東方頭文字D 〜 Lunatic Stage 〜 作:D-Ⅸ
ついにチンピラたちの処刑シーンです!
♪ Let'S GO, Come on / MANUEL
イツキのハチゴーやスピードスターズの旧車組を散々バカにしていった走り屋たちを猛烈なスピードで追い上げる隊列はついに、スケートリンク前ストレートに差し掛かる。
光門(ストレートに入った。デルタの後ろにハチロク、その後ろにはハチゴーのヘッドライトが見える。デルタは全開じゃないとは言えスペックは倍以上なのにハチゴーとの車間がそれほど大きく広がらない……)
ここで光門はデルタのスピードメーターに視線を向けるが速度は順調に伸びている様だった。
だがハチロクはともかくパワーが大幅に劣る筈のハチゴーが離れる気配はない。
この時点で、光門はある事に気付いた。
光門(そうか……!スリップストリームだ!ハチゴーとスターレットという80馬力の一番非力な2台を200馬力クラスのデルタとチューンドのハチロクでリードしながら、130馬力から150馬力クラスのS12シルビアとランタボに挟ませる事で、2種類のスリップストリームの恩恵を与えて隊列全体のアベレージスピードを上げたんだ!)
同時にスピードスターズのメンバーたちも各々の気付きを得ていた。
滋(隊列のスピードは一番遅い車のスピードに引っ張られる。……ならその一番遅い車のスピードをスリップストリームで引き上げればいい。そう言う事なんだろう)
守(……確かこの前買ったモータースポーツの解説本に、スリップストリームについて書いてあったな。……車の加速を阻む空気の作用は2つある。一つは前方に存在する純粋な空気の壁の抵抗……そして、車体後方のエアスポット。そこに出来る空気の渦によって発生する、車体を後方に引っ張ろうとする力だ。でも一番立ち上がりの加速力に優れていてなおかつ全高の高いハッチバックボディのランチアデルタがその空気の壁を吹き飛ばし、後続車たちにエアポケットを与える。そしてハチゴーとKP61スターレットの後方にいるS12シルビアが、その後方に出来るエアスポットを潰す。そうする事でハチゴーやスターレットに本来の性能以上の速度の伸びを提供する……)
隆春(これが……チームで戦うってことなのか。個人個人の技量だけじゃない。この集団戦における戦略の組み立て方とそれを実行して見せるチームワークもまた、ファンタジアの強力な武器なんだ)
そしてスリップストリームによって加速した隊列は猛然と、更なる加速をし続けあっという間にダウンヒルのストレートを走りきる。
緩いRの左を抜けて全車が渾身のレイトブレーキングで展望台前コーナーに突入。
ギャラリー1「うおわぁ!なんだこの隊列!馬鹿みたいに速いぞ!ランチアにレビトレか!後ろは何だぁ!?」
ギャラリー2「すんげぇブレーキングとハイスピードエントリーで隊列を維持したままドリフトで抜けてったぞ!上手すぎる!」
ギャラリー3「なんなんだ今の!スキール音ハンパねぇ!」
ギャラリー4「このペースならついさっき通って行ったスカイラインとM5の2台に追いつくぜ!」
ギャラリー2「下手すりゃあいつら食われちまうぞ!」
四駆ドリフトによるスキール音を響かせてギャラリーを沸かせながら立ち上がっていくデルタに続いて、ハチロクとハチゴーが、スターレットが、そしてS12シルビアとランタボがブレーキングドリフトで続く。
光門(すげぇな、はたてちゃん!サイドブレーキを引かずに、ほんの僅かなフェイントモーションでポンとテールを振らせてドリフトさせたかと思えば、出口に向かって姿勢を安定させてゼロカウンターで立ち上がっていく……ラリーストみたいなテクニックだ!なんだかテンション上がってきたぁ!……俺のデルタはこんな事が出来るんだ!こんなに速く走れるんだ!こんなにかっこよく走れるんだ!すっげぇよ!最高だ!)
はたて(この車、凄く運転しやすい!足に合ったタイヤを履かせているんじゃなくて、タイヤに合わせて足を組んである珍しいセッティングね。メカニカルグリップが優れていてコーナー立ち上がりでぐいぐい踏んでいける!このフットワークの仕上がりは最高ね!思った通りのラインに思った通りの姿勢とスリップアングルを作って突っ込んで、思った通りのタイミングで踏めてガツンと立ち上がれる。地面に吸い付くようなこの足は反則級!エンジンも快調にふけ上がるし加速も良好。ミッションのコンディションも良いから気持ちよくスコスコ入る!さすが私のセリカのライバルカーよね。文句なしのいい車だわ。……外車ってのも、思いの外悪くないものなのね)
守(恐ろしすぎるぜ!このジェットコースターみたいに目まぐるしく変動するGが強烈だ!多分何度経験しても俺は慣れそうにない……!だけど……このシフト操作、ペダルワークに、ステアリングさばき……ここから何か一つ……何か一つだけでも学んでいかないと俺たちのスキルアップは永遠に来ない!目の前で異次元の走りをしてるS12シルビアやスターレットやハチゴーたちの走りから何かを掴まないと……何かを得ないと、俺たちの上達は……無い!)
滋(やっべぇ!このGキツイぜ!俺が出来ない様なレイトブレーキングとハイスピードコーナリングを涼しい顔してこなしてしまう!とんでもないハイレベルなテクニックと下りの恐怖に打ち勝つクソ度胸!……これはたまんねぇッ!だけど、これに圧倒されてるようじゃだめだ!俺たちだっていつかはこのくらいの走りは出来るようにならないといけないんだ!じゃないと、秋名の看板を俺たちは胸を張って背負えない!)
隆春(タイヤ4つが全部が滑ってる。これが四輪ドリフト……ッ!とっくのとうに限界なんか飛び越えてぶっ飛んでる筈なのに致命的に破綻した挙動だけは絶対にしないし、絶対に起きない。……滑っていながらこの謎の安定感は何なんだ。この速さは何だ!……ドリフトって、極めて行くとこんな風になるのか!俺たちが目指すべき領域ってのは、きっとここにあるんだ!)
イツキ「ぎゃああああああああああああああああああ!!!!」
拓海(あぁもう、うるせぇぞイツキ!)
イツキ(速い速すぎるぞ拓海ぃ!こ、これが本当に俺のハチゴーの走りなのか!本当に俺の車なのか!?)
相変わらずの絶叫ぶりをハチゴーの助手席で見せるイツキをよそに、その時は刻一刻と近づいてくる。
続いて左右にうねるS字コーナーの連続する区間に突入すると、ついにそれは訪れた。
光門(見えた……今一瞬赤いブレーキランプが見えた。あれがあいつらの車か!)
はたて(見つけた!あれはM5のテール!)
にとり(ついに捕まえた!追いついて尻子玉抜いてやる!)
そこで隊列の先頭を走るはたてのデルタのペースが上がる。
ハチゴーのサポートとペースメーカーをにとりのハチロクに任せて自身は切り込み隊長として突破口を切り開くつもりだ。
はたて「光門くん、今からペース上げるよ。ここからは本気で行く」
光門はその瞬間、確かにブレーキングがワンテンポ奥に入り、立ち上がりの加速が数段早く、そして鋭くなったように感じた。
デルタのタコメーターの針がレッドゾーンに向かって伸びていき、エンジンは闘志を剥き出しにして咆哮を上げる。
地面を蹴り付けコーナーを駆けるタイヤは甲高いスキール音を上げた。
デルタの中に確かに眠っていたモータースポーツの遺伝子が呼び覚まされ、WRCの息吹きがナビシートに座る光門の心へと伝わって来ると同時に、その体には自然と鳥肌が立っていた。
コーナーを抜けたその先には、すでにM5のテールが先ほどよりも大きく、鮮明に映る。
ついにデルタが、そしてその後ろに控えるハチロクたちが、前方を走る3人組にその牙を剝こうとしていた。
● ● ● ●
後ろから猛烈なオーラを発する旧車軍団が徒党を組んで猛追して来ている事など毛ほども知らないまま、秋名の峠を攻め下るスカイラインとM5の走り屋たち。
そんな彼らの背後に、それはいきなりやって来た。
塚崎(……ん?今のコーナーの立ち上がりの瞬間、ミラーが光った?後続車か?)
コーナーのターンインのタイミングで1つ前のコーナーから後続車らしきヘッドライトの光の様なものが一瞬飛び込んできた様に思えたのだ。
気のせいかと思いながらも次のコーナーに向けて突っ込む。
気を取り直してコーナーのエイペックスに切り込み、後輪が暴れない様に踏み込んでいく。
塚崎(念のため、少しペースを上げるか。まだテールが見える距離だがスカイラインとも距離が出来ちまったからな……。ちょっと詰めるか)
だが、次の瞬間。
塚崎「ッ!?」
バックミラーに飛び込んで来た眩い光に思わず驚愕する。
それは明らかに1台だけのものではなく、まるで無数の車列が渋滞しているかの様に見えていた。
塚崎のその動揺はすぐにアクセルワークとステアリングの操作に現れて立ち上がりでお釣りを貰う。
♪ RUN RUN BABE / GO 2
塚崎(何だとッ!あのガキどもが追いついて来たのか!?……いや、落ち着け……そんな筈はない。あのポンコツどもはどんなにパワーのある奴でもランチアデルタの200馬力が精々だろうが!500馬力のM5に、コイツと俺に追いつける訳がねぇぜ!)
だがそんな彼の心中を嘲笑う様に、その光はみるみる近づきその姿を表した。
塚崎「げぇ!デルタ!」
桂木「な、何だ?後ろから誰か来てるのか?」
多田「なにぃ?どこの誰だか知らねぇが俺らに煽りくれるとはいい度胸じゃねぇか。こっから先は全開走りだ。……ぶっちぎってやる!」
桂木「お、おい……よく見たらあれ……山頂側にいたガキどもの車じゃねぇか!」
多田「おいおい何言ってんだ。冗談はよしてくれや。そんな訳……」
猛追して来たデルタやハチロクの存在に、ようやく前を走るスカイラインも気がづいた。
多田「マジじゃねぇか!デルタにハチロク……ば、バカな!ハチゴーだとぉ!?ふ……ふざけんじゃねぇ!そんなのありえねぇ!」
自分たちが散々バカにしたマシンたちが、気迫すら感じる猛追を見せてすぐ真後ろに詰めて来ている。
その事実に背筋が凍りつき、冷や汗が吹き出して止まらなくなる。
そう言っている間にもコーナー1つごとにその差はグイグイと縮まり続け、後半セクション第一ヘアピンでついに後ろを走るM5がオーバーテイクの射程圏内に捕捉されてしまう。
塚崎(あ、ありえねぇ。こっちは500馬力だぞ500馬力!今のヘアピンでどんだけ詰めて来やがんだ。突っ込みだけで3mくらい迫ってきた様に感じたぜ!いっくら何でもコーナリングスピード速すぎるだろてめぇら!……だ、だがここから先は緩いRのコーナーが続く高速区間だ!ここで再び突き放す!ロングホイールベースのコイツに高速区間のスタビリティで勝てるマシンなんかいねぇ筈だ!)
だが男の思惑とは裏腹に、その差が開くことは無い。
精々ハチゴーとの車間が僅かに開いた程度で先頭のデルタは食いついたまま離れない。
そしてその後ろからはハチロクがその差をじわりじわりと詰めてくる。
にとり(甘い甘い!足のセッティングが決まってないから踏めてないのが、少し先を走るデルタを挟んでてもよく分かる。M5のその固い車高調じゃ路面が荒れててパンピーな秋名のダウンヒルは攻めきれないよ!そんなんだったらまだ純正の足の方がマシだったんじゃない?……一方でデルタの足は荒れた路面の衝撃をよくいなしてる。荒れたアスファルトや路面の大小さまざまなギャップがもたらすショックをダンパーがよく中和させている。荷重と姿勢の変化がM5よりも少ないからM5よりも格段に踏みやすい足に仕上がってるね!公道をよく知る相当に腕の良いチューナーが組んだ足だと、その挙動を一目見ただけで分かる!……それにロングホイールベースかつ1.9トン弱の重量級のM5はこの先のドン突きヘアピンと、さらに先の連続ヘアピン区間で大失速するのは確実だよね。仕掛けるタイミングはそこだ!)
思ったようにマージンが稼げずに焦れていくM5の男だったがそんな彼の内心とは裏腹にもう間もなく高速コーナー区間は終わりを告げる。
目の前に見えるのは下り勾配の超低速の左ヘアピンコーナー。
塚崎(舐めんなよ!後ろのデルタがさっきから俺のインをチラチラ伺ってんのは分かってるんだ。だがそう簡単にインに飛び込ませるほど俺のブレーキングは甘くないぜ!突っ込みでインベタを塞いでタイトに曲がってしまえばそこにスペースは出来ねぇ!精々お前らは指をくわえて見ている事しか……)
M5が限界ギリギリのフルブレーキング。
インに向かって飛び込むが……。
塚崎「なん……だとぉ!」
その真横、ガラ空きのアウト側に悠々とデルタが差し込む。
そしてさらにその後ろからハチロクとハチゴーが飛び込んでくる。
はたて(ブレーキングが甘すぎ。高速域での安定性に全振りしたM5みたいな車はこういうヘアピンでは途端に弱くなる)
にとり(やっぱり、はたての誘いにまんまと引っかかって外がガラ空きだ!)
デルタが突っ込みを制し、コーナー入り口でオーバーテイク。
続いて開きかけていた車間を一気に詰めたハチロクが間髪入れずに攻め立てる。
デルタに続き半車身分ほど前に迫り出してのサイドバイサイドでコーナーを曲がる。
そしてハチロクの後ろにはさらにハチゴーがぴたりと張り付いている。
拓海(そこだ!ハチロクが開けたスペースがある!外から突っ込め!)
デルタが切り開いた突破口が閉じないうちにハチロクとハチゴーが捩じ込んだ。
ガードレールとのクリアランスは僅か5センチ未満。
だが拓海にかかれば不慣れなハチゴーでもこの程度は造作もない。
ヘアピンで一気に3台が攻め寄せてくる大波の様な波状攻撃にM5の走り屋は途端に追い込まれてしまう。
塚崎「クソ!立ち上がりのラインが……!」
そう、ハチロクが絶妙な位置にいる事で、M5は立ち上がりのラインを塞がれてしまったのだ。
自慢の500馬力のエンジンはほぼ完全に封殺されていた。
塚崎(ふ、ふざけんな!ポンコツみてぇな旧車のトレノやレビンに負けてたまるか!ましてやハチゴーごときにぃぃぃ!!?)
横Gを逃さなければ立ち上がりで踏めず、無理に踏めば乱れて逆にロスとなってしまう。
そんな超ハイパワーFRはワイドなラインを好むものだが、肝心のアウトが塞がれている状況では横Gを逃がそうにも逃がせない。
そこにハチゴーが並びかける事で、完全にライン取りの自由度を奪われてしまう格好となった。
M5の1.9トンの重量級ボディは、その車体にかかる慣性力もまた重くなる事を意味していた。
それはどんなに太いタイヤを履いたところで誤魔化し切れるものではない。
インベタに押し付けられたM5はその性能を殺されて著しい大失速。
これが文字通りの致命傷となった。
塚崎(ダメだ!踏めねぇ!そこにいられちゃ満足に立ち上がれねぇ!完全にラインを塞がれちまった!これじゃあ500馬力のうちの3分の1すらも使えないだろうが!)
そんなM5の走り屋をよそに拓海のハチゴーが真横で3A-Uエンジンを全開で踏みちぎる。
思わぬ失速を強要され立ち上がりを封じられた事でパワーバンドの外れたM5のエンジンは立ち上がりで遅れを取りなんと霊夢のKP61スターレットにすら刺されて並ばれてしまう。
M5の走り屋は馬力任せに踏み込んで僅かに前に出かかるも、次のコーナーは右ヘアピンコーナー。
左ヘアピンとはインとアウトが逆転する。
ブレーキングで霊夢のスターレットがインに着いたまま大きく先行。
M5と比較して車体重量が半分以下であり、なおかつドライバーの技量もはるかに格上のスターレットが突っ込みで完全に前に出てオーバーテイクに成功。
次に後続のS12シルビアが霊夢のスターレットにビタ付けしたまま間髪入れずに捻じ込んでインを奪取。
M5が立ち直る隙を与えない。
塚崎(今度はS12が刺して来やがった!ダメだ……こいつら、べらぼうに上手すぎる!コーナーが速い!めちゃくちゃ上手い!)
さらに続いて当然の様に立ち上がりでランタボが並びサイドバイサイドに。
塚崎(もっとストレートがあれば、こんな旧車なんかに負ける訳はないのに……!次のコーナーがまたすぐそこに迫っている!またやられる……!)
塚崎の不安の通りに次の左コーナー。
ランタボにブレーキングで負けて大外から余裕をもって前に出られてしまう。
塚崎(嘘だろ……負けた?……俺が、BMWの500馬力が負けた……?)
守(ほ、本当にBMWに勝っちまった……)
妹紅(……BMWの敗北じゃない。お前が下手なだけだ。腕磨いて出直して来い)
妹紅の視界には既に抜き終わったM5は映っていない。
視線の先にはほかの仲間たちとその先にいるV36スカイラインだけが存在していた。
妹紅「まずは一台片付いた。次行くぞ」
桂木「な、なにぃ!?デルタがもう来てるぞ!」
多田(まずいまずいまずい!コーナーが速すぎる!あいつら何なんだ!塚崎がコーナー3つで瞬殺された!?手も足も出ずに?そんな馬鹿な!)
M5がブロックしている間に不得手な連続ヘアピン区間をクリアして全開で逃げ、マージンを稼ぐ事で自分だけでも逃げ切りを狙っていた多田であったが、その目論見はあっけなく砕け散った。
彼のスカイラインのすぐ後ろには猛追してきたランチアデルタが張り付いていたのだ。
多田(だがさっきのやり方は見ていた。先頭のデルタが切り込み隊長の役目を果たしていて後続のハチロクがそれを押し広げ、遅いハチゴーやスターレットが追いつくまで時間を稼ぐ。サイドバイサイドはどうしても速度が落ちるからな。後続車にとってはチャンスになる。……だがなぁ、要するに先頭のデルタをブロックしちまえばいいんだろ!こういう連携攻撃は攻撃の起点になる車がキーになる。そいつさえ押さえこんでしまえば後続は動くに動けない!……さぁかかって来やがれ骨董品軍団!そっちの狙いはお見通しだぜ!インを狙う様に見せかけてこいつはアウトに来る!分かっていれば同じ手は俺には通じないぜ!次の連続ヘアピンの突っ込みが勝負どころだ!最新の車が最強なんだって所を見せつけてやる!……勝つのはこの俺だぁ!)
全ての車がアクセルを踏みちぎる。
目の前には下り勾配のキツいヘアピンが口を開けて殺到するマシンたちを待ち構えていた。
多田(デルタがインからアウトに振った!俺の読み通り!この勝負、貰っ……)
にとり「貰ったぁ!」
多田「はぁあ!?」
桂木「んっだとぉ!?!イ、インからハチロクが……!」
多田がアウト側のデルタに対するブロックラインを取った瞬間、にとりのハチロクがその空いたインに突っ込んだ。
M5に対する初撃はデルタが本命、V36スカイラインに対する次撃はデルタを囮としてハチロクを本命とする2段構えの連携攻撃。
妖怪の山の妖怪たちが得意とする集団戦の技術。
それをはたてやにとりは当然の様に習得していたのだ。
にとりのハチロクがこじ開けたガラ空きのインに、それを読んでいたデルタがすかさずラインを修正し飛び込み、スカイラインをガードレールギリギリのアウト側に追いやりながらコーナーに突入。
サイドバイサイドとなった事で並んで走る両者のコーナリングスピードがガタ落ちとなるが、それこそが狙いだった。
その隙を逃す事なく、後続の拓海もハチゴーの片輪をイン側の溝に落としてハチロクとの車間を急速に詰めながら立ち上がる。
イツキ(タイヤが……溝に……落ちたぁ!?)
霊夢(これが……溝落とし!)
サイドバイサイドの状態で第二ヘアピンに突入するデルタとスカイライン。
その後ろには既に拓海のハチゴーと霊夢のスターレットが隙を狙って待ち構えている。
迷わずデルタの後ろに付くハチゴー。
ハチゴーがアウトから被せて突っ込みでリードするが、多田も負けじと立ち上がりでアクセルを踏み込みハチゴーを押さえ込もうとする。
だが次のコーナーはインとアウトが再び逆転する第三ヘアピン。
そしてイン側にいるのは二人の天才ダウンヒルスペシャリスト、拓海と霊夢だ。
拓海(今だ!行けぇ!)
霊夢(ラインは見切った!うちの地元の峠よりも僅かに側溝の溝は深いけど、やる事は何も変わらない!……なら私も!)
拓海が、そして霊夢が溝落としをしながらスカイラインの真横へと差し込んでいく。
多田「ひゃあ!?なっ、何だそれ!何だそのスピード!何だその曲がり方は!」
桂木「おい何が起きたんだ?何で抜かされたのかさっぱり分からねぇ!夢でも見てんのか俺ら!?」
多田「もしかしてあのガキどもフカシやがったなぁ!こんなのハチゴーじゃねぇ!ハチロクに決まってる!それもカリカリにチューンしてるモンスターマシンってヤツだ!」
オーバーテイクされた直後に訪れる第4ヘアピンの突込みで多田と桂木はハチゴー(?)の挙動の観察を試みる。
が、その挙動は到底理解の及ばない奇妙なものだった。
多田(な、なんだぁ……?スターレットは足固めてあるのにあいつだけは……ハチゴーだけはすっげぇロールしてる。……つーか普通にロールアンダー出てるし)
桂木(ふにゃふにゃのひっでぇ足だロール量がハンパねぇ!……でも速い!)
多田「気持ち悪いぜ!どんな動きしてんだよ!何なんだよあの車!」
桂木「酷い足で酷いロールアンダー出してんのにクソ速い!どう言うコーナリングしてんだあいつ!」
だがそんなよそ見も長くは続かない。
後方からは忘れて貰っては困ると言わんばかりに2台の車が迫って来ていた。
桂木「ま……まずい来てるぞ!」
多田「ダメだ!突っ込みが鋭すぎる!次元がちげぇ!ブロック出来ねぇ!ぬ、抜かれるぅ!」
続く第5ヘアピンでS12シルビアに、第6ヘアピンでランタボにあっさりとインを刺されてオーバーテイクされてしまう。
これで3人組は全ての車にオーバーテイクされてしまった事になる。
完全に戦意喪失した2台は猛烈なスピードで走り去る車列をただ見送る事しか出来なかった。
多田「やられた……やられちまった……」
桂木「もはや、悪夢だ……。俺たちはプロレーサーでも相手にしてたのか……?」
塚崎「多田のスカイラインまで、瞬殺……?何が起きたのか、俺にはさっぱり理解できなかった……」
完全に心を折られた彼らだったが、当然このまま終わる筈もなく……。
● ● ● ●
妹紅「これで分かっただろう?古い車だからって舐めてると痛い目見るよ。どんなにいい車に乗ってたところで、ドライバーの腕が伴ってなきゃその性能は引き出せない。独逸製のハイパワースポーツセダンが泣いてるぞ」
塚崎「……………………」
椛「君たち、上ではみんなの車に随分と失礼な事を言ってくれたよね。でさ……骨董品が、何だって?」
多田「……………………」
霊夢「黙ってないで、何か言うべきことがあるんじゃない?」
桂木「……………………」
ダウンヒルのゴール側、旅館脇の駐車場にて。
チンピラ3人衆は車を下ろされて正座させられ、妹紅や椛といったファンタジアの武闘派メンバーからガン詰めされていた。
今日は近頃ではそこそこ気温が高く熱帯夜と言っても良いほどであるというのにチンピラたちの顔色は蒼白で、肝も、背筋も、そしてその骨髄に至るまで凍り付いていた。
散々ガラクタだのポンコツだのと馬鹿にしていた車たちに追いつかれるだけにとどまらず、オーバーテイクまでされてしまった途方もないほどの屈辱感と恥ずかしさからか、それとも目の前に立ちはだかる者たちの殺気立ったその視線に対する恐怖からか、あるいはその両方によるものか。
何故だか滝のような汗がダラダラと流れて止まらなくなっているのは、きっとこの暑さのせいだけではないのだろう。
多田「車、馬鹿にして……」
桂木「調子こいて……」
塚崎「生意気言って……」
多田・桂木・塚崎「すんませんしたッ!」
この日、チンピラたちの生涯において最も美しい土下座を披露した日となった。
今回のBGMはMFゴーストからお馴染みの処刑用BGMでした。
2026 / 4 / 26 0時54分
申し訳ありませんでした。
アンケートの設定にミスがありましたので訂正させていただきました。
今後この小説に出てきて欲しい車をこの中から募ります。今回はオープンカー部門です。
-
日産 S15 シルビア ヴァリエッタ
-
日産 Z33 ロードスター
-
ホンダ CR-X デルソル
-
スバル ヴィヴィオ t-top
-
BMW E36/7 Z3
-
BMW E85 Z4
-
ベンツ CLK350 カブリオレ
-
ポルシェ 986 ボクスター
-
ポルシェ 987 ボクスター