東方頭文字D 〜 Lunatic Stage 〜   作:D-Ⅸ

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【祝】5555UA突破しました!これまで応援してくださった読者の皆様、ありがとうございます!今後とも本作をよろしくお願いします!



ナズ「ところで、前回は最後に健二くんが作者に噛み付いてたけど、出番カットされてるのは私も同じなんだよね」

作者「2人の見せ場については今後考えとくからマジで許して。番外編でも閑話でも何でも書くから!」



今回は最後にアンケートを実施しています。
そして幻想郷側の中でも上から数えた方が速いヤマメの大まかな実力が今回のバトルで明かされます。

リクエスト(キャラ、車両、エピソード等問わず)はまだまだ募集中です。
感想や評価、または誤字誤植の指摘等もよろしくお願いします。



第17話 伝説の夜、三つ巴のタイムアタック(後編)

 

秋名山で行われた走り屋たちの一大イベントであるこの交流会もいよいよ佳境へと差し掛かる。

メインイベントであるダウンヒルバトルは初戦のレッドサンズ対スピードスターズ戦から衝撃の展開の連続で、当初のギャラリーたちの予想を覆してAE86を駆るスピードスターズの助っ人が高橋啓介のFDに大差をつけて圧勝。

このとんでもない大番狂せは見る人を熱狂させ、当の本人である拓海は一躍注目の的となる。

 

その後はファンタジアの代表メンバーであるナズーリンがNBロードスターでスピードスターズの健二が乗る180SXを相手に大勝を収めたことで、いよいよ最後の一戦、高橋啓介VS黒谷ヤマメのFD使い同士の対決を残すのみとなった。

 

このバトルで勝たなければレッドサンズはダウンヒルを全て落としてしまい、なおかつファンタジアのパーフェクトゲームを許してしまうことになる。

そのためレッドサンズメンバーや、その応援のために駆けつけたギャラリーや追っかけたちの中にはピリピリとした緊張感が漂っていた。

 

 

 

ケンタ「まさか……今でも信じられねぇけど、あのハチロクが啓介さんに勝っちまうなんて……」

 

芳樹「俺も正直信じらんねぇよ。でも啓介も涼介も認めてる以上は俺らだって受け入れないとだろ。気持ちはわかるけどさ」

 

尚子「まぁ、そうだよね。……でもこれかなり不味い状況なんじゃない?だってウチらもう後ないよ。しかもよりにもよって相手はあのヤマメちゃん。ハチロク戦のショックがある今の啓介じゃあ……」

 

芳樹「……厳しい、か。……かと言って俺らが走るわけにもいかねぇよな。それは啓介自身が許さねぇだろ」

 

その言葉に他のメンバーも頷く。

視線の先にはスタート地点に並ぶ2台のFDの姿があった。

ワンオフのハイマウントタイプのウィングにマツダスピード製エアロを合わせ、先ほど交換したばかりのホイールとタイヤが眩しい高橋啓介の黄色いFDと、R magic 製ワイドボディキットとワンオフ品を含むカーボンパーツが特徴の黒谷ヤマメの黒いFDだ。

それぞれのFDの傍らに立つのはそのオーナーである高橋啓介と黒谷ヤマメ。

 

彼ら彼女らにとって、一方は自分たちのチームのサブリーダー的なポジションのエースであり、もう一方はライバルチームの選抜メンバーだった。

同じメーカーの同じ車種に乗る2人ではあるが、しかし両者の様子は大きく違っていた。

表情を強張らせて額に脂汗を滲ませている啓介に対し、ヤマメはほとんど自然体といった感じであり、彼女にラブコールを飛ばしながら手を振るイツキに笑顔で手を振りかえす余裕すら見せていた。

 

啓介「こんなに早くお前とバトルできる日が来るとは思わなかったぜ。同じFD乗りとして、負けられねぇな」

 

ヤマメ「負けられないのは私も同じだよ。啓介に勝ってこの子が最速のFDだって証明するの」

 

啓介「……残念だが、そいつは無理だな。勝つのは俺と、俺のFDだ」

 

ヤマメ「やってみなきゃ分からないでしょ?チームの代表メンバーの地位を実力でもぎ取った私の走り、見せてあげる」

 

そう言い合うとお互いの車に乗り込んだ。

まもなく始まるバトルへの期待を胸に宿した大勢のギャラリーたちの視線が主役の2台に突き刺さる。

 

 

 

 

 

♪ Spider’s blood / A-One

 

 

 

 

 

ギャラリー1「いよいよ始まるぞ!ラストバトルが」

 

ギャラリー2「高橋啓介はタイヤ1セット丸々交換して気合い入ってるな。さっきの負けをFD同士のバトルで取り戻すつもりだ」

 

赤城の走り屋1「今度こそ勝ってくれよ啓介!このFD対決は絶対に負けられないだろ!」

 

ギャラリー3「俺はファンタジアを応援するぞ!」

 

ギャラリー4「あぁ、レッドサンズに負けた先輩の敵討ち!期待せずにはいられねぇ!」

 

ダウンヒル第一戦の余韻が残る中での最終戦。

そのカウントダウンがついに始まった。

カウントを担当するのはスピードスターズの健二だ。

 

健二「カウント始めるぞ!……5……4……」

 

厳しい戦いの予感にレッドサンズ側の表情が一段と強張る。

 

健二「3……2……1……」

 

スピードスターズやファンタジアのメンバー、ギャラリーたちもただ一言も発さず2台を見守る。

 

翔一「GO!」

 

 

 

カウントが0となり、2台のFDがスキール音混じりのロータリーサウンドを轟かせて走り出す。

 

ギャラリー1「飛び出してったぞ!2台ともスタートダッシュばっちりだ!」

 

ギャラリー3「どっちが先行だ!」

 

ギャラリー2「高橋啓介だ!」

 

多くの走り屋やギャラリーが固唾を飲んで見守る中、鼻先を出し先頭に踊り出たのは啓介が駆るFDだった。

ヤマメはほんのわずかにアクセルを弱めて啓介の後ろに張り付いた。

 

啓介(まず先頭は抑えたか。ならこのまま逃げ切るだけだ!ハチロク相手に負けた分をここで取り返す!チームのためにも俺自身のためにもここは絶対に勝つ!)

 

ヤマメ(後ろに付けた。あとはいつも通りに狩るだけ……勝たせてもらうよ)

 

啓介が先行しヤマメが後追いの形となって、まずは1コーナーに突っ込んでいく。

2台のテールランプがコーナーの先に消えていき、エキゾーストサウンドも遠ざかる。

 

 

 

池谷「走り出しのパワー勝負は高橋啓介が勝ったか。こっから先、後追いのヤマメちゃんがどれだけ食らいつけるかってところだな」

 

守「でも、パワーで劣る以上はコーナリングで勝負をするしかないけど……あの高橋啓介が相手ともなれば同じFDでも厳しいよ」

 

滋「俺も聞いててよく分からなかったんだけど、さっきの拓海の時みたいに地元スペシャルっぽい奥の手的なトリックがある訳でもないし、無免時代からの秋名の経験値がある訳でもない以上、勝つのは難しいんじゃないか?」

 

初動を見て池谷はヤマメの方が馬力に劣ると考えて他のスピードスターズメンバーがヤマメの不利を予想するが、しかし涼介たちはそれにすかさず異を唱えた。

 

涼介「いや、練習期間中に見させてもらったが、彼女のFDは軽く見ても啓介と同じ360馬力には届いているだろう。仮に馬力やトルクの面ではほぼ互角だと仮定しても、軽量化チューンが効いている彼女のFDの方がパワーウェイトレシオに関しては上だ。先行を啓介に譲ったのは、間違いなく戦略によるものだ」

 

アリス「えぇ、彼女のFDはビッグシングルタービン仕様で最低でも350馬力以上、少々高めに見積もって380馬力の手前程度は恐らくあるわ。加速勝負はほぼ互角かわずかに上よ。前に出ようと思えば、容易く前に出れたわ」

 

涼介の言葉を肯定するようにアリスが補足する。

 

イツキ「でも、パワーがあるならそのまま頭抑えて逃げちゃえばいいだろ?何でわざわざ後ろについたんだ?」

 

しかしそれにイツキは納得がいかないようで、思わず疑問を口にする。

 

妹紅「パワーの有利に任せて頭抑えてそのまま千切っても勝ったとは言えないってのもあるんだが、主にアイツの走りのスタイルの問題だな。彼女は後追いの方が得意なんだ。あんなムードメーカーみたいな態度に無害そうなツラをしてても、いざバトルとなればヤマメは意外と性格の悪い戦い方をするよ」

 

椛「馬力に任せて逃げ切りを狙うよりも、馬力に多少の差はあっても初動で調整を効かせて自分が後追いになるようにする。詳しくは言わないけれど、自分の腕に自信がなければできない戦い方なんだ。……あれに引っかかると思いっきりペースを崩されて思うように走れなくなる。一度私も黒星をつけられた」

 

涼介「後追いには後追いの戦い方というものがあるからな。俺だって先行を相手に譲ってから隙を突いて抜かしにかかるというやり方は知っているし、実際に何度もやったことがある。別に珍しいものではないさ」

 

藍「まぁ、そういうやり方があるとでも思っておけば十分だな。ヤマメの場合は他の走り屋とは一味違うというだけで、一応似たようなものではあるとは言える」

 

依然として釈然とはしないものの、走り屋としてのキャリアもあって自分よりも圧倒的に博識で腕の立つ面々にそう言われてしまえば、イツキはそれ以上なにも言えなかった。

 

幽々子「彼女はトップエースの2人には及ばずとも、チーム内ではそれに準ずるベストメンバーに入るほどの走り屋よ」

 

慧音「そんな彼女を相手にどれだけ持つか、見させてもらうよ」

 

その言葉に涼介は難しそうに眉をひそめた。

 

涼介「……分かってはいたことだが、マシンも十分仕上がっていてそれに自分なりに戦術を考えるだけの賢さも、それを確実に実行するだけの腕もある……か。センス一本の今の啓介では分が悪いのは事実だろうな。勝ち目は多くても三割あればいいか」

 

史浩「え?涼介……ここでも啓介が負けるかもしれないって言うのか!?だったら何で……」

 

涼介「啓介はこれまで才能のみに頼りきりでも勝ち続けていた。だから不利な条件の中で必死に策を考えて活路を見出すという様な経験を啓介はして来なかった。だからこそ、走らせてみることにしたんだ。たとえ負けるかもしれないと言うリスクを背負ってでも、そう言う強敵とのバトルは経験しておくべきだ。今回のダウンヒルの2戦は、そのちょうど良い機会だと思ったんだ」

 

影狼「あら、身内が走ってるっていうのに意外とドライなのね。よりにもよって負けるかもだなんて言うとは思わなかったわ」

 

涼介「この際だから言っておくが、ハチロクの時もそうだがこの交流会で啓介を走らせた最大の目的は経験と成長だ。……啓介はともかく俺としてはこのバトルの勝敗にはそれほど執着してはいないんだ。今回のハチロクやFDとのバトルで啓介が得られるものは、勝ち負けに関わらず多いだろう。速い奴と共に走る事、そこから学びを得て自分の走りにフィードバックすることこそが、成長への何よりの近道だからな(それに勝ちが続くと油断や驕りに繋がる。むしろある程度の敗北を経験した方がプラスに働くこともある。特に啓介のような負けん気の強い奴ほどな)」

 

幽香「……そう言うものなのね」

 

涼介「あぁ、それに、彼女の車も同じFDだろう。同じ車種を扱う走り屋の中に新しいライバルができるのならば、ハチロクの時とはまた違った意味での刺激にもなる。そうやって影響し合う関係の奴がいれば、いい意味での化学反応もお互い期待できる」

 

このバトルに関して、涼介の意識は常に弟の成長を促す方へと向いていることを理解した。

純粋にバトルを楽しんでいる啓介本人やヤマメとは違い、涼介はあくまで監督やコーチとしてここにいるのだ。

 

涼介(負けたら負けたで得るものはあるさ。それも今の増長してしまった啓介にとってはいい薬になるはずだ。ただし……その負けた分の借りは、いずれは俺のFCで返させてもらうつもりだがな)

 

高橋涼介とは結果的にそれが弟のためとなるならば、負けるかもしれない、むしろ負ける確率のほうが高いかもしれないバトルに平気で送り出すような人間であった。

ある意味では冷徹にすら感じられるが、その根底にあるのは走りの世界に身を投じた弟の成長を願う、不器用ながらもひたすらに純粋な心があった。

しかし、それでいながら負けたままでは終われないと、弟の仇打ちを兼ねて自らのFCを走らせる事もまた考えていた。

 

突如として現れた秋名のダウンヒルスペシャリスト『秋名のハチロク』と、その正体が謎に包まれたミステリアスな凄腕揃いのレディース走り屋集団『チーム・ファンタジア』。

『赤城の白い彗星』と呼ばれた北関東最速のカリスマ、髙橋涼介が彼ら彼女らとぶつかる日はそう遠くは無いのかもしれない。

 

 

 

 

● ● ● ●

 

 

 

 

 

ギャラリー4「来た!接戦だ!すげぇ腕だぜ2人とも!」

 

ギャラリー5「頑張れヤマメちゃん!レッドサンズなんかに負けんなよ!」

 

ギャラリー6「啓介行け!逃げ切れ!そのままぶっちぎれ!」

 

一方で、バトルに興じる2台のFDは煽るヤマメに煽られる啓介という構図で戦況が膠着しだす。

 

啓介「やっぱりついてくるかよ!分かっていたつもりだが、大した奴だぜ(頭押さえたのは良いが振り切るまでは行かないか。むしろピッタリくっついて離れねぇ。マシンの総合スペックに大差がないからな、ハチロクみたいに直線で突き放してマージンを稼ぐことができない以上、コーナーワークだけで勝つ必要があるか)」

 

ヤマメ(八雲の2人からも徹底的にやってくれても構わないと言われてるし、バトルとなれば手加減なんかしない。……さて、私のFDの方が速いってこと、教えてあげる)

 

ギャラリー7「来たぞ!2台くっ付いてるみたいにビタビタだぁ!」

 

ギャラリー8「そのまま突っ込んでくるぞ!」

 

ヤマメは迫る前半第2ヘアピンで早速ギャラリーに見せつけるように啓介と並んで突っ込んだ!

 

ギャラリー9「な……す、すげぇ!FD同士のビタ付けのパラレルドリフトだ!マジかよ!」

 

ギャラリー7「ガッツリ寄せてそのまま抜けやがった!」

 

ギャラリー8「あの黒いFD何もんだ!2台連なってのドリフトは前走よりも真横で合わせる追走の方が圧倒的に高難易度なんだぞ!ましてやそれを涼介さん以外がやってみせるなんて……!」

 

ギャラリー9「しかもタイムアタックの途中に即席でやるなんて何考えてんだ!」

 

ギャラリー7「確か、金髪の若い子だったけど、まさかこんなとんでもねぇ奴だとは思わなかったぜ」

 

ロータリーサウンドを響かせ次のコーナーへと消えていく2台を見送るギャラリーたち。

ハチロクの時とはまた違った驚きが場を支配していた。

 

 

 

コース前半、2連ヘアピン手前。

黄色と黒の2台がピッタリくっ付いたまま駆け抜ける。

 

コーナーでは好き勝手に煽られまくり、直線では得意のベタ踏み加速でも突き放せない。

啓介は早くも焦りを感じていた。

 

啓介にとって、ハチロク戦は圧倒的な経験値とテクニックに基づくコーナーワークの暴力で殴り付けられたように感じられたバトルだったが、このFD戦ではマシンの性能とテクニックの両面で劣る様を見せつけられているように感じられた。

また、ハチロクには「FDに対して速力で圧倒的に劣る」と言う覆しようのない弱点があった都合上、限られた箇所でしか仕掛けることが出来なかったが、彼女のFDは違う。

速力も含めたマシンの総合力でハチロクを圧倒し啓介のFDすらも上回る性能を発揮する彼女のFDは、ドライバーである彼女自身の優れたテクニックもあり、いつでも自分を仕留めることが出来ることを啓介に対して常時訴え続けている。

それはハチロクの時とはまた異なる、それ以上の恐ろしいまでのプレッシャーを啓介に与えていた。

 

啓介「クソ!さっきからおちょくりやがって!ハチロクの野郎も大概だがコイツもコイツで腹立つぜ!(まるでアニキみたいにガッツリ超至近距離まで寄せてきやがってヒヤヒヤもんだ!こっちは削れるもん削って限界ギリギリの全力で走ってんだぞ!なのにアイツは余裕ぶっこいてるのが丸わかりだ!)」

 

今まで決して自分の前を走ろうとしなかったこのFDの少女の、練習走行の際には鳴りを潜めていた本来の走りに啓介は終始驚かされっぱなしであり、その隠されていた本性に対して恐怖すら感じていた。

背中を焦がす様なそのプレッシャーのせいか、ステアリングを握る手が普段よりも汗ばんでいるのを感じるも、その原因となっている相手の黒いFDは啓介を攻め立てる手を一切緩めるつもりはないようだった。

 

啓介(純粋な走り屋としてのテクニックじゃハチロクに負けて、同じFDを走らせても今度はコイツに負けるってのかよ!畜生!こんな屈辱初めてだぜ!)

 

 

2連ヘアピンを難なくパスして2台はスケートリンク前ストレートに差し掛かる。

ヤマメがアウト側に寄せる素振りを見せれば啓介がそれをブロックする様に寄せていき、それを見たヤマメが今度はイン側に付こうと車体をずらせば啓介も張り合う様にインを塞ぐ。

長い様で短いこのストレートでフェイントを掛け合う様な攻防に、一方のヤマメはほくそ笑んでいた。

 

ヤマメ(やっぱり。こっちが少し仕掛けるフリをするだけで、タイヤの負荷を度外視しした様なオーバーリアクションで張り合ってくる。こっちの動きに釣られて、本来の走りを完全に見失ってる。そんな走りじゃ、最後までタイヤがもたないよ)

 

彼女の考える通り、啓介はヤマメの走りに意識を引っ張られすぎていた。

対戦相手ばかりに気を取られすぎているあまり、自分の走りが疎かになってしまい、なおかつ自身ではそれに気が付かないという状態に陥っていた。

 

相手が持つ本来の走りに集中させず、後ろを走る自分に意識を割かせる事で、自分が起こす小さなアクションに対して相手が過敏に、かつ過剰に反応する様になる。

そうしてタイヤやブレーキのマネジメントを失敗させたりライン構築やペース配分を誤らせる事で致命となる隙を生じさせ、そこをこじ開け仕留める。

プレッシャーという名の糸で相手の心を絡め取り、ミスという名の毒を蓄積させ、敗北という名の死を与える。

それこそがヤマメの編み出した戦い方だった。

 

プレッシャーに対する耐性の無さと言う弱点を抱える啓介にとって、プレッシャーを与えることに長けているヤマメは、まさに天敵と言えた。

 

ヤマメ(それに、元々荒さのあった操作がさらに雑になっているのを感じるね。立ち上がりでアクセルを踏むタイミングが早め早めになっているから姿勢が安定しきらないうちから加速しようとしてタイヤが暴れそうになっているわ。それをステアリングをこじって修正して、無理やり整えてるからタイヤへの負担はより大きくなる。これじゃあ後半の勾配がきつい連続ヘアピンのあたりで完全にタイヤが熱ダレを起こしてしまう)

 

ヤマメの目の前には、小さなミスを繰り返し続けてロスを積み重ねる啓介のFDの姿があった。

 

 

 

思い通りにならない試合展開に、思わず歯ぎしりをする啓介。

背中をどっしりと湿らせる冷や汗が自らの窮地を否応なしに自覚させる。

ルームミラーを照らすそのFDの固定式ライトが、啓介には獲物を狙う毒蜘蛛の眼光の様に思えてならなかった。

 

まだコースも半分だと言うのに何度も何度も煽られ、詰められ、攻められて、いつどこから抜かれるかも分からない。

そんな常に気を張り詰めていなければならない極限の環境下とハチロク戦での敗北によって、もう絶対にチームとしても個人としても負けが許されないと言う重圧により啓介の精神は徐々に蝕まれていく。

 

何が何だか分からない、幽霊のように得体の知れないハチロクとは違う、明確に「狩る」という意思を激しくぶつけ続けてくる黒いFDに対して、啓介は今だかつてない重苦しさを感じていた。

 

迫るストレート終点のブレーキング勝負。

啓介は恐怖を振り払い覚悟を決める。

限界ギリギリまでアクセルを踏む時間を長くしてブレーキングは出来る限り奥にする。

ハチロクの時のようなマージンがない以上は、ここが正念場となる事くらいは啓介にも分かっていた。

 

そして、それは観戦する側のギャラリーたちにとっても同じ事だった。

対戦する車同士が同じマシンである以上はスペックの差は小さい。

啓介が優勢と見る向きもあったが多くは先ほどのハチロクに対する敗北を踏まえて、抜きつ抜かれつの互角に近い差し合いになるとの予想がされ、もつれたままこのストレートを駆け抜けてくると考える者は相当に多かった。

走り屋たちにとっては見せ場であり、ギャラリーたちにとっての名物として知られるこのストレートは必然的に多くの人の目を集める事となった。

 

ギャラリー8「見えたぞ!高橋啓介が先行!だがファンタジアも負けてねぇ!」

 

ギャラリー9「すげぇ近いぞ!ビッタビタだぁ!」

 

ギャラリー10「来た来た!同じマシン同士の拮抗したバトルなんてこんな美味しいもんなかなか見れるもんじゃねぇ!」

 

コーナーへと近づく両者、そしてそれを見守るギャラリーたち。

コーナーへ突入する寸前、その0.1秒や0.2秒のほんの僅かな時間がとてつもなく長く感じる。

両者のブレーキングの直前、誰かが唾を飲む音が聞こえる。

 

啓介(……今だ!)

 

ヤマメ(……そこ!)

 

2台ほぼ同時、全力のフルブレーキング!

啓介はありったけの力でブレーキペダルを底付きさせる勢いで踏み抜き、ヤマメはブレーキペダルを『一瞬のうちに2度』ガツンと蹴り付けた。

 

そしてその軽さを活かし、ヤマメは啓介に先んじる形で鼻先をコーナーのインに捩じ込み、そのままインベタギリギリを狙って刺し貫く。

 

ギャラリー8「さ、刺した!黒いFDがインを刺した!」

 

啓介「まずったか!」

 

一瞬のうちにインを掻っ攫われてさらに鼻先を前に出された以上、啓介はドリフトのラインも制限されてしまう。

アウト側に追いやられた啓介は立ち上がりでだけはなんとか追い縋ろうとするも、そこで自身の犯したミスに気がつく。

 

啓介(まずい!ブレーキングばかり意識しすぎて回転数の管理をミスった!ターボの息継ぎで立ち上がりがもたついて伸びねぇ!)

 

啓介のFDに搭載されている純正シーケンシャルツインターボは、低回転領域ではプライマリーを、中回転から高回転にかけてはプライマリーとセカンダリーを両方回すことでターボ車特有の弱点でもあるターボラグを克服しようと設計されたシステムであるのだが、実はそのターボの切り替え時にブースト圧が減じてタービンが回らなくなりトルクが落ち込むと言う致命的な欠点がある。

 

本来であればそれをシフトダウンや左足ブレーキなどの技法によって回転数の管理をして常に高回転域を維持することにより誤魔化してやる必要があるのだが、啓介は目の前のブレーキング勝負にのみ意識を割かれてしまっていたがためにその回転数の管理を疎かにしてしまっていた。

そのためそのトルクの谷に嵌り込んだ啓介のFDは、立ち上がりでそのトルクの谷の無いヤマメのシングルタービン仕様のFDに対して遅れをとってしまう。

 

しかし、気がついた時には後の祭り。

既にヤマメのFDは啓介の前に躍り出て大きくリードしていた。

 

ギャラリー10「な……!高橋啓介がまた抜かれた!?」

 

ギャラリー11「信じられねぇ!本当に抜きやがった!あの黒いのすげぇ!」

 

啓介「チッ……!(マズイ!同じロータリー使いのプライドにかけても絶対に負けるわけにはいかないってのに、このザマかよ!)」

 

啓介(だがまだだ……まだ負けが決まったわけじゃない!俺は諦めねぇ!今度こそ、今度こそもう一度抜き返す!)

 

啓介は前を走る黒いFDに対して猛追を開始する。

右左右とうねる様に連続するコーナー群を高速で駆け抜け続くタイトな左ヘアピンをスキール音を鳴らして抜けていく。

盛り上がるギャラリーたちの姿も、今の啓介の視界には入らない。

ただ目の前を走るとんでもないオーラを放つ黒いFDにのみ注がれていた。

そして、直後に訪れるタイトヘアピンを飛び出す頃には、すでにヤマメのFDは啓介の射程圏外へと逃れていた。

 

啓介(クソ!クソ!クソ!なぜだ!俺とアイツらで何が違う!何がダメなんだ!……どうして抜けない!どうして追いつけない!どうしてもっと速く走れない!なぁFD……お前はアイツと同じ車種なんだ!アイツに出来るならお前にだって出来る筈なんだ!頼むFD……!今だけは俺の言うことを聞いてくれ!もう俺には後がないんだよ!アイツには……目の前のアイツにだけは何が何でも負けたくねぇんだ!)

 

必死にハンドルをこじり、ペダルを踏み締め、ただ前を走る影を追う。

しかし、それも長くは続かなかった。

連続ヘアピン最後の第4ヘアピン、タイヤを酷使し続けた啓介のFDがアンダーを出して大きく外に膨らみ大失速。

それと同時に辛うじて見えていたヤマメのテールランプもついには姿を消して完全に千切られてしまう。

 

啓介(クソッタレ!また負けた!今日のダウンヒルで、一度だけじゃなく、二度までも……!すまん、アニキ……)

 

そして、9秒という大差を付けられてゴールをするその瞬間まで、啓介の目はその黒い車体を捉えることは出来なかった。

 




ついに書き切りました。
遅筆も遅筆な自分が何とか1ヶ月以内に書き終えようとあれこれ手を尽くしてギリギリ間に合わせました。
いやぁ、大変でした。
でも、これでいよいよリクエストキャラの登場まで見えてきましたよ。
次の話でようやく一区切りといった感じですかね。
その次に少し間を空けてから次の章の更新を行う予定です。



・アンケート選択肢の補足

『拓海くんイージーモード』
バトルにおける拓海くんの出番が減ります。
原作における拓海くんのバトルの一部をオリキャラ、リクエストを含むゲストキャラ、東方キャラのいずれかが代わりに受ける形となるため拓海くんが楽を出来る一方でバトルによって得られる経験値は原作と比較してやや減ります。

『拓海くんハードモード』
バトルにおける拓海くんの出番が増えます。
難敵とのバトルや不利な条件でのバトル、峠以外のフィールドでのバトルも発生し得るため正直言ってなかなかの茨の道になります。
しかしながら、その困難な道のりも結果的には拓海くんの知識や経験値等にはプラスに働くので拓海くんが原作よりも強くなる可能性もあります。

2023 / 09 / 01 12:53 誤字訂正
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