東方頭文字D 〜 Lunatic Stage 〜 作:D-Ⅸ
感想や評価、または誤字誤植の指摘等もよろしくお願いします。
ちなみに、今回出てくるオリキャラの一部にもやはり、原作にモデルがいます。
2022年11月12日 15時11分
タイトルがニ分割前の仮題のままだったため急遽訂正いたしました。
あの三つ巴の戦いの翌日。
秋名山麓のファミレスにて、店舗の奥まったところにあるボックス席を借りて昨日いなかったメンバーである東 隆春と中山 四郎、吉村 翔一も含めたスピードスターズが総出で顔を突き合わせ話し合っていた。
池谷「今日全員で集まってもらったのは、みんなで共有しておきたい大事な話があるからなんだ」
池谷がそう切り出す。
昨日いなかった一部のメンバーを除いた健二、守、滋はほぼ確実に昨日の出来事に関する話だと察していたが、一方でいなかった側の東と中山と吉村の3名はなぜ池谷たちがこんなに疲れたような、あるいは少々緊張したような態度になっているのか、何が何やら理解できていない様子であった。
池谷「四郎と隆春と翔一は昨日いなかったからまずはここから話すことになるけど、まず一つ……昨日、俺たちが集まってる時に赤城レッドサンズとチーム・ファンタジアの代表が仲間引き連れてやって来てな……。そこで話し合った結果、その赤城レッドサンズとチーム・ファンタジアの2チームと俺たちとの合同で、来週の土曜日夜に交流会を開くことになったんだ。俺たちのホーム、秋名の峠で」
四郎「赤城レッドサンズ!?確か赤城最速のチームだよな!マジかよ……」
隆春「あぁ、ただでさえレベルが高いって言われる赤城の走り屋の中でも最速で、特に高橋兄弟は関東でも指折りの走り屋だよ」
翔一「でも、そんな有名どころの奴らがいきなりどうして秋名に乗り込んできたんだ?」
池谷「さぁな、裏で何考えてるかなんて分かんねぇよ。でも挑まれた以上は地元の走り屋に逃げるなんて選択肢はないだろ?一応俺らは秋名最速を名乗ってたんだからさ」
翔一「まぁな……って、それよりも……もう一つのチーム・ファンタジアってのは聞き覚えがないんだけど、どこのどんなチームなんだ?この辺の奴等じゃねぇよな」
まさかのレッドサンズの名前に驚く四郎をよそに、翔一は聞きなれないチームの方に興味を示す。
池谷「あー……それなんだがな、あれこれ言うよりもちょっとこれ見てもらった方が早いと思う。健二たち……昨日いたメンバーはレッドサンズと一緒になって集まったり車並べたりして何枚かあの子たちと写メ撮っただろ?それ見せるぞ。……どうせ口で言っても信じてもらえないだろうし」
隆春「口で言っても……って何だよ。それどういう事だよ。それにあの子達ってまさか……」
四郎「いや、マジ昨日何があったんだ?どうしちまったんだよみんな……」
翔一「なんつーかさ、リーダーもみんなもテンション上がったり下がったり、様子が変だぞ?山のキノコでも拾い食いしたか?」
池谷の言葉と、四人で同時にポチポチとケータイを弄り始めた様子に、怪訝な表情を浮かべる残りのメンバー。
彼らから見て四人は、沈んだような緊張したような疲れたような負のオーラを発しているように見えるのにその一方で、表情を見るに口角がわずかに上がっていたり目元が少し緩んでいたりで何やら嬉しそうな浮かれた空気感も垣間見えていた。
たった一晩見なかったうちに何が起きたらここまで正と負の感情が複雑にミックスされたものを全身から醸し出す人間が出来上がるのやら、彼らには皆目見当も付かなかった。
健二「まぁ、そう言われてもなぁ。俺らから見ても昨日のことはあまりにも現実感なくてな……ちょっと待ってくれ写真選んでっから」
池谷「本当に言葉の通りなんだ。俺たちでさえ証拠になる写メがなきゃ昨日あったことが現実なんだっていう確証も持てないくらいなんだよ。まぁ、論より証拠って奴だな。……これでいいか」
守「俺がお前らの立場だったら証拠がなけりゃ絶対に1ミリも信じないで夢や幻覚でも見たんだろって笑っちまう自信があるよ。……うん、こんなもんかな」
滋「だよなぁ、良くも悪くも、昨日のアレはそれこそ夢か幻みたいだったもんなぁ。……よし」
そう言って3人の前に差し出された4つのケータイ画面を見た瞬間、3人は爆発した。
隆春「お、おいおいおいおい!お前らコレ何だよ!何だこの可愛い子たちはよぉ!お前ら最初テンションだだ下がりでここに来た割には昨日そんなに美味しい思いしてたのかコラァ!」
翔一「ちょ、ちょい待てなんだこの美少女軍団!華があるとかそういうレベルじゃねぇぞこれ!マジで何なんだ!?レッドサンズの追っかけか!?」
四郎「特に池谷お前!この集合写真!野郎どもは良いとしてもこの美少女軍団は誰がどっから連れて来たんだよ!つーかこの子たちマジで誰なんだよ!めっちゃ可愛いじゃねぇか!」
池谷の写真は一言で言えばその日いた各チームのメンバーで撮った集合写真だった。
地べたに座っている人、中腰程度に屈んでいる人、立っている人と様々だが全員カメラ目線でいい表情をしている。
後ろにはS13、S14、180SXなどのシルビア系やFDやFCにGC8インプレッサ、アリストなどの車が写り込んでいた。
池谷「あ、あぁ……実はこの女の子たちがそのチーム・ファンタジアのメンバーなんだ。いわゆるレディースチームって奴でさ……メンバー全員が女の子なんだよ。この写真は俺らとレッドサンズとファンタジアの3チームで集まって撮った写真なんだ」
隆春「はぁ!?」
四郎「女の子だけのチームだぁ!?」
翔一「美少女走り屋チームが秋名に来るとか、そんな夢のようなイベントがよりにもよって昨日あったのかよ!」
四郎「くっそー!何で居なかったんだよ俺たち!それさえ分かってりゃ残業なんか蹴っ飛ばしてでもフルスピードで峠にカッ飛んで行ったのに!」
隆春「昨日急に飛び込んできた仕事で山に行けなかったという、たったそれだけの事でこんな特大の出会いを、人生を変えたかもしれない数時間を逃してしまったのか俺は……」
健二「いや、そんなに落ち込むなよ……交流戦にくれば確実に他のメンバーとだって会えるし今日や明日にも練習走行とかで何人か秋名に来てるかもしれないだろ」
池谷の説明を聞きなおのこと加熱し、嫉妬し、悔しがる3人。
そして今度は口を挟んで来た健二に標的が移る。
四郎「それで健二、お前もか!お前に至っては美少女走り屋と同じ色の同じ車に乗ってるからって仲良く後ろに愛車並べてツーショットかよ!死ぬほど羨ましい……じゃない!女にうつつを抜かすなんて走り屋としてだらしないぞ!」
池谷「出てる、出てるぞお前。本心が」
健二「そりゃあ……白い180SXに乗ってる人間の特権って奴だよ。それに、最初に声かけたのは俺じゃなくて鈴仙ちゃんたちの方からなんだぞ」
隆春「なん……だと……ッ!お前、マジかよ……。俺はてっきり、健二がダル絡みして撮ったものだとばかり……」
そう言って真っ白に燃え尽きた矢吹丈のごとく崩れ落ちる隆春。
守「あぁ、最初に声かけてきたのは向こうからだったよ。びっくりしたし、初めは緊張したよな俺ら」
健二「隆春あのなぁ、お前俺をなんだと思ってるんだ?……まぁいいや、ここから話が大きくなって、レッドサンズも巻き込んだ集合写真に繋がってるんだぜ」
隆春「マジかよ……あぁ……なんで、なんで俺昨日いなかったんだよ……」
もし昨日、秋名山に行けていたら、可愛い子との縁を紡げたかも知れない。
愛車と一緒に憧れのレッドサンズや美少女走り屋チームと一緒に、一生モノの思い出になる写真を撮れていたかも知れない。
それを「残業で疲れたからいいや」で山にいかなかったせいで潰してしまったという事実が隆春のメンタルに相当なショックを与えていた。
池谷「それにしても、本当に良い子だよなぁ……鈴仙ちゃん。俺が下で拾って来た後輩のうちの一人を俺の代わりに麓のバス停まで送ってくれたのが彼女だったからな。みんな走って出て行っちゃうのに、車の無い二人だけを上に残していくのは可哀想だからってさ」
滋「性格も良くて美人でおまけに車が趣味とか、俺らにとっちゃ非の打ち所がねぇよな」
翔一「え?もしかしてその後輩の子、横乗りさせて貰ったのか?」
守「あぁ、そうみたいだよ。1人は180SXの、もう1人の子はFDの助手席に乗って降りてったよ。全くあんな可愛い子の車に横乗りとか、羨ましい限りだよ」
滋「今度あったら感想聞かせてもらおうかな……」
隆春「良いなぁ、めっちゃ羨ましいぜ。自分が運転して隣に女の子ってのもアリだけど、自分が助手席で女の子が運転ってのもそれはそれでアリだよな。横からアドバイスとかしたりしてさぁ……」
四郎「分かるぞ、それ。コースの難所とか、シフトチェンジのコツとか教えてあげて、がっつり好感度稼ぐんだよなぁ」
と、そこであの時に居合わせていた四人から笑顔がスッ……っと消える。
もちろんその原因は言うまでもなく、あのぐうの音も出ないほどの完全敗北にあるのだが、それをこの彼らはまだ知らないのだった。
そして、話題は自然と守や滋の写真に移っていく。
守の写真はアリストに背を預けながら微笑む幽々子の写真、滋の写真は走り出す直前を思わせる、FCとFDが横一列に並ぶ写真だった。
四郎「うわぁ……なんか見方によっちゃあちょっと怖そうだけどすげぇ美人だなぁ、この人。……なんで着物着てるのか分かんないけど」
隆春「あぁ、なんかいかにも大和撫子って感じ。後ろのアリストも綺麗だしな。黒……いやダークブルーかなこれ。……この人もファンタジアのメンバーなのか?」
池谷「あぁ、この人は西行寺幽々子さん、ファンタジアの出資者……要はスポンサーで、本人もチームに特別顧問として在籍しているって話だよ。メンバーは彼女の友人が個人的な伝手を使ってスカウトして集めたんだってさ」
四郎「え?何それ……スポンサーとか顧問とか、そんな大げさな肩書き付いてんの?しかもスカウトっておい」
隆春「そんで出資者って言ったよな。まさか走り屋チームにお金持ちのバック付いてるのか?」
健二「そうらしい。ちなみにどんな家庭なのかそれとなく聞いてみたら今は華道や書道、茶道みたいな文化芸術方面で活躍しているそれなり程度の家って話だけど、大昔は武家だったらしいよ」
四郎「マジモンのお金持ちっていうか、普通に名家のお嬢様ってやつじゃん」
隆春「やべぇな……何でそんな人が走り屋の支援者なんてしてんだろうな」
二人は次に守の写真に目を向かわせる。
黒のFDと緑のFCが並べてあり、そのすぐ側のガードレール脇には先ほどの写真に写っていた幽々子ともう一人、携帯を片手に持つ茶髪をツインテールにまとめた少女が立っていた。
隆春「で、こっちはFDとFCの組み合わせだよな」
四郎「ってことは高橋兄弟か?」
滋「いや、この写真もファンタジアを撮ったものなんだ」
四郎「え?でも、この組み合わせで走ってる走り屋なんて高橋兄弟以外にいないんじゃ……」
隆春「いや、高橋兄弟とは車の色が違うんだ。赤城でギャラリーした時に見たけど高橋啓介のFDは黄色で、高橋涼介のFCは白だよ」
池谷「こっちの黒いGTウィングのFDは黒谷ヤマメちゃん。さっき教えた鈴仙ちゃんの180SXと一緒に俺の後輩を送ってくれた子だよ。で、この緑のFCは魂魄妖夢ちゃん。剣術道場の娘で、今は幽々子さんの屋敷で働いてるんだってさ。多分、幽々子さんがチームのスポンサーになって支援してくれてるのもこの子の繋がりなんだろうな」
四郎「はえー」
翔一「ひえー」
隆春「ふえー」
健二「おいお前らいきなりどうした?壊れちまったか?」
翔一「いや、もう情報量多すぎて逆にリアクション薄くなるわ……」
四郎「だよな。大事な話があるっつーから多少のことはある程度身構えてたから大丈夫だとは思ってたけど、これは多少ってレベルじゃねぇもんな……」
隆春「流石にここまで見せられたらもう疑う余地もねぇよ……。あ、ところでさ、こうやって発進準備をしてるってことはもちろん走るんだろ?この子たちの走りってどんなもんなんだ?」
隆春がそう口にするとやはり昨日いた4人の纏う空気が一段と重くなる。
池谷「あぁ……えーっと、それなんだがなぁ」
四郎「ん?どうしたんだ?」
健二「うーん……やっぱ言いにくいよなぁ」
隆春「なんだ?もったいぶって。……まさか、めっちゃいい車乗ってる割に超下手とか……?」
池谷「いや、その……まぁ、秋名の走り屋としても、個人的にも、ちょっと悔しいというか……恥ずかしい限りなんだがな。……あの子たち、めっちゃくちゃに速すぎるんだ」
隆春「え?」
四郎「は?」
翔一「ん?」
池谷の口から出てきた予想外の言葉に固まる3人。
秋名スピードスターズは今まで秋名最速の走り屋を自称していて、なおかつそれだけの自負もあった。
特に池谷はスピードスターズ以外秋名の走り屋チームたちからも一定の評価を得ていたはずであるし、その池谷を持ってしても速すぎるなんて言わせる走り屋は、それこそレッドサンズの高橋兄弟くらいのものだろうと3人は思っていた。
健二「最初の一本目、俺たちが先に出たのにものの数秒で追いついてきて余裕で横からぶち抜かれたもんな。すんごい猛スピードで追いかけてきて、そのままとんでもない速さでコーナーの向こう側に消えて行ったよ」
池谷「まさか他の山の走り屋がこんなにハイレベルだなんて思わなかったなぁ。……俺たち、レッドサンズにだって序盤に少しテールランプを拝めた程度であっという間に置き去りにされたし、正直ヘコむぜ」
滋「すっげぇ進入スピードでドリフトしてさ、そのまま俺の真横飛び抜けてってさ、もう超絶上手すぎて言葉もねぇよ。そもそも走り屋としての格が違うって、こういうことを言うんだろうな。秋名の走り屋としては恥ずかしいとももちろん思うけど……正直どっちを相手に仕掛けようとしても、最初っから勝負にならねぇっつーか……」
守「コーナーの進入から脱出まで何一つ勝てないし、直線なんかもう話にならないしで自信無くすよ。なんせ、張り合ってブロックしようとしても空いてる側をスルッと抜けてった感じだったからさ、実質的には半ば道を譲ったのと同じようなもんだよ」
健二「情けない話だけど文字通り相手にすらなってなかったもんな俺ら。その後で普通にあの高橋兄弟を追い回してたくらいだから、実力は本物なんだろうなぁ……」
滋「こう言っちゃ失礼かもしれないけど、あんまり走りの得意じゃなさそうに見えた幽々子さんだって、俺らより圧倒的に速かったからな」
池谷「あぁ、みんな本当に速かったよなぁ。なにせレッドサンズの一軍ですら勝てなかったって言ってたからな。レッドサンズ未満の俺らなんか秒殺だったよ。……地元としちゃあ悔しくて悔しくてたまらねぇけどさ、でもそういうのを抜きにして一人の走り屋として見ればみんな尊敬できるくらいの実力者ぞろいなんだ。ほんと、すげぇよ」
四郎「嘘だろ……そんな上手い奴らばっかなのか?」
翔一「リーダー……ま、マジなのか?それ……」
隆春「高橋兄弟についていけるほど上手いって、なんだそりゃあ……」
池谷「あとになって聞いたんだがな、何でも発起人とその関係者のコネを使って集めた、腕試しを目的とした実質的な全国女子選抜チームの様なものだってさ」
口々に語られる彼女たちの実力に思わず引いてしまう3人。
赤城最速どころか群馬最速とすら言われるあの高橋兄弟と互角に渡り合うほどの走り屋の女の子というのは、最早彼らには想像もつかないレベルの話であった。
健二「で、俺らとそれ以外のチームに圧倒的な実力差があることはわかっただろう?そこで、もう一つの大事な話に繋がるってわけだ」
池谷「交流会まで一週間未満、相手はどっちも圧倒的格上チーム。しかも当日に向けてギャラリー集めるって話だ。……実は、交流会の最後に代表出してタイムアタックバトルをすることになってるんだけどさ、実力差を考えたら今から何したところで全戦全敗だ」
健二「……地元名乗ってる癖に大勢のギャラリーの前で余所者に散々カモにされた挙句に大差でぼろ負けしたとなりゃあ、しばらくの間は俺ら笑いもんにされるのは確実だろうな」
池谷「俺たちが笑われる分には別にいいんだよ。下手くそだった俺たちが悪いんだ。……でもあんまりにも情けない負け方晒した結果として、秋名の走り屋全体まで舐められたりしないかって考えてるんだ。最大の懸念点はそこなんだ。俺たちのせいで余所者に山荒らされちゃあたまんねぇし当然責任だって感じるよ。俺らが恥さらしたせいで他の奴らにまで迷惑がかかるのはもちろん本意じゃねぇし、正直忍びねぇというか……。とにかく、負けを覆せなくてもいい。どうにかして少しでも食らいついて、格好の一つでもつけとかないとダメだろう」
池谷と健二の口から語られる最悪の未来の形。
それを回避するために、自ずと意見を出し合う。
四郎「じゃあ今日ここに集まったのはそのための作戦会議って訳か」
隆春「でも、どうすんだよ。どっかから助っ人でも呼ぶのか?」
守「いや、赤城最速の高橋兄弟と、それと互角に戦う奴らに勝てる走り屋なんか秋名にいるかよ」
隆春「そこなんだよなぁ……」
翔一「ゲーセンでランキングボード常連の上手い奴なら何人か知ってるが、実際の峠ってなるとなぁ……」
滋「ゲーセンって、セガラリーだろ?あんなゲームのドラテクが現実の役に立つもんか」
四郎「まぁ、助っ人に関しては、走ってる曜日とかが違うせいで俺たちの目に止まってない奴らの中に、そう言う腕利きのがいるのを期待するしかないよなぁ」
池谷「実はその助っ人に関してなんだが、一人だけ心当たりがあるんだ」
隆春「え?マジでいるのかよ」
池谷「……うちのガソスタの店長が昔秋名の走り屋だったって前に言っただろう?その時に秋名最速は誰かって話題になってな……店長は知り合いの乗るハチロクだと言ってたんだ。昔は自他共に認める秋名最速の走り屋だって軽く伝説になってたらしい。しかも、その人は今でも秋名の峠を走ってるんだとさ。……実際、俺たちとは走る時間が違うらしくて、全然気がつかなかったけどな」
健二「ただし、そのハチロクに協力して貰えるとしても、頼って良いのは一度限りってところだろう」
池谷「あぁ、そいつに全部任せて結局俺らが走らないんじゃ意味がねぇからな」
助っ人に頼るにしたって限度はある。
たとえレッドサンズやファンタジアの代表クラスのメンバーに対抗できるかも知れない凄腕のハチロク乗りを見つけ出し、その人に助っ人の依頼を取り付けたとしても、そう何度も何度も往復させる訳にはいかなかった。
第一、今回の交流会は赤城レッドサンズとチーム・ファンタジアの両チームから秋名スピードスターズに持ちかけられたと言う形になるので、本来メインで走るべきなのは当然この交流会のいわば主役である地元の走り屋、池谷たちスピードスターズになる。
助っ人はあくまでも助っ人でなければならない。
それなのにその助っ人を前面に押し出して自分たちがコソコソ逃げ隠れているようでは、それこそ走り屋失格だ。
例え負ける事が分かっていても、恥をかくかも知れないという事が分かっていても、一度走ると決めた以上は覚悟を決めて走るしか無い。
池谷たちも、当然そのことは重々承知だった。
結局のところ、助っ人というのはあくまでその場凌ぎの他力本願であって、今直面している「秋名スピードスターズというチーム全体の絶望的な実力不足」という深刻な問題に対する根本的解決策には決してなり得ないものだった。
たとえバトルに勝ってこの場はなんとかやり過ごしたところで、上手いのはその助っ人であってスピードスターズではない。
自分たちのスキルアップという深刻な課題が達成されていない以上、結局それでは意味がない。
健二「じゃあドラテクの本読んで勉強するとか……」
池谷「それはすでにやってるだろ」
四郎「じゃあもうマシンスペックを近づけるために今あるお金で弄るだけ弄ったらどうだ?タイヤ良いの履かせるとかブレーキパッド交換したりとか」
池谷「どの道それはやるつもりだよ。特にタイヤは遅かれ早かれちょっと奮発して国産に交換するつもりだった。……今までのケチケチ安物海外タイヤじゃどんなに攻めたって無理だからな。ちょうどいい機会だろう。……だけど、それだけでどうにかなるとは到底思えないんだよ。たかが1秒2秒ならまだしも、ざっくり30秒近いタイム差つけられてぶっちぎられたんだ。……間に合わせのチューニングに、本を読んだだけの付け焼き刃のドラテクじゃどうにもならないだろ」
四郎「そんなに実力がかけ離れてんのかよ」
翔一「じゃあ、もうあれか?打つ手なしって奴なのか?」
池谷が溢した30秒近いタイム差という言葉に絶望する。
滋「……そこで、なんだけどさ……。俺から提案があるんだ」
池谷「どうしたんだ?滋」
滋「昨日から考えてたんだけど、俺たちだけじゃどうにもならないなら、もう開き直っちまえばいいんじゃねぇかな」
四郎「つまり……どう言うことなんだ?」
滋「速くなりたいなら、速い人から教わればいいんだよ。レッドサンズでも、ファンタジアでも、あるいは多分いるかもしれない助っ人でもいいさ。とにかく、今なら腕のいい走り屋は秋名に行けばいくらでも居るだろう」
健二「なるほどな……」
守「いや、でもさ……後ろについて観察してテクニック盗もうにも、秒で置いてかれる俺らじゃあ無理があるんじゃないか?それは昨日思い知ったろ?」
守はあくまで相手から技術を盗む事でどうにか差を埋めようというのだと考えていたが、滋はそれにあえて被せる形で否定する。
滋「……違うんだ。俺が言いたいのはレッドサンズやファンタジアのメンバーから、簡単なものでもいいからそれとなくアドバイスをもらえないかって事なんだ」
守「よそ者に走りを教えてもらうつもりかよ。でもそれって、本番前に負けを認めるようなものなんじゃ……」
守の指摘はもっともだった。
それは当の滋を含めて誰しも思うことではあった。
滋「あぁ……。でも実際遅いだろ、俺たちは。ぐうの音も出ないほどにさ。それこそ昨日痛いほどに思い知ったじゃねぇか」
池谷「確かになぁ。まぁ、言いたいことは分かるぞ。最終的に勝てなかったとしても、秋名の走り屋だって少しはやるんだぞってところをギャラリーの前で、他でもない本番で見せつけなきゃならない。練習でいくら無様晒したって良い。一番大事なのは本番なんだ。より大きな致命的な大失態を避けるために、いっときの恥程度はプライド曲げてでも甘んじて受け入れるべきだってことだろう」
滋「あぁ、昨日散々に負けまくったのはショックだったけど、でもそのおかげでこのままじゃダメだって分かったんだ。それにな、小さなプライドにこだわって走り屋としての成長の機会を逃す事があっちゃあならないとも思ってるんだ、俺は。……それにこれは交流会だ。あくまで他のチームの走り屋同士で親睦を深めようってのが表向きの理由な訳だし、お互い潰し合う様なものじゃない。そこまで意地張らなくたっていいんじゃないか?」
滋と池谷の言う通り、最早無いも同然の地元のプライドがどうとかウダウダ言っていられる場合ではないというのも確かに事実ではあったし、地元の走り屋としてはある種屈辱的ですらある滋の案でも、最終的には「ダメなままの現状を脱して効率よく走りのスキルアップをすること」と「少しでもサマになる走りを身につけて、本番のギャラリーたちの前で秋名の走り屋の面目を最低限は守ること」というスピードスターズの最優先目標はある程度の確実性を持って達成できるだろうこともまた、それぞれ思うところはありつつも理解のできることだった。
それから数分ほど話し合うも、特にこれという妙案も実力差を覆す起死回生の一手も思い浮かばず、結局は「独自のアプローチでドラテクを磨きつつ、タイヤを良いものに履き替えるなどの今できる範囲で車を弄りつつ、誰か協力してくれる腕の良い助っ人を探しつつ、レッドサンズやファンタジアのメンバーからそれとなくドライビングのコツを聞き出す」というなんとも冴えない結論となってしまった。
ドラテクを今まで以上に真剣に磨くにしろ、誰かからアドバイスを聞き出そうとするにしろ、何をするにしてもまずは山に行かなければということになり、秋名スピードスターズはそれぞれ会計を済ませてそのファミレスを後にした。
目指すはもちろん秋名山。
昨日いたメンバーに翔一のイエロイッシュシルバーツートンのS13に、隆春の白いS12シルビアと四郎の黒いAX7アルシオーネを加えてスピードスターズの隊列は夜の街へと消えていった。
そういえば写メという言葉も今は死語扱いらしいですね。
次の話からその次にかけて、設定への大幅な加筆を行う予定です。
ちなみにリクエストに関してですが、投稿されたリクエストは必ず確認しています。
設定の大きな改変を伴う上で採用となった場合は、事前に許可と確認のメッセージを送信いたします。
一応、フラグらしきものは建てましたが……。