小学生では卓球で全国、中学時代は野球部エースで4番な男。山内春樹 作:最強系
その男は天から授けられたる優れた観察眼を持ち、幼少期からの訓練による高い身体能力を持っていた。
「俺は山内春樹。小学生の時は卓球で全国に、中学時代は野球部でエースで背番号は4番だった。けどインターハイで怪我をして今はリハビリ中だ。よろしくう」
彼は運動面において秀でた才能を持っていたが、馬鹿である。
また、サイコパスであり人の心が分からない男であった。
_____
東京都高度育成高等学校。
日本政府が作り上げた、日本の未来を支えていく若者を育成する事を目的とした学校。この学校の卒業生は希望する進路に必ず進むことができるとされている。
山内春樹は学力こそ低かったものの、高度育成高等学校に合格した。
早朝、彼は学校行きのバスに乗り座席に座りながら、これから通うことになる高校に対して思いを馳せていた。
(高校では胸の大きくて美人な彼女を作って、童貞を卒業するぜ。)
少年は大志を抱く。
しかし、彼の顔面偏差値や恋愛経験では、もう少し難易度を下げるべきであることを少年はまだ知らない。
数刻ほど下卑た欲望を抱えながら景色を眺めていると、乗客は数を増していた。乗客の大半は同じ高校の制服を着た生徒である。彼は座席に座れない生徒たちを目に入れると、これから学友となる彼ら彼女らに対して、いい気味だと思った。
彼に人を慮ろうとする意思はなかった。
良い気分の中バスに揺られていると、車内に栗毛色の少女の澄んだ声が響いた。
「ねえ、席譲ってもらえないかな。そこ優先座席だし、お婆さんに座ってもらった方がいいと思うの」
山内は少女の主張に何一つ共感できなかった。それに、少女は自分に声をかけているわけでもない。
無視をしようと考えたが、少女は胸が大きく美人であるため、お婆さんに席を譲ることにした。
下心見え見えの点数稼ぎである。
「どうぞ、俺の席を使ってください!」
彼の妙に爽やかな声は、必然少女ーー櫛田桔梗の胸の辺りを凝視しながら発声された。
結果として、お婆さんにはとても感謝をされたが、櫛田桔梗に彼の浅知恵は効かなかったようだ。もちろん、山内春樹はその類稀なる観察眼によって、櫛田桔梗が彼に嫌悪感を抱いたことに気づいていた。だが、その原因に対して全く心辺りがない。
望みを叶えたはずなのに、少女との心理的距離が近くなることはなかった。
彼に人の心は分からない。
_____
バスは無事に高度育成高等学校に到着した。
予定通り入学式を終えて、現在は放課後。彼は仲良くなった同じクラスの男子生徒の池寛治と会話していた。彼は池寛治に親近感を感じており、仲良くなるのに時間はかからなかった。
会話の内容は、やれあの子は可愛いだの、あの子は胸が大きいだの下らないものだ。
会話を聞かれて、周囲からの好感度を落としているが、サイコパスである山内春樹は気づかない。
ホームルームでは、クラス担任の茶柱佐枝が何か気になることを言っていた気がするが、山内春樹は馬鹿である。放課後になる頃には、何も覚えていなかった。彼の脳みその記憶容量では、精々「茶柱佐枝は胸が大きくて美人」「毎月10万円相当のポイントが貰える」「櫛田桔梗は胸が大きくて美人」程度しか覚えていないだろう。
長い金髪のイケメンが自己紹介を始めたため、会話を止める。
興味がないイケメンの自己紹介が終わり、続々と皆の自己紹介が始まる。
「僕の名前は平田洋介。中学では……」
「わ、私は、井の頭、こ、こーーーっ」
山内春樹は自己紹介を高校デビューで1番大切なものであると考えている。しかし、彼は馬鹿であるため自己紹介で好印象を与えようという考えを持っていない。インパクトがあればある程、高校デビューは成功に繋がると考えていた。
そのため、自らの経歴を詰め込んだ自己紹介を行った。
「俺は山内春樹。小学生の時は卓球で全国に、中学時代は野球部でエースで背番号は4番だった。けど(兄貴が出場する)インターハイ(に見学に行く途中)で怪我をして今はリハビリ中だ。よろしくう」
インターハイは高校の体育大会のことであり、中学生が出場できるものではない。また、山内春樹はいかにも凡庸な顔をしており、体格も普通。お調子者のように軽い口調など、彼の経歴を嘘と断定できる材料が揃っていた。
池寛治には大ウケしたが、他の生徒達は内心冷ややかな気持ちで彼を見ていた。
こうして、クラス1のお調子者、山内春樹の学園生活がスタートした。
_____
昼休みが終わり、間も無く体育の授業が始まる。
池寛治は満面の笑みで山内春樹に話かけていた。
「今日は授業が楽しみでテンション上がるなー!」
池寛治は楽しみで夜更かししたようである。目の下に大きな隈が出ていた。
「この学校は最高だよな、まさかこの時期から水泳の時間があるなんてな。お、博士!こっち来てくれ」
山内春樹が「博士」と呼ばれる生徒を呼ぶ。
太り気味の男子生徒である博士はその身体を揺らして2人の会話に入っていく。博士も山内春樹と同様にスケベであり、直ぐに仲良くなった。
博士は女子の胸を服の上から予測できる特殊能力を持っている。博士の能力を活かし、男子生徒達はクラス内の女子の胸の大きさで賭けをしていた。博士は体育があまり好みでは無いが、これから女子達の水着姿が見れると思い気持ちを昂らせている。
その後、事前予想ランキング1位の長谷部波瑠加が水泳の授業を見学といったショッキングな出来事もあったが、1ーDの生徒達はプールに集まっていた。
山内春樹は1ーDのクラスの女子達の水着姿に股間を膨らませている。
「これは博士が作ってくれている巨乳ランキングにも期待だな!」
目の前の光景に思わず声を弾ませると、博士と呼ばれる少年が焦ったように答えた。
「山内殿!こ、声が大きいでござるよ……!」
下心丸出しの彼らの発言にキモッと誰かが呟いている。
当然、山内春樹はその呟きを聞き逃すことはなかったが、態度を改めることはない。
一方、同じ1ーDの生徒である黒髪の少女、堀北鈴音。
彼女は日頃の猥談を時々耳にしており、生理的な嫌悪感から彼らを視界に入れようとしなかった。しかし、山内春樹のあまりにも大っぴらな発言に怒りが抑えられず、注意しようと目線を彼らの方向に向ける。すると、山内春樹の無駄の無い引き締まった身体に目が釘付けになった。
「な……!?」
(綾小路君の身体も凄かったけれど、山内君も中々鍛えているわね)
「よーしお前ら集合しろー」
筋肉質な中年男性が集合をかけ、水泳の授業が始まった。授業内容は、男女別50Mの自由型で競争し、優勝者には5000ポイントが支給されるというものだ。
女子のレースが終わり、男子生徒達がスタート台で準備を進めている。
スタート台に立つ生徒の1人山内春樹が先生にドヤ顔で話しかけていた。
「先生、俺中学の時は機敏なトビウオって呼ばれていたんすよ」
「そうか、優勝できるよう頑張ってくれ」
クラス1のお調子者が何か言っているが、他の男子生徒は気に留めていない。また始まったよと、鬱陶しげに見つめている者もいる。
前のグループのレースが終わり、準備していた生徒達の出番がやってきた。
体育教師が笛を鳴らし、男子生徒が一斉に飛び込む。
その瞬間、一匹のトビウオが空高く舞い上がった。
続かないかもしれません。
読んでいただきありがとうございました。