東方頭文字D 〜 Lunatic Stage 〜   作:D-Ⅸ

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人名〈セリフ〉 ←電話越しの声です。

リクエスト(キャラ、車両、エピソード等問わず)はまだまだ募集中です。
感想や評価、または誤字誤植の指摘等もよろしくお願いします。


第25話 熱狂の秋名再び

7月某日、土曜日の今日は先週に続き走り屋たちの一大イベントである交流会の日だった。

一般の観光客や生活利用者が殆ど帰って行くのと同時に、まるで入れ替わる様にやって来た者たちがいた。

ギャラリーと走り屋たちだ。

早いものでは県外から来た走り屋が本番前の休憩として山頂の駐車場で仮眠をとっていた。

県外からの来訪者である事を示す相模ナンバーを付けたBH5レガシィツーリングワゴンの中で野郎3人が窓を小さく開けて雑魚寝状態である。

 

山頂の駐車場には彼ら以外にも数台おり、そしてその台数は増え続けていた。

まずは地元秋名の走り屋が乗るクイントインテグラRSiとギャランシグマ2000GSRターボ、R30スカイライン2000ターボRSが、次にファイヤーバーズを中心とした赤城の中小チームのワンビアとS14後期が2台と180SXが1台、アルテッツァが1台立て続けにやってくる。

さらに金山のチームステッカーを貼った31セフィーロツーリングNと三菱スタリオン2000GSR-V、桐生のチームステッカーを付けたZC31Sスイフトスポーツが2台、ぞろぞろ入ってくるとその後ろから数分おきに様々な車が秋名入りを果たしていく。

そして8時半過ぎごろの時間帯となると、下の旅館側駐車場やコース中盤にある展望台駐車場にも車が続々と現れ辺りを埋め尽くす。

そんな中で本日の主役たちも続々と姿を見せる。

 

ギャラリー1「来た!スピードスターズだ!」

 

まず来たのはスピードスターズだった。

池谷と吉村のS13に健二の180SX、守のA170ランサーEX1800GSRターボに滋のKP61スターレット、隆春のS12シルビアRS-Xに四郎のアルシオーネVRが一団を形成して駐車場に侵入する。

空いている一角に各々の愛車を止めるとその盛況ぶりに、池谷は思わずため息を漏らす。

 

翔一「この時間でこれかぁ……」

 

池谷「途中にフリー走行もあるとはいえ、バトルまであと1時間半も時間があるんだぞ」

 

健二「それなのにこの盛り上がりってのがすごいよなぁ」

 

四郎「あぁ、でもまだ空きも目立つしギャラリーも気を使って端に止めてくれてるからまだマシかも」

 

滋「それにしても緊張するよなぁ。今回の交流会はあっちが拓海を目当てにしてるとはいえ、一応スピードスターズとナイトキッズの交流会ってことにはなっているからな」

 

守「押しの強そうなアイツら相手に、フリー走行あたりである程度こっちの存在感出しとかないと地元としてはまずいかもな」

 

地元としての重責を肩に感じながらも、スピードスターズのメンバーもナイトキッズが来るまでの間はある程度気ままに過ごすこととした。

彼らがギャラリーに混じってこの場に集まったスポーツカーたちを見ていると、今度はレッドサンズが上がってくる。

 

ギャラリー2「おぉ!レッドサンズが来たぞ!」

 

ギャラリー3「白と黄色のセブンだ!間違いない!」

 

ギャラリー4「涼介様ぁ!こっち見て!」

 

ギャラリー5「キャーーー!啓介様ぁ!今日も最高よ!」

 

高橋兄弟の2台に続くのは中村賢太のオレンジのS14と杉本尚子のモンテゴブルーのFD、そして村田昌和の黄色いMR2だ。

啓介のFDは隣に須崎を、賢太のシルビアは隣に斎藤と後席に竹原を、尚子のFDは隣に兄である芳樹をと言った具合に、1人1台で来る事はなく車を出さないメンバーをそれぞれ隣に載せて来たのだ。

主役の一角として振る舞っていた先週の交流会とは違い、今回はほぼギャラリー目的であるために、台数を節約する目的でそうした手段を取っていた。

そしてそれはレッドサンズが来た直後にやって来たあるチームも同じだった。

 

ギャラリー6「来た!やっぱり来た!ファンタジアの車だ!」

 

ギャラリー7「これが高橋啓介を破った例のレディースチームか……」

 

ファンタジアだ。

今回は八雲紫のイノセントブルーのFDの助手席に藍が乗り、黒い魔理沙のR34 GT-Rの隣には霊夢が乗り込んでいた。

続くダークブルーパールの白蓮のR32 GT-Rの助手席には影狼が乗りその後席にはわかさぎ姫と赤蛮奇が、ミッドナイトパープルの一輪のR33 GT-Rの助手席にはナズーリンが乗り後席には古明地こいしと姫海棠はたてが、射命丸文の黒いR35 GT-Rの助手席に椛が乗り、白いアリスの80スープラの助手席には幽香が乗り、緑の妖夢のFCには幽々子が乗る。

そして、さらにその後ろにはヤマメの黒いFDと紅美鈴の赤いS2000が付いて来ていた。

合計9台、前回の半数以下とはいえ中々の大所帯であった。

 

イツキ「す、すげぇ!GT-Rがこんなに……」

 

隆春「こりゃあたまんねぇよ。最高すぎるぜ」

 

ギャラリー8「後ろのS2000もカッコいいぞ!」

 

ギャラリー6「居た……。あれが例の黒いFDだ!」

 

啓介「けっ……GT-Rか(どうせアイツらの事だ。腕は確かなんだろうが……。でもやっぱりGT-Rはやたらとアニキに突っかかってたあの野郎を思い出しちまう。どうにも見ててイライラするぜ)」

 

スピードスターズが止めている区画のさらに奥、最奥寄りの位置に空いていた枠に各々がピタリと収めると、それぞれメンバーが降車してギャラリーたちに顔を晒した。

後続のヤマメのFDからはヤマメとパルスィが、美鈴の赤いS2000からは紅美鈴とフランドール・スカーレットが降車した。

 

ギャラリー7「おぉ、みんな女の子だ!」

 

ギャラリー8「しかも超美人!」

 

ギャラリー1「な、言ったろ?見て損はないってさ」

 

イツキ「くぅー!カッコいい車と可愛い女の子のセットはサマになるよなぁ」

 

ギャラリー9「すごいや!早速見に行こう!」

 

昨今かなり珍しい女性のみの、しかもそれなりに規模のデカい走り屋チームとあってあっという間にギャラリーたちの視線を掻っ攫い注目の的となった。

先週を思い出す様な光景がまた形成されて、会場は一段と盛り上がりを見せていた。

 

ギャラリー1「すげぇ、GT-Rが32から最新モデルの35まで勢揃いだ!」

 

ギャラリー3「これ、君の車だよね?ちょっと見せてもらっていいかな?」

 

美鈴「えぇ、構いませんよ」

 

ギャラリー3「このS2000、アミューズのボンネットとリアスポイラーが付いてるぞ。高かったんじゃあ……」

 

ギャラリー6「このR35かっこいいぜ!生で見るとやっぱり写真にはない迫力があるぜ」

 

ギャラリー2「エンジンルームとか、見せてもらっても……?」

 

文「大丈夫ですよ。その代わり、後であなたたちの車も見せてくれませんか?少しお話もお伺いしたいので……」

 

ギャラリー6「ありがとう!もちろんいいぜ!俺のはあっちに止まってるカーボンボンネットの青のGC8で、こっちのはその隣に止まってる白の185型セリカなんだ。俺たちWRCのマシンに憧れて走り屋になったクチでさぁ、それで……」

 

ギャラリー9「この青いFDすげぇ!マジでカッケェ!」

 

ギャラリー7「ほぼ全身が純正オプションかマツダスピード製ってところがいいよな。社外エアロもいいけどこれはこれでいい味してるよ」

 

ギャラリー5「これが啓介様を負かした黒いRX-7なの?……これを倒して敵討ちすれば、啓介様も私を……」

 

そんな事がありつつも時間は流れていき、ついに時計の短針が9を指し示す頃、ついに彼らがやってくる。

 

ギャラリー11「黒い32Rだ!ナイトキッズが来たぞ!」

 

ギャラリー12「来た来たぁ!いい音してるぜ!」

 

ギャラリー13「やっぱりシルビアもGT-Rもいいよなぁ、かっこいいぜ!」

 

中里のGT-Rを先頭に数台の車が連なり入ってくる。

黒いS13や黒いS15シルビア、白いNCロードスターや黄色いMR-Sなどがゾロゾロと列を成し入ってくる。

ギャラリーたちがメインで止めている区画とスピードスターズの止めている枠の丁度中間に止めると、メンバーたちは出迎えのためにすでに集結していたスピードスターズの方へと向かった。

 

中里「俺は妙義ナイトキッズの中里毅だ。お前らが秋名スピードスターズであってるか?」

 

池谷「そうだ。俺は池谷浩一郎。秋名スピードスターズのリーダーだ」

 

それから各々のメンバーが簡単な自己紹介を済ませると、早速話題は今日のバトルの事となる。

 

中里「……早速フリー走行と行きたいところだが、一つ確認しておきたい。例のハチロクは見えない様だが、まだ来てないのか?」

 

健二「あぁ、実はまだなんだ」

 

池谷「後で電話かけてみる。あのハチロクの店の番号は俺が知ってる」

 

中里「分かった。最後のお楽しみって訳か」

 

池谷「立ち話してばかりじゃあれだし、それじゃあフリー走行にしよう」

 

中里「それもそうだな。……おい!お前ら行くぞ!フリーだ!」

 

ギャラリー10「おい聞いたな?……フリー始まるぞ!」

 

ギャラリー12「お前ら避けろ避けろ!車が出るぞ!道を開けてくれ!」

 

 

 

 

 

♪ GO WILD / Dusty

 

 

 

 

 

フリー走行の合図が出ると、ギャラリーが興奮を伴ってざわつき参加者たちは各々の車へと向かう。

 

正一「よし、ナイトキッズ出陣だ!」

 

吾郎「俺も出るぞ!」

 

章夫「気合い入れろよ!走るぞ走るぞ!」

 

ナイトキッズが喜び勇んでマシンに飛び込むと、続々とエンジンを回し始めた。

弾ける様な始動音と低く唸るアイドリングが秋名に響く。

 

池谷「よし、そうと来れば俺らも行こう!しっかりギャラリー沸かせてから拓海にバトンタッチだ」

 

健二「地元の秋名でよその奴らにばかり偉い顔はさせられないからな!行くぞ!」

 

四郎「俺たちだって少しは上手くなったんだ!妙義の奴らに秋名の走りを見せてやろう!」

 

続いて地元のスピードスターズが張り合う様にエンジンを始動させる。

妙義と秋名、二つのチームの車両が続々と動きを見せていく中で、他のチームや走り屋たちにも動きがあった。

 

啓介「アニキ、俺たちはどうする?」

 

涼介「ひとまず、俺はパスだな」

 

啓介「なら俺もだ。……尚子、健太、村田、お前らは?」

 

健太「啓介さんが行かないなら俺もパスで」

 

尚子「じゃあ私はちょっと走ってこようかな?……レッドサンズが走らないんじゃギャラリーも退屈しちゃうかもだからね!」

 

村田「俺も行こうかな。秋名はいい道してるし、楽しいからさ。ちょっくら妙義の奴らの背中つついて遊んでくるよ」

 

須崎「おう、いってらっしゃい」

 

芳樹「ナオ、途中で変わってもらっていいか?俺もちょっと走りたくなってきたよ」

 

尚子「うん。もちろんいいよ。……それじゃあ行ってくる」

 

レッドサンズは杉本尚子と村田昌和が、スピードスターズに続く様に出ていき……。

 

魔理沙「レッドサンズが出ていくみたいだし、私たちも行こうぜ」

 

一輪「私も行きますよ。聖もどうですか?」

 

聖「なら、私も行きましょうか。丁度第二世代の3台が揃いますからね」

 

文「私とはたてはインタビューがあるのでフリーは辞めときますよ」

 

妖夢「お嬢様、私も走りたいです」

 

幽々子「いいわよ、妖夢。行ってきなさい」

 

ヤマメ「じゃあ私も」

 

ファンタジアは一輪、聖、魔理沙、妖夢、ヤマメが出る事にした様だった。

そんなレッドサンズやファンタジアの様子を見て、我も我もと腕自慢の走り屋たちが名乗りを上げるように続々と駆け出していく。

その中に、泊と秋永もいた。

 

秋永「フリー走行、俺たちも走ってみるか」

 

泊「そうだな。行くか」

 

ファンタジアのGT-RにレッドサンズのFD、ギャラリーの100系チェイサーなど、次から次へと駆け出していく車たちを見送りながら、彼らも自身の愛車へと乗り込んでいく。

こうして、秋名は再び熱狂へと染まっていった。

 

 

 

 

 

● ● ● ●

 

 

 

 

 

最初にナイトキッズとスピードスターズが、次にファンタジアとレッドサンズの順で出ていきその後にギャラリー組の腕自慢たちが駆け出していく。

フリー走行はスタート直後から、ナイトキッズとスピードスターズが入り乱れての乱戦となっていた。

特に最初の一本目だけは対向車の存在を考慮する必要がそれほど無いため、最初で最後の楽しみとばかりに攻め込む走り屋は多かった。

上りの車両と下りの車両が入り乱れる2本目以降は対向車を想定して各1車線ずつのみ使って走ると言う決まりが、秋名のみに限らず多くの峠に存在しているため、この場にいる走り屋たちもその通りに振る舞っていた。

 

弘道「ちっ!秋名の走り屋も中々やるじゃねぇか!(ストレートでターボパワーを全開にしてガツンと突き放してもコーナーで少しずつ差が詰まる……古くて非力なS13前期でも、流石に地元って訳か!ついて来てるぜ!)」

 

池谷「今度こそ……今度こそはやってやる!(秋名には俺たちがいるって事を、ナイトキッズにもギャラリーにも見せつけてやらなきゃな!地元の俺たちがしっかりしなきゃあ、秋名が舐められるんだ!)」

 

正一「クソ!スピードスターズ、思っていたよりやるな!腕上げたって噂はマジみてぇだな(この俺でも振り切れないかよ!チクショウ!)」

 

健二「肝心の地元で俺らが引く訳には行かねぇ!やってやろうじゃねぇか!(最初の1本目だからこそ、ガッツリ飛ばして追い回してやる!やっぱり地元が情けない姿を見せる訳には行かないからな!)」

 

そんな中で、弘道のS15は池谷のS13と、正一のNCロードスターは健二の180SXとのバトルに発展していた。

各チーム入り乱れながらダウンヒルを駆け降りるその様子はギャラリーたちを沸かせるには十分な熱量を伴っていた。

 

ギャラリー14「始まったぞ!フリー走行だ!」

 

ギャラリー15「来た!ナイトキッズとスピードスターズだ!」

 

ギャラリー16「競り合ってんのか!?早速バトルなんて魅せてくれる!」

 

ギャラリー14「いいぞお前ら!かっこいいじゃないか!」

 

熱を持ち始めるエンジンにシンクロするが如く、 1コーナーから2コーナー、2コーナーから3コーナーと飛ぶ様に駆け抜けていく走り屋たちの姿にギャラリーからは歓声が上がり、秋名の峠に熱気が立ちこめた。

 

ギャラリー17「おぉ!さっそくオーバーテイクだ!ファンタジアのGT-Rが3台、並んでスピードスターズのランタボとナイトキッズの180SXをまとめて仕留めちまった!」

 

ギャラリー18「32、33、34が揃い踏みだぁ!こりゃあ痺れるぜ!」

 

ギャラリー17「このど迫力のRBサウンドの三重奏がたまんねぇ!来て良かったぁ!耳が幸せになるよ!」

 

ギャラリー19「後ろからまだまだ来るぞ!あの車は……レッドサンズとファンタジアのFDだ!その次はMR2とチェイサー!」

 

ギャラリー18「おぉ!あのFD、2人ともすげぇ!2台ビタビタのまま立ち上がって抜けてったぞ!さすがはファンタジアの選抜組とレッドサンズの一軍!ライン取りもうめぇ!」

 

そして泊と秋永が2台揃って通過する。

RB26の迫力あるサウンドに2Jの快音が重なる。

しかし、その2Jサウンドを奏でる車の姿にギャラリーたちは困惑していた。

 

ギャラリー20「な、何だあの車は!……ピックアップトラック!?」

 

ギャラリー19「見た事ねぇぞあんなの!」

 

ギャラリー21「何て車だぁ?分かる奴いるか」

 

ギャラリー17「分かんねぇ、何だアレ?」

 

ギャラリー22「ほう、あれはホールデンのユートですか。大したものですね」

 

ギャラリー23「知っているのか、雷電!……じゃなくて、サンダースのあんちゃん!」

 

ギャラリー22「ユートはFRと4WDのモデルがラインナップされているオーストラリア車で、見ての通りピックアップトラックです。しかし原型はクーペベースとなっていて、ピックアップトラックらしからぬ空力の優秀さが魅力ですね。このロングホイールベースの素体にワイドボディの仕様は回頭性を犠牲にするため、極低速域のタイトヘアピンなどを不得手とする一方で安定性に優れます。それにユートは素の状態でもそれなりに剛性がいい。この車なら大抵の車が持て余してしまうハイパワーな2Jも受け止めてくれるでしょう。また、この個体は荷台を塞いで空力を改善しつつ剛性を確保していますね。荷重の変動による急な姿勢変化を大柄で頑強なボディが抑えてくれるためにコントロール性も悪くは無いでしょう。その素性の良さとFRモデルがあると言った理由から、中にはドリ車のベースとして愛用する人もいるほどです」

 

ギャラリー21「な、なるほど……」

 

日本ではそうそうお目にかかれないレア車の登場もあり、その歓声は次第に大きくなっていった。

 

 

 

一本目はファンタジアのGT-R軍団が他を許さぬ快走を見せて最初に下りきると、その次に泊と秋永のペアが続き、その後にレッドサンズとナイトキッズとスピードスターズが団子状態にもつれたままフィニッシュ。

ヤマメはあえて尚子のペースに合わせて2台でドリフトさせながら下っていった。

最後にその他のギャラリーたちの車が続々と降りてくると言った具合で、2本目は上りの車両とと下りの車両が入り乱れてしまうため、各自走行車線のみを使った控えめなパフォーマンス走行にとどまったが、それでも多種多様な車たちと地域やチームの垣根を超えた数々の走り屋たちが峠を駆け抜けていく様子はギャラリーたちを大いに満足させていた。

 

 

 

 

 

● ● ● ●

 

 

 

 

 

それから十数分後、フリー走行のために駆け出していったりまたは戻って来ては再び折り返したりしていく走り屋たちに熱狂するギャラリーをよそに、高橋涼介はファンタジアのメンバー達のたむろする中からひとっ走り終えて再びこの駐車場に戻って来たヤマメを呼び出し、ある話を持ちかけようとしていた。

 

涼介「黒谷、わざわざ呼び出してすまないな。突然になってしまうが、少し頼みたいことがあるんだ」

 

ヤマメ「……どうしたの?涼介。」

 

涼介「一応昨日の晩に上白沢とは一度電話で話したんだが、本人に聞いてみてくれと言われてしまってな。……今回の中里と藤原拓海のバトル、啓介を隣に乗せて2人の後ろを走ってみてくれないか?」

 

確かに突然の申し出ではあったものの、前回の追走の動画にレッドサンズのメンバーがやたらに食いついていた事をFD3S繋がりの友人でもある尚子や芳樹から聞いていたヤマメとしては理解できない話ではなかった。

要するに、あれをもう一度、今度は涼介ではなく啓介の目で、と言う事なのだろうと言う事は何となくは察せていた。

 

涼介「……啓介に勝ったあのハチロクを、啓介自身の目で観察する機会を与えてやりたいと思ったんだ。敗北を経験して驕りが見えていた精神面での欠点は多少マシにはなったが、かと言って啓介自身の運転ではまだあのハチロクの全開走行には追随しきれないだろう。だからこそドライバーは他の誰かにさせる必要があった訳だ。そこで、お前ならもしかしたら……と思ったんだ」

 

ヤマメ「話は分かるけど……なら、涼介が走れば良いんじゃない?わざわざ他のチームの私を指名しなくても、涼介なら拓海くんにも、もちろん私にも劣らない走りが秋名でも出来るはず。……でしょ?」

 

涼介「随分と高く評価してくれているな。……確かにそれでも可能だ。だが、それではファンタジアの利にはならないと判断した。……先週の交流会の時は俺が隣に乗せてもらう立場であったし、走行時に撮影した貴重なデータまで複製して分けて貰った。俺たちにもそれなりにメリットのある策を練って実際に一枚噛ませてもらった以上は、こちらもそれ相応の利を与えて配慮をする必要があると思っただけだ」

 

ヤマメ「まぁ、拓海くんの走りに興味があるのは私も同じ。後を追う機会があれば欲しいと思ってたところよ」

 

涼介「なら、頼めるか?」

 

ヤマメ「もちろん、啓介を乗せて走る分には構わないよ。ただし私は慧音みたいにチームでも別格に速いわけじゃないから先週の時みたいにできる保証はないかな。それでもよければ引き受けるよ」

 

涼介「なら、本番はよろしく頼む」

 

ヤマメ「うん。私も出来る限り頑張ってみるよ」

 

こうして、ヤマメと啓介のペアの出走が密かに決められた。

 

涼介(無論、負けた分の借りを忘れた訳じゃない。それはいずれ俺自身の手で返したいと言う思いに嘘はないが、こっちの別な意味での借りも返さないわけにはいかないからな。貸し借りの問題は後で話を拗れさせない為にも、面倒の種にさせないためにも、出来る限りイーブンであるべきだ。……何より、ファンタジア側がこちらにある程度友好的な態度で接してくれている上に、うちのメンバーに対してもいい刺激となってくれている現状で、下手に敵意やライバル心を出して対立姿勢を明らかにしたところで側から見れば大人気なく見えるだろうし、こちらとしてもメリットもないからな)

 

涼介の元から離れて弟の啓介や杉本兄妹やギャラリーとして訪れた他のマツダ乗りやロータリー使いたちとの会話の輪に入っていき、にこやかに雑談を始めるヤマメの姿を遠巻きに眺めながら涼介は静かに考えを巡らせた。

 

 

 

 

 

● ● ● ●

 

 

 

 

 

フリー走行もひと段落した9時半過ぎ。

本番のバトルまでは30分を切っていたが未だに姿を見せない秋名のハチロクに対して、ナイトキッズやスピードスターズだけに止まらず会場全体がソワソワとした空気感に包まれていた。

 

池谷が本人の自宅である藤原とうふ店へと電話をかけると、出たのは父の文太ではなく拓海であった。

何と拓海はまだ家にいるらしい。

 

拓海〈その……バトルの件なんですけど……〉

 

池谷「何だ?どうした?……何かあったのか?」

 

拓海がかなり言いづらそうにしている事から途端に不安に駆られる池谷だったが、次に続く言葉に衝撃を受ける事となる。

 

拓海〈実は、親父が何も言わずにハチロク持ってっちゃって、まだ帰って来てないんです〉

 

池谷「なっ……!う、嘘だろぉ何だよそれ……」

 

思わず叫びそうになるも、咄嗟にナイトキッズに聞かれたらまずいと思った池谷はその絶叫を何とか押し殺すことに成功してそのまま話を続ける。

もうこの期に及んで出れませんは流石に通用しないが、かと言って肝心のハチロクがないのでは話にならない。

 

池谷「くそー!こんな事態は予想外だったなぁ……。うーん、どうにかならないか?今夜の山はとんでもない大騒ぎなんだ。ナイトキッズと俺らスピードスターズだけじゃ無い。レッドサンズもファンタジアもみんな来てて凄い事になってんだ。他にも碓氷や桐生みたいな県内のチームはもちろん、秩父や大垂水の県外から来てる走り屋だっている。水戸や長野のナンバーだってここから見える。一番遠いところじゃ熱海ナンバーのワーゲンまで来てる。みんな拓海が目当てで来てるんだ」

 

拓海〈そう言われても……。一応心当たりのある親父の行きそうな飲み屋とかには電話したんですけど全部ハズレで……。もし親父が来たら俺が呼んでるから戻ってくるようにとだけは伝言を頼んでおきましたけど〉

 

池谷「な、なぁ……もし良ければなんだけどさ、俺らの誰かから車借りて走るってのはどうだ?俺や健二の車ならハチロクよりもパワーがあるぞ。それに駆動方式も同じFRだからそこまで挙動も違わないだろうし……」

 

拓海〈ダメですよ、先輩〉

 

池谷「え……ま、まぁそうだよな。拓海が普段乗ってるのはNAで、ターボじゃ無いし、CA18やSR20のターボって結構ドカンと来るタイプだし……。しかも俺のはタービンちょっと弄ってハイフロー化して貰ってるからなおさらドッカン具合はでかい。……それじゃあこれならどうだ?この前あったファンタジアのにとりちゃん!彼女のハチロクを借りよう。それなら同じ車種だし彼女の車はNAエンジンだ。パワーがありながらターボのデメリットもない。俺がどうにか向こうに頭下げて頼み込んでみるからさ」

 

拓海〈先輩、そう言うことじゃ無いんですよ。俺、他人の車じゃ走りませんから〉

 

池谷「……確かに、そりゃあそうだよな。大事な交流戦で、自分の愛車が使えないからって他人の車借りて戦うなんて、あんまり褒められたことじゃないか……」

 

拓海〈……別にそう言う話でも無いんですけど、まぁいいや。とにかく俺は他人の車でバトルに出るつもりはないですよ。いつものウチの車じゃなきゃだめなんです〉

 

池谷「そうか……」

 

その言葉に明らかな落胆を見せる池谷。

貸し1と引き換えにファンタジアのナンバー2である藍の協力を得て、何とか拓海をその気にして参戦させることには成功したものの、そこで油断してしまったのがいけなかったのか、まさかの「車が無くて戦えません」と来たものだから頭を抱えてしまう。

こんなことになるとは思いもしなかったのだ。

これからナイトキッズやギャラリーにどう言えばいいのやら分からず、脳みそをレブリミットまで全開で回すものの出てくるのは「もうどうにもならない。現実は非情である」という事実上の死刑宣告と冷や汗ばかり。

 

拓海〈一応、ギリギリまで待ってみますよ。……とは言っても、ウチの親父は一度飲みに行ったらほぼ毎回朝帰りなんで99%諦めてますけど〉

 

拓海のその言葉が追撃となって池谷の心を打ち付けた。

 

池谷「そんなぁ……なんてこったー!こんなの悔しすぎる……ッ!」

 

拓海〈なんて言うか……その……期待に添えなくて、すみません〉

 

拓海が行けなくなってしまい詰みの状態に陥り一気にお通夜モードなる池谷だったが、まだ運命の女神は彼を見捨ててはいなかった。

 

拓海〈…………あ、帰って来た〉

 

池谷「え?」

 

咄嗟の事でよく聞き取れなかったために思わず聞き返す池谷。

 

拓海〈国道を曲がって帰ってくる時の2回吹かすあの音とリズム……。親父の車だ。親父が帰って来た〉

 

それを聞くと池谷は瞬く間に調子を取り戻し、青くなりかけていた顔色も復活していく。

 

池谷「ほ、本当か!?エキゾーストだけで分かるのか?」

 

拓海〈分かりますよ。絶対間違いない〉

 

池谷「た、助かったぁ……!」

 

拓海〈これで、無事にバトルには行けそうなんですけど、38分過ぎ……もうそろそろ40分は回りそうだし、今から準備して向かってもちょっと10時までには間に合うかどうかは分からないので、向こうにも事情を話して少し待って貰って良いですか?こっちもすぐに親父に話し付けて、出来る限り早くに出て行けるようにはしますけど。……それじゃあ、電話切りますね。先輩、山頂で待っててください〉

 

 

 

池谷「分かった。その辺のことは任せておけ。じゃあな、拓海。……頼むぞ」

 




またもや丸1ヶ月の感覚が……。
投稿遅れてすみません。

今回はこれまたちょい出しリクエストキャラやネームド化モブ、オリキャラに東方キャラが入り乱れててんやわんやで書き分けがががが……。
でも自分で始めたことだし書いててなんだかんだで楽しいからヨシ!

2023 / 2 / 7 2時30分
誤植部分の訂正。

2024 / 11 / 02 21時47分
誤字訂正。

2024 / 11 / 02 21時51分
誤植部分の訂正。

2024 / 11 / 03 22時51分
誤字訂正。
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