東方頭文字D 〜 Lunatic Stage 〜 作:D-Ⅸ
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一方その頃。
ファンタジアの一部のメンバーたちは秋名麓の拠点から少し足を伸ばして妙義山へと赴いていた。
椛のS14後期を頭に妖夢のFC3Sと鈴仙の180SX、早苗のMR-Sの4台が並ぶその車列は、走り屋の見物に来ていたギャラリーたちの目を引きつけながら山頂へ向け登っていった。
ギャラリー1「あ!おい見たか!?今の車、アレはファンタジアの車だ!」
ギャラリー2「それって、あの噂のレディースチームか!」
ギャラリー3「あの車、俺も見覚えがある。あの4台は交流会当日にも来ていたぞ。あの緑のFCに至っては練習期間中の話らしいが、秋名で高橋涼介を相手に互角に走ったって噂もあるんだ」
ギャラリー2「マジか!あの高橋涼介と互角!?」
ギャラリー3「……赤城の奴らの話してた噂話を小耳に挟んでな。もし事実ならとんでもない腕利きの走り屋だぜ」
ギャラリー4「そんな連中がどうして妙義に……?」
ギャラリー5「ま、まさか秋名の次は妙義攻めのつもりか!?」
ギャラリーたちの屯する道の駅の駐車場を通過し、走り屋たちの集う中之嶽神社方面に向けて駆け上がる。
彼女たちが通過した先には、遠く響いていくエキゾーストサウンドの残滓と何事かとどよめくギャラリーたちが残されているのみだった。
中之嶽神社の駐車場では今日もナイトキッズをはじめとした妙義の走り屋たちが集結していた。
地元最大のチームである妙義ナイトキッズが早速秋名のハチロクにバトルを挑むらしいということで少しソワソワしている感はあるものの、いつもと変わらない走り屋たちの日常風景が今日も過ぎていく……はずだった。
最初にそれに気付いたのは黒いS13 後期の運転席で休憩していたナイトキッズのメンバーの田中吾郎と、その隣で愛車の180SXに背を預けてコーヒー片手に一服していた天田浩二だった。
浩二「ん?何台か纏まって来てるな。聞き慣れない音だぞ……?」
吾郎「毅!多分お客さんだ!何台かこっちにくるぜ!」
中里「また他の山から来やがったか?お前ら、一応出迎えるぞ!」
中里がそう言うと、周りに散っていたナイトキッズのメンバーたちがゾロゾロと集まってくる。
吾郎と浩二も愛車を離れて他のメンバーたちの脇へと移動する。
他にもS15シルビアの安井弘道やMR2に乗る宮原朋一、ベルベットブルーのS13後期の高田康、赤い80スープラに乗る小谷勝敏が揃う。
それを妙義の他のチームの走り屋やギャラリーたちが少し遠巻き気味に様子を伺っていた。
彼らが見守る中で、ようやくその車列が姿を見せた。
S14にFC3S、180SXにMR-Sといかにも走り屋らしい車が一列に並んで入ってくる。
止め終わった車から続々と乗り手が出てくるとナイトキッズの一部のメンバーたちは下心混じりでありながらも盛り上がりを見せた。
弘道「こいつらあの時の……」
高田「あぁ、間違いない。あの子たちだ」
吾郎「ヒュー……たまんねぇ。なぁどう思う、浩二」
浩二「なかなか美人揃いだよな。悪かねぇ」
宮原「これで腕まで良いってんだからさ、文句なんかねぇぜ」
双方が3歩半ほど距離を空けて向き合うと、中里が口を開く。
中里「お前ら……確かファンタジアって言ったな。俺はナイトキッズの中里だ。先週の交流会は俺らも見させて貰ったが、いい腕してたぜ。なかなかやるじゃないか」
妖夢「ありがとうございます、中里さん。私は魂魄妖夢と申します。今日はちょっとした用事がありまして、ここ妙義に来たんですよ」
椛「群馬エリアに活動拠点を置いて活動し始めてから、上毛三山のうち赤城と秋名の主要なチームには既に挨拶を済ませてるのに、妙義のチームには一度も顔を出してなかったからね。妙義だけ仲間外れはダメだと思ったから今日はその挨拶に来たんだ」
浩二「そりゃあいい心がけじゃねぇか。俺としてもお前らみたいな子は腕に関わらず大歓迎だ」
弘道「あぁ、正直言ってお前たちには感謝してんだぜ?交流会でスピードスターズとファンタジアが高橋啓介を千切ってくれたおかげで、最近増長気味だった赤城の野郎どもが急に静かになったからなぁ」
高田「連中との小競り合いも減ったから気が楽になったよ」
章夫「俺は当日居なかったが、話聞くだけでもスカッとしたもんだぜ」
妙義の走り屋はガラが悪いという事前情報とは裏腹に、意外にもナイトキッズは初対面から好感触な様子だった。
と言うのも、彼女たちが先週の交流会で妙義とはライバル関係にある赤城山の最大勢力、赤城レッドサンズをナンバー2の高橋啓介ごと完膚なきまでに叩きのめしていた事が効いていた。
このレッドサンズの敗北を内心「ざまぁみろ」と思っていた妙義の走り屋は少なくなかったし、妙義の走り屋が苦戦を強いられていたレッドサンズを容易く撃破して見せたファンタジアは、赤城への対抗心からか実力主義的な気風のある妙義の走り屋たちからはウケが良く、既にその一部からは実力を認められるに至っていた。
赤城とはライバル関係にある妙義の走り屋だからこそ、赤城の走り屋たちの速さや手強さはよく理解しているし、その赤城の最大勢力を一捻りにしてみせた彼女たちはその美貌もあって妙義では既に一定の人気を集めていた。
もちろん、車好き兼女好きなナイトキッズの一部の面々に関しては当然女には少し甘くなってしまうため、それも理由の一端となっていた。
特にドライバーの男性率が高い峠などを含む公道レースの世界では、この様に女っ気に飢えている人間がボチボチの確率でいるものである。
鈴仙「それともう一つ、スピードスターズから伝言を預かってるわ」
小谷「伝言?……しかもスピードスターズか」
吾郎「もしかして、毅が言ってたバトルの件か?」
椛「そうだ」
中里「でもどうしてお前たちが?」
椛「実はあの後、スピードスターズ内でちょっとしたトラブルあったらしい。あのガソリンスタンドの、調子の良さそうな若い子がいただろう?」
中里「あぁ、居たなそういえば」
中里はあのガソリンスタンドでの会話を思い出す。
レビン乗りと名乗る少年の顔がぼんやりと浮かんで来た。
鈴仙「あの子が見ての通りのお調子者らしくてね、本人に何の相談もなくあのパンダトレノのドライバーが走る方向でチーム内でも話を進めてしまったらしくて……」
椛「自分は正規のメンバーじゃないのに勝手に決めるんじゃないって、そのトレノのドライバーがちょっとへそを曲げちゃったみたいでさ……。走る走らないでチーム内が少し乱れてたんだよ。そんな時に私たちのチームのサブリーダーがそのスタンドに寄った時に偶然その話を知ることになったんだ」
早苗「それで、私たちのチームが仲裁に入って秋名のハチロクが無事に走れる様な方向に説得と調整を手伝ったって感じなんです」
ところどころにフェイクを織り交ぜながらスピードスターズ側で話の行き違いが生じた事と、その仲裁を自分たちのチームが行なった事を説明する。
ちなみに、イツキが実はスピードスターズのメンバーではないと言う点も彼女たちは黙っていた。
それを今言ったところで変に話が拗れるだけであるし、わざわざいう必要のある話とも思えなかったからだ。
実はあの秋名のハチロクがスピードスターズのメンバーではないと知らなかったナイトキッズの一部のメンバーからは驚きの声が上がる。
小谷「え?あの秋名のハチロクってスピードスターズの正規メンバーじゃないのか?」
吾郎「噂じゃスピードスターズの秘密兵器なんて話だったし、てっきり正規のメンバーなのかと思ってたぜ……」
弘道「聞くところによるとチームに属さないフリーらしくてな、助っ人としての参戦らしい」
事情を知らない小谷たちに当日ギャラリーをしていた弘道が補足する。
鈴仙「……そう言うこと。一応、本人曰く昔馴染みで仲がいいって言うそのスタンドの子が、これを機に正式にチームに入らないかってスカウトしてるみたいだけどね」
小谷「なるほど……。そう言えば、今日はまだ見てないが妙義にもやたらに上手い黒リミのハチロクトレノが居るんだよなぁ。そいつもどこのチームにも入らないで、フリーで走ってるんだ。……トレノ乗りは独立独歩の気風でもあるのか?」
椛「確かに、もしかしたらそう言うのはあるのかも」
これは椛たち妖怪の山の走り屋にとってはやや心当たりのある話であった。
何を隠そうファンタジアに属するメカニックの河城にとりは友人同士の椛や文たちとはよく走っていたが、かと言ってこのチームの結成以前に椛が属していた『妖怪の山四輪自動車同好会』を始めとした特定の走り屋チームに所属していた訳ではない。
話に聞く拓海を始め、その父の文太もどこかのチームに所属していたと言う事実はない。
そう聞くと、昔はともかくとして今に生き残るハチロク乗りはそう言う傾向があるのではと思われるのも、ある種の極論に近いが納得のできる話だった。
椛「まぁ、それはともかくとして、そう言う訳でバトルは無事に承諾されたから、今日はそれを伝えにね」
鈴仙「土曜の夜10時、楽しみにしているわ」
早苗「当日は私たちも見に行きますね」
妖夢「今度はギャラリーの立場として楽しませていただきますね。両チームの健闘を祈ります」
中里「あぁ、サーキットで不敗神話を打ち立てたGT-Rの速さを公道でも証明してやる。いくら乗り手が凄いらしいとは言え、マシンはこっちが圧倒的に上だからな」
先週の活躍もあり、腕利き揃いの美少女チームとして知られている彼女たちから期待を寄せられていると知れば、中里たちナイトキッズも悪い気はしなかった。
浩二や吾郎たちに至ってはあからさまに顔を綻ばせ、鼻の下を伸ばしていてその上機嫌ぶりを隠しきれていなかったし、何ならその視線は鈴仙や早苗の程よい膨らみに時折向けられていた。
妖夢「そして、実はあともう一つだけ話があるんです」
椛「今、ナイトキッズとしてはハチロクとのバトルに注力したい筈だから、それが終わって落ち着いてからになると思うし、まだまだ先の話になるはずだけど……。今度、ここ妙義で私たちのチームと交流会をして欲しいと思ってるんだ」
その言葉にナイトキッズとその周囲で聞き耳を立てていた他の走り屋やギャラリーたちの顔色が変わる。
鈴仙「日程については追々、お互いに都合の良い日を詰めていくことにしたいからまだ特には決まってないんだけどね」
早苗「ナイトキッズの方たちさえよろしければ、どうですか?」
彼女たち曰く「まだまだ先の話」「日程も特には決まってない」との事だったが、ナイトキッズにとってもこの誘いを受けない手は無かった。
特に中里は秋名のハチロクへの挑戦後、ファンタジアへの挑戦を視野に入れていたため、ファンタジアの方から来てくれた事は誘う手間が省けて助かったとすら思っていた。
さらにナイトキッズにとって良かった事は、ファンタジア側は「お互いに都合のいい日を後で決める」としている事だ。
かくいう中里たちも人のことは言えないが、この手の走り屋同士のバトルではどちらかが日時を指定して、指定を受けた方がそれに合わせると言う形で取られることがそれなりに多くあった。
事実として、先週執り行われたレッドサンズとファンタジアとスピードスターズの三つ巴の交流会は、レッドサンズとファンタジアという挑戦者側の2チームが同時に「来週土曜日の夜9時」と言う日時をしていたがスピードスターズ側から異論が出てくる様なこともなく、そのまま開催され好評を博して終わっている。
これは殆どの場合、学生にしろ社会人にしろ大抵の人が土日休みである事が多いため、土日の夜かその前日の金曜夜を指定しておけばまず間違いはないと言って良かった。
そのため勝手にその日を指定しても相手側から拒否されることが殆どないので双方話し合い、打ち合わせ等を行った上でバトルをしたいと言う今回の様な提案は少数派であるのだった。
今回はまず直近にハチロク戦を控えているというナイトキッズ側の事情を考慮してか、バトルの日時を「後々決める」としてくれたその提案が、ナイトキッズにとっては素直にありがたかった。
一応、中里たちナイトキッズのメンバー同士がお互い顔を見合わせて意思を確認し合う事こそあったものの、既に彼らの中で殆ど結論は出ていた。
中里「構わないぜ。あの秋名のハチロクを仕留めたら、お前たちにはこっちから挑みに行くつもりだったからな。……確かに今はそのハチロクに集中したいから、日取りは少し後の方が良いな」
妖夢「であれば決まりですね。あとで連絡先を交換し合いましょう。今後はそれで連絡を取り合うと言う事で構いませんね」
中里「あぁ、分かった。……今日はせっかくここまで足伸ばして来たんだろう?少し走っていけ」
それは中里なりの不器用な歓迎の仕方だったが、彼女たちとてまた走り屋である。
その意を汲んで誘いに乗る事にした。
妖夢「はい。元よりそのつもりです。では遠慮なく走らせていただきますね」
椛「さっそく行こう。この機会に妙義の峠がどんなところか、走りながら知っておくのも良いだろうからね」
弘道「よし、なら俺たちも走るか。妙義の走り屋の走りを見せてやらァ!」
宮原「俺も行こう!やっぱり走り屋は走ってこそだ!」
高田「せっかく来たんだし、そう来なくっちゃな!」
小谷「それなら俺も行くぜ!コンピュータ変えたスープラの試運転のいい機会じゃねぇか!」
浩二「おっしゃあ!俺らも行こう!」
吾郎「おう!ただし走るからには本気で行くぜ!」
♪ BEAT DOWN / A-One
妖夢や椛たちが走ると言うとノリノリで車に乗り込みファンタジアの面々よりも先に弘道、小谷、宮原、高田、吾郎、浩二の順でその上機嫌ぶりをサウンドに反映させながら飛び出して行った。
それを追う様に妖夢、椛、鈴仙、早苗の順で出ていく。
ギャラリー6「おぉ!ナイトキッズとファンタジアの車が出て行くぞ!」
ギャラリー7「走りに行くのか!?すげぇ音と迫力だ!」
ギャラリー8「よし来た!盛り上がってきたぞ!俺たちも追いかけようぜ!」
ギャラリー9「後ろから観戦だ!行くぞ!」
中里(出る奴は全員出て行ったな。……さて、俺も行くか)
中里はナイトキッズとファンタジアのメンバーが、そしてその後を追うギャラリー目的の他の走り屋たちが全員飛び出していくのを見届けると、自身の愛車であるGT-Rに少し遅れて乗り込み、エンジンをかける。
そして駐車場を出るや否や一気にアクセルを踏み締め1速2速とシフトアップしながら稲妻の如くガツンと加速していく。
ギャラリー8「うおっ!後ろから中里が来やがった!……アイツには勝てねぇからな……仕方ない、譲るか」
ギャラリー9「中里のGT-Rか……。譲るっきゃねぇよなぁ……。前のファンタジアの車にも置いてかれちまうよ。……トホホだぜ。速すぎんだろ……」
先に飛び出したギャラリーのBE5型レガシィB4とAE101型カローラレビンをサクッと抜いて置き去りにすると、コーナーに消えていく。
時はわずかに遡りスタート直後。
妙義の下りは中之嶽神社からスタートするが、コース序盤に僅かな登り区間がある。
そこで弘道のS15シルビアと小谷のA80スープラの300馬力を上回るハイパワーコンビが頭ひとつ抜けて独走態勢に入るが、その後方では張り切りすぎたせいで無駄に力んでしまい、シフトをミスって出遅れた浩二が早速妖夢と椛に直線加速で食われていた。
浩二「く、くそー!(いい加速してんじゃねぇか!だがコーナーなら地元の俺の方が……)」
浩二は地元妙義の走り屋として走ってきた自分のキャリアとテクニックを信じて目の前に迫るゆるい右へとステアリングを切り込み殆どノーブレーキで進入する……が。
浩二「……ってコーナーでも追いつけないだとぉ!?(しかもやっぱり後ろの2台もグイグイ詰めて来てるじゃねぇか!悔しいが、レッドサンズ蹴散らしたのも納得の腕だぜ!めちゃっぱや!)」
突っ込み勝負で負けて先行するFCとS14に大きく差をつけられて後ろからは逆に大きく詰められる。
すでに立ち上がり加速の違いと馬力の優位によって吾郎のS13もFCに追い抜かれてしまい、次の左で今度はインからS14に落とされた。
序盤のストレートの終点にあたる下り勾配のS字へと侵入する頃には、浩二と吾郎は後続の鈴仙と早苗にも仕留められて仲良く戦意喪失していた。
浩二「クソォ……!正直女だからって舐めてたぜ!(やっぱり噂の通りだったか。いや噂以上かよ!マシンもいいのに乗ってるが腕もいい!)」
吾郎「だ、駄目だ勝てねぇ……!(悔しいぜ……!手も足も出ないってのはこう言う事か!……これじゃあ地元の面目丸潰れじゃねぇか!)」
前を走る高田と宮原もいとも容易く撃墜されてしまったようで宮原のMR2の頭を取りながら明らかにオーバースピードに見える速さでコーナーの先へと消えていった。
宮原(チクショウ!コイツら信じられねぇ!めっちゃ速いじゃねぇか!しかもこのMR-Sなんなんだぁ!?すげぇいい音させてるじゃねぇか!この快音は2ZZか?)
キツい右を抜けると短い擬似的なストレート区間が現れる。さらにその先には再度左右にうねる様なタイトなコーナー区間となる。
序盤の上り区間をアクセル全開で駆け抜けてたっぷりマージンを稼いでいた弘道と小谷だったが中盤のコーナーが連続するテクニカルなセクションでは自慢の馬力を全開にはできていなかった。
コーナー進入時にチラリと何かに照らされる。
仲間が追いついたかと思った小谷だったが、脱出で大きく迫ってきたそれに瞬く間に射程圏内に捉えられる。
小谷「なにぃ!?あれは……FCにS14!もう追いついたってのか!(冗談じゃねぇ!何つー速さだ!あいつら全員捌ききってここまで来たのか!このあっという間に!?こっちは300馬力オーバーのチューンドだぞ!何故追いつける!?)」
弘道「嘘だろ!?ファンタジアの車がもう!?後ろの奴は全滅かよ!(まさかファンタジアのマシンは全員俺のマシンに匹敵する馬力でもあるのか?どうしてこんなに速いんだよ!なんで地元の俺に追いつけるんだ!?)」
次の左コーナーを抜けてさらに続けて右コーナー。
立ち上がってもう一度短いストレート。
後ろに迫る4台は車種が判別できるほどの距離までさらに差を詰めてくる。
深緑のFCに白いS14と180SXに青いMR-S、さらにその後ろにワンテンポ遅れてギリギリのところを置いていかれてたまるかと、妙義のプライドだけで粘る宮原の黄色いMR2が小谷のミラーに映り込む。
小谷「妙義の走り屋として、何とか前だけは守らなきゃいけねぇってのにこの煽られっぷりはたまんねぇよ……!」
馬力を生かして何とか立ち上がりで守り抜いているものの差は詰まる一方で食らいついて離れない。
300馬力超級となる2人のマシンは妙義の走り屋の中でも指折りのハイパワーを誇るが何も一番というものではない。
妖夢のFCも椛のS14も鈴仙の180SXも数字の上でさほど劣るものではない上に、この2人は技量に関して多少お粗末なところがあった。
流石に以前までのまともにドリフトも出来なかった程度のスピードスターズほどではないにしても、パワーに頼りすぎている感は否めないよく言えば力強い、悪く言えば力押しが過ぎる走りであった。
ドリフトもサイドブレーキを使ってしか出来ない上にアングルも対向車線にはみ出るほどに大きいためそれが抵抗となってしまい速度が落ちるので見た目ほどに速くもない。
マシン単体の馬力は互角かそれに近いクラスでありながら乗り手の技量はファンタジアの方が遥かに格上と来れば、地元の経験値を打ち消し覆す事は十分にあり得てしまう事だった。
コーナーを数個経てコース中盤のストレート区間に差し掛かる頃には守りきれずにファンタジアの4台全てに先行を許してしまう事となる。
弘道「負けた……!クソ、悔しいぜ!(だが流石にここまでされちゃあ認めるしかねぇよな。……いいマシンだぜ)」
小谷「やられた……。地元なのに……」
前方に遮るもののなくなった彼女たちはコーナー1つ過ぎるたびに遠ざかり、食い下がろうとする2人を置いて行ってしまった。
射程圏外に逃げられてしまい、戦意を挫かれて少しずつペースを落としていく2人の脇を対向車の70スープラが通り過ぎるとその数秒後、コーナーを立ち上がってヘッドライトの光が飛び込んでくる。
小谷(あれは……)
そのマシンは2人の真横を猛スピードで飛び抜けて行くと特徴的な丸目4灯のテールを赤く光らせて次のコーナーへと消えていった。
弘道(今のは毅のGT-Rだ。やっぱりアイツに任せるしかないのか……)
中里(地元の癖に初見の奴らに歯も立たないで全滅かよ。アイツらも不甲斐ねぇな。……とは言え、あの緑のFCと白のS14はオーラ持ちだ。高橋啓介とほぼ同等クラスかあるいは僅かに上回るレベルの走り屋相手にむしろよく頑張った方か?)
そう考えつつもアクセルを踏む足から力を緩める事なく加速していく中里とそのGT-Rは、その先にいるであろうファンタジアの車列に追いつくためにほぼ全開走行に近い攻め方で走っていた。
♪ BACK ON THE ROCKS / Mega Nrg Man
コースは後半のロングストレートを含む高速セクションへと突入する。
そのストレートで中里は大きく差を詰めて来ていた。
この後にコーナーをさらに2〜3個抜ければ、ようやく前方にそれらしき車を視界に捉えた。
ウィングを付けた青いMR-Sの前に180SXが、さらに差を詰めればその先にいるS14とFC3Sが中里には見えていた。
中里(アイツらが妙義の全てだと思われちゃ困る。ここは俺が本当の妙義の走り屋の走りってもんを教えてやる。どこまで耐えられるか、見せてもらおうじゃねぇか!)
早苗(背後に一台……?あれは、R32?)
椛(やっぱり来た。あれはリーダーの中里か?かなり速い。このマシンでどこまで出来るか、試させてもらおうかな)
そこでナイトキッズのリーダー中里の走りに興味の出た椛は一つ、彼の腕を試す事にした。
右コーナー立ち上がりで対向車がいない事を確認した椛は対向車線側にマシンを寄せると、アクセルをわざと抜いてハザードを焚いくことで合図を送り、後ろの鈴仙と早苗を先行させる。
2人の先行を確認した椛はそのまま走行車線側に復帰して徐々に速度を落とし中里を待つ構えを見せた。
中里(なるほど……。お前がそのつもりなら乗ってやる!がっかりさせるんじゃねぇぞ!)
前方の3台が逃げ切りを狙って離れていく一方で、椛のS14と後方のGT-Rとの差は詰まっていく。
2台が椛を先行、中里を後追いの形で並ぶと椛は再加速して続く左コーナーへと突っ込んでいく。
突っ込みは車体の軽い椛がブレーキングのタイミングを遅らせてギリギリワンテンポ速くに進入出来るが、立ち上がり加速では馬力と経験と駆動方式の優位を見せつけるように中里が圧倒していた。
椛(言ってた通り、ブレーキングでしっかり前に荷重を移してプッシングアンダーを殺しながらのグリップ走法……。中々の熱血漢らしいのに走りは堅実と来たか)
中里「クソ!カニ走りなんかしてる癖に中々やるじゃねぇか!(初めてでそこまで攻めれるなら上出来だ!認めるのは癪だが、中々に良い突っ込みしやがるぜコイツ!だが俺の走りはそんなもんじゃねぇ!もうすぐコース終盤のラストスパート、もっと追い込んで行くぜ!)
中里が愛車の380馬力を全開にして追い込みをかける。
椛(ペースを上げてきた……。ここまで来たら、前に出したくはない。最後まで逃げ切る!)
2台がほぼ同時に全開走行へと入る。
ハイペースで逃げる前方の3台に再びS14とGT-Rが近づくが、コースはあと1キロも残っていない上に残るコーナーはあと数個。
椛のブロックにより本来のラインで走れない中里は苦戦を強いられるが、続くタイトな左コーナーでインをこじ開けて奪うも続くコーナーは右。
再びインを奪い返されてオーバーテイクに失敗する。
ABSが作動するほどのガツンと叩き込むが如きブレーキングにインを抉り込む様な激しい突っ込み。
野生みすらも感じさせる、一見するとかなり無茶に見えるが決して破綻せず、中里の攻めにも耐え切るそのドライビングは中里をもってしても認めざるを得なかった。
だがバトルは唐突に終わりを告げる。
前を走る3台がハザードを点灯した事でコース最後の右コーナーに突っ込もうとしていた椛が左側の走行車線に戻りスローダウン。
中里もこの後に起こることを瞬時に察知し椛に続く形で走行車線に戻る。
そして現れたのは道の駅から登る他の走り屋たちの車だった。
S15シルビアと180SXの2台を頭に、AE92レビン、91スターレット、NBロードスターが間隔を置いて続く。
その後ろにもコーナーを照らすヘッドライトの光が見えていた。
それは妙義の他の走り屋たちだった。
先行する妖夢たちがこの車列の存在に気付き、バトルを中断させるためにハザードを点灯させて合図としたのだ。
中里(これからって時に水を刺されたが、まぁいいか。オーラを見れば一目瞭然だがやはりコイツも上手い!……ファンタジアは例の黒いFDだけじゃないってのがよく分かったぜ。ここ数日は俺を満足させるに足るレベルの走り屋がどんどん出てきて退屈知らずだ!……これだから走り屋はやめられねぇぜ!)
椛(何とか首の皮一枚繋がったってところかな?残りわずかなコーナー、地元最速のGT-Rを相手に最後まで前を守り切れるかは微妙なところだった。結果として、対向車の集団に救われる形になったな。……私もまだまだか)
中里から前を守り抜いた椛と、椛を追い詰めた中里。
ファンタジア陣営とナイトキッズを含む妙義陣営とでお互いの捉え方こそ異なるが、双方に「ナイトキッズは紛れもなくレッドサンズと並ぶ強豪の一角」「ファンタジアの実力は妙義においても健在。侮りがたし」とのイメージを刻み付けるに至っていた。
この日、ファンタジアとナイトキッズとのファーストバトルはこうして幕を閉じた。
何となく当て馬とか悪役とかにされがちなナイトキッズ(慎吾含む)とそのモブの面々ですが、本作では作者自身もかなり扱いに悩みました。
悩んで悩んで結果難産となりましたが、かなりマイルドな感じにする事を決定しました。
全ての業を背負ってもらうつもりのとあるチンピラ集団(これも作者お得意の元ネタありの半オリキャラ集団みたいな感じになる予定です)をのぞいて、出来る限り悪者を作りたくないと思ったのでナイトキッズにも活躍の場を用意していくつもりです。
が、それはまだもう少し先の話になる……かなぁ?
2023/09/25 9:45 誤字訂正。
2023/10/08 23:53 ナイトキッズメンバーの1人の名前を訂正。