東方頭文字D 〜 Lunatic Stage 〜 作:D-Ⅸ
光門と別れて少し経つ頃、水希は群馬県内某所のコンビニで小休止を取っていた。
少しの眠気を感じていたため、24時間営業の店舗を見つけてコーヒーを買い飲んでいたのだ。
するとそこに、どこか聞き慣れた音が登って来る。
付近の信号待ちからの発進加速だろうか、1速でゆっくりと高回転まで引っ張ってから2速に上げている。
その際に低回転から中回転域では低音が強かったサウンドが、高回転域では一気に切り替わって甲高い高音が出て来ていた。
恐らくはホンダのVTEC……B16エンジンだ。
水希は関西で免許を取りそこで数年間走り屋として過ごしたのちに神奈川に引っ越したため、西の聖地である表六甲や裏六甲の峠の走り屋や、環状族と呼ばれる阪神高速道路1号線環状線を周回する走り屋集団たちとも親交があった。
彼らの中ではホンダのCR-Xシリーズやシビックシリーズ、あるいはインテグラと言った車種が流行っていたためそれらの音には親しみがあった。
水希が音の聞こえる交差点の方へと視線を向けると、丁度曲がり角からその音の主が姿を現す。
FEEL’sのフルエアロを身に纏った白いEK9シビックタイプRだ。
どこか、関西での走り屋時代に環状族や六甲のみんなと共に可愛がっていた後輩の車を思わせるそれは、水希が居るコンビニに入って来る。
そのまま水希のチェイサーの隣に止めたかと思うと、そこから水希にとってまさかの人物が現れたのだった。
???「ナギ先輩!」
水希「あれ?宗ちゃん!」
まさかの後輩、前田宗一本人であった。
宗一「なんか見た事ある100チェあると思ったら……マジでナギ先輩やないっすか!……え?先輩が引っ越したのって神奈川ちゃいましたっけ?遥々群馬まで、今日はどないしたんすか?」
久しぶりの再会に興奮しつつも困惑も混じったかつての後輩の反応に、水希も懐かしさを感じて顔を綻ばせる。
水希「今日は群馬まで遠征にね。宗ちゃんこそどうしたの?」
宗一「自分も最近群馬に引っ越して来たんすよ。専門学校出てからしばらくは近所で職探して働いてたんやけど、そっちの方ではちょっと上司と折り合い付かんくて大変やったからやめてしもうたんすわ。……そんで、今は親父の紹介で群馬の叔父さんの工場で働いてとるんです。うちの工場は自動車メーカーやアフターパーツメーカーに卸す金属部品の加工とか金型の製造とかが仕事なんですよ。それを自前のトラックで他の工場に輸送したりなんかも……」
水希「へぇ……前から自動車に関わる仕事したいって言ってたもんね」
宗一「はい。もう天職っす。これ以上に楽しくてやりがいのある仕事他にないやろって思うてますよ。それに家に居候させてもろてるのにそこのガレージまで使うてええっていってくれはって、もう叔父さんには頭上がらんすわ。……それに関東は走りのスポットも多いんで、色々盛り上がってるらしいやないっすか。それもあって、関西で鍛えた走りを試すチャンスの場としてもちょうどええって事で、親父から譲って貰ったシビックをベースに近頃は色々試してるところやったんです。まぁ、最近はちょっ心機一転って事で、自分のマシンのメンテやリフレッシュであんまり山行けてないんやけど……。もうぼちぼちパワーアップして復活させられそうなところまで持って行けて、今日はその試運転なんすよ。いやー……それにしても世の中、奇妙なめぐりあわせもあるもんやなぁ……」
水希「だよねぇ……。でもこうしてまた会えてよかったよ」
屈託のない笑顔で近況を話す後輩の姿に、水希も内心胸を撫で下ろす。
こうして無事に、そして元気にやれている様子を見られると何よりもホッとする。
そして話は水希の遠征の件に移る。
宗一「ところで、先輩はさっき遠征でここ来た言うてはりましたけど、今日はどこ走って来たんすか?やっぱりここから近い秋名っすか?」
水希「うん。そうだよ」
宗一「一応、俺も今ではそこが地元なんすよ」
水希「そうなんだ。あそこ、良いコースだよね」
宗一「峠は峠でも、六甲や裏六甲とはまた違った良さがあって……。ただ、最近ちょっと自分の車の事で忙しくて顔出せてへんけど……あ、そういえば地元のハチロクが近頃は無敗で破竹の勢いやったあの高橋啓介に黒星付けたとか何とかって噂話は先週頃に知り合いから聞いたんやけど……。先輩もそのハチロクを目当てに来たんですか?」
水希「いや、そのハチロクも気にならない訳じゃないけど、私の本命は同じ女走り屋のチームの方だよ。長期遠征とか言って、最近この辺で結構ブイブイ言わせてるって話じゃない?」
宗一「あー、そういえばそんな話も聞いたわ。で、その走り屋たちとバトルしたって感じなんですか?」
水希「そうそう。そのチームに所属してるS15乗りの博麗霊夢って子とダウンヒルでバトルしたんだけどね……」
宗一「へぇ、下りで……まぁ結果は察しがつきますよ。先輩が負けるとこなんか猛者揃いの六甲でも殆ど見たことあらへ……」
水希「ボロ負けしちゃった」
宗一「えぇ!?嘘やろ!せ、先輩が負けた!?」
目を見開いて若干オーバー気味なリアクションで驚いて見せる宗一。
水希「ホントよホント。良い様に手玉に取られてまるで歯が立たなかったよ。いっそ気持ちいいくらいの完敗ってやつ」
宗一「ほ、ほんまかいな」
水希「もちろん相手が私みたいなハイパワー車を相手に戦い慣れてる感じはあったし、テクニックも箱根や六甲でも上位……いや、トップに食い込む程のものがあったわ。走りの聖地って呼ばれるようなハイレベルな峠でも生き残れる超一流の域にある。でもそれだけじゃない。私自身にもその場の判断や全体的な戦略の構築、そしてメンタル面のコントロールなんかの色々な面でのミスがあった。つい熱くなりすぎちゃって冷静な判断ができてなかった。……あれは必然の負けって奴ね。全然歯が立たなかったよ……」
宗一「そんなに」
まさかの「ボロ負けした」と言う結果に飛び上がって驚く宗一。
宗一の記憶にある限り、六甲にも何人かいた女性の走り屋の中でも水希は他の追随を許さないダントツの最速で、走り屋全体で見ても上位に食い込み「並の男では相手にもならない」とすら言われたほどの実力者として知られていた。
彼女が神奈川エリアに引っ越す前のラストランで打ち立てた表六甲ヒルクライムの二駆最速タイム、ダウンヒルFR最速タイム、裏六甲ヒルクライムトヨタ車最速タイム、ダウンヒルの国産車最速タイムは少なくとも自分が群馬に来る前においては破られていなかった。
さらに水希は環状線でも環状族に混じって走っており、コースレコードこそ持っていないものの、そこでもビビるほど速い腕利き揃いのチューンドシビック軍団に混じって上位に食い込む速さを誇っていて、他の環状族の先輩たちと共にパトカーを撒ききった事すらあったほど。
そんな猛者揃いの関西の聖地で名を挙げていた折り紙つきの実力を持つ彼女が、今度は東の聖地である箱根で腕を磨いているというのに、よその山とは言えボロ負けしたと言うのは、宗一からすれば大変な事だった。
しかも本人曰く、完敗らしい。
そんな先輩を撃破するヤバい女走り屋が秋名にいつの間にやらやって来たのかと思うと、ただただ戦慄するばかりの宗一であった。
しかし、手元で飲みかけの缶コーヒーの缶をチャパチャパと弄びながらそれを語る水希の表情は、どこかすっきりとした表情だった。
宗一「それにしても、久しぶりに見たかったなぁ……先輩の走り」
水希「ごめんね、まさか群馬に引っ越してるとは思わなくて……今度群馬に行く時は忘れずに連絡するよ。その時は応援頼むね」
宗一「はい。次はよろしくお願いしますよ、先輩」
水希「あ、最後に一つだけ、お願いしたい事があるんだけどいいかな?」
宗一「もちろんええですよ。俺に出来る事やったら何でも言うて下さいよ」
久々に尊敬する先輩と再会した事、そしてその先輩からの頼み事と聞いて少しばかりテンションの上がる宗一。
水希「今日、秋名で知り合った子……ランチアデルタに乗ってる水沢君って言う子なんだけど、その子が秋名で走り屋したいんだってさ。一応、地元秋名じゃ一番大きいチームらしいスピードスターズには繋いであげたけど」
宗一「スピードスターズって言うと、健二と浩一郎のチームやな。まぁ、あそこなら新米一人任せても大丈夫やろ。悪い奴らやないし、腕もこの辺やったら上澄みや」
それを聞いて水希は一安心といった具合で胸をなでおろす。
昨日今日とみてきて大丈夫そうだと思ったからスピードスターズに繋いだのだが、第三者の口からそう言って貰えるとより安心感が増すというものである。
水希「もしかして知り合い?だったら話は早いね。もし山で会ったら少しだけ気にかけてあげて。先輩走り屋としてよろしくね」
宗一「それくらいやったら全然ええですよ。先輩の頼みやし、山に新顔が来るんは元より大歓迎や」
水希「それじゃあまたね、宗ちゃん。……久しぶりに会えて、嬉しかった」
宗一「俺もですよ先輩」
水希「次会った時は一緒に走ろうね!約束だよ!」
宗一「はい、ナギ先輩!」
水希は最後の一口の缶コーヒーを飲み干すとチェイサーの運転席に体を滑り込ませると「ブォン!」と景気よくエンジンを始動させて走り出す。
コンビニの駐車場から出る前に窓を開けてひらひらと手を振る水希に宗一も振り替えして応えた。
宗一「何や……秋名も面白くなってきたやないか。車仕上げて俺もぼちぼち、峠に戻るか」
彼のそのつぶやきに応じる者はない。
夏のぬるい夜風がその声を乗せて闇に消えていった。
一方、神奈川に向かって深夜の関越自動車道を走るチェイサーの車内で、水希も一人感慨に耽っていた。
水希(結果としては不本意だったけど、全力を振り絞ってその上で負けたんだから後悔はない。それに、新人君のためにもやれるだけの事は可能な限りしてあげたつもりだし、秋名でやり残した事は無いかな)
スピードメーターの数字を80キロに固定したまま、彼女は夜を走っていく。
低く唸るような1Jエンジンのサウンドが南の空に溶けていった。
鶴ヶ島経由で藤沢方面に向かい、そこで降りて下道をたどって自宅に帰り、ベッドの上に身を投げた。
水希(いい土産も、土産話も手に入ったし。……きっとみんな喜ぶだろうなぁ、苗ちゃんも灯里も稲穂も、それに時雨ちゃんやナビ子ちゃんにも、早くみんなに届けてあげなきゃ。……でも、それよりまずはタイヤの組み換えと、あとは仕事かな)
緊張から解き放たれた彼女の意識を徐々に睡魔が支配していく。
充実した一日を駆け抜けたことによる満足感を噛みしめながら水希は眠りに落ちていった。
こうして彼女の長い長い一日は、ようやく終わりを迎えたのだった。
● ● ● ●
翌日、群馬県渋川市某所のガソリンスタンドにて。
イツキ「へへっ……今日が納車だったんですよ」
健二「すげぇ!きれいなレビンじゃん!いくらしたんだコレ!結構高かったんじゃねぇかぁ?イツキ」
いつものように駄弁りに朝一の時間帯からガソリンスタンドに訪れた健二の前には一台のピカピカに磨かれたレビンと、ドヤ顔でその傍らに立つイツキの姿があった。
イツキ「それがかなり良心的な店で、ちょっと走行距離は長かったんですけどその割には程度が良くて、書類一式と今年の冬までの車検が付いた車を国産新品タイヤ付きで安く買えたんですよ」
池谷「おぉ!マジか!そりゃあ結構いい買い物したんじゃないか?イツキ」
健二「すんげぇ掘り出し物かも知んねぇぞ。まさか事故車じゃねぇだろうな」
イツキ「それが、ちゃんと歴無しの個体なんですよ」
拓海「びっくりした……本当に買っちゃったのかよイツキ」
茂木なつきとのいつかのデートの時に何か欲しいものを問われた時に「いつか自分の車が欲しい」「自分のお金で、自分だけのマイカーを買いたい」という願望をこぼした拓海としては、イツキに先を越されてしまった事で多少なりとも意識せざるを得なかった。
イツキ「当然だろ拓海ぃ!これ以上お前に差を付けさせる訳にはいかねぇからな!今日から下り最速のハチロクコンビを俺は目指すぜ!お前のトレノも良いけどさ、ハチロクといえばやっぱりレビンだぜ!くぅー!」
拓海「は、はぁ……テンションたけぇ」
イツキ「俺、嬉しくて嬉しくて昨日の夜は全然眠れなかったんだよな実は……興奮しっぱなしで、多分今夜もまともに寝れないかもしれないよぉ……」
納車直後特有のハイテンションに任せて饒舌にしゃべり倒すイツキに圧倒される拓海。
だがそのイツキの様子を懐かしそうに見る池谷。
池谷「分かる……分かるぜ、その気持ち。俺もS13が納車される前の夜は寝れなかったよ」
イツキ「そうですよねぇ、なんと言ってもマイカーですよマイカー!こうしていても、夢みたいだよ俺……」
そう言いながら、うっとりとした表情で愛車となったレビンのルーフをスリスリと撫でるイツキ。
池谷「13インチの純正ホイールに、155幅に70扁平の新品国産エコタイヤが泣かせるぜ」
健二「なぁ、ちょっとエンジン掛けてみろよイツキ」
イツキは「いいですよ」と言いながらドアを開けて運転席に半身を入れて、イグニッションを回す。
セルモーターの回るキュルキュルキュッキュという音の後に「ブェン」と音を立ててエンジンが回りだす。
ビュルビュルという間の抜けたアイドリング音に、黙って様子を見守っていた店長の祐一も含めて何とも言えない微妙な空気間が周囲を支配する。
池谷「あれ?なんか冴えねぇ音だな」
健二「マフラーノーマルだとこんなモンなのかな、4AGって」
イツキ「手始めにマフラーだけは変えねぇとなぁ!早く俺も拓海んちのトレノみたいにいい音出して走りたいよぉ!」
祐一(うーん、なんかおかしいなぁ……変な違和感を感じるんだよな)
そんな空間を塗りつぶす様に、赤いボディのS15シルビアがSR20のサウンドと共にガソリンスタンドに入ってくる。
ファンタジアのトップエース、博麗霊夢だ。
イツキ「お!あのシルビア!」
池谷「ファンタジアの霊夢ちゃんか」
健二「相変わらず良い車乗ってるよなぁ」
給油機の前に車を止めると中から出てきた霊夢は池谷たちのところに歩いてくる。
池谷・祐一「いらっしゃいませ!」
霊夢「ハイオク満タンで」
祐一「かしこまりました!」
池谷と祐一が対応する。
祐一が給油に向かう姿を見届けると、霊夢はアイドリングを続ける目の前のレビンに視線を向け、そして場の空気を凍らせるある一言を放つ。
霊夢「綺麗なハチゴーじゃない。どうしたの、これ。随分懐かしい車ね」
ハチゴー、というフレーズに池谷と健二がようやくその違和感の正体に気付く。
一方でイツキと拓海は何が何だかわからないといった表情で固まっていた。
イツキ「え?……は、はちごー?」
池谷「ハチゴーってまさか……」
健二「もしかして、AE85の事かぁ?」
AE85とは、スプリンタートレノ&カローラレビンの中にラインナップされていたモデルのうちの一つである。
AE86が当時としては革新的な1.6リッター4バルブDOHCの4A-GEUエンジンを搭載していて最大130PS(実測値では約100PS~110PS程度)を発揮していたのに対し、AE85は1.5リッターSOHCの3A-Uエンジンを搭載していてその出力はカタログ値では85PSとあるものの実測値ではなんと70PSあれば頑張った方と言われるレベルの車である。
そのシングルカムの3A-Uエンジンは、非力ながらもよく回るツインカムの4A-GEUエンジンとは似ても似つかない非力っぷりで、回らないわフケも悪いわサウンドも4A-GEUほど良くもないわでその評価は散々。
ハチロクがテンロクのNAにしてはそれなりにパワーがあり車重も軽く中古も安いFRとして走り屋たちの入門車的な用途でそれなり以上の人気を博していて、文太を始めとした一部の玄人やコアなカーマニアたちからもその高回転型の気持ちのいいエンジンフィールと軽量ゆえの運動性の良さを評価され現在でも愛用されている一方で、ハチゴーは同じボディを持ちながらもあまりに非力すぎて見向きもされず、挙句の果てには「おっちゃん車」呼ばわりされるような超絶不人気車として不遇の扱いを受けていた。
イツキ「あ……そ、そう言えば俺……レビンって部分にだけこだわってて、ハチロクとは言ってなかったかも知れないや」
池谷「イツキ、もしかして買う車を間違えて……」
そこまで言ったところで池谷と健二が目を伏せて、肩を震わせこみ上げる何かをこらえる。
しかし次の瞬間には靴から声が漏れるほどになっていた。
池谷「く……く……」
健二「ぷぷ……」
池谷・健二「ぶわーはっはっはっはっはっはっは!!あっはははははははは!」
そしてダムが決壊するように吹き出した。
池谷「よりにもよってハチゴーなんか見つけて来るなよ……」
健二「だよなぁ、今どきハチゴーなんか探そうと思ったって中々あるもんじゃないぞ!希少価値だぞ!」
ゲラゲラと笑う池谷と健二をよそに、間違った車を買ってしまった事に気付いたイツキの表情はどんどんと悪くなっていく。
つい数秒前の池谷と健二の様に顔を伏せて肩を震わせるが、イツキの中にこみ上げてくるのは笑いではなく涙だった。
イツキ「くっ……!」
耐えられなくなりスタンドの端に向かって駆け出していくイツキ。
拓海「あっ!待てよイツキ!」
拓海もそれを追いかけて走り出していった。
霊夢「いくらなんでも笑いすぎよ、あんたたち」
祐一「そうだぞ、イツキの身にもなってみろ」
給油作業を終えて戻ってきた祐一と霊夢が二人を窘める。
池谷「す、すまん……イツキ」
健二「池谷が最初に笑うから俺まで」
霊夢「口答えしない!」
健二「すんません」
しばらくすると、拓海が宥めた事もありショックから立ち直って戻ってきたイツキに、祐一と霊夢が笑っていたバカ二人を謝罪させるという一幕があったものの当初の微妙な空気は霧散しいつも通りの雰囲気が戻ってきていた。
霊夢「まぁ、なんだっていいじゃない。ハチゴーだって腕次第で下りじゃそこそこやれるんだし、4AGだって後から載せ替えようと思えば載せ替えられる。その辺は後からどうにでもできるんだから。もう少し気楽に考えなさい」
拓海「後からエンジン変えられるならまたお金貯めて俺のと同じエンジンのせたらいいじゃん。そしたらもうハチゴーでもハチロクみたいなもんだろう」
イツキ「拓海……霊夢ちゃん……そうだよな、そう考えたら少し気が楽になったよ。それに、このハチゴーの事、ちょっと好きになれそうな気がしてきた。どうせ俺、まだヘタっぴなんだしさ、あんまり馬力が大きすぎても何かやらかした時が怖いよな。それまではこのエンジンで頑張ってみるよ」
霊夢「頑張りなさい。私だってこのハチゴーで練習したんだから」
イツキ「え?霊夢ちゃんが前に乗ってたレビンってハチロクじゃなくてハチゴーだったの!?」
池谷「マジかよ!ハチゴーが霊夢ちゃんの元愛車ぁ!?」
健二「だからさっき一人だけ笑ってなかったのか……」
その後、今晩さっそくスピードスターズに交じって練習しようかと話したところで立て続けに来客がありその場は自然とお開きとなった。
● ● ● ●
その晩の県内某所のファミレスにて。
そこにはいつもの如く秋名スピードスターズの面々が屯していた。
午前のやらかしの事もあってその空気はまるで反省会の様な雰囲気であったが
テーブルには食べ終わったパスタやドリアの皿が人数分置いてありそれなりに時間が経っている事が伺えた。
池谷「……と、まぁそう言う事があったんだよ。今朝」
四郎「なるほどなぁ」
健二「ちょっとイツキと霊夢ちゃんには悪い事しちゃったよ」
池谷「ホントになぁ……つい堪えきれなくて大笑いしちゃったんだけど。あれはちょっと無かったよなぁ」
健二「今度罪滅ぼしになんかしてやるか」
健二がドリンクバーのコーラをのどに流し込みながらそう溢した。
翔一「じゃあ、それならこんなのはどうだろう?今度適当な解体屋から4AG引っ張って来て、それをイツキ君のハチゴーレビンに乗せてやるんだよ」
四郎「それならハチゴーのボディも無駄にはならないしハチゴー改ハチロクになるから本来ほしかったハチロクレビンに近い形にできるだろ?」
池谷「お、いいなそれ。確か霊夢ちゃんと拓海の奴も似たような事を言ってたよ」
健二「そうだな、あいつがもう少し上手くなったらそのお祝いって事でどうかな」
池谷「でも解体屋とかから引っ張ってくるって言っても、そう都合よく程度良しの出物が見つかるかなぁ?」
四郎「だったらファンタジアのにとりちゃん辺りに、心当たりないか聞いてみたらどうかな?」
健二「確かチームのメカニックとかって話だったしAE86の7AGエンジンスワップの実績もあるし、もしかしたらその辺の事情には詳しかったりするんじゃないかな?」
池谷「そういえば、そんな話もあったっけ。それじゃあ今度聞いてみようか」
健二「よっしゃ!それで決まりだな。……じゃあ、もうそろそろいい時間だし俺たちも山に上がるか」
池谷「あぁ、今日は例の子の入団試験もあるからな。気合い入れていくか」
健二「山の駐車場に着くまでにちゃんと入団試験の内容を考えとけよ、池谷ぃ」
池谷「分かってるって!」
こうして各々の会計を済ませて車に乗り込み、いつもの様に秋名山に向かって車を走らせ登っていく。
だが現在山頂では練習のために一足先に山に登って行ったイツキや、スピードスターズの入団希望である光門を巻き込んでちょっとした事件が起きようとしていた。
しかし、そんな事など池谷たちは知る由もないのだった。
後書き
ちなみに以前もチラッと触れましたが、AE86のカタログ馬力の130馬力というのはあくまでエンジン単体の出力で、駆動ロスなどのもろもろは全て無視した数値です。
なので「10年以上」という作中の経年や個体差を考慮に入れると、ノーマル個体では実測値としてざっくり100~110馬力くらい出ていればいい方であるので、拓海のハチロクの150馬力未満という推定出力は実際かなり頑張ってチューンしている方ではあるんですよね。
それでもまだまだ作中のスポーツカーたちの中では下から数えたほうが早いです。
それを考えるとそんなハチロクの半分ほどしか出ていないというイツキのハチゴーがどれほど非力な存在なのかというのが際立ちます。
そしてイツキ君にはこれから山あり谷ありいろいろと経験してもらいます。
今後この小説に出てきて欲しい車をこの中から募ります。今回はセダン部門です。
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