東方頭文字D 〜 Lunatic Stage 〜   作:D-Ⅸ

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ハロウィーンのために書いたちょっとした短編になります。


外伝
外伝1 ハロウィーンの幽霊スポーツカー


199X年10月31日、茨城県笠間市。

筑波山から吾国山を通るフルーツラインこと、県道42号線のとある区間。

道祖神峠(どうそじんとうげ・どうろくしんとうげ)と呼ばれるその道路は、毎週土曜から日曜にかけては多くの走り屋で賑わう有名な走りのスポットでもあった。

そんな道祖神峠にわざと賑やかな週末を外して人や車の少ない平日深夜に走りに来る走り屋がいた。

『彼』のように混雑とトラブルを回避するためにわざと日時をずらすタイプの走り屋は少なくなかったが、幸か不幸か今日は麓の小さな砂利の駐車場には彼一人。

もし上にも誰もいなければ今日はほぼ一晩全て貸切状態であっただろう。

 

彼の愛車は白いY31グロリアスーパーカスタム。

人気のない深夜の静寂を、先日交換したばかりの柿本製マフラーのサウンドで引き裂きながら駆け上がる。

2速へ落として終盤の見せ場となるタイトなヘアピンへと突っ込んで、けたたましいスキール音を鳴らしながらテールを派手に流したドリフト状態のまま通過していく。

そのグロリアの走り屋、加藤は進入から立ち上がりまで思い通りのベストなラインにビシッと乗せられたことに気を良くして口角を上げる。

 

加藤(いいねぇ、この音。今までのマフラーもよかったが底打ちして穴開けちまったからなぁ……。だが変えて正解だったぜ。流石天下の柿本様だ!たまんねぇや!……走りの方も調子がいい。今のは我ながら上手くドリフト出来たんじゃないか?)

 

加藤はそのままのリズムを崩さないように道幅を目一杯使いきってドリフトさせて次のコーナーもパスしていった。

対向車の心配がほとんどないこの曜日、この時間帯の道祖神峠は彼のお気に入りでもあった。

 

しかし、今日はそんな彼を害意を持って待ち構える存在がいた。

 

 

 

 

 

● ● ● ●

 

 

 

 

 

???「おうおう、ようやくお出ましかぁ?……相変わらず下痢便みてぇに下品な音出しやがって」

 

山を駆け上がり近づいて来るスポーツカーらしき音に不愉快さを隠すことすらせず顔を歪める、耳から金のピアスをぶら下げた金髪のガラの悪い男が一人。

上り側ゴール地点の駐車場の手前に道路を塞ぐように停めてある、親から借りたシルバーの100系ハイエースに背を預けて立っていた。

その右手に、バイト先の工事現場からくすねてきた鉄パイプを握りしめながら。

 

???「おい、オメェら出てこい。獲物だぜ」

 

彼がそう言うと後部座席からぞろぞろと4人の男が出てきた。

金髪の男に劣らず人相の悪い彼らの手にはバットや木刀などの凶器が握られていた。

 

???「打ち合わせ通りにやるぞ、難癖つけて車潰して走り屋ボコして有り金全部巻き上げて、そんでサツ来る前に撤収だ。分かってるよな?」

 

手下1「もちろんです、斗塚さん」

 

手下2「任せてくだせぇ」

 

斗塚(走り屋みてぇなアウトローの連中を襲って潰すんだから、これからやんのはある意味じゃあ慈善事業みてぇなもんだ。社会のゴミ掃除って奴だ。……良いことして金稼ぎとは、我ながらよく考えたぜ)

 

 

 

走り屋狩り、または走り屋潰しとも呼ばれる行為を企んでいる不良集団の彼らは、平日夜は襲撃するのに程よい少人数の走り屋が現れると言う情報を仕入れてこの曜日の深夜に狙いを定めてやって来たのだった。

流石の不良集団の彼らも、関東有数の勢力を誇る暴走族上がりの人間が率いるチームに目をつけられて数の暴力で対抗されると勝ち目がない事は分かっているために、そう言う勝てそうにない走り屋が集う土日の夜に堂々と乗り込むことはせず、あえて彼らの定例会がない平日のこの時間帯を選んで待ち伏せるようにしていた。

 

斗塚「来たぜ、クソッタレの走り屋がよぉ」

 

 

 

 

 

● ● ● ●

 

 

 

 

 

コーナーを立ち上がって目の前に飛び込んで来たハイビームの光に、加藤は思わずブレーキペダルを踏みしめる。

道路のど真ん中にハイエースが停めてありその脇に手に何かを持った数人の男が立っている。

この先にあるキャンプ場に天体観測か何かが目的で来ていた一般車がトラブったかと思ったが、どうにも様子がおかしいように見えた。

 

一番手前側にいる金髪の男が手に持っている何かは最初タイヤ交換用のレンチかと思ったがよくよく見れば鉄パイプであるし、その他の男が持っているものはバットに木刀ときていた。

どう考えてもまともな連中ではなさそうだった。

 

斗塚「ようようセダンの兄ちゃん、こんな夜中の山道で何してんだ?」

 

金髪の男が近寄りながら話しかけてくる。

緊張からか、加藤のシフトノブを握る手に自然と力がこもる。

 

加藤「何って、走りに来てんだよ。あんたらこそ、そんな物騒なもん担いで何やってんだ」

 

加藤は何か不穏なものを察しつつも努めて冷静に対応しようとするが、話はどんどん悪い方へと転がっていく。

 

斗塚「見てわからねぇか?検問だよ検問」

 

加藤「検問だぁ?」

 

斗塚「おう、俺たち最近お金に困っててなぁ、ちょっとしたビジネスってもんを考えたんだよ。ここでテメェらみてぇな走り屋相手に検問張って一回通過するたびに十万円ぽっちもらおうって簡単な話だ。こんなご大層なセダンに乗って弄ってるくれぇだ、そんなもん端金だろ?ほら、お前らいつもこの奥まで行って折り返してんのは調べがついてんだ。通りたかったら早く金払えよ。払えねぇってんなら今すぐココでテメェとその車をボコボコにして崖から突き落としてやってもいいんだぜ?」

 

加藤「おいガキ、今なんつった?黙って聞いてりゃあまるでお話にならねぇな。……あれか?良い歳こいてカツアゲかぁ?チューンドエンジンの400馬力で轢かれたくなかったらとっとと退きな」

 

あまりにも支離滅裂で無茶苦茶な言い分に加藤も思わず喧嘩腰になる。

いくら冷静な対応を心がけていようとも加藤の方もそれなりに沸点は低いタイプであったし、ボサボサの茶髪に無精髭に太い眉という悪人ヅラに違わぬ素行の悪さも兼ね備えていた。

 

だが、何より「愛車を潰す」と言われて黙って居られるほどに、加藤という男の走り屋としてのプライドは安くはなかった。

 

斗塚「テメェ、クズの分際で誰に舐めた口聞いてんだ!殺されてぇか!テメェがその気なら今すぐ廃車にしてやっても……」

 

手下3「斗塚のアニキ……」

 

斗塚「あぁ!!?」

 

手下3「ヒィ!」

 

話を遮られて思わず怒鳴る斗塚に思わずその小太りの手下が怯むが、おどおどしながらも話を続ける。

 

手下3「も、もう一台登って来てますぜ。こいつのダチならちょっと厄介なことになるんじゃあ……」

 

ここに来て加藤もようやく登ってくる車に気がついた。

目の前の不良の相手をすることに神経を割きすぎて分からなかったのだ。

しかし加藤の方も手下の男とは違った意味でまずいと考えていた。

 

加藤(まずい……こんなところにもう一台来やがった。……誰だ?この音は1Jか?2Jか?とにかくこっちに来るんじゃねぇ!なんとかならねぇか!変なところに止まられたらこっちの逃げ道がなくなる。そうでなくてもこのキチガイどもの標的にされちまう!クソ!)

 

斗塚「今更増えたくらいで何なんだ?むしろ金ヅルが増えるんだから盛大に歓迎してやろうぜ。……それともあれか?テメェ日和ったか?」

 

手下3「い、いえ……そういう訳じゃあ」

 

そうこうしているうちにその車がやって来てしまう。

暗い青の大柄なボディに丸目の四灯、なぜか室内灯を明滅させながら走って来たアリストだ。

 

だが、その車のある部分に視線を運んだ瞬間、加藤を含めたその場の全員の背筋に氷水がぶちまけられたかのような冷たい衝撃が走り、みるみるうちに顔面蒼白となっていった。

かつてとある高校の番長を名乗り度胸自慢を自称していた斗塚でさえ鉄パイプを握る手が震えていた。

 

 

 

 

 

♪ HORROR FANTASY / SCREAM TEAM

 

 

 

 

 

加藤「え?……あ、あぁ……!」(あ、あり得ない。なんだこりゃあ!……車の中に、人が居ない!!)

 

手下1「」(無人の車……ナンバー『冥界 36 し 42 - 731』なんだよ……これ……!)

 

あるべきところに人が居ない無人の車。

あの世を示す絶対に存在してはいけない地名。

42731(死になさい)という縁起が悪いどころではない、不吉と殺意の極みの様なナンバー。

命の危機が迫っていることを知らせるように全身の鳥肌が立ち、汗が溢れて止まらなくなる。

全員が目の前の現実を受け入れることを拒んだことにより生じた一瞬の硬直が場の空気を支配するも、それはすぐに破られる。

 

手下2「う、うわぁぁぁ!あああぁぁぁぁぁぁ!!」

 

恐怖の限界を突破した不良集団の手下の一人がバットを投げ捨て駐車していたハイエースへと駆け込む。

それを皮切りに不良集団は完全に逃げに入った。

 

手下4「あぁぁぁ!出た!出たぁぁぁぁぁぁ!!」

 

斗塚「お、おおおおお前ら逃げるぞ!」

 

斗塚が大慌てで運転席に駆け込むとシートベルトをつけることも忘れてバックにギアを入れてアクセル全開ですっ飛んでいく。

しかしコントロールを誤って土手に乗り上げて木へと激突し、テールゲートを思いっきりひしゃげさせリアガラスを粉砕する。

テールゲートに取り付けられていた後方足元を確認するためのリアミラーはその衝撃で脱落し茂みの中へと落ちていった。

 

加藤「な、何だよ!何だってんだよ!今日は!……クソッタレがぁ!」

 

 

加藤(クソ!今日はなんて日だ!走り屋狩りに絡まれたと思ったら今度はお化けだとぉ!?前門の走り屋狩りに後門の無人お化けアリストなんか冗談じゃねぇぞチクショウがぁ!まだ丑三つ時にすらなってねぇってのにとんだバケモンが出て来やがった!……とにかくこんなところに居たら命がいくつあっても足りゃあしねぇ!なんとしてでも逃げてやらぁ!)

 

とっさに我に返った加藤もブレーキをかけた状態で思い切りエンジンをぶん回しバーンアウトを引き起こさせる。

そのままタイヤの出す白煙に車体を隠しながら煙の隙間から見える僅かな手がかりを頼りにステアリングをこじりつつフロントを軸として車を半回転させた。

 

加藤(見えた!煙の隙間からお前の四つ目が!こうなりゃヤケだ!思いっきり突っ込めぇ!)

 

ブレーキを離し車は一気に加速体制へと入る。

目指すは真正面の幽霊アリスト……の真横だ。

 

免許をとってから早10年、これまで積み上げて来た己の走り屋としてのテクニックや経験と、幽霊アリストが捨て身で道を塞いでこない可能性を信じて飛び込んだ。

不良集団も加藤と同じ考えだったのか、それともただ単純にヤケクソを起こしたのか、テールのひしゃげたハイエースがノロノロと白煙へと飛び込んで未だに動かない不気味な幽霊アリストの隣をすり抜ける。

そのままホイールスピンによるスキール音をかき鳴らして峠を駆け降りるグロリアをガーガーと鳴く調子の悪いエンジンを必死に回して追いかけていくが、当然ながら走り屋を相手にたった今事故車になったクラッシュドハイエースでは追いつけるはずも無かった。

 

そして2台が通り過ぎた直後にその幽霊アリストも短い助走を付けながらサイドターン。

甲高いスキール音と共に180度きっちりマシンを回転させると、その2台の後を追うように走り出した。

 

 

 

 

 

斗塚「ヤバいよヤバいよヤバいよ!ヤバい!ヤバいって!本当にヤバいよこれはヤバい!」

 

手下1「もうダメだ。……おしまいだぁ」

 

手下2「南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏……」

 

手下3「ひぃぃぃ!追ってきてる!追ってきてるよぉ!追いつかれたら殺されちまう!助けてくれぇ!」

 

手下4「…………………………」

 

ハイエースの車内は阿鼻叫喚の地獄絵図で、手下の1人に至っては後部座席で口から魂が出かかっている状態で失神している始末だった。

金属バットや鉄パイプなどの凶器を携えて通りすがりの走り屋相手に威嚇していた先ほどまでの威勢の良さは完全に消失し、今となっては狼に追われる兎のように逃げ惑うばかりであった。

彼らは前を逃げるグロリアのテールを目印にしながら、時折ガードレールに車体を擦りつつも深夜の峠をアクセル全開でただがむしゃらに走った。

しかし、無情にも自分たちより先に逃げたグロリアの走り屋は、もうテールランプが一瞬見えたのみでコーナーの先へと消えていってしまった。

 

走り屋の経験もなければ車にもドライビングにも詳しくなく、実際に運転の技量もお粗末な斗塚が曲がりなりにも地元でそれなりに経験があり年季の入っている走り屋を相手に追いつける道理はなかった。

しかしその一方で後ろから迫る正体不明の謎の幽霊アリストはそれ以上の勢いでグイグイと迫ってきていた。

 

ヘッドライトの光が後部座席から飛び込んできて、ぐしゃりと潰れたハイエースのテールゲートを照らした。

 

手下1「あぁ!追いつかれたぁ!な、何とかしてくれよ、斗塚のアニキぃ!」

 

斗塚「ま、ままま任せ……任せとけ!こここ……この、この車は四駆だぜ」

 

とは言うもののコーナーのたびに酷いロールで右に左に慌ただしく揺られるだけで全然前に進まないハイエースは、後ろの幽霊アリストから煽られるばかりでまるで前に進まむ事はない。

 

斗塚「曲がれこのポンコツが!曲がれってんだよ!」

 

手下3「ダメだ曲がらねぇよ!うわぁぁぁぁぁぁ!!」

 

手下1「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!」

 

そこでさらに焦って無駄にアクセルを踏みちぎったせいでアンダーを出して再び土手に乗り上げ、今度はフロント側を木に強打してしまう。

コーナー僅か数個の出来事だった。

 

手下2「……死んでんじゃねぇの?」

 

斗塚「……生きてるぜ」

 

その真横をするりと抜けていく幽霊アリストを呆然と眺めながら彼らは呟くのみだった。

 

斗塚(も、もうこんな所、二度と来るもんか!峠なんかもう懲り懲りだぜ!……それはそうと、この車どうすっかなぁ……。親父になんて言えばいいんだチクショウ)

 

 

 

 

 

● ● ● ●

 

 

 

 

 

加藤「ま……撒いた?やったか?(……いや、峠は殆どこの一本道だ。油断するにはまだ早いか?まずは俺が一番前を先行してて、後ろにはあのハイエースが走ってるはずだ。一瞬見えたライトはあのお化けアリストの奴じゃなかった。なら追ってきてる場合でも少なくともあの不良のガキ共のハイエースが障害物になってるはず。一番いいのはそいつらに標的が移ってて、俺の事なんか忘れられてるのがベストだが油断大敵だ。まずはこのまま攻めきってとっとと逃げることだけを考えるんだ)」

 

大パニックに陥って事故った不良集団とは違い、伊達に地元で走ってはいないと自負する加藤は今の状況を分析しながらも走る手を止めなかった。

 

加藤(ここを抜ければ中高速コーナー主体の俺が最も得意とするセクションに入る。そしてその次はヘアピンだ!ここが正念場だぜ!)

 

加藤は気合いを入れ直して道路の続く先を見据え、目の前に迫るコーナーへ突っ込む。

その瞬間、ほんの一瞬背後を照らした四つ目のセダンの存在に気がつくのが遅れてしまった。

 

加藤(よし上手く抜けられ……は?)

 

コーナーの立ち上がりで盛大に自身と愛車を照らす光が飛び込んでくる。

左右2対2の四つ目が加藤の背後に迫っていた。

 

加藤「おわぁぁぁぁぁぁ!?(嘘だろぉ!?来やがった!マジで来やがった!やったか?なんて思っても口に出すんじゃなかったぁぁぁ!?)」

 

背後に張り付く命の危機に、額のあたりから吹き出してきた汗が顎髭まで伝い滴っていく。

ほんの少し前まで余裕を取り戻しつつあった心臓が再び早鐘を打つ様にバクバクと鳴り、呼吸は過呼吸寸前と言った具合に荒くなる。

 

加藤(逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろぉぉぉぉぉぉ!!)

 

そこそこな勾配が付いていてS字にうねる様なダウンヒルのコーナーを加藤は地元の意地を示すが如くの全開ドリフトで抜けていくが後ろのアリストは離れない。

むしろ自らもドリフトで加藤の真横に付けてきた。

 

加藤(追走で合わせて来やがったぁ!いやドリフト上手すぎるだろこのお化けアリスト!?なんか思ってたお化けとなんかちげぇ!?室内灯ついてて運転手が居ないからステアリングの動きが良く見えて参考に……って感心してる場合じゃねぇ!とにかく今は逃げるんだよぉ!)

 

真横を走る幽霊アリストの見事なドリフトとカウンターの当て方に一瞬感嘆しかけるも、なんとか正気に戻った加藤はそのまま車体を振り返して続くコーナーへと突入する。

だか、やはりその幽霊アリストはギリギリ接触しない程度の車間を維持したまま離れる気配がなかった。

それどころか仕掛ける素振りすら見せておりそれが余計に加藤を追い詰めた。

 

だが現時点ですら限界ギリギリの走りであるのに、もうこれ以上はマージンの詰めようが無かった。

 

加藤(だ、ダメだ!抜かされる!)

 

続く直角コーナーで鼻先を捩じ込まれてインをこじ開けると憎らしいほどの快音を響かせながら前へと躍り出るアリスト。

 

加藤(も、もうダメだ!次のコーナーを抜けたらもうコーナーらしいコーナーもねぇ!負けちまったら絶対殺される!)

 

冥界というあり得ない地名に殺意の高い数字の羅列されたナンバープレートが加藤の視線を嫌が応にも引き付ける。

だがその一方でわずかな時間の間にも差は開く一方だった。

 

だがバトルは加藤の予想を裏切る形で終わりを告げる。

次のゆるいRを描く左に間髪入れずに続くタイトな右のコーナーを抜ける。

まだテールランプが見える位置にいる。

だがその次の左右にうねるRのゆるい高速コーナーを加藤が抜けると、何とそこで今さっきまで走っていた幽霊アリストは忽然と姿を消していた。

ブレーキを強く踏み締めて止まり、窓を開けて辺りを見渡すも、もうそこにはなんの痕跡も残ってはいない。

 

加藤(な、なんだったんだ……?何を見ていたんだ?俺は……。まさか、山に出るっていう噂の、走り屋の幽霊だとでも言うのか?)

 

遠ざかる2Jの音さえ聞こえない虫の声だけが広がる深夜の峠に、加藤はぽつんと取り残されていた。

 

加藤(そう言えば、今日の日付は10月31日。……ハロウィン、か。……やられた。とんだ悪戯好きのお化けもいたもんだぜ)

 

 

 

 

 

● ● ● ●

 

 

 

 

 

幽々子「あー楽しかった」

 

紫「それは良かったわ。私のスキマを開くタイミングもバッチリだったでしょう」

 

幽々子「えぇ、さすが紫ね」

 

紫「私にかかればこのくらいは楽勝よ。任せなさい」

 

妖夢「幽々子様、まーた紫様と一緒に変なことしてたんですか?」

 

紫「あら、変なこととは心外ね」

 

幽々子「そうよ、妖夢。ちょっと普段行かない様な峠でツーリングを楽しんでただけよ。この普段のナンバー付けたままね」

 

妖夢「いや、その私たちの冥界ナンバーって外の世界じゃつけてちゃ駄目なんですよ。びっくりしちゃいますよ?あっちの人たち」

 

幽々子「でも、こういう日くらいはいいでしょう?何と言っても、今日は外の世界ではハロウィンなのよ。だから私たちにとってはありのままの、でも外の世界の人にとっては特別なこの姿で、たまには亡霊らしく振る舞ってみるのもありじゃない?ちょっとしたドッキリ企画みたいなものよ。……そんな訳だから、あともう何本か、今度は別の峠に繋いでもらってそこで走って来るわね。……さぁ、行きましょう、紫」

 

紫「そうね、幽々子。今度は医王山か阿蘇山なんてどう?普段は行かない峠だし気分転換にはちょうどいいわよ」

 

幽々子「あら良いじゃない!じゃあそこに繋いで……」

 

妖夢「ちょ、ちょっと待って下さいよ!まだ行くつもりなんですか!?」

 

幽々子「そうよ、妖夢。……もしかしてあなたも行きたい?」

 

妖夢「べ、別にそういう訳では……いえ、やっぱりついて行きます。幽々子様が暴走して誰かに迷惑をかけてしまうかも知れませんから、私が後ろからついて行ってやりすぎない様に監視させていただきます」

 

幽々子「あら妖夢ったら、またまたそんな事言っちゃって〜。本当は楽しそうだからついて行きたいんでしょう?そういうところは本当に可愛いんだから」

 

妖夢「違いますってば!幽々子様ぁ!」

 

 

 

この日を境に、ある都市伝説的な噂話が日本各地の山々で実しやかに囁かれることとなる。

ハロウィンの日、峠には山に訪れる者たちを恐怖に陥れる幽霊たちのスポーツカーがあの世からやって来るという。

 

 

 

 

 

ハロウィン特別企画

 

〜 ハロウィンの幽霊スポーツカー編 〜

 




前書きにも書きましたが、ハロウィン向けの短編になります。
一応これは頭文字Dと東方的なオカルト要素のミックスに挑戦するにあたっての試験的な意味合いもある話にはなりますかね?
時系列も飛んでいて、現在の本編で執筆中のナイトキッズ編よりもかなり後になります。

ちなみになんですが、この話はノンフィクションをベースに創作やアレンジや脚色を混ぜて作った話なんですよ。
今年の9月の中頃に筑波山の地元の走り屋の方から話を伺う機会がありまして、その人の話をちょっとだけ拝借した形です。
なんでも、道祖神峠はかつて走り屋狩りが出たと言う話も、深夜に幽霊が出ると言う話もどうやら事実なようで……。

その辺の話のいくつかを下敷きに、設定を捏造したり単純に脚色して盛ったり幽々子様をぶち込んだりして一つの話として作り上げてみました。

ちなみに作者はその話にガチビビりして以降、夜の峠には顔を出しておりません。

拓海くんの今後のルート分岐について。どちらのルートがいいと思いますか?(期限:2023 / 04 / 01 〜1ヶ月後まで)

  • 甘めの拓海くんイージーモード
  • 厳しめ拓海くんハードモード

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