東方頭文字D 〜 Lunatic Stage 〜 作:D-Ⅸ
遅くはなりましたが皆様新年あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いいたします。
ハチロク VS GT-R、ついに始まります。
リクエスト(キャラ、車両、エピソード等問わず)はまだまだ募集中です。
感想や評価、または誤字誤植の指摘等もよろしくお願いします。
ーーープルルルルルル
電話の着信音を聞きそれを手に取る文太。
文太「はい、藤原とうふ店……」
祐一〈おい文太!〉
文太「……何だ、お前か」
こんな時間に客から電話かと思い応答する文太だったが電話の主は旧友にして悪友でもある祐一だった。
祐一〈何だとは何だ!それより拓海はどうした?〉
文太「拓海ぃ?……アイツならついさっき血相変えて飛び出してったよ、秋名山に。……なぁ、どうなってんのかなぁ?祐一。……アイツが車の運転を楽しいとかいきなり言い出したり、挙句さっきみたいに自分からバトルがどうとか言い出したりするなんて青天の霹靂だぞ。……明日は雪降るんじゃねぇか?」
祐一〈何言ってんだ。夏に雪が降るかよバカ。……まぁ、カエルの子はカエルって事だろうな。……それよか文太、噂の通りなら今日のバトルはGT-Rなんだろう?何かアドバイスとかしたのか?そもそも勝ち目があるのか?〉
文太「別に何も言ってねぇけど……ま、弱点はあるからな、GT-Rとは言え」
祐一〈弱点……?〉
● ● ● ●
ギャラリー1「き、来たぞ!ノーマルのボディに社外フォグ!あれが例のパンダトレノだ!」
ギャラリー2「スタート地点に誘導するぞ!」
ギャラリー3「みんなガードレールの内側に引っ込んでくれ!バトル始まるぞ!」
ハチロクの登場にざわめくギャラリーたちをよそに、高橋兄弟もまたレッドサンズのメンバーと共にスタート地点へとゆっくり車を進めるハチロクを眺めていた。
涼介「やっぱり来たな、ハチロク」
啓介「……」
涼介「啓介、GT-Rの弱点をあのハチロクに教えてやるんじゃなかったのか?」
啓介はしばらく無言で件のハチロクを睨みつけていた。
そしてドアを開けて拓海が出てくると、ようやく口を開いた。
啓介「……やめた。アイツのツラ見たらだんだん腹が立ってきた。やっぱりアイツは敵だ」
尚子「あっはは!啓介めっちゃ拗ねてるね。可愛い!」
啓介「うるせぇ」
同じ赤城レッドサンズの紅一点、杉本尚子がそう言って軽く揶揄うと、啓介が顔を赤らめる。
自分たちが走るわけではないとは言え、バトルの前にはそれ相応の緊張感が場に充満するものだが、ほんの少しだけその緊張の糸がいい意味で緩んだような気がした。
レッドサンズ以外のギャラリーたちも、拓海の姿を見て思い思いに言葉を交わしていく。
フランドール「ふぅん。あの子が話題のハチロクのドライバーなんだ」
美鈴「随分と若いですよね」
白蓮「えぇ。でもそれでいながら速い走り屋が持つ独特の雰囲気のようなものは確かに感じます。不思議なものですね」
文「でもたまにいるんですよねぇ、ああ言う人が」
文はそう言うとある方向に視線を向けた。
そこには魔理沙と共に談笑しながらも時折拓海の方へと目を運ぶ霊夢の姿があった。
若いうちから信じられないレベルの高等テクニックを身につけて、よりキャリアの長い熟練者を圧倒してしまう様な大天才。
まさしく彼女たちがそうだった。
文「……私も霊夢さんたちがあそこまで大化けする才能の塊だとは予想外でした。藤原拓海さん……きっとあなたも、そう言う突然変異的なドライバーなんでしょう?」
ファンタジアはその若さに似合わぬ卓越した走りに対する興味を抱き、好奇心のこもった目線を向けるものが多かった。
イツキ「やっぱり来てくれたんだな、拓海ぃ!」
池谷「あぁ、これで一安心だな。あとは信じるだけだ」
健二「とは言え、相手はあの妙義最速のGT-Rだ。流石の拓海でもきっと一筋縄ではいかないよな」
隆春「やっぱり、不安になるよ。マシンのスペックが違いすぎる」
守「でも拓海が無理なら俺らが束になっても勝てないだろ?なら最後まで信じてみようぜ」
翔一「あぁ、あの高橋啓介にも勝ったんだ!きっと今回もやってくれるさ!」
スピードスターズは期待と不安の入り混じったまなざしを注いだ。
ギャラリー4「あれが噂のハチロクなのか?こういう言い方すんのもあれだけどさぁ……なんつーか、パッとしないもんだな」
ギャラリー5「あぁ、フォグ以外は前期のノーマルだ。……しかもなんだよ『藤原とうふ店』ってさぁ。到底走り屋の車には見えないな」
妙義の走り屋1「しかも出てきたドライバー、相当若いぜ。こんなのが高橋啓介に勝ったってのか?マジかよ。……俺には信じられねぇなぁ。中里さんの32Rが相手じゃ勝負にならねぇよ。あの人マジで速いんだからな」
ギャラリー3「でも地元の奴らが言ってたんだ。秋名最速は豆腐屋のパンダトレノだって。あれで間違いないはずだぜ」
ギャラリー2「俺は先週見てたから分かる。あのハチロクは見た目からは信じられないくらい速いんだ」
ギャラリー6「思い出しただけでも鳥肌立つぜ。後半第5ヘアピン抜けてく時の全開ドリフト!一度見たら夢に出てくるぞ」
そしてギャラリーたちはやはり先週のバトルを知る者と知らない者とで反応が二分された。
そんな彼らのやりとりが偶然にも中里の耳へと入る。
中里(ドリフト……か。……確かにドリフトは見た目が派手だしやってる側も楽しいのは確かだ。……だがぬるいぜ。バトルをするからには速く走ってこその走り屋ってもんだろうが。ドリフトを卒業した走り屋がグリップさせて走るのが一番速いんだ。それが俺の見つけ出した走りの最適解だ)
そして中里は大きく息をついて思考を切り替えると隣に車を停めている拓海の方へと向き直ると同時に、腕時計にチラリと視線を向ける。
すでに時計の針は10時5分を少し過ぎたところを指していた。
中里「(随分と若いな。若い奴だと噂に聞いてはいたが、予想以上だな。免許とって何年も経ってねぇ様に見えるがどこであんな芸当を身につけたんだ?……もうちょっと年季の入ったやつだと思っていたぞ)……俺は妙義ナイトキッズの中里だ。お前は?」
拓海「藤原拓海です」
中里「その名前、覚えておくぞ。……時間も丁度いい。早速始めるとするか」
バトルの始まりを悟ったギャラリーたちが少しずつ静かになっていく様子を耳で感じ取りながら、2人はそれぞれの愛車に乗り込んでいく。
レッドサンズの史浩が間に立ち、スタートの合図をいつでも取れるように備えている。
ヤマメ「啓介、私たちも準備しようか」
啓介「あぁ。そういえばさっきアニキが言ってたっけか。……お前の追走であのハチロクの速さの秘密を直接見て、映像だけじゃ分からない『何か』を掴んで来いって」
黒いFDの助手席に啓介が、運転席にヤマメが乗り込み、ハチロクとR32 GT-Rに続いてエンジンを回す。
ヤマメ「行くよ。シートベルトはしっかり締めてね。あと、窓は手回し式に改造してあるから閉めたいと思った時に自分で閉めて」
啓介が4点式シートベルトを締めながら少しだけシートを後ろへと引っ張り姿勢を整える。
その様子に幾人かのギャラリーがにわかにざわつき出す。
ギャラリー3「お……おい。あのFD、動くみたいだぞ」
ギャラリー4「なんだぁ?何のつもりだ?」
秋名の走り屋1「まさか、先週みたいにあれやるつもりか?」
ギャラリー7「なぁ、中を見ろよ。ダッシュカムが付いてるぞ」
ギャラリー8「あの車……啓介様を乗せて走ろうとしてるわ!なんて羨ま……じゃない!もし事故ったらどうすんのよ!」
ギャラリー9「良いなぁ、横乗り。……啓介クン、いつかアタシのFDにも乗ってくれないかなぁ」
先週を知る者はこれから起こることを察し、知らない者は首を傾げる。
そして赤城で高橋兄弟の追っかけをしている女走り屋たちは羨んだり嫉妬心を見せたりと言った反応を見せていた。
史浩「カウント行くぞ!」
そのガヤガヤといったざわめきを吹き飛ばす様に史浩がカウントを告げる。
涼介「啓介、シンデレラ城のミステリーツアーだ。……このバトル、特等席で観戦して来い。こんな機会は滅多にないぞ」
啓介「あぁ……行ってくるぜ、アニキ(ついでにコイツの走りも見てやる。俺とコイツとあのハチロク、何が違うのかキッチリ見させてもらうぜ)」
♪ BACK ON THE ROCKS / Mega nrg man
史浩「5秒前!」
黒いFDの側に立つ涼介が開けられた窓を覗き込んで啓介と話すが、カウント開始とともに離れていく。
史浩「……4!」
気が付けば周囲の雑踏はすっかり消え失せていた。
ヤマメが車内に取り付けられたカメラの録画ボタンを押し、ピッという小さな電子音が響く。
隣に座る啓介には、それがやけに大きく感じられた。
史浩「……3!」
FDの助手席では啓介がハンドルを回して窓を閉めた。
上側に小さな隙間を残して半開きの状態にする。
史浩「……2!」
ヤマメがほんの一瞬、確かめる様にアクセルを開けてから戻した。
乾いた小気味の良いロータリーサウンドが、控えめに周囲に漏れる。
史浩「……1!」
極限まで張り詰めた空気の中で、スピードスターズのメンバーたちの中から誰かが唾を飲む様な音が聞こえた様な気がした。
史浩「……GO!」
4AGとRB26が唸りを上げ、拓海と中里がスタートする。
それを見届けた13Bターボが続いて吠えると、一拍遅れたタイミングでヤマメがスタート。
バトルの始まりにギャラリーたちからはドッと歓声が上がる。
池谷「頑張れよ!拓海!」
イツキ「いっけー!拓海ぃ!」
ギャラリー10「R32が頭だ!やっぱり良い加速してるぜ!ハチロクなんか敵じゃねぇな!エンジンのデキがちげぇよ!」
妙義の走り屋2「行けぇ中里!そのままぶっちぎれ!」
ギャラリー5「FDも飛び出していくぞ!やっぱり追走する気だ!」
ギャラリー6「あのFD……ファンタジアの車だぜ!先週のFD対決で高橋啓介に勝ったのがアイツだ!」
ギャラリー10「まさかの三つ巴か!?このバトルどうなるんだ!?」
ギャラリー11「このバトルで勝った奴が高橋涼介への挑戦権を手にする。……なんて話が裏でされてたのかもな」
ギャラリー12「こんなスーパーバトルに立ち会えるなんて滅多に無い事だぜ!俺たちも追いかけよう!」
ギャラリー11「やめとけやめとけ。アイツらはここ最近の走り屋たちの中でも別格だ。お前や俺たちが追いつけるわけがねぇ」
ギャラリー12「そ、そうだよなぁ……。トホホ……」
本日最高潮の盛り上がりを見せるギャラリーたちの中で、コーナーの先に消えていく3台を鋭い眼光で見送る者たちがいた。
レッドサンズやファンタジアの頭脳派の面々だった。
涼介や慧音、藍を始めとした一部の頭のいい走り屋たちは、中里のGT-Rが1コーナーに消えていくタイミングとハチロクが消えていくタイミングを見て双方の距離や速度をおおよそ見極めていたが、そこであることに気がついていた。
涼介「中里のGT-Rはスタート時のゼロ発進加速を見るに、やはり380馬力前後が妥当なところだろう」
池谷「さ、380馬力……!」
滋「嘘だろ……。そんなにパワーあんのか……!?」
翔一「すんげぇハイパワーじゃんか……」
ケンタ「あのハチロクは150くらいって言ってたから、やっぱり勝負にならないぞ……」
佐々木「啓介さん以上じゃないか!そんなカリッカリのモンスターだったのか。GT-Rは乗ったことないからよく分からないけど、相当無茶な弄り方したんじゃ……」
380という、自分たちの車を遥かに上回るビッグパワーを耳にし慄くスピードスターズのメンバーたち。
レッドサンズのケンタと、若手の佐々木もそれに反応して呟いた。
涼介「いや、R32からR34までのいわゆる第二世代型と呼ばれる歴代のGT-Rに搭載されているRB26DETTはライトチューンでも400馬力手前程度であれば軽くポンと出せる。そのくらいには、パワーを出させる事に対するハードルが低く、またエンジンの耐久性も高いためにチューニングに対する懐も深い」
藍「各エンジンの製造ロットによってはシリンダーブロックの肉厚に個体差が出ることもあるから正確なことは言えないが、一般的には600馬力台から最高1000馬力程度なら耐えられる耐久性を持っていると言われているな。……380馬力なら低いとまでは言わないが、まだまだ余裕と言っていいだろう。『大馬力を無理なく簡単に、確実に出せる』これもまた、GT-Rが誇る強みのうちの一つだ」
涼介「その400馬力近いビッグパワーと優れた四輪駆動システムを持ってすれば、この直線でハチロクをちぎるくらいは本来ならば容易いはずなんだがな」
慧音「その大パワーをフルに生かして加速していったにしては、車間がそれほど離れていない様に、私には見えた」
涼介「あぁ、3台が纏まって連らなるようにして飛び込んでいったからな。……ほぼ間違いなく、全開にせずに途中でアクセルを抜いていた。俺にも、あれは本気で踏みちぎっている様には見えなかった」
慧音「おおかた、ストレートで圧倒するだけではつまらないとでも考えているんだろうか。……あのハチロクを地元で相手にする以上、驕りや油断は致命傷となりかねないから全力で当たれと、一応は私は忠告したはずだが……」
涼介「あぁ……。この油断が、後々の命取りにならなければ良いがな」
それはGT-Rの後ろを走っている者たちも当然気がついていた。
拓海(この車……本気でアクセル踏んでねぇな)
啓介(中里の野郎、アクセル抜いてハチロクの事を待ってやがるな?……やっぱり気に入らねぇぜ)
拓海はもちろん、啓介にとってもあまり見ていて気分が良いものでは無かった。
それは拓海にとっては露骨に手を抜かれているように、啓介にとってはバトルを舐めているようにも見えてしまっていた。
中里「直線で千切ったらつまらねぇだろうが。俺はバトルがしたいんだよバトルが。……本当のスタートはコーナーに入ってからだ!」
ギャラリー13「おぉ!3台並んで来やがった!」
ギャラリー14「もう一台は何だ!?あのテール……黒いFD?」
ギャラリー13「もしかして……高橋啓介を千切ったもう1人の走り屋か!」
ギャラリー15「すげぇぞ三つ巴だ!群馬最強決定戦が始まるのかぁ!?」
そして1コーナーに3台が一気に突入し、立ち上がりで中里がアクセルを全開にして加速していく。
その後ろをハチロクとFDがブレーキングドリフトで追いかける。
こうしてバトルが幕を開けた。
中里「なにぃ!……そんなオーバーアクションのカニ走りで、この俺について来れる訳がねぇぜ!」
バックミラーに映るハチロクの姿に思わず毒づく中里。
一方、付かず離れずの距離感を維持して走るFDの車内では感嘆の声が漏れていた。
ヤマメ「凄い……。拓海くん、凄く上手い。限界ギリギリの際どい領域でもしっかりと車をコントロール出来てる。まるで自分の半身みたいに……。突っ込みの鋭さならGT-Rと互角以上!車重1トン未満の軽量なFRをタイヤのグリップを使い切っての四輪ドリフトで曲げていってる。……本当に上手い。でもやっぱり少しずつ離れていく」
啓介「あぁ、序盤は直線も長いし勾配も緩い。ハチロクには厳しいはずだぜ。俺にはよく分からねぇけど、アニキが言うにはあのハチロクは高く見積もって150馬力あれば良いほうだって言ってたからな。倍以上……下手すりゃ3倍近い馬力の差はどうあっても覆せないか。だがこのGT-Rが速いのはパワーとか駆動方式だけが理由じゃねぇ。中里の奴も流石にデカい口叩くだけあって上手いな」
ヤマメ「うん。ブレーキングでしっかり減速しつつ前に荷重を残しながら走ってる。四輪駆動でも後輪駆動でも、後輪が回る大パワーの車は、コーナーで踏み方を間違うとフロントの荷重が抜けて、後輪に持っていかれちゃうからね。荷重の抜けた前輪はグリップしなくなるから当然曲がれない。それを防ぐために前輪の荷重をかなり意識した走りをしてる。熱血漢の割に堅実だって評価は的を射てるよね」
啓介「少し一緒に走ったらしいアニキは、面白みはない走り方だなんて言ってたが、その分だけヘンな無駄も無ければ隙もねぇ。……ったく、嫌な相手だぜ」
150馬力が精々のローパワーNAのFRと、380馬力近くのビッグパワーを軽々と捻り出すツインターボの4WDでは加速の差はあまりにも歴然だったが、中里のそのドライビングテクニックにも目を見張るものがあった。
中里「これだぜこの感じ!この全身の血が沸騰する様なこのハイテンション!これこそバトルだ!とことん突っ走るぜ!どこまでついて来れる!」
GT-Rは叩き込む様なフルブレーキングで前半セクションの第一ヘアピンに突っ込んだ。
後ろを映すミラーには、先ほどまでそれなりに距離のあったハチロクが一気に距離を縮めてくる様子が映っていた。
中里「突っ込みで一気に差を詰めただと!?(……上等だぜ。そこまでやられちゃあハチロクが型遅れの旧車だって意識は完璧に吹っ飛んだぜ!一級品の戦闘力を持った良いマシンじゃねぇか、お前のハチロク!)」
中里(……そうと来ればもう遠慮は無しだ!ゾクゾクするくらい嬉しいぜ!こんな美味しいバトルはこのR32 GT-Rに乗り換えてから初めてだ!)
立ち上がりでアクセルを踏み込めば中里のGT-Rは四駆化して全てのタイヤが地面を蹴り付け加速していく。
四駆の強みをアピールするかの様に爆発的加速でハチロクを再度引き離しにかかる。
中里(こう言う低速のヘアピンこそGT-Rが最も得意とするコーナーだ!強力なブレーキできっちりと車速を落としてやればダウンヒルでは嫌でも荷重が前に残るからな。……R32最大の泣きどころのプッシングアンダーは出にくいぜ!それにコイツは低いギヤからの加速は他のどんな車よりも得意なんだよ!……この感じがたまらねぇぜ!剛性たっぷりのボディはビクともしねぇ!)
啓介「このヘアピンみたいな低速コーナーでは、ハチロクがどんなに突っ込みで食いついても立ち上がりでまた差が開いちまう。圧倒的な加速のGT-Rについて行けてない」
ヤマメ「GT-Rのアテーサは、ホイールスピンを検知した瞬間に四輪駆動になって前輪にもトルクが配分されるから、立ち上がりで踏み込めばその大馬力を余す事なく加速に使える。4つのタイヤ全てで加速していける。こればかりは私たち二輪駆動乗りにはどうにもならないよ……」
啓介「それに、認めんのは癪だが中里もいい根性してるぜ。あの重量級のGT-Rで臆することもなく猛然とダウンヒルを攻め込んでいってるんだからな……」
そして緩いRを描く高速コーナー。
FDの前を行くハチロクは全く減速することなく四輪を全て滑らせる四輪ドリフトで、ガードレールまで僅か3センチ未満と言うギリギリの幅まで道路を使い切ってそのまま駆け抜けた。
ハチロクの車内では終始キンコン、キンコンと、チャイムが鳴り止まずに響いていた。
それはこのハチロクが105キロを上回るスピードを維持しながらコーナーを走り切ったことを意味していた。
ヤマメ「ハチロクが離れた!」
啓介「なんてこった!高速コーナーで一気にGT-Rとの差を詰めた!100キロを超えるようなスピードで、四輪ドリフトしながらガードレール掠めるようなギリギリのライン取り!こればっかりは車の性能がどうのこうのとかって話じゃねぇ!(……あの野郎!頭のネジ2、3本吹っ飛んでやがる!……ありゃあ1つでもミスしたら絶対に死ぬぜ!アイツ、分かってんのかぁ!?)」
これまで一定の間隔を保持したまま後追いを続けていたFDとの車間が離れ、GT-Rに詰めていくハチロク。
そのあまりのコーナリングスピードの高さにヤマメと啓介は思わず圧倒される。
ヤマメ「でも、こうして一緒にそのラインを追いかけながら走ることで初めて分かった気がするよ。拓海くんの……このハチロクの速さの秘密が。……パワーに劣るNAのハチロクじゃあ、一度失速するとその立て直しに時間がかかる。だから無駄な減速を一切しない。常に限界スレスレを攻め切って最短最速のラインを突き抜けていく様な走り方(にとりが言ってたっけ、まるでコーナーを突き抜けていくみたいに鋭いコーナリングだったって……)」
啓介「高いアベレージをキープするためのドリフトって訳か。……先週あのハチロクとバトルした時、いくら逃げてもまるで背後霊のようにケツに食いつかれちまう理由がようやく身をもって理解できたぜ!(頭の中でだけ理解してんのと体が覚えるのとでは違うからな。……それにしても、GT-Rとハチロクのバトルがこんなにいいバトルになるなんてな。……まさに限界バトルだ!この勝負、どうなる?勝つのはどっちだ!?)」
序盤のヘアピン区間を過ぎれば中高速コーナーの続く区間が訪れるが、それもそう長くはない。
再び2連ヘアピンが現れる。
拓海は突っ込みでベタ付けと言っていい位置まで詰め切って、オーバーテイクを仕掛けられる射程圏内にGT-Rを入れるが、やはり立ち上がり加速の差が出てしまう。
脱出後のスケートリンク前ストレートではGT-Rは全開にはしていないのにも関わらず、またジリジリと差をつけられるハチロク。
当然、ハチロクはアクセルを床に付くまで踏みちぎるフル加速の状態だったが、その差は明らかだ。
啓介「さっきまで詰まってた車間がここに来て離れていきやがる。だけど中里の奴はまたアクセルを全開にはしてねぇ(……やっぱり気に入らねぇな。油断してんだか余裕なんだか知らねぇが、舐めやがって)」
そこまでの区間で詰めた車間が帳消しどころか、より大きなマージンを取られた状態で後半セクションに突入する。
だが後半になればなるほど勾配のキツくなる秋名の峠。
序盤よりもハードな急坂降りとなるコースは次第に拓海の味方となっていき、同時に中里に対して牙を剥くようになっていく。
スケートリンクリンク前ストレートの終点となるコーナー、フルブレーキングで大きく詰めていくハチロクの姿に、コーナーのガードレール脇に陣取っていたギャラリーたちは大いに沸いた。
ギャラリー16「来た!GT-Rが頭だ!でもハチロクも負けてないぞ!」
ギャラリー17「あのパンダトレノ、とんでもねぇ進入スピードで突っ込んでそのまま抜けていきやがった!何の変哲もなさそうなハチロクがあんな速さで走れるもんなのかよ!……やべぇ!信じらんねぇ!」
ギャラリー18「と、鳥肌たったぜ……!すげぇぞアイツら。……マジで痺れるようなドリフトだぜ」
ギャラリー16「ド迫力のRBサウンドでGT-Rが飛び込んできたと思ったら、次の瞬間にはハチロクとセブンが上手くて速い文句なしの最ッ高のブレーキングドリフトで抜けてくんだ……!たまんねぇ!」
ギャラリー19「これぞ峠って感じだ。俺はこれが見たかったんだよ。特にハチロクでGT-RやFDと互角のコーナリングってのがすげぇぜ。……忘れられない1日になった。……やべぇ、涙出てきた」
ギャラリー17「……それにしてもすげぇ接戦だな!ハチロクとGT-Rじゃあ、ハチロクはいつ千切られてもおかしくないくらいのスペック差があるのに!」
ギャラリー16「そんだけ上手いんだ、あのハチロクのドライバーが」
ギャラリー18「もしかしたら今回も起きちまうのか!?……奇跡の大逆転が!」
ブレーキランプを点灯させながら一瞬のうちにコーナーの彼方へ消えていくGT-RとハチロクとFDの姿を、彼らは二度と忘れまいとその目に焼き付けた。
バトルは、ついに後半戦へと差し掛かる。
年末年始にかけて親戚宅で酒盛りをしたりその親戚の人たちと一緒に福島に行ったり仕事が繁忙期に入ったり、幼馴染みの結婚式に出席したりと色々あって執筆時間が殆ど取れない時期がありました。
お待たせいたしました誠に申し訳ございませんでした。