!啓介さんが!?」

 

ヤマメ「拓海くん……。まさか本当に……」

 

ギャラリー19「あの高橋啓介が煽られてるだぁ!?」

 

ギャラリー20「それもあんな冴えないハチロクにぃ!?」

 

コース脇に立つマーシャルの通信から伝わってくる情報に、場は騒然となる。

特に啓介の速さに惚れ込みまるでアニキ分の様に慕っているケンタは、完全に予想外であった啓介の苦戦という一報に、開いた口が塞がらないと言った感じで呆然としていた。

 

マーシャル1《見た限り、パワーはFDが圧倒してるからこのストレートでまた差を付けられると思うけど、この後は途中で少しの中高速セクションがある以外はタイトなコーナーの連続だ。これは不味いんじゃないか!?と、とにかく……こっちからは以上だ、通信終わり!》

 

そこで通信が途切れるとあたりが水を打ったような静寂に包まれる。

 

ヤマメ(高橋啓介は確かに荒削りなところがあるけど、でも決して下手ではなかった。赤城最速という触れ込みも、おそらく間違いではない。練習期間中、私自身が後を追ってその実力は確かめているし、はたてだって認めていた。……でも、その啓介のFDをパワーの劣るハチロクでこれほどまで追い詰めてるなんて……。ストレート到達前の時点で煽られるほど詰められてるのなら、啓介には悪いけどこの時点で啓介の勝ち目はほぼない。この勝負は拓海くんの勝ちね)

 

周囲が再びどよめき出す中で、ヤマメは静かに拓海の勝ちを確信していた。

そして、その計算高い狩人の頭脳はその先のこともまた見据えていた。

 

ヤマメ(……でもね、だからこそ……私も気になってきちゃったかな、拓海くんのこと……。これなら、外の世界での標的は拓海くんで決まりかな?)

 

ヤマメは不敵に口元を吊り上げほくそ笑む。

その顔は普段の気立ての良い少女のそれではなく、獲物を狙う妖怪のそれとなっていた。

 




はい、今回も2万字2分割です。
その代わり次回の更新は少し早めに出来そうです。
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