東方頭文字D 〜 Lunatic Stage 〜   作:D-Ⅸ

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ついに拓海くんの登場です。

リクエスト(キャラ、車両、エピソード等問わず)はまだまだ募集中です。
感想や評価、または誤字誤植の指摘等もよろしくお願いします。


第26話 揃う役者

 

拓海は池谷からの電話を切ると、ハチロクの帰還を知らせるエキゾーストを奏でながら戻って来た父の文太を店先まで出て迎えるべく、ギシギシと軋む階段を駆け降りた。

免許証の入った長財布をズボンのポケットに突っ込み、脱いでいたスニーカーを履いて玄関の戸を開け、生暖かい7月の夜風を浴びながら外へと出る。

 

店の脇に止められたハチロクに、逸る心を隠す事なく駆け寄る様に近づくと、いつものボヤッとした顔の文太が運転席のドアを開けながら顔を覗かせた。

 

拓海「こんな時間まで、どこ行ってたんだよ親父……」

 

文太「まぁ、ちょっとな」

 

文太らしいと言えばらしい、そのパッとしない返しに思わずため息の漏れる拓海。

 

拓海「この後すぐに用事が入ってるんだ。今すぐハチロク借りていいかな?」

 

文太「なんだ、またどこぞの走り屋とバトルでもするのか?」

 

拓海「……うん。……まぁ、そうだけど」

 

文太「……分かった。そう言うことなら構わねぇ。乗って行きな」

 

拓海「ありがとう、親父」

 

あっさりと承諾する文太。

拓海はエンジンがかけっぱなしのハチロクのシートに座ると、そのままドアを閉める。

 

拓海「……なぁ、親父。……GT-Rって、速いのか?」

 

ふとそんなことが溢れた。

今更聞いても大した意味のないことくらいは分かっていたが、拓海は聞かずにはいられなかった。

 

文太「……まぁ、速いだろうな」

 

拓海「俺……勝てるかな?」

 

文太「心配すんな。秋名の下りに限って言えばお前よりも速いやつなんかそうそういねぇだろう」

 

拓海「行ってくる」

 

文太「……あぁ、行ってこい」

 

エンジンを吹かすとハチロクが走り出す。

文太の目の前からテールランプが遠ざかっていく。

 

文太「……やっぱり、今度はGT-Rか」

 

いつもと変わらぬ仏頂面のまま、文太は小さくつぶやいた。

 

 

 

 

 

文太の見送りを受けて、拓海はハチロクを走らせていく。

目的地はいつもの配達で訪れる秋名山。

しかしそのいつも訪れる見知ったはずの秋名山は、またいつもとは違った顔を見せてくれるだろうと拓海は予感していた。

前回のあのバトルの時に感じた不思議な高揚感が、秋名山を目指してハチロクを走らせる拓海の胸に再び芽生えていた。

 

 

 

 

 

● ● ● ●

 

 

 

 

 

池谷「……と言う事が今さっきあったんだ。今から親父さんに事情話して車借りてこっちに来るにしても10時はちょっと過ぎちまうかもっていうから、その間少し待って欲しいって……」

 

中里「あのハチロクが借りもんだってのにも驚いたが……。それにしても、主役は最後に……か。大した役者だぜ。とにかく多少遅れようが来てくれるんなら問題ねぇ。必ずしも時間きっちりに始められるとはこっちも考えてなかったからな」

 

紫「まぁ、そう大きく出れるだけの腕が彼にはあるのだから、私としては異存はないけどね」

 

涼介「……しかし、この数のギャラリーをどうするかだな」

 

池谷は秋名のハチロクが少し遅れるかもしれない事を対戦相手のナイトキッズと、親交のあるレッドサンズとファンタジアにも伝え、フリー走行の時間を少し延長したいという旨を伝えていた。

 

中里「ならせっかくの交流会だ。フリー走行の時間を伸ばすんじゃなくて、即興で組ませてバトルさせてみるか?今日連れて来たメンツにもフリー走行以外の見せ場作ってやりてぇからな。ギャラリーの参加もいいって事にしておくから、お前らの中でも走りたい奴がいるならコイツらの相手をしてやってほしい。……そういう訳だ、お前ら出番だぞ!」

 

弘道「本当か!?毅!」

 

正一「俺らもバトルできるって!」

 

中里「あぁ、俺だけ走ったんじゃつまらねぇだろ。お前らも派手にかましたくてウズウズしてんじゃねぇのか?」

 

正一「おうよ!」

 

章夫「さすが毅!話が分かる!」

 

紫「なら私たちがたまに使うやり方でやってみるかしら?これなら短時間でそこそこの人数を出走させられるし、短い間隔で次々に車が来ることになるからギャラリーを沸かせるにはうってつけのはずよ。麓の豆腐屋からここまでならそれほど時間はかからないでしょうから、案外ちょうどいいかもしれないわ」

 

涼介「よし、聞こうか」

 

池谷「どう言うやり方なんだ?」

 

藍「それに関しては、私が経験した事のあるルールですので説明は私が」

 

そのルールを要約するとこう言うものだ。

とは言っても割と簡単で、スタートは先行後追い方式で馬力の勝る車を頭に前後2台が並んでスタートする形式で、そこから対戦する各組が前の組のゴールを待たずに一律20秒間隔で次々とスタートしていくと言うものだ。

これは走り屋チームの抗争が多発していた公道レース黎明期の妖怪の山で発生したルールであり、主に集団戦を短時間でこなすやり方として普及したものだ。

 

勝敗の判定も簡単で、先行が抜かれるか、後続が千切られたら負けとなる。

千切られたと判定される車間は約5間から7間ほどで、これはメートル法に直せば約10メートル前後と意外にシビアだ。

目測の基準としては先行車のリアバンパーから後続車のフロントバンパーまで、普通自動車2台から2台半以上、ガードレールの支柱2本分より少し長い程度の差をつけられてゴールしたら後続の負けという事になる。

 

逆に先行車が後続に対してそれ以下の車間しか稼げず、両者が近接していてもつれたままゴールした場合は引き分けか、あるいは後追いの判定勝ちとなる。

今回の場合は引き分け判定を採用する。

なお、後続車がフロントバンパーで先行車のリアバンパーをしばいたら勝ちという変わった勝敗の判定法を用いた変則バトルもあるにはあるが、こちらも今回は不採用とした。

 

ちなみに、これに関しては説明を省略したが、先行した組の車両が20秒の差を埋められて後続の組の車両に追い付かれた場合は問答無用の失格となり、無条件で前を譲らなければならないと言うルールもある。

これの前例となったのは椛のS12シルビアと文のバラードスポーツCR-Xのダウンヒルバトルで、この2人が先行してバトルする河童と天狗の走り屋を仲良くぶち抜いてしまったがために新たに策定されることとなった。

 

藍がこれを発祥とその経緯などを省きながら、ルールの要点だけをかなり簡潔に、手短にまとめて説明する。

 

中里「分かった。それで行こう。……聞いてたな!お前たちもそれでいいか」

 

正一「あぁ、構わないぜ」

 

弘道「おうよ、毅!」

 

中里「なら3番勝負だ!安井、藤巻、平!今すぐ車並べろ!お前たちから順番に走れ」

 

その後、即興で対戦カードが組まれることとなったがこれは数分とかからず極短時間ですんなりと決まった。

ファンタジア、スピードスターズ、レッドサンズから各1名の立候補者が即座に現れていたからだ。

 

一輪「なら私が走りますよ。久しぶりにバトルがしたかったので」

 

池谷「俺も走ろう。こう言う肝心な時にこそ、地元の出番だろ。……それに、さっきのバトルの続きをしたい」

 

村田「じゃあレッドサンズからは俺が出たい。妙義のMR-Sと戦おう」

 

章夫「レッドサンズのMR2か……。上等だ!望むところだぜ!ミッドシップ使いの群馬頂上決戦と行くか」

 

レッドサンズの村田昌和は本人の希望もあって、お互いライバル関係に当たるナイトキッズの平章夫とのミッドシップスポーツ対決に挑むこととなった。

ファンタジアの雲居一輪は中里を除けばナイトキッズで最もパワーのある車に乗る安井弘道のS15(350馬力)を相手に選び、残る池谷は藤巻正一のNCロードスターと戦うこととなった。

 

こうして1分と経たずにすぐ組み分けが終わる。

スタート順はファンタジアの一輪のR33 GT-R(470馬力)を先行に弘道のS15(350馬力)を後追いとする日産ハイパワー組、次はレッドサンズ村田のMR2(220馬力)を先行に章夫のMR-S(160馬力)を後追いとするミッドシップ組、そしてスピードスターズ池谷の前期S13(210馬力)を先行に正一のNCロードスター(190馬力)を後追いとするFR組となった。

 

時計の針が50分を回ったことを示す頃、ついにバトルは始まった。

 

拓海の遅れを埋めるためにエキシビションマッチが急遽組まれることとなり、再び数台のマシンが前後にならびスタート位置につく。

 

ギャラリー1「お、なんだ?ぞろぞろ車が出てきたぞ?バトルすんのか?」

 

ギャラリー2「本番前の前座らしい。ナイトキッズがスピードスターズとファンタジアとレッドサンズの3チームを相手にバトルするってさ」

 

ギャラリー1「おぉ、いいねぇ!そりゃあ楽しそうじゃないか」

 

ギャラリー3「複数のチームが絡み合うバトルも乙なもんだよなぁ。来て良かったぜ」

 

???「ファンタジアはR33が出るのね。勝つか負けるか、お手並み拝見ね」

 

ガヤガヤと騒ぎ出すギャラリーの中に1人、眼光鋭くファンタジアの面々を見つめる1人の女性がいた。

薄手の茶色いサマージャケットの下、腰からキーチェーンと共に顔をのぞかせぶら下がるその鍵は、トヨタの100系チェイサーのものだった。

 

 

 

 

 

♪ UP & DANCE UP & GO / LOU MASTER

 

 

 

 

 

史浩「GO!」

 

カウントを終えてスタートの合図が出るとスカイラインGT-RとシルビアスペックR、RB26改とSR20改、日産の名車が名機を携え、雄叫びを上げながら走り出す。

 

隆春「一輪ちゃん頑張れー!」

 

正一「行ってこい弘道!」

 

章夫「R33がなんだってんだ!ぶっちぎってやれ!」

 

ギャラリー2「よし始まったぁ!バトルの時間だぁ!」

 

ギャラリー3「すっげぇ加速で飛び出してったぞ!めちゃくちゃはえぇ!2台ともアクセル全開だ!」

 

ギャラリー4「ハイパワー同士のガチンコバトルだ!迫力あるぜ!スキール音が痺れるぜ!」

 

一輪は白蓮の指示でグリップ走法縛りで、弘道はサイドブレーキを使ったスタンダードなスタイルのドリフトで1コーナーに突っ込んでいくが、流石にR32から大幅な性能向上を果たしたR33 GT-R相手にはいくら軽さが効くと言われる峠のステージでも分が悪く、徐々に差を開けられていく。

 

一輪(重量のあるロングホイールベースのマシンの特性上、低速コーナーはやや厳しい。その辺りはシルビアの方が有利。……でもそれを何とかするのが私の仕事。そのためのドライバー。……乗り手がしっかり仕事をしてこそ、マシンも力を貸してくれる。走ることもお寺の修行も本質的には一緒。自分がやるべき仕事をただ真面目にやる。そうすれば、結果は自ずとついてくる。……だって、車は裏切らないから)

 

弘道「くっ……!加速もすごいがコーナーでも離される!(俺のパワーが……ドライビングが通用してない!?まるで毅を相手にしてるみたいだ……めちゃくちゃうめぇ!超はえぇ!こんなバカっぱやのマシンが本当に日産の失敗作だと?冗談キツいぜ!世間サマの評価ってもんがいかに下らねぇか身に染みるってもんだ!)」

 

R33を駆る一輪がドリフトを縛られている事で、その車重が響くヘアピンなどの低速コーナーへの突っ込みでは多少差を詰められるが、それでもテクニックと馬力に勝る一輪とR33に弘道とシルビアは追いつけず、スケートリンク前ストレートでお互いがパワーを全開放する頃にはその差と勝敗は明らかとなっていた。

 

弘道も意地を見せて慣れない秋名の峠を果敢に攻め込みギャラリーを沸かせるも、結果は8.73秒の大差をつけて一輪が勝利した。

 

 

 

 

 

魔理沙「GO!」

 

最初の組のスタートから20秒後、後続のレッドサンズVSナイトキッズのライバル対決。

お互いにミッドシップ使いであるためにバトル前からバチバチと火花を散らしていた両者が同時にアクセルを踏み締め飛び出した。

 

啓介「行け!ナイトキッズなんかに負けんじゃねぇぞ!」

 

ケンタ「村田、勝ってこいよ!」

 

正一「レッドサンズにゃ負けられねぇ!頼むぜ章夫!」

 

小谷「妙義の意地見せて来い!レッドサンズのケツ蹴っ飛ばしてやれ!」

 

それぞれのメンバーたちからの声援を受けて走る2台がコーナーへと突っ込んでいく。

MR2の方がパワーがあるために開幕こそ村田が優位であったが章夫のMR-Sも必死に食い下がる。

ミッドシップ乗りとしてのプライドがある2人としては互いに落としたくない一戦、双方が死力を尽くした全開バトルになるのは必然だった。

 

ギャラリー4「来たぞ!鋭い突っ込み!流石にミッドシップだぜ!」

 

ギャラリー5「レッドサンズもナイトキッズも良い腕してるなぁ」

 

ギャラリー6「あぁ、お互い伊達に地元で最速名乗ってねぇ!クリッピングもバッチリだ!コーナーの立ち上がりも綺麗に決めたぞ!」

 

ライバルチーム同士の2人の全開走行にギャラリーたちも盛り上がる。

 

村田「俺の肩にはチームのプライドと期待が乗ってんだ!一歩も退かねぇ!譲るもんか!(1世代先の車買ったからって速いわけじゃねぇ!型落ちの古い車で次世代の車に勝ってこそ燃えるってもんだろうが!)」

 

章夫「パワーが上だからっていい気になってんじゃねぇのか!トータルで速く走れてこその走り屋だろうが!(今に見てろよ……!そのケツこじ開けてぶち抜いてやる!……それになぁ、俺の乗るMR-Sこそが、トヨタミッドシップの最高傑作なんだよ!型遅れの出る幕はねぇ!今からそれを教えてやるよ!)」

 

車はガソリンを、乗り手は闘志を燃やして2台は夜の峠を駆け抜ける。

赤城のレッドサンズ、妙義のナイトキッズ。

群馬の二大勢力としての意地が2人にはあった。

 

ギャラリー7「良いぞ良いぞ!2人ともイカすぜ!魅せてくれるじゃねぇか!」

 

ギャラリー8「なぁ、どっちが勝つと思う?」

 

ギャラリー9「俺はレッドサンズの逃げ切り勝ちに賭ける!」

 

ギャラリー7「俺はナイトキッズが勝つと思う。パワー差を埋めて勝ってくれたら熱いじゃねぇか」

 

このライバルチームの宿命の対決はギャラリーたちを大いに盛り上げた。

お互いのホームである赤城や妙義ではそれぞれの地元を守りぬいて勝ち星を上げていたレッドサンズとナイトキッズだったが、両チームどちらのホームでもない秋名ではどう転ぶかわからなかった。

その場その場で即興で賭けが行われ、そのギャラリーたちの声は途切れることがなかった。

 

村田のMR2と章夫のMR-Sはもつれたまま走り続け、スケートリンク前ストレートでパワーの利を生かして村田がリードするが、ストレート終点のブレーキング勝負で章夫が差を詰めた。

しかし立ち上がりでテールが流れてしまったせいでもたついたために再度村田がリードを広げるという一進一退の展開となる。

こうして以降のテクニカルなセクションへと突入していく2台。

続いて左右にうねるコーナーを抜け、ついに後半の連続ヘアピンに突っ込んだ。

 

お互いにホームコースではないとはいえ、ここに来て過去に高橋涼介から受けた敵地攻略の指南と先週から今週までに至る練習走行の成果が村田を助けることとなる。

 

村田(相手は徐々に離れてる。チューンも練習も、無駄にはなってないんだ!このままミスなく駆け抜けるだけでいい。いつも通り力を出し切って、勝ちに行く!前を守り抜け!突っ走れ!高橋兄弟だけじゃないんだってところをギャラリーに見せなきゃ行けないんだ!俺たちだって、レッドサンズなんだ!プライドってもんがあるんだよ!)

 

章夫「クソ!ここに来て離される!(後半になる程にキツくなる勾配とこのタイトなヘアピンの組み合わせが想像以上に厳しいぜ!回頭性のためにスタビリティを犠牲にしたミッドシップじゃあ、少し踏み方をミスっただけでさっきみたいにとっ散らかると分かっちまうだけに……どうしても突っ込みが甘くなる!……まだ踏める、もっと突っ込めると分かっていても、俺の方が勝手にブレーキをかけちまう!余計なマージンを削り切らずに残しちまう!……だけど目の前のアイツは俺のコーナリングスピードを僅かに上回る速度で抜けていく!……走り屋の見せ場の連続ヘアピンで、コーナーで……よりにもよってレッドサンズのMR2相手に負けるなんて、こんなに悔しいことがあるかよ!)」

 

章夫はヘアピンで差をつけられたことに焦ってしまい、そこから先は精彩を欠いていってしまう。

最終コーナーを通過しゴールするまでにさらに差を広げた村田が勝利する結果となった。

車間距離は歴然で、タイムにして2.74秒の差があった。

 

 

 

 

 

フランドール「GO!」

 

そしてミッドシップ組のスタートからさらに20秒後、池谷と正一が走り出す。

アクセル全開のフル加速。

2台のエンジンが咆哮を上げて車体を前へと蹴り出した。

 

イツキ「センパーイ!頑張ってくださーい!」

 

翔一「頼むぜリーダー、勝ってくれよ!」

 

姫「頑張ってね!池谷くん!」

 

須崎「池谷!応援してるぜ、頑張れよ!」

 

吾郎「行け正一!」

 

小谷「頑張れ!負けんなよ!」

 

重量や馬力がほぼ同等のクラスに属しており駆動方式も同じFRである2台だったが僅かに池谷のシルビアの方が馬力が高く、なおかつターボを搭載しているために直線加速で優位に立つことに成功していた。

 

池谷「よし、徐々に離れていく……直線加速ならシルビアの方が上だ!(ここで稼いだマージンを生かして逃げ切ってやる!地元秋名のプライドにかけて、何が何でも前は守り抜く!……何のために俺たち腕磨いてきたと思ってんだ!こう言う時のためだろうが!むざむざ負けてたまるかよ!)」

 

正一「クソ!出遅れたか!……だがまだ始まったばかりだ。じきにぶち抜いてやる!(馬力は殆ど同クラス、重量だって大差ない。排気量じゃむしろこっちが上でも、やっぱりターボのある無しは響くか!だが俺だっていっぱしの走り屋だ!ファンタジアやギャラリーの女の子たちに良いところを見せるためにも、カッコ悪い走りはできねぇ!地元の奴をぶち抜いて、男ってもんを見せてやる!)」

 

1コーナー、2コーナーと抜けていき前半区間の第一ヘアピンも無事にクリアしていくがここで僅かに池谷の方が差を広げていた。

 

ギャラリー8「来たぞ!こっちも接戦だぁ!」

 

秋名の走り屋1「池谷ぃ!地元の意地見せたれぇ!」

 

やはりギャラリーたちの声援も地元の池谷を推す声が多かったがそんなアウェーの中であってもナイトキッズの正一は引き下がることはなかった。

伊達に実力主義的な風土のある妙義で第一線を張ってはいない。

これ以上突き放されまいと必死に喰らいつく。

 

池谷はスケートリンク前のストレートでは直前のコーナーで多少お釣りをもらって姿勢を乱してしまったせいで立ち上がりが遅れてしまい、車速が伸ばせず後方のロードスターに追いつかれてしまった。

こちらのバトルも後半までもつれにもつれてしまう。

スケートリンク前ストレートのブレーキング勝負でも突き放しに失敗した池谷はここで窮地となってしまう。

 

背後に迫る正一の白いNCロードスターはストレート直後の左右に蛇行するコーナー群で積極的に仕掛けていく。

 

池谷「クソ……。まずったな(ヘッドライトの光が眩しい。すぐ背後に相手がいるってのがヒシヒシ伝わってくるし、プレッシャーも感じる。……だがもしかしたらこの状況は使えるかもしれないな。何せ秋名にはいくつかミスを誘発するような危ない場所がある。そこに乗っかるだけで一気に荷重が抜けてラインがブレて、立て直しのために減速を強いられるような場所が。そのうちの一つはもうすぐそこにあるんだ。俺が頭を取り続けている以上、ラインの選択権は俺にある。……悪く思うなよ!これが地元の戦い方だ!)」

 

 

 

 

 

♪ GET YOURSELF THE REAL THING / LUO MASTER

 

 

 

 

 

正一「追いついたぜ(上手くミスに付け込めたおかげでようやく射程圏内に入った!大した事ねぇなぁ、地元の走り屋も。ぶち抜いてやる!)」

 

右左右左とうねるコーナーを一つ、また一つと抜けていくS13シルビアとNCロードスターの2台。

しかしシルビアの後ろのロードスターはアウトから被せるか、インを掻っ攫うか、虎視眈々と狙いを定めていた。

連続する中高速コーナーの最後、直後にヘアピンを控える左の中速コーナー。

そこで正一が襲いかかる。

 

正一「(貰った!インを気にし過ぎてアウトがガラ空きだ!これなら被せられるぜ!)おりゃあ!行ったれぇ!」

 

池谷はインは渡さないとばかりに思いっきりインベタに寄せる。

下手にサイドを引いてドリフトさせるよりもグリップで走った方が速いためグリップのまま。

だがそのおかげでアウト側がガラ空きとなる。

そこを逃さず正一はアウトをなぞるようにラインを取って被せにかかる。

 

……が、それが罠だった。

地震などの地殻変動の影響か、それとも木の根が地面を押し上げるなどの何らかの悪さをしたのか、コーナーのアウト側にある僅かな路面の歪みに、ロードスターは左リアタイヤを取られてしまう。

一気に荷重が飛び、グリップがすっぽ抜ける。

ほんの一瞬だけリアの流れたロードスターは遠心力に対抗できなくなりラインが一気にアウトにはらんでいく。

立て直しが僅かに間に合わなかったために、ロードスターはカツンとガードレールにテールランプを軽く接触させ、レンズを割って部分的に欠けさせた。

 

正一「なっ……(し、しまった!俺としたことが……ミスっちまったぁ!)

 

自らのやらかしに気づき、顔を青くする正一。

そしてその様子はコーナーに陣取っていたギャラリーたちにも衝撃を与えていた。

 

ギャラリー9「うわぁ!ナイトキッズのロードスターがケツぶつけやがった!」

 

ギャラリー10「あーあ、やっちまった!……まぁ、軽傷みたいだからいいけどさ」

 

ナイトキッズのミスに騒ぎ出すギャラリーたちの中に1人、異なる思いを抱く者がいた。

 

???「すげぇ……(あの秋名スピードスターズのシルビア、相手のロードスターが路面の歪みにタイヤを取られることを狙ってたな。インをなぞるようなラインを取ってわざとアウトを開けたんだ。地元の走り屋だからこその戦略でロードスターのオーバーテイクを防いで前を守り切ったのか……最高にかっこいいぜ!俺もデルタが来れば、いつかはこんな風に戦えたら……)」

 

地元の走り屋の面目躍如たるその瞬間に目を輝かせるその少年は、続くヘアピンにドリフトで突っ込むシルビアの姿を静かに見送った。

 

 

 

 

 

 

その頃、下側の駐車場ではバトルを終えた車両が既に2組4台揃っており、ギャラリーたちは最後の1組がくるのを今か今かと待っていた。

 

ギャラリー11「エンジン音が聞こえて来たな。最後の1組もゴール間近だ」

 

ギャラリー12「……あのナイトキッズが2連敗か。ファンタジアもレッドサンズもレベルが高い。そして最後の相手はよりにもよって地元……か。今んところフリー以外は良いとこ無しだぜ、ナイトキッズ」

 

ギャラリー13「最後の組は地元のシルビアとだったかな?まぁ、これに負けても次は中里がGT-Rでハチロク千切るだけだ。そんな余裕の1勝でも勝ち星は勝ち星。総合的には負け越してもチーム自体の面目は立つと来れば、気楽なもんだ」

 

妙義の走り屋1「それにしても、そんなのが中里にとっては本命のバトルとはなぁ……。何考えてんだか。妙義にだってそこそこ速いブラックエディションだったかリミテッドだったかのトレノが居るが、中里がGT-Rに乗ってからは大差が付くようになっちまったからなぁ。そんな車と今更バトルだなんて」

 

ギャラリーに来た車好きや走り屋たちがそんな話をしていた矢先に麓から上がってくるエンジン音が耳に届く。

すぐそこまで車が上がって来たのだ。

 

ギャラリー11「お、この音は4AGか?」

 

妙義の走り屋2「って事はまさか……?」

 

ギャラリーたちの詰めかけるゴール地点である旅館側の駐車場を『藤原とうふ店』の文字が書かれたハチロクが登っていく。

先週の交流会を知る者はついに現れた本命の姿ににわかに湧き立ち、逆に知らない者はギャラリーか一般車だろうとすぐ視線を逸らしてしまう。

 

ギャラリー14「来たぞ!あいつが秋名のエースだ!」

 

ギャラリー11「待ってたぜ!秋名のハチロク!」

 

ギャラリー15「嘘だろ!?今のはその辺の豆腐屋の社用車じゃないのか?」

 

妙義の走り屋2「いや、あの車こそ先週の交流会で高橋啓介を千切った走り屋だ!俺、先週もここで見てたんだよ!高橋啓介に大差を付けて、すんげぇ速さでドリフトしながら最終コーナーに突っ込んでいくあのパンダトレノを!」

 

ギャラリー16「何だって!?」

 

妙義の走り屋1「あんなのがかぁ!?」

 

ギャラリー11「あぁ!俺も見たぞ!誓って嘘じゃねぇ!一度見てみりゃ分かるぞ、あいつの凄さは!」

 

そんな会話が各所で繰り広げられる。

巷で噂のハチロクの登場に、ギャラリーたちのボルテージは上がりっぱなしだった。

 

 

 

 

 

 

拓海が麓の駐車場を通過した直後、池谷と正一のバトルも大詰めであり、コース終盤にある右の中速コーナーを2台で通過する。

池谷の作戦が功を奏して2台の間には2秒程度のマージンが生まれており、車間距離は十分であった。

しかし、池谷は依然として油断なくコースを攻略していく。

 

池谷「行ける……!行けるぞ!(練習の成果は確実に出てる!前よりも走れてる!このままミスなく完走すれば、勝てるんだ!)」

 

正一「くっそぉ!(思う様に走れねぇ!追いつけねぇ!テールをぶつけちまったことが文字通りに尾を引いてんだ!大きなミスで一度リズムが崩れると、立ち直んのがまた難しい!ミスがミスを呼んで、それをリカバリーしようと思ってさらに焦ってミスをする!分かってる筈なのにどうにもならないなんて、もどかしいったらないぜチクショウがぁぁぁ!)」

 

続いて顔を見せた左のコーナーに突入しようとした池谷だったが、ガードレールを照らす光に気がついた。

 

池谷(このタイミングで対向車……?まさか)

 

アウトに振っていたシルビアをインに寄せて走行車線をなぞる様にグリップで抜けていく。

コーナーの頂点を通過し立ち上がるその瞬間、その対向車とすれ違った。

白黒のパンダトレノ……拓海のハチロクだった。

 

池谷(やっぱりだ。来てくれた!……俺は俺で出来ることをやるからさ、後のことは任せたぜ……拓海!)

 

 

 

拓海(今すれ違った車……シルビアだっけ?あれ、先輩のだったな。後ろにもう一台いたし、バトルしてたのかな?)

 

池谷たちとすれ違い峠を登る拓海。

先週と変わらないどころかむしろ多く感じるギャラリーたちの熱気に当てられたのか、それとも今しがたすれ違ったバトル中の池谷たちに触発されたのか、先ほどから拓海の中で燻る熱は静かに、しかし確実に強くなっていく感覚がした。

 

 

 

 

 

● ● ● ●

 

 

 

 

 

ギャラリー17「下の奴から電話だ!3番目の組もゴールしたぞ!勝者はスピードスターズの池谷だ!」

 

ギャラリー18「おお、流石に地元だなぁ!」

 

イツキ「よっしゃあ!流石っすよセンパーイ!」

 

吾郎「クソー!3連敗かよぉ!」

 

下のゴール地点に居たマーシャル役のギャラリーから最後のバトルの結果がもたらされた事で、上の駐車場の面々も盛り上がりを見せた。

レッドサンズとスピードスターズのメンバーや、それを応援していたギャラリーたちは喜びを露わにし、一方でナイトキッズとそれを応援していた妙義の走り屋やギャラリーたちは地元最大勢力の思わぬ大苦戦に戸惑いや落胆を見せていた。

 

中里(僅かにオーラを纏っていたR33は厳しくても、オーラを感じないレッドサンズの二軍や地元相手になら勝ち目はあると思っていたが、まさかここまでとはな。……特にスピードスターズ。俺を相手に戦えるだけの腕はないにしても、思っていたよりはやるって訳か。レッドサンズにしろスピードスターズにしろ、少し敵を甘く見過ぎていたってのか?)

 

腕を組みながら考え込む中里。

ここで1勝くらいは上げれるかと思っていたがなかなかに現実は厳しいと感じていた。

 

中里(ただ、ここで俺が勝てばいい話だ。いくらドライバーが優れているとは言え相手は旧式のFRで、しかも馬力は俺のGT-Rの半分以下だ。……負ける道理はねぇ。一番美味しいところは貰っていくぜ。サーキットを席巻したマシンの戦闘力を見せつけてやる)

 

ここでナイトキッズメンバーが全敗と来た以上はなおさら負ける訳にはいかない状況へと追い込まれることとなってしまったが、中里には勝算があった。

 

単純明快、テクニックで向こうが上ならマシンの性能で上回る。

それに尽きた。

中里は自分を打ち破ったR32に乗り換えてから、自分がかつて乗っていたS13の戦闘力の低さを痛感していた。

それと大差ないどころか幾分劣る性能のAE86では勝負にならない。

そう考えていた。

 

ギャラリー17「もう一つ報告だ!3組目のゴール直前に一台、AE86が通過したらしい!ハイテックツートン、パンダトレノだ!」

 

その言葉に思わず中里の口角が上がる。

噂をすれば何とやら、ついに本命現れた。

ついにバトルの時が来たことを確信した中里はスタート位置へと並べるため、自らの愛車、黒いBNR32 GT-Rへと乗り込んだ。

 

秋名に再びハチロクが現れた。

それは熱戦が再び繰り広げられることをギャラリー達にも予感させた。




原作とはまた違う感じの話にしましたが、とりあえずレッドサンズ、ナイトキッズ、スピードスターズの出番を増やしたかったのと、あとは東方勢のスポットの当たってないキャラへの出番の提供も兼ねてこう言う形にさせていただきました。
度々書いてはいますが一応この小説の目的の一端には「モブやマイナー車種にも出番を与えてあげること」が含まれてますからね。
特にレッドサンズやスピードスターズは比較的頻繁に名前が出てくるのに高橋兄弟や拓海ばかりが前に出ていて活躍はほぼ皆無でしたから。

ちなみに作者は筑波にてR33とのバトル経験があります。
野良で走ってるらしき人に勝手に突っかかって勝手にちぎられました。
もし富士なら勝負にもならなかったでしょう。
なのでR33 GT-Rを過小評価する人に対しては一言物申したい気持ちはありますね。

2023 12 / 14 8時18分
池谷くんのセリフの追加。
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