東方頭文字D 〜 Lunatic Stage 〜   作:D-Ⅸ

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8月までには……と思っていましたがギリギリ間に合いませんでした。
大変お待たせしてしまい申し訳ありません。
この3ヶ月の間に6回の家族旅行、18回のカーミーティング&ツーリング、Dとプガレでの80万円の浪費などなど、プライベートな事情や仕事に関してのトラブル(守秘義務)など色々と立て込んでいたためなかなか執筆時間が取れませんでした。

ちなみにこれから先、しばらくリクエストキャラがストーリーに絡んだり将来の伏線のためにチラ見せしたりが多くなります。
また、リクエストキャラの出番は一度限りとは限りません。
一度出たキャラは今後もちょくちょく再登場する可能性があります。

リクエスト(キャラ、車両、エピソード等問わず)はまだまだ募集中です。
感想や評価、または誤字誤植の指摘等もよろしくお願いします。


第30話 愛車(中編)

♪ SPACE BOY / DAVE RODGERS

 

バトルから一夜明けた日曜日の午前4時半ごろ。

東の空から徐々に夜が明けていく中で、1台のハチロクが秋名の峠を駆け降りていく。

拓海の駆る白黒のパンダトレノだ。

 

拓海(少し遅れたけど、何とか時間内に間に合って良かったぁ……。まさかトラックが事故ってて道が塞がってるとは思わなかった)

 

事故車のせいで迂回した事による少し遅めの豆腐の配達を終えて身軽になったハチロクを手足の様に操り、序盤の2連ヘアピンを手慣れた様子でひらりひらりと軽快に回していく。

何でもない、拓海にとってはいつもの事ではあったが今日は少し違っていた。

 

前半の節目の一つでもあるコーナーから立ち上がり、スケートリンク前ストレートに突入したちょうどその時、この時間では滅多に見ることのない対向車の存在に気がついた。

暗い紫色の角目のヘッドライトの車だ。

 

拓海「何だ?あの車(直線がすげぇ速い。とんでもない勢いで向かってくる。でもなんか……どっかで見たことある様な……)」

 

その辺で見かける一般車とはどこかオーラが違うとでも言うべき違和感を拓海はこの瞬間から感じ取っていた。

そして、それはその対向車のドライバーも同じだった。

 

???(対向車……?それも、普通の車じゃない。目の前のコーナーから飛び出してくる時の脱出速度が相当速かった。まさかこの時間に走り屋……?リトラクタブルの様だけど、あれは……)

 

お互いがお互いの車を意識する。

しかしながら夜明けの時間帯の薄暗さ、そしてお互いかなりのスピードで走っているため、相対速度が200キロを超えるほどの高速ですれ違う。

乗り手の顔までは視認するには至らなかった。

しかし、すれ違いざまにお互いヘッドライトに照らされるの車の姿ははっきりと見てとれた。

カローラレビンとスプリンタートレノ。

フロントマスクの造形こそ違えど同じAE86の3ドアモデルだった。

 

拓海・???(あれは……ハチロク!?)

 

拓海はつい最近イツキが広げていたカタログの中の車を思い出した。

紫色なんてボディーカラーがあったかどうかは記憶にないが確かに自分の車と同じ車種であったと覚えている。

ナンバーは同じ群馬県内のナンバー。

つまりはあの紫色のハチロクもまた、拓海と同じ地元の車らしかった。

 

ミラー越しにたった今すれ違ったハチロクのテールを見送る。

瞬く間にそれは赤い点と化し、ブレーキングを示す一瞬の輝きが光の筋となってスキール音を残して早朝の峠に消えていった。

 

地元の山で巡り会った同じハチロク乗りに、ほんの少しだけ興奮に近い高揚感の様なものを感じる拓海。

それはシルバーツートンのにとりのハチロクと車を並べて走った時と似た感覚であった。

そして拓海は同時に、この出会いは今日この一瞬のものだけでは終わらないだろうなという不思議な、しかし確信めいた予感を胸に抱いていた。

 

 

 

 

 

● ● ● ●

 

 

 

 

 

池谷「ありがとうございましたー!」

 

午前中の時間帯からガソリンスタンドには数人の人だかりがあった。

最後の客を送り出して無人化したのをいいことに、スピードスターズのメンバーとファンタジアのメンバーが集まって雑談に興じていたのだ。

ここは温泉街からやや外れた住宅街に近い立地と言うこともあり、車通りの多い時間帯を過ぎればある程度は客足も落ち着き閑散としてしまう。

 

スピードスターズはここで働いている拓海とイツキ、そして池谷とたまたま遊びに来ていた健二が、そしてファンタジアは高橋涼介に昨日のバトルのビデオを渡しに行った帰りに立ち寄った文と霊夢だ。

車は霊夢のS15シルビアで、文はその横乗りである。

ハイオク満タンの給油を終えて今は池谷のS13シルビアの隣に止めてある。

 

池谷「いやぁ、それにしても凄いもんだな。先週に輪をかけて今や群馬は秋名のハチロク様の話で持ちきりだぞ。さっき出て行った前橋ナンバーのゼロクラと92レビンの二人組の兄ちゃんたちも噂のハチロクのホームの峠に興味があるって言って、秋名方面に登って行ったからなぁ」

 

健二「ほんとエライ騒ぎだよ」

 

霊夢「さっき顔を出したカフェでも凄い事になってたわね」

 

文「昨日のバトルのギャラリーか、その話を聞いたらしい近所の車好きや走り屋が口々に32Rを相手に完勝した凄腕のハチロクはどこの何者だって聞いて回ってましたからね」

 

霊夢「特に同じレビトレ乗りの人はまるでヒーローみたいに熱く語ってたわね」

 

イツキ「だよなぁ……。さっき給油してった赤黒のかっこいいレビンの人、目ぇキラキラさせてたもん。……なんて言うかさ、拓海……。俺もお前を見る目が、なんかだんだん変わって来たよ」

 

拓海「……?そうか?」

 

おそらく自分の言われている事を理解していなさそうな拓海は普段通りの覇気のない顔で立っているのみだった。

 

イツキ「ま、こうしてる今はいつもの拓海だけどな。……でもひとたびハチロクのシートに乗り込んで夜の秋名に繰り出せば、お前はたちまち秋名の走り屋たちにとってのヒーローになるんだからな」

 

拓海「そうかな?そう言われると、なんか照れるよ」

 

池谷「なんか分かるぞその感じ」

 

健二「先日のバトルも先週のバトルも、あの熱狂っぷりったらなかったもんなぁ」

 

イツキ「でも今のお前はいつもの拓海だって言ってんだろ。ついこの前まだ自分の乗ってる車がハチロクだってことすら知らなかった、ボケた男だよ」

 

幼馴染の友人や先輩たちから真正面から褒められた事でつい頬を赤て照れてしまう拓海だったが、イツキはそれをボケた男と一蹴してしまう。

 

拓海「ボケたは余計だろ……」

 

文「まぁまぁ、良いじゃないですかその辺は。……でも本当に凄かったですよ。私も既にギャラリー達の何人かにはすでに取材と称して接触してますけど、みんな好意的でしたから。ヒーローって言う表現も、強ち言い過ぎとは言えないかもしれませんね」

 

イツキに貶された拓海が内心で拗ねてしまうのを察した文がすかさずフォローを入れる。

やはり拓海も年頃の男の子なだけはあり、文の様な超が付くほどの美少女から褒められる事はそれ相応に嬉しいらしく、すぐさま機嫌を持ち直した。

 

文「あ、もしよろしければ、今度お時間をいただくことは可能でしょうか。赤城と妙義、群馬の両雄を打ち砕いて秋名の名声を一気に高めた新進気鋭の凄腕走り屋、藤原拓海さんを是非とも取材させていただきたいのです!……きっといい記事になりますよー!」

 

イツキ「お、いいねぇ!取材の申し込みなんて普通の人は滅多にないんだぞ!受けとけよ拓海ぃ!」

 

池谷「そうだぞ。こう言う機会は例え望んでたってなかなかやって来るもんじゃないんだ。それに、拓海が普段どんな練習してんのか、どんな事を考えて走ってんのか、その辺の話を色々聞きたがってるのは俺たちだって同じなんだからな」

 

大きな新聞やテレビなどの主流メディアではなくただのインターネットブログではあるものの、突然の取材の申し込みとそれに沸き立つ池谷らスピードスターズのメンバーたちの反応に拓海は思わず面食らう。

 

自分が配達の中で培ってきた運転技術が走り屋たちとのバトルを通して色々な人に評価されている事に対して、素直に嬉しいと思う気持ちと外野のこの大騒ぎに対して少し気恥ずかしいと思う気持ちもあった。

 

拓海「いや、その……そういうのはちょっと。それに俺、いつも通りに下りを思いっきりすっ飛ばしただけで、別にたいしたことしてないし、そもそも走り屋って訳でもないから」

 

イツキ「拓海……。ターボ化すらしてないハチロクでカリカリのチューニングFDやGT-Rに勝つのが大したことじゃないなら何なんだ?」

 

池谷「そうだぞ。あれだけマシンスペックに差があったら、互角に渡り合うことすら本来なら難しいんだ。それだけの腕があるのに走り屋じゃないって、そんなこと言ったら俺らの立場がなくなるじゃないか」

 

健二「あんまり謙遜しすぎるもんじゃないぞ」

 

霊夢「そうね。……もうちょっと自分が成し遂げたことと技術に自信と誇りを持ってもいいんじゃない?」

 

文「そうですよ。貴方の走りは並大抵の走り屋では到底再現不可能な超絶技巧とでも言うべきものなんです。どうしてそれだけの技術を持つに至ったのか、普段はどんな練習方法をしているのか、どれだけの走り込みを重ね続けて来たのか、どんな成功や失敗を経て来たのか、あれこれと知りたがってる人は私たちも含めて山ほどいるんですからね」

 

 

文のその言葉に思い出した様にイツキとスピードスターズの面々が反応する。

 

イツキ「速さの秘訣かぁ……そう言えば拓海、お前5年前から実家の豆腐の配達手伝ってたんだっけか?確か、秋名山のホテルまで」

 

拓海「まぁ……そうだけど」

 

イツキ「全く、水臭いぞ拓海ぃ。なんでそう言うの俺に黙ってたんだよ。言ってくれてもよかったじゃんか」

 

拓海「いや、毎日毎日あんな事してるって、そうそう誰かに言える様なもんじゃないだろ」

 

確かに拓海のしていたことは無免許運転であり立派な(?)犯罪である。

拓海の言う通り到底褒められた事ではないし、ましてや周りに自慢できる様な話では全くない。

だが現在進行形で無免許ならまだしも、その辺の過ぎた事はあまり気にしないのが走り屋。

しかも形だけしか免許と言う制度がない幻想郷の文と霊夢の二人は無免許運転がどれだけ悪い事なのかな実感がなく、特に気にした風もなかった。

むしろその無免許時代から豆腐の配達をしていたと言う点について興味すらも抱くのが文だった。

 

文「へぇ、5年前と言うと、確か中学1年生でしたっけ?それはちょっと気になりますねぇ。やはり、見た目以上に運転歴は長かったんですね」

 

池谷「俺が今年で免許取って3年だから、俺以上だな」

 

一応、文としては他人の又聞きの話として聞き齧っていたことではあるが、本人の口から直接聞けた事は大きかった。

これをきっかけに少し深く話を聞けたら、もしかすると思わぬ手掛かりが手に入るかも知れないと記者としての直感がビンビンに働いた。

 

文「秋名の峠と言えば後半の連続ヘアピンを始めとして結構な数のコーナーがあると思いますが、特に最初の頃は怖くはありませんでしたか?」

 

拓海「そりゃあ、怖かったですよ……最初の方は。早朝から毎日配達するはめになったんで、ダルいし眠いし面倒臭いしで、とにかく早く終わらせて帰りたかったんですよ。だから怖いのを承知で帰りの下りをすっ飛ばして帰ってたら、半年くらいで怖さは殆ど無くなりました。スピード出していくと自然とタイヤが滑ってくから、思い通りに滑らせたり止めたりできる様になるまでもう半年くらい。仕事に慣れて来たのはざっくりこの頃からだったと思います」

 

健二「つ、つまり……たった1年で秋名をマスターしたのか……」

 

池谷「まぁ……毎日って事は、雨の日も雪の日も走ってたんだろ?そりゃあそうもなるか。……それでも、地元の俺らがあんだけ怖い怖いって言ってる秋名の下りの恐怖を半年で克服したってのもすげぇな……」

 

拓海「はい。毎日毎日走ってたら滑らせることの怖さとか緊張感なんて、すぐに無くなりますよ。ただ、普通に走ってるだけじゃあつまらなくなってくるから、どれだけガードレールに寄せられるか試してみたり……」

 

池谷「ちょっちょっ……ちょっと待ってくれ!え?わざとガードレールに寄せていくのか!?」

 

拓海「……?はい。調子がいい時は1センチくらいまで寄せられますよ。こうやってどうにか楽しみを見つけないと、あんな仕事の手伝いなんて退屈で仕方がないですから……」

 

拓海の発言に思わず驚愕する池谷と、何でもないかの様にさらに驚くべき内容を追加で叩きつける拓海。

 

健二「いっ……」

 

イツキ「い……1センチ!?」

 

池谷「そ、そんな事が出来るのか……!?(ドラテクで飯食ってるプロでも難しいだろ、そんな繊細なラインのコントロール!)」

 

文「へぇ……」

 

イツキと池谷が驚きのあまり顔を青くさせ、健二に至っては固まってしまったが、その一方で文は記者魂が刺激されたのか、非常に興味深そうにしていた。

霊夢も黙って静かに拓海の話を聞いているが、その目つきは真剣そのものだった。

そして文はもう一歩踏み込んだ質問をぶつけてみる事にした。

 

文「では、上りはどうするんでしょうか?配達する豆腐がある以上、下りと同様にと言うわけには行きませんよね?豆腐が崩れてしまうとまずいですから」

 

健二「確かに……」

 

池谷「秋名の峠を豆腐を崩さずに運ぶって、口で言うのは簡単だけど、意外と難しそうだよな」

 

拓海「はい。上りの方は飛ばせないですよ。ただ、親父が紙コップに水を入れてカンホルダー置くんです。それを溢さない様に走れれば、豆腐は崩れないって言うんですよ。でも、コレがすげぇ難しくて最初の内はどんなにトロトロ走ってもバシャバシャ溢れてその辺水浸しになっちゃうし……」

 

池谷「うーん……まぁ、そうなるわな」

 

あまりの異次元すぎる話に一周回って気の抜けた顔になっている池谷がそう相槌をうつ。

 

拓海「ハンドルに、アクセル、ブレーキ、あとギア……その内のどれかの操作が少しでも荒いとすぐ車がガタガタに揺れて水が溢れるんです。……そう言えば親父は、紙コップの中で水を回せってよく言ってましたね」

 

健二「……紙コップの中で水を回す?それって、つまり……どう言う事なんだ?」

 

再起動した健二が拓海に問う。

 

拓海「カーブ……コーナーを曲がってる時に膨らむ水面をコップのふちギリギリのところで上手いこと回すんです。コーナーを抜ける時にその水が半周するから、それを繰り返しながら登っていくんですよ。タイヤを滑らせずにこれが出来る様になるまで大体3年くらい、滑らせながらこれが出来るまでにはさらにもう2年掛かりました」

 

霊夢「コップの水を溢さないドリフト……?」

 

健二「な、なんだぁ、そりゃあ……?」

 

池谷「本当に、出来るのか……?そんな芸当」

 

もはや異次元どころではない話が飛び出して来たために、今度はイツキが思考停止してそれ以外の面々も思わず圧倒される。

おそらく理論上は可能であろうが、大抵の人はどんなに頑張ろうが何十年かかろうが不可能であろう曲芸じみた事を、初めてステアリングを握ってからものの5年で成し遂げたと言うのだからとんでもない話だった。

 

文「それは……何と言うか、凄まじいですね(なるほど、そう言うことでしたか。この紙コップの水を溢さずに運転する独自の練習方法に彼の速さの秘密がありそうです。……これは想像以上の大収穫ですねぇ。この話は後で他の方たちとも共有しましょうか。きっとチーム全体への新たな刺激となるでしょうし、これを真似る事で大化けするメンバーも出てくるかも知れません)」

 

だが大騒ぎのスピードスターズとイツキをよそに、思考を巡らせる文。

この練習方法が明らかとなった事は今後のチームの挑戦の行く末を左右するほど重要だとの見方を内心強めていた。

 

霊夢「なんか、その辺は私と似てるのね」

 

イツキ「へ?」

 

健二「ん?」

 

拓海「?」

 

霊夢その言葉に文以外のメンツは何を言っているのか分からないという風な顔をする。

そこに文が重ねて補足する。

 

文「実は霊夢さんも11の頃から運転してるんですよ」

 

イツキ「えぇぇぇ!!」

 

池谷「なにぃぃぃ!?」

 

健二「嘘だろ!?」

 

イツキ「拓海みたいなのがもう一人ぃ!?」

 

先述の通り、幻想郷には運転免許というものは形しか存在しない。

車に乗ってみたいと思ったらその時が乗り時であるし、それが当たり前に罷り通っている。

霊夢とは同い年の魔理沙も、同じ年に黒い32型フェアレディZのTバールーフ仕様の過走行車を幻想郷内にて中古で購入している。

 

霊夢「私が先代から神社を引き継いで巫女に就任したちょうどその日、神社の裏を散策してたら一台の前期のレビンを見つけてね、それを起こして貰って私の足にしたのよ」

 

文「拓海さんのモデルと殆ど同じ年式の前期モデルで、色は赤でした。その日はちょうど霊夢さんの誕生日だったので、どこか運命めいたものを感じましたね。ちょうど良いからこれを誕生日プレゼントにしようって仲間内みんなで張り切っちゃいまして……フレーム矯正とエンジンの復活に手こずった以外は案外すぐに治ったんですよ」

 

霊夢「当然、私も最初のうちは全然ダメだったけど、乗っていくうちに慣れていったわね。毎日とは言わないけどかなりの頻度で巫女の仕事や麓の村への買い出しに乗り回してたらだんだん楽しくなって来ちゃったのよねぇ。滑らせたりそれを止めたり、あとは土手やガードレールに寄せたり……」

 

健二「ひ、ひぇぇぇ」

 

池谷「拓海と同じ事してるぅ……!」

 

文「あとは直ドリ状態からコーナーに突っ込んだりしてましたよね?」

 

健二「そんな事もしてたのかぁ!?」

 

イツキ「で、でも運転を楽しんでるところとかその辺はちょっと拓海とは違うんですね。やっぱり車に乗るのって、きっと楽しいですよね!……それにしてもいいなぁ、レビンかぁ……。くぅー!俺も早く乗りたいよ!」

 

霊夢「私の神社は長野のかなり山奥にあるから、うちの神社の駐車場とかあとは周りの峠道とかには結構な数の走り屋がいるのよね。自然とその人たちに感化されちゃったってのもあるのかも知れないわね。私は走り屋に対してはあんまり悪い印象持ってなかったし」

 

文「と言うのも、霊夢さんの神社は山奥にあるので、特別信心深い一部の人を除けば普段参拝に来る人は殆ど居ないんですけど、走り屋だけは験担ぎとかお祓いとかでよく利用してくれていたんですよね」

 

霊夢「そうね。車祓いとか交通安全祈願とかバトルの必勝祈願とか、あとは普通にお賽銭くれたりとかで何かと助かってるわね」

 

池谷「へぇ……良いなぁ、そう言うこともやって貰えるんだ」

 

霊夢「もちろん、タダって訳にはいかないけど、一応出張扱いでの簡単なものならいつでも出来るわ」

 

健二「今度俺らもやって貰おうかなぁ」

 

イツキ「いつか、俺のレビンが来たら頼もうかなぁ……」

 

 

 

しかし本題がまだなので、文は一先ずはこの話題を終わらせることとする。

そしてここに来た目的の一つである、今日の夜行われるバトルに関する話を切り出した。

 

文「ところで、みなさん。ものは相談なのですが……」

 

池谷「ん?どうした?」

 

文「今日の10時半頃に少し峠のコースを貸していただけませんか?」

 

それは指定された時間に走ってもいいかと言うことだった。

ここのところは他の地元の走り屋たちやファンタジアのメンバーなどに混じって特に力を入れて走り込みをしているスピードスターズは、一部のメンバーが深夜と呼ばれる時間帯まで残って走っている事もあるため、今回のバトルがスピードスターズの練習に被ってしまわないか、もし被ってしまったとしてもバトルをして構わないかと言うことを、恐らくは大丈夫だとは思われるものの念のために一応確認に来ていたのだ。

 

電話での連絡でも構わなそうな軽い内容ではあったのだが、高橋涼介へのコンタクトを取りに出ていた事もあり、帰りがてらここに寄ることにしたのだった。

 

池谷「まぁ、いくら地元とは言え俺らだけの道でもないし、特に何か集まりがあるとかそう言うのもないし別に構わないけど。……もしかして、またバトルの申し込みか?」

 

文「えぇ、実はそうなんですよ。ちょっと、バトルのお誘いがありまして……」

 

イツキ「昨日の今日でまたバトル!?今度は誰が拓海に……」

 

文「いえ、今度はちょっと事情が違くてですね……」

 

イツキ「……?と、言いますと……?」

 

早とちりしたイツキがそこまで言ったところで文の口から訂正が入る。

先週から今週にかけての連戦もあってかすっかり拓海に対する挑戦状がまた来たのだと勘違いしているイツキはその言葉に思わずキョトンと首を傾げた。

 

文「実は今回挑戦されたのは拓海さんではなく、私たちなんですよ」

 

イツキ「えぇ!?」

 

健二「今度はファンタジアに挑戦状?」

 

文「昨日来てたギャラリーのうちの一人が思い出作りのために走らないかって今日のその時間帯に指定して来たんですよ。私たちとしても異存はありませんし、むしろ走りたがっているメンバーはそれなりに多いんですが、地元の人たちの都合はどうかなと思いまして……」

 

霊夢「丁度私の車の給油タイミングが近かったから、給油ついでに聞いてみたって訳。……もし問題がある様なら対戦相手と連絡を取り合って別の時間帯に変える事も考えていたんだけど、特に問題ない様で良かったわ」

 

イツキ「ところで、その挑戦者って誰なんですか?」

 

文「昨晩寝る前と今朝に少し調べてみましたが、どうやら箱根を中心に活動していて、稀に少し足を伸ばした先にある大垂水などにも出没する通称『箱根レディース四天王』と呼ばれる有力な走り屋の一人の様ですね」

 

池谷「は、箱根ぇ!?」

 

健二「レディース!?」

 

イツキ「四天王!?」

 

霊夢(息ぴったりねコイツら)

 

身近な赤城妙義と来ていきなり走り屋の聖地箱根と来たものだから池谷たちはぶったまげた。

箱根と言えば近隣にはターンパイクや七曲り、表ヤビツ、裏ヤビツ、椿ライン、足柄峠、金太郎ラインなどなど数多くの走りのスポットが綺羅星の如く輝く走り屋たちの聖地であり、そこには他県の山に行けば最速の座を狙えるレベルの凄腕がダース単位でひしめいているのである。

群馬で例えるならレッドサンズの一軍レベルの実力者がその辺にゴロゴロしている様な感じであろうか。

 

そんな箱根で『レディース四天王』などと称されるレベルの走り屋と来れば群馬最速の呼び声高い高橋兄弟にすら並ぶほどの逸材である可能性が高い。

まさかそんなヤバそうな相手が昨日ギャラリーに来ていたこと、そしてファンタジアに挑むことは彼らにとっては驚きでしかなかった。

 

イツキ「ってことは、相手も女の人かぁ……」

 

健二「どんな人なんだろうなぁ」

 

文「その人なら貴方たちも見ていたはずですよ。昨日のフリー走行に参加していましたから」

 

池谷「へ?」

 

文「リアスポイラーの付いた黒い100系チェイサーに見覚えはありませんか?」

 

健二「あぁ……なんかいた様な気がするぞ。ギャラリーの中でも一際上手かったし、1Jが良い音出してたなぁ……。そう言えば」

 

文「その人ですよ」

 

池谷「なるほどなぁ……。それで、ファンタジアからは誰が走る予定なんだ?」

 

霊夢「私よ」

 

そう聞いて納得した様な表情になる池谷たち。

 

池谷「あぁ、だから俺らのスタンドに給油に来たのか」

 

健二「でも、相手はあの箱根でブイブイ言わせてるかなりやり手の走り屋なんだろ?勝てるのかなぁ……?」

 

文「今朝の緊急会議で、相手もかなりの腕利きらしいためこちらもそれ相応のメンバーをぶつけるべきと言う話になりまして、そこでエース級のメンバーの一角である霊夢さんに白羽の矢が立ったと言う訳です」

 

池谷「なるほどなぁ……」

 

イツキ「ところで、ギャラリーとかってしても大丈夫ですか?」

 

文「えぇ、もちろん大丈夫ですよ。対戦相手の方からも、それはそれで面白そうだからギャラリーも飛び入りも大歓迎との事です」

 

健二「よっしゃ!なら俺らもギャラリーして見よう」

 

池谷「拓海や俺たち以外の県外の走り屋同士のバトルなら変に気負うことなく純粋に楽しめるからな。他のメンバーやレッドサンズにも声をかけようか」

 

文「えぇ、もちろん構いませんよ。私の方でも既に二人ほどお声かけしていますので」

 

イツキ「くぅー!昨日に引き続き今日にもバトルかぁ……。しかも走りの聖地箱根からの刺客なんて最高に熱いぜぇ!」

 

そうこうしているうちに十数分ぶりかの来客があり会話も中断。

その場は自然と解散となる。

霊夢は文を乗せてスタンドを去っていった。

今日の夜10時半のバトルに備えて軽いメンテナンスが予定されていた。

 

 

 

箱根からの刺客とのバトルまで残すところ半日。

しかしその裏では、もう一つの出会いと物語が始まろうとしていた。




もう1話挟んでまたバトル回です。

次回はもう少し早めにアップできるかも知れません。
と言うのも、この話と並行で次話の執筆もしていたのである程度は既に書き上がっているからです。

それではまた次回でお会いしましょう。
( ´∀`)ノシ

2024 / 11 / 3 22:46
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