東方頭文字D 〜 Lunatic Stage 〜   作:D-Ⅸ

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前回の話の続きになります。
なので今回の更新スパンはいつもよりちょっとだけ早めです。
なんとか3月までには間に合わせましたよ。

リクエスト(キャラ、車両、エピソード等問わず)はまだまだ募集中です。
感想や評価、または誤字誤植の指摘等もよろしくお願いします。


第28話 決着!ハチロク対GT-R!

後半セクションのコーナー区間で、驚くべきペースでハチロクはGT-Rとの差を詰め返していた。

 

中里(やっぱりコーナーで詰めてきやがる!振り切れない!それどころかむしろ食いつかれたままの時間がどんどん長くなっていく!スッポンみたいにくっつきやがって。……クソッタレ、手強い!生きてて良かったぜぇ!!)

 

車内では想像をはるかに上回るハチロクの速さに驚嘆を見せる中里の姿があった。

後ろから感じるプレッシャーに緊張や苛立ちを感じない訳ではない。

だが同時に嬉しかった。

この強敵との手に汗握るバトルこそ、中里が心から求めてやまなかったものだった。

闘志をたぎらせ歯を食いしばりつつ、その口角は静かに上がっていた。

血湧き肉躍る熱いバトルに、中里は歓喜と高揚感を抑えられなかった。

 

啓介「インをデッドに攻めるってのは言ってみりゃあ走り屋の口癖みたいなもんだが、コイツは半端じゃねぇ!こんなのは初めてだぜ!(……見た感じ、中里くらいの腕があってもよその峠じゃ20から30センチくらいってところか?アニキみてぇな別格の走り屋を除けば、上手い走り屋でも大体そんなもんだ。なのにあのハチロクはガードレールにバンパーを擦り付けるみたいにしてほんの数センチから下手すりゃ数ミリのところを攻めてやがる!……はっきり言って桁違いだぜそんなのは!何であんな正確なドリフトのコントロールができるんだよ!……何なんだ!一体何モンなんだあいつは!)」

 

底知れない秋名のハチロクの実力に戦慄するばかりの啓介だが、ふと隣が静かであることに気づいて何となしに運転席の方へと視線を運ぶ。

すると、そこには先ほどまでとは全く違う、ギラつくような目つきでただ前一点を睨みつけながら車を走らせるヤマメの姿があった。

 

啓介(さっきから喋んねぇと思ったら明らかに面構えが変わってる。……コイツ、まさか本気で走ってるのか!?)

 

練り上げられたこのチューンドのFDを駆り、自分をあっさりと千切ってしまったドライバーが話す余裕すらも無くして殆ど全開走行をしなければ、直線はともかくコーナーで置いて行かれかねないほどの状況なのだと気付かされる。

 

啓介(それにしても、コイツもコイツですげぇ腕してるぜ。FDを労わるような気さえ感じるってのにそれでいながらシフト操作が素早いし、変速ショックとそれによる荷重や姿勢の乱れもねぇ。どんな時でもほぼドンピシャで回転数を合わせてるからギクシャク感が一切ねぇ。ハチロクほどじゃ無いにしてもブレーキングだって相当に鋭いし、ライン取りも中里よりも攻めたいいラインを走ってる。まぁ、アニキが言うにはFRと4WDだと理想のラインは少し違ってくるらしいけどな。……もしかして、コイツこのハチロクのラインをなぞってんのか?……流石に地元のハチロクにはこうして手こずってるが……悔しいけど俺より良い線行ってるぜ)

 

そして啓介は自分よりも若く見えるヤマメのその運転スキルの高さにも同時に驚かされていた。

 

啓介(……それに、同じFD乗りを贔屓したい気持ちが多少入ってるのは否定しないが……多分、中里相手の1対1だったらコイツは勝っちまうんじゃねぇか?)

 

ヤマメ(コーナーが速すぎる!勾配がキツくなるにつれてみるみるうちにペースが上がっている!後半セクションに入ってから私の余裕がなくなった!……何よりもハチロクのライントレースがおぼつかない!どんなに頑張っても寄せきれずに、殆どのコーナーでほんの数センチだけ甘えたラインを走ってしまう!……でもこれは全部私のせい。私が攻め切れてないんだ。FDは決してハチロクに劣るような車じゃない!拓海くんとハチロクには出来ているのに、私にはまだ出来てないのなら、劣っているのは私の腕の方……!まるで私の未熟さ見せつけられているみたいで、それが悔しくて悔しくてたまらない!)

 

コーナーでついていくために殆ど限界に近い領域まで攻め込むヤマメだったが、幸いにもブレーキやタイヤはまだ持ち堪えられていた。

これは軽量コンパクトなロータリーエンジンを採用したFDの持ち味である、良好な前後重量バランスに加え、フルレストア時に行われたカーボンパーツを用いたカスタムや不要な装備の撤去による軽量化チューン、そしてドライバー本人に染み付いたマネジメント能力によるところが大きかった。

 

中里「くっ……アンダー気味だぜ(今のコーナーは危なかったな。ここに来てフロントタイヤの応答性が少し怪しくなってきた。今この瞬間も少しずつ、少しずつアンダーの傾向が出てきやがる。ここまでABSを効かせながらこじるようなステアリング操作をし続けてきたからな。……フロントタイヤにかかる負担が俺が予想していたよりも遥かにデカい!まだ連続ヘアピンもクリアしてねぇってのに!厳しくなって来たな!……だがGT-Rがハチロク相手に負けるわけにはいかねぇ!……絶対に!)」

 

一方で、中里の方はヤマメ以上に走りに苦しさを抱えるようになっていた。

今この場を走る3台の中で最も劣悪なスーパーフロントヘビーの前後重量バランスと、1500キロオーバーという最も重い車重がこの急勾配の秋名のダウンヒルで足かせとなってしまい、アンダーステアが出て来てしまっていた。

 

プッシングアンダーへの対策として中里が身につけた、突っ込み時のハードなブレーキングにより車速を落としてコーナーで常にフロントに荷重をかけ続けるグリップ走法というのは、R32からR34までの第二世代型GT-Rの中で最も前後重量バランスが悪いR32とは、はっきり言って相性が悪かった。

フロントタイヤを過剰に酷使するその走法ではフロントタイヤの負荷が後輪よりも圧倒的にデカいため、R32 よりも軽量なFRでありなおかつフロントタイヤのみにかかる荷重と負荷が集中しない四輪ドリフト走法を取る後ろのハチロクやFDがタレない様なシーンでも、中里のR32 GT-Rはフロントタイヤやブレーキが熱ダレを起こしてしまう。

 

ハチロクを追う側と、ハチロクに追われる側。

マシンと走り方が功を奏した側と、マシンと走り方が裏目に出た側。

ヤマメと中里の2人はある意味対照的と言えた。

 

そして、このバトルの運命を決する秋名最大の勝負エリア、後半の連続ヘアピンへと3台は突入していく。

 

 

 

 

 

ギャラリー1「ついに来たぞ!ハチロクとFDがGT-Rにピッタリついて行ってるぞ!」

 

ギャラリー2「先行の中里が苦戦してんのか!?ここまで差が全然ねぇぞ!」

 

松木「来るぞ……。見とけよ塚本、これがあの高橋啓介を千切ったハチロクの走りだ」

 

塚本「……」

 

連続ヘアピン区間、第一ヘアピン。

そこに詰めかけるギャラリーたちの中に、赤城の走り屋である松木とその後輩でありチームの新入りメンバーである塚本はいた。

先週のレッドサンズとスピードスターズとファンタジアの交流会に刺激を受けた彼らファイヤーバーズを始めとした赤城の走り屋たちもまた、このバトルに関心を寄せていた。

特に松木は新人を含むチームのメンバーたちに発破をかける意味でも、このバトルの存在は大きいと考えていた。

 

今か今かと近づいて来る3台を見つめる彼ら。

そしてついに待ち望んでいた瞬間がやって来る。

弾けるような三重奏のエキゾーストサウンドを轟かせ、悲鳴のようなスキール音を立てて第一ヘアピンに突入していく。

インベタを果敢に攻めるGT-Rとアウトギリギリの際どいラインを駆け抜けて外から猛然と仕掛けるハチロクの攻防は見るものを湧かせた。

 

ギャラリー2「すげぇ競り合いだ!ハチロクが外から仕掛けやがった!」

 

ギャラリー3「おっしゃ!よく守り切ったぜ中里も!……鳥肌もんのバトルだぁ!」

 

塚本「すんげぇ突っ込みだったっすよ!これが今噂のハチロクかぁ……」

 

ギャラリー4「や、やべぇ……噂通りのカミカゼ走法だ!」

 

ギャラリー5「すげぇよ!最高にキレてるぜ。あんな狭っ苦しいラインを滑らせながら行くんだからさぁ……」

 

松木「どうだ?塚本」

 

塚本「すげぇっすよ先輩!めっちゃかっこよかったっすよ!白線の外側を通して一瞬砂埃が上がった時なんか鳥肌が立ちましたよ!マジでやべぇっす!」

 

松木「あぁ……。だがかっこいいだけじゃない。何より速いんだ。あれはそんじょそこらの走り屋とは文字通り次元が違う。その辺のドリフト小僧の走りとは根本の部分からまず違うんだ。秋名のハチロクのドリフトは、速く走るってことを突き詰めたドリフトだからな」

 

塚本「速く走るためのドリフト……?」

 

松木「あぁ、派手な音と見た目のせいでドリフトってのはパフォーマンスや曲芸としての側面にばかり注目されがちだが、そもそもの発祥はいかに速くコーナーを抜けるかを追求した結果として生まれたテクニックだ。あのハチロクやその後に続くFDの走りはその本来のスタイルである『速く走るためのドリフト』そのものだよ。……高いスピードのアベレージとエンジンのパワーバンドを維持するために、タイヤのグリップを目一杯に使い切ってガンガンに踏みながら曲げていくんだ。……言うだけなら簡単だが俺でも出来ない様な高等テクだぜ、あれは。コイツらに匹敵する様なコーナリングスピードは俺ですら無理だ。……これが、トップレベルの走り屋たちの走りなんだ。今日見たこと、よく覚えとけ」

 

松木の話に耳を傾けつつも、目を輝かせながら3台を見送る塚本。

そんな彼の様子を横目に松木は腕を組んで思考に耽る。

 

松木「R32 GT-Rの様な、スペックでハチロクを遥かに上回るマシンを相手に戦うのは、それ自体が危険な綱渡りの連続になる。……ほんと、大したもんだぜ(相当な腕と度胸が無けりゃあ、普通は直線で置いてかれてそれでお終いだ。コーナーで詰められないローパワーに勝ち目なんか無いんだ。ここまで食らいついて行けてる時点で俺にはまるで奇跡に思える。……だがこのハチロクはその奇跡の更に上をいっている。……思わず目を疑う様なことだが、コイツはよりにもよってハチロクでそのGT-Rを追い詰めていやがるんだ。それはお互いの走りを、もっと言えばタイヤを見れば分かる。……この第一ヘアピン、GT-Rはタイヤを引きずってアンダーと戦いながら無理にインを締める様なコーナリングをしていたが、ハチロクはそうじゃない。ここで外から被せて大胆に仕掛ける姿勢を見せてきた。それだけの余裕がまだあるんだ。……決定的な違いは後ろをドリフトしながら走る2台はタイヤの温存に成功しているが、GT-Rは熱ダレに苦しんでいる節がある。……この時点でこれなら、ゴールまでタイヤが持つかどうかは疑問だな。なんせ秋名の下りは前半よりも後半の方が勾配がキツく、タイヤやブレーキを酷使するコーナーが多くなる。……俺もこのヘアピンは正直怖い。ましてや、中里のマシンは俺のワンビアよりもはるかに重いスーパーフロントヘビーのR32 GT-Rだ。状況は厳しくなる一方だぜ。……アイツはコースを見誤ってタイヤマネジメントを失敗したんだ)」

 

ギャラリー6「また外から行ったぁ!」

 

誰かがそんな声をあげる。

彼らの視線の先には競り合いを演じながら猛烈な勢いで第二ヘアピンへと消えていく2台と、それを追うFDの後ろ姿が見えていた。

 

 

 

 

 

ギャラリーたちがその走りに湧き立ち感嘆する一方、中里はこの第一ヘアピンを眼前に捉えた時、ある策を講じるために走り方を切り替えていた。

 

中里「ついに来たか、この区間が(あのハチロクは路肩の側溝を使ってとんでもないコーナリングをしやがるんだ。俺はこの連続ヘアピンであの高橋啓介が抜かれるのを見ていたからな。……だが、要は内側に飛び込ませなきゃ良いんだろうが!インは絶対に開けないぜ!)」

 

コーナーの侵入から立ち上がりまで徹底してインを開けずに曲がることで、秋名のハチロクが先週の高橋啓介戦において中里たちの前で披露した例の地元スペシャルのコーナリングを封じる構えだ。

こうすればあのハチロクは奥の手を防がれて中里の背後に封じ込められる事となる。

 

だが、拓海はそんな中里の予想を裏切る様な行動に打って出た。

 

中里「なに!……外からだとッ!?」

 

拓海はインベタのラインを塞がれて締められたのなら、外から抜かせばいいと言わんばかりにアウトに振って被せにかかる。

溝落としを警戒してインベタのラインを通るため、ただでさえ熱ダレ気味のブレーキをよりハードに踏み込まねばならない中里はどうしても速度を犠牲としてしまう。

そのせいで拓海に外からの攻撃を許すだけの余裕を与えてしまっていた。

これはタイヤマネジメント戦略の失敗に次ぐ中里第二の失策だった。

 

中里「舐めてんじゃねぇぞ!外から行かすかよ!」

 

だが流石のGT-R、なんとか踏ん張り立ち上がりでまた前に出る。

そしてイン側を塞ぐ様に再びハチロクの前へと立ち塞がりそのまま第二ヘアピンへと突っ込んだ。

 

中里「ムカつくぜ!コーナーのたびにチョロチョロと外側に出られちゃあ目障りでたまんねぇぜ!」

 

だが性懲りも無く外から抜きにかかろうとしてくるハチロクに中里は苛立ちを募らせ、次第に集中を欠いていく。

特に相手が背後にピッタリと食いつき執拗なまでに仕掛け続けてくる今のような状態では、中里だけに限らず多くのドライバーは平常心を保ってはいられない。

攻撃的に、猛烈にプッシュして来る背後の敵に意識を割かれれば必然、どうしても走りは疎かになる。

 

本来のものとはズレたブレーキの踏み込みとリリース、立ち上がりのアクセルワークが徐々に、僅かにGT-Rの挙動と姿勢を乱していく。

その小さなミスの連続がさらにドライバー自身の心すら蝕んでいき余計に集中を奪っていく。

そのサインを見逃すほどヤマメの目は節穴ではなかった。

他でもないヤマメ自身が、そうした相手の精神的動揺を誘い、その隙をつくことに特化したドライバーであるが故のことだった。

 

ヤマメ「立ち上がりで少し姿勢が乱れた。多分本来のリズムを上手く刻めてないのね。GT-Rの挙動が怪しいわ。……この大事な時に集中力が落ちてきてる。これなら決着はもう直ぐね。……多分ハチロクが仕掛けに行くよ」

 

啓介「仕掛けに行くって……どうやって?」

 

先頭を走る中里のペースが落ちてきたことで再度余裕が生まれたヤマメの言葉に、啓介が疑問を口にする。

 

中里(クソッ!屈辱だぜ!こんなに大勢ギャラリーが出てる中で、こうも好き勝手に外から突き回されちゃあな……。タレたタイヤに無理させて強引にインに付こうとするから不自然なラインになって突っ込みが甘くなるんだ。車一台入らない程度にギリギリに寄せられさえすればそれで良いはずだ。……それならもっと進入スピードを上げられるぜ!)

 

そして第四ヘアピン。

背後のハチロクが先ほどまでと同様に外側に陣取ろうとするのをミラーで確認すると車一台入るか入らないかという程度にあえて甘めにインを締めつつ突っ込む中里。

 

 

 

 

 

♪ Heartbeat / Nathalie

 

 

 

 

 

中里(ハチロクがアウトに振った!……インにはこねぇな!)

 

だが、そこである異変を感じ取る。

 

中里(なに……!?さっきまで居たところにハチロクが居ない!)

 

自身のアウト側、いるべきところからハチロクが消えていた。

先ほどまでと中里を運転席側から照らしていたヘッドライトの光はもうそこには無かった。

 

中里(どこへ行った?……まさか!)

 

中里にとっては非常に不味いある可能性に思い当たる。

そして、それを証明する様に今度は助手席からその光が飛び込んで来る。

ハチロクが一瞬にしてインに飛び込んで溝落としを決めていたのだ。

 

啓介「さっきまでの外はフェイント……本命は中か!?」

 

ヤマメ「外に振った後にフルブレーキングしながらラインを変えた!(中里のイン側の締め付けが甘くなったその瞬間を逃さなかったんだ!)」

 

その一部始終を見届けていたFDの車内でもその手際に思わず驚きと感心の声が漏れていた。

 

中里(外に振ったと油断した瞬間に強引に捩じ込んで来やがった!……こんな芸当が出来る車なのかよハチロクは!……鮮やかなもんだぜ。だがこれで勝ったと思うなよ!このまま並んで立ち上がれば2速からの全開加速で俺は前に出れるんだ!RB26の底力を見せつけてやるぜぇ!!)

 

負けられない。

負けたくない。

その強い思いがコーナーの立ち上がりで中里にアクセルを踏み込ませる。

RB26DETTのツインターボがそれに応えるために一気にパワーを立ち上げて大きく吠えた。

 

ヤマメ「(まずい!GT-Rが滑る!)啓介!掴まって!」

 

ヤマメがそう叫ぶと何かを察した啓介はドアを掴むと同時に蹴り込む様に足を突っ張らせて、即座に横Gに耐えるための体勢を取る。

直後、ベストなタイミングから早くに踏みすぎてしまったため、中里のGT-Rがタイヤのグリップの限界を超えてしまい破綻。

ズルズルに熱ダレしたタイヤは立て直そうにも最早まともに路面に食いつかない。

遠心力に引っ張られて車体はガードレール目掛け膨らんでいく。

 

中里(しまったぁ!肝心なところでアンダーを出しちまったぜ!)

 

さらに思い切り踏みちぎったが故の大パワーを受け止められなかったリアタイヤもまた破綻。

大きく姿勢を乱させてテールスライドを起こす。

そして車体後部をアウト側に振られたR32は、中里の腕を持ってしてもコントロールを取り戻せないまま、なす術なくガードレールにテールをヒットさせる。

 

そんな中里の様子を尻目にハチロクはそのまま溝落としを成功させて綺麗に離脱していく。

中里の後ろにいたヤマメは中里が外に膨らむのを察知したその瞬間、コーナーアウト側からインに向かって逆ドリフトの様に車体を振り返し、捻り込んでいく。

ヒットしたガードレールから跳ね返ったGT-Rが今度はスピンを起こしながらイン側へと向かうが、その脇をすり抜ける様にFDは通り過ぎていった。

 

 

 

遠ざかる2台のエキゾーストサウンドをバックに、中里は1人暗い峠に取り残されていた。

 

中里(……負けた。俺とRがバトルで負けた……?いや、違う。負けたのは俺だ。これはR32 GT-Rの敗北じゃねぇ。……ショックはショックだけど、不思議と爽やかな気分だぜ。……全力を出し切って、それでも負けたんだからな)

 

中里「とは言え……」

 

そう言うと中里は一呼吸置くとポケットからタバコを出し一本だけ吹かす。

ガードレールにヒットして凹み、塗装が剥げたリアバンパーとフェンダーを軽く撫でる。

 

中里「いってぇなぁ……。また板金7万円コースかぁ……」

 

しかし、自走可能であった事は不幸中の幸いであった。

再びマシンに乗り込み、気を取り直して峠を降りていく。

 

中里(世の中には俺が考えていたよりもよっぽどすげぇドライバーが居る。……峠は奥が深い。……また腕磨いて出直すとするか)

 

物悲しげなエキゾーストサウンドを響かせつつ、手負のGT-Rは駆けていった。

 

 

 

 

 

啓介「……なぁ、どう思う?あのハチロクのこと……」

 

時は経ち、ハチロクの勝利を見届けた2人はスタート地点へと戻るために再度来た道を戻り峠を登る。

そんなFDの車内にて、啓介がそう切り出した。

13Bの奏でるロータリーサウンドをBGMに、2人は拓海の走りを見てそれぞれが感じたことを話し合う。

 

ヤマメ「……すごく速かった。前にいたGT-Rが上手くブロックしてたからこっちも着いて行けたけど……。もし、ハチロクの前に何も障害がなかったら……きっと今さっき見せてた以上のコーナリングをしていたと思う。……実際に、GT-Rが脱落してからゴールまでのわずかな区間でさらにペースを上げてたから」

 

啓介「中里の野郎だって中々いい腕をしてたが、アイツは……あのハチロクはこうもあっさり仕留めちまった。まぁ、最後はあれは中里のミスだが、そう言うところまであのR32を追い詰めたのは紛れもなくあのハチロクの実力だ。……世の中、とんでもねぇ奴がいたもんだ」

 

ヤマメ「でもね、だからこそ、私たちは熱くなれるんじゃないかな?……挑戦しがいのない楽勝な壁なんて、そもそも越える気にならないでしょ?弱い相手とのバトルなんかじゃあ、満足出来ないでしょ?……バトルの相手は強ければ強いほどいい。狩りは獲物が強ければ強いほど興奮する。……それこそ、自分よりも格上じゃなきゃあ、勝つ意味がないよ」

 

啓介「……あぁ、確かに今の俺じゃアイツにはきっと勝てないかも知れねぇ。……だがそれでも俺は逃げるつもりはねぇ。今よりも上手くなって、いつかアイツにリベンジマッチを挑むつもりだ」

 

ヤマメ「私も、あのハチロクと戦いたい。あのハチロクに勝ちたい。……他でもない、この秋名の峠であのハチロクを越えたいの」

 

啓介「……あと、俺はお前につけられた黒星だって当然忘れちゃいねぇからな。お前もアイツも、いつか絶対に超えてやる。レッドサンズの関東最速伝説は俺が打ち立てる。こんなところで躓いてられねぇぜ」

 

ヤマメ「……もちろん、その時は受けて立つよ。私たちだって、自分たちの速さを証明するために戦ってるんだから」

 

お互いに同じ車を操り、同じ目標を共有し、同じ高みを目指す。

ライバルであると同時に、仲間でもある。

その実感が2人の心の距離を縮めていく。

 

啓介「……それじゃあ1つ、約束してくれねぇか?」

 

ヤマメ「……?なに?」

 

啓介「……負けんなよ、俺以外の奴に。……俺も、誰にも負けねぇから」

 

ヤマメ「……うん。いつか、最速を決める戦いをしよう。啓介」

 

それぞれの想いを明かし、決意を確かめて2人は登っていく。

歓声に包まれる頂上の駐車場に着くまで、ただ静かにエンジン音だけが車内を満たしていた。

 

 

 




何故か頭文字Dの世界でGT-Rと言えばブレーキやタイヤの過労死からのアンダーやオーバーランが伝統芸みたいになってますよね。
リアルだと峠のダウンヒル程度でタイヤがあそこまで垂れてズルンズルンになる事って無いはずなんですけど……。

2024 / 2 / 26 19時14分
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