東方頭文字D 〜 Lunatic Stage 〜   作:D-Ⅸ

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皆さま大変長らくお待たせいたしました。
リクエストキャラの一部が今回の話からちょいちょいストーリーに絡むことが増えてきたり場合によっては主役級の活躍をする様になることもあるかもしれません。
ただし一応借り物のキャラを動かすという事もあり、「本当にこれで良いのか?」としばらくの間書き足したり修正したりを繰り返したりで更新を躊躇っていたらいつの間にかこんなに日が空いてしまいました。

なお、今回は暴力描写がありますが原作からしてあのゲスっぷりを披露していた御木先輩を拓海が思いっきりグーパンしてるのでまぁ大丈夫でしょう。

今回登場のリクエストキャラに関してですが、本人の設定に関しては多少の追加分や小変更などはありますが殆どの部分がリクエスト通りで、特別大きな変更はありません。
しかしながら家族(父)に関する設定は根幹の部分に影響がさほど出ない程度に盛っています。
一応文太とは同年代ということで、悪友程度の間柄ではあったことにしています。

リクエスト(キャラ、車両、エピソード等問わず)はまだまだ募集中です。
感想や評価、または誤字誤植の指摘等もよろしくお願いします。
また、もしリクエストの内容が文字数オーバーで活動報告でアップ出来なさそうであればメッセージ機能を活用しても良い事といたします。
自分も他の方の作品のリクエスト企画で同じ様に文字数で苦労しましたので、本当ならもっと早く対応すべきであったかも知れません。


第31話 愛車(後編)

翌日、日曜日の午後。

秋名の麓にあるゲームセンターにファンタジアのメンバーの顔があった。

早苗、はたて、妹紅、そして寺の仕事を手伝うために幻想郷へと帰って行ったナズーリンと聖と入れ替わるように、聖のすすめで休暇を兼ねて外の世界に遊びに来た寅丸星だった。

ナイトキッズ対スピードスターズの戦いも終わりひと段落ついたため、早苗がはたてたちを誘って外の世界の観光を提案したのだった。

 

早苗は襟元に小さくフリルの飾りをあしらった薄手の白いブラウスに、同じく裾にフリルの付いた青いスカートと少しだけオシャレをして、はたては紫色と黒の市松模様のスカートに白い半袖シャツといういつもの格好で、妹紅もはたて同様に幻想郷でも着ているいつもの白シャツの下に慧音から貰った薄い青のジーパンというラフな恰好で、星はブラウンのミリタリーパンツの上に白いタンクトップのシャツを着てさらにその上から薄いオレンジ色の薄手の夏物パーカーを羽織っている。

彼女たちは今日はオフの日と言うことで、それぞれが思い思いの姿で街に繰り出していた。

 

まず手始めに近くの商店街に赴き洋服や雑貨などしばらく買い物をしたのちに近所の洋食屋で少し遅めの昼食を軽く済ませ、午後の腹ごなしとしてその商店街の近くでたまたま見つけた小さなゲーセンを選んだのだ。

ちょうど隣にあるそこそこ広めのコインパーキングにはたて(と同乗者の早苗)のセリカと妹紅のエボⅥ TMEに星のエボⅤを止めて料金が上がる2時間までを目安に、たまたま近所のお祭りに客を取られて店内に人が少ないのをいい事に遊びまくっていた。

 

昔は1人でゲーセンでよく遊んでいたという早苗が率先して妹紅と妖怪組を案内しており、王道のクレーンゲームに始まり太鼓やら矢印のマットやらを使った音ゲーをやってからゾンビを撃ちまくるシューティングゲームもプレイした。

そして店内に掲示してあったポスターからこの店にはレースゲームが置いてあると知り、店舗の最奥に近いところにあるセガラリーの筐体へと向かったのだが、周囲のゲームの筐体の音に紛れて何やら争う様な声が聞こえてきており彼女らは既に揉め事の気配を感じ取っていた。

筐体同士の間を縫う様に歩みを進めていくと案の定その筐体には先客がおり、何やらゲームの使用を巡って揉めているようだった。

 

???「人が遊んでるところにいきなり割って入って来て、今すぐ譲れどっか行けって……何様のつもりだよ!身勝手が過ぎんだろうが!」

 

不良1(茶髪)「……うるせぇ!いいからどけよ!」

 

不良2(金髪)「とにかく、このゲームは今から俺らのもんだ!とっとと失せな!」

 

不良3(デブ)「そうだぞ」

 

不良4(ガリ)「うんうん」

 

少し遠巻きに様子を見ていると、よく分からないバンドものの様に見える黒いヘンなTシャツを着崩した茶髪の男と、白いタンクトップの下にダメージジーンズを履いた日焼けした肌の金髪の男のガラの悪い二人組。

その取り巻きらしい後方仲間ヅラといった感じで二人の不良の後ろで腕を組みドヤ顔をしている背の低いソフトモヒカンのデブと、ガリガリの坊主頭に出っ歯のメガネ男の計四人の集団。

そしてその不良たちから一方的にイチャモンを付けられているらしい、白いポロシャツにライトグレーのカーゴパンツ姿の優男風な青年が、ゲームの利用を巡って何やらトラブルになったようで言い争っていた。

話の内容から察するに、どうやら青年が一人で遊んでいたところに不良グループが割って入って、2台しか無いゲームの筐体を独占しようとしたらしい。

 

どこの世界にもいつの時代にもこんなバカはいるものかと若干面倒を感じつつも、あんな取るに足らないたかがゴロツキ風情にせっかくのゲーム機を占有されてはたまらないし、あの被害者らしい青年を見捨ててどこかに行くのも良心が痛む。

彼女たちは各々目配せしてお互い考えることは同じらしいことを確認し頷き合うと双方の間に割って入った。

 

はたて「そのゲーム、私たちもやりたいんだけど。あなたたち、そういう揉め事を起こすくらいならよそに行ってやってくれないかな」

 

このメンバーの中では種族的に最も近接戦闘能力が強いはたてが語気を強めながらそう言い放ち、不良たちの前に立つ。

そのすぐそばでは人間である早苗を守れる位置に星が、青年の斜め前の万が一の時も守れるような位置に妹紅がそれぞれ入る。

 

不良1「あぁ?誰だお前ら。そこの野郎のツレか?」

 

妹紅「いや、通りすがりのモンだよ。たまたまこのゲーセンに寄って、偶然このゲームを知って興味持ったってだけだ」

 

不良2「悪りぃがこのゲームは今から俺らのモンだ。貸切って奴だよ」

 

不良3「そうだぞ」

 

不良4「うんうん」

 

不良たちは貸切と言うがどう見ても店側の許可等は無さそうで、傍目に見ればただの身勝手に思えた。

 

星「貸切、ですか……。とても店側が許可を出している様には見えませんけどね」

 

不良1「はぁ?許可とか何とか知るかよそんなもん。俺らが貸切って言ったら貸切なんだよ」

 

不良2「ちっ……それにしてもうるせぇ奴らだな。女のくせに俺らの邪魔しやがって」

 

どうやら不良集団に退く気はないらしい。

そしてその高圧的な態度にはたてたちの中に苛立ちが募る。

しかし彼女らがそんなイライラを隠しもせずに眉を顰めるのも御構い無しに調子に乗った男たちは続けていく。

 

不良1「それとも何だ?アレか?……もしかして俺たちの仲間に入れて欲しいのかぁ?」

 

不良2「よく見りゃお前ら結構可愛いじゃん」

 

不良1「そういえば、ちょっかいかけてくるのは好意の裏返しだって言うもんな」

 

不良2「なんだよ。俺らに惚れちまったんなら素直に言えよなぁ」

 

不良3「み、みんな結構な美人なんだなぁ……ブヒヒ」

 

不良4「お、おっぱいだってありそうだもんね……クシシ」

 

???(なんだコイツら……。さっきから自分たちの世界でしか話してねぇぞ?)

 

不良たちのその一言に、思わぬ助太刀に安堵していた青年の胸中に再び不穏な感覚が立ち込める。

もしかして「不良たちのターゲットが自分とセガラリーから、この女の子たちに変わってないか?」と考えてしまう。

そしてその嫌な予感は即座に的中することとなる。

 

不良1「もう面倒くせぇからゲームとかどうでも良いや。俺たちを邪魔しやがった罰だ。おめぇらちょっとツラ貸せよ。ただしそこの芋くせぇガキは先にママんところに帰っていいぞ」

 

不良2「ギャハハハハ。コレからすることはオトナのお遊びって奴だからなぁ。お前みたいなガキには10年はえーよ」

 

不良1「とは言えそんなに緊張しなくていいぜ。近場のホテルでちょっと俺らと仲良くなってもらうだけだ。4人組同士でキリもいいだろ?……なぁ?」

 

不良の一人が一番手近なはたてを捕まえようと腕を伸ばす。

それを見てかなり不味いことになったと確信した青年が、勇気を振り絞って止めに入ろうとする。

 

???「おいお前ら!さっきから黙って聞いてりゃあ、その子達に……」

 

不良2「あぁ!?うるせぇなぁ!テメェは黙っ……オゴぉ!?」

 

その掴み掛かる手をすり抜け、不良のアゴを下からカチ上げるように掌底が叩き込まれる。

一瞬のうちに脳みそをシェイクされ意識を刈り取られて宙を舞い、崩れ落ちる茶髪の不良。

キレたはたてが、失神はするが死にはしない程度の威力で一撃を入れて物理的に黙らせたのだ。

 

不良3「ひぃ!」

 

はたて「あのね、こっちは早くゲームがしたいって言ってんの。アンタらのお巫山戯に付き合ってる暇なんか無いし、そんな事してたらいつまで経っても遊べないじゃない。……ほら、ゲームなんかどうでもいいんでしょ?ならアンタらこそ早く帰ってよ」

 

不良1「て……てめぇ、女の癖に調子に乗っ……ポゴぉ!」

 

友人を張っ倒された怒りに任せてもう一人の金髪の不良がはたてに殴りかかろうと拳を振りかぶるも、今度はその真横から足が飛んできた。

頭に血が登って周りが見えなくなった不良のガラ空きの脇腹ど真ん中に妹紅の右足が思い切り突き刺さる。

妹紅も妹紅で昔から散々迷惑していた野盗や破落戸、素行の悪い野良妖怪を思い出して相当イライラしていた。

一瞬のうちに側面を取った妹紅に蹴り上げられて浮かび上がり、くの字に折れ曲がったその体は2〜3メートルはゆうに吹き飛び店の壁にぶち当たると、こちらもズルズルと崩れ落ちる。

残念ながら骨は折れてはいない様だが、壁に受け身も取れずに激突したせいで頭をぶつけた様で、こちらも一撃で気絶して床に沈むこととなった。

 

妹紅「いい加減、邪魔だし迷惑だし不愉快なんだよね。……ほら、そこで伸びてる奴引きずってどっか行きな」

 

不良4「な……!」

 

自分よりも立場が上の2人の不良が細身の少女2人に一撃で沈められた事で取り巻きのデブとガリの顔から血の気が引いていく。

あくまで不良二人について行ってお溢れに預かっているだけのコバンザメの如き取り巻きでしかない、喧嘩というものすらもまともに経験していないデブとガリに対して、向こうには女でありながら大の男をワンパンKOするヤバいのが最低でも2人はいる。

さらには戦闘力の未知数な人も残り3人。

形勢逆転し一気に窮地に追い込まれた取り巻き2人は白目を剥いて失神している不良2人を抱えて逃げるしかなかった。

 

不良3「す……すみませんでした!」

 

不良4「い、いい……今すぐ出て行きます!」

 

???(こ、この子たちめっちゃつえぇ……ッ!!?)

 

完璧に予想外の展開に口をあんぐりと開けて驚愕する青年。

冷や汗を流し顔を真っ青にした不良の取り巻きたちが仲良く気絶した2人をズルズルと引きずり出ていくのを見送ると、先ほどまでの周囲を圧倒する威圧感はどこへやら、あっさりとその体に纏っていた怒気を霧散させ消し去ると不良に絡まれていた青年へと向き直った。

 

はたて「君、大丈夫?」

 

妹紅「確かセガラリーだったな。このゲームをやりにここに来たらなんか揉めてるみたいだったし……アイツら、1人に向かって4人がかりってのもあって危なっかしかったからさ、助太刀って訳じゃないけど勝手に首突っ込ませて貰ったよ」

 

早苗「絡まれてたみたいですけど、怪我とかしてませんか?」

 

???「あぁ、大丈夫だよ。……でも危ないところだった。正直助かったよ」

 

妹紅「大した事じゃない。私たちもあの程度のチンピラの相手はある程度慣れてるし、ああ言う手合いは一発殴れば静かになるもんだ」

 

???「いや、本当にありがとう。……あ、俺は水沢光門。近くの車屋の隣に住んでて、そこの息子なんだ。このお礼は必ずさせてもらうよ」

 

はたて「私は姫海棠はたて。これでも一応記者の卵なのよ」

 

妹紅「藤原妹紅だ。健康マニアの焼き鳥屋ってところかな」

 

光門(ふじわら、の……?の、って何だろう?)

 

星「寅丸星です。普段は命蓮寺というお寺で修行をしているのですが、少し事情があって先日ここに来たばかりなんです」

 

早苗「東風谷早苗です。守矢神社という神社の巫女をしています。実は私たち、同じアパートに住んでいまして、今日はその集まりでここに来たんですよ」

 

光門「そうだったんだ。それじゃあ今度何か持って行くからさ、そのアパートがどこにあるかだけでも教えてくれないかな?」

 

はたて「いいわよ。ここを出た通りを南に行って、そこのコンビニのある交差点を今度は……」

 

今しがた追い出されて行った不良集団であれば断固として拒否していた所だが、彼になら大丈夫だろうと、この中で最も立場が上のはたてが代表してアパートまでの道のりを説明していく。

自動車工場のすぐそばの茶色い屋根の建物だと聞くと思い当たる節があったようで、彼はなるほどといった具合でしきりに頷いていた。

 

早苗「ところで、水沢くんはこのゲーム良くやるんですか?」

 

光門「……?うん、そうだけど」

 

事態がひと段落したことで、話はこのゲームについてのことに移り変わる。

早苗がそう質問すると彼はなんでそんな事を聞くんだろうかと一瞬頭に疑問符を浮かべながらも肯定する。

 

早苗「だったらお礼の一環って訳じゃないですけど、少しだけこのゲームについて教えてくれませんか?私たち、このゲームは初めてで……」

 

妹紅「実は私たちみんな田舎の生まれでさ、私とはたてと星は生活圏内にそう言う場所がなかったからゲームセンター自体が今日で初めてで、色々手探りでプレイしてたんだよ」

 

はたて「そうそう。クレーンゲームとかリズムゲームって言うんだっけ?ああ言うのは早苗がやった事があるって言うからざっくり教えてもらってなんとかなってたんだけどね。でもレースゲームは誰も経験がなくて……」

 

光門「そんな事でよければ喜んで!お安い御用ですよ!」

 

彼女たちが改めて自分の好きなゲームに興味を持ってくれていることを知ると喜色満面といった感じでそれに応じた。

 

光門「それじゃあまずはこのゲームのざっくりした説明から。……これはセガラリーと言って文字通りセガが開発したゲームで、実際の車をモデルにしたラリーカーを走らせてタイムを測って競うんだけど……」

 

そこからはあっという間だった。

ゲームそのものの話から始まり、登場する車種の話から実際の車を模した操作系統の説明までを目まぐるしいほどの早さで語り尽くし、そしてようやく実際に4人+1人で順番にプレイしていった。

 

最初のうちは実際の車とは違う挙動を示すゲームのセリカやデルタに苦戦しつつも、ゲーム慣れしている光門の操作を手本にまた順番を変えながら再挑戦して行く。

時折他の客が待機していないか後ろをチラチラ確認しながらも、気がつけばかなりの時間熱中してしまっていた。

一回、また一回と走るごとにタイムが良くなって行き、リザルト画面のランキングに掲載されるほどのタイムに近い好タイムを星とはたてが叩き出した時にはみんなで喜び合ったほどだった。

そうこうしているうちに日もやや傾き空が赤みを帯びる頃合いへと差し掛かる。

 

しかしながら、商品や筐体を日焼けさせないために窓を極力設置しない様に作られたゲームセンターでは外の景色が殆ど見えないため、ゲームに熱中してしまう事も相まって時間感覚がズレてしまうのは良くあること。

5人が日が傾いているのに気づいたのは、店を出ようというその時だった。

光門が赤みがかっている外の景色に気づいて慌ててズボンのポケットから携帯電話を取り出しホーム画面の時計を確認すると、既に5時半を過ぎていた。

 

光門「やっば!もうこんな時間じゃないか!」

 

早苗「……?どうかしましたか?」

 

光門「いや、そういえば今日早く帰ってくる様に父さんから言われてたんだったって思い出して……」

 

彼はその時になってようやく、今日は早く帰ってくる様に父親から言われていたことを思い出した。

自らハンコを押して今は納車待ちとなっているゲームの中での愛車であり、もうすぐ現実での愛車にもなるランチアデルタに思いを馳せながら、いつも通りにゲーセンでセガラリーに興じていたかと思えば、不運な事に不良にプレイ途中に割り込まれる形で絡まれ、危うくセガラリーの筐体から追い出されかけた。

そんな時に文字通りの救いの女神が現れ、不良4人組のうち2人を一撃で床に沈めて連続KOというまさかまさかの展開に。

 

彼女たち4人にセガラリーを譲って帰ろうとしたら初プレイのセガラリーについて教えてくれと来たものだから、自分で思い出して恥ずかしくなるくらいウキウキでレクチャーし始めて、自身もかなりゲームを楽しんでしまっていた。

しかも彼女たちは車を運転した事があるらしく飲み込みが速いため教えたら教えただけ、まるでスポンジが水を吸い込んでいくかの様にゲームのコツを掴んでタイムが改善していくので、ついつい自分までのめり込んでしまっていた。

 

この外出中の数時間の中で良いことも悪いこともこれだけ濃密な体験をしてしまったモノだから、出かける前に言われただけの要件すらも伝えない父の一言など頭からとうに吹き飛んでしまっていたのだ。

 

光門「それに俺、普段から6時までには帰るように言われてて……」

 

しかし、彼には門限というほど厳格な決まりではないが、帰りの時間は出来るだけ午後6時を回らないようにと言われていた。

今の時間は5時40分を僅かに過ぎた頃合い。

買い食い目的で午前中からお昼時にかけて回っていた近所のお祭りの屋台巡りの時に邪魔になるだろうからと、自転車を使わずにこのゲーセンまで寄り道を重ねながら歩いて来た彼は徒歩で帰らねばならなかった。

残り時間は約20分足らず……。

途中にいくつかある信号なども考えると、家まで徒歩で帰るにはたとえ走ったとしても厳しい時間だった。

 

妹紅「今から間に合いそうか?」

 

光門「正直、厳しいかも……」

 

妹紅「あぁ……なんだ……その、すまん。お前の事情も知らずに私たちのゲームに付き合わせちゃってさ」

 

光門「いや、君たちのせいじゃないよ。俺もついつい時間忘れて楽しんじゃってたからさ、言いつけも頭からすっぽ抜けてて今思い出した感じで、自業自得というか何というか……」

 

はたて「なら案内してよ」

 

光門「え?」

 

はたて「私がセリカで送ってあげる。徒歩で厳しくても車なら余裕でしょ?」

 

突然の提案に一瞬困惑するが、それよりも生粋のモータースポーツファンにしてラリーオタクな車好きの彼の心の琴線にはある3文字が引っかかった。

 

光門「え?今、セリカって……」

 

はたて「うん。私、セリカに乗ってるの。セガラリーに出て来た丸目の四駆の車ね。……あんまり女の子らしい車じゃないでしょ」

 

光門「いや、確かにそうだけど……でも、すごく良い車だと思うよ(なるほどなぁ……だからセガラリーの時、セリカしか使わなかったのか。自分の車だし、愛着とかもあるもんな)」

 

はたて「私たちはすぐ隣の駐車場借りて車止めてあるから、早く行こう。日が暮れる前に帰らないとね」

 

彼女の言葉に黙って頷くとその後ろをついて行く。

足早に退店し、隣のコインパーキングに入ると、そこで光門はまたも驚かされることになる。

 

光門「こ、これ……200系セリカGT-FOURにエボⅤにエボⅥのトミマキじゃないか!これ、もしかして君たちの車なのか!?」

 

妹紅「あぁ、そうだよ。……ちなみに私のはこのエボⅥのTMEだ。見た目もかっこいいし攻めれば速いし、何より一番大事なのは乗ってて楽しいって事なんだ。結構気に入っているんだよ」

 

光門「じゃあこのエボⅤは……」

 

星「私のですよ。……ちなみに早苗さんはトヨタのMR-Sに乗ってるんですけど、今日はちょっと整備に入ってて……」

 

早苗「はい。今日はフルード交換とかブレーキ周りの整備と、ついでにアライメント調整でちょっと……」

 

光門「そうなんだ。オープンカーもオシャレでいいよね。しかもMR-Sって希少な国産ミッドシップスポーツじゃないか。今度見てみたいな。……いやぁ、それにしても本当に立派でかっこいいよ。3台とも大きなウィングがクールだし、やっぱりWRCの息吹を感じられる車たちは最高だよ。特にこのトミマキは希少なスペシャルカラーリングパッケージだよね?普通のエボⅥとは違うラリーカーを模した特別なペイントに、専用品のフロントバンパーの厳つい顔つきに純正の大型カーボンリアウィング!この完成された機能美を感じさせるエクステリアは流石の一言だよね。このGSRに標準搭載されているAYCも、故障の多かったエボⅣの頃から改良されていてより曲がりやすく壊れにくく進化してるんだよ。……こっちのエボⅤの方はDAMDのエアロだね。こうやってまじまじ見てみると、純正のウィングとの見た目の相性もいいんだね。確かこのモデルからフロントデフに改良が入って、エボⅢまでの第一世代モデルやエボⅣと比較して格段に曲がりやすくなったんだよ。……あと、このランエボは2台ともエンケイレーシングのホイールを履いてるんだね。このエンケイの白ホイールはランエボの定番だね。よく似合ってるよ。でもこの手の白ホイールって、泥はね汚れやブレーキダストの金属粉が目立ってしまうから維持するのが大変なんだけど、2人ともすごく綺麗に磨いて維持してるね。ここまでピカピカなのはそう無いよ。……このセリカはC-ONEのフルエアロでしょ。ウィングはTRDのやつだよね。この黒いボディカラーも渋くていいなぁ。ホイールも含めて黒系統の色で内外装が統一されててまとまり感があるよ。……3台ともタイヤも高価なモデルを履いてるし、すっごいお金をかけて大事にしてるのが分かる。……いやぁ、本当にいいものを見させてもらったよ」

 

ランエボとセリカを前にして、殊更にラリーが好きなモタスポファンとしての心に火が付いたのか、目を輝かせながら車について語り出す彼。

そのマシンガントークっぷりに思わずファンタジアの面々は若干気圧されてしまう。

 

星「あ、あの……私たちの車でそこまで喜んでくれるのは、正直オーナー冥利に尽きるのですが……もうそろそろ時間が危ないんじゃあありませんでしたっけ……?」

 

光門「あ」

 

しかし、やや遠慮がちに発せられた星のその一言に一気に現実に引き戻された彼は先ほどまでとは一転し一気に顔を青くしていた。

 

はたて「と、とにかく急いだ方がいいんじゃない?ほら、乗って」

 

はたてに促されるままにセリカの助手席に乗る光門。

 

はたて「それじゃあ、私はこの子を届けてから戻るわね。早苗は妹紅のランエボに乗せてもらって。藍さんには少し遅れるとだけ伝えておいてね」

 

妹紅「分かった。藍には私から伝えておくよ」

 

それから、はたてと光門は妹紅達と別れて一足先に料金を精算して駐車場から出て行った。

 

 

 

光門「まずはここを左だよ。そして次の交差点を……」

 

はたてはゴトンゴトンと車を揺らしながら車道へと侵入すると、光門の案内でセリカを進ませて行くのだった。

 

光門(こういう事をしていると、なんかラリーのコドライバーになった気分だよなぁ)

 

ナビシートに座ってドライバーを導きサポートするというコドライバーそのもののように思えて、だんだん楽しくなってきた光門だった。

しかも乗っている車は昔ながらのフニャフニャボディーのトヨタコンフォートや、最近流行りのプリウスのタクシーなどではなく、いかにも走り屋らしい改造を施されたちょっぴり足の硬いセリカのチューニングカーだ。

それがなおさら彼の気分を上げる一要因となっていた。

しかしながら、楽しい時間というのはあっという間に過ぎてしまうもので、麓の住宅街から少しだけ外れた場所にある一軒の整備工場と、そこに隣接した民家に辿り着く。

ここが彼の家だった。

 

光門「ここだよ」

 

小さな駐車場に入ると適当な枠に止める。

時間は午後5時55分。

途中の直線道路を数台追い越しながらそこそこ飛ばしたため、かなりギリギリだが間に合わせることができた。

 

 

 

 

 

はたて「何とか間に合ったわね」

 

光門「今日は何から何まで本当にありがとうございました!このお礼は必ずさせてもらいます!」

 

はたて「うん。楽しみしてるわね。……あ、そうだ!もし車が好きなら今日の夜、秋名山に登ってみると良いわ。きっと面白いものが観れると思うから」

 

光門「え?」

 

はたて「それじゃあまた会いましょう!」

 

光門が降りたのを確認するとそれだけ言ってはたてはまた車を転がしていく。

そして、そのまま駐車場を出て行った。

整備工場裏の勝手口から家に入ろうと思い彼が振り返ると、店側から父が出てくるのが見えた。

今朝、今日は臨時休業だと言っていたので、てっきり隣接する自宅にいるものだと思っていた光門は一瞬びくりと肩が震えた。

 

光門「た、ただいま……」

 

水沢父「おう、おかえり。……今日は早く帰って来いって出る前に言ったのに、ずいぶん遅かったじゃねぇか。それに、今のセリカの女の子は誰だ?」

 

見られてた事にようやく気づき、さらに動揺する。

 

光門「え……えーっと、その事なんだけどさ……」

 

そこからは今日会った事を正直に話していった。

混み合う夏祭りのおかげで商店街周辺が今日は空いてるだろうからと、買い食いの後の腹ごなしも兼ねて、いつもの馴染みのゲーセンまで寄り道をして軽くセガラリーをしてから帰ろうとしていた事。

セガラリーをしていたらこんな日に限って不良に絡まれてしまった事。

今しがた帰って行ったセリカ乗りの子とその友人たち3人が不良を追い払ってくれた事(はたてと妹紅が不良2人を一撃でぶち転がしたことについては黙っておいた)。

彼女たちからセガラリーについて教えて欲しいと言われた事。

自分が手本の一環としてプレイしてみせたり彼女たちがプレイしているのを見ているうちについ夢中になってしまって気がつけば夕方だった事。

帰りの駐車場で見つけた彼女のセリカとその友達のエボⅤとスペシャルカラーリングパッケージのエボⅥ TMEに興奮してしまった事。

そしてようやくそのセリカの女の子、はたての送りで帰って来れた事。

 

光門がそれを話し終わる頃には、太陽はさらに傾き辺りはすでに暗くなりつつあったが父は黙ってそれを聞いていた。

 

水沢父「はぁ……全く、しょうがねぇ奴だな。不可抗力みたいな側面もあったし、お前にセリカやランエボみたいなラリーのベースカーやラリーカー由来のロードカー見て興奮すんなって言う方が無理があるし、帰ってきたのもギリギリ時間内だったし今回は特別にお咎めなしって事にしておいてやる」

 

光門はその言葉にほっと胸を撫で下ろす。

 

水沢父「……ただし、お礼の方は忘れんなよ。俺からもなんか持たせるから、その子たちにきっちり届けて来い。今日1日で結構な借り作ってるんだからな。……それに、他人の車を足代わりにしてんだ。ガソリン代くらいは例え要らないって言われても払っておけ。それが最低限の義理ってもんだ」

 

光門「うん。分かってるよ」

 

水沢父「なら良い。……それと、ちょっとガレージに来い。見せたいもんがある」

 

光門「へ?それって……」

 

水沢父「まぁ、見てのお楽しみだ」

 

 

 

光門が父について行くと、父が店舗の端にあるガレージの電動シャッターを開ける。

ガラガラと音を立ててシャッターが巻き上げられると、中の照明の光が漏れてくる。そして足元から徐々に見えてくるその車の姿に、光門の目は大きく見開かれた。

 

直線的で角ばったシルエットのボディラインに綺麗に磨かれた丸目4灯のヘッドライトを輝かせている白いボディーカラーのハッチバック。

待ちに待ったランチアデルタだ。

 

水沢父「91年式、アッカエッフェ インテグラーレのエボだ」

 

光門「おぉ、すげぇ!……ついに……ついに来たんだ!」

 

水沢父「ボディはシュアラスターのシャンプーとコーティング剤で磨いてある。どっかの誰かさんのせいで今日は暇だったからな。ホイールはOZ Rally RacingでタイヤはPIRELLIのP Zeroの新品。足はエナペタルのビルシュタイン製ショックアブソーバーとアイバッハ製スプリングの組み合わせだ。ブレーキは古い純正パッドを外してブレンボのパッドに変えてある。フルードも交換済みだ。内装は純正セミバケットシートにサベルト製の4点ベルトを装着できる様にしてある」

 

光門は父の話を聞きながら車の足元をじっくりと観察する。

OZレーシングとピレリ、そしてブレンボ。

モータースポーツと深い縁がある3つのイタリアンブランドが足元を彩る。

新品の真っ黒いタイヤと組み合わさった、赤く書かれたブランドロゴの映える純白のホイールもボディ同様コーティングを施してありツルツルツヤツヤだ。

タイヤとタイヤハウスの隙間からチラリと見える伝統と実績のドイツ製高級ブランドのピカピカのショックとスプリングに思わず笑みが溢れた。

 

ドアを開けてシートに滑り込めばホールド性の高い純正セミバケットシートが安心感を与えてくれる。

無駄な飾り気のないスリムなステアリングを握ればほんのりと冷たい。

お次はエンジンだ。

ボンネットをゆっくりと持ち上げると、210馬力を絞り出す2リッターDOHC16バルブのインタークーラーターボエンジンが鎮座していた。

 

水沢父「エンジンはほぼ純正そのままだ。コンディションを維持するために古いプラグとコイルを変えてベルトも貼り替えたしラジエーターのホースとか劣化した配管類はぼちぼち交換したが……まぁ、それだけだ。安易にモアパワーモアパワーであちこち弄って馬力出したって上手くはならないからなぁ。吸排気系も純正のままだ。この車を相応に乗りこなせる様になるまで、エンジン本体のチューニングはお預けだ」

 

光門もそれに異を唱える事はなかった。

むしろこれだけしっかりとコンディションを整えた状態で渡してくれた事に感謝すらしていた。

 

水沢父「そいつは今日からお前の車だ。……好きに使うといい」

 

光門「ありがとう、親父。……大事にするよ」

 

 

 

 

 

光門(今日からコイツが、俺の愛車だ。……よろしく頼むぜ、デルタ)

 

白く輝くボディをそっと撫でると、不思議な頼もしさの様なものを感じられた。

 




今日のUMA『オゴポゴ』

不良1と2のモデル:特に無し。
不良3と4のモデル:トンヅラーとボヤッキー



長らくお待たせいたしました。
今回もリクエストキャラ登場回です。
5時55分という時間もラリーに絡めた小ネタですね。
次回はその小ネタにちなんだ車もちょい役程度ですが登場しますよ。

それでは ノシ

2024 / 9 / 27 20:03
挿入位置の訂正。

2024 / 10 / 8 8:49
誤植の訂正。

2024 / 11 / 5 11:43
表現の追加と修正。
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