東方頭文字D 〜 Lunatic Stage 〜 作:D-Ⅸ
やっぱりやりたい事を色々詰め込もうとこねくり回したせいで今回も難産でした。
また、ラストに今後出演して欲しい車をアンケートで募ります。
目的としては読者の皆様が本作の登場車種に求めている需要をある程度把握する事です。
ここで一定数の票を集めて好評だった車が何らかの形で作中に登場する様になります。
オリキャラ(主要なネームドはもちろん、ちょくちょく作中での射命丸のブログの取材対象になってるモブ走り屋やギャラリー車などのちょいキャラを含む)の増車枠または乗り換え先、東方キャラの増車枠または乗り換え先、レミリア&フランドールの自動車コレクションとその部下である妖精メイドの搭乗車などなど、様々な形で登場する予定です。
今後、キャラを含まない「車のみのリクエスト」を募る事も検討していきます。
こちらはリクエストキャラクターよりも採用のハードルは下がると思います。
左ウィンカーを点灯させながら減速しつつ前を走る赤いシルビアに続くチェイサーの中で、水希は「はぁ……」と大きくため息をついた。
バトルの緊張が切れたのだ。
水希「あーあ、負けちゃった」
光門「でも……凄かったですよ、ドリフト。カッコよかったです」
水希「ありがとう。……でも、先頭守り切って完封して、ピシッと決められたら、それが一番よかったんだけどねぇ。やっぱりレベル高いってのは噂通り……いや、噂以上だったよ。私だってそこそこ腕には自信があったんだけどね」
そう言いながら霊夢のシルビアに続いて駐車し、降りた水希がギャラリーたちに囲まれながら真っ先に見たのはもちろんタイヤだ。
光門「うわぁ……」
水希「あちゃー……これほぼ完全に死んでるわ」
後に続く光門が思わず声を漏らすほどの死闘の証が、そこにはあった。
タイヤのトレッドはほぼ溶けきってしまい残っているのは極僅かで、その残った溝にも溶けたタイヤのカスが部分的に詰まり溝を埋めてしまっている箇所すら見られ、その様子はスリックタイヤとそう大差ない。
どこかで拾ったのか、ベタベタに溶けたタイヤには色の僅かに違う別のタイヤカスが付着しており、水希が剥がすとペリっとと小さな音を立てた。
水希「うわ……熱々だ」
そう言って水希は力尽きたタイヤをペチペチ軽く叩く。
車体を右に左に振り回すドリフト走行の負荷により、接地面はもちろんサイドウォールの消耗もまた著しく、タイヤのメーカーロゴが部分的に削り取られて掠れてしまっている部分さえある。
サイド剛性の下がったタイヤでは終盤にコーナリング時の横Gに対する踏ん張りが効かず、乗り手の計算外の余計なスライドが生じてしまいコントロールに狂いが出てしまうのも納得であった。
しかも、つい数週間前まで新品であったはずのタイヤがほんの1ヶ月と保たずにこれである。
ブランド名とタイヤサイズ(245幅の18インチ)の隣に刻印された4桁の数字がこのタイヤが今年に入って製造された事をアピールしていた。
そんなタイヤももうほぼ死に体というありさま。
彼女がどれだけこのチェイサーを峠で使い倒して走り込み続けて来たのかが如実に現れていた。
また、ブレーキにも酷使された証明がありありと見えており、ドライバーと同乗者と燃料込みのトータル重量が1.5トンを上回る重量物を下り勾配の中で制動させるハードブレーキングの連続であるダウンヒル後半、そのコーナー群を最後の最後まで攻め込み駆け抜けた事により、ローターからはうっすらと煙が立ち上りパッドの焼ける匂いに加え、その熱気の一部が夜風に乗せられむわりとブレーキを覗き込む光門の顔を撫でた。
水希が全力で走り切った証がそこにはあった。
ギャラリー1「と、とんでもねぇぜこのチェイサー。完全にタイヤを使い果たしてらぁ」
ギャラリー2「後輪とかヤバいぞ。熱でタイヤがズルズルに溶けちまってる」
光門「凄いな、タイヤカスまみれだ」
水希「完全に私のタイヤマネージメントのミスだよ。ついつい調子に乗って踏みすぎちゃった。あと、前半でブロッキングに意識とタイヤのリソースを向けすぎた事も敗因かな。……タイヤを酷使した状態で序盤よりも勾配の急になる後半を戦うのは厳しかった。チェイサーはFRの国産車の中じゃ結構重いからね。フルアクセルとハードブレーキングの連続する急坂下りは本来苦手なんだって、頭じゃ分かってたはずなんだけどなぁ。……それで、タイヤやブレーキの性能の低下を誤魔化すために無茶に無茶を重ねていって……一時的にはどうにかなっても最後まで持つとは限らない。……今回は、無理だった」
そんなギャラリーたちの様子をよそに、同じく車から降りて来た泊や霊夢の元へと向かう水希。
それに気づいた霊夢も水希の方へと向き合った。
水希「お疲れ様。いやー完敗だよ。……でも、新鮮なコースで楽しいバトルが出来てよかった。ありがとう」
霊夢「こっちこそ、良い刺激になったわ」
トップを奪い合う激しいバトルをしている間は敵同士であっても、それを終えればまた同じ車好き、走り好き、峠好きという趣味を共有する仲間となる。
最後にお互いの手を取り合い握手を交わし、いつかの再会を約束してその日はお開きとなった。
霊夢と水希が同乗者たちを頂上の駐車場に届けに行くタイミングで、ギャラリーたちは各々帰り始めて行った。
バトルの時と同じ様に車列の先頭を、しかしバトルの時とはうって変わってゆっくりと流していくチェイサー。
すれ違うギャラリーの白い三菱ギャランGTO 2000GSRと赤いポルシェ930ターボを横目に、その車内では光門と水希が会話に花を咲かせていた。
片や六甲や箱根を走って来た走り屋、片やそんな走り屋に憧れる走り屋志望の少年と来れば自然と話が弾むものである。
水希「そうなんだ。それじゃあ今日が大事な最初の一歩だったんだね」
光門「はい。こうやって、せっかく自分の車も持てる様になった事もあって、これからはこの地元の秋名で楽しく走って行けたらなと思ってまして、まずは地元のチーム、スピードスターズに会ってみようかと思ってます」
水希「へぇ、スピードスターズかぁ。確か昨日も来て、バトルしてたね」
光門「はい、そうなんです。そこに自分も父の車でギャラリーに来て見物させてもらったんです。そこで見たスピードスターズのライムグリーンのS13の人がカッコよかったから、自分もそんな人たちと肩を並べて走れたら良いなって……」
水希「それじゃあさ、もうすぐ頂上だし、駐車場に入ったらちょっと時間もらって良いかな?……スピードスターズに君のこと、紹介してあげるよ」
光門「え?良いんですか?」
ゆっくりと流すチェイサーの正面には駐車場に至るまでの最後のコーナーが見えていた。
走行車線上の轍をなぞる様に曲がると、ダウンヒルコースのスタート地点が2人の前に顔を覗かせた。
まだ幾分ギャラリーや走り屋たちの車両が残っているが、やはり出て行く車も多い。
自慢のフラットシックスを踏みしめるギャラリーと思しき白いBL型レガシィB4 3.0Rとすれ違いながら、水希のチェイサーは4速巡行の状態からから3速にシフトダウンしてゆっくりと、少しずつ車速を落としていく。
光門「おぉ、レガシィだ!」
水希「うひゃー、いい音してるねぇスバルのフラット6も」
そこでタイミングの良い事に、丁度スピードスターズの車の近くに陣取っていた一団が出て行こうと車を動かしているのを、水希がその視界に捉えたのだ。
駐車場の手前で3速から2速に、そして1速に落とした上でクラッチペダルとブレーキペダルを踏み、ギアをニュートラルに入れ一時停止。
水希はハイビームのパッシングを短く1回点灯させ合図を送り、駐車場の入り口で待機していた黒いBMW 325i、シルバーのゴルフⅣ GTI、黄色いメガーヌ2RS、赤いアルファロメオ155の外車軍団に道を譲った。
霊夢の操る後続の赤いS15シルビアと共にクリアになった入り口から入り、出て行った彼らの枠に向けて車を進めていく。
ファンタジアやスピードスターズの車両が止めてあるエリアに出来ていた空きスペースに向け、チェイサーとS15シルビアの2台がタイヤを転がす。
さらにその後ろから黒と青、2台の34GT-Rが入ってくるのがミラーから見えた。
魔理沙と秋永の2人だ。
今宵の秋名の峠を大いに沸き立たせたバトルを演じた4台で並べて駐車場に車を停めると、霊夢と水希はまずは同乗者である泊と光門を下ろした。
泊「ありがとう。いい経験になったよ」
霊夢「どういたしまして」
光門「今日はありがとうございました。新鮮な経験が出来ました」
水希「こちらこそ、今日は楽しかったよ。次会う時は、もっとかっこいいところ見せられる様に上手くなっておくから、期待してて。……それじゃあ、行こうか」
水希にはもう一つだけ、やる事があった。
開いていたチェイサーのドアを閉めて鍵をかける。
そして愛車の前からスピードスターズの一団に向き直り、光門を連れてそちらに足を運んでいく。
水希「君たち、秋名スピードスターズだよね?」
健二「……ん?そうだけど」
水希「えーっと……君がチームリーダーの、池谷さんであってたかな?」
池谷「あぁ、そうだよ。それで、どうかしたのかな?」
昨日はフリー走行で走る事についつい夢中になってしまいあまり話す事がなかった事と、その後にギャラリースポットに向けて移動してしまった事と、元々人の顔や名前を覚える事が苦手だった事もあり、あまり自信がなかったが合っていた事にまずは安堵する水希。
このスピードスターズの一団の中には、池谷や健二、滋や守を始めたメンバーたちと、イツキと拓海もそこに居た。
水希「実はさ、君たちのチームに入りたいって言う入団希望者の子がいるんだよね。その子を紹介しに」
池谷「え?」
イツキ「にゅ、入団希望者ぁぁぁ!?」
寝耳に水の話に、いつも通りぼやっとしてる拓海を除いて飛び上がるスピードスターズのメンバーたち。
人もまばらになりつつある夜の峠に、イツキの絶叫が響いた。
光門「……そう言う訳で、俺をスピードスターズに入れてくださいませんか?お願いします!池谷さん」
騒ぎ出したスピードスターズのメンバーを落ち着かせ、光門の口から直接事情を説明する。
昨日は父の車で峠に来てギャラリーをした事。
そこでスピードスターズたち、走り屋のバトルを観戦した事。
今日の昼から夕方頃にファンタジアのメンバーと知り合い、はたてから今夜のイベントの存在を聞いた事。
その後に父から初めての愛車であるランチアデルタを貰い、早速峠に向かった事。
登ってくる時に偶然水希のチェイサーと遭遇して軽く走った後に、様々な話を聞けた事。
今こうして、水希の厚意によってスピードスターズに繋いでもらえた事。
そして、自分もスピードスターズに入り、そこで腕を磨いて一人前の走り屋になりたい事。
全てを語り尽くして頭を下げる光門。
その溢れんばかりの熱意に押され、ついメンバー同士顔を見合わせるスピードスターズの面々。
同じシルビア乗りという事で池谷の方から声をかけた例外である翔一を除けば、他はいわゆる学生時代から先輩後輩として付き合いがあったり、山に来る様になった直後から知り合い、共に今まで走ってきた馴染みのメンバーであったりで、こうして誰かから入団を志願される様な経験が実は無かった。
池谷としては、気持ち的には嬉しいし特に拒む理由も個人的には無かったりするのだが……。
ここで池谷は一つの葛藤を抱えていた。
これまではこうした「馴染みのメンバーや同じシルビア乗りなんかとつるんで楽しく走れれば、基本的にはそれでいい」という同好会的スタンスでやって来たのが秋名スピードスターズというチームの実態であった。
今もそうした緩いスタイルであれば、こうして目の前に新規入団希望者が現れたとしても特に何の障害もなく喜んで受け入れるだろう。
だがそうしたエンジョイ勢的とも言えるスタンスも、今となっては既に過去の話だった。
今は赤城レッドサンズやファンタジアといった秋名外部のチームとそのメンバーたちからの刺激やアドバイスを受けて、秋名スピードスターズもまた本格的な走りのチームに生まれ変わる事を目的として、池谷以下全てのメンバーたちが練習にこれまで以上の熱量を傾けて臨んでいた。
そんな中で実力も人となりも分からない新しいメンバーを追加したとして、チームに悪影響は生じないだろうかとの考えが頭の中に浮かんでいた。
話を聞くところによると、光門は今日愛車となるランチアデルタを納車したばかり。
つまりは、光門の素性をまだ知らない池谷の視点から見るのならば、光門は新米も新米と思っても良かった。
そんなメンバーを抱え込んだとして、果たして上手くいくのだろうか?
彼はこれから先、チームに着いて来れるのだろうか?
そう言ったところは、池谷にとってみれば素直に気掛かりであった。
メンバー間で隔絶した実力やモチベーションの差があると、それぞれの僅かな立ち位置や価値観の違いから軋轢が生まれる事もあるだろうし、それが原因でチーム全体に不和が生まれるなどあってはならないこと。
本気で「走り」と向き合うと決めた以上、池谷としては自分の中途半端な決断でチームに不利益や悪影響を与える事だけは、絶対にしたく無かった。
それが、チームの頭を張る人間としての責任であると思っているからだ。
もちろん、池谷とて人間。
目の前の後輩に先輩風を吹かせたいと言う気持ちがうっすらとある事自体は否定出来ないが、その心の奥底にあるのはこれまでには無かった「秋名の走り屋としての確かな自負」であった。
故に、今後のチームの事を考えればこそ、ここで下手を打つわけにはいかなかった。
何の理由も無しに無碍にする事ももちろんダメだが、どんなメンバーでも無条件に受け入れてしまうのもまた良くない選択だという事は、池谷にも当然理解出来ていた。
そこで、池谷はある事を提案する事にしたのだ。
池谷「……君の熱意はよく分かったよ。うちのチームに入りたいって言ってくれるのは正直いってすげぇ嬉しいんだけどさ、うちは一応これでも本格的な走りのチームのつもりなんだ。……だからさ、一応入団試験みたいなのを受けて欲しいんだ。その結果をもって、判断したいと思っている」
光門「入団試験……」
翔一「ん?リーダー、ちょっと待ってくださいよ。入団試験とかって、俺の記憶が正しければ俺が入る時には無かったっすよね。どうして今回だけ?そもそも入団試験ったって、何するんです?」
そこで疑問を口にしたのは翔一だった。
自分がスピードスターズに入る時には行われた記憶のない入団試験とやらが気になったのだ。
水希「実力が気になるのは分かるけど、あんまりその辺は心配しなくてもいいんじゃない?昔からカートやってたみたいだし、結構スジいいからすぐ上手くなると思うよ」
それに水希が被せる。
健二「へぇ、カートの経験もあるのか……」
光門「はい。……優勝は出来ませんでしたけど、一応関東ジュニアカート選手権にも出てたりなんかして……」
四郎「ジュニアカード選手権!?」
翔一「マ、マジか!」
滋「思わぬ有望株がうちのチームに!?」
四郎「もう入団試験とか硬いこと言わないでこの場で正式加入で良いんじゃあ……」
光門「いえ、やらせて下さい。その入団試験」
そう四郎が言いかけるもそれに待ったをかけたのは他でも無い光門だった。
光門としてはどんなものが待ち構えているのか未知数なその試験をパスしてこそ、自分自身の成長もきっと期待出来るし、チームにも本当の意味で受け入れて貰えるのだろうと考えていた。
それに、これを乗り越えられない様ではこれから走り屋としてやっていく事は厳しいのではないかとの考えもあった。
今の光門は、真新しい相棒であるランチアデルタに相応しい乗り手になれる様に、そして走り屋としての第一目標として自分の前に立つ水希に追いつくために、心の内で静かにその闘志をメラメラと燃やしていた。
そんな光門の姿を、水希は一歩下がった位置から黙って見守っていた。
池谷「それじゃあ、今日はもう遅いからこの場では解散って事にするけど、そうだな……。明日か、明日が無理なら明後日の夜9時頃、この駐車場に来て貰ってもいいかな?」
光門「はい。明日の9時なら大丈夫です」
池谷「ならそう言うことでよろしく頼むよ」
これで光門の入団試験の日取りも決まり、これにて解散となった。
緊張感がほぐれて場の空気も緩むと共に、スピードスターズやそれ以外の走り屋たちも各々の帰路につこうとしていた。
色々とやっているうちに時刻は既に11時手前。
もう間も無く日付が変わる様な時間であった。
♪ Rage your dream / m.o.v.e
ゆっくりと走り去るギャラリーのECR33スカイラインを追いかける形で、スピードスターズの滋と守が帰っていく。
その後ろ姿を見送りながら、光門と水希の2人もしばしのお別れとなる。
水希「……決まったみたいだね。スピードスターズの入団試験……健闘を祈ってるよ、光門くん」
光門「はい、精一杯頑張ります。……頑張って、腕を磨いておきます」
水希「うん。期待してる。それじゃあ、またね」
光門「はい。またお会いしましょう」
そこで水希はお互いの再会を誓い合いながら、光門と別れて解散する事になった。
2人はそれぞれ無言のままにお互いの車に歩いて戻り、そしてエンジンをかけて駐車場を出ていった。
とは言え秋名の峠は殆ど一本道の様なもの。
その途中まではある程度は道を共にする事になる。
バトルを終えた愛車のチェイサーを労る様に走らせる水希のすぐ真後ろで、光門はそのテールを見守りながら走っていく。
前半2連ヘアピン、スケートリンク前ストレート、その後の左右にうねる複数のコーナーが特徴のS字区間、そして後半連続ヘアピンと、終盤の中高速コーナー区間。
あれだけ走り屋たちに牙を剥いていた難コースである秋名のダウンヒルも、普通の常識的な速度で走ればなんて事はない普通の道だ。
秋名の峠をゆっくりとした緩い流しのペースで降りきった2台は、ゴール地点である旅館の前を通り過ぎて伊香保の石段街の下に降りていく。
夜の帳が下りる街中を、付近の家の迷惑とならない様に回転数を抑えながら降って行った。
その内の交差点の一つで、ついにその瞬間は訪れた。
光門の目の前を走る水希のチェイサーが右ウィンカーを点灯させた後に、右折レーンへと入って行った。
2人に別れの時が訪れる。
自分たち以外に誰もいない赤信号の交差点。
直進レーンの光門と右折レーンの光門が並び合う。
2人は自然とお互いに視線をやり、窓越しに見つめ合う。
『バイバイ、またね』
赤い信号灯と街灯とが混ざり合う、この付近のこの時間にしてはそこそこ明るい街明かりに照らされた水希の口元が、そう動いた様な気がした。
彼女が軽く手を振る合図を送り、光門も同じく振り返すと、それを待っていたかの様に信号が青へと切り替わる。
軽くエンジンを吹かすと同時に右にステアリングを切って走り去る水希のチェイサーのテールランプを、あえてワンテンポ遅れて進み始めた光門は横目に見送る。
そして、心の中で静かに彼女の家路の無事を祈った。
群馬県の渋川榛名方面から神奈川方面への道はそれなりに長い。
距離にして約150キロ前後、途中に高速道路を使っても2時間から2時間半弱程度はかかる。
バトルで疲労したドライバーとマシンにはきっと堪える事だろう。
視線を前に戻した光門の耳に、中回転域手前でシフトアップして緩めに加速していく低音の効いた1Jエンジンのサウンドが響き、そして徐々に遠ざかっていく。
彼女のおかげで自分は走り屋の世界をほんの一部でも垣間見る事が出来たし、さらにスピードスターズにも紹介して貰い、走り屋としての一歩を踏み出すためのお膳立てまでしてくれた。
そんな彼女とのしばしの別れを惜しみつつ、光門は自らもゆっくりとアクセルを踏み締めて前へと車を進めていった。
2人の間に、どこかの映画の様にドラマチックな別れの言葉は無い。
だが言葉を交わす事はなくても、今その時その場所で、心だけは通じ合っていた様な気がした。
こうして、彼の長い長い1日が終わりを告げようとしていた。
● ● ● ●
時は少し遡り、一足先に帰った滋と守、そして水希と光門を見送ったスピードスターズの池谷、健二、翔一、四郎にイツキと拓海。
既にギャラリーは8割方は帰っており、高橋涼介も自身の追っかけを引き連れて帰り、ファンタジアも古明地さとり&こいし姉妹と妹紅が既に帰路についている。
そんな空間でしんみりとした空気を醸し出している池谷に、健二がはと問いかける。
健二「ところでさぁ、池谷……」
池谷「ん?どうした?健二」
健二「光門くんの入団試験って具体的に何するんだ?やるって言ったんだから、既に内容は決めてあるんだろ?そう言う事を前々から考えてたってんなら、本当は一声くらい掛けてくれたら相談に乗ったのにさぁ……」
翔一「そうですよ。水臭いですよリーダー」
池谷「あぁ、その事か。それは……」
小さく息を吐いた後に今度は溜め込む様に息を吸う池谷。
その場のメンバーたちの注目が一気に池谷に集まる。
池谷「それはな……」
みんなの視線が注がれる中、池谷は神妙な面持ちで目を瞑りながら、数秒の時間をおいてようやく口を開く。
池谷「実は……」
この場にいる誰かが唾を飲む音が聞こえた。
そして……。
池谷「……まだ、何も考えてないんだ」
一同『ズコッ!』
その場の全員がズッコケた。
イツキ「えぇ!」
健二「お前マジかよー!」
翔一「しっかりしてくれよリーダー……」
四郎「何だったんだよ今のタメは!」
健二「お前本当にその辺抜けてるよなぁ……」
走りに向き合うチームとして、新規メンバーを受け入れるべきか、受け入れざるべきか、それが問題だと考え込んではいた池谷だったが、肝心の試験の中身を考えていなかった。
拓海(そう言えば、さっきの光門って人、どこかで見た様な気がするんだよなぁ)
ブーブーとメンバーからの突っ込みやぼやきが池谷に向け飛び交う中、拓海はただ一人、そんな事を頭に浮かべるのだった。
何とも締まりのないスピードスターズのドタバタ劇の中で、秋名の夜はやかましく更けていったのだった。
作者のオリキャラ「大凪 水希」さんと、リクエストキャラ「水沢 光門」くんが秋名の麓の交差点で別れるシーン、実はとある名作映画のラストシーンのオマージュです。
ちなみに、近いうちにもう1人のリクエストキャラが追加されます。
ヒントは水希と同じ関西出身者で環状族という点です。
次回は冒頭部分にそのキャラと水希の絡みを入れる感じになるかと思います。
さらに今後数話(少なくとも今年中を目指したい)でもう1人か2人くらいは出演させられそうです。
そのうち1人は涼介との関係が示唆されているあのキャラ、もう1人は霊夢たち幻想郷の住人に縁のある人かも知れません。
さらに出来れば追加したいもう1人はスピードスターズのメカニック枠として収まるかも……?
大体今後搭乗予定のキャラはそんな感じです。
大まかなストーリーライン自体は決まっているのですが、執筆時間がそもそも長時間確保できないことと、既存のキャラの設定や他のキャラの設定のすり合わせのために、自分の作品を適時読み直しながらあれこれこねくり回す必要があるので、どうしても手間暇が掛かるんですよね。
なので今年も割と鈍足になってしまうかも知れません。
今後この小説に出てきて欲しい車をこの中から募ります。今回はハッチバック部門です。
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