東方頭文字D 〜 Lunatic Stage 〜   作:D-Ⅸ

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リクエストキャラ第一弾!
どどんと2人登場や!(なお、作者は内心で本当にこんなキャラで良かったのか、こんな書き方で良かったのか分からずガチ悩み中の模様)
もちろん出番はここで終わりではありません。
今後はいつになるかは未定なものの、せっかくマシンとセットで送ってくれた訳だしと、バトルシーンなんかに関しても構想中です。

リクエスト(キャラ、車両、エピソード等問わず)はまだまだ募集中です。
感想や評価、または誤字誤植の指摘等もよろしくお願いします。


第21話 狐の手も借りたい?

 

あのイツキのやらかしから翌日、群馬某所の車好きが集まるという喫茶店。

そこには早朝から今に至るまで、様々な車が入れ替わり立ち替わりで訪れていた。

今も白の100系マークⅡやシルバーの31グロリア、青いGDAインプレッサ、黒いDB8型インテグラのようないかにもな車が集まっていた。

そこへさらに2台、特徴的な見た目の車が入ってくる。

 

1台は人気色のベイサイドブルーのボディに純正オプションのオイルクーラーフィニッシャーがついたフロントバンパーにサイドとリアにはNISMOのエアロを装備したR34GT-R、もう1台は日本では見かけることのないピックアップトラックであるホールデンのVU型ユートの2Jスワップワンオフワイドボディ仕様にAPR 製リアスポイラーを合わせたという奇抜な車だった。

2台はカスタムの王道として知られる鍛造ホイールであるRAYS製TE37を揃って足下に奢っている。

 

道中で合流した2台は並んで駐車場に進入すると、店舗の奥側のグロリアとインテグラの間にある2枠空いているスペースに並べて止める。

 

泊「よう、アキ」

 

秋永「先週ぶりだな、ハク」

 

ユートのドライバーである首からヘッドホンを下げた黒髪の青年の高本泊と、R34GT-Rのドライバーである同じく黒髪だが少し癖のある髪質をしている青年の月宮秋永は、お互い挨拶を交わすと2人並んで喫茶店のドアを潜った。

慣れた様子でアイスカフェオレを注文するとさっそくお互いが知り得た情報や先週ギャラリーをしたバトルについて話していく。

 

先週あった出来事といえば、土曜日にあった秋名山での交流会だが、その交流会以降はハチロク対高橋啓介の衝撃的なバトルの展開と結末や、地元チームとレッドサンズを蹴散らしてワンサイドゲームを展開した謎の強豪レディースチームの正体に至るまで様々な噂話が群馬どころか関東中の峠を席巻していた。

そんな中で、秋永はその独自のツテで昨晩活きの良い話を仕入れてきたためにここで会う約束を取り付けたのだ。

もちろん、電話があるのにわざわざこうしてこの喫茶店を指定したのもここ最近はお互い別行動が続いていた友人の顔をこの機会に見ておきたかったという理由もあった。

 

ここには彼らと同じ様な理由で仲間内で集まったりして話し合う走り屋や車好きたちがそれなりに居た。

この喫茶店を営む白髪混じりの男性も昔は群馬で走り屋をしていたらしく、こうした走り屋や改造車乗りに対しては理解があったため、その手の人たちにとっては居心地のいい店でもあった。

 

2人はマシンの調子やいつどこに遊びに行ったとかと言った、お互いの近況を雑談も交えて十数分ほど話し合うと、それからは本題となる例の情報の話となる。

 

秋永「……それで、ちょうど昨日の夜、妙義の走り屋からいい話を聞けたからここに呼んだんだ。また秋名の峠が面白い事になるかもな」

 

泊「お?まさかまた何かの集まりでもあるのか?でも少し前に例の3チームの交流会があったばかりだろ?」

 

秋永「そのまさかなんだよ。今度は妙義の中里っていうGT-R使いが例のハチロクに挑むらしい。本人がスピードスターズの溜まり場のガソリンスタンドにわざわざ出向いて申し込んだってギャラリー集めるために言いふらしてたよ」

 

ちょうど昨晩妙義に顔を出していた秋永が、ナイトキッズの中里がスピードスターズのハチロクとのバトルを申し込んだという話を聞いていたのだ。

 

泊「へぇ……。レッドサンズのFDに勝ったハチロクに、ナイトキッズのGT-Rが勝てばナイトキッズの方がレッドサンズよりも格上だと示せるからな。その辺を考えてのことかな?」

 

秋永「それもあるかも知れないけど単純にその中里って人はバトル好きらしいよ。おおかた新しいライバルの出現に喜んでってところだと思うけど。……ちなみにそのバトルがあるのは今週土曜の夜10時だって」

 

泊「お、その日だったら空いてるな。俺も行こうかな」

 

秋永「じゃあその時は俺も一緒に」

 

泊「おう、もちろん」

 

秋永「先週の交流会みたいにフリー走行とか、前座に何かあるかも知れないし、本番直前は車が多くていい位置取れないからかなり早めに行っておいた方がいいと思うよ。前回は人がごった返して大変だったし、今回はもっと人が集まると思う」

 

泊「だな。じゃあ当日……」

 

???「すみません、そこのお二方……」

 

と、そこで2人を呼び止める声がかかる。

2人が振り返ると、そこには黒髪短髪でやや色白な肌をした、白シャツに黒いスカートというありきたりな格好ながら、2人が一目見て美人と思わせるだけの美しさを感じさせる1人の女性が立っていた。

 

文「わたくし、ブンブン丸モータージャーナルという自動車系のインターネットブログを運営している射命丸文と申します。現在はこの辺りの走り屋たちの情報に関して調べていまして……。今話されていた次の土曜日の交流会について、少しお話を伺ってもよろしいでしょうか?」

 

そう話す彼女が差し出した名刺の下部両端には黒いR35 GT-RとDB8インテグラのイラストがあしらわれていた。

 

 

 

 

 

● ● ● ●

 

 

 

 

 

正午前の日が照りつける渋川市のガソリンスタンド。

そこにはスピードスターズのメンバー達とファンタジアのサブリーダー的な立場にある八雲藍が集まっていた。

彼女は今日はいつものオフィスレディらしいフォーマル寄りな格好ではなく、私服の白いロングワンピース姿で現れていた。

 

彼女は今日、挨拶がてらスピードスターズのために例のハチロクとFDのバトルの録画をコピーしたディスクを持参してここまでやってきていたのだ。

ついでに給油と洗車を頼んでちゃっかりとスタンドに利益を落としている。

 

藍以外の客が全く居ないのをいい事に、ガソリンスタンドの建物の中で藍の持参したノート型パソコンに映して見ているのだが、その反応は面白いくらいにバラバラだった。

 

この動画を持ち込んだ当の本人である藍は後日チーム内で行われたプチ鑑賞会的なものに出席しているため、当初こそは驚いていたものの今となっては平然としている。

拓海自身は特に何も考えてなさそうなボケっとした表情のまま画面を眺めているし、池谷は拓海の信じられないほどに速い走りにあんぐりと口を開け、イツキは口をパクパクさせながら画面と拓海を交互に見ていて、店長の祐一も食い入るように画面を見つめていた。

 

藍(何度見ても凄いな。これだけのテクニックをこの年で……。やはり拓海くんの攻略は一筋縄ではいかないだろうな。これに秋名で挑んで勝つと豪語したらしいのだから慧音の話していた中里という男も中々に豪胆な奴だ)

 

拓海(なんか自分の運転を他人の視点から見るのって変な感じ……)

 

池谷(こ、これ……本当に拓海なのか……!?知った上で見てもやっぱり信じらんねぇ!こんなの、うめぇなんてもんじゃねぇ!ファンタジアにぶっちぎられた時を思い出す走りだ)

 

イツキ(すげぇ!何が起きてんのかわかんねぇけどとにかくすげぇ!こんなボケた顔した奴の運転とは思えねぇ!なんだこりゃあ!?)

 

祐一(これはとんでもないぞ……。文太の運転と瓜二つだ!すんげぇスピードでドリフトしながら、非力なハチロクで性能差ひっくり返して格上のターボの背中をつつくところなんかまさに……)

 

それぞれの胸中で様々な思考が渦巻く中、一台の車が駆け込んでくる。

客の車かと思うのも束の間、池谷たちにとっては見慣れた姿である白い中期型180SX……それは健二の車だった。

 

そこから慌てた様子で出てくる健二の姿に祐一を除く全員がただならぬものを感じ、建物から出てその180SXに向き直る。

 

池谷「健二、どうした?そんなに血相変えて」

 

健二「どうしたもこうしたもねぇって!池谷、お前ナイトキッズっていう妙義のチームの交流戦受けただろ!そういう大事なことは1人で勝手に決めたりせずに、事前に相談してくれよな」

 

池谷「はぁ?俺は知らねぇぞそんなの。何言ってんだ?」

 

健二「いや、知らねぇなんてことあるかよ!そこらじゅうで話題になってるぜ!俺が知ったのも、さっき立ち寄った喫茶店のマスターさんとお客さんのインテ乗りの人が教えてくれたからなんだよ!今度はレッドサンズに勝った話題のハチロクと妙義のGT-Rの下り一本勝負だって!」

 

池谷「……って言われても、知らねぇもんは知らねぇよ」

 

健二「だってお前……ナイトキッズの中里が、昨日直接このガソリンスタンドに来て自分でスピードスターズのメンバーに申し込んだって言ってるらしいぞ!」

 

池谷「はぁ?いや、マジで知らねぇよ。そもそも、その中里って奴に会ったこともねぇし……」

 

幾度も話が行き違い混乱する2人は、ここでようやく何かがおかしい事に気がつく。

 

藍「一ついいか、拓海くん……。そのバトル、受けたのか?」

 

拓海「え?知らないっすよ?そんなの初耳なんですけど」

 

藍「……おかしいな。一応そのバトルの話はほんの数時間前、今朝あたりにうちのチームのところにも入ってきてるんだよ」

 

池谷「えぇ!?」

 

自分たちが一切預かり知らない話をまさかファンタジアが知っているとは思わなかった池谷。

思わず驚いてしまい声を上げた。

 

藍「そのメンバーは県内のとある喫茶店で小耳に挟んでその場にいた客から直接話を聞いたと言っていたが……。拓海くん、本当に君の耳には今回のバトルの話は何も来ていないんだな?」

 

拓海「……はい。俺、本当に何も知らないっすけど、そんな話。……もちろんやるつもりもないですし」

 

藍「その前にも慧音が秋名での練習走行中に中里とやらと直に会ってな……。そこでも中里本人が、秋名のハチロク……つまりは拓海くんに挑んで絶対に勝つと断言していたと話している。……申し込んだ側の、いわば挑戦者であるナイトキッズは当然としても、私たちのような他所のチームやギャラリーたちが知っていて、なぜ受けた側の拓海くんやスピードスターズだけは、本来ならば知っていなければおかしいはずの事を誰1人として知らないんだ?私も当然君たちはこの件について把握しているものと思っていたが……」

 

池谷「そ、それは……」

 

拓海「……???」

 

イツキ「…………(ま、まずい!この流れは……!)」

 

ここで藍がバトルに出るらしい拓海に直接聞くが、ここでもやはり知らないという言葉しか出て来ない。

ファンタジアやその他のギャラリーたちはこのバトルの話題を知っているどころか、その話で持ちきりと言った具合であるのに、なぜか当事者であるはずのスピードスターズのみ知らないと言う奇妙なこの状況。

誰かが嘘をついているか、黙っているか、あるいはこの状況は第三者の策略によるものではないのか?

得体の知れない疑念がモヤの様に立ち込める。

 

健二「……なぁ、なんで俺らだけ誰もバトルのこと知らねぇんだ?やっぱり、なんか変じゃねぇか、そんなの……?」

 

この不可解な状況に誰もが頭に疑問符を浮かべる中、1人だけ土気色の顔色を悟られない様に俯いていた元凶がついに耐えきれなくなり声を上げる。

 

イツキ「ご、ごめんなさーい!俺が……俺が勝手に受けてしまったんだよぉ!」

 

健二「えぇ!?」

 

池谷「なにぃ!?」

 

拓海「イ、イツキ…… 」

 

藍「はぁ……(さっきから1人だけ様子がおかしいと思っていたら案の定か)」

 

イツキ「ナイトキッズの中里って人は本当に来てたんだよ。……でも、その時はたまたま拓海も池谷先輩もいなくてさ……。で、俺……その時にスピードスターズのメンバーだってその人に思われてたのが嬉しくって……つい、調子に乗ってメンバーのフリして話してたら、いつの間にかそういう話になっちゃってたんだよ。……なんかヤバいと思った時には遅くてさ、慌てて訂正しようと思った時にはもう出ていかれちゃって……」

 

犯人の自白によりあっけなく判明した事の真相に、緊迫しかけていた場の空気が一気に弛んでしまう。

 

池谷「あのなぁ……そんな大事なこと、どうして今まで黙ってたんだよ」

 

イツキ「いやぁ……その、言おう言おうとは思ってたんですよ。でも、言い出せるような雰囲気じゃなくて……。だって、まさか……色々なチームを巻き込んだこんな大きな話になるだなんて、俺思わなくて……」

 

話しているうちに段々と涙声になっていくイツキ。

 

藍「全く仕方のない奴だ。……大体の事情は分かった。だが、イツキくん。わざとではない事は承知したが、メンバーでもない君が独断でバトルを受けてしまったせいでこの有様だ。まずは池谷くんたちスピードスターズや拓海くんに何か言うべきことがあるんじゃないのか?結構な大ごとになってしまったようだが」

 

藍のその言葉にイツキは大きく頷くと、膝から崩れ落ちて頭を下げて土下座した。

 

イツキ「先輩、拓海……本当にごめんよ。勘弁してくれ……。俺が、俺が悪かったよ……」

 

イツキはそのまま涙声で謝罪の言葉を述べていくが、どんどんとその声は弱っていって見ている側が可哀想に感じるほどだった。

 

藍(これでスピードスターズは思わぬ窮地に立たされたわけか。それも、部外者の暴走という望まない形で。……はぁ、ここまでの事は流石になかったが、このトラブルメーカーっぷりはなんか昔の橙を見ているようだな。とは言え、どうしたものか……。これでは少しスピードスターズの彼らが可哀想だ。……しょうがない、今回は少しフォローしてやるかな。要は、バトルする気のない拓海くんをその気にさせればいいんだろう。やる気満々のナイトキッズを宥める方が苦労をしそうだ。何せこっちはナイトキッズには伝手がないからな。……それにレッドサンズの髙橋涼介やうちのチームの一部のメンバーもこのバトルを望んでいる。その流れに竿を刺してしまえばのちに軋轢になるのは目に見えている。……ここは拓海くんの方を動かした方が良いだろう。バトルを実現させようとしている髙橋涼介や慧音の動きに、私も少し便乗しようか。……悪く思わないでくれ、拓海くん)

 

 

 

 

 

そんな事があったその日の晩に、スピードスターズの池谷たちは相談があると言われて藍の奢りで近所のファミレスに呼び出されていた。

 

藍「しかし……君たちも災難だな。随分とまずいことになってしまったじゃないか。まさかイツキくんが勝手にバトルのセッティングをしてしまうとは……しかも相手は妙義の最大勢力、ナイトキッズのGT-Rと来たものだ」

 

ドリンクバーのファンタグレープを片手に藍は、同情的な言葉とは裏腹に小さく口角を上げた微笑みの表情を崩すことはなかった。

その一方でスピードスターズの池谷と健二はどんよりとした表情でかなり沈んだ様子だった。

 

健二「うーん、今度はGT-Rかぁ……。こればっかりは、いくら拓海でも厳しいものがあるよ」

 

池谷「あぁ、普通に考えたらハチロクじゃ勝ち目ないよなぁ……しかも乗り手の方だって腕自慢で通ってる妙義トップクラスの走り屋だ」

 

健二「乗り手が俺らとそう変わらないレベルだったらマシンがGT-Rでもまだ勝てると思えるけどさぁ、よりにもよって相手が相手だ。……負ける可能性が高いバトルに無理に参加しろなんて言うのも気が引けるって気持ちもあるけど、でも流石に後がねぇもんなぁ俺らも。実は来れませんで相手の顔に泥塗る訳にもいかねぇ。ギャラリーにだって話は広まってるし今更何をどう訂正すりゃ良いんだか。……拓海には厳しくても出てもらうしかないよなぁ。そんでどうにかこうにか勝ってもらうしか……」

 

池谷「そうだよなぁ……。今更本人が乗り気じゃないから出来ないとか言って逃げるのも無理だ。気が重いが、今回も拓海にやって貰うしかねぇ……」

 

健二「現状拓海1人が頼みの綱ってのも、情けない話ではあるけどさ」

 

池谷「……拓海に挑むならまずは俺に勝ってからだってビシッと決められるくらいの腕が俺にありゃあなぁ」

 

健二「……あぁ、でも無いものねだりしても仕方ねぇし、やっぱり今の俺らじゃどうにもならねぇよ」

 

池谷「交流会も終わってこれからさっそく強化期間だと意気込んでた矢先にこれは堪えるぜ」

 

藍「……とは言うものの、肝心の拓海くんはまだこのバトルを走るつもりはないらしい。あの後に私も少しだけイツキくんから話を聞いたんだ。見かけによらず頑固なところがあるらしくてな、付き合いの長いイツキくんも説得が難航しているとの事だ」

 

池谷「……そこなんですよね。今はイツキが必死になって説得してるらしいけど、なんかそう言うところは筋金入りだって話らしくて、どうなるかは当日になってみないと分からないって……」

 

健二「勝手に設定されちまったバトルに乗り気じゃねぇのは分かるんだけどさ、こうなってしまったからにはもうチーム総出で拝んででも出てもらうしかねぇって。ガソリンでもタイヤでもなんでも奢るからってさ。……もう俺らのチームの看板がどうとかそう言う話だけじゃなくなっちまった。あっちのメンツもかかってるし、今この瞬間も話は広がり続けてる」

 

揃って頭を抱えるスピードスターズの2人組。

今日の時点で既に火曜日であり土曜日のナイトキッズとの交流戦までには時間がそれほど残されていない。

かなり切羽詰まった状況となってしまったが、そんな中での肝心の拓海の説得がイツキ単体で成功する見込みは現状ないようだった。

しかし、そんな2人に藍から助け舟が出される。

 

藍「それなら私が一計案じようか。明日はちょうど拓海くんの豆腐屋に買い物に行く予定なんだ。その時に一声かけておこう」

 

池谷「本当ですか!?助かります!」

 

健二「マジでお願いします!今は猫の手も借りたいくらいなんです!」

 

藍(ははは……私は猫ではなく狐なんだがな……)

 

藍「100%の保証はできないが微力ながら協力させてもらうよ。……私もその場に居合わせていたからな。今更知らぬ存ぜぬで部外者を気取るつもりはない。……それにね、拓海くんのバトルや走りに興味があるのは髙橋涼介や慧音だけじゃない。私も同じなんだ。無論、私だけじゃない。きっと多くのギャラリーたちも私たちと同じ気持ちだろう。拓海くんにその自覚はないだろうが、彼の走りには見る人を魅了するだけのものがあるんだ」

 

池谷「それは……。俺にも分かる気がするなぁ」

 

池谷の脳裏に浮かぶのはあの3チーム合同の交流会とその熱狂。

みんなが拓海の走りに度肝を抜かれ、その逆転勝利に沸き立ち、凱旋してきた拓海を取り囲んで大騒ぎだった。

あの時の様な熱い時間をもう一度。

そう思う人は確かに多いだろうことは彼にも当然察することができた。

 

藍「……さらに付け加えるなら、拓海くんが来なかった結果としてこのバトルが無くなれば、君たちはもちろんレッドサンズもナイトキッズもその名に傷が付く。ナイトキッズに至っては、ハチロクに何かしたんじゃないかと一部のギャラリーたちから探られる事にもなるだろう。……アレだけの腕を持った走り屋が、マシン的には不利でも条件的には有利な地元のダウンヒルバトルに現れず、挑戦者に不戦勝を献上するなど普通はあり得ないからな。何か裏があるんじゃないかと思われても仕方がない」

 

健二「た、確かに」

 

藍「あと、噂によるとナイトキッズはガラの悪い連中が多いとも聞くな。脅すわけじゃないが、イツキくんが危ないんじゃないかと私は懸念している。半ば自業自得とはいえな……。あと、ナイトキッズはイツキくんをスピードスターズのメンバーだと認識しているはずだ。となれば、当然彼の言葉はスピードスターズの意思だと向こうは判断しているのは分かるな」

 

健二「あぁ……」

 

藍「で、イツキくん本人はもし失敗したら責任を取ってナイトキッズに頭を下げに行くと言っているが、『実は自分はメンバーじゃなかったんです。嘘をついてその場の思いつきであれこれ答えてしまったんです』などと言ってみろ」

 

健二「スピードスターズが蜥蜴の尻尾切りよろしく末端メンバー1人犠牲にして、ハチロクがバックれた事と自分たちのチームの看板に傷をつけた事の責任取らずに逃げた様に思われる」

 

藍「そうだ。例えそれが事実であるなしに関わらずな。……それに、走り屋の世界において不戦勝ほど意味のない勝利はない。中里本人とナイトキッズは不完全燃焼になる」

 

池谷「……も、もし拓海が来なかったら……」

 

健二「……本当にどうなっちまうんだ、俺たち」

 

もしイツキが説得に失敗して当日拓海が来ないなんてことになってしまえば一体どうなるか、考えただけでも嫌な汗が止まらなくなる2人。

 

藍「まぁ、今回の君たちは巻き込まれた被害者みたいなものだ。……今回私たちはスピードスターズの肩を持っていざとなれば仲裁に入る様に動こうと思う。この事に関しては、一応姉……リーダーには電話越しにこそなってしまったが既に簡単に事情の説明を済ませて承認をもらっている。他のメンバーにも私自ら根回しをしておこう。……その代わり、もし私が拓海くんの説得に成功したら貸し一つという事でどうだ」

 

大人の余裕かそれとも本人の性格なのか、池谷たちにはどうにも八雲藍という女性が分からなかったが、この時の彼女はやけに頼もしく見えたという。

 

藍(急な頼み事になってしまうが、聖に少し尋ねてみるか。命蓮寺のR32を借りて見せに行けば、何か反応が引き出せるかもしれないからな)

 

 

 

 

 

● ● ● ●

 

 

 

 

 

翌日、水曜日の午後。

藤原とうふ店に一台の車がやって来た。

ダークブルーパールに塗装された純正エアロのR32 GT-Rだ。

突然の頼み事にも関わらず聖は藍の頼みを快諾し、藍は聖の車であるこのGT-Rを借りてわざわざここに来たのだった。

 

拓海「いらっしゃいませー」

 

藍「失礼するよ、拓海くん。厚揚げと油揚げを10枚ずつ、そして木綿を3丁くれるかな?」

 

拓海「あ、はい。かしこまりました」

 

商品の受け渡しと会計を済ませながら、拓海はなぜ彼女が昨日の今日でわざわざここに来たのかを察する。

今日、彼女が来る少し前に来店していたイツキと池谷のやたらとしつこい説得の件もあって、彼女もおおよそバトルの事についてだろうと考えると、本人がその話題を切り出す前に釘を刺しておくために先んじて否定する拓海。

 

拓海「えーっと、例のバトルの話であれば、イツキにも先に話しましたけど、出るつもりはありませんよ。売られたケンカは絶対に買わなきゃいけないみたいな走り屋のノリにもついていけないし、あとは俺に走る理由なんかないし、まぁそんなところです。……ところで、藍さんでしたっけ。今日の車、昨日のとは違うみたいですけど、どうしたんですか?」

 

入り口のガラスドアの外から見える車は、昨日彼が洗車したEK9シビックタイプRとは似て非なる、鈍い輝きを放つダークブルーの車だった。

それが拓海には引っかかってしまった。

 

藍「よくぞ聞いてくれたな拓海くん。実は私のシビックは今ちょっとだけミッション周りの整備に出していてな、その間の代車として他のチームメンバーの車を借りているんだよ。……そしてこの車こそ君に挑みたがっている妙義の走り屋が乗る車とちょうど同じ型式のBNR32 スカイラインGT-Rという訳さ」

 

芝居掛かったような口調で、わざとらしく拓海の注意を引くように喋る藍。

 

拓海「GT-R……」

 

GT-R、ここ1日2日の間にやたらと耳にするその3文字。

みんなが凄い凄いと持て囃し、戦うのはやめておけとすら言う人もいるその車。

それが目の前にある。

いくら拓海でも、それだけの事を言われる車とくれば興味は出てくる。

そしてその好奇心が口から漏れたが如きその呟きを、人より遥かに優れた聴覚を持つ九尾の狐が聞き逃すはずもなかった。

 

藍「なんだ?やはりこの車が気になるか?……いいだろう。今回は私からの特別授業だ。GT-Rについて軽く教えてやろう。慧音だってスピードスターズを気にかけてたまにそれとなくアドバイスをしているみたいだしな。私だってこういう事をしてみるのもまた一興、と言ったところか」

 

拓海はもしかしたらイツキのように変なスイッチを入れてしまったかと一瞬考えるも、もう後の祭り。

藍は拓海の困惑をあえて無視してそのまま続けた。

 

藍「R32 GT-Rは端的に言えば重量はあるがパワフルでいてかつよく曲がる車だと言えるな。エンジンはRB26DETT直列6気筒ツインターボエンジンが搭載されていて、このエンジンの特徴といえば何と言ってもとにかくパワーが出る事なんだ。最大600馬力程度までチューンして出せる様に想定して設計されている都合上、ライトチューンでサクッと400馬力かその手前くらいは出せる。それでいて必要十分な耐久性も兼ね備えている。……拓海くんのハチロクが高く見積もって150馬力前後として考えると、例の妙義のGT-Rであれば2.5倍前後、この私の友人のGT-Rであれば3倍くらいの馬力がある。パワー勝負になる直線区間は正直言ってハチロクでは相手にならん。圧倒されるだろうな」

 

最後にわざとハチロクを下げる様な言い回しを取る。

一言多いと思われるその言葉が、本人すら殆ど無自覚ではあるがハチロクに対して愛着とプライドのある拓海の心をほんの僅かにチクリと刺激した。

 

拓海「そんなに……?」

 

さらに食いついて来た。

藍は内心でこの調子ならイツキくんや池谷くんにいい報告ができそうだとほくそ笑む。

 

藍「あぁ、これはそれだけ本気で作られた、凄まじい性能のエンジンなんだ。だがな、動力系だけじゃない……GT-Rは駆動系もまた凄いんだ。駆動方式は日産独自の四輪駆動システムであるアテーサE-TSが搭載されていて、これは後輪側で受け止められないパワーを前輪側に振り分けて、本来ならば有り余るような大馬力のエンジンパワーを有効に使い切ることをが出来るんだ。普段はハチロクと同じFRとして動くが、一度乗り手が全開加速の意思表示をしてアクセルを踏み込めば、この車は途端に四駆に化けて4つのタイヤを全て前進するために使えるようになる。これは後輪側がホイールスピンをした瞬間に発動して後輪の空転を抑えてきっちりトラクションをかけて走れるということだ。加速力という点ではハチロクどころか君と戦ったあのFD……RX-7をも凌駕するだろう。……しかも、このFRと4WDを切り替えられるというアテーサE-TSはその特性上、コーナーの入り口では君のハチロクのようにFR車として振る舞い鋭くコーナーに突っ込みながらも、コーナー出口ではランエボの様に四駆として振る舞いFR以上に力強く立ち上がれるという事でもあるんだ。……これを誰にでも分かる様に噛み砕いて説明するならば、FRと4WDのいいとこ取りと言った感じになるのかな」

 

拓海「は、はぁ……?」

 

いかにGT-Rが優れた車であるかを、まるで自分の車を自慢するかの様な態度でひたすら力説する藍に、若干引き気味になる拓海。

軽くと言いつつも、次から次に語りに語って語り倒す藍。

しかしながら、拓海は次第に藍の話のペースに乗せられていく事になる。

 

藍「この辺で一つ、結論を言って纏めてしまおう。……GT-Rは動力系や駆動方式を含め、その他ボディ剛性といった面でも極めて優秀だ。同年式程度のものであれば、ポルシェやフェラーリですら食い散らかせる様な、そういう性能の車なんだ。当時の国産最速の名に恥じない戦闘力がある。……気を悪くしないで欲しいが、ハチロクと比較しても圧倒的に格上だと言っていい。まぁ、そもそも開発コンセプトからして、ハチロクとGT-Rは大きく違うのだからな」

 

拓海「コンセプト……?」

 

藍「そうだ。日産のスカイラインGT-Rという車は、ただひたすらに速く走るために作られた車だ。モータースポーツに勝つというたったそれだけの事をひたすらに、愚直に追求して作られた車なんだ。そしてそれはモータースポーツの世界でも並み居るライバルたちを軒並み叩きのめしてのグループA全戦全勝という実績を伴って証明されている。先ほど述べたRB26もアテーサも、そのために当時の日産の技術を結集した結果なんだ。その方向性自体は代を重ねたR33型やR34型でも変わらない。スカイラインから独立してただのGT-Rとなった最新モデルのR35型でもそうだ。……だがハチロクはそうではない。確かにハチロクはスポーツカーを名乗るに足るだけの性能をしている、率直に言っていい車だ。軽くて速くて楽しくて、それでいて実用的でもある。しかし、GT-Rの様に勝利をストイックに追求した車かと言えばそうではない。カローラ系、あるいはスプリンター系の中のスポーツカーとしての位置付けでしかないと言われればそれまでだし、エンジンもミッションも足回りも、そこまでスパルタンなスポーツ仕様ではない。ボディもGT-Rと比較すれば軽さにおいて秀でる反面、剛性はどうしても劣ってしまう。性能とコストの間での妥協というものもある」

 

拓海「…………」

 

彼女の話に完全に引き込まれ、黙って聞き入る拓海。

 

藍「……車本来の性能の差というものは、乗り手の技術だけで埋める事は不可能とまでは言わないが、かなり困難ではあるんだ。……そして、いつかその差は君自身と君のハチロクの限界を超えてしまうかもしれない。きっと、その日はそう遠くないうちに来てしまう。その事だけは心に留めておけ」

 

その付け足された言葉が、拓海の心に不思議と重たく響く。

 

藍「少し、語りすぎてしまったな。……話を戻そうか。今回のバトルだがな、受けてもいいし受けなくてもいいと、私は思っている」

 

てっきり何が何でも受けて欲しいとイツキや池谷先輩の様に懇願されるのかと思っていたため、拓海は肩透かしを喰らった様になる。

 

藍「もちろん受けてくれたらそれに越した事はない。私個人としてもその方が望ましい。スピードスターズもイツキくんもそれを望んでいる。もちろんギャラリーたちもだ。逃げる事なくバトルを受けるだけでイツキくんの顔を立てる事にもなるしスピードスターズの名誉も君自身の名誉も守られる。受けた上で勝つことが出来れば、赤城と妙義に君臨する群馬の両雄を打ち砕いた秋名のヒーローとして君の名声も鰻登りだろうさ。受けるメリット、勝つことで得られるメリットはもちろん多い」

 

拓海「でも俺、別に走り屋として名を上げる事とか、そう言うのには別に興味ないですよ。……そもそも俺は走り屋なんて名乗った事、一度も無いですし」

 

藍がそこまで言ったところで遮る様に拓海が切り出す。

しかし藍はそれにも動じず拓海を宥めながら話を続けた。

 

藍「まぁまだ話は終わってない。まずは落ち着いて聞け。……だが、受けないと言う選択肢もそれはそれでありだと私は思う。何よりも君自身が受けたくないと思っているのだから、それを私にどうこう命令する権利もないだろう。それに、自分自身が望んだ結果セッティングされた訳でもない上に、仮に受けたところで性能差に押し潰されて負けるかも知れない不利なバトルに出るのは、先ほど述べたメリットを天秤にかけたとしても、非常にリスキーだと言う事には変わりはないんだ。……言わずとも分かる。君はそれを恐れているのだろう?やる気が起きないのも当然だ。何せ相手はサーキットにおいて不敗神話を誇るGT-Rだからな。しかもせっかくレッドサンズのナンバー2を下して手に入れた勝ち星も今回負ければ帳消し。不利な賭けに飛び込む事は蛮勇と紙一重だし、それは決して賢いやり方じゃない。……勝てない相手とは戦わない。そう言うやり方で勝ち星を守るのも立派な戦略だ。君の選択は何も間違ってない」

 

藍の言葉はもっともであったし、拓海の「バトルを受けない」という選択を肯定すらするものではあるのだが、不思議とその言葉の端々にトゲを感じてしまう拓海。

何よりも、もし戦えば自分が負けると彼女に思われている事が察せるだけに、それが癇に障った。

その後の勝てない相手と戦うなと言う言葉も拓海の自尊心に小さく傷をつけた。

もちろん藍は拓海の中に眠る闘志を焚き付けるべく、わざとそうやって煽る様な嫌味な言い回しをしているのだが拓海はそれに気付かない。

 

藍「ただ、君がバトルをするつもりがない以上は代役として誰かがバトルをしなければナイトキッズの腹の虫が治らんだろう。君の代わりにうちのメンバーを誰か当てがって走ってもらうことも考えている。なんなら私がシビックで出てもいい。ダウンヒルであれば、たとえ君の恐れるGT-Rであろうと私は負けるつもりはない」

 

君にはできなくても私には出来る。

そう挑発するその言葉が、拓海の何かに触れた。

 

拓海「別に……俺は怖くなんかないですよ、GT-Rなんか」

 

藍「おや?それはどう言う事かな?」

 

拓海「そこまで凄い凄いって、ハチロクじゃ勝てないって言われると、そのGT-Rってのがどれだけ凄い車なのか、どうしても見たくなって来るんですよ」

 

拓海の目つきが変わる。

藍は拓海を焚き付ける事に成功したと確信した。

 

藍「分かった。では、ようやく出てくれる気になったんだな?イツキくんと池谷くんたちにも……そして、ナイトキッズの方にもうちのメンバーを使いに出してそう伝えておくよ。構わないね?」

 

 

 

その藍の問いかけに拓海は黙って頷いた。

 

 

 




2023 / 07 / 13 21:18 聖のR32のボディカラーに関する記載ミスを訂正。

Q.泊と秋永に話聞いてそれを藍に知らせてから文はしばらく喫茶店に滞在してたみたいだけど、何してたの?

A.レミリアと密会。

思ったんですけどイツキくん、特に原作の序盤はトラブル作ったり巻き込まれたりで割と散々な目にあってますよね。
そして片や涼介と慧音の挑発に、片や藍の煽りにまんまと乗せられてバトルへと突き進んでいく中里と拓海なのであった。
ちなみにこの時点で拓海くんの走り屋気質は開花しつつあります。

藍「ところで今回私の出番が多すぎないか?セリフ多くて疲れたぞ」
作者「いや、なんかこの作品の頭脳ポジ、慧音と涼介にばかり持ってかれてるなと思って……」
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