東方頭文字D 〜 Lunatic Stage 〜   作:D-Ⅸ

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実質2分割だった前回の続きです。
ただし文字数が当初の2倍ほど爆増してしまい執筆に想定外の時間がかかってしまいました。
「うーん、ここちょっと違うんじゃね?」「ここはこうした方がよくね?」「ここちょっと物足りないかな?」みたいな感じで修正と補足を繰り返していたら、本来5000文字くらいで済むはずだったのにいつの間にやらこんな文字数に。

中里も何故か勝手に生えてきたし。


第34話 BNR34 VS BNR34

秋名のダウンヒルスタート地点に並ぶ2台の車。

日産の誇るハイパワーターボ4WDスポーツ『スカイラインGT-R』、その第二世代モデルの集大成にあたるBNR34型だ。

 

ギャラリー1「やべぇよ。前座でこれなのか?」

 

ギャラリー2「県内じゃそこそこ名前の知れた二つ名持ちの走り屋と、最近群馬で活躍してるチームのエースの対決かぁ」

 

ギャラリー3「しかも同じ車同士の対決だ。もうバチバチじゃねぇか」

 

ギャラリー4「それにしても、どっちもいい弄り方してるじゃないか。かっこいいぜ」

 

ギャラリー2「黒い方の社外ボンネットとGTウィング、レーシーでいいよな」

 

ギャラリー3「青い方のリヤビューもクールだぜ。特にリアディフューザー、良いデザインしてるよな。あれは何処のパーツなんだ?」

 

魔理沙のブラックのボディにトップシークレット製フルエアロ、ボディ同色塗装のZ.S.S.製カーボンボンネットに白いレーシングストライプをあしらったBNR34に、秋永のベイサイドブルーのボディにNISMO製前後フェンダーとサイドスカート、さらにワンオフのリアディフューザーを装備したBNR34の2台の存在感は圧倒的だった。

 

今はお互いに名乗りを済ませ車内で待機しているが、緊張感を持って見守るギャラリーたちとは裏腹に、バトルに臨む当人たちの雰囲気は特に堅苦しいものでは無かった。

 

池谷「何と言うか、すげぇよな……こりゃあ」

 

健二「昨日もそうだけどさ、日産乗りとしちゃあやっぱたまんねぇよ。憧れのGT-Rが並んでるところを見るのは」

 

翔一「しかもバトルだぜバトル!こう……胸にグッと来るものがあるよなぁ。痺れるぜ」

 

スピードスターズの面々もその勇姿を目に焼き付けるべくスタート地点のギャラリーたちに混じって見物していた。

今日は特に地元の走り屋が走る訳でもないビジター同士のマッチと言う事もあり、秋名の走り屋としてのメンツがかかってどうこうとか、そう言う難しい話を考えずに済むので彼らは随分と気楽なものであった。

 

強いて何か言及すべき点があるとするならば……。

 

 

 

四郎(ヒョエェェェ!めっちゃ見てるよみんな!スタートコールを出すだけの仕事なのにめっちゃ緊張して来た!)

 

できる限り第三者が担当する事になっているスタートコールの役をする事となった四郎がバトルに臨む本人たち以上にガチガチに緊張している事くらいであった。

普段の練習バトルなどであればまだしも、これだけのギャラリーに囲まれた中でのバトルのスタートコールとなれば話は違ってくる。

 

何とか緊張をほぐすべく深呼吸を繰り返す四郎であったが、そんな事など毛ほども気にした様子のない文の快活な声がスタート地点に響き渡る。

 

文「それじゃあお互い暖気も終わった事でしょうし、バトルと参りましょう!それでは秋名スピードスターズの中山四郎さん、スタートコールをお願いしまぁぁぁす!」

 

四郎(ひぃぃぃ!言うなよ言うなよ!なおさら緊張するだろ!?)

 

本人が緊張していることを完全に理解していながらこれである。

この人間は弄ってもいい人間だと射命丸文に思われたが運の尽きだった。

 

とは言え、今さら背に腹はかえられぬ。

男、中山四郎。

促されたからにはやらない訳にはいかなかった。

 

 

 

♪ MILLENNIUM / ROBERT PATTON

 

 

 

四郎「そ、それじゃあ5カウントで行くぞ!」

 

四郎「5…………4…………3…………2」

 

数が少ない分ゆっくりとカウントダウンしていく四郎。

 

四郎「…………1」

 

ラスト1カウント。

ギャラリーたちも固唾を飲んで見守る中で、2人のドライバーが同時にギアを1速に入れる。

 

四郎「GO!」

 

アクセルに置かれていた右足を床まで踏みつけて2台は軽いホイールスピンを起こしながらフライング寸前の際どいタイミングで飛ぶように加速する。

重なり合う2機のRB26DETTのサウンドにギャラリーは大いに沸き立った。

 

ギャラリー3「おっしゃ行けぇ!青いの!」

 

ギャラリー1「群馬のプライド見せたれやー!」

 

ギャラリー5「魔理沙ちゃんガンバー!」

 

ほんの僅かにリードしたのは馬力に勝る秋永のGT-Rだ。

0キロからの発進加速時に使う低回転から中回転にかけてのトルク自体は魔理沙のGT-Rに軍配が上がる事と、魔理沙のGT-Rのミッションは峠の中低速コーナーに対する適応を重視して1〜3速のギア比をクロス寄りにしているため、極僅かながら魔理沙がリードしかける。

しかし、高回転域に乗せてしまえばやはり最高出力の差が出てくるためか秋永が逆転。

青いGT-Rが半車身分のリードを確立すると魔理沙のGT-Rは潔く前を譲り、その斜め後ろに付く。

 

魔理沙「パワーはあっちが上か」

 

だが頭を取られたことに関しては魔理沙は特に重要な事とは考えていなかった。

 

魔理沙(ま、先行出来ても出来なくてもやる事は変わらないからな。むしろ前半で前を走ってくれる分だけ私としちゃあ楽が出来る。それじゃあ、まずは1コーナーだ)

 

ギャラリー6「カエデのGT-Rが頭を抑えた!」

 

ギャラリー7「だけどファンタジアの34Rもビタビタだ!」

 

ギャラリー8「良い腕してるぜ!2人とも1コーナーから攻めてるなぁ」

 

ギャラリー6「RBサウンドとスキール音がたまんねぇぜ最高だ!開幕から全開だぞ!」

 

ギャラリー7「あぁ、良いもん見れたなぁ」

 

RBサウンドの二重奏を響かせグリップで1コーナーを通過し2コーナーに向け加速する2台のGT-Rの姿に、ギャラリーたちがドカンと湧き立った。

 

スタート地点でも、1コーナーに突っ込んでいく2台を見送りながら、各々が感想を述べて行く。

 

泊「まずはアキが先行か」

 

さとり「でも、同車種ゆえか突っ込みにそこまで差がある様には見えませんでした」

 

池谷「先行を奪取したからと言ってもまだまだ油断は出来ないぞ。そこからの逆転は、可能性として十分にあり得るんだ」

 

隆春「あぁ、マシンのスペックも近いしまだバトルは始まったばかりだ」

 

水希「まぁ、狭い公道とは言っても、秋名は途中で道幅が広くなる区間があるからね」

 

涼介「見た感じ、月宮のGT-Rが480から500馬力手前……間を取って490馬力。霧雨のGT-Rが大まかに470馬力前後程度と言った具合か」

 

翔一「そこまで分かるのか……」

 

四郎(相変わらずとんでもねぇや、高橋涼介は。俺たちとは走りの腕も顔も、それどころか頭の出来すら違うってのか。……勝ててるところが1ヶ所もない。とほほ……完敗だ)

 

涼介のファン1(山内)「やっぱり凄いわね涼介くんは。今回もほぼドンピシャなんじゃない?流石に人間シャシーダイナモって呼ばれるだけはあるわ」

 

涼介のファン2(高本)「ねぇねぇ、あっちゃん。シャシーダイナモって何?」

 

涼介のファン3(由月)「え?さっちゃん知らないの?」

 

 

 

 

ところ変わって前半第一ヘアピン手前。

 

秋永(すげぇや、何の苦もなく付いてくる。泊の前じゃあんまり情けない走りは出来ないからな、初っ端から結構本気で攻めてるんだけどピッタリ背後に食いついて離れない)

 

魔理沙(よし問題なくついて行けるな。……前を走るメリットはラインの選択権がある事と前方のクリアな視界だが、後ろに付く事で得られるメリットもあるんだぜ。相手の走りを観察できるし、観察ついでにちょくちょくプレッシャーかけてやるだけで相手の意識をこっちに割かせて集中力を削れる。……先行と後追い。どっちになっても勝てる自信が私にはある。さて、どんな走りをするのか……見させて貰うぜ)

 

前半第一ヘアピンを通過。

やはりここでも魔理沙は秋永の背後から微塵も離れる気配がない。

 

秋永(低速コーナーの処理も上手いな。ドライバー込みの車体重量1.5トンオーバーから1.6トン近くにもなる、国産車の中では中々の重量級ボディかつフロントヘビーな前後重量バランス。そんなGT-Rみたいな車を振り回す走り屋の中には、このヘアピンみたいな低速コーナーで一気に失速してモタつくドライバーも少なくはない。低速コーナーでダルになるのは重い車で峠を攻めるが故の宿命みたいなものなんだけどな……そんな様子は一切ない。流石、事前に聞いていたファンタジアのダブルエースって触れ込みは伊達じゃないみたいだ)

 

2台はごく短時間のブレーキングで減速を終わらせて殆ど密着していると言って良いほどの車間を維持したまま突っ込み、そのまま抜けていく。

 

ギャラリー9「すっげぇぇぇ!何だよこの2台!この狭いヘアピンをこんなピッタピタで抜けていきやがって!」

 

ギャラリー10「しかもアルトワークスとかビートみたいな小さな車じゃなくて図体のデカいGT-Rでだぜ!」

 

ギャラリー11「とんでもねぇ度胸だ!これが本番のバトルの前座って嘘だよなぁ」

 

ギャラリー9「魅せてくれるぜ!やるなぁ2台とも」

 

前半第二ヘアピンを経て短い中速区間に突入。

相変わらず2台はもつれたまま秋名の山を下って行く。

次に控えるは前半二連ヘアピン、そしてスケートリンク前ストレート。

 

まずは右曲がりの二連ヘアピンの第一ヘアピンをパス。

そして更にRのキツい左の第二ヘアピン。

鋭く切り込む様な2台のコーナリングにタイヤが悲鳴を上げる。

 

ギャラリー12「良い突っ込み!重量級の車で良くやるぜぇ!」

 

ギャラリー13「立ち上がり加速ハンパねぇ!」

 

立ち上がったと思ったらまた次のコーナー。

2台のスピードレンジはマシンのビッグパワーと本人たちの技量が合わさり、並みの走り屋を寄せ付けない程に速い。

2速から3速へとシフトアップしながら緩いRのコーナーを抜けると、そこは既にストレート。

秋名の最高速を記録するスケートリンク前ストレート、そこを2台はアクセルを床まで踏み抜く全開加速で飛ぶ様に駆け抜ける。

ストレート中程で3速から4速へ。

狂気的な加速はとどまるところを知らず、この高速区間を2台はコースレコードを誇る拓海のハチロクよりもなお速いペースで走っていた。

 

ギャラリー14「すっげぇスピード!何キロ出てんだアイツら!」

 

ギャラリー15「ひぇぇぇ!峠で出していい速さじゃねぇよ!」

 

そしてスピードの乗るストレート終端で走り屋がやる事と言えば、それは一つしかない。

連続ヘアピンに次ぐもう一つの名物、スケートリンク前ストレートダウンヒル側、展望台前でのブレーキング勝負だ。

 

 

 

フルブレーキング、そしてシフトダウン。

スピードメーターの針が時速200キロに近づきかけていたほどの速度をガツンと落とし、目の前のコーナーに突入する2つの鉄塊。

 

秋永(セオリー通りにここでブレーキング勝負を仕掛けるのは読んでいた!インは渡さない!)

 

魔理沙(あわよくばここで前に出れるかと思ったが、流石にそう簡単には行かないか。ブレーキング時の制動力の立ち上げ方も上手いし、スピードにビビらず奥まで突っ込む度胸もある。良い腕してるぜ!ブレーキはただ適当に力任せに踏むだけじゃあ止まらないからな。それをよく分かってるいいドライバーだ)

 

青いGT-Rがインを守り切り、黒いGT-Rをアウトに追いやるターンインの攻防。

悲鳴を上げるタイヤをさらに酷使して、コーナーのエイペックス目掛けて切り込んでいく。

 

秋名の走り屋1「おぉ!良い突っ込みだ!青いのがインを取った!よっしゃあ!」

 

秋名の走り屋2「だが黒いのも引かない!外から行った!?立ち上がりで並んでそのまま次のコーナーに消えてったぞ!」

 

インを守り切り突っ込み勝負に勝った秋永だったが、インを取られて引き下がる様な相手ではないと分かっていたからこそ、その走りに油断はない。

だが、相手は並の走り屋ではない。

 

秋永「並んできた!この狭い道で!?」

 

インを奪う事に失敗したならアウトを最大限に利用する。

アウトのワイドなラインを通った魔理沙はコーナーのRをインベタのラインよりも広く取れる事を利用してわざとガードレールギリギリまで目一杯に使い切りほんの僅かに秋永よりも速いスピードでコーナーを立ち上がる事ができていた。

時速に表せばほんの2キロか3キロの差だが外から被せて鼻先を捩じ込む程度であればなんて事はない。

加速体勢に入った途端に張り合う様にアクセルを踏み込み、重厚感のある加速サウンドを残して駆け抜けていった。

 

秋名の走り屋3「すげぇや!いいもん見れたぁ」

 

秋名の走り屋1「あぁ、いい腕だぜあいつら。ここのブレーキング勝負は下り勾配でスピードが乗りやすい上に、侵入角次第では直前の緩く小さな左コーナーの横Gをほんの僅かに残しながらのブレーキング勝負になるから、地元ですらここは攻め方が難しいんだ。……今回みたいな重量級ハイパワー車でスピードレンジが高いと特にキツいだろうな。足のセッティングが悪いと姿勢崩してドカンだぜ」

 

秋名の走り屋2「だけど2台ともこっちがビビりそうになるほどの、これだけのハイスピードエントリーなのに姿勢が寸分も乱れてねぇ!腕がいい証拠だ。ここに陣取って良かったぜ。スケートリンク前ストレートは秋名で一番速度が乗る。その終点のここは迫力のある突っ込み勝負が見られる、秋名の名所だからな」

 

秋名の走り屋3「しかし惜しいな。黒い方は明らかに直前でインを狙う動きをしていたのに、青い方が即座に反応してインを絞められちまった。イン側を取れずにアウト側に修正せざるを得なかったから、少しラインが窮屈になったんだ」

 

秋名の走り屋4「もしイン側の奪取に成功していたら間違いなくオーバーテイクできていただろうに」

 

 

 

ここで再び視点は主役の二人に戻る。

立ち上がりで半車身ほど捩じ込んだ状態を維持して次の右コーナーに突入する。

このストレート直後のS字区間では文字通り頻繁に左右が入れ替わる。

僅かに魔理沙がリードを取り戻したのも束の間、次は間髪入れずにタイトな左コーナーが現れる。

そこで再度インを奪った秋永が再びリード。

 

秋永(心臓が飛び出そうになる程怖いが、ここで引いたらダメだ!前は守り抜く!)

 

接触寸前、サイドバイサイドの競り合いを演じながらS字区間のコーナーを6つも駆け抜けた2台はギャラリーを大いに沸かせる事となった。

 

ギャラリー16「と、とんでもねぇ奴らだ!この狭い峠のコーナーを、34Rでサイドバイサイドだとぉ!?」

 

ギャラリー17「しかもバカっ速!命が惜しくねぇのか!?なんつークソ度胸と神業コントロールしてんだよ2人とも!!」

 

ギャラリー18「次の左コーナーの先はキツいヘアピンだぞ!まさかそこまで並んでいくつもりか!?」

 

しかしそんなサイドバイサイドも長くは続かない。

S字区間の最後に訪れるのは大きなRを描く緩い左コーナーからの右ヘアピン。

直前の緩い左を殆ど横並びの状態で駆け抜ける2台。

この左は秋永がインを取っているが、ここでも魔理沙は一切引かない。

それどころかむしろその走りは更に攻撃的になっていた。

何を隠そう、このアグレッシブな攻めのスタイルこそが魔理沙の本領であった。

ピークパワーに劣る代わりにトルクバンドの広い魔理沙のGT-Rが3速からの全開加速で鼻先50センチほど、ほんの僅かにリードし立ち上がる。

そして目の前に迫るは右ヘアピン。

必然的にに、インを取るのは魔理沙の方だった。

 

秋永(僅かに前に出られた。ここで腹を決めるしかない。行くか)

 

魔理沙(ここで勝負を仕掛ける。前に出るのは私だ!タイヤやブレーキを痛めつけたくないし、後ろを走り続けていると十分な走行風が当たらないからエンジンの水温と油温が上がるし、インタークーラーも風を当てて冷やしてやらないと熱くなるからパワーも落ちる。今の油温は110度オーバー、すでにその兆候が出てきてる。この辺で前に出ておかないといざと言う時にパワーダウンを起こしかねない。……一発で仕留めるぜ!)

 

ほんのごく短いストレートであるにも関わらず右足でアクセルを踏み千切っていた2人は、その足を今度はブレーキに踏み換えてシフトダウン。

 

2速でヘアピンに猛然と突っ込んでいくが、ここでブレーキの差が出た。

 

ドライバー込みの車体重量が1.7トンオーバー、馬力はゆうに500馬力を軽く上回る、BNR34よりもさらに重くさらにパワフルなスーパーカーの領域に足を踏み入れたモンスター4WD、R35GT-Rを確実に止める様に設計された、この当時の日産の最高傑作であるカーボンセラミックブレーキ。

魔理沙のマシンに移植されたそれは、R35よりも100キロ以上も軽い魔理沙のチューンドBNR34にとってはオーバースペックもいいところだった。

 

秋永の駆るGT-Rに搭載されたSTOPTECH製ブレーキは純正ブレーキを上回る制動力を発揮しドライバーのレイトブレーキングに見事応えて見せたが、そこから更にワンテンポ遅れてブレーキングに入った魔理沙がついにリードを確立する。

黒いGT-Rはインベタをなぞるラインを描き、秋永の青いGT-Rをまるで先ほどの意趣返しの様にアウトに押し出しながらそのまま立ち上がってフル加速。

 

完全に前を奪いオーバーテイクに成功!

先頭が入れ替わったことでギャラリーたちは大いに湧き立った。

 

ギャラリー19「おっしゃあ!黒いRが青いRを抜いたぁ!こんな狭い公道で、まさかこんな熱いコーナリングバトルが見れるとはな」

 

ギャラリー20「すっげぇ!危うくぶつかるんじゃないかと思ったぁ。鳥肌立ったぜ……」

 

ギャラリー21「34GT-Rは俺のへっぽこシビックとは違うんだぞ。そんな高級スポーツカーでよくやるぜ2人とも」

 

ギャラリー20「あの2台、お前のボロEF9何台分だ?」

 

ギャラリー21「4、5台か、いや軽く10台以上か?今相場上がってるもんなぁ。もしもダブルクラッシュしたらとか、考えたくもねぇよ。……あとボロは余計だ」

 

 

 

ロングストレートでの差し合いを制したと思えば次の瞬間には外に並ばれてしまいサイドバイサイドに。

そして横並びの状態から今度は2度目のブレーキング勝負に突入するもそこで惜しくも抜かれてしまった秋永だったが、ここで諦める程度なら彼はそもそも走り屋をやっていない。

 

秋永「すげぇ。まさかここで抜かれるなんて……」

 

抜かれた瞬間にポッキリ折れてしまう様な心の弱い人間に、走り屋は務まらない。

例え抜かれたとしても、それはあくまで攻守交代の合図程度にしか思わない人間もいるのだ。

 

秋永(でもまだバトルは長い。この区間はGT-Rが最も得意な中高速コーナーが連続するハイスピード区間。パワーを最大限に活かしながら何が何でも喰い下がる。相手は相当な腕利きのドライバーだけど、まだチャンスはある。後半セクションにはオーバーテイクに適した道幅の広い区間もあるからな。……喰らい付けずに離されたらもう終わりだ。ここで踏ん張って後に繋げることが出来るか、それが勝負の分かれ道!)

 

秋永はプレッシャーを与えるべく、ストレートであえて魔理沙の背面に張り付きスリップストリームに入りながら徐々に差を詰めていく。

殆どの区間で右斜め後ろをキープしていた魔理沙の動きとはそこから違っていた。

 

魔理沙(かなり積極的にかけてくるな、プレッシャーを。そう簡単には逃がさないぞって気迫がピリピリ伝わってくる。……いいぜ、バトルってのはやっぱりこうでなくちゃ!臨むところだ!ここからは私も、全力で逃げさせてもらう)

 

スケートリンク前ストレートに次ぐ秋名第二の高速区間。

魔理沙はそこを殆どブレーキランプを点灯させることなく駆け抜けていく。

 

秋永「速い……(さらにペースが上がった!?俺の後を追いかけていた時とは走りが違う。ブレーキランプが点灯している時間が俺よりも短い。ほぼノーブレーキでコーナーに突っ込んで行っている。ついて行くこっちが冷や汗をかきそうだ)」

 

何とかチャンスを伺う秋永だったがそう簡単には隙を見せてはくれない。

高速コーナーが連続する区間の終点のヘアピンでもオーバーテイクを仕掛けるだけの余裕はなく、そのまま次のコーナーに突入する。

 

 

 

先に待ち構えているのは秋名の名物、連続ヘアピン。

そして、このテクニカルセクションには昨晩のバトルを盛り上げたあの男がギャラリーとして紛れ込んでいた。

 

中里(RBの音が近づいてくる。もうすぐそこに居るのが分かるぜ。……この感じ、相当にもつれているな。……実力が拮抗しているか。2台の距離がかなり近い)

 

中里だった。

 

高橋涼介に匹敵しうるオーラの持ち主、ファンタジアの赤いS15がバトルをすると聞いて、昨日の今日で再び秋名にやって来た彼だったが、ここで飛び入り参加の青い34GT-Rがファンタジアのもう一台のオーラ持ち、黒い34GT-Rとバトルをするらしいという話をたまたま隣のギャラリーの通話を聞く形で小耳に挟んでいた。

これは彼にとっては僥倖だった。

 

ファンタジアのGT-Rも、群馬で名の売れている青いカエデのGT-Rも中里にとって興味の対象であったからだ。

そんな2台の走りを同時に見れるとくれば、同じR乗りとしても、また1人の走り屋としても興奮しない訳はない。

 

彼はこの後半テクニカルセクションの第一ヘアピンアウト側に陣取っていた。

ここは連続するヘアピンコーナー群の始点である第一コーナー。

直前の中高速セクションを抜けスピードに乗った状態からのブレーキングからターンイン、そしてその立ち上がりまでのライン取りをじっくり観察することが出来る上、続く第二ヘアピンの突っ込みもまた見届ける事が可能だ。

この第一ヘアピンと第二ヘアピンは、それぞれターンイン時のスピードレンジが違う上、コーナーの勾配の角度にもやや差があるために、ほぼ同じRを描くコーナーでありながら異なる攻略法を求められる。

そのため、攻めるドライバーには相応のテクニックが要求される。

そんなこの区間の特性に目をつけた中里は、ここに陣取り目の前を通過する走り屋の実力を値踏みすることにしたのだ。

 

中里(さぁ、どっちが前だ?お前たちは、どんな走りをするんだ?)

 

 

 

♪ Crazy Hot / NJK Record

 

 

 

けたたましいほどのサウンドが近づいてくる。

ヘッドライトの明かりがガードレールを照らす。

もう、すぐそこという所にまで来ている。

他のギャラリーたちと共に期待を胸に、固唾を飲んでただその瞬間を待ち続けた。

 

そして……。

 

ギャラリー22「来た!黒いのが頭だ!」

 

2台のGT-Rが轟音と共にコーナーに向かって突っ込んでくる。

そこで中里は目を見張る光景に直面する事となる。

 

第一ヘアピンのターンイン、先頭の黒いGT-Rのリアが滑った。

ドリフトだ。

その黒いGT-Rはエキゾーストサウンドに負けない程に甲高いスキール音を鳴らしながら、四輪全てが滑っている四輪ドリフト状態でコーナーのインをなぞる様に抜けていく。

 

秋永「な……」

 

中里「何だと!?」

 

ギャラリー23「ド、ドリフトぉぉぉ!?」

 

これにはその場にいた全員が驚愕をあらわにする。

そんなギャラリーたちをよそにその黒いGT-Rは次のコーナーが既に見えているにも関わらずアクセルを踏み締めドカンと加速する。

再びスキール音を鳴らしながら第二ヘアピンの向こうへ消えていく姿を見送る頃には、青いGT-Rとの車間も僅かに広がっていた。

 

ギャラリー24「な、何が起きたんだ……!?GT-Rが、滑った?」

 

中里(……あぁ。だが今のはただ単純に滑ったんじゃない。認めたくない事だが、あれは技術として確立された、四輪ドリフトだ!派手さはもちろんだが、何より速かった。相手の青いGT-Rもかなり良い腕をしていたが、黒いのはそれ以上だったと言うだけだ。……だが、昨日のハチロクに引き続き今日もまた、それも絶対にグリップの方が速いと思っていたGT-Rで……か。2日続けてこんなに凄いドリフトを見せつけられちゃあこっちとしても心中穏やかじゃいられねぇな!……一度はドリフトに限界を感じ、見切りをつけてグリップに転向した身としては特に、胸の奥がカッと熱くなる様な感覚を覚えて落ち着かねぇ!この感情……一体何なんだ!?)

 

第二ヘアピンをスキール音を鳴らして駆け抜けていく音が聞こえて来る。

その次にはコーナーの先からギャラリーたちの歓声が響いた。

あの黒いGT-Rがまたしてもドリフトでコーナーをクリアしたことが音だけで理解できてしまった。

 

中里(一体、この秋名で何が起きているんだ。これまでの峠とは何かが決定的に違う。それもこれも、アイツらが……この痺れる様なオーラをガンガンに発しているGT-Rが属しているレディースチームと、20年近く前のハチロクで俺を圧倒した例の秋名の凄腕ダウンヒラーが現れてからだ。……全く、どいつもこいつもとんでもない奴らだぜ)

 

徐々に遠ざかるそのサウンドと歓声をBGMに、中里は思索を巡らせる。

ここ最近立て続けに現れた、自分を打ち破ったハチロクやあの2台のオーラ持ちのGT-Rを始めとした優れた技量を持つドライバーたち。

 

そんな彼ら彼女らの躍進する姿が確かに中里の脳裏に浮かんでいた。

中里は走り屋の実力をオーラという形で可視化できる特殊な眼を持つ事もあり、これでも人を見る目にはそれ相応に自信があった。

 

中里(こいつらの登場で群馬の、いや関東の走り屋の勢力図が塗り変わる可能性がある。もしかしたら俺は……俺たちはとんでもない時代に生きているのかもしれないな。……であれば尚のことうかうかしては居られない。そんな面白そうな時代に取り残されないためにも、俺はもっと速くならなきゃならない。……燻ってなんていられるか)

 

 

 

そうして決意を新たにする中里をよそに、バトルはさらに激しくなっていく。

第一ヘアピン、第二ヘアピンで差をつけられた秋永だったが、ただ差をつけられるばかりでは無い。

続く第三ヘアピン、第四ヘアピンで背後から魔理沙のドリフト走法を観察してそのメカニズムを探ろうとしていた。

 

秋永(この感じ、サーキットで見る様な派手なパフォーマンスドリフトとは訳が違うな。分かりやすくリアタイヤもロックしていないし、これはサイドブレーキに頼ったものじゃ無い。つまり、ステアリング操作とペダルワークだけで曲げる荷重曲げ、あるいはその応用に当たるブレーキングドリフトに近い高等テクニックだ。だが一般的な二輪駆動やフルタイム4WDならまだしも、二輪駆動と四輪駆動が切り替わる特殊な制御が介入するアテーサET-Sでそんな事をするドライバーが居るなんて……)

 

必死に頭を回して冷静にその走りを分析し続ける。

だが知れば知るほどその圧巻とでも言うべき技巧の冴えに舌を巻かざるを得ない。

 

アテーサは後輪のホイールスピンを検知すると、前輪に駆動力を回して4WD化してグリップを回復させるシステムだ。

故にGT-Rはシリーズを通してドリフトをさせる事、ドリフトを維持させる事が難しい。

 

しかし魔理沙はタイトに切り込んだ際のコーナリング時の急激な横Gを利用しつつ、二駆と四駆の中間をアテーサが行き来する様な絶妙なバランスでアクセルをコントロールする事で、タイヤのホイールスピンを維持し四輪ドリフト状態を作り出していた。

 

また、コーナーのエントリーではオーバースピード気味であっても、車体をドリフトさせ横滑りさせて行くうちに自然と速度は落ちて行くので、よりブレーキは遅く、奥へと持っていける事もまた利点と言えた。

さらにドリフトでインベタを旋回する事でマシンはコーナーを最短距離で走り抜けられる上に、立ち上がりで鼻先がちょうど次のコーナーを睨む位置に来るためそのままアクセルを踏めば通常のライン取りのグリップ走法よりもより早いタイミングで、尚且つパワーバンドを維持したまま4WD状態で再加速が出来る。

突っ込みの際に意図的にかけていた強い横Gが、立ち上がりの時には抜けていくため、アテーサは容易にグリップを回復させ加速態勢に移ることが出来ていた。

これによりパワーの差を覆して差を広げていたのだ。

 

少なくとも、秋永の観察する限りではその様に見えていた。

だが、言うは易く行うは難し。

何故ドリフト出来たのかという大まかな理屈を察したところで、実戦の中で模倣や対策を出来るほど簡単な事ではない。

 

第五、第六ヘアピンを抜けて数コーナー。

高回転域における加速のパンチ力に勝るため秋永のGT-Rが僅かにストレートで詰めるが、前方に何も遮るものの無い魔理沙の快走にギリギリのところで喰らいつけない。

 

秋永(ダメだ……すっげぇ速い!追いつけない!でも……諦めない!)

 

魔理沙(短い秋名の最終セクション、タイヤをズルズルに使い切るつもりでぶっ飛ばして行くぜ!ついて来いよ!1台よりも2台の方が、ギャラリーは盛り上がるからな!)

 

霊夢と水希のバトルの前座という建前などとっくのとうに捨て去って、2人は全力で走っていた。

残りのコーナーでは前を行く魔理沙を追い越せそうには無いと、秋永の冷静な理性は彼に語りかけていたが、それでも関係ない。

つまらない理性を蹴り飛ばし、ただ走る。

目の前の車のテール目掛けて、ただ愚直に。

 

 

 

そして、ゴール地点。

黒と青の順に、僅か0.13秒差という僅差でゴールした2台の34Rを、ギャラリーたちの歓声が包み込んだ。




大変お待たせ致しました。
次回、すぐ執筆に移ります。
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