東方頭文字D 〜 Lunatic Stage 〜   作:D-Ⅸ

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皆さんお待たせしました。
ついにチンピラとのバトルシーンです。

今回も最後の方にアンケートを設置しています。


第38話 激走!絆とチームワーク(前編)

午後8時過ぎの秋名山。

そこには数台の走り屋たちの車がまばらにあった。

ひとっ走り終えた守のA170ランサーEXに滋のKP61スターレット、隆春のS12シルビアのスピードスターズ組、一足早く秋名に上ってきた光門のランチアデルタに霊夢のS15とはたてのST205セリカGT-FOUR、妹紅のランエボⅥTME、にとりのハチロクトレノ、椛のS14シルビア後期などのファンタジア組、その他のギャラリーの車やほかの地元ナンバーの走り屋がちらほらといる程度だ。

 

そこに1台の車が上がってくる。

拓海を横乗りさせたイツキのAE85カローラレビンだ。

そのハチゴーはスピードスターズのランサーEXとスターレットの2台と、光門のランチアデルタとはたてのセリカと妹紅のエボの3台の間にある2台分のスペースのスピードスターズ寄りの枠に車を止める。

 

イツキ「くぅー!やっぱり峠は楽しいよ!登りだからスピードは出なかったけど、それでもコーナーはちょっとはサマになってただろ!」

 

拓海「まぁな」

 

アイドリングさせたままの車から元気よく降りるや否や、ハイテンションでしゃべり倒すイツキに気だるそうに生返事を返す拓海だったが、内心は少しヒヤリとしていた様だった。

 

拓海(正直、横に乗って見てるこっちとしてはちょっと怖かったんだけどな)

 

そんな二人の元に、守や妹紅たちがぞろぞろとやってくる。

イツキのレビンを見に来たのだ。

 

妹紅「お、来た来た。本当に買ったんだな」

 

光門「わぁ!ハチゴーレビンだ!コーティング効いててピッカピカじゃないか!」

 

はたて「レビン買ったんだね。納車おめでとう、イツキ君!」

 

守「おぉ!ハチゴーだ!」

 

滋「池谷が言ってたのマジだったんだな」

 

にとり「霊夢から聞いたよ!綺麗なハチゴーじゃん!」

 

寄ってくるみんなの様子を見るが、午前の時の様に笑われる事なく受け入れてくれた事に何より安堵するイツキ。

友人が、仲間が車を買ったとくればやることは一つ。

みんなで車を並べてそれを囲んであれやこれやと語るのが車好きという生き物だ。

にとりがすかさずハイメタルツートンの自分のハチロクに飛び込んでエンジンをかけて動かし、イツキのレビンの隣の枠に止めて並べると、そこには走り屋たちの大きな一団が形成される。

 

イツキ「へへ……へへへ……」

 

拓海「なんだよ。どうしたんだよイツキ」

 

イツキ「こうして少し引いたところから眺めてみるとさ、やっぱりかっこいいよレビンは……なんてかっこいいんだ俺のレビン!買ってよかった俺のレビン!」

 

拓海「元気なもんだぜ」

 

イツキ「妬くなよ妬くなよ。こればっかりはオーナーになってみないと分からないよ拓海君!」

 

拓海「朝はあんなに落ち込んでたくせに」

 

イツキ「それはそれ、これはこれだよ。……それにこうやってみんなで車並べてさ、その中に自分の車があるってのはやっぱりたまんないよ」

 

守「走り屋同士で車を並べるのって、それだけで特別な気分になれるよな」

 

はたて「そうね。チームの仲間とも、それ以外の人とも並べる事もあるけど不思議な一体感みたいなものを感じるのよね」

 

隆春「そこはほら……やっぱり同じ趣味の人同士って所もあるんじゃないかな。走り屋である以前に同じ車好きな訳だからさ」

 

滋「今日は特に真ん中の2台……ハチゴーレビンとランチアデルタが際立ってるよな。二人とも納車したばっかだしピッカピカだよ」

 

にとり「だよねぇ。……丁寧に乗られたフルノーマルのレビンも良いけど結構足を作りこんでそうなチューン済みのデルタもいいね」

 

妹紅「確か光門のデルタは昨日が納車だったか」

 

にとり「イツキくんのは今日だから……」

 

椛「なら1日違いだね」

 

光門「そうだね」

 

隆春「新米同士、仲良くやりなよ。二人とも」

 

そんなことを話していると2台の車が秋名の峠を駆け上がってくる。

シルバーのV36型スカイライン370GTタイプSPと白いBMWのE60型M5だ。

かなり新しい大柄なハイパワー車の2台はイツキたちの一団の近くに止める。

その中から出てきたのは人相の悪い3人の男だった。

 

東京の走り屋1「ここが秋名か。なぁ桂木。確か白黒のパンダトレノだって言ったよな、型遅れとは言えGT-Rを千切ったって噂の例のハチロクは」

 

東京の走り屋2(桂木)「聞いた話によると、そうだな。それらしいのは居そうか?塚崎」

 

こげ茶色の前髪を左右に分けたスカイラインの運転席から出てきた男が確認を取る意図でそう問うと、スカイラインの助手席から出てきた黒髪短髪の男は煙草に火を付けながらそれを肯定した。

 

東京の走り屋3(塚崎)「いや、見た感じそれっぽいのはいねぇな。どうする?多田」

 

そしてM5から降りてきた黒髪をストレートに肩まで伸ばした男がそう答える。

 

東京の走り屋1(多田)「ちょっくらその辺の奴に聞いてみるか」

 

桂木「あの辺の集まり、車のナンバーからしてほとんど地元だろ」

 

そう言うと、3人はスピードスターズやファンタジアの集まりに向かって足を運んで行った。

 

 

 

桂木「なぁ、お前らちょっといいか?」

 

光門「はい?」

 

イツキのレビンを中心に話し合っていたところ、唐突に声をかけられたので振り向く一同。

 

多田「お前ら地元だろ?」

 

イツキ「そ、そうですけど」

 

多田「俺らこのあたりで有名なハチロク見に来たんだけど知ってるか?妙義の……確か32のGT-Rをぶっちぎったって噂のパンダトレノの奴らしいんだが」

 

守「あぁ、まぁ……」

 

隆春「知ってることには知ってるけど……」

 

イツキ「今日は、来ないと思いますよ……多分」

 

話題のハチロクの正体と事情を知るスピードスターズの面々は拓海の方をチラリと見ながらバツの悪そうな受け答えをしてしまう。

何を隠そう秋名の峠を牽引してその名を群馬に轟かせる『秋名のハチロク』のドライバーは目の前にいる藤原拓海その人なのだが、イツキの横乗りで登ってきており今日に限っては肝心のハチロクがこの場にない。

だがそんな事など露知らず、その男たちは退屈そうに吐き捨てる。

 

桂木「ちぇ……つまんねーの。せっかく見に来たってのに」

 

塚崎「あぁ、そいつにバトル仕掛けて軽く千切って、ここいらで名を挙げてやろうと思ってたのに期待外れだぜ」

 

桂木「東京からわざわざこんな田舎くんだりまで来てやったってのに損したぜ」

 

妹紅「もしかしてあんたらも秋名のハチロクに挑戦しに来たクチか?」

 

多田「あぁ、そうだぜ嬢ちゃん」

 

桂木「だが肝心のハチロクが来ねぇんじゃあ意味がねぇ。……ったく拍子抜けだぜ」

 

多田「ところでよ、おめーら幾つだよ。特にそこのガキ3人」

 

そう言って男はこの中でも特に若い拓海とイツキと光門の3人を、その高圧的な態度をまるで隠す事なく見下ろした。

この辺りから何やら雲行きが怪しくなってくる。

 

塚崎「もし無免だったら勘弁しねぇぞ」

 

拓海(なんだこいつら偉そうに。……いきなりそんなこと聞いて何のつもりだよ)

 

椛「それなら心配しなくていいよ。ここにいるのは全員免許持ちだから」

 

ここで椛が3人をかばうが、その東京から来たというガラの悪い男たちはその不遜な態度を崩す事は無い。

 

塚崎「ならいいんだけどよぉ……」

 

多田「ただしおめぇらにひとつ言っておくけどな、一丁前に車並べて走り屋気取るのは構わねぇがな、あんまりダセェのは勘弁してくれや」

 

そう言って男がジロジロと見ているのはイツキのハチゴーだ。

 

多田「特にコレだよコレ。誰のだか知らねぇがなんだこのジジィが乗ってそうなふざけたレビンはよぉ」

 

桂木「このダッサダサの純正ホイールになんだよコレ。ダンロップとは言えエコタイヤじゃねぇか。車が貧弱なんだから精々タイヤにくらい金かけろよな」

 

多田「13インチの70扁平の純正サイズたぁショボいなんてもんじゃねぇよ涙が出るぜ。ハチロクならせめて走るも魅せるも14か15インチくらいないとなぁ。インチアップした社外のホイールに変えるのなんかカスタムの基本中の基本だぜ。あとツラも引っ込みすぎだ。金がなくてホイール変えんのが無理ならスペーサーかませてツラ出せよ」

 

ガラの悪い男たちのうちの一人がタイヤハウスの中をしゃがんでのぞき込むと呆れたように吐き捨てる。

 

塚崎「はぁ?しかもやけに車高が高いと思ったら足も純正じゃねぇか。マジで弄る金もねぇのか?せめてダウンサスなり中古の車高調なり買って下げろよなぁ、見すぼらしいったらないぜ」

 

多田「それによくよく見てみりゃこのレビンだけじゃねぇ。他の車もアレなのばっかじゃねぇか。そこのランエボとシルビアなんかはまだ良いが、そこにずらっと並んでるサビ臭い骨董品どもは何だよオイ」

 

そう言って指をさすのは光門のデルタとスピードスターズの車たちだ。

ここから調子に乗った男たちが好き勝手にしゃべっていく。

 

塚崎「コイツはデルタか?ランチアなんかエボやインプに駆逐された程度のパッとしねぇ車だろ?WRCオタクだか何だか知らねぇが、他にいい車なんかいっぱいあるだろうに、わざわざ大枚はたいて買う車がお高く止まったイタ車とはねぇ。……でもイタ車ならイタ車で他にはフェラーリにランボにマセラティに、アルファロメオもあるな。選択肢は山ほどあるのによりにもよってランチアはねぇよランチアは。これなら安いランエボだかインプでも買った方がよっぽど楽しいぜ」

 

光門(さっきからなんだよこいつら、失礼だな。人が何に乗ろうが勝手だろうが)

 

ストレートの男があからさまに馬鹿にしたような態度でデルタをこき下ろしたかと思えば……。

 

桂木「今どきEP82でも古いって言われんのによりにもよってKP61かよ。貧弱なボディに非力なエンジン、精々FRである事くらいしか取り柄なんかねぇじゃんか。いくら軽いといってもさぁ、結局ボディとエンジンの性能がゴミだったら何の意味もないんだぜ。こんなの乗るくらいだったらまだアルトワークスとかの方が速いんじゃねぇの?」

 

滋(非力な事くらい分かってるんだ。余計なお世話だぜ)

 

煙草を咥えた黒髪短髪の男が嘲る様な態度を隠そうともせず滋のスターレットを貶し……。

 

多田「こっちのランタボも大概だぜ。あっちにあるエボⅥのTMEほどとは言わねぇがせめてランエボのどれかくらい買えねぇのかよ。エボⅡとかエボⅢとか、第一世代のランエボはもう相場も十二分にこなれてんだろ。そんな今の時代にランタボはねぇよなぁ……。こいつはランエボとは似ても似つかないテンパチターボの130馬力のFRだ。スペック的に貧弱だし時代遅れもいいところだぜ。排気量が200も上でターボまで付いてんのにテンロクNAの4AGとほぼ互角ってのが情けなさ過ぎて泣けるよなぁ。フェンダーミラーも年寄り臭くて見てられねぇよ。加齢臭がする」

 

守(こいつ……人が気にしてるところをズケズケと……)

 

こげ茶色の髪を左右に分けた男が守のランタボを鼻で笑い……。

 

多田「見ろよコレ、S12だぜ。S13でも骨董品呼ばわりされるこの時代にS12とか何のギャグのつもりだよ」

 

桂木「こんなポンコツ近頃見ないぜ。S13が骨董品ならこいつは化石だよな」

 

塚崎「それにこのボンネットダクトの下品さと言ったらねぇよな。で、最上位グレードのツインカムターボRS-Xとか御大層な名前持ってても、中身は150馬力もねぇポンコツだぜ。俺のM5の3分の1以下だ」

 

多田「カスだよカス。マジで名前負けもいいところだよなぁ」

 

椛「あのさぁ君たち、いくらなんでもそんな酷い言い方する事ないんじゃないか?」

 

多田「酷いも何も事実を言ったまでだぜ。今のご時世にこんなカビの生えた様な骨董品どもによく乗れるぜ」

 

今度は見るに見かねた椛が軽く窘めるがそんなものなどどこ吹く風。

男たちの小馬鹿にした様な態度は一向に変わる気配もない。

隆春のS12シルビアを罵ったら今度は一周回って再びイツキのレビンと隣にあるにとりのトレノにもその矛先は向かっていく。

 

多田「それにしても辛気臭い車ばっかりだよおめぇら」

 

桂木「ガキの癖に昭和に魂置いてきたのか?」

 

塚崎「昔流行ったハチロクのレビトレも、ピンゾロ(AE111)がある今となっちゃあ型落ちの型落ちの更に型落ち。ボロもいいところだよ」

 

多田「そんなのに負けるんだから、妙義のGT-Rも案外大したもんじゃねぇのかもな」

 

塚崎「あぁ、だよなぁ。まともな腕してたらそんなハンデマッチ落としようがないぜ。車の性能的に、負ける理由がねぇもんな」

 

多田「そんじゃあ、次の標的は妙義にすっか?」

 

桂木「そうだな。そうするか。……それにしても、さっきのS12シルビアと言いこのシルバーツートンのハチロクトレノと言い、俺にはリトラの何がいいのかさっぱり分からねぇな」

 

多田「あぁ、全くだ。こんなのただの空気抵抗だよな。重いし部品点数も多いから作るのも直すのもとにかく金がかかるし、メリットゼロだぜ。所詮は古い時代の遺物と言うか、今となっては淘汰された技術でしかないよなぁ」

 

桂木「だいたい、さっきからなんだよこの下痢みてぇな音はよ。レビンからかぁ?……死にかけのアブラゼミだってもうちょいましな音出すぜ。マフラーくらい変えられねぇのかよ。ダッセェ音させやがって」

 

塚崎「なさけねぇ音出してんじゃねぇよ。耳が腐るぜ。そもそもおめぇら、ハチロクってもんが分かってて乗ってんのか?特にこのレビン」

 

2人の男がレビンのリアを覗き込みながらそう言った。

ここまで来たところで、ついにイツキが口を滑らせてしまう。

 

イツキ「いや、あの……自分もマフラーくらい変えたいと思ってるんですけど、今日納車したばっかでお金ないし、このレビンはハチロクじゃなくてハチゴーだから……マフラー替えてもあんまりいい音出ないかなって思ってて……」

 

拓海(馬鹿だな、イツキ。そんなもん黙ってりゃ気付かれなかったかも知れないのに、また笑われるぞ!)

 

多田「なにぃ?ハチゴーだぁ?」

 

案の定、ハチゴーというイツキの発したワードに目敏く反応する例の3人。

 

多田「ププ……」

 

桂木「……ッ!」

 

塚崎「クッ……ククッ!」

 

そして静かに何かを我慢するように肩を震わせる。

その光景を見て、午前のあの光景が脳裏にフラッシュバックするイツキだったが、当のイツキが「やってしまった」と己のうっかりに気付いた時には全てが遅かった。

次の瞬間には、イツキの恐れていた光景が広がっていた。

 

多田「ぶっはははは!はっはっははははははは!!」

 

桂木「わはははははははは!はっはははははは!」

 

塚崎「ブフォ!グッフフフフフ!フハハハハハハ!」

 

多田「ぶっふふふふ!!ハ、ハチゴー!よりにもよってまさかハチゴーとは思わねぇよ!まさかハチロクと間違えちまったのかぁ?ふははははははは!こんなのに一丁前に国産の新品タイヤ履かせてコーティングなんかかけちゃってさぁ!ぷはははははは!!車本体よりもタイヤ代とコーティング代の方が高かったんじゃねぇの!むわっははははははははは!」

 

塚崎「ふっひはははははははは!しかも今日が納車って言ったかぁ?おいおい、この時代にフルノーマルのハチゴーなんぞ中古車屋よりも解体屋に並んでる数の方が多そうなガラクタ買って山に来るマヌケがいるとは!あっははははははははは!……し、死ぬ……笑い死ぬぜ!はははははははは!」

 

桂木「ウハハハハハハッ!マフラー変えるも何も、ハチゴーのマフラーなんかある訳ねぇだろ!んなもん誰も作っちゃ居ねぇんだよバァァァァァァカ!欲しかったらホームセンターで鉄パイプでも買ってきて、テメェで継ぎ接ぎして作りなよ!作れるもんならな!」

 

多田「貧相なハチロクよりもさらに貧相な、100馬力すら出ねぇSOHCのゴミエンジン乗っけた、後ろからケツ蹴っ飛ばしたくなる様なジジくせぇ亀ぐるまなんざ山に持って来てんじゃねぇよ!こんな解体屋に積み上がってそうな雑魚車で峠なんか満足に走れる訳ねぇだろ!こんなもん精々田舎の村役場かジャスコの駐車場がお似合いだぜ!まだうちの婆ちゃんのエッセ弄った方がマシってもんだわ!ぷーぷふふふふ」

 

塚崎「ふっひひひひひひひひ!いやー久々に腹捩れるくらい笑わせてもらったわ!とんだ珍獣もいたもんだぜ!下手な芸人のコントよりよっぽど面白れぇわお前」

 

多田「あー笑った笑った。さて、俺らはそろそろひとっ走りさせて貰うぜ。せっかく峠に来たんだから走らなきゃな。……わざわざ山に登って骨董市開いてるどっかの誰かさんたちには分からねぇかも知れねぇけどよ、走ってこその走り屋ってもんだからな」

 

桂木「でもどんだけポンコツのドンガメのガラクタでもオメェみたいなガキンチョにはピッタリなんじゃねぇの?……ま、観光バスに煽られねぇ様に精々頑張って練習するんだぞ」

 

塚崎「それにそこの旧車連中も、走ってるうちに部品ポロポロこぼしたりなんかするんじゃねぇぞ!」

 

多田「ぶっふふふふふふふ!あんまり笑わすなよおめぇら!ぶはははははは!」

 

そう言って男たちはイツキたちに背を向けてそそくさと車に戻って行ってしまう。

スカイラインに2人、M5に1人が乗り込みエンジンをかける。

だがそんな彼らを見つめる一堂の目が全員笑っていない事も、イツキが悔しさから再び目に涙を浮かべている事も、そしてこれから起こるちょっとした事件も、当の男たちは知る筈などなかった。

 

イツキ「……………………」

 

拓海(ボロクソ言いやがってアイツら……ムカつくぜチクショウ!)

 

光門(あ、ありえねぇ……なんて奴らだ……!人の車を散々バカにして!)

 

妹紅(全く……黙って聞いてりゃ言いたい放題言いやがって……なんかこっちまでイラついて来た)

 

余裕をかました様なドヤ顔で再び一堂の様子を見ながらゆっくりコースに乗り出していく。

反省の色の一つさえも見えない男たちを見て動き出す者たちがいた。

完全にブチギレた拓海たちだ。

 

はたて「最悪。何なのよあいつら」

 

拓海「アイツら……!流石に今のは勘弁できねぇ!……イツキ、ちょっとこの車を運転させてくれ!」

 

イツキ「えぇ!?どうすんだよ!追っかけんのか拓海ぃ!?」

 

拓海「あぁ!」

 

イツキ「無茶だよ!だってこれはハチゴーだし、サスだってスカスカだし、タイヤもエコタイヤだし、LSDだってついてないし、それに馬力なんかたったの80ちょっとくらいしか……」

 

拓海「うるせぇ!LSDだかなんだか知るかよそんなもん!とにかく!お前助手席に乗れ!」

 

そう言うと拓海は有無を言わさぬ凄まじい剣幕でイツキをハチゴーの助手席に押し込めると自分は車の反対側に回り込んで運転席に体を滑り込ませる。

 

はたて「だったら私たちも行こう!散々バカにした車のポテンシャルってもんを見せてあげる。光門くん、デルタの運転席に乗ってもいい?」

 

光門「え?あ、あぁ」

 

妹紅「ちょうどいい機会だからまたあれやるか。前は仲間との追走だったけど今回はバトルのやり方ってもんを教えてやる。守、お前のランサーまた借りるぞ」

 

椛「そう言う事だったら私も乗っからせて貰うよ。隆春、お前のシルビアを少し借りたい。良いかな」

 

霊夢「じゃあ滋、あんたの車借りても良い?ちょっとアイツらビビらせてやるだけだから」

 

にとり「私も今回のはカチーンと来たから乗っからせて貰うよ。さすがにハチロク馬鹿にされてムカッと来たからね!」

 

はたて「ならパワーのあるデルタとにとりのハチロクで隊列をリードしよう!非力なハチゴーとスターレットを間に挟んで後ろにS12とランタボを置く!」

 

にとり「拓海くん!慣れないかもしれないけど隊列を組んで戦うよ!私のハチロクの後ろについて!私たちがあの2台のところまでハチゴーを引っ張ってあげる!」

 

はたて「さぁ、行くよみんな!付いて来て!」

 

 

 

♪ Let'S GO, Come on / MANUEL

 

 

 

そう言うとファンタジアのメンバーたちはそれぞれの車に乗り込んで各々のキーを受け取りエンジンを始動させると勢いよくアクセルを踏みしめ発進させる。

事前の予定通り、はたての駆るランチアデルタが先陣を切って勢いよく駆けだした。

 

光門(す、すげぇ!セリカの運転を隣で見てた時にうっすら感じてた事ではあるけど、はたてちゃん……超運転上手い!ほぼ完璧なロケットスタート!初見の車の筈なのにペダルワークやシフト操作が丁寧かつ素早い。そして正確だ!)

 

助手席に座る光門が思い出すのは、先日のはたてのセリカに横乗りした際に見た彼女の姿。

だがその時の自然体かつ温和そうな彼女の姿と今の彼女の姿にはある決定的な違いがあった。

 

光門(でもあの時の彼女とは明らかに違う。真顔に近いけど……目が笑ってない。これは多分……いや、確実にキレている)

 

その次ににとりのハチロクが続きその後ろに拓海のハチゴー、霊夢のスターレット、椛のS12シルビアに妹紅のランタボと続く。

エンジンの回転数が跳ね上がりタイヤが地面を引っかきスキール音を鳴らす。

 

霊夢「あいつらの言い草はいくら何でも目に余るわ。ここらでお灸を据えてやった方があいつらのためでもあるのよ。これで千切って目を覚まさせてあげる」

 

滋(ひ、ひえぇ……!霊夢ちゃんハンパねぇ!マジハンパねぇ!何で初めて乗るこいつをしれっと俺以上に乗りこなしてんだ!?ファンタジアのドライバーってこんな凄い奴らばっかなの!?)

 

椛「あいつらみたいな生意気な態度の奴らを見てると腹が立つんだよね。逆にあいつらをサクッと千切って気晴らしさせて貰うよ。イライラしてたのは私も同じなんだ」

 

隆春(なんか椛さんめっちゃ怖い!彼女から放出される殺気が尋常じゃない!夏なのに寒気を感じる……!)

 

妹紅「連中みたいに新しい車に乗ってるってだけでいい気になってる奴は個人的に気に食わないんだよな。……下手くその新型車は旧型に劣る。新しい車の方が性能は良いのは事実だけどさ、使いこなせてなきゃ意味がないのさ。あいつらはその辺が分かってない」

 

守(あぁ……俺には分かる。分かってしまう。以前の妹紅ちゃんとは運転が違う。これは前よりもずっとずっとキレている!)

 

その隊列の真ん中で、イツキのハチゴーはその非力なエンジンをえっほえっほと回してノロノロ上ってきた車とは思えない様な、鋭いスタートダッシュを決めていた。

拓海の神業の様なテクニックは、イツキには引き出せなかったそのハチゴーのポテンシャルを最大限に引き出していた。

 

拓海「ちょっと怖いかもしれないけど、俺を信じて我慢しててくれ!お前の大事な車、絶対に壊したりなんかしねぇって約束するから!……イツキ、よく見てろ。あいつらが馬鹿にしたこの車の本当の限界ってのを今見せてやるから」

 

イツキ(た、拓海……ステアリングを握った瞬間に、眼が据わった)

 

全車が一列に連なりながら1コーナー、そして2コーナーに突入。

続く第一ヘアピンを、全車がドリフトさせながら抜ける。

もちろん拓海が操るイツキのハチゴーも、当然例外ではなかった。

 

イツキ「ひ、ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」

 

拓海(なんだこの車、下りなのにちっとも加速しねぇ。床に着くまで全開でアクセル踏んでやんねぇとうっかり目の前のハチロクに離されそうになる。90キロから先の加速は特にひでぇ。多分、あっちは加減してくれてるんだろうな。それに何このタイヤ信じらんねぇ。全然食いつかねぇし、一度滑ったら止まんねぇ)

 

霊夢(ハチゴーの走りを後ろから見るのは初めてだけど、なんか懐かしい感じがするのよね。……このロールしまくりのヨレヨレの足、下り勾配を味方につけないと全然加速しないバカエンジン。ズルッズルに滑る貧弱な安物タイヤ。全部が懐かしい。……まだ車に乗る様になったばっかの頃の私は全然お金なかったからまともに弄れもしなかったし、タイヤも良いのを履かせられなかった。目の前のハチゴーはその頃の私の元愛車に近い。殆どそのままといっても良い。……でもね、そんな車だからこそ腕を磨くには丁度よかった。一番最初の頃は神社の近くの走り屋のNBロードスターよりも遅かった私が、買い出しや仕事に始まって、だんだん日常の延長として峠を走る様になってからは、地元のS14のK’sをタイヤが多少安くても千切れるくらいにはなれた。あうんや明羅たちにも勝てる様にもなれた。このオンボロは、私を強くしてくれた車でもあるのよねぇ。そう思うとハチゴーも悪くはないし、少し感慨深いわ。……だってハチゴーって車は、ドライバーが運転の基礎をしっかり身に着けてないと、碌にタイムも出せない様な車なんだから)

 

次の左コーナーを抜けるとようやく少し踏めるポイントが訪れる。

この間も付かず離れず、先頭のはたてのデルタとにとりのハチロクは、非力なハチゴーとスターレットを離し過ぎないギリギリ上限の速度を維持しつつ、逆にその後方のS12とランタボはブレーキングで接触しないだけのマージンを取りつつもこちらもギリギリの絶妙な至近距離を維持する。

 

コーナーを一つ、また一つ、素早く確実にクリアして行くその隊列には寸分の乱れもない。

拓海もハチゴーに体を慣らして普段と殆ど変わらないパフォーマンスを発揮できる様になりつつあった。

パワーのある彼らがどれだけストレートで踏んだとしても、その圧倒的なコーナーにおけるアベレージの高さを覆す事までは出来ない。

 

そして前半の区切りとなる2連ヘアピンを抜け、ついにこのフォーメーションが真価を発揮する秋名の峠において最長のロングストレート、スケートリンク前ストレートに突入する。

 

お互いのバックミラーやフロントガラスの先にその影が映る事もまた無いが、だが後を追う拓海たちだけは、その差が詰まりつつある事を確信していた。

 

 

 

そして、その時は近いという確信が、静かに燃えるその瞳の奥にあった。

 




やめて!さんざん言いたい放題言って馬鹿にしていたランチアデルタやハチゴーレビンやスターレットやランタボたちに、M5やV36スカイラインみたいなハイスペックスポーツセダンをオーバーテイクされたら、めちゃめちゃイキっていた自分たちの振る舞いの反動と羞恥心でチンピラたちの精神まで燃え尽きちゃう!

お願い、死なないでチンピラたち!

あんたが今ここで倒れたら、これから妙義にいってナイトキッズ相手にイキリ倒す計画はどうなっちゃうの?

マージンはまだ残ってる。ここを耐えれば、猛追してくるハチゴーレビンと旧車軍団に勝てるんだから!

次回『チンピラたち、死す』
デュエルスタンバイ!

2026 / 4 / 19 15:22 誤植部分の修正

今後この小説に出てきて欲しい車をこの中から募ります。今回は国産軽自動車部門です。

  • オートザム AZ-1(スズキ キャラ)
  • スズキ HA22S アルトワークス
  • ホンダ ビート
  • ダイハツ L880K コペン
  • ダイハツ L500系 ミラ TR-XX
  • ダイハツ L275V ミラバン
  • スバル ヴィヴィオ RX-R
  • スバル プレオ RS
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