東方頭文字D 〜 Lunatic Stage 〜 作:D-Ⅸ
【必読】
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※ この作品はフィクションです。作中で描写される人物、出来事、土地、組織など、その名前は全てが架空のものであり、実在する土地、企業、名前、人物、または過去の人物、商品、法人などとのいかなる類似あるいは一致も、全く無関係な偶然の一致であり完全に意図しないものです。
This is a work of fiction. The characters, incidents and locations portrayed and the names herein are fictitious and any similarity to or identification with the location, name, character or history of any person, product or entity is entirely coincidental and unintentional.
※ この作品はフィクションです。未成年の飲酒や喫煙は法律によって禁止されています。未成年の飲酒、喫煙、またはそれらの強要や過剰摂取等を推奨する意図はありません。また、特定の思想信条や宗教を肯定するものではありません。一部刺激的な内容を含む可能性がございますので児童及び青少年の閲覧には十分ご注意ください。
※ 作中で行われる公道上での違法なカーレース、ドリフト等の行為は危険ですので絶対に真似しないでください。
実際の公道上では安全運転を心がけましょう。
何らかの損害またはトラブル等が発生した場合におきましても、本作並びに作者は一切の責任を負いません。
※ 本作品にはシーケンシャルツインターボ(ツインスクロールターボ)に対するアンチや原作不遇車種であるランエボシリーズやBCNR33 スカイラインGT-Rのヨイショなどの表現が含まれる可能性があります。
そうした要素が平気な方のみ閲覧いただきますよう、よろしくお願いいたします。
※ 東方Projectの登場キャラクターに関しまして、複数の考察ネタや作者の妄想を含む独自設定が多く採用されています(具体的には十六夜咲夜の正体、姫海棠はたての正体、八雲紫の正体、輝夜と妹紅の関係など)。そうしたキャラクターや世界観に関する独自設定の追加、または大幅な設定改変等が許容できる方のみ閲覧いただきますよう、よろしくお願いいたします。
第1話 秋名への挑戦状
「ねぇ……あなたたち、外の世界で戦ってみる気はないかしら」
全てはそんな八雲紫の一言から始まった。
幻想郷で車が流行りだし、それを用いた公道レースやサーキットでの競技が問題解決の手段として弾幕と並んで認知されている平行世界。
そこでは少女たちが、時には己の腕を競い合い、時には車を並べて語り合い日々を過ごしていた。
そんなある日に突然持ち上がってきた外の世界への集団遠征プロジェクト。
幻想郷以外の走り屋とのバトルなどを通じての交流とスキルアップを目的とした幻想郷外界遠征隊、その名も『チーム・ファンタジア』。
幻想郷に属する数多くの勢力の走り屋から、エースクラスの凄腕や素質に恵まれた有望株をメンバーに募り結成されたそのチームは199X年7月、ついに動き出した。
当面の活動拠点は外の世界の群馬県、最初の目標は秋名山。
奇しくもその日は、同じく秋名山に赤城レッドサンズが訪れる日でもあった。
第1話 秋名への挑戦状
土曜日の夜、秋名山。
赤い鳥居が目印のこの駐車場に、数台のスポーツカーがたむろしていた。
日産のS13シルビアと、同じく日産の180SX、三菱のA170ランサーEXにトヨタのKP61スターレット。
メーカーも大きさも違う車たちだが、それぞれの車の『秋名スピードスターズ』と書かれたステッカーが、彼らが仲間同士であることを示していた。
池谷「おいおい大丈夫か拓海?……まさかそんなに怖がるとは思わなかったんで、調子こいてガンガン攻めちゃったけど……」
守「なんだ?どうしたんだ?」
健二「S13のリアシートに乗ったら気分悪くなったんだと」
滋「ははは!可愛い奴だな。……まぁ、走り屋のスピードは一般車とは訳が違うからなぁ」
守「慣れないうちは仕方ないよ。走り屋の横乗りなんて今日が初めてなんだろう」
イツキ「情けねーぞ拓海……お前、いくらなんでも怖がりすぎだよ。それでも男かよ。ダッサダサだよ!拓海、お前ジェットコースター乗ってギャーギャー喚くタイプだろ」
拓海「俺、ジェットコースター怖いと思ったことなんか一度もねーよ、イツキ。お前に説明しても絶対わかってもらえねーよこの怖さは」
イツキ「……?何言ってんだ?」
後輩を乗せて秋名の峠を走って来たリーダーのS13シルビアからヘロヘロにくたびれながら出てきた少年を、この日集まったチームのメンバーが可愛がっており、周囲には和やかなムードが広がっていた。
しかし、そのなんてことのない日常は、唐突に終わりを告げることとなる。
健二「ん?エンジン音だ。何台か登って来てるぞ」
最初に気がついたのはチームのメンバーである健二だった。
彼は後輩を可愛がってやいのやいのと騒ぐ他のメンバーとは距離を置き、一番コーナーに近い外側の位置に駐車している愛車の180(ワンエイティ)に背を預けて缶コーヒーを飲んでいたため、数台の聞きなれない車の接近にいち早く気づけたのだった。
彼の声に反応して他のメンバーやリーダーの池谷たちも登ってくる車に対して聞き耳をたてる。
特徴的ではあるものの、この辺ではほとんど聞きなれない様な音が複数台。
池谷「誰だ?やけに台数が多いぞ」
徐々に近づいてくるだけだった音が大きくなり、そこに木々を照らすヘッドライトの光も加わった。
そして……。
守「なんだこの音?多分……ロータリーか?」
滋「ロータリー……まさか!」
ついに登ってきた車が正体を現した。
先頭にはマツダの白いFC3Sと黄色いFD3Sの新旧RX-7が2台ほぼ横並び、その後ろにはシルビア、NAロードスター、インプレッサなどがゾロゾロと数台列をなして駐車場に入ってくる。
そしてそれらの車には皆、『RED SUNS』と書かれていた。
健二「あの車……あのチームステッカー……」
池谷「確定だな。赤城レッドサンズだ!」
守「ど、どうして赤城最速の走り屋チームが秋名に……!」
他の山の強豪チームという想定外の来訪者に緊張しながらも、後輩の手前で情けないところは見せられないとスピードスターズの面々は今いるメンバー総出でレッドサンズのメンバーたちを迎える様に布陣する。
レッドサンズも柄の悪そうな奴から優男らしく見える様な奴など、駐車し終わったメンバーから順にぞろぞろと出てきてスピードスターのメンバーと相対した。
お互いにメンバーが出揃ったところで、最初に口を開いたのは黄色いFDから出てきた青年、高橋啓介だった。
啓介「俺たちは『赤城レッドサンズ』ってチームだ。不躾な頼みで悪いんだが、1つ聞かせて欲しい……この山で最速のチームか、あるいは走り屋を知らないか?」
池谷「俺たち『秋名スピードスターズ』って走り屋のチームなんだけど、一応俺たちが秋名最速を名乗ってるよ」
健二「まぁ、俺たち以外に秋名を走ってるチームが殆ど居ないってのもあるけどな」
啓介の問いに池谷が答えてそこに小さく健二が補足した。
啓介「史浩、頼んでいいか?」
史浩「OK」
そこに啓介の後ろに控えていた史浩が加わりこう切り出した。
史浩「ちょっと俺らの話を聞いてもらいたいんだけど、良いかな?」
池谷「まぁ、それは構わねぇけど……」
史浩「お互いさ、走るのが好きでこうやってチーム作ってるわけなんだろうけど、ずっと地元の奴らとだけでつるんで走ってるとだんだんマンネリっぽくなって来るんだよね。やっぱりさ、レベルアップのためにはよそのチームともたまには交流して新しい刺激ってのを入れたほうが良いと思うんだ。色々なコースを経験することでホームコース以外での対応力も鍛えられるし、ついでに気分転換にもなる。走り屋仲間だって増えるし、何かあれば連絡を取り合って情報の交換もできるからね。……そこで一つ提案なんだけど、来週の今日……土曜日にうちのチームと交流会をやってくんないかな……この秋名山でさ。はじめはみんなでつるんで何本か走ってさ、最後にお互いの代表を出し合って上りと下り1本ずつのタイムアタックバトルをやる。……ただ、あくまでチーム同士の親睦を深めるのが目的だから、別に勝ち負けにこだわるつもりはないんだけどね。……どうかな?」
健二「そう言われちゃぁ……」
池谷「断る理由もないけど」
交流会という体をとってはいるものの、実質的にはバトルを挑まれた形になった池谷たちだったが、その新しい刺激を取り入れて走り屋同士の横のつながりも広めたいという表向きの理由にも、相応の理解を示せていたために、若干困惑しつつも受ける事にしたのだった。
史浩「それじゃあ、決まりだな。さっそく……ん?」
そう言いかけたところで、この場にいた何人かの走り屋たちがまたしても、このタイミングで賑やかなエキゾーストサウンドの大合唱を響かせ登って来る複数台の車に気がついた。
健二「なぁ、あんたらまだ下にメンバーを残してたのか?また何台かゾロゾロ上がって来るぞ?」
史浩「いや、うちのチームの奴らじゃないと思うぞ。今日はここにいるのと、あとは下の駐車場に貼り付けてる、警察や一般車を見張る連絡員で全員だからな」
涼介「啓介、ケンタ達から秋名に行くという連絡はあったか?」
啓介「いや、ねぇけど……」
史浩「秋名の別のチームなんじゃないのか?」
守「この日のこの時間帯に走ってるのは基本的に俺らだけだよ。他にもちらほら数人いるっちゃいるけど、ほとんどソロみたいなもんで、こんなに何台も徒党を組んで来るような奴らじゃないよ」
健二「それに、俺ら以外にここ走ってる大きなチームも他に知らないし」
池谷「あぁ、悪いが心当たりがなくてな。少し待ってみるか?」
そうこうしている間にも音の主たちは近づいて来る。
二つのチームの走り屋が神経を耳に集中させるがどうにも知らない音が混じっている事にはお互い気が付いた。
「やっぱりお前らのお仲間なんじゃねぇのか」と目を見合わせるものの、お互いがお互いの反応を見るに、双方本当に身に覚えがないのだろうという事しかわからなかった。
健二「な、なぁ……音、でかくねぇか?」
池谷「これも結構な台数いるんじゃないか?」
守「何なんだ?今日はどうなってんだぁ……?」
涼介「あまりまとまりのないエンジン音だな。……だが、その中に13Bのロータリーサウンドが混じっている。面白い事になりそうだ」
啓介「FDかFCが居るのか。どんな奴なんだろうな」
スピードスターズとレッドサンズで三者三様の反応を見せては居るものの、一見余裕がありそうに見えるのはレッドサンズの側であり、スピードスターズの面々は排気音が近づくとともにあからさまな動揺が広がりつつあった。
ちなみに拓海とイツキは状況が飲み込めずオロオロしていた。
レッドサンズの走り屋1「来るぞ……」
レッドサンズの誰かがそうこぼしたのとほぼ同時に、コーナー出口のガードレールを照らしながらついにその車列が姿を見せた。
青みを帯びた黒に近いダークブルーのボディ色に派手なエアロの類のないエクステリアの見る限りあまり走り屋らしさを感じないアリストを先頭に、C-ONE製エアロにTRD製リアウィングが特徴的な黒のST205セリカGT-FOURが続き、その後ろには風間オート製のエアロにings製の大きなリアウィングを装備した白の後期型180SXが、さらにその後ろには高橋涼介の予想した通りのロータリースポーツ、R Magicのワイドボディキットと社外品らしいカーボンGTウィングで全身を固めたいかにもといった風の見た目をした黒のFD3Sと、ボーダーレーシング製のエアロに純正リアウィングを装備した緑のFC3Sが続く。
そしてその後ろには純正エアロの赤いランエボⅥ TMEが控える大所帯であった。
イツキ「な……な、なんだぁ……?」
池谷「見慣れねぇ車に、県外ナンバーも居る」
史浩「どう見ても他所のチームだな……」
守「ファンタジア……チームステッカーだよな?この辺じゃ聞いた事ねぇけど」
健二「なぁ、あんたらも何か知らないか?」
史浩「うーん、ちょっと分からないなぁ。赤城とその周辺のチームとはちょくちょく交流があるけど、このステッカーは初めて見るよ」
啓介「俺も知らねぇな。あんな奴ら」
涼介「悪いが俺も心当たりはないな。それなりに速そうな奴らがこれだけ集まっていれば、嫌でも目立ちそうなものだがな」
秋名の峠にやってきた明らかに異質な車の一団、それもかなりの大所帯。
しかしこれだけ派手な車の数々に、スピードスターズやレッドサンズの面々も、それどころか一匹狼時代に関東全域どころかその周囲一帯にまで足を伸ばして各地を転戦して回っていた経験のある、県外の峠の情報にも精通する高橋涼介にさえ心当たりは無かった。
また新しく入ってきた集団が停め終わるまで、今度はスピードスターズとレッドサンズで迎える形となった。
先頭で入ってきたアリストから順にドアが開き、それぞれの車の中からドライバーが出て来るが……。
涼介(ほぅ……)
健二(なにぃ!?)
池谷(……!)
レッドサンズの走り屋1(全員女だと!?)
レッドサンズの走り屋2(……マジかよ)
守(全員美女&美少女のレディースチームかぁ……。俺、夢でも見てんのかなぁ……)
啓介(女の走り屋チームか。珍しい奴らが来たもんだな)
このチームのドライバーが全員女であった事にその場にいた走り屋のほぼ全員が驚いた。
ある者は口を開いたまま唖然としてしまい、またある者は驚きのあまり大きく目を見開いていた。
そしてそのチームの中から代表者と思われる、桜の模様をあしらった青い着物を纏ったアリストのドライバーが歩いて来た。
啓介(それにしてもなんだぁ?このやばそうなオーラの女は……)
イツキ(うわぁ……なんか凄そうな人がきたぞ……)
池谷(黒っぽいセダンに着物の女って……まさか極道とかそっち系の家系じゃねぇだろうな!?)
レッドサンズの走り屋3(なぜか一台だけ存在が浮いてる車に……中から場違いな着物の女……この明らかにカタギのもんじゃなさそうな雰囲気……まさか……いや、そんな訳ないよなぁ)
着物という峠に来るには違和感のある彼女の格好はもちろん、彼女が出て来た凝ったデザインのシルバーの海外製高級鍛造ホイールにダークな暗いボディ色、リアガラスのスモークフィルムとサイドのガラスにはシルバーのメッキモールをあしらった、そこそこの値段はするセダン(アリスト)のこともあってか、まるで『そういう家系』の娘でも出て来たかのように見えてしまい、いくら非合法な事には慣れている走り屋たちとは言え流石にこれには若干引き気味になってしまう。
しかし如何にもな見た目をしたヤバそうな車の一方で、彼女自身のゆるくカールした桃色の髪に柔和そうな表情というギャップも合わさって「見た目の上では優しそうに見えるだけで実はヤバい人なんじゃないの?」という漠然とした疑念を彼らに持たせる一要因になっていた。
ちなみに忘れられていることも多いが、自害して亡霊となる前の彼女は由緒正しい武家の娘であるので彼らの抱いた想像も実はあながち間違いではない。
彼女が怒らせるとシャレにならないくらい怖いタイプというのも事実であるので案外彼らの感じたその直感的な何かは的中していたりする。
???「お取り込み中のところ失礼するわね。ちょっとだけお時間いただいてもいいかしら」
啓介「……オイ、史浩。……頼む」
史浩「……え?あ、あぁ……えっと、どうしたのかな?」
???「実はこの辺りで活動している秋名の走り屋チームを探しているのだけれど……」
彼女がそう発した途端、レッドサンズのメンバーたちはモーセが海を割るようにサッと二つに別れた。
もちろんその割れた海の先にいるのは秋名スピードスターズである。
あの何事にも動じなさそうな高橋涼介でさえ、しれっと一歩だけ脇に避けていた事からも、この異常事態に対する彼らの動揺っぷりが推し量れる事だろう。
それと同時にレッドサンズとイツキたちの視線がスピードスターズの面々に突き刺さった。
「もしかしてお前たち何かこいつらに目ぇつけられるようなことしたのか?」と。
当然、なんか極道のお嬢っぽい身なりの女性と彼女の率いるレディース走り屋集団に目をつけられるようなことをした覚えなど一切ない池谷たち。
内心とっとと逃げたくて仕方がなかったが、あいにく逃げ場なんか最初から無い。
もうなるようになるしかないと自分に言い聞かせながら、池谷は彼女たちの相手をする事にしたのだった。
池谷「あ、あの……俺たちは『秋名スピードスターズ』って名前で活動してる、この辺の車好き同士で集まって走ってるチーム……です。一応、俺がチームのリーダーやってて、池谷浩一郎って言います。そんで、こっちの方は『赤城レッドサンズ』って言って、赤城の方で普段走ってる、この辺りじゃあ結構有名なチームなんですよ」
立て続けに襲いかかってくる全く想定外の異常事態を前に赤面しつつガチガチに緊張しながらもなんとか無難に(しれっとレッドサンズも巻き添えにしつつ)自己紹介を終える池谷。
レッドサンズの方から「おい、さりげなく俺たちを巻き込むな」と批難の視線が飛んでくるが、もはや池谷はなりふり構っていられなかった。
近頃流行りの光沢感のあるコーティングを効かせたピカピカのヤクザっぽい黒塗りセダンのドライバーがこっちにやって来た途端、つい今さっきまでの威勢を引っ込めて俺たちを売り渡すような勢いで脇にスッと退きやがった事に対する池谷なりの仕返しでもあった。
幽々子「私たちも見ての通り『チーム・ファンタジア』という名前で走り屋のチームをやっているのだけれど……実はつい数日前にやっと正式に結成したばかりの新しいチームなの。それで、拠点をこの北関東群馬エリアに据えて活動する事になったから、メンバーの一部の顔見せも兼ねて、この辺りの山に挨拶に伺う事にしたの。……私は西行寺幽々子。このチームのスポンサー兼、特別顧問をやっているわ。よろしくね、池谷さん」
見ての通りという部分にほんの僅かな引っ掛かりを覚えつつも、手を差し出し握手を求める幽々子に、池谷の心臓が一瞬大きく跳ね上がる。
ぎこちないながらもその手を握り返すと、体温が低いのか少しひんやりとした感触が伝わって来た。
手を離してからもしばらく残る余韻に、池谷はなんとも言えない感慨を覚えるのだった。
池谷「あ、はい。よろしくお願いします。西行寺さん」
幽々子「長いと思うから、幽々子でいいわ」
池谷「えっと、それじゃあ……その、幽々子……さん」
幽々子「えぇ、よろしくね。……それで、早速本題になるんだけど……お互いに親睦を深めるために、私たちと交流会をやって欲しいの。日時は来週の土曜の夜を予定として考えているわ。あと、できればで良いのだけど、レッドサンズの方達とも一緒に、せっかくだから3チーム合同で。……どうかしら?」
幽々子の言葉にその場にいた全員がまたしても驚かされる事になった。
ついさっきレッドサンズが持ちかけた話と同じ内容、同じ日時。
まさに奇跡的であった。
史浩「えっと……その件なんだけど、実は俺たちも驚いてるんだけどさ、今日この秋名の峠に俺たちが来たのも、実は全く同じ理由なんだ。走り屋としてのレベルアップを狙って、秋名で新しい刺激を取り入れつつ、ほかの山の走り屋ともつながりを深めていこうって感じでさ」
幽々子「あら、素敵じゃない。こんな偶然もあるものなのね。これも何かの運命なのかしら?……じゃあ、それなら……」
史浩「良いよな……?」
そう言いながら涼介と啓介にアイコンタクトを取る史浩。
涼介「構わない」
啓介「あぁ、良いと思うぜ」
史浩「……ならお言葉に甘えて、俺たちもご一緒させて貰おうかな。元よりそのつもりで来ていたからさ。……そういう訳だから、その……幽々子さんで、良いのかな?」
幽々子「えぇ、それで良いわ」
史浩「それじゃあ、今度の土曜日の交流会はよろしく。……あ、俺は史浩って言って、レッドサンズの外報部長を任されているんだ。何か連絡があればこの番号にかけて欲しい」
幽々子はそう言って渡された名前と電話番号の記されたメモを受け取ると、黒い革の財布を取り出して仕舞い込んだ。
幽々子「あら、ご丁寧にどうも史浩さん。それじゃあ私も……」
そして今度は幽々子が名刺入れを出すとそこから一枚名刺を取り出しそれを史浩へと手渡した。
そこには『旅籠 白玉楼支配人』『西行寺家当主』という二つの肩書きが記されている。
幽々子「それじゃあお互い想定外の大規模なイベントにはなってしまったけど……スピードスターズの皆さんも、それで良いわよね」
池谷「えぇ、もちろん。良いですよ」
ここまで来てしまえばもう絶対に否とは言えない池谷たちであった。
乗って来た暗色系セダンと本人の格好のせいもあるものの、第一印象の「なんかあっち方面のヤバそうな家系の人」というイメージとは裏腹に、話してみればなんてことはない感じで場の空気もなんとなく和やかな雰囲気になり走り屋たちの緊張もほぐれて来た頃合いとなる。
史浩「さて、気を取り直して、今日のところは俺たちもじっくり練習させてもらうよ。当然、走りのマナーはきちんと守るからさ」
啓介「そうと決まりゃ早速練習だ。いくぞお前ら」
レッドサンズの走り屋1「啓介さんたちの後で俺らも行くぞ。遅れんなよ」
レッドサンズの走り屋2「下の奴から来たのはスポーツカー複数台通過のメールだけで、一般車通過のメールは無い。事前の取り決め通りなら対向車も無しだ!思う存分やれるぞ」
レッドサンズの走り屋3「レッドサンズは秋名でも早いってとこ、見せてやるぜ!」
レッドサンズの走り屋4「よっしゃ!今日も走るぞ」
史浩と啓介の言葉を合図に、勇みながら続々と車に向かっていくレッドサンズの走り屋たち。
しかし高橋兄弟はある程度冷静に状況を見ていた。
二人の視線が向かう先はスピードスターズではなく後から来た謎のレディースチーム、ファンタジアの車だった。
啓介「アニキ、あいつらの事、どう思う?速そうか?」
涼介「少なくとも、スピードスターズの連中よりはやるだろうな」
啓介「へぇ、地元のやつより上に見るなんて、アニキは随分と高く評価するんだな」
涼介「あぁ、車本体やカスタムに関してもそれなりに金をかけていそうなのは見ればわかるが、あとはタイヤだな」
啓介「タイヤ?」
涼介「その走り屋がどれだけ走り込んでいるかは主にタイヤを見ればわかる。新品であればわからないが、基本的にはその車や乗り手と共に、ある程度走って来たタイヤというのは嘘をつかないからな」
啓介「そう言うもんなのか?」
涼介「あぁ、ある程度使い込まれたタイヤには乗り手の走りの結果が多少なりとも反映されるものだ。一番近いところに停めてあるあのランエボやFDのタイヤを見てみろ。あのトレッドパターンは比較的新しいモデルのブリヂストンのハイグリップタイヤだが、大事なのはそこではない。あのタイヤ、サイドウォール付近に少し大きめのタイヤカスがついているだろう。……素人が少し攻めた程度の半端な走りではタイヤがタイヤカスを拾うほどに熱を持ち溶けることもないし、そうした車はそもそもタイヤカスが路面に落ちているような環境を走ることすらほとんどないんだ。この距離だから詳しくタイヤの状態を見れるわけではないが、近くで観察することが出来れば、何度か熱が入ってタイヤが溶けた痕跡も見れるだろうな」
啓介「つまり、そんだけ走り込んでる奴だってワケだな?」
涼介「そうだ。……今度の交流会で出てくれば、たとえ一軍でも苦戦は避けられないだろうな。もし相手をする機会があれば……啓介、その時は全力で当たれ」
啓介「あぁ……任せてくれよ、アニキ。誰が来ようが全員ぶっちぎるだけだ。男も女も関係ねぇ」
高橋兄弟もそれぞれの車に乗り込みエンジンを回す。
やる気満々といったに雰囲気のレッドサンズに触発されて、スピードスターズの面々も動き出した。
健二「気後れすることねぇぜ!俺たちも出よう!」
守「赤城の走り屋のレベルがどれほどのもんか、見せてもらおうじゃん」
滋「秋名の峠なら走りこんでる俺たちの方が上だ!ケツ突いてやる!」
池谷「こっちにだって地元の意地があるんだ!舐められたくねぇな。見せてもらうぜ、赤城最速と言われる高橋兄弟の走りを!」
気合十分といった両チームとは違い、自然体に近い感じでありながらファンタジアのメンバーも走れるように各々準備を始めていく。
幽々子「早速みんなで走るみたいだから、私たちも行きましょうか」
???「そうですね。お嬢様、走る順番はスピードスターズの後でいいでしょうか?」
幽々子「えぇ、その方がいいと思うわ」
???「ならゆっくり準備して待っていようか。まずはレッドサンズが出るみたいだし」
走り屋たちが愛車に駆け込みエンジンをかける。
池谷がシルビアのシートに座ったところでイツキが思わず呼び止めた。
イツキ「ちょ……ちょっと!待ってくださいよ先輩!俺たちはどうしたら……」
池谷「わりぃなイツキ、本気で攻めるときは助手席に人乗せないことにしてんだ」
拓海「え?じゃあどうすれば……」
池谷「すまんがしばらくここで待ってろ。後で拾いに……」
そう言いかけたところで、今度は別の方向から声がかかる。
???「あれ?もしかして君たち、車無いの?」
それはファンタジアのメンバーからだった。
他のメンバーが各々のマシンに向かう中でこちらに向かって歩み寄ってくる少女が二人。
一人は薄紫色の髪を腰のあたりまで伸ばし、白い半袖ブラウスと桃色のプリーツスカートを着たイツキたちと同年代らしい見た目の少女。
もう一人は金髪を後ろでまとめた、黒の半袖シャツにブラウンのフレアスカートという出で立ちの少女だった。
池谷「あぁ、実はそうなんだ。今日たまたま連れてきたってだけで、こいつらは正式なうちのメンバーじゃなくてな、自分の車も持ってねぇんだ。本当は今すぐ麓まで降ろしてやりてぇんだけど、これからダウンヒル走るとなると二人も載せてられなくてな」
イツキ「じ、実は俺たち……免許取りたてでさ、車持ってないんだよね。……車さえあれば、君たちと一緒に走れたんだけどなー……なんて」
???「もしこれから帰るんだったら、私たちが代わりに下まで送りましょうか?」
池谷「でも、良いのか?あんたらも走るんだろ?……それに、初対面の男なんか乗せて大丈夫かよ」
???「いいのいいの。どうせ下まで降りるのは変わらないんだし、これもなんかの縁ってことでさ。もののついでで麓のバス停あたりまで行くくらいだったら特に時間もかからないし。……別に、一本目だから本気で攻める訳でもないしさ」
???「それに、君たち車がないんでしょ?車のない子を山の上に取り残して行くのも、ちょっと忍びないし、それに危ないからさ……」
ついさっき会ったばかりの初対面の異性から持ちかけられた、自分たちに都合のいい話ということもあってか何か裏があるんじゃないかと一瞬いぶかしむ池谷であったが、彼女たちの人当たりの良さそうな態度を見るに大丈夫だろうと判断して了承することにした。
池谷「そういうことなら、まぁ……。でも、お前らはそれで良いのか?」
イツキ「もっちろん!俺は大賛成ですよ!」(先輩以外の走り屋の横乗り!それも女の子!)
拓海「まぁ、送ってくれるなら……それで良いけど」
ヤマメ「決まりね。じゃあ早速いこうか。私は黒谷ヤマメ。あの黒いFDのドライバーよ」
鈴仙「私は鈴仙よ。あの白い180SXのドライバーなの。よろしくね」
イツキ「あの……俺、武内イツキって言います!初対面なのに、今日はありがとうございます!」
拓海「藤原拓海です。その……助かります」
女の子からの横乗りの誘いということもあってハイテンションになるイツキと戸惑いや緊張の混じる拓海。
鈴仙「イツキくんに、拓海くんね。……じゃあイツキくんは私の180に、拓海くんはヤマメのFDに乗ってね。レッドサンズが出終わった後、スピードスターズに続く形で私たちも出るから」
池谷「じゃあウチらの後輩任せるよ。わざわざ悪いな。俺からもお礼を言わせてくれ」
ヤマメ「気にしないで。このくらい、なんてことは無いわ」
池谷「そう言ってくれるとこっちも気が楽になるよ。あと、分かってるとは思うけど、秋名の峠は後半になればなるほど勾配がきつくて下りを攻める時は特に速度が乗りやすい。気をつけてくれよ」
ヤマメ「アドバイスありがとう、池谷さん。さてと、それじゃあ行こうか、拓海くん」
そう言うと、二人に連れられて拓海とイツキはファンタジアの一団の中に混じっていく。
二人がそれぞれの車の助手席に乗り込むのを確認すると、池谷は意識を走りへと向けるのだった。
深夜の秋名山、10台以上の走り屋の車がそのエンジンを轟かせる。
今、三つ巴の戦いが始まろうとしていた。
自分がリアルで白いS660を購入してクルマ熱が湧いてきた事と車内でユーロビートを聴きまくっているうちに頭文字Dも再燃したことと、ハーメルンで見つけた某作品に影響された事で触発され筆を取りはじめて間も無く一年。
ついにレッドサンズ戦まで書き溜めを書き上げたため投稿する事といたしました。
ストックが尽きるまでは一週間から二週間に一本のペースで、ストックが尽きて以降は「超絶!ウルトラスーパーレイト更新!」となる予定です。