東方頭文字D 〜 Lunatic Stage 〜   作:D-Ⅸ

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尺の都合により色々と端折られた部分が多いですが今後さらっと補完するようにいたしますのでご容赦ください。
実は走り屋あるあるみたいなネタや走り屋同士の交流に主眼をおいた作品なのでバトルに関しては重要なもの以外は結果だけ書いて端折ることが今後も結構あります。



第3話 初日を終えて……そして衝撃のハチロクドリフト

2時間後、スピードスターズの面々は秋名の峠を登り、ダウンヒル側のスタート地点のすぐ脇の駐車場に車を止めて集まっていた。

 

健二「スゲーよ、あいつら……」

 

池谷「あぁ……みんな俺たちとは根本的な部分がなんか違うんだよな」

 

守「テクニック盗んでやろうと食らいつくんだけど、何も分かんねぇまま置いてかれるよ。観察する時間もないんだからもう俺らじゃどうにもならねぇ」

 

健二「レッドサンズもファンタジアも、正直よその走り屋があれだけレベルが高いとは思わなかったよ。走り慣れてるはずのホームでよそ者に何度も何度もカモにされるとかすっげぇショック……」

 

滋「特に女の子に負けたのも、男としちゃあ精神的にキツイぜ。秋名の峠に不慣れなあの子たちに、秋名のコツを一緒に走りながら……ってのが脳裏によぎった数分後にはアレだもんなぁ。……もう悲しくて恥ずかしくて逆に笑っちまうよ」

 

そんな車好き男子諸君であれば誰もが夢見るような妄想話であるが、美少女走り屋集団の登場に浮かれていたスピードスターズの彼らも当然していたし、特に滋などはあからさまに鼻の下を伸ばしていた。

共通の趣味である車を通してスリップストリームに入った時のように少しずつ心の距離を詰めて行き、いずれは結婚という名のゴールにワンツーフィニッシュを……などと言うのも今となってはすでに過去の話。

 

そんな儚い願望もとい妄想も、第一走目で彼女たちにいとも容易くぶっ千切られた瞬間から、崖に突っ込んで派手にクラッシュしたラリーカーのように地元のプライド諸共木っ端微塵に砕け散ってしまった。

 

池谷「俺なんか、イツキと拓海を向こうに預けた時に一丁前にアドバイスなんかしちまってさぁ……完全に余計なお世話だったんだろうな、今となってはよく分かるよ。……もう遅すぎるけどな。もしタイムマシンがあるならあの時の俺をぶん殴ってでも止めてやりてぇ」

 

滋「厳しいよな、現実って。……特に俺たち、車くらいしかロクな取り柄もないくせに、その肝心の車でこれだもんな」

 

守「あぁ……。なんつーか、あいつらみんなテクニックも段違いだけど車そのものも違うよなぁ。足回りに金かけてるからすっげぇ踏ん張ってんのが後ろから見てても分かる。俺の車がズルズル滑る安物タイヤと格闘しながらハンドルこじってどうにか抜けれるような速度でも、あいつら余裕でカッ飛んで行くし、しっかりパワーも出てるからストレートじゃ勝負にならない」

 

健二「麓で話した時にレッドサンズとファンタジアの車が履いてるタイヤ見せてもらったから分かるけどさ、ポテンザにネオバにディレッツァ……あとはミシュランもあった。タイヤ一つとっても一流ブランドばっかだったもんな。マシンの性能でストレートじゃパワー負けして、ドラテクの違いでコーナーワークじゃ歯が立たない。しかも本数重ねるほど千切られるまでの時間が短くなってんのも、ちょっと精神的にキツいぜ」

 

滋「特に高橋啓介のFDなんてツインターボで360馬力は出てるって言ってたぞ。鈴仙ちゃんの180も聞いてみたら東名パワードのタービン組んで330馬力だってさ。……あんなのにどうやって勝てっていうんだ。俺の車は200馬力にすら届いてないんだぞ……」

 

池谷「こっちは常に限界ギリギリの攻め方で走ってるのに、俺らを相手に走るあいつらは誰一人として本気じゃないなんてな……。こんな屈辱は初めてだ」

 

守「……相手が完全にコースを把握しきってる本番のタイムアタックじゃあ分単位でタイム差開くぞ。これマジで、本当にどうすりゃいいんだよ」

 

健二「何より俺たち地元最速名乗っておきながらコレとか、正直かなりダセェよ……」

 

無慈悲な結果として、厳然たる現実として、レッドサンズもファンタジアもスピードスターズよりも圧倒的に速かった。

その覆しようもない事実が、地元で走って来たことにプライドを持っていた彼らの心をズタズタに引き裂いていた。

直線でパワー負けし、ならばコーナーで勝負と思ってもそれすらまるで話にならない。

マシンにつぎ込んだお金も、車を操るドラテクも、何もかもが彼ら彼女らには遠く及ばない。

瞬き一つせずに相手の車を睨みつけ、技の一つでも盗んでやろうと意気込んでもそれもままならないと来てしまえば、もう彼らには打つ手なしだった。

 

唯一の救いと言えば、どちらのチームも軽く話してみれば普通に良い奴らだった事くらいだろうか。

今日だけでもいいことも悪いことも色々あったが、同じ車に乗る人同士で車を並べて写真を撮ってみたり、数台で即席の隊列を組んで走ってみたりなど、それぞれが違うチームでありながら初日からそれなりに打ち解けていたのはスピードスターズにとっては幸運なことではあった。

主にファンタジアのメンバーが清涼剤と言うべきか緩衝材と言うべきか、スピードスターズやレッドサンズの男衆の毒気を抜くように作用したこともあってか、思いのほかに軋轢は生まれていなかった。

 

とは言ってもよそ者であるはずの両チームとのこれだけの隔絶した実力差、そして言い訳を挟む余地の一つも無いボロ負けというものは、確実にスピードスターズの面々の心に重しとなってのしかかっているのもまた事実である。

特に周りに他のチームのメンバーがおらず自分たちしか居ないこの時だからこそ、今まで心のどこかで誤魔化し続けていた悔しさや疲れといった色々なものがドッと肩にのしかかってきたように感じてしまっていた。

 

池谷「でも、圧倒的な格上チームが相手だって、地元が逃げるわけにはいかねぇよ。戦えば負けると分かってても、それだけは絶対にダメなんだ。肝心な時に逃げるような奴に走り屋名乗る資格はねぇ。走り屋が逃げる時は後ろにライバルがいる時だけなんだ。……一度やるって決めたからには、もう後戻りはしない。やれるところまでとことんやり抜くだけだ。死ぬ気で練習して死ぬ気でガンガンに攻めるしかねぇ。……今日はもう遅いから、明日またどこかに集まって打ち合わせしよう。いまさっき連絡とったけど、今日いなかったメンバーも明日には集まれそうだからさ、そこでゆっくり今後について話し合おう。……今日はほんの数時間のうちに色々ありすぎて、頭ぐちゃぐちゃで、難しいことはなんも考えらんねぇや。……ラスト一本、下ったら今日はそのまま解散だ」

 

まるで自分に対しても言い聞かせるかの様な池谷のその言葉をきっかけに、最初の勢いは何処へやら、重たい足取りで車に乗り込み山を降りていくスピードスターズだった。

 

 

 

 

 

● ● ● ●

 

 

 

 

 

それからさらに数十分、今度はレッドサンズのメンバーが入れ替わる様にその駐車場に入り、缶コーヒーを片手に乗り手とマシンの小休止も兼ねて駄弁っていた。

 

佐々木「今、俺たちしかいないから言うけどさぁ……あいつら、マジで何もんだ?俺ら、狸だか狐だか幽霊だかに化かされてねぇよな?……だって麓で握手した幽々子さんと妖夢ちゃん、なんかこの季節にしちゃあ手ェ冷たかったし」

 

疲れ切った表情の佐々木がそうこぼすと、周りの他のメンバーもなんとも言えない様な渋い表情をする。

 

啓介「知るか、そんなもん。霊媒師でも陰陽師でもねぇ俺らに分かるかよ。大方、エアコンつけてハンドル握る手が冷えてただけじゃねぇのか?」

 

佐々木「あぁ……そんなもんか」

 

斎藤「ただ、まぁ……そうだよな。あんまり現実感ねぇよな」

 

竹原「なんか、夢でも見てんじゃねぇのかって気分になってくるよ」

 

そう言う竹原の右頬は赤みを帯びでいた。

別にファンタジアのメンバーにセクハラを働いた結果おもいっきりビンタされたとかそう言うのではなく、単純に目の前の光景が夢か現実かを見極めたいがために自分の頰を数回ひっぱたいたりつねったりしただけである。

 

新田「実は俺たちどっかで事故ってて、目が覚めたら病院のベッドとか……」

 

村田「おいやめろよ!縁起でもねぇ。マジでそういう話苦手なんだよ、俺」

 

美少女だらけの走り屋チームが山に来て交流会の申し込みをして来たり、しかもめちゃくちゃ上手かったりと言うのは、よほどに運と巡り合わせが良くなければ通常あり得ないことであるし、実際に彼らにとっても今日の出来事はあまりにも非現実的な様に思えるものだった。

 

スピードスターズに交流会の申し出をするところまでは良いものの、それ以降はイレギュラーというイレギュラーが怒涛の勢いで押し寄せてきた様に感じていた。

突然下から上がってくる大量のスポーツカー、そしてその先頭の暗色系のセダンから降りてきたなんかヤバそうな雰囲気の和服美女、その彼女に率いられてやってきた美少女走り屋軍団、そして実際に走ってみれば地元やレッドサンズを圧倒する超絶テク。

実はこれが夢や幻の類なんじゃないかと疑いたくなる気持ちが湧いてくるのもある種当然のことではあった。

 

須崎「それにしても、信じらんねぇくらい可愛くて、話しかけてみりゃあその辺の免許取り立ての子と大差無さそうなのに、車に乗ったらまるで別人で、地元の奴らどころか俺らすらあっさりぶち抜いていくんだから、もう自信無くすぜ」

 

村田「俺のMR2が戻って来ても勝てる気がしねぇや。マシンもうちで言う所の松本みてぇな優秀なメカニックがいるのがひと目でわかるくらいにはしっかり作ってあるんだが、何より乗り手のテクが凄まじい。幽々子さんが言ってた、腕試しや交流を目的とした事実上の全国レディース選抜チームって話も、今となっちゃあ納得できる話だぜ」

 

啓介「初めての峠とはいえ、お前らもまだまだだな……。でもそんぐらい上手くねぇと俺としてちゃあ張り合いがねぇ。流しのペースにすら付いて来れねぇスピードスターズを適当に千切っても、退屈すぎて欠伸が出るだけだからな」

 

佐々木「今日は来てないらしいが、ヒルクライムやダウンヒルのエース格ともなると、涼介さんクラスかもな」

 

啓介「アニキクラスは言い過ぎだろうが、それでも随分やる奴らだよ。特にあの派手なエアロの黒いFD……良くいる見た目だけのポンコツかと思ったらしっかり俺のペースについて来れてたしな。途中までは燃料ケチってわざとゆっくり流しで走って、後からペースを一気に上げて引き離しにかかってもピッタリ磁石みてぇにくっついたまま最後まで千切れなかった。こればっかりは流石に認めるしかねぇよ。……あいつはその辺にゴロゴロいるような、ただ車に乗せて貰ってるだけの甘ったれなヘボなんかじゃねぇ。……でもまぁ、だからこそ同じFD乗りとして、同じロータリー使いとして、負けられねぇし負けてやるつもりはねぇけどな」

 

新田「啓介さんがそこまで言うなんて……やっぱりとんでもねぇや。俺の勝てる相手じゃなかったんだな」

 

竹原「でもそう思わせるだけの何かは感じさせるよな。……普通なら寝言扱いでサラッと流される様な話だけどさ、なんかあいつら見た後だと笑えねぇよ。確か30分くらい前だったかな……俺が下りの練習してる時にものすごい勢いで詰められてさ、何かと思ったら2台のFCだったんだ。妖夢ちゃん……だっけ?あの子と涼介さんがバトルしてたんだよ。……当然頭は涼介さんが抑えてたけどさ、妖夢ちゃんの方も普通に俺らじゃ追いつけないようなハイペースで攻めてる涼介さんに喰らい付いててびっくりしたよ。ブレーキングドリフトのラインも負けず劣らずすげぇ綺麗だった」

 

佐々木「それ、俺も見たよ。5連ヘアピンの出口のあたりでめちゃくちゃ速いFCがミラーに飛び込んできてさ、涼介さんだと思ったから譲ったんだけど、後ろにもう一台影分身みたいにFCが張り付いてて……俺、あまりにも速すぎるせいで涼介さんがついに残像か何かでも出すようになったのかと思ったよ」

 

新田「俺は結局あの後で妹紅ちゃんにリベンジ挑んでサクッと負けたし、お前らもエースですらない180やFDにもう一度バトル挑んで負けたんだろ?……こりゃ交流戦までに徹底的に走りこんで少しでも巻き返さねぇといよいよヤバいぞ。俺らもうかうかしてらんねぇよ」

 

そう呟く彼らの脳裏に浮かぶのは、今日体験した彼女たちの走りだった。

ドリフトとグリップを巧みに使い分ける爆発的な速さの赤いエボⅥに、高橋啓介ですら振り切れなかった黒いFDに、一軍でも付いて行けないハイペースで飛ばす高橋涼介に食らいつく緑のFCなどなど。

そうした彼女たちの走りは、全員が高橋兄弟とのバトルを経験しているレッドサンズのメンバーから見ても鮮烈に写っていた。

それこそ、当の高橋兄弟の走りと遜色のないほどに。

 

須崎「言っちゃあ悪いけどよ、スピードスターズなんかに構ってる暇はねぇかもな。練習、頑張るか。……俺は今月フルバケ買ってちょっと懐が寂しいんだがなぁ」

 

佐々木「……まぁ、仕方ねぇ。本番まで必死で走りこんで腕磨くしかねぇよなぁ。天下のレッドサンズがギャラリーの前でみっともねぇ走りなんか出来ねぇよ」

 

新田「だな。チームの看板に泥塗るわけにはいかないからな。……今日は予定が合わなかった奴らもいるし、当日誰が走るかは分からないが、一度選ばれればもう本番は覚悟決めて本気の全開走行で攻めるしかない」

 

竹原「はぁ……やるっきゃねぇよなぁ。……とはいえ、俺らもまだまだだったんだなぁ」

 

村田「上には上がいるってことなんだろうな。……まぁ、思っていたのとはちょっと違うが」

 

須崎「いやアレはちょっとどころのもんじゃねぇだろ!」

 

佐々木「だよなぁ。アレがちょっとで済む話かぁ……?」

 

 

いい感じでツッコミが入ったところで啓介が自販機脇のゴミ箱に向かって飲み干して空になったコーヒーの缶を投げ入れる。

カコンという軽い金属音が辺りに響くのを皮切りに、話題も自然と切り替わる。

 

竹原「そういえば、涼介さんの姿が見えないな。登ってくる時もすれ違わなかったし……」

 

啓介「アニキならとっくに帰ったぜ。なんでも、ファンタジアのFCと走った時に何か思うところがあったらしくてな。当日のシミュレーションがどうとか、何とかの上方修正がどうとか色々言ってたが、難しい事は俺にもさっぱりわかんねぇや」

 

須崎「……さて、もう一本下り行くか」

 

新田「そうだな。ボチボチ走るか」

 

佐々木「それじゃあ、俺はもうこのまま降りて帰るよ。ガスがもう3割切ってんだ」

 

須崎「おう、お疲れ。俺もあと2、3本くらい走ったら降りるとするか」

 

村田「なら佐々木、俺ももうそろそろ帰るから隣に乗せてってくれ。代車のカリーナ置いてある麓のコインパーキングまで頼むわ」

 

佐々木「おう、いいぜ。乗りな」

 

竹原「だったら俺も降りるかな。涼介さんも帰ったことだし、今日はもう遅いし、何より明日仕事だからさ」

 

啓介「あぁ、分かった。気をつけろよ。俺はまだまだ走り込む。今のうちにみっちり練習しとかないとな」

 

レッドサンズのメンバーも各々車に乗り込みエンジンを回して降りて行く。

重なり合う排気音が、秋名の峠に消えて行った。

 

 

 

 

 

● ● ● ●

 

 

 

 

 

さらにその数分後、麓の旅館側の駐車場。

「今日はもうボチボチ帰る」と告げて山を降りて行くレッドサンズの走り屋を見送りつつ、ファンタジアのメンバーが小休止がてら雑談に興じていた。

すでに時計は深夜の二時半過ぎを指していた。

 

この場に残っているのは鈴仙、妖夢、妹紅、はたてのみで、幽々子は紫にスキマをつないでもらい冥界に帰ってしまった(と言うか本来の仕事を放り出して妖夢に無理を言ってついてきて、挙句に勝手に場を仕切っていた幽々子を紫が連れ戻しにきた)し、ヤマメは走り過ぎてガスが残り二割を切ってしまったため、チームが臨時で確保した麓にある安アパートを改装して作った簡易宿舎に戻っていった。

 

妹紅「今日会った外の世界のチーム、どう思う?」

 

はたて「レッドサンズは結構いい腕してると思う。この周辺の走行会や小さな大会とかじゃ強豪チームとして有名って話だし、実際に走ってみてその評判も納得って感じかな。話してみた感じ、メンバーの実力が軒並み高いのは多分、涼介さんの教え方が上手いんだと思う。あの人、かなりの理論派だし車を見る目もいいよ。私のセリカの馬力、ほとんどドンピシャで言い当てられたし」

 

妖夢「同じ車に乗る人同士ってことでお願いして一緒に走ってみましたけど、すごく速かったですよ」

 

鈴仙「うーん、速いのは私も下りの終盤で追いつかれた時にラインを譲って後追いさせてもらったからわかるんだけど……」

 

ザ・感覚派と言った感じの妖夢のふわっとした感想に苦笑する鈴仙。

 

鈴仙「私が走った感じだと、速さでいえば、うちのお師匠様と同じくらい速いかも。絶対とは言えないけど今の私じゃ勝てないかなぁ。結構本気で攻めたとはいえ、短い間しか一緒に走れなかったし。……涼介さん、基本的な運転のテクニックに忠実なように見えるんだけど、自分の走る環境に合わせて改良を加えていった結果として、今の走りになってるような気がするのよね。基本がしっかりしてるんだけど、あの人の速さの秘密はそこだけじゃないような……」

 

妹紅(なんで一本丸々一緒に走った妖夢より最後に後追いしただけの鈴仙の方が話が具体的なんだ?)

 

はたて「一方で、弟の啓介さん……あの人は確かに結構上手いんだけど、お兄さんの方と比べるとちょっとだけ見劣りするかなって感じはあるよね。でもレッドサンズのナンバー2って呼ばれるのも納得の実力だと思う。……そりゃあ、ヤマメや妹紅みたいな地区の代表もぎ取ってきたメンバーに比べれば劣るかもしれないけどさ」

 

妖夢「それじゃあ、スピードスターズの方はどうなんでしょう……?」

 

妖夢がレッドサンズからスピードスターズに話題を切り替えると、全員微妙な顔をする。

地元を名乗るだけはあり、ある種の慣れのようなものを感じはするものの、それが速さにつながっていないのがスピードスターズの実情だった。

 

はたて「あー……スピードスターズは、どうだろうね。腕利き揃いって言われるレッドサンズとの比較になるからあれだけど……」

 

妹紅「正直なところ、あんまり上手くはなかったな。一応ドラテク関連の本は読んでいるらしいが基礎的な荷重コントロールとかタイヤやブレーキのマネジメントとかを理解しているかどうかすら怪しい。踏めばいいってもんでもないのにコーナーでもやたらに踏みたがるから後輪が暴れて危なっかしいったらありゃしないよ」

 

はたて「ちょっと、そこまで言う?」

 

妹紅「あぁ、今日は初対面ってこともあるし部分的な指摘に留めて置いたけど、悪いところは悪いと言ってやらないと、このまま変に気を使って放っておけば当日に恥をかくのはあいつらだよ。……ここは幾分マシな走りになるように、私たちの方で多少揉んでやるのがあいつらのためにもなる。別に恥をかかせることが目的でこっちに来た訳じゃないんだ。多少のお節介くらいはいいだろう。……それにな、私はこれでもあいつらの事は好感が持てると思ってるんだ」

 

はたてが言葉を濁す一方で妹紅は上手くないと言い切った。

そして同時に好感が持てるとも言って見せた。

 

はたて「へぇ……でも私もちょっと分かるかな」

 

妹紅「あぁ、1日で何度も何度もよそ者に千切られるのは地元の奴らからすれば屈辱以外の何物でもないだろうが、それでも下手くそなりに気を持ち直して食らいつこうとしてきたあの根性は流石ってやつだと思うよ。あぁいうやる気のある奴は好きだ。まぁ最後の方は大分へばってた感じはするけどね。……それに才能もないって訳ではなさそうだし本人たちの人となりだって別に悪くない。そんな憎めない奴らだからこそ、本番で恥をかかせないために私たちが多少稽古つけてやる程度でちょうどいいのかなって思うんだ」

 

鈴仙「なるほどねぇ」

 

妖夢「そういう事なら、私も手伝いますよ。池谷さんたち、私のFC褒めてくれましたからそのお礼に何かできたらいいなと思っていましたので」

 

妹紅「いや……その気持ちは嬉しいが、妖夢は誰かに何かを教えるって方面だと少し頼りないんだよなぁ」

 

鈴仙「そうね……涼介さんと一本まるまるご一緒させてもらったのに私よりも曖昧でざっくりとした感想しか言ってなかったし」

 

妖夢「うぅ……。二人して幽々子様みたいなこと言わないでくださいよ……」

 

幻想郷の走り屋の中でも指折りの超感覚派である妖夢はほとんど才能一本で走っているような有様であった。

それに彼女の本来の生業である剣の道においても妖夢は幼い頃より祖父の剣を見て学び覚えるというやり方で一貫していた。

その祖父も本当に大事な基礎の基礎となる部分を除けば多くを語ることなく、見て学ぶ妖夢のやり方を受け入れ彼女のやりたいようにさせていた事もあって、深く論理的に考える理論派的なタイプとは真逆の位置にいた。

当然、妖夢が誰かに何かを教えようとする際も「見て学べ」というスタンスとなってしまうためについて行ける人とついて行けないとの差が激しいのだ。

ちなみに、この才能一辺倒の超絶感覚派の妖夢のやり方に唯一ついて行くことが出来たのは幽々子ただ一人のみである。

 

妹紅「ふぅ……それにしても、私たちも結構走ったな。ここに来る直前にすぐそこのスタンドで満タンにしてから来たってのに、もうガソリンが半分も無いよ。タイヤもまだ余裕があるとは言え結構使ったし、そろそろ頃合いかな。レッドサンズもスピードスターズも軒並み帰ったわけだしさ」

 

鈴仙「ガソリンもタイヤもよく使うのはチューニングカーの宿命よね。結構な本数走ったから私の180ももう半分もないわ」

 

妖夢「私もそろそろ危ないですね。まぁ、燃費の悪さは如何ともし難いですよね。こればっかりは諦めるしかないですよ」

 

妹紅「それじゃあ私たちもぼちぼち解散するか」

 

鈴仙「そうしましょう。私もなんか疲れてきちゃったし」

 

はたて「私はあと何本か走ってから帰るわ。外の世界の峠、なんだか新鮮で走ってるうちに楽しくなってきちゃった」

 

妹紅「分かった。他のメンバーにもそう伝えておくよ。気をつけてな」

 

はたて「えぇ、お疲れ様」

 

 

 

 

 

一人、また一人と帰って行き、夜は更けていく。

そして、東の空が薄っすらと白んでくる午前4時、それは彼ら彼女らに迫ってきていた。

 

 

 

 

 

♪ ANOTHER HERO / Daniel

 

 

 

 

 

秋名の峠を2台の車が駆け抜ける。

前の一台は高橋啓介のFD3S型のRX-7、その後を追う姫海棠はたてのST205型セリカGT-FOURだ。

はたてと啓介が、お互い今日ラストの一本ということで、せっかくだからと軽いバトルに興じていたのだ。

 

啓介(走りなれない峠で、なおかつ多少タイヤも消耗しているせいでお互い全開走行とまでは行かないが、それでも本気に近いペースで流す俺に付いて来るか。……四駆乗りにしちゃあ結構やるな。ただマシンのスペックを頼りにベタ踏みにしてるだけのカスじゃねぇってわけか。コーナー2つでミラーから消える地元の連中なんかよりもよっぽど手強い奴だな。今日俺の背中をつっつきやがった黒いFDもそうだが、やっぱコレぐらいはやってくれなきゃ張り合いがなくて面白くねぇ)

 

はたて(改めて見るとよく分かる。噂通り上手いわね。コースとタイヤのコンディション的に全開走行ではないとはいえ、それでも並の走り屋からは頭一つ抜けてる。さすがはレッドサンズの高橋啓介ね。多少荒削りっぽいところもあるけど、他の走り屋が彼の実力を認めてプロからも一目置かれているのも納得だわ。磨けば磨くだけ光るダイヤの原石っていう紫が調べさせた事前情報も理解できる気がする。……いつかお互い万全のコンディションを整えて再戦したいわ)

 

前を走る啓介のFDに、後を追うはたてのセリカ。

お互い内心でその実力を認め合う中で、それに水を差す乱入者が現れる。

まずは後方を走る後追いのはたてが気づいた。

 

はたて「後ろから誰か来る?……うちのチームでもレッドサンズでもない」

 

バックミラーにちらりと映るリトラクタブルのヘッドライト。

それはストレート区間では若干差が付くもののコーナーではかなり大きく詰めて来る。

前方の高橋啓介もどうやら接近する何かに気がついたようだ。

 

啓介(いつの間にかセリカ以外に一台増えてやがる。まだ多少距離があるが……どこのどいつだ?少なくともうちのチームじゃないな。あまり大きな車じゃなさそうだ。……リトラクタブルっぽいが、この感じ……MR2でも180SXでもない)

 

はたて(徐々に近づいて来る。プレッシャーも感じるようになって来た……!)

 

啓介(やっぱり差が詰まってる!それに、後ろのセリカの反応を見るに、ファンタジアのメンバーでもねぇのかよ!)

 

啓介は後ろのセリカがその乱入者に対してイン寄りのラインを警戒して微修正し、対抗する姿勢を見せたことに違和感を抱いた。

彼女たちは近くに仲間の車が走っているときは必ず譲るか、協調するように動いて来た。

仲間同士でもあからさまに対抗心を見せ合うようなことはなかった。

 

後ろのセリカもその例に漏れず、おそらくは彼女よりも速いと思われる黒いFDや赤いエボⅥが来たときは大きくラインを譲り先へ進ませ、アリストとS14が競っている場面に出くわしたときは自分に意識を割かせてそれとなくアシストするように立ち回っていたらしい。

そうした彼女たちの集団戦における立ち回りやテクニックの数々を、すでに啓介は他のレッドサンズのメンバーから聞いている。

そうした行動に出ていないということは、後ろのセリカもこの車に心当たりがなく、現状では敵と判断しているのだと啓介は読んでいた。

 

そして、さらに2つ3つとコーナーを抜けると、ついにその乱入者の正体が明らかになる。

 

はたて「まだ近づいて来る!これは……ハチロク!?」

 

啓介「ハチロクだと!?……ふざけんな!」

 

後方からこれほどの差を詰めて来た車の正体、それはAE86……とっくの昔に型落ちとなっている旧型のトレノだった。

これには両者ともに驚きを隠せなかった。

啓介の駆るFD型RX-7も、はたての駆るST205型セリカGT-FOURも、加速から最高速度、そしてコーナリングまであらゆる性能でAE86を凌駕しているマシンであり、本来であればほとんど相手にならないような車だった。

片やシーケンシャルツインターボを搭載した直列2ローターのロータリーエンジン、片や2リッター直列4気筒インタークーラーターボ。

ましてやこの2台はエンジンに手を入れた300馬力オーバーのチューニングカー。

エンジンだけを比較しても、ターボすらも無いテンロク(1.6リッター)のNAではどうしても見劣りする。

そのスペックの差をひっくり返してここまでやって来たのだからこの2人をして驚嘆せざるを得なかった。

 

はたて(コーナーの連続するこの区間で一気に近づいて来る。ラインの選択に迷いがないし、コーナーへの進入スピードが段違いに高い。こっちは四駆の優秀なトラクション性能、何よりハチロクに勝るエンジンパワーがあるから立ち上がり加速では優位に立てても、それを上回る突っ込みの差で大きく詰められる!このハチロク、とんでもなく上手い!)

 

啓介(なんだ……?何が起きてるんだ!なんでこんなに詰められるんだ!4WDターボのセリカならまだしも、この俺が……FDが、ハチロクなんかに……時代遅れのオンボロハチロクなんぞに性能差をひっくり返されて詰められるなんて、ありえねぇ!そんなの絶対に認めねぇぜ!クソッタレ!)

 

コーナーの連続するテクニカルな区間になると一気に差を縮められてついには3台が密集したいわゆる団子状態へともつれ込んだ。

そしてついに秋名の難所の一つと言われるコーナーへと差し掛かる。

そこでハチロクが一気に仕掛けた。

緩い右のコーナーの先に隠れたタイトな左に備えるために減速するFDとセリカをよそに、ほとんどノーブレーキで突っ込み2台を横から抜き去るハチロク。

ハチロクの無茶とも思える突っ込みに啓介とはたては目を見開き驚愕する。

 

啓介(減速しねぇ……!?無茶だ!何考えてやがる!)

 

はたて(この右の先はキツい左!このゆるい右は抜けられても左は確実にオーバースピード!)

 

啓介(言わんこっちゃねぇ!スピードが乗りすぎて遠心力でケツが出てる!立て直して減速するスペースはもうねぇ!)

 

高速での進入によりリヤが滑るハチロク。

 

はたて(カウンターステア……やっとミスに気づいて立て直そうと……いや、まさか!?)

 

啓介(なにッ!)

 

次の瞬間、ハチロクは大きくインに切り込み甲高いスキール音を響かせながら慣性ドリフトに移行する。

 

啓介(慣性ドリフト……!)

 

ハチロクが右コーナーで見せた、一見ただのミスとすら思えたそれらの挙動は全て、次の左コーナーを慣性ドリフトで駆け抜けるための姿勢作り。

その腹が立つほど完璧なスーパードリフトに呆気にとられ、啓介がスピンを起こし、それを間一髪のところで回避したはたてのセリカもサイドブレーキを引きながら啓介のFDとは逆方向に車を回転させうまく速度を殺して停止させた。

 

はたて「ちょっと……あんた大丈夫?」

 

啓介「あぁ、なんとかな。……俺もFDも問題ねぇよ」

 

はたて「ならいいけど……」

 

啓介「……お前の方はどうだ?」

 

はたて「私の方も問題ないわ」

 

啓介「そうか。……それよりも、何だったんだ今のは……。俺たちは秋名山で死んだ走り屋の幽霊でも見ていたのか……」

 

2台でハザードを点灯させて啓介とはたてが車外に出るとお互い顔を見合わせる。

すでにハチロクのエンジン音とスキール音は、はるか彼方に遠ざかっていた。

 




活動報告欄にリクエスト募集ページを設置いたしました。
詳細な条件や注意事項に関しましては当該ページに記載しておりますのでそちらをご参照ください。

2023 / 06 / 02 11:36 誤字訂正。

2023 / 11 / 28 17:15 誤字訂正。
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